【解決手段】本発明は、圧電基板14と、前記圧電基板14を挟み、前記圧電基板14に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、前記圧電基板14の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が平面視において重なる共振領域50の中央領域54に設けられておらず、前記中央領域54を囲む少なくとも一部のエッジ領域52から前記共振領域50の外にかけて設けられた付加膜28と、を備える弾性波デバイスである。
前記付加膜は、前記共振領域内において前記少なくとも一方の電極に接し、前記共振領域外において前記少なくとも一方の電極または前記圧電基板に接する請求項2に記載の弾性波デバイス。
前記付加膜の厚さは、前記付加膜の前記共振領域内の幅と同じ幅を有し前記付加膜と同じ材料からなる仮想膜が前記エッジ領域に設けられ前記中央領域および前記共振領域の外に設けられていないと仮定したときに横モードスプリアスを最も抑制する前記仮想膜の厚さより薄い請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
前記付加膜は、前記厚みすべり振動の方向に直交する方向における前記共振領域の両側のエッジ領域から前記共振領域の外にかけて設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
前記付加膜は、前記圧電基板の平面方向のうち第1方向における前記共振領域の両側のエッジ領域から前記共振領域の外にかけて設けられ、前記平面方向のうち前記第1方向に交差する第2方向における前記共振領域の両側のエッジ領域には設けられていない請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0022】
弾性波デバイスとして圧電薄膜共振器を例に説明する。
【0023】
[シミュレーション1]
サンプルAおよびBについてシミュレーションを行った。
図1(a)および
図1(b)は、サンプルAに係る圧電薄膜共振器の斜視図および断面図である。圧電基板14の法線方向をZ方向、圧電基板14の平面方向のうち下部電極12の引き出し方向をX方向、X方向に直交する方向をY方向とする。なお、X方向、Y方向およびZ方向は、圧電基板14の結晶方位のX軸、Y軸およびZ軸とは必ずしも対応しない。結晶方位を示す場合は、「X軸方向」、「Y軸方向」および「Z軸方向」と記載し、「X方向」、「Y方向」および「Z方向」と区別する。
【0024】
図1(a)および
図1(b)に示すように、圧電基板14の上下に上部電極16および下部電極12が設けられている。圧電基板14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが対向する領域は共振領域50である。下部電極12と上部電極16は駆動電極であり、下部電極12と上部電極16との間に高周波電力を印加すると、共振領域50内の圧電基板14に弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対してずれ方向)に振動する弾性波が励起される。この振動を厚みすべり振動という。厚みすべり振動の変位の最も大きい方向(厚みすべり振動の変位方向)を厚みすべり振動の方向60とする。Y方向を厚みすべり振動の方向60とする。弾性波の波長は圧電基板14の厚さのほぼ2倍である。共振領域50の平面形状は略矩形である。矩形はほぼ直線の4つの辺を有する。4つの辺の延伸方向はX方向およびY方向である。
【0025】
共振領域50の下部電極12は、音響反射膜31を介し基板10上に設けられている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31bと音響インピーダンスの高い膜31aとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜31は弾性波を反射する。
【0026】
図2(a)および
図2(b)は、サンプルBに係る圧電薄膜共振器の斜視図および断面図である。サンプルBでは、共振領域50のX方向の両側の端部に位置するエッジ領域52の上部電極16上に付加膜28が設けられている。付加膜28は共振領域50のX方向の中央領域54には設けられていない。付加膜28のX方向の幅をW1、付加膜28の厚さをT1とする。
【0027】
サンプルAのシミュレーションの条件は以下である。
弾性波の波長λ:1640nm
圧電基板14:厚さが0.5λ=820nmのニオブ酸リチウム基板、X方向は結晶方位でX軸方向であり、Z方向はY軸Z軸平面内において、Z軸方向からY軸方向に105°回転させた方向である。
下部電極12:厚さが100nmのアルミニウム(Al)膜
上部電極16:厚さが100nmのアルミニウム膜
共振領域50のX方向の幅:30λ=49.2μm
圧電基板14のY方向の幅:0.5λ=820nm
膜31a:厚さが438nmの酸化シリコン(SiO2)膜
膜31b:厚さが344nmのタングステン(W)膜
Y方向の境界条件は無限に連続とする。
【0028】
サンプルBのシミュレーション条件は以下である。
付加膜28:酸化タンタル(Ta
2O
5)
付加膜28の幅W1:0.25λ(410nm)
付加膜28の厚さT1:40nm
その他のシミュレーション条件はサンプルAと同じである。
なお、厚さT1=40nmは、幅W1=0.25λにおいて厚さT1を最適化したときの厚さである。
【0029】
図3(a)および
図3(b)は、サンプルAおよびBにおける周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。アドミッタンスの絶対値|Y|では、共振周波数および反共振周波数のピークが観察される。アドミッタンスの実部Real(Y)では、絶対値|Y|に比べスプリアスが大きく観察される。
【0030】
図3(a)に示すように、共振周波数frおよび反共振周波数faはそれぞれ約2GHzおよび2.35GHzである。サンプルAでは共振周波数frより高い周波数帯域にスプリアス58が生じている。スプリアス58は、主にX方向に伝搬する横モードの弾性波の定在波に起因する。
【0031】
図3(b)に示すように、サンプルBではスプリアスが小さくなっている。これは、付加膜28を設けることにより、エッジ領域52の音速が中央領域54の音速より遅くなり、ピストンモードが実現されたためである。
【0032】
このようにサンプルBにおいて、横モードスプリアスが抑制される。しかし、付加膜28の幅W1が410nmと小さい。このため、付加膜28を形成するときに、細いパターンを形成することになり高度なフォトリソグラフィ技術および加工技術を用いることになる。共振周波数が5GHzから6GHzとなると、付加膜28の幅W1は100nm程度となり、さらに高度なフォトリソグラフィ技術および加工技術が求められる。これにより、高価な製造設備を用いることになり製造コストが高くなる。
【0033】
[シミュレーション2]
そこで、付加膜28の幅W1を広くしたサンプルCおよびDについてシミュレーションを行った。
【0034】
図4(a)および
図4(b)は、サンプルCに係る圧電薄膜共振器の斜視図および断面図である。
図4(a)および
図4(b)に示すように、サンプルCでは、付加膜28の幅W1をサンプルBの付加膜の幅より大きくした。その他の構成はサンプルBと同じである。
【0035】
付加膜28の幅W1が異なるサンプルC1およびC2についてシミュレーションを行った。シミュレーション条件は以下である。
サンプルC1
付加膜28の幅W1:0.75λ(1230nm)
付加膜28の厚さT1:10nm
サンプルC2
付加膜28の幅W1:1.25λ(2050nm)
付加膜28の厚さT1:5nm
その他のシミュレーション条件はサンプルBと同じである。
なお、厚さT1=10nmおよび5nmは、幅W1=0.75λおよび1.25λにおいて厚さT1を最適化したときの厚さである。付加膜28の幅W1を広くすると、付加膜28の厚さT1を薄くした方がスプリアスが小さくなる。
【0036】
図5(a)および
図5(b)は、サンプルDに係る圧電薄膜共振器の斜視図および断面図である。
図5(a)および
図5(b)に示すように、サンプルDでは、付加膜28を共振領域50のエッジ領域52から共振領域50の外の領域56にかけて設けた。付加膜28の幅W1のうち共振領域50内の幅をW2とした。その他の構成はサンプルCと同じである。
【0037】
付加膜28の幅W1が異なるサンプルD1およびD2についてシミュレーションを行った。シミュレーション条件は以下である。
サンプルD1
付加膜28の幅W1:0.75λ(1230nm)
エッジ領域52の幅W2:0.25λ(410nm)
付加膜28の厚さT1:35nm
サンプルD2
付加膜28の幅W1:1.25λ(2050nm)
エッジ領域52の幅W2:0.25λ(410nm)
付加膜28の厚さT1:35nm
その他のシミュレーション条件はサンプルCと同じである。
なお、厚さT1=35nmは、幅W1=0.75λおよび1.25λにおいて厚さT1を最適化したときの厚さである。
【0038】
図6(a)から
図6(c)は、サンプルB、C1およびC2における周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。
図6(a)は
図3(b)とほぼ同じである。
【0039】
図6(b)および
図6(c)に示すように、サンプルC1およびC2では、スプリアス58がサンプルBより大きくなる。このように、付加膜28の幅W1を広くすると厚さT1を最適化してもサンプルBよりスプリアス58が大きくなる。
【0040】
図7(a)および
図7(b)は、サンプルD1およびD2における周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。
【0041】
図7(a)および
図7(b)に示すように、サンプルD1およびD2では、スプリアス58がサンプルBと同程度である。このように、付加膜28の幅W1を広くしても、付加膜28をエッジ領域52から共振領域50の外の領域56にかけて設け、エッジ領域52内の付加膜28の幅W2をサンプルBの付加膜28の幅W1と同程度とする。これにより、スプリアス58をサンプルBと同程度とできる。
【0042】
付加膜28の幅W1は広いため、高度なフォトリソグラフィ技術および加工技術が不要となり、安価な製造装置を用い付加膜28を形成できる。よって、製造コストを低くできる。
【0043】
[シミュレーション3]
サンプルD3についてシミュレーションを行った。シミュレーション条件は以下である。
サンプルD3
付加膜28の幅W1:0.75λ(1230nm)
エッジ領域52の幅W2:0.25λ(410nm)
付加膜28の厚さT1:40nm
サンプルD3は、サンプルD1に比べ付加膜28の厚さT1をサンプルBと同じにしている。
【0044】
図8(a)は、サンプルD1およびD3における周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図、
図8(b)は、サンプルBおよびD1における周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。挿入
図64は、共振周波数fr付近62の|Y|の拡大図であり、挿入
図65は、反共振周波数fa付近63の|Y|の拡大図である。
【0045】
図8(a)に示すように、サンプルD1とD3とでは、アドミッタンス特性はほぼ同じであり、スプリアス58の大きさもほぼ同じである。挿入
図64のように、共振周波数fr付近において、サンプルD1はD3より|Y|が大きい。挿入
図65のように、反共振周波数fa付近において、サンプルD1とD3とで|Y|は同程度である。
【0046】
図8(b)に示すように、サンプルBとD1とでは、アドミッタンス特性はほぼ同じであり、スプリアス58の大きさもほぼ同じである。挿入
図64および65のように、共振周波数frおよび反共振周波数fa付近において、サンプルBとD1とで|Y|は同程度である。
【0047】
以上のように、サンプルD3のように、サンプルDにおいて、付加膜28の厚さT1をサンプルBで最適な付加膜28の厚さT1とすると、共振周波数fr付近の|Y|のピークの急峻性が小さくなる。サンプルD1のように、付加膜28の厚さT1をサンプルBで最適な付加膜28の厚さT1より小さくすると、共振周波数fr付近の|Y|のピークの急峻性はサンプルBと同程度となる。以上のように、サンプルDでは、付加膜28の最適な厚さT1はサンプルBにおいて最適な厚さT1より小さくなる。
【0048】
以上のシミュレーションのように、サンプルDでは、スプリアスをサンプルBと同程度に抑制でき、かつ付加膜28の幅W1を大きくできる。以下、上記知見に基づく実施例について説明する。
【実施例1】
【0049】
図9(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図9(b)は、
図9(a)のA−A断面図である。
図9(a)および
図9(b)に示すように、基板10上に音響反射膜31が設けられている。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。
【0050】
音響反射膜31上に下部電極12が設けられている。下部電極12上に圧電基板14が設けられている。圧電基板14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は平面視において音響反射膜31と重なり、音響反射膜31は共振領域50と同じ大きさまたは共振領域50より大きい。
【0051】
共振領域50の平面形状は矩形であり、矩形の4つの辺のうち一対の辺はY方向にほぼ延伸し、別の一対の辺はX方向に延伸する。共振領域50の中央領域54に対し、X方向の両側にエッジ領域52が設けられている。エッジ領域52はほぼY方向に延伸する。エッジ領域52のX方向の幅W2はY方向においてほぼ一定である。エッジ領域52に隣接して共振領域50の外に領域56が設けられている。領域56の幅はY方向においてほぼ一定である。エッジ領域52の上部電極16上と領域56の上部電極16および圧電基板14上に厚さT1の付加膜28が設けられている。共振領域50のうちエッジ領域52に挟まれる中央領域54には付加膜28は設けられていない。
【0052】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、Ti、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。付加膜28は、密度が高い材料が好ましく、例えば酸化タンタル(TaO
x)、酸化ニオブ(NbO
x)、または酸化タングステン(WO
x)を主成分とする。付加膜28は、下部電極12および上部電極16において例示した金属膜または酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜等の絶縁膜でもよい。付加膜28の材料は下部電極12および上部電極16の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
図10(a)および
図10(b)は、実施例1における圧電基板14の結晶方位を示す斜視図である。
図10(a)は、圧電基板14が単結晶ニオブ酸リチウム基板を示す斜視図である。
図10(a)に示すように、圧電基板14がニオブ酸リチウム(LN)の場合、結晶方位の破線矢印のように、X方向、Y方向およびZ方向をそれぞれ結晶方位の+X軸方向、+Y軸方向および+Z軸方向とし、X軸方向を中心にY軸Z軸平面上を+Y軸方向および+Z軸方向を+Y軸方向から+Z軸方向に105°回転させる。回転後のY軸方向およびZ軸方向を実線矢印で示す。このように回転させるとZ方向は+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の方向60となる。
【0054】
図10(b)は、圧電基板14が単結晶タンタル酸リチウム基板を示す斜視図である。
図10(b)に示すように、圧電基板14がタンタル酸リチウム(LT)の場合、結晶方位の破線矢印のように、X方向、Y方向およびZ方向をそれぞれ結晶方位の−Z軸方向、+Y軸方向および+X軸方向とし、X軸方向を中心にY軸Z軸平面上を+Y軸方向および+Z軸方向を+Y軸方向から+Z軸方向に42°回転させる。回転後のY軸方向およびZ軸方向を実線矢印で示す。このように回転させるとY方向は+Y軸方向から−Z軸方向に42°回転させた方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の方向60となる。
【0055】
実施例1では、サンプルDのように、スプリアスを抑制し、かつ付加膜28の幅W1を広くできる。
【0056】
[実施例1の変形例1]
図11は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図11に示すように、実施例1の変形例1では、共振領域50のX方向の両側のエッジ領域52aおよびエッジ領域52a外側の領域56aに付加膜28が設けられている。さらに、共振領域50のY方向の両側のエッジ領域52bおよびエッジ領域52b外側の領域56bに付加膜28が設けられている。これにより、中央領域54を囲むエッジ領域52aおよび52bと領域56aおよび56bとに付加膜28が設けられている。付加膜28のX方向の幅W1aとY方向の幅W1bは略等しくてもよいし異なっていてもよい。エッジ領域52aの幅W2aとエッジ領域52bの幅W2bとは略等しくてもよいし異なっていてもよい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例1では、X方向およびY方向に伝搬する弾性波に起因する横モードスプリアスを抑制できる。
【0057】
[実施例1の変形例2]
図12は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12に示すように、実施例1の変形例2では、音響反射膜31の代わりに空隙30が設けられている。エッジ領域52の上部電極16上と領域56の上部電極16および圧電基板14上とに付加膜28aが設けられ、エッジ領域52の下部電極12下と領域56の下部電極12および圧電基板14下とに付加膜28bが設けられている。付加膜28aと付加膜28bの幅は略等しくてもよいし異なっていてもよい。付加膜28aと付加膜28bの厚さは略等しくてもよいし異なっていてもよい。付加膜28aと付加膜28bの主成分は同じでもよいし異なっていてもよい。その他の構成は実施例1およびその変形例1と同じであり説明を省略する。
【0058】
実施例1およびその変形例1のように、下部電極12の下に音響反射膜31が設けられている場合に、付加膜28は下部電極12および圧電基板14の下に設けられていてもよいし、下部電極12および圧電基板14の下と上部電極16および圧電基板14の上との両方に設けられていてもよい。実施例1の変形例2のように、下部電極12の下に空隙30が設けられている場合に、付加膜28は、下部電極12および圧電基板14の下と上部電極16および圧電基板14の上とのいずれか一方に設けられ、他方に設けられていなくてもよい。
【0059】
共振領域50の平面形状として略矩形の場合を例に説明したが、共振領域50の平面形状は略楕円形、略円形または略多角形でもよい。付加膜28は中央領域54を囲む一部に設けられていればよい。中央領域54は、共振領域50の中心(例えば重心)を含む領域である。
【0060】
実施例1およびその変形例によれば、下部電極12および上部電極16(一対の電極)は、圧電基板14を挟み、圧電基板14に厚みすべり振動を励振する。付加膜28は、圧電基板14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる共振領域50の中央領域54に設けられておらず、中央領域54を囲む少なくとも一部のエッジ領域52から共振領域50の外の領域56にかけて設けられている。これにより、シミュレーション2のサンプルDのように、サンプルBと同程度にスプリアスを抑制し、かつ付加膜28の幅W1を小さくできる。よって、製造コストを削減できる。
【0061】
付加膜28は下部電極12および上部電極16の少なくとも一方の電極の圧電基板14と反対側に設けられている。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0062】
付加膜28は、共振領域50内において下部電極12および上部電極16の少なくとも一方の電極に接し、共振領域50外において下部電極12および上部電極16の少なくとも一方の電極または圧電基板14に接する。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0063】
シミュレーション3のサンプルD1とD3との比較のように、付加膜28の厚さT1は、付加膜28と同じ材料からなる仮想膜(サンプルBの付加膜)がエッジ領域52に設けられ中央領域54および共振領域50の外の領域56に設けられていないと仮定したときに横モードスプリアスを最も抑制する仮想膜の厚さ(サンプルBの付加膜の厚さ)より薄い。これにより、
図8(a)のように、共振特性をサンプルBと同程度とすることができる。
【0064】
付加膜28は、厚みすべり振動の方向60に直交する方向における共振領域50の両側のエッジ領域52から共振領域50の外にかけて設けられている。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0065】
実施例1のように、付加膜28は、圧電基板14の平面方向のうちX方向(第1方向)における共振領域50の両側のエッジ領域52から共振領域50の外の領域56にかけて設けられ、平面方向のうちY方向(第1方向に交差する第2方向)における共振領域50の両側のエッジ領域には設けられていない。このように、付加膜28は横モードの弾性波の定在波が問題となる方向に設け、他の方向には設けなくてもよい。実施例1では、厚みすべり振動の方向60に直交する方向の共振領域50両側に付加膜28を設けているが、任意の方向の共振領域50の領域に付加膜28を設ける。厚みすべり振動の方向60およびその直交方向はスプリアスが発生しやすいため、厚みすべり振動の方向60および/または方向60に直交する方向の共振領域50両側に付加膜28を設けることが好ましい。
【0066】
実施例1の変形例1のように、付加膜28は、中央領域54を囲むエッジ領域52と共振領域50の外との境界の全てと平面視において重なることが好ましい。これにより、スプリアスをより抑制できる。共振領域50の平面形状を略矩形とし、矩形の4辺を方向60およびその直交方向とし、4辺に付加膜28を設けることが好ましい。これにより、スプリアスをより抑制できる。
【0067】
圧電基板14を単結晶ニオブ酸リチウム基板とする場合、圧電基板14を回転Yカットニオブ酸リチウム基板とする。このとき、圧電基板14の上面の法線方向(Z方向)はY軸Z軸平面内の方向である。これにより、圧電基板14の平面方向に厚みすべり振動が生じる。X軸方向は、圧電基板14の平面方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。
【0068】
圧電基板14の上面の法線方向(Z方向)を結晶方位の+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向60およびその直交方向が圧電基板14の平面方向となる。Z方向は、+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。
【0069】
圧電基板14を単結晶タンタル酸リチウム基板とする場合、圧電基板14をXカットタンタル酸リチウム基板とする。このとき、圧電基板14の上面の法線方向(Z方向)はX軸方向である。これにより、圧電基板14の平面方向では厚みすべり振動が生じる。X軸方向は、圧電基板14の法線方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。
【0070】
結晶方位の+Y軸方向から−Z軸方向に42°回転させた方向を圧電基板14のY方向とする。これにより、圧電基板14の平面方向のうち+Y軸方向から−Z軸方向に42°回転させた方向が厚みすべり振動の方向60となる。
【実施例2】
【0071】
実施例2は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。
図13(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図13(a)に示すように、入力端子T1と出力端子T2との間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子T1と出力端子T2との間に、1または複数の並列共振器P1からP4が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP4の少なくとも1つの共振器に実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0072】
図13(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
図13(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0073】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0074】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。