【実施例】
【0043】
[例1〜13]
例1〜13は、
図4にしたがって、GOナノシートにアミノフェロセンからなるクラスタが分散した機能性ナノシートを製造した。詳細には、カルボキシル基または活性エステル基を有する酸化物またはその誘導体からなるナノシートとしてカルボキシル基を有する酸化グラフェンナノシート(GO)と、アミノ基を有する有機金属錯体としてアミノフェロセン(AFc)とを用い、非プロトン性極性溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を含有する分散媒に分散させ、表1に示す反応時間、マグネチックスターラにより攪拌した。
【0044】
カルボキシル基を有するGOナノシートは、改良Hummers法により得た。GOナノシートがカルボキシル基を有することをX線光電子分光法(XPS)によって確認し、GOナノシートの厚さが0.5nm〜10nmの範囲内であることを原子間力顕微鏡(AFM)によって確認した。粉末状のアミノフェロセンおよびDMFは、それぞれ、東京化成工業株式会社およびナカライテスク株式会社より入手した。
【0045】
GOナノシートを純水に分散させたGOナノシート分散液(濃度:4mg/mL)を調整した。このGOナノシート分散液(濃度4mg/mL)1mLをDMF溶液50mLに添加し、マグネチックスターラで攪拌した。次いで、アミノフェロセン20mgとカップリング試薬としてC
8H
17N
7・HClおよびC
6H
5N
3O・H
2Oの組み合わせ(C
8H
17N
7・HCl:C
6H
5N
3O・H
2O=2:1モル比)とを添加し、室温(25℃)にて表1に示す反応時間、攪拌した。なお、GOナノシートとアミノフェロセン(GOナノシート/アミノフェロセン)とは、質量比で1/5(GOナノシート:アミノフェロセン=1:5)となるように混合された。
【0046】
所定時間攪拌後、反応溶液を遠心分離機で生成物と分散媒とに分離し、生成物をDMFに再度分散させて、容器を強く数回揺さぶり、GOナノシートの表面に弱く吸着した分子を取り除いた。この作業を3回繰り返し、最後に純水で2回洗浄し、例1〜13の試料を得た。
【0047】
例1〜13の試料について、エネルギー分散型X線分光装置(EDS)を備えた透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL製、JEM−2100F)により観察し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアにより粒径頻度分布、クラスタ間平均距離、クラスタの厚さを求めた。結果を
図5、
図8、
図9および表2に示す。
【0048】
例1〜13の試料について、未反応のアミノフェロセンの濃度を誘導結合プラズマ発光分光(ICP)分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社、Agilent 720−ES型)を用いて、残留溶液中の未反応のFe濃度の測定より求め、アミノフェロセンの吸着量の時間依存性を調べた。結果を
図10に示す。例1〜13の試料について、試料の表面をEDSにより分析した。結果を
図11に示す。例1〜13の試料について、粉末X線回折(XRD、RIGAKU、Rint2000,UltimaIII)を行った。結果を
図12に示す。例1〜13の試料について、C1sスペクトルおよびFe2pスペクトルをX線光電子分光(XPS)装置(Thermo Fisher Scientific, Theta Probe)により求めた。結果を
図13および
図14に示す。
【0049】
例1〜13の試料について、極低温下(2K)における磁気特性を、超伝導量子干渉計(QUANTUM DESIGN、MPMS−1T)を用いて行った。結果を
図16〜
図19に示す。例1〜13の試料について、重金属イオンの吸着能を調べた。重金属イオンとして鉛(Pb)イオンを含有する水溶液中に例1〜13の試料を分散させ、ICPおよびEDSにより評価した。結果を
図20に示す。
【0050】
[例14〜25]
例14〜25は、
図4にしたがって、GOナノシートにアミノフェロセンからなるクラスタが分散した機能性ナノシートを製造した。ペプチド結合のカップリング試薬を用いない以外は、例1〜13と同様の手順で、表1の反応時間にしたがって、試料を得た。
【0051】
例14〜25の試料について、例1〜13の試料と同様に、TEM観察、粒径頻度分布、クラスタ間平均距離、クラスタの厚さ、未反応のアミノフェロセンの濃度、試料の表面分析、XRD、XPSスペクトル、磁気特性および吸着実験を行った。結果を
図6および
図10に示す。
【0052】
[例26]
例26は、
図4にしたがって、GOナノシートに(ヒドラジノカルボニル)フェロセンからなるクラスタが分散した機能性ナノシートを製造した。アミノフェロセンに代えて、(ヒドラジノカルボニル)フェロセンを用いた以外は、例1〜13と同様の手順で、表1の反応時間にしたがって、試料を得た。
【0053】
例26の試料について、例1〜13の試料と同様に、TEM観察、粒径頻度分布、クラスタ間平均距離、クラスタの厚さ、未反応のアミノフェロセンの濃度、試料の表面分析、XRD、XPSスペクトル、磁気特性および吸着実験を行った。結果を
図7に示す。
【0054】
[例27]
例27は、例3で得た試料をDMFに分散させ、アミノフェロセン20mgのみ添加し、表1の反応時間、マグネチックスターラにより攪拌した。各反応時間におけるアミノフェロセンの吸着量をICPにより測定した。結果を
図15に示す。
【0055】
以上の実験条件を表1に示し、結果をまとめて説明する。
図4は、例1〜例27における反応の様子を模式的に示す図である。
【0056】
図4には、少なくともカルボキシル基を有するGOナノシートとアミノフェロセンとが反応し、GOナノシートとアミノフェロセンとがペプチド結合を形成している様子、ならびに、少なくともカルボキシル基を有するGOナノシートと(ヒドラジノカルボニル)フェロセンとが反応し、GOナノシートと(ヒドラジノカルボニル)フェロセンとがペプチド結合を形成している様子を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
図5は、例2、例10および例11の試料のTEM像と粒径頻度分布とを示す図である。
図6は、例25の試料のTEM像と粒径頻度分布とを示す図である。
図7は、例26の試料のTEM像を示す図である。
【0059】
図5のTEM像によれば、コントラストが明るく示される略円形のクラスタが均一に分布していることが示される。一方、
図6(a)および
図7のTEM像によれば、コントラストが暗く示される略円形のクラスタが均一に分布していることが示される。特に、
図5(a)〜(c)を参照すれば、この略円形のクラスタは、反応時間が長くなるについて、密となり、クラスタ間の距離が小さくなることが分かった。図示しないが、他の例の試料についても、同様に均一に分布したクラスタが確認された。
【0060】
図5および
図6(b)の粒径頻度分布によれば、クラスタは、反応時間に関わらず、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有することが分かった。さらに驚くべきことに、クラスタは、カップリング試薬を用いることにより、粒径頻度分布において、1.5nm以上2.5nm以下の範囲、詳細には、1.9nm以上2.1nm以下の範囲に平均粒径のピークを有することが分かった。
【0061】
【表2】
【0062】
図8は、表2に基づく例3、例9〜例11の試料のクラスタ間平均距離およびクラスタの平均粒径と反応時間との関係を示す図である。
【0063】
図8によれば、カップリング剤を用いた場合には、反応時間に関わらず、クラスタの平均粒径は1.9nm以上2.1nm以下の範囲であることが示された。さらに、反応時間の増大に伴い、クラスタ間平均距離が短くなり、クラスタが密に分布することが分かった。
【0064】
図9は、表2に基づく例1、例4、例6、例9〜例11の試料の面密度と反応時間との関係を示す図である。
【0065】
図9によれば、反応時間の増大に伴い、面密度が増大することが確認された。また、表2を参照すれば、クラスタ間平均距離<d>は、3nm以上30nm以下の範囲の間隔を有して離間していた。クラスタの厚さは、1nm以上3nm以下の範囲を有することが分かった。図示しないが、他の試料についても同様のクラスタのサイズを有した。
【0066】
図10は、GOナノシートに吸着したアミノフェロセンの量と反応時間との関係を示す図である。
【0067】
図10には、例1〜例13の試料によるカップリング試薬を用いた場合と、例14〜例25の試料によるカップリング試薬を用いなかった場合とを比較して示す。
図10によれば、カップリング試薬を用いることにより、反応が促進され、アミノフェロセンの吸着量が増大することが示された。
【0068】
図11は、例11の試料のTEM像とEDSスペクトルとを示す図である。
【0069】
図11(b)は、
図11(a)の白丸で示す領域のEDSスペクトルであり、
図11(c)は、
図11(a)の白丸で示す領域のEDSスペクトルである。
図11(b)によれば、アミノフェロセンに基づくFeのピークは見られなかった。一方、
図11(c)によれば、アミノフェロセンに基づくFeのピークが明瞭に見られた。このことから、TEM像で観察された複数のクラスタは、アミノフェロセンからなることが示された。図示しないが、他の例も同様のEDSスペクトルを示した。
【0070】
図12は、例11の試料のXRDパターンを示す図である。
【0071】
図12によれば、例11の試料は、2θが9.5°および12.5°にピークを示した。これらのピークは、アミノフェロセンの積層周期に相当しており、クラスタが結晶であることが示された。図示しないが、他の例も同様のXRDパターンを示した。
【0072】
図13は、例2、例6、例8、例10、例11および例13のC1sのXPSスペクトルを示す図である。
【0073】
図13には、原料に用いたカルボキシル基を有するGOナノシートのC1sのXPSスペクトルを併せて示す。
図13によれば、反応時間が増大するにつれて、カルボキシル基(COOH)、酸素(CO)に対応するピーク強度が低減することが分かった。このことから、GOナノシートのカルボキシル基と、アミノフェロセンのアミノ基とが結合し、ペプチド結合が形成されたことにより、カルボキシル基が低減したことを示唆する。この結果は、例えば、
図9に示す反応時間の増大に伴いクラスタの面密度が増大することに良好に一致する。
【0074】
図14は、例1、例2、例4、例9、例10および例11のFe2pのXPSスペクトルを示す図である。
【0075】
図14には、原料に用いたアミノフェロセンのFe2pのXPSスペクトルを併せて示す。アミノフェロセンにおいて、鉄イオンは2価を有するが、GOナノシートとアミノフェロセンとが反応し、クラスタを形成することにより、クラスタ中の鉄イオンは3価となることが示された。このことは、有機金属錯体がクラスタ化することにより、有機金属錯体からナノシートへの電子移動を可能にすることが示された。鉄イオンが2価の場合、アップとダウンのスピンで対を形成するため、その分子のスピンはゼロとなる。鉄イオンが3価の場合、対を形成できないスピンが存在し、分子はスピンを持つ。
【0076】
以上の結果から、
図2に示す本発明の製造方法を実施することにより、酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、ナノシート上に均一に位置する有機金属錯体からなる複数のクラスタとを備え、複数のクラスタのそれぞれを構成する有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合を介して、ナノシートと結合しており、複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有する、機能性ナノシートが得られることが示された。実験結果からペプチド結合が形成されればよいことは明らかであるため、ナノシートは酸化グラフェンに限定されないことが示唆される。さらに、有機金属錯体もアミノフェロセン、(ヒドラジノカルボニル)フェロセンなど使用できることから制限はない。
【0077】
また、製造方法において、反応時間を調整するだけで、得られるクラスタのクラスタ間距離または面密度を制御できることが示された。また、カップリング剤を使用することにより、反応時間が短縮するだけでなく、より均一な平均粒径を有するクラスタを形成できことが示された。
【0078】
図15は、例27の試料によるGOナノシートに吸着したアミノフェロセンの量と反応時間との関係を示す図である。
【0079】
図15には、
図10の結果を併せて示す。
図15によれば、酸化グラフェンナノシート上にアミノフェロセンからなる複数のクラスタが均一に位置した能性ナノシート(例3の試料)を、再度、非プロトン性極性溶媒中でアミノフェロセンと反応させることにより、ペプチド結合の形成およびアミノフェロセンのクラスタ化が劇的に進行した。このことから、
図2に示す反応させるステップを繰り返すことが有効であることが示された。
【0080】
図16は、例1、例9および例10の試料の磁化曲線を示す図である。
【0081】
図16には、原料に用いたカルボキシル基を有するGOナノシートおよびアミノフェロセンの磁化曲線も併せて示す。アミノフェロセンの磁化はほぼゼロであり、GOナノシートはわずかながら磁化を示したが、欠陥等によるものである。これらは非磁性である。一方、本発明の機能性ナノシートは、磁化の増大が見られ、ヒステリシスを示し、強磁性的挙動を示した。これは、原料中のアミノフェロセンの鉄イオンからGOナノシートへの電解移動が起こり、鉄イオンが2価から3価に変化したためである。
【0082】
さらに、
図16によれば、例9や例10などのクラスタ間の平均距離が小さく、面密度の高い機能性ナノシートにおいてより大きな磁化を示し、高い保磁力および残留磁化を有することが分かった。
【0083】
図17は、例1、例3、例8〜例10および例14の試料の動的帯磁率の実数部(χ’(ω))および虚数部(χ”(ω))と温度との関係を示す図である。
【0084】
図17では、1Oeの磁場を2Hzの駆動周波数で振動させた際の各試料の応答特性を示す。
図17によれば、10K以下の温度においてスピンに相関が表れていることが分かる。特に、クラスタ間の平均距離が8nm以下の機能性ナノシートにおいて帯磁率のピークが表れており、クラスタ間に強いスピン相互作用が働き、クラスタ間のスピンが秩序状態へと相変化することが分かった。
【0085】
これらの結果から、本発明の機能性ナノシートは、3nm以上8nm以下の範囲のクラスタ間距離を有する際にクラスタ間相互作用により、特に、高い機能(ここでは磁気効果)を発現することが示された。
【0086】
図18は、例10の試料の種々の条件における磁化の温度変化および各温度まで500Oeの磁場中冷却した後、磁場をゼロにした後の残留磁化の時間変化を示す図である。
【0087】
図18(a)の破線は、例10の試料を磁場(500Oe)中で30Kから冷却した際の磁化の温度変化を表し、実線は、例10の試料を無磁場中で各温度まで冷却した後に磁場(500Oe)を加えた場合の磁化の温度変化を表し、点線は、例10の試料を磁場(500Oe)中で冷却した後、各温度で磁場をゼロにした直後の磁化の温度変化を表す。
図18(a)によれば、例10の試料はスピングラスと同様の挙動を示し、8K以下において残留磁化が存在することが分かった。
【0088】
図18(b)は、各温度における残留磁化の時間変化を示す。
図18(b)によれば、残留磁化は、時間とともに極めてゆっくりと減衰することが分かった。このことから、本発明の機能性ナノシートは、残留磁化を利用することにより磁気メモリとして機能することが示唆される。
【0089】
図19は、例10の試料のメモリ効果を示す図である。
【0090】
図19(a)の丸1で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3Kで磁場をゼロにして10分保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸1で示す挙動によれば、温度を上昇させると、磁場を変化させた3Kにて磁化が増加し、元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0091】
同様に、
図19(a)の丸2で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3Kで磁場をゼロにして4時間保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸2で示す挙動によれば、丸1で示す挙動と同様に、温度を上昇させると、磁場を変化させた3Kにて磁化が増加し、元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0092】
同様に、
図19(b)の丸3で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3Kで磁場をゼロにして1時間保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸3で示す挙動によれば、温度を上昇させると、磁場を変化させた3Kにて磁化が増加し、元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0093】
これらの結果は、本発明の機能性ナノシートにおけるクラスタ中の分子スピンが、3Kに磁場を変化させた記憶を保持しており、磁気メモリとして機能することを示す。
【0094】
一方、
図19(b)の丸4で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3K、4Kおよび5Kのそれぞれで磁場をゼロにして1時間保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸4で示す挙動によれば、温度を上昇させると、磁場を変化させた3K、4Kおよび5Kのそれぞれにて磁化が段階的に増加し、最終的に元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0095】
この結果は、本発明の機能性ナノシートにおける複数のクラスタのそれぞれの分子スピンが、3K、4Kおよび5Kに磁場を変化させた記憶を保持しており、多重記憶可能な磁気メモリとして機能することを示す。
【0096】
図20は、例3の試料の重金属イオンの吸着能を調べた結果を示す図である。
【0097】
図20(a)は、例3の試料を、鉛イオンを含有する水溶液に分散させ、2時間経過後の機能性ナノシートのTEM像を示す。
図20(a)によれば、コントラストが暗く示される略円形のクラスタが均一に分散している様子が確認された。
図20(c)は、このクラスタにおけるEDSスペクトルを示す。
図20(c)によれば、アミノフェロセンに基づくFeのピークに加えて、Pbのピークが明瞭に見られた。一方、
図20(d)は、クラスタ以外におけるEDSスペクトルを示すが、Pbのピークはほぼ観察されなかった。
【0098】
このことから、本発明の機能性ナノシートは、クラスタに選択的に重金属イオンが吸着するので、重金属イオンの吸着剤として機能し、水質浄化に有利であることが示された。
【0099】
また、
図20(b)は、Pbイオンの吸着量の時間依存性を示すが、本発明の機能性ナノシートは、重金属イオンと接触さえすれば、即座に吸着できることが分かった。このことから、本発明の機能性ナノシートからなる吸着剤をカラム充填剤に用いれば、重金属イオンを含有する水溶液を通水するだけで、重金属イオンを除去できることが示された。