【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CRSET)「汎用的な実証基盤体系を利用したシナリオ対応型分散協調EMS実現手法の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】非負値行列因子分解によって総消費電力量から機器毎または用途毎の消費電力量を推定する消費電力推定装置3であって、建物内に設置された電力メータ20が計測した前記総消費電力量、前記機器の制御情報および前記機器が設けられる空間の在所率情報を取得する情報取得部51と、前記総消費電力量の推移履歴を行列構造として持つ観測行列を、機器の電力消費パターンを行列構造として持つ基底行列と、前記電力消費パターンの発生状況を行列構造として持つ発生行列とに分離することで、機器毎または用途毎の消費電力量を推定する消費電力推定部52と、を備え、消費電力推定部52は、過去の前記総消費電力量、前記制御情報および前記在所率情報を用いて前記電力消費パターンを推定する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0026】
[実施形態の概要]
建物(例えば、ビル)の管理において、総消費電力量の他に自然または容易に習得できる情報が存在する。本発明の発明者は、その情報の中から非負値行列因子分解(NMF: Nonnegative Matrix Factorization)に基づく機器別消費電力推定に有用性が期待できる情報として「機器の制御情報」および「在所率情報」に着目した。以下では、この二つの情報を「補助情報」と呼ぶ場合がある。
【0027】
機器の制御情報は、機器が稼働している否かを示す情報であり、例えば、機器のON/OFF情報である。なお、機器別消費電力の推定では、過去の制御情報を使用するので、「制御履歴情報」と表記する場合がある。
在所率情報には、機器別消費電力の推定を行う空間での人の多さを示す情報であり、例えば、空間を複数の領域に分割した場合における領域単位での人の在/不在の割合である。なお、在所率情報は、人の多い/少ないを示す程度の情報であってもよい。
【0028】
また、本発明の発明者は、電力消費行動が空間的に競合する場合があり、電力消費パターンを単純に足し合わせて機器の消費電力量を推定しようとすると、機器の定格値を超えた推定結果を得る恐れがあることを発見した。
【0029】
そして、発明者は、補助情報を活用するとともに、機器の定格値を考慮しつつ電力消費パターンの学習を行うことで、各機器と抽出パターンの対応付けが可能となり、また従来の手法での推定と比べてそれぞれの機器に存在する特徴的な電力消費パターンのより能動的な学習が可能となることを考え出した。
【0030】
以下では、第1実施形態として、補助情報である「機器の制御情報」および「在所率情報」を機器別消費電力推定に活用する場合を示す。
また、第2実施形態として、補助情報である「機器の制御情報」および「在所率情報」を活用しつつ、「機器の定格値」を考慮して機器別消費電力推定を行う場合を示す。
【0031】
各実施形態では、業務用ビルを対象として、テナントごとの機器別消費電力推定を非負値行列因子分解に基づき行うことを考える。特に、非負値行列因子分解における発生行列をバイナリと仮定することで、分離したパターンの消費電力量の観点から識別性を高めて精度の高い分離を図るSBNMF(Semi-Binary NMF)を用いることとする。
【0032】
SBNMFは、任意の非負値(マイナスでない値)の要素からなる行列を、「0」,「1」の要素からなるバイナリ行列と非負値行列との積で表現する多変量解析のための手法である。この手法は、非負値のデータを格納した観測行列Yを、頻出する加法的な構成成分を格納した非負値基底行列X(以下、省略して「基底行列X」と呼ぶ場合がある)と、その構成成分の発生状況を格納したバイナリ発生行列A(以下、省略して「発生行列A」と呼ぶ場合がある)への分解を実現する。基底行列Xおよび発生行列Aの導出は、反復的な更新手続きによってなされる。
【0033】
図1にSBNMFの概念図を示す。機器別の消費電力を推定する上では、日毎および所定時間毎における総消費電力量の推移履歴を行列構造として持つデータ(つまり、観測行列Y)として扱う。これを様々な日において共通で現れる機器の種類に依存した消費電力推移パターン(つまり、基底行列X)と、その推移パターンの発生の有無(つまり、発生行列A)で表すことにより内訳の推定に利用する。SBNMFでは、消費電力を扱う上で自然な観測値の非負値を前提とし、発生行列Aをバイナリ(「0」もしくは「1」)で表現することで、基底行列Xの要素が機器別の消費電力に相当する要素となり、機器別の消費電力の識別精度の高い消費電力分離を実現する。
【0034】
図2にSBNMFに基づく分離の概念図を示す。
図1の基底行列Xにあたるものが機器稼働パターンXであり、発生行列Aにあたるものが発生状況Aである。
図2に示すように、発生状況Aはバイナリ行列となっている。
【0035】
各実施形態では、観測データとして、テナントごとに一定期間分、30分間隔で計測されている総消費電力量データが得られる状況を想定し、その期間における照明器具、空調機器、コンセントそれぞれの消費電力量を推定することを考える。また、各実施形態では、補助的な情報として照明器具と空調機器の制御記録、および在所率情報が少なくとも得られることとする。
【0036】
[第1実施形態]
<第1実施形態に係る消費電力推定システムの構成>
図3を参照して、第1実施形態に係る消費電力推定システム100の構成について説明する。消費電力推定システム100は、複数の機器の各々の消費電力量を加算した全体の消費電力量から、各々の機器の消費電力量を推定するシステムである。消費電力推定システム100は、電力を使用する様々な場面で使用することができ、消費電力量を推定する対象となる機器は、種類、用途などが特に限定されるものではない。つまり、消費電力推定システム100は、複数の機器の消費電力量を加算した全体の消費電力量が分かる任意の範囲について、各々の機器の消費電力量を推定することができる。
【0037】
ここでは、
図3に示すように、建物内に入居するテナント2A,2B・・(以下では、特に区別しない場合に「テナント2」と呼ぶ)が消費するテナント2ごとの消費電力量から、テナント内に設置される各々の機器の消費電力量を推定することを想定する。つまり、
図3に示すように、建物内に複数のテナント2A,2B・・が入居する場合、テナント2単位で機器の消費電力量を推定することができる。
【0038】
消費電力推定システム100は、テナント2に設置される複数の機器(以下では、まとめて「機器群10」と呼ぶ)と、機器群10の全体の消費電力量(つまり、各機器の消費電力量を加算したもの)を測定する電力メータ20と、電力メータ20が測定した消費電力量から機器毎または用途毎の消費電力量を推定する消費電力推定装置3とを主に備える。また、消費電力推定システム100は、テナント2における人の量を検知する人検知センサ30を備える。
【0039】
機器群10は、テナント2に設置される機器の集合体である。テナント2に設置される機器は、種類や用途などを特に限定されるものではない。
図3では、テナント2に設置される機器として、「照明器具」、「空調機器」、「コンセント」を例示している。照明器具および空調機器は、電源の「ON/OFF」に関する制御情報を消費電力推定装置3に出力する。
【0040】
電力メータ20は、消費した電力量を測定する計測器である。電力メータ20は、例えば、テナントごとに設けられた分電盤に設置される。ここでの電力メータ20は、時間粒度が比較的粗い時間間隔(例えば、30分周期)で、機器群10の消費電力量を消費電力推定装置3に出力する。なお、消費電力推定装置3に機器群10の消費電力量を出力する周期は任意であってよく、ここでの周期に限定されるものではない。
【0041】
人検知センサ30は、人の多さに相関する量を検知する機器である。人検知センサ30は、例えば、テナント2内に人がいる割合(在所率)を検知する。なお、人検知センサ30によって検知する量は、人の多い/少ないを示す程度の情報であってもよい。ここでは、人検知センサ30が、座席毎の人の在/不在を検知することを想定する。人検知センサ30は、例えば、検知対象の範囲を複数の領域に分割して検知を行うことができ、一つの人検知センサ30を用いて複数(例えば、4つ)の座席における在/不在を検知できる。設置する人検知センサ30の数は、例えば、テナント2が入力する空間の広さに応じて決定される。人検知センサ30は、座席の総数に対する在席数の比率(在席率)に関する情報を在所率情報として消費電力推定装置3に出力する。
【0042】
消費電力推定装置3は、電力メータ20が測定した消費電力量から機器毎または用途毎の消費電力量を推定する。消費電力推定装置3は、機器毎または用途毎の消費電力量の推定において、機器の「ON/OFF」に関する制御情報や、人の在/不在に関する在所率情報を利用する。消費電力推定装置3は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やアプリケーションサーバである。
【0043】
消費電力推定装置3は、記憶部40と、制御部50とを備える。記憶部40は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。制御部50は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部50がプログラム実行処理により実現する場合、記憶部40には、制御部50の機能を実現するためのプログラムが格納される。なお、消費電力推定装置3が、図示しない外部の記憶手段から記憶部40に記憶される情報を必要に応じて取得してもよい。
【0044】
記憶部40には、消費電力の推定に必要な情報が記憶されている。記憶部40は、例えば、消費電力量記憶部41と、制御情報記憶部42と、在所率情報記憶部43とを備える。
消費電力量記憶部41には、テナント2の消費電力量が所定の時間間隔(例えば、30分周期)で記憶されている。制御情報記憶部42には、機器毎の「ON/OFF」に関する制御情報が履歴として記憶されている。在所率情報記憶部43には、人の在/不在に関する在所率情報が履歴として記憶されている。
【0045】
制御部50は、主に、情報取得部51と、消費電力推定部52と、推定結果出力部53とを備える。なお、
図3に示す制御部50の各機能は、説明の便宜上分けたものであり、機能の分割の仕方は本発明を限定するものではない。
【0046】
情報取得部51は、電力メータ20からテナント2の消費電力量を収集する。また、情報取得部51は、各機器から制御情報を収集する。また、情報取得部51は、人検知センサ30から所在率情報を収集する。
消費電力推定部52は、SBNMFを用いて全体の消費電力量から機器毎の消費電力量を推定する。消費電力推定部52は、補助情報として機器の制御情報および在所率情報を利用する。処理の詳細は後記する。
推定結果出力部53は、消費電力推定部52によって推定された機器毎または用途毎の消費電力量を出力する。推定結果出力部53による出力の方法は特に限定されず、推定結果出力部53は、例えば、機器毎または用途毎の消費電力量を表示装置に表示する。
【0047】
以下では、消費電力推定部52について説明する。まず最初に、「補助情報の活用の概要」について説明する。次に、消費電力推定の「定式化」について説明し、続けて「パラメータのチューニング」について説明する。そして最後に、「アルゴリズム」を示す。
【0048】
≪補助情報の活用の概要≫
<1>機器の制御情報の活用に関して
機器の電力消費パターンを学習している際に、制御情報(例えば、ON/OFF情報)との乖離がみられた場合には罰則を与え、制御情報に沿うように電力消費パターンを学習させる。ただし、電力消費パターンに基づいた再現誤差と補助情報の整合性に基づいた誤差のいずれも最小化するため、必ずしも学習された電力消費パターンが制御情報に沿うとは限らない。そのため、消費電力量を推定する際に、機器がOFFの時間帯については消費電力量を「0(ゼロ)」として置き換える。
【0049】
<2>在所率情報の活用に関して
在所率と各機器の消費電力量との関係について、照明器具とコンセントにて正の相関関係がみられることが実験により分かっている。
図4に各機器と在所率との関係を示す。
図4に示したように、特に照明器具に対して消費電力を推定する際に在所率を考慮することが有用だという一般的な傾向が示唆されるため、照明器具の電力消費パターンのうちの一つが在所率と関係を持つという仮定をおき、その関係の度合いを表すパラメータとの積によりこれを表すことにする。また、コンセントに関しては、消費電力量が在所率に比例するものとベースとして常に存在するものとに分けられると仮定を置いたうえで、在所率に関する1次関数として扱う。
【0050】
≪定式化≫
表1を適宜参照して、第1実施形態に係る消費電力推定方法の定式化について説明する。表1は、ここで説明する数式の記号表である。なお、表1には、第2実施形態で説明する記号が一部含まれている。
【0052】
「機器の制御情報」および「在所率情報」のある/なしに応じて、
図5に示すように機器の集合をR
0,R
b,R
v,R
bvの四種類に分けて定義する。
制御履歴情報については、ON/OFF情報を表し、
図5に示す式(4.1)のように定義する。また、全機器の集合は、R=R
0∪R
b∪R
v∪R
bvとする。
機器rに対する消費電力の推定値Y(ハット付き)
rは、
図6に示す式(4.2)〜式(4.5)のようになる。
【0053】
なお、在所率から影響を受ける電力消費パターンは一つと仮定しており、対象パターンに対するγ
kの値は後述のようにデータに基づく学習によって得ることを考える。また、残りの電力消費パターンに関しては、γ
k=1と固定した上で基底行列、発生行列の学習のみを同様に行うものとする。
【0054】
制御履歴情報と推定結果の乖離が少なくなることを考慮した罰則項を導入した目的関数は、
図7に示す式(4.6)のようになり、この目的関数が最小となるように最適化問題を解くこととする。
式(4.6)の第2項は、制御履歴としてOFF情報が得られているにもかかわらず電力消費が存在している場合にかかる罰則であり、第3項は制御履歴としてON情報が得られているにもかかわらず電力消費が小さくなっている場合にかかる罰則である。
図8に、推定された電力量と第1項、第2項それぞれの罰則との関係を示す。
【0055】
図6に示す式(4.2),式(4.3),式(4.5)において表される機器の消費電力量は、SBNMFにより学習されたX
rとA
rの積や、対応する制御履歴情報U
rや在所率情報Vにより再現される。このような状況で基底行列や発生行列の導出を行うため、HALS(Hierarchical Alternating Least Squares)アルゴリズムに基づく推定の検討を行っている。
図7の式(4.6)の目的関数をk番目の電力消費パターンに関する目的関数として書き換え、
図7に示す式(4.7)で表す。
【0056】
式(4.7)の第1項は、総消費電力量のうち、k番目を除いた電力消費パターンの足し合わせで再現されていない残余の消費電力量と、k番目の電力消費パターンとの二乗誤差を表している。
【0057】
これにより、X
r,A
r,c
r,b
rを反復的に更新していくことで、式(4.7)の最適化問題を解くこととなる。
X
r,c
r,b
rについては、式(4.7)において極値問題を解くことで更新式が導出できる。γ
kは、在所率から影響を受ける電力消費パターンにかかるもののみを更新し、それぞれ
図9に示す式(4.8)〜式(4.13)で表される。また、A
rは、貪欲法によって
図7の式(4.7)の目的関数値を小さくするよう、各要素について更新がなされる。
【0058】
≪パラメータチューニング≫
各テナントにみられる特徴的な1日の電力消費パターンの個数Kを具体的に与えるため、事前に学習データに基づいてチューニングを行う必要がある。ここでは、4-foldの交差検定(CV:cross validation)により具体的なKを与えることを想定する。4-fold CVは対象としている学習データの期間を4分割し、そのうちの1つを評価期間、残りを学習期間として全事例が一回ずつ評価期間となるよう検証を繰り返し、その平均的な振る舞いに基づき適切なパラメータを選定するというものである。ここでは、
図7の式(4.6)の目的関数について、各期間の平均をとり、その値が最も小さくなる電力消費パターンの個数を適切な個数として採用する。
図10に4-fold CVに基づくパラメータチューニングの概要を示す。
【0059】
各テナントにみられる特徴的な1日の電力消費パターンの個数K、さらに制御履歴情報との乖離に対する罰則の大きさを調整するパラメータλ
1,λ
2,αについては、4-fold CVに基づいて決定することを考える。ただし、初めにパラメータλ
1,λ
2,αを固定したうえで最適な電力消費パターンの個数Kを決定し、そのパターンの個数Kのもとでパラメータλ
1,λ
2,αを決定する2段階のパラメータチューニングを考える。
【0060】
電力消費パターンの個数Kについては,
図7の式(4.7)の目的関数のCV結果の平均を最も小さくするものを採用する。一方、罰則の大きさを調整するパラメータλ
1,λ
2,αについては、式(4.7)によるチューニングを行ってしまうとパラメータの大きさに影響を受けて目的関数値の罰則項の重みも変化してしまう。よって、パラメータλ
1,λ
2,αに依存しない、推定電力消費量と制御履歴情報との乖離度合いを測る次のような距離尺度を導入し、
図11に示す式(4.14)とし、CVの際の目的関数を
図11に示す式(4.15)としてチューニングを行うことを考える。
【0061】
補助情報の信頼性については、得られる補助情報のうち、機器の制御情報については工事や作業の関係でデータが取得できていない時刻が存在することがある。そのような欠損値がある際には補助情報を用いた機器別消費電力推定が実現されなくなってしまうことから、制御履歴情報に着目した欠損値補完を行う。補完にあたっては、制御履歴情報に関する日ごとの特徴の類似性に着目し、欠損データが存在する日時(n,t)の機器rの情報を補完するために、対象日nにおいて欠損していない残りの時間帯と、欠損が存在しないN
n={1,…,N}\{n}に属する日の同時間帯の制御履歴情報に関する次のようなハミング距離を測ることで、欠損している時間帯以外において制御履歴情報推移が最も類似している日n(ハット付き)を選ぶ。
【0062】
制御情報に関して欠損値がある場合には、
図11に示す式(4.16),式(4.17)のように定義された類似日n(ハット付き)を選択することで、対象時刻の制御履歴情報をu
rtn=u
rtn(ハット付き)のように補完する。なお、式(4.16)においてハミング距離が最も小さくなる候補日が複数存在する場合には、各候補日と補完対象日の総消費電力推移系列を二乗誤差和の観点から比較し、誤差が最も小さい日を最も類似している日n(ハット付き)として選ぶこととする。
【0063】
≪アルゴリズム≫
第1実施形態に係る消費電力推定方法のアルゴリズムを
図12に示す。
図12は、本発明の第1実施形態に係る消費電力推定方法のアルゴリズムの例示である。
図12に示すアルゴリズムに記載される括弧書きの数字「(x.x):x部分は数字」は、定式化で説明した数式に対応している。
【0064】
<第1実施形態に係る消費電力推定方法>
図13ないし
図16を参照して(適宜、
図1〜
図12を参照)、第1実施形態に係る消費電力推定システム100を用いた消費電力推定方法について説明する。
【0065】
(全体処理)
図13に示すように、最初に、電力推定を行う者は、消費電力を推定する期間(評価期間)を指定する(ステップS1)。評価期間は任意であってよく、例えば評価期間として1ヶ月間を指定した場合、1ヶ月間を1日単位で消費電力の推定を行う。情報取得部51は、評価期間の指定を受け付け、消費電力推定部52は、記憶部40から評価期間に対応するデータを取得する。例えば、評価期間として1ヶ月間が指定された場合、消費電力推定部52は、1ヶ月分の消費電力量を取得する。
【0066】
次に、消費電力推定部52は、対象テナントの消費電力分離におけるパラメータの決定処理を実行する(ステップS2)。続いて、ステップS2で決定したパラメータを用いて、対象テナントにおける消費電力の分離処理を実施する(ステップS3)。ステップS2およびステップS3の処理の詳細は後記する。なお、ステップS2のパラメータ決定処理内においても、ステップS3と同様に消費電力の分離処理が行われる。そのため、以下では、ステップS3における「消費電力の分離処理」を特に「消費電力の分離処理(パラメータ決定後)」と呼び、また、ステップS2内で実施される「消費電力の分離処理」を特に「消費電力の分離処理(パラメータ決定前)」と呼ぶ場合がある。
【0067】
これにより、一つのテナントの評価期間における消費電力の分離が完了する。そして、消費電力推定部52は、対象となるすべてのテナントの消費電力の分離が完了したか否かを判定する(ステップS4)。対象となるすべてのテナントの分離が完了していない場合(ステップS4で“No”)に、処理をステップS2,S3に進めて、次の対象となるテナントの消費電力の分離を実施する。一方、対象となるすべてのテナントの分離が完了した場合(ステップS4で“Yes”)に、処理を終了する。
【0068】
(パラメータの決定処理)
図14を参照して、パラメータの決定処理について説明する。ここでの処理は、前記説明したパラメータチューニングの内容に対応している。つまり、各テナントにみられる特徴的な1日の電力消費パターンの個数K、さらに制御履歴情報との乖離に対する罰則の大きさを調整するパラメータλ
1,λ
2,αについては、4-fold CVに基づいて決定する。
【0069】
図14に示すように、最初に、候補パラメータを指定する(ステップS11)。本実施形態では、各テナントにみられる特徴的な1日の電力消費パターンの個数K、制御履歴情報との乖離に対する罰則の大きさを調整するパラメータλ
1,λ
2,αの候補を指定する。これらの電力消費パターン、およびパラメータλ
1,λ
2,αには、予め候補が決まっていて、ここでは候補の中から一つを選択する。
【0070】
次に、ステップS11で指定されたパラメータを用いて、消費電力分離の交差検証処理を実行する(ステップS12)。ステップS12の処理の詳細は後記する。そして、消費電力推定部52は、すべての候補パラメータに対する交差検証を行ったか否かを判定する(ステップS13)。すべての候補パラメータに対する交差検証が完了していない場合(ステップS13で“No”)に、処理をステップS11,S12に進めて、次の候補パラメータに対する交差検証を行う。これにより、例えば、最初のK回のループでは、パラメータλ
1,λ
2,αを固定した上で電力消費パターンの個数Kを順次変更してステップS12の消費電力分離の交差検証処理を実行する。そして、最初のK回のループを実行した結果として決定される最適な電力消費パターンの個数Kのもとで、残りのループではパラメータλ
1,λ
2,αを順次変更してステップS12の消費電力分離の交差検証処理を実行する。一方、すべての候補パラメータに対する交差検証を行った場合(ステップS13で“Yes”)に、処理をステップS14に進めて、交差検証の結果が最良のパラメータの組合せを選択する(ステップS14)。そして、ステップS2のパラメータの決定処理を終了する。
【0071】
(候補パラメータを用いた消費電力分離の交差検証処理)
図15を参照して、候補パラメータを用いた消費電力分離の交差検証処理について説明する。ここでの処理は、前記説明したパラメータチューニングにおける4-fold CVの内容に対応している。
【0072】
図15に示すように、最初に、
図13のステップS1で指定した評価期間のデータを予め決められたL個に分割する(ステップS21)。データの分割数Lは、任意であってよく、4-fold CVを想定する場合にはデータを4分割する(つまり、L=4)。続いて、消費電力推定部52は、「L−1」個分のデータを学習用に使用し、残りの「1」個分のデータを評価用に利用することを決定する(ステップS22)。続いて、ステップS22で決めた暫定の学習用データおよび暫定の評価用データを用いて、対象テナントの消費電力分離処理を実施する(ステップS23)。ステップS23の処理の詳細は後記する。続いて、ステップS23で実施した消費電力分離の結果を評価するために、評価用データに対する再構成誤差を評価する(ステップS24)。
【0073】
そして、消費電力推定部52は、分割したL個のデータをすべて評価したか否かを判定する(ステップS25)。L個のデータのすべてを評価していない場合(ステップS25で“No”)に、処理をステップS22,S23,S24に進めて、次の学習データを用いた対象テナントの消費電力分離処理の実施および評価用データによる評価を行う。これにより、例えば、
図10に示すように、最初のループでは、期間1,2,3のデータを学習用データとし、期間4のデータを評価用データとして対象テナントの消費電力分離処理の実施および評価を行う。また、2回目のループでは、期間1,2,4のデータを学習用データとし、期間3のデータを評価用データとして対象テナントの消費電力分離処理の実施および評価を行う。また、3回目のループでは、期間1,3,4のデータを学習用データとし、期間2のデータを評価用データとして対象テナントの消費電力分離処理の実施および評価を行う。また、4回目のループでは、期間2,3,4のデータを学習用データとし、期間1のデータを評価用データとして対象テナントの消費電力分離処理の実施および評価を行う。
【0074】
一方、L個のデータのすべてを評価した場合(ステップS25で“Yes”)に、処理をステップS26に進めて、L個のデータに対する再構成誤差を記録する(ステップS26)。そして、ステップS12の候補パラメータを用いた消費電力分離の交差検証処理を終了する。
【0075】
(対象テナントの消費電力の分離処理(パラメータ決定前))
図16を参照して、ステップS23における対象テナントの消費電力の分離処理(パラメータ決定前)について説明する。ここでの処理は、前記説明した定式化およびアルゴリズムの内容に対応している。
【0076】
図16に示すように、最初に、対象テナントの補助情報を収集する(ステップS31)。具体的には、消費電力推定部52は、
図15のステップS22で学習用データとして決定したデータに対応する期間(つまり、評価期間の一部の期間)の補助情報を記憶部40から取得する。ここでの補助情報は、「機器の制御情報」および「在所率情報」である。
【0077】
次に、初期値の振り直し回数を指定する(ステップS32)。振り直し回数は、ステップS33〜ステップS36までの処理を繰り返し行う回数である。
【0078】
次に、消費電力推定部52は、行列要素の初期化を行った後で、目的関数値が収束するまで行列要素の更新を行う(ステップS33〜ステップS35)。ステップS33〜ステップS35の処理は、
図12に示すアルゴリズムに対応している。そして、消費電力推定部52は、ステップS36で収束した目的関数値を記録する。目的関数値は、
図7の式(4.7)に対応している。
【0079】
前記説明した通り、ステップS33〜ステップS36の一連の処理は、ステップS32で指定した振り直し回数だけ繰り返し実行される(ステップS37)。つまり、初期値の振り直しが指定回数に達していない場合(ステップS37で“No”)に、処理をステップS33に戻して、再び行列要素の初期化を行った後で目的関数値が収束するまで行列要素の更新を行う。一方、初期値の振り直しが指定回数に達した場合(ステップS37で“Yes”)に、処理をステップS38に進めて、最小の目的関数値を実現した結果を記録する(ステップS38)。
【0080】
ここまで説明したように、
図15のステップS23における消費電力の分離処理(パラメータ決定前)では、
図14のステップS11で指定した候補パラメータを用いて、
図15のステップS21で分割した内の一部のデータ(つまり、不完全なデータ)を入力として処理を実行する。一方、ステップS3における消費電力の分離処理(パラメータ決定後)では、ステップS2で決定されたパラメータを用いて、ステップS1で指定された評価期間のデータ(つまり、完全なデータ)を入力として処理を実行する。
【0081】
(対象テナントの消費電力の分離処理(パラメータ決定後))
図16を参照して、ステップS3における対象テナントの消費電力の分離処理(パラメータ決定後)について説明する。ここでの処理は、前記説明した対象テナントの消費電力の分離処理(パラメータ決定前)と同様であり、定式化およびアルゴリズムの内容に対応している。そのため、ここでは、ステップS23における消費電力の分離処理(パラメータ決定前)との相違点について主に説明する。
【0082】
ステップS3で示す消費電力の分離処理(パラメータ決定後)では、ステップS2で決定されたパラメータ(つまり、学習済みのパラメータ)を用いて、ステップS1で指定された評価期間のデータ(つまり、完全なデータ)を入力として処理を実行する。また、それに対応して、ステップS31において、消費電力推定部52は、評価期間に対応する補助情報を記憶部40から取得し、この補助情報を使用する。
【0083】
以上のように、第1実施形態に係る消費電力推定システム100およびそれを構成する消費電力推定装置3は、補助情報として機器の制御情報および在所率情報を使用して機器毎または用途毎の消費電力量を推定する。そのため、推定精度が従来に比べて向上する。
【0084】
[第2実施形態]
<第2実施形態に係る消費電力推定システムの構成>
図17を参照して、第2実施形態に係る消費電力推定システム200の構成について説明する。消費電力推定システム200は、複数の機器の各々の消費電力量を加算した全体の消費電力量から、各々の機器の消費電力量を推定するシステムである。ここでは、第1実施形態に係る消費電力推定システム100(
図3参照)との相違点について主に説明する。
【0085】
消費電力推定システム200の消費電力推定装置3は、制御部60の機能が変更されている。制御部60は、主に、情報取得部61と、消費電力推定部62と、推定結果出力部63とを備える。なお、
図17に示す制御部60の各機能は、説明の便宜上分けたものであり、機能の分割の仕方は本発明を限定するものではない。
【0086】
情報取得部61は、電力メータ20からテナント2の消費電力量を収集する。また、情報取得部61は、各機器から制御情報を収集する。また、情報取得部61は、人検知センサ30から所在率情報を収集する。
消費電力推定部62は、SBNMFを用いて全体の消費電力量から機器毎の消費電力量を推定する。消費電力推定部62は、補助情報として機器の制御情報および在所率情報を利用する。また、消費電力推定部62は、定格値を考慮した消費電力推定を行う。処理の詳細は後記する。
推定結果出力部63は、消費電力推定部62によって推定された機器毎または用途毎の消費電力量を出力する。推定結果出力部63による出力の方法は特に限定されず、推定結果出力部63は、例えば、機器毎または用途毎の消費電力量を表示装置に表示する。
【0087】
以下では、消費電力推定部62について説明する。まず最初に、「補助情報の活用等の概要」について説明する。次に、消費電力推定の「定式化」について説明し、続けて「パラメータのチューニング」について説明する。そして最後に、「アルゴリズム」を示す。
【0088】
≪補助情報の活用等の概要≫
<1>機器の制御情報および<2>在所率情報の活用に関しては、第1実施形態と同様なので説明を省略する。
【0089】
<3>機器の定格値を考慮した推定に関して
SBNMFをはじめとする機器別・用途別の消費電力量推定技術は、機器毎の電力消費パターンを足し合わせることにより全体の消費電力の再現を行う。このような分解は、テナント毎、機器毎に複数の特徴的な電力消費行動の存在、またそれらが空間的に独立な形で生起している状況下でうまく働く。
図18にこれらSBNMFで想定される状況を示す概念図を示す。
【0090】
図18に示す状況は、例えば、広いテナント2や間仕切りの存在するようなテナント2において、そのテナント2内のエリア2−(1),2−(2)ごとに日々活動する集団が異なる、あるいはエリア2−(1),2−(2)ごとの使用用途がそもそも異なるような状況である。このような場合は、各エリア2−(1),2−(2)における特徴的な電力消費行動は空間的に独立しており、各エリア2−(1),2−(2)における電力消費パターン(1),(2)を足し合わせることで機器ごとの消費電力量が再現されるという従来における推定の前提と良く整合していることになる。
【0091】
一方、テナント毎、機器毎の複数の特徴的な電力消費行動が空間的に独立な形で生起していない状況下ではうまく働かない場合がある。つまり、電力消費行動が空間的に競合する可能性があり、学習された電力消費パターンを単純に足し合わせて機器の消費電力量を推定しようとすると、機器の定格値を超えた推定結果を得る恐れがある。
図19にSBNMFで起こりうる問題を示す概念図を示す。
【0092】
図19に示す状況は、例えば、テナント2の広さがあまりなく、また会議室などの共用スペースが存在する状況である。その場合には、テナント2内の各エリア2−(1),2−(2)における特徴的な電力消費行動は空間的に独立しておらず、各エリア2−(1),2−(2)における電力消費パターン(1),(2)を足し合わせることで機器の定格値を超えた推定結果を得る恐れがある。
【0093】
なお、この問題に対して、超過量を各機器に再配分する操作を加えることも可能である。ただし、超過量を各機器に再配分する操作を加えたとしても、定格値は超えないものの推定結果が実際の観測に対して過大となる傾向が起こり得る。このような過大な推定をしてしまう機器があると、そのしわ寄せとしてほかの機器が過小な推定となってしまうことにつながる。さらに、結果として日ごとに過大な推定をする機器、しわ寄せで過小な推定が起こる機器が入れ替わる場合があり、機器ごとの日々の消費電力量にそれほどばらつきがない実際のデータと比較して大きく特徴が異なってしまう。このような特定機器の過大な推定や日による機器の推定消費電力量のばらつきは、機器別消費電力推定の精度悪化の要因となり得る。
【0094】
本実施形態では、テナント内の同じエリアが異なる使用用途で利用される際に導出される推定消費電力が定格値を超え得るという上記の問題を、行列の積演算を一般化するためのパラメータq
r(q
r≧1)という新たな概念を導入することで解決している。
図20の式(5.1)にパラメータq
rを導入していない消費電力推定のための式表現、式(5.2)にパラメータq
rを導入した消費電力推定のための式表現を示す。
【0095】
図20の式(5.2)は、各電力消費パターンをq
r乗したものの総和においてq
r乗根をとることとしているため、得られる消費電力量のオーダーは式(5.1)と同じになる。式(5.2)について、q
r=1である場合には、式(5.1)と同様の式となる。一方、q
rの値が大きくなれば、q
r乗された複数の電力消費パターンについて、各時刻において大きな値をとるパターンの影響が強くなる。よって、その和のq
r乗根をとると各時刻における電力消費パターンのうちの最大値に近い値をとって推定値が算出されることとなる。
図21にパラメータq
rを導入した推定方法の概念図を示す。
図21に示すように、q
r=1に近い場合、推定結果はパターン(1),(2)の和に近い値をとる。一方、q
rが大きい場合、推定結果はパターン(1),(2)の最大値に近い値をとる。
【0096】
このような拡張によって、各時刻において空間的に独立な電力消費行動がなされるようなテナントや機器に関しては、従来通り学習された電力消費パターンの和をとることで推定を行うことが可能となる。一方で、各時刻において空間的に競合する電力消費行動がなされるようなテナントや機器に関しては、
図20の式(5.2)に基づきその競合の度合いに依存するq
r>1という状況を想定した推定も可能になる。
【0097】
例えば、複数の電力消費パターンが非常に強く競合しているのであればq
rの値を大きく取り、各時刻で電力消費パターンの最大値に近い値に基づく推定を行うことができる。これにより、背後に存在する特徴的な電力消費パターンを抽出しながら、それが観測される消費電力量に対して必ずしも加算の形で寄与しないという状況下での推定精度の向上が期待できる。
また、パラメータq
rの値を適切に与えることで、電力消費パターンの単純な和でもなく、いずれかの最大値でもなく、中間的な電力量表現で与えられるような、実空間の一部についてのみ消費行動が競合するような状況下での推定も可能になる。
パラメータq
rがそのテナントにおいて適切な値となっているのであれば、従来アプローチで生じていた過大な推定が抑えられ、定格値を考慮した自然な推定が可能になる。
【0098】
なお、パラメータq
rは、一意に与えるものではなく、各テナントの特徴から複数パターンを比較し、自動チューニングを行いながら決定する。詳細は後記する。
【0099】
≪定式化≫
表1を適宜参照して、第2実施形態に係る消費電力推定方法の定式化について説明する。なお、第1実施形態と説明が重複する部分については、説明を省略する場合がある。
【0100】
機器rに対する消費電力の推定値Y(ハット付き)
rは、第1実施形態と同様に、「機器の制御情報」および「在所率情報」のある/なしに応じて表す。
また、電力消費パターンの足し合わせ方についてパラメータq
rを導入し、このパラメータq
rは、各機器について
図22の式(5.3)のように値をとるものとする。
【0101】
これにより、機器rに対する消費電力の推定値Y(ハット付き)
rは、
図22に示す式(5.4)〜式(5.7)のようになる。
【0102】
また、目的関数については、制御履歴情報と推定結果の乖離が少なくなることを考慮した罰則項を導入した第1実施形態の式(4.6)と同様に、これが最小となるように最適化問題を解くこととする。ここでもHALSアルゴリズムに基づいた更新を考えるが、パラメータq
rを導入したことから式(4.6)の目的関数を、機器rの電力消費量に関する目的関数として書き換えて
図23の式(5.8)として表す。式(5.8)の第1項は総消費電力量のうち、機器rを除いた機器の消費電力量の足し合わせで再現されていない残余の消費電力量と、機器rの消費電力量との二乗誤差を表している。
【0103】
これより、X
r,A
r,c
r,b
rを反復的に更新していくことで式(5.8)の最適化問題を解くことを考える。
X
r,c
r,b
rについては,
図23の式(5.8)において勾配法に基づいて解くことで更新式が導出でき、それぞれ
図24および
図25に示す式(5.9)〜式(5.14)で表される。また、A
rは、貪欲法によって
図23の式(5.8)の目的関数値を小さくするよう、各要素について更新がなされる。
【0104】
≪パラメータチューニング≫
各テナントにみられる特徴的な1日の電力消費パターンの個数K、各機器の電力消費パターンの足し合わせ方を決めるパラメータq
r、さらに制御履歴情報との乖離に対する罰則の大きさを調整するパラメータλ
1,λ
2,αについては、4-fold CVに基づいて決定する。ただし、初めにパラメータλ
1,λ
2,αを固定したうえで最適な電力消費パターンの個数Kと電力消費パターンの足し合わせ方を決めるパラメータq
rを決定し、そのパターンの個数Kとパラメータq
rの下でパラメータλ
1,λ
2,αを2段階でチューニングするという方法をとる。
【0105】
本チューニングの過程では、照明と空調のいずれについてもq
r=1をとるパラメータの組の再現誤差に着目し、その標準偏差の幅を用いてパラメータの決定を行う。ここでは、再現誤差の平均値が最も小さいパラメータ組について、その値が照明と空調のいずれについてもq
r=1をとるパラメータ組の標準誤差内に含まれているのであればq
r=1をとるパラメータ組を採用し、標準誤差を超えて小さい値をとっているのであればそのパラメータ組を採用することとする。これにより、基本的には従来の考えのもとで機器別消費電力推定を行うが、q
rの値を大きくすることが強い意味を持ちうる場合のみ、そのパラメータ組が選択されることとなる。
図26に標準偏差を用いた第1段階のパラメータチューニングの概要を示す。
【0106】
一方、第2段階については第1実施形態と同様に
図11の式(4.15)に着目し、各期間の目的関数値の平均が最も小さいパラメータ組を選択する。また、照明と空調のいずれについてもq
r=1をとるパラメータの組が選択されたのであれば、第1実施形態で定式化した式で推定を行うものとし、q
r=≠1となった場合には第2実施形態で定式化した式を用いた推定を行う。
【0107】
≪アルゴリズム≫
第2実施形態に係る消費電力推定方法のアルゴリズムを
図27に示す。
図27は、本発明の第2実施形態に係る消費電力推定方法のアルゴリズムの例示である。
図27に示すアルゴリズムに記載される括弧書きの数字「(x.x):x部分は数字」は、定式化で説明した数式に対応している。
【0108】
<第2実施形態に係る消費電力推定方法>
第2実施形態に係る消費電力推定システム200を用いた消費電力推定方法について、パラメータqを用いている点や使用する数式が異なる点以外は第1実施形態の処理の流れと同様である。
【0109】
<第2実施形態に係る消費電力推定システムの効果>
(実験の概要)
業務ビルに存在するテナント「28室」を対象として、計測された部屋単位の30分平均総電力消費量データから機器別消費電力推定をする。学習データ期間、評価データ期間はともに「2018/8/1〜2018/8/31」の31日間とし、補助情報としては照明器具と空調機器の制御履歴情報、各テナントの在所率情報、照明器具と空調機器の定格値を利用する。また、精度の評価を行う際には照明器具、空調機器、コンセントの30分平均電力消費量を用いている。
【0110】
機器別消費電力量推定について、本実験では2つの手法の比較を行う。
(1)SBNMFに基づく手法 ・・・第1実施形態に係る手法
(2)拡張SBNMFに基づく手法・・・第2実施形態に係る手法
また、いずれも補助情報を利用しており、各機器についてR
b={空調機器},R
v={コンセント},R
bv={照明器具}とした推定を行う。
【0111】
本実験においては、機器別消費電力推定の精度について、定量的評価指標としてMatch Rate (MR)を用いる。MRは、実測と推定結果の差を割合で評価する指標となっており「0≦MR≦1」となる。実測波形と推定波形が完全に一致している場合には、MR=1となり、全く一致していない場合には、MR=0となる。
図28に、MRの概念を示す。また、
図29の式(6.1)にMRの定義を示す
【0112】
また、これまでの検討で日によって機器の消費電力量の推定結果が過度にばらついてしまう傾向にあったことを考慮し、推定結果の過度なばらつきが改善されるかどうかの度合いを測る指標として誤差の分散に着目する。
図29の式(6.2)に誤差の分散の定義を示す。推定結果に分離の大外れが多く存在する、あるいは日による機器の消費電力量のばらつきが多く存在する場合には、誤差の分散が大きくなるという特徴がある。
【0113】
さらに、第1実施形態に係る手法による分離結果と比較して平均絶対誤差がどの程度改善されたかを
図29の式(6.3)として表す。改善度は最高で100[%]となり、値が大きければ大きいほど改善していることを表す。
【0114】
(実験結果)
評価期間における2手法の推定結果について、各テナントの機器ごとのMRをプロットした箱ひげ図を
図30に示す。箱部は上位25%点、中央値、上位75%を表す。また、四分位範囲の1.5倍を超える値については、外れ値としてプロットされ、ひげ部はそれぞれ最大値、最小値を表す。
図30より、特に照明に関して変化の見られるテナントが存在することがわかる。
【0115】
第1実施形態に係る手法と第2実施形態に係る手法における結果の違いについては、第2実施形態に係る手法においてq
r≠1となるパラメータ組が選択されたテナントの有無による。よって、第2実施形態に係る手法においてq
r≠1となるパラメータ組を選択したテナントについてのみ注目し、評価期間のMRの平均を比較する。その結果を
図31に示す。左側のグラフが第1実施形態に係る手法を示し、右側のグラフが第2実施形態に係る手法を示す。
【0116】
図31より、第2実施形態に係る手法によりパラメータq
rの値を大きく取ることによって、平均的にMRにおける精度が改善されることがわかる。また、第2実施形態に係る手法においてq
r≠1となるパラメータ組が選択されたテナントの平均絶対誤差の改善度は、照明が「20.4%」、空調が「7.3%」、コンセントが「−1.4%」であった。
【0117】
さらに、従来生じていた問題の改善について、空調の過大な推定が改善されたテナントの推定波形、MRと誤差の分散の比較をそれぞれ
図32、
図33、
図34に示す。ここでは、第2実施形態に係る手法において「q
r=3(機器rが照明)」、「q
r=10(機器rが空調)」が選択されている。
【0118】
図32より、第1実施形態に係る手法では空調が過大に推定されてしまっていたことが見て取れるが、第2実施形態に係る手法では過大な推定が抑えられているといえる。
また、
図33より、MRはコンセントについては差がなかったものの、照明と空調に対して向上していることがわかる。
さらに,
図34より、誤差の分散についても照明と空調の値が大きく減少しており、提案手法は精度の向上につながったといえる。
【0119】
また、日による機器の推定消費電力量のばらつきが改善されたテナントの推定波形、MRと誤差の分散の比較をそれぞれ
図35、
図36、
図37に示す。ここでは、第2実施形態に係る手法において、「q
r=3(機器rが照明)」、「q
r=3(機器rが空調)」が選択されている。
【0120】
図35より、第1実施形態に係る手法では日による機器の推定消費電力量のばらつきが多く存在することが見て取れるが、第2実施形態に係る手法ではそのばらつきが抑えられたといえる。
また、
図36より、MRは照明と空調に対して向上していることがわかる。さらに、
図37より、誤差の分散についても照明と空調の値が大きく減少しており、第2実施形態に係る手法は精度の向上につながったといえる。
【0121】
これより、パラメータq
rを導入し、自然に定格値を考慮するような拡張非負値行列因子分解に基づく機器の消費電力推定を行うことで、さらなる推定精度の向上につながるといえる。
【0122】
以上のように、第2実施形態に係る消費電力推定システム200およびそれを構成する消費電力推定装置3は、定格値を考慮した消費電力推定を行うことができる。そのため、推定精度がさらに向上する。
【0123】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【0124】
例えば、各実施形態では、機器の消費電力量の推定を行う対象としてテナントを想定して説明したが、これに限定されない。