特開2020-204590(P2020-204590A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-204590(P2020-204590A)
(43)【公開日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】試験システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/025 20190101AFI20201127BHJP
【FI】
   G01M13/025
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-113516(P2019-113516)
(22)【出願日】2019年6月19日
(11)【特許番号】特許第6729767号(P6729767)
(45)【特許公報発行日】2020年7月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】秋山 岳夫
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB15
2G024AB17
2G024BA18
2G024CA09
2G024CA12
2G024DA09
2G024EA01
2G024FA04
(57)【要約】
【課題】供試体の変速比が変化しても制御応答を変化させずに速度制御及びトルク制御を行うことができる試験システムを提供すること。
【解決手段】試験システムは、変速比gを変更可能な供試体に連結された入力側及び出力側動力計と、速度指令信号w1refと速度検出信号w1との偏差が無くなるように入力側動力計を制御する入力側制御装置5と、トルク指令信号Tk1refとトルク検出信号Tk1との偏差が無くなるように出力側動力計を制御する出力側制御装置6と、を備える。入力側制御装置5の制御ゲインは、速度制御系閉ループ伝達関数(w1/w1ref)の極の実部が、共振周波数に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定され、出力側制御装置6の制御ゲインは、軸トルク制御系閉ループ伝達関数(Tk1/Tk1ref)の極の実部が速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部よりも負側へ小さくなるように設定されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力と出力との変速比を変更可能な供試体の入力軸及び出力軸それぞれに連結された動力計と、
前記入力軸及び前記出力軸の何れか一方の軸の速度に応じた速度検出信号を生成する速度検出器と、
前記入力軸及び前記出力軸の何れか他方の軸のトルクに応じたトルク検出信号を生成するトルク検出器と、
前記速度に対する指令に応じた速度指令信号と前記速度検出信号との偏差が無くなるように前記一方の軸に連結された動力計を制御する速度制御装置と、
前記トルクに対する指令に応じたトルク指令信号と前記トルク検出信号との偏差が無くなるように前記他方の軸に連結された動力計を制御するトルク制御装置と、を備える試験システムであって、
前記速度制御装置の制御ゲインは、前記速度指令信号から前記速度検出信号までの速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、前記供試体を含む制御対象の共振周波数に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定され、
前記トルク制御装置の制御ゲインは、前記トルク指令信号から前記トルク検出信号までのトルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が前記速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部よりも負側へ小さくなるように設定されていることを特徴とする試験システム。
【請求項2】
前記トルク制御装置の制御ゲインは、前記トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、前記制御対象の共振周波数に負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の試験システム。
【請求項3】
前記制御対象の共振周波数は、前記変速比が変化することによって最低周波数と最高周波数との間で変化し、
前記速度制御装置の制御ゲインは、前記速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、前記最高周波数に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定され、
前記トルク制御装置の制御ゲインは、前記トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、前記最低周波数に負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の試験システム。
【請求項4】
前記速度制御装置の制御ゲインは、前記速度制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定され、
前記トルク制御装置の制御ゲインは、前記トルク制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験システムに関する。より詳しくは、例えば車両のドライブトレインのように共振周波数が変化し得る供試体の入力軸及び出力軸それぞれに連結された動力計を備える試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライブトレインとは、エンジンで発生したエネルギーを駆動輪に伝達するための複数の装置の総称をいい、エンジン、クラッチ、トランスミッション、ドライブシャフト、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ、及び駆動輪等で構成される。ドライブトレインの試験システムでは、実際にエンジンでトランスミッションを駆動するとともに、その出力軸に接続された出力側動力計を電気慣性制御することにより、タイヤや車体の慣性を模した負荷トルクを出力軸に付与しながら、ドライブトレインの耐久性能や品質等が評価される(例えば、特許文献1参照)。また近年では、ドライブトレインの入力軸に入力する駆動トルクを、実エンジンの代わりに入力側動力計で発生させる試験システムも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/010409号公報
【特許文献2】特開2013−257234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで例えば、供試体であるドライブトレインの入力軸及び出力軸それぞれに動力計を連結し、これら動力計を用いることによって入力軸及び出力軸をそれぞれ速度制御及びトルク制御する場合を検討する。ドライブトレインの試験システムは、入力軸と出力軸との間に設置される供試体の変速比が変化することによって、共振周波数も最低周波数と最高周波数との間で変化する。このような共振周波数の変化に対応するため、従来の技術では、入力軸側に対しては最低周波数よりも低い制御応答の下で速度制御を行い、出力軸側に対しては軸トルクをフィードバックしないトルク制御を行っていた。しかしながらこの場合、後に図4及び図5を参照して説明するように変速比の変化に伴って制御応答も変化する。
【0005】
本発明は、供試体の入力軸及び出力軸の何れか一方を速度制御し何れか他方をトルク制御する試験システムにおいて、供試体の変速比が変化しても大きく制御応答を変化させることなく速度制御及びトルク制御を行うことができる試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る試験システム(例えば、後述の試験システム)は、入力と出力との変速比(例えば、後述の変速比g)を変更可能な供試体(例えば、後述の供試体W)の入力軸(例えば、後述の入力軸WI)及び出力軸(例えば、後述の出力軸WO)それぞれに連結された動力計(例えば、後述の入力側動力計11及び出力側動力計12)と、前記入力軸及び前記出力軸の何れか一方の軸(例えば、後述の入力軸WI)の速度に応じた速度検出信号(例えば、後述の入力側角速度検出信号w1)を生成する速度検出器(例えば、後述の入力側角速度センサ31)と、前記入力軸及び前記出力軸の何れか他方の軸(例えば、後述の出力軸WO)のトルクに応じたトルク検出信号(例えば、後述の出力側軸トルク検出信号Tk1)を生成するトルク検出器(例えば、後述の出力側軸トルクセンサ42)と、前記速度に対する指令に応じた速度指令信号(例えば、後述の入力側角速度指令信号w1ref)と前記速度検出信号との偏差が無くなるように前記一方の軸に連結された動力計(例えば、後述の入力側動力計11)を制御する速度制御装置(例えば、後述の入力側制御装置5)と、前記トルクに対する指令に応じたトルク指令信号(例えば、後述の出力側軸トルク指令信号Tk1ref)と前記トルク検出信号との偏差が無くなるように前記他方の軸に連結された動力計(例えば、後述の出力側動力計12)を制御するトルク制御装置(例えば、後述の出力側制御装置6)と、を備える。前記速度制御装置の制御ゲイン(例えば、後述の制御ゲイン(Kp1,Ki1))は、前記速度指令信号から前記速度検出信号までの速度制御系閉ループ伝達関数の極(例えば、後述の極Ps)の実部が、前記供試体を含む制御対象の共振周波数(例えば、後述の共振周波数wr)に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定され、前記トルク制御装置の制御ゲイン(例えば、後述の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2))は、前記トルク指令信号から前記トルク検出信号までのトルク制御系閉ループ伝達関数の極(例えば、後述の極Pt)の実部が前記速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部よりも負側へ小さくなるように設定されていることを特徴とする。
【0007】
(2)この場合、前記トルク制御装置の制御ゲインは、前記トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、前記制御対象の共振周波数に負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定されていることが好ましい。
【0008】
(3)この場合、前記制御対象の共振周波数は、前記変速比が変化することによって最低周波数(例えば、後述の最低共振周波数wr_min)と最高周波数(例えば、後述の最高共振周波数wr_max)との間で変化し、前記速度制御装置の制御ゲインは、前記速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、前記最高周波数に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定され、前記トルク制御装置の制御ゲインは、前記トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、前記最低周波数に負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定されていることが好ましい。
【0009】
(4)この場合、前記速度制御装置の制御ゲインは、前記速度制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定され、前記トルク制御装置の制御ゲインは、前記トルク制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明に係る試験システムにおいて、速度制御装置は、速度指令信号と速度検出信号との偏差が無くなるように、供試体の入力軸及び出力軸の何れか一方の軸(以下では、「速度制御側の軸」ともいう)に連結された動力計を制御し、トルク制御装置は、トルク指令信号とトルク検出信号との偏差が無くなるように、何れか他方の軸(以下では、「トルク制御側の軸」ともいう)に連結された動力計を制御する。また本発明では、速度制御装置の制御ゲインを、速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、供試体及びその入出力軸に連結された動力計等を含む制御対象の共振周波数に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定する。換言すれば、速度制御側の軸の制御応答が共振周波数よりも高くなるように速度制御装置の制御ゲインを設定する。これにより、トルク制御側の軸からみた速度制御側の軸のみかけの慣性を大きくすることができる。また本発明では、トルク制御装置の制御ゲインを、トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部よりも負側へ小さくなるように設定する。換言すれば、トルク制御側の軸の制御応答が速度制御側の軸の制御応答よりも低くなるようにトルク制御装置の制御ゲインを設定する。これによりトルク制御装置では、制御対象の共振周波数の変化に対してロバストなトルクフィードバック制御を行うことができる。これにより、供試体の変速比の変化に伴って共振周波数が変化した場合であっても、大きく制御応答を変化させることなく入出力軸の速度制御及びトルク制御を行うことができる。
【0011】
(2)本発明に係る試験システムでは、トルク制御装置の制御ゲインを、トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、制御対象の共振周波数に負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定する。これによりトルク制御装置によるトルク制御のロバスト性をさらに向上できるので、制御対象の共振周波数の変化に伴う制御応答の変化をさらに抑制できる。
【0012】
(3)本発明に係る試験システムでは、速度制御装置の制御ゲインを、速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、共振周波数の最高周波数に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定する。これにより、トルク制御側の軸からみた速度制御側の軸のみかけの慣性をさらに大きくできる。また本発明では、トルク制御装置の制御ゲインを、トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、共振周波数の最低周波数に負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定する。これによりトルク制御装置によるトルク制御のロバスト性をさらに向上できるので、制御対象の共振周波数の変化に伴う制御応答の変化をさらに抑制できる。
【0013】
(4)後に図4及び図5を参照して説明するように、従来の技術では、速度指令信号やトルク指令信号を変化させると、速度検出信号やトルク検出信号が振動的な挙動を示す場合がある。これに対し本発明に係る試験システムでは、速度制御装置の制御ゲインを、速度制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定し、トルク制御装置の制御ゲインを、トルク制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定する。これにより、速度検出信号やトルク検出信号の振動的な挙動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る試験システムの構成を示す図である。
図2】入力側制御装置及び出力側制御装置の制御回路の構成を示すブロック図である。
図3】速度制御系閉ループ伝達関数及び軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極の位置を示す図である。
図4】従来の試験システムによる制御例を示すタイムチャートである(g=g_minの場合)。
図5】従来の試験システムによる制御例を示すタイムチャートである(g=g_maxの場合)。
図6】本実施形態の試験システムによる制御例を示すタイムチャートである(g=g_minの場合)。
図7】本実施形態の試験システムによる制御例を示すタイムチャートである(g=g_maxの場合)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る試験システムSの構成を示す図である。試験システムSは、入力と出力の変速比を変更可能な供試体Wの性能を評価するものである。以下では、供試体Wとして、入力軸WIと、出力軸WOと、入力軸WIに入力される駆動力を設定された変速比の下で変速して出力軸WOに伝達する変速機構と、を備える車両用のドライブトレインとした場合について説明する。すなわち試験システムSは、車両用のドライブトレインの性能を評価する所謂ドライブトレインベンチシステムと呼称されるものである。また以下では、所謂後輪駆動(FR)車両に搭載される2軸のドライブトレインを供試体Wとした場合について説明するが、本発明はこれに限らない。より具体的には、例えば1本の入力軸と、2本の出力軸と、入力軸に入力される駆動力を設定された変速比の下で変速して2本の出力軸に伝達する変速機構と、を備える所謂前輪駆動(FF)車両に搭載される3軸のドライブトレインを供試体としてもよい。
【0016】
試験システムSは、変速比を変更可能な供試体Wと、入力軸WIと同軸に連結された入力側動力計11と、出力軸WOと同軸に連結された出力側動力計12と、入力側トルク電流指令信号に応じて入力側動力計11に電力を供給する入力側インバータ21と、出力側トルク電流指令信号に応じて出力側動力計12に電力を供給する出力側インバータ22と、入力軸WIの角速度を検出する入力側角速度センサ31と、出力軸WOの角速度を検出する出力側角速度センサ32と、入力軸WIにおける軸トルクを検出する入力側軸トルクセンサ41と、出力軸WOにおける軸トルクを検出する出力側軸トルクセンサ42と、入力側トルク電流指令信号を生成しこれを入力側インバータ21へ入力する入力側制御装置5と、出力側トルク電流指令信号を生成しこれを出力側インバータ22へ入力する出力側制御装置6と、を備える。
【0017】
入力側角速度センサ31は、入力軸WIとほぼ同じ速度で回転する入力側動力計11の軸の入力側角速度に応じた入力側角速度検出信号を発生し、これを入力側制御装置5へ入力する。出力側角速度センサ32は、出力軸WOとほぼ同じ速度で回転する出力側動力計12の軸の出力側角速度に応じた出力側角速度検出信号を発生し、これを出力側制御装置6へ入力する。
【0018】
入力側軸トルクセンサ41は、入力軸WIに作用する入力側軸トルクを、例えば軸のねじれ方向の歪み量から検出し、この入力側軸トルクに応じた入力側軸トルク検出信号を発生し、これを入力側制御装置5へ入力する。出力側軸トルクセンサ42は、出力軸WOに作用する出力側軸トルクを、例えば軸のねじれ方向の歪み量から検出し、この出力側軸トルクに応じた出力側軸トルク検出信号を発生し、これを出力側制御装置6へ入力する。
【0019】
入力側制御装置5は、入力側角速度検出信号及び入力側軸トルク検出信号を用いた所定のフィードバック制御則に基づいて入力側トルク電流指令信号を生成し、入力側インバータ21へ入力する。より具体的には、入力側制御装置5は、入力軸WIの入力側角速度に対する指令に応じた入力側角速度指令信号と入力側角速度検出信号との偏差が無くなるように、1つ以上の制御ゲインによって特徴付けられるフィードバック制御則に基づいて入力側トルク電流指令信号を生成し、これを入力側インバータ21へ入力する速度制御機能を備える。
【0020】
出力側制御装置6は、出力側角速度検出信号及び出力側軸トルク検出信号を用いた所定のフィードバック制御則に基づいて出力側トルク電流指令信号を生成し、出力側インバータ22へ入力する。より具体的には、出力側制御装置6は、出力軸WOの出力側軸トルクに対する指令に応じた出力側軸トルク指令信号と出力側軸トルク検出信号との偏差が無くなるように、1つ以上の制御ゲインによって特徴付けられるフィードバック制御則に基づいて出力側トルク電流指令信号を生成し、これを出力側インバータ22へ入力する軸トルク制御機能を備える。
【0021】
以上のように本実施形態では、入力軸WIについては入力側制御装置5によって速度制御を行い、出力軸WOについては出力側制御装置6によって軸トルク制御を行う場合について説明するが、本発明はこれに限らない。例えば、入力軸WIについては入力側制御装置5によって入力側軸トルク指令信号と入力側軸トルク検出信号との偏差が無くなるように入力側トルク電流指令信号を生成する軸トルク制御を行い、出力軸WOについては出力側制御装置6によって出力側角速度指令信号と出力側角速度検出信号との偏差が無くなるように出力側トルク電流指令信号を生成する速度制御を行ってもよい。
【0022】
図2は、入力側制御装置5及び出力側制御装置6の制御回路及び制御対象Pの構成を示すブロック図である。
【0023】
図2において、符号“s”はラプラス演算子である。また符号“J1”は入力側動力計11の慣性モーメントであり、符号“J2”は出力側動力計12の慣性モーメントであり、それぞれ既知である。また符号“g”は、供試体Wの変速比である。また符号“K1”は、供試体Wの出力軸WOのねじり剛性であり、既知である。また符号“T1”は、入力側動力計11のトルクであり、入力側制御装置5によって生成される入力側トルク電流指令信号に相当し、符号“T2”は、出力側動力計12のトルクであり、出力側制御装置6によって生成される出力側トルク電流指令信号に相当する。また符号“w1”は、供試体Wの入力軸WIの角速度であり、入力側角速度センサ31によって検出される入力側角速度検出信号に相当する。また符号“Tk1”は、供試体Wの出力軸WOに作用する出力側軸トルクに相当し、出力側軸トルクセンサ42によって検出される出力側軸トルク検出信号に相当する。また符号“w1ref”は、入力側角速度検出信号w1に対する目標であり、速度制御を行う入力側制御装置5に入力する入力側角速度指令信号に相当する。また符号“Tk1ref”は、出力側軸トルク検出信号Tk1に対する目標であり、軸トルク制御を行う出力側制御装置6に入力する出力側軸トルク指令信号に相当する。
【0024】
上述のように供試体W、入力軸WIに連結された入力側動力計11、及び出力軸WOに連結された出力側動力計12等を含む制御対象Pにおいて、供試体Wの変速比gは最低変速比g_minと最高変速比g_maxとの間で変化し得る。このため、制御対象Pの共振周波数wrは、変速比gを最低変速比g_minと最高変速比g_maxとの間で変化することによって、最低共振周波数wr_min(下記式(1−1)参照)と最高共振周波数wr_max(下記式(1−2)参照)との間で変わり得る。
【数1】
【0025】
ところで上述のように本発明は、2本の出力軸を備える3軸のドライブトレインを供試体としてもよい。この場合、2本の出力軸の慣性モーメント、トルク、及びねじりトルクを合計値として扱うことにより、基本的には図2と同じ2軸の伝達関数モデルの下で入力側制御装置及び出力側制御装置の制御回路を構築できる。
【0026】
入力側制御装置5は、例えば図2に示すように、2つの制御ゲイン(Kp1,Ki1)によって特徴付けられるI−P制御則により、入力側角速度指令信号w1refと入力側角速度検出信号w1との偏差が無くなるように入力側トルク電流指令信号T1を生成し、入力側インバータ21へ入力する。
【0027】
出力側制御装置6は、例えば図2に示すように、4つの制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)によって特徴付けられるI−PD制御則により、出力側軸トルク指令信号Tk1refと出力側軸トルク検出信号Tk1との偏差が無くなるように出力側トルク電流指令信号T2を生成し、出力側インバータ22へ入力する。
【0028】
次に入力側制御装置5の制御ゲイン(Kp1,Ki1)の設定について説明する。
先ず、制御対象Pを慣性モーメントJ1の慣性体とみなすと、その運動方程式は下記式(2)によって近似的に表される。
【数2】
【0029】
また制御対象Pの運動方程式を上記式(2)によって近似すると、入力側角速度指令信号w1refから入力側角速度検出信号w1までの速度制御系閉ループ伝達関数は、下記式(3)によって表される。
【数3】
【0030】
図3は、速度制御系閉ループ伝達関数の極Ps及び後述の軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極Ptの位置を示す図である。図3に示すように、入力側制御装置5の制御ゲイン(Kp1,Ki1)は、上記式(3)に示すような速度制御系閉ループ伝達関数の極Psの虚部が略0となり、かつ極Psの実部が共振周波数wrに負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定される。より具体的には、速度制御系閉ループ伝達関数の極Psの実部を−wc1と定義すると、極の実部−wc1は、最高共振周波数wr_maxに負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定される。なお以下では、下記式(4)に示すように、周波数パラメータwc1が最高共振周波数wr_maxの2倍となるように、制御ゲイン(Kp1,Ki1)を設定した場合について説明する。
【数4】
【0031】
より具体的には、下記式(5−1)に示すように、上記式(3)に示す速度制御系閉ループ伝達関数の分母多項式(下記式(5−1)の左辺)が、周波数パラメータwc1と2つの係数(c1,c2)とを用いて得られる2次の特性多項式(下記式(5−1)の右辺)と等しくなるように制御ゲイン(Kp1,Ki1)を設定する。これにより、制御ゲインKp1は、下記式(5−2)によって表され、制御ゲインKi1は、下記式(5−3)によって表される。
【数5】
【0032】
なお上記式(5−2)及び(5−3)において、係数(c1,c2)は、例えば、上記式(3)に示す速度制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となりかつ実部が−wc1となるような値に設定される。より具体的には、c1=2、c2=1である。
【0033】
次に出力側制御装置6の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)の設定について説明する。
先ず、供試体Wの変速比gを0以外の値、例えば1とし、さらに慣性モーメントJ1を無限大とすると、制御対象Pにおける出力側動力計12のトルクT2に対する出力側軸トルク検出信号Tk1の伝達関数は、下記式(6)によって表される。
【数6】
【0034】
また上記式(6)に示す伝達関数と出力側制御装置6の制御回路とを組み合わせると、出力側軸トルク指令信号Tk1refから出力側軸トルク検出信号Tk1までの軸トルク制御系閉ループ伝達関数は、下記式(7)によって表される。
【数7】
【0035】
図3に示すように、出力側制御装置6の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)は、上記式(7)に示すような軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極Ptの虚部が略0となり、極Ptの実部が負値かつ速度制御系閉ループ伝達関数の極Psの実部よりも負側へ小さくなるように設定される。より具体的には、軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極Ptの実部を−wc2と定義すると、極の実部−wc2は、負値かつ共振周波数wrに負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように、より好ましくは負値かつ最低共振周波数wr_minに負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定される。なお以下では、下記式(8)に示すように、周波数パラメータwc2が最低共振周波数wr_minの1/2倍となるように、制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)を設定した場合について説明する。
【数8】
【0036】
より具体的には、下記式(9−1)に示すように、上記式(7)に示す軸トルク制御系閉ループ伝達関数の分母多項式(下記式(9−1)の左辺)が、周波数パラメータwc2と4つの係数(p1,p2,p3,p4)とを用いて得られる4次の特性多項式(下記式(9−1)の右辺)と等しくなるように制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)を設定する。これにより、制御ゲインKp2は、下記式(9−2)によって表され、制御ゲインKd2は、下記式(9−3)によって表され、制御ゲインf2は、下記式(9−4)によって表され、制御ゲインKi2は、下記式(9−5)によって表される。
【数9】
【0037】
なお上記式(9−2)〜(9−5)において、係数(p1,p2,p3,p4)は、例えば、上記式(7)に示す軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となりかつ実部が−wc2となるような値に設定される。より具体的には、p1=4、p2=6、p3=4、p4=1である。
【0038】
次に、上述のようにして制御ゲインが設定された入力側制御装置5及び出力側制御装置6を備える試験システムSの効果について、図4図7を参照しながら説明する。
【0039】
図4及び図5は、従来の試験システムによる制御例を示すタイムチャートであり、図6及び図7は、本実施形態の試験システムSによる制御例を示すタイムチャートである。より具体的には、図4及び図6は、供試体Wの変速比gを最低変速比g_minとした場合の制御例を示し、図5及び図7は、供試体Wの変速比gを最高変速比g_maxとした場合の制御例を示す。
【0040】
ここで従来の試験システムとは、入力軸WIに対しては最低共振周波数wr_minより低い制御応答(すなわち、上記周波数パラメータwc1)の下で速度制御を行い、出力軸WOに対しては出力側軸トルク検出信号Tk1をフィードバックせずに軸トルク制御を行うもの、すなわち出力側軸トルク指令信号Tk1ref=出力側トルク電流指令信号T2とするものをいう。
【0041】
また図4図7において、最上段は入力側トルク電流指令信号T1の時間変化を示し、上から2段目は出力側トルク電流指令信号T2の時間変化を示し、上から3段目は入力側角速度検出信号w1(実線)及び入力側角速度指令信号w1ref(破線)を示し、最下段は出力側軸トルク検出信号Tk1(実線)及び出力側軸トルク指令信号Tk1ref(破線)を示す。また図4図7では、時刻t1において入力側角速度指令信号w1refをステップ状に変化させ、その後時刻t2において出力側軸トルク指令信号Tk1refをステップ状に変化させた場合を示す。
【0042】
図4に示すように、従来の試験システムでは、入力軸WI側の速度制御応答を最低共振周波数wr_minより低く設定しているため、変速比gを最低変速比g_minとした場合、入力側角速度指令信号w1refや出力側軸トルク指令信号Tk1refを変化させると、入力側角速度検出信号w1及び出力側軸トルク検出信号Tk1は振動的な応答を示し、また入力側角速度検出信号w1及び出力側軸トルク検出信号Tk1が各々の指令値に収束するまでに時間がかかる。
【0043】
図5に示すように、変速比gを最高変速比g_maxとした場合、入力側角速度指令信号w1refや出力側軸トルク指令信号Tk1refが変化すると、入力側角速度検出信号w1及び出力側軸トルク検出信号Tk1は振動的な応答を示す。また図4図5を比較すると明らかなように、変速比gを変化させると、入力側角速度検出信号w1及び出力側軸トルク検出信号Tk1が各々の指令値に収束するまでにかかる時間、すなわち制御応答が変化する。
【0044】
図6及び図7に示すように、本実施形態の試験システムSでは、周波数パラメータwc1を最高共振周波数wr_maxより高く設定し(上記式(4)参照)、入力軸WIの速度制御応答を従来の試験システムよりも早くなるように設定している。このため、図6及び図7図4及び図5とを比較して明らかなように、本実施形態の試験システムSによれば、入力側角速度検出信号w1ref及び出力側軸トルク検出信号Tk1refを変化させときにおける入力側角速度検出信号w1及び出力側軸トルク検出信号Tk1の振動的な応答を抑制でき、かつ速やかに各々の指令値に収束させることができる。
【0045】
また図6図7とを比較して明らかなように、本実施形態の試験システムSによれば、変速比gを変化させた場合であっても、入力側角速度検出信号w1及び出力側軸トルク検出信号Tk1が各々の指令値に収束するまでにかかる時間はほとんど変化せず、すなわち制御応答が変化することもない。
【0046】
本実施形態の試験システムSによれば、以下の効果を奏する。
(1)入力側制御装置5は、入力側角速度指令信号w1refと入力側角速度検出信号w1との偏差が無くなるように、供試体Wの入力軸WIに連結された入力側動力計11を制御し、出力側制御装置6は、出力側軸トルク指令信号Tk1refと出力側軸トルク検出信号Tk1との偏差が無くなるように、供試体Wの出力軸WOに連結された出力側動力計12を制御する。また試験システムSでは、入力側制御装置5の制御ゲイン(Kp1,Ki1)を、速度制御系閉ループ伝達関数の極Psの実部が制御対象Pの共振周波数wrに負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定する。換言すれば、速度制御を行う入力軸WIの制御応答が共振周波数wrよりも高くなるように入力側制御装置5の制御ゲイン(Kp1,Ki1)を設定する。これにより、軸トルク制御を行う出力軸WOからみた入力軸WIのみかけの慣性を大きくすることができる。また試験システムSでは、出力側制御装置6の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)を、軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極Ptの実部が、速度制御系閉ループ伝達関数の極Psの実部よりも負側へ小さくなるように設定する。換言すれば、軸トルク制御側の出力軸WOの制御応答が速度制御側の入力軸WIの制御応答よりも低くなるように出力側制御装置6の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)を設定する。これにより出力側制御装置6では、制御対象Pの共振周波数wrの変化に対してロバストなトルクフィードバック制御を行うことができる。これにより、供試体Wの変速比gの変化に伴って共振周波数wrが変化した場合であっても、大きく制御応答を変化させることなく入力軸WIの速度制御及び出力軸WOの軸トルク制御を行うことができる。
【0047】
(2)試験システムSでは、出力側制御装置6の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)を、軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極Ptの実部が、制御対象Pの共振周波数wrに負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定する。これにより出力側制御装置6による軸トルク制御のロバスト性をさらに向上できるので、制御対象Pの共振周波数wrの変化に伴う制御応答の変化をさらに抑制できる。
【0048】
(3)試験システムSでは、入力側制御装置5の制御ゲイン(Kp1,Ki1)を、速度制御系閉ループ伝達関数の極Psの実部が、最高共振周波数wr_maxに負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定する。これにより、軸トルク制御側の出力軸WOからみた速度制御側の入力軸WIのみかけの慣性をさらに大きくできる。また試験システムSでは、出力側制御装置6の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)を、軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極Ptの実部が、最低共振周波数wr_minに負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定する。これにより出力側制御装置6による軸トルク制御のロバスト性をさらに向上できるので、制御対象Pの共振周波数wrの変化に伴う制御応答の変化をさらに抑制できる。
【0049】
(4)図4及び図5を参照して説明したように、従来の試験システムでは、入力側角速度指令信号w1refや出力側軸トルク指令信号Tk1refを変化させると、入力側角速度検出信号w1や出力側軸トルク検出信号Tk1が振動的な挙動を示す場合がある。これに対し試験システムSでは、入力側制御装置5の制御ゲイン(Kp1,Ki1)を、速度制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定し、出力側制御装置6の制御ゲイン(Kp2,Kd2,f2,Ki2)を、軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極Ptの虚部が0となるように設定する。これにより、入力側角速度検出信号w1や出力側軸トルク検出信号Tk1の振動的な挙動を抑制することができる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0051】
上記実施形態では、入力軸WIについては入力側制御装置5によって速度制御を行い、出力軸WOについては出力側制御装置6によって軸トルク制御を行う場合について説明したが、本発明はこれに限らない。上述のように入力軸WIについては入力側制御装置によって軸トルク制御を行い、出力軸WOについては出力側制御装置によって速度制御を行ってもよい。この場合、速度制御を行う出力側制御装置の制御ゲインは、速度指令信号から速度検出信号までの速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、制御対象Pの共振周波数wr(より好ましくは最高共振周波数wr_max)に負号を乗じた値よりも負側へ大きくなるように設定することが好ましい。また軸トルク制御を行う入力側制御装置の制御ゲインは、軸トルク指令信号から軸トルク検出信号までの軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が速度制御系閉ループ伝達関数の極の実部よりも負側へ小さくなるように設定することが好ましい。より好ましくは、入力側制御装置の制御ゲインは、軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極の実部が、制御対象の共振周波数wr(より好ましくは最低共振周波数wr_min)に負号を乗じた値よりも負側へ小さくなるように設定することが好ましい。またこの場合、入力側制御装置の制御ゲインは、速度制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となり、かつ出力側制御装置の制御ゲインは、軸トルク制御系閉ループ伝達関数の極の虚部が0となるように設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0052】
S…試験システム
W…供試体
WI…入力軸
WO…出力軸
11…入力側動力計(動力計)
12…出力側動力計(動力計)
31…入力側角速度センサ(速度検出器)
32…出力側角速度センサ(速度検出器)
41…入力側軸トルクセンサ(軸トルク検出器)
42…出力側軸トルクセンサ(軸トルク検出器)
5…入力側制御装置(速度制御装置)
6…出力側制御装置(トルク制御装置)
w1…入力側角速度検出信号(速度検出信号)
w1ref…入力側角速度指令信号(速度指令信号)
Tk1…出力側軸トルク検出信号(トルク検出信号)
Tk1ref…出力側軸トルク指令信号(トルク指令信号)
Kp1,Ki1…制御ゲイン(速度制御装置の制御ゲイン)
Kp2,Kd2,f2,Ki2…制御ゲイン(トルク制御装置の制御ゲイン)
wr…共振周波数
wr_min…最低共振周波数(最低周波数)
wr_max…最高共振周波数(最高周波数)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7