【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、個食単位で実施可能な加熱処理を鋭意検討したところ、極めてシンプルな手段による短時間の加熱処理でありながら、思いがけず本格的な炒め風味が得られ、かつ、食感に影響するような焦げ目が付かない条件の存在を知り得て本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明の手段1は、生麺または乾燥麺を蒸煮することで蒸煮麺とする、麺類蒸煮工程と、該蒸煮麺に油脂及びレシチンを含む調味液を付着させ調味液付着蒸煮麺とする、調味液付着工程と、該調味液付着蒸煮麺を加熱された平板に接触させる平板加熱工程と、を有する調味炒め風味麺の製造方法であって、該平板加熱工程が、加熱された第一の平板上に調味液付着蒸煮麺を載置し、加熱された第二の平板により押し付けながら加熱して水分の気化発泡を生じさせ、第二の平板と調味液付着蒸煮麺の接触面で水分の気化発泡が生じている間に第二の平板による押し付けを終えて取り出すことを特徴とする、調味炒め風味麺の製造方法に関する。
【0012】
本発明に適した生麺とは、うどん、中華麺、きしめん、ほうとう、ビーフン、パスタ、乾燥麺とは、春雨、ビーフン、スパゲッティ、マカロニ、その他のショートパスタ等、原料や形状で制限されず、炒め調理によりメニューが完成する麺類であれば何でも利用できる。製麺方法は麺帯を成形して回転式の切刃で細断する方法や麺線の形状に押し出し成型する方法などいずれでもよく、加水率も自由にできる。
【0013】
麺類蒸煮工程における蒸煮とは、熱水中に浸漬し潜行させる茹でや、蒸気を充満させた蒸し機中に滞留もしくは通過させる蒸しを指すが、喫食可能な程度に澱粉質がα化し含水率が高まれば良い。目的とする製品の食味性に合わせ、茹でであれば温度と時間を蒸しであれば時間と散水回数を設定し蒸煮麺とする。
【0014】
製出した蒸煮麺は、必要に応じ冷却水で冷やしても良い。冷却水の接触により澱粉質をゲル化させると共に麺表面の付着を防止することで調味液付着工程への移行時間を長く取ることができる。
【0015】
調味液付着工程における調味液とは、食塩、糖、アミノ酸、核酸、蛋白分解物、有機酸等を含む天然由来および工業的に得られた調味料や食品添加物の他に、麺のほぐれ性改善を目的とし油脂を混合する。適する油脂は、調味料と共に乳化混合する為、常温で液状であるサラダ油、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、オリーブ油、ゴマ油などが適しているが、加温調製する場合はラード、ヘッド、パーム脂なども使用することができる。
【0016】
本発明に適したレシチンの由来原料は卵黄、大豆いずれでも良いが、大豆油精製の副産物として生産される大豆レシチンが食品用途で多数製品化されている。中でも、乳化力の高い酵素分解レシチンが適している。レシチンは、調味液付着工程で油脂と共に着味液に混合する際は、乳化剤として機能し、平板加熱工程では鉄板からの焦げ付き防止剤として機能する。レシチンの蒸煮麺に対する配合量は、リン脂質の総量として0.005〜0.2重量%、望ましくは0.01〜0.05重量%が良い。
【0017】
更に、乳化状態を安定化する為に乳化剤、増粘剤を添加しても良い。適する乳化剤には、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステ、シュガーエステル、適する増粘剤には、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、アセチル化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉が適している。乳化混合された調味液は蒸煮麺に添加して混ぜ合わせ調味液付着蒸煮麺とする。
【0018】
平板加熱工程で用いる第一及び第二の平板は、スクレーパで掻き取る都合から加熱面には凹凸がなくスクレーパが密着できるよう平らな形状が良い。平板加熱工程で用いる第一の平板は調味液が周辺に流れ出ないことが求められるが、面積を広めにとり平板加熱工程の前半を水平に維持すれば、単純に平な形状が良い。本発明では、第一の平板が平らであることで、調味液の液だまりを避け、薄く拡がることで加熱による濃縮焼成がムラなくできて良い。
【0019】
いずれの平板も、200℃を超える温度に加熱する際の耐熱性と、効率的に加熱焼成を終えるための伝熱性が必要で、スクレーパとの摩擦に耐える耐摩耗性、更に焦げ付き難い剥離性を備えることができれば、材質は金属でも陶磁器でもそれらの表面にセラミックやフッ素樹脂等のコーティング加工したものでも利用できる。材質の特性で剥離し難い場合は平板に油を塗布すると良い。平板の厚さは、蓄熱し速やかに加熱開始する場合は材質の熱容量を考慮し厚めが良い。また、追加熱により焼成処理を継続する場合は伝熱性を高めるため薄めの板が良い。
【0020】
平板の加熱手段は、ガスバーナーによる直火でも電熱線加熱でも良いが、高周波による誘導加熱と磁性のある金属板の組み合わせが効率的で排熱も少なく作業環境への影響が軽微で良い。
【0021】
本発明では、調味液付着蒸煮麺の押し付けにあたり、第一、第二の平板を予め麺の焼成処理可能な温度に加熱してから調味液付着蒸煮麺を載置する。いずれも、好ましい加熱温度は200〜250℃、望ましくは220〜240℃が良い。材質や厚みの条件によって熱容量が不足する場合は、焼成途中で追加熱する。そして、調味液付着蒸煮麺に第二の平板を上から押し付け、第二の平板接触部位でジュージューと活発に水分が気化発泡する、10秒〜60秒、望ましくは20秒〜40秒の間に、第二の平板による押し付けを終えて平板加熱工程を終える。
【0022】
第二の平板による押し付けを終える方法は、第二の平板を開く方向に移動しても、第一の平板を下方に移動してもどちらでも良い。また、平板の付着面にスクレーパを摺動して麺を擦り落しても良い。
【0023】
本発明の手段1によれば、蒸煮直後の蒸煮麺は物性が強靭であること、更に、調味液を付着させることで麺塊としたときの流動性が高まること、これらにより平板加熱工程の押し付けにより、隙間で生じる周囲360度の水平方向に、麺が潰されることなく変形展開する作用を奏する。
【0024】
そして、水平方向に変形展開することで、調味液付着蒸煮麺の加熱面積を拡大すると共に、上下からの圧迫状態により上面に存在する空隙を減らし上面での加熱効率を高める作用を奏する。また、第二の平板による押し付け状態を保持することで、平板と接触する部位が固定され加熱が集中し炒め風味成分の生成を促進する作用を奏する。更に、調味液付着蒸煮麺の平板接触部位で活発に発砲する間に平板を開くことで、水分の気化発泡による剥離作用を奏する。
【0025】
本発明の手段2は、前記した第一の平板および第二の平板が鉄板で、加熱したそれらの平板に油を塗布することを特徴とする、手段1の調味炒め風味麺の製造方法に関する。
【0026】
手段2に用いる鉄板はステンレス鋼を含まない。一般構造用圧延鋼材SS400や冷間圧延鋼板SPCC等の安価に入手し易いもので良い。なお、表面の硬度を上げるために焼き入れ等の表面処理を行っても良い。それら鉄鋼板の厚さは、4〜15mm、望ましくは10〜13mmが良く、厚くすることで熱容量を増やすと共に加熱ムラを防ぐことができる。熱容量か遊離した鉄イオンの影響か原因は定かではないが、鉄板にすることでアルミや銅にはない本格感のある炒め風味を付与することができる。
鉄板に油を塗布する手段は油を含ませたローラーを接触回転させる方法でも、定量噴霧する方法でも自由にできる。
【0027】
また、本発明は、前記した第一の平板と第二の平板が、共にスチールベルトで、上下の挟み込みコンベアとして循環させ、前記した平板加熱工程の後に、該スチールベルトを介して冷却する、調味炒め風味麺冷却工程を有する調味炒め風味麺の製造方法。とすることもできる。
【0028】
加熱する2枚の平板に、スチールベルトを採用することで、平板の厚さを1mm以下に薄くして熱伝導性を大幅に高めると共に、加熱後の連続急冷により炒め風味の劣化を防ぐことができる。そして、平板加熱工程から冷却工程まで連続処理することができ、より合理的に製造を行うことができる。
【0029】
本発明の手段3は、前記した平板加熱工程により製出した調味炒め風味麺を、フィルム包装後凍結する冷凍調味炒め風味麺の製造方法に関する。
本発明はチルド流通にも適するが、手段3によれば、蒸煮麺による調味液の吸収を最適な状態に調理再現できると共に、調味炒め風味麺の炒め風味の劣化を抑制し長期保存に適している。