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特開2020-22936機能性ナノシート、その製造方法およびそれを用いた用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-22936(P2020-22936A)
(43)【公開日】2020年2月13日
(54)【発明の名称】機能性ナノシート、その製造方法およびそれを用いた用途
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20200121BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20200121BHJP
   B82Y 25/00 20110101ALI20200121BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20200121BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20200121BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20200121BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20200121BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20200121BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20200121BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20200121BHJP
   C07F 17/02 20060101ALI20200121BHJP
【FI】
   B01J20/22 B
   C01B32/198
   B82Y25/00
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   B01J20/28 Z
   B01J20/30
   H01L27/105 447
   H01L29/82 Z
   C07F17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-148979(P2018-148979)
(22)【出願日】2018年8月8日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 亮
(72)【発明者】
【氏名】コレ プドット
(72)【発明者】
【氏名】青野 正和
【テーマコード(参考)】
4G066
4G146
4H050
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4G066AA04C
4G066AA14D
4G066AA23C
4G066AA24C
4G066AA26C
4G066AA28C
4G066AB05B
4G066AB05D
4G066AB09D
4G066AB10B
4G066AB12B
4G066AB24B
4G066BA03
4G066BA20
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA07
4G066FA03
4G066FA33
4G146AA15
4G146AB07
4G146AD28
4G146AD31
4G146CB17
4G146CB22
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB90
4H050WB11
4H050WB21
4M119AA20
4M119BB20
4M119CC06
4M119DD17
4M119KK14
5F092AA08
5F092AB06
5F092AC30
5F092BD06
5F092BD08
(57)【要約】
【課題】 酸化物またはその誘導体からなるナノシートおよび有機金属錯体を用いた新機能を有する機能性ナノシート、その製造方法、および、その用途を提供すること。
【解決手段】 本発明の機能性ナノシートは、酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、ナノシート上に均一に有機金属錯体からなる複数のクラスタとを備え、複数のクラスタのそれぞれを構成する有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合を介して、ナノシートと結合しており、複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、
前記ナノシート上に均一に位置する有機金属錯体からなる複数のクラスタと
を備え、
前記複数のクラスタのそれぞれを構成する前記有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合を介して、前記ナノシートと結合しており、
前記複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有する、機能性ナノシート。
【請求項2】
前記複数のクラスタは、3nm以上30nm以下の範囲の間隔で離間している、請求項1に記載の機能性ナノシート。
【請求項3】
前記複数のクラスタは、3nm以上11nm以下の範囲の間隔で離間している、請求項2に記載の機能性ナノシート。
【請求項4】
前記酸化物は、金属酸化物(ただし、金属は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、および、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される)、または、酸化グラフェンである、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性ナノシート。
【請求項5】
前記有機金属錯体の金属は、3d遷移元素からなる群から少なくとも1つ選択される元素である、請求項1〜4のいずれかに記載の機能性ナノシート。
【請求項6】
前記有機金属錯体の錯体は、シクロペンタジエニル錯体、ポルフィリン錯体、カルボニル錯体、および、その誘導体からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の機能性ナノシート。
【請求項7】
前記複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1.5nm以上2.5nm以下の範囲に平均粒径のピークを有する、請求項1〜6のいずれかに記載の機能性ナノシート。
【請求項8】
前記複数のクラスタのそれぞれは、1nm以上3nm以下の範囲の厚さを有する、請求項1〜7のいずれかに記載の機能性ナノシート。
【請求項9】
前記複数のクラスタの前記ナノシートに対する面密度は、0.005nm-2以上0.15nm-2以下の範囲である、請求項1〜8のいずれかに記載の機能性ナノシート。
【請求項10】
前記複数のクラスタの前記ナノシートに対する面密度は、0.01nm-2以上0.1nm-2以下の範囲である、請求項9に記載の機能性ナノシート。
【請求項11】
前記クラスタは、結晶である、請求項1〜10のいずれかに記載の機能性ナノシート。
【請求項12】
少なくともカルボキシル基または活性エステル基を有する酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、少なくともアミノ基を有する有機金属錯体とを、少なくとも非プロトン性極性溶媒を含有する分散媒に分散させ、反応させるステップを包含する、請求項1〜11のいずれかに記載の機能性ナノシートの製造方法。
【請求項13】
前記反応させるステップにおいて、ペプチド結合のためのカップリング試薬をさらに分散させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記カップリング試薬は、C8177・HClおよびC653O・H2Oの組み合わせである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応させるステップは、30分以上400時間以下の時間攪拌する、請求項12〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記分散媒は、さらに水を含有する、請求項12〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記非プロトン性極性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、および、炭酸プロピレン(PC)からなる群から選択される、請求項12〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれかに記載の機能性ナノシートを含有する重金属吸着剤。
【請求項19】
少なくとも請求項5に記載の機能性ナノシートを含有する磁気メモリ。
【請求項20】
前記機能性ナノシートにおける前記複数のクラスタのそれぞれは、温度情報を記憶する、請求項19に記載の磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ナノシート、その製造方法およびそれを用いた用途に関し、詳細には、酸化物またはその誘導体からなるナノシートおよび有機金属錯体を用いた機能性ナノシート、その製造方法、および、その用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フェロセンと、酸化グラフェンまたは還元型酸化グラフェンとからなるハイブリッド材料が開発されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、フェロセンと酸化グラフェンとをエタノール中で混合・攪拌することにより、酸化グラフェンの層間にフェロセンが位置し、熱的安定性が向上することを報告する。しかしながら、応用に際して、さらなる機能化が望まれている。
【0003】
一方、グラフェンにペプチド結合を介して元素包摂基を有する造影剤が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、単層又は多層のグラフェンナノシートからなり、シートの端部にアームチェア型端面部を含むシート部と、アームチェア型端面部と1辺のみを共有して結合している末端6員環とを備えたグラフェン構造体と、ペプチド結合(−CO−NH−)を介してシート部及び/又は末端6員環に結合している元素包摂基とを備えた造影剤が開示される。しかしながら、特許文献1では、グラフェンの蛍光発光、ならびに、包摂される元素による放射線放出などが利用されるが、さらなる機能化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−5215号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yongjun Gaoら,Dalton Trans.,2011,40,4542
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、本発明の課題は、酸化物またはその誘導体からなるナノシートおよび有機金属錯体を用いた新機能を有する機能性ナノシート、その製造方法、および、その用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による機能性ナノシートは、酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、前記ナノシート上に均一に位置する有機金属錯体からなる複数のクラスタとを備え、前記複数のクラスタのそれぞれを構成する前記有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合を介して、前記ナノシートと結合しており、前記複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有し、これにより上記課題を解決する。
前記複数のクラスタは、3nm以上30nm以下の範囲の間隔で離間していてもよい。
前記複数のクラスタは、3nm以上11nm以下の範囲の間隔で離間していてもよい。
前記酸化物は、金属酸化物(ただし、金属は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、および、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される)、または、酸化グラフェンであってもよい。
前記有機金属錯体の金属は、3d遷移元素からなる群から少なくとも1つ選択される元素であってもよい。
前記有機金属錯体の錯体は、シクロペンタジエニル錯体、ポルフィリン錯体、カルボニル錯体、および、その誘導体からなる群から選択されてもよい。
前記複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1.5nm以上2.5nm以下の範囲に平均粒径のピークを有してもよい。
前記複数のクラスタのそれぞれは、1nm以上3nm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記複数のクラスタの前記ナノシートに対する面密度は、0.005nm-2以上0.15nm-2以下の範囲であってもよい。
前記複数のクラスタの前記ナノシートに対する面密度は、0.01nm-2以上0.1nm-2以下の範囲であってもよい。
前記クラスタは、結晶であってもよい。
本発明による上述の機能性ナノシートの製造方法は、少なくともカルボキシル基または活性エステル基を有する酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、少なくともアミノ基を有する有機金属錯体とを、少なくとも非プロトン性極性溶媒を含有する分散媒に分散させ、反応させるステップを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記反応させるステップにおいて、ペプチド結合のためのカップリング試薬をさらに分散させてもよい。
前記カップリング試薬は、C8177・HClおよびC653O・H2Oの組み合わせであってもよい。
前記反応させるステップは、30分以上400時間以下の時間攪拌してもよい。
前記分散媒は、さらに水を含有してもよい。
前記非プロトン性極性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、および、炭酸プロピレン(PC)からなる群から選択されてもよい。
本発明の重金属吸着剤は、上述の機能性ナノシートを含有し、これにより上記課題を解決する。
本発明の磁気メモリは、上述の機能性ナノシートであって、有機金属錯体の金属が3d遷移元素からなる群から少なくとも1つ選択される元素である、機能性ナノシートを含有し、これにより上記課題を解決する。
前記機能性ナノシートにおける前記複数のクラスタのそれぞれは、温度情報を記憶してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の機能性ナノシートは、酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、その上に均一に位置する有機金属錯体からなる複数のクラスタとを備える。さらに、複数のクラスタのそれぞれを構成する有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合を介して、ナノシートと結合している。ペプチド結合により有機金属錯体からなるクラスタからナノシートへの電子移動を可能とする。さらに、複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有し、結晶性の良いクラスタを構成することにより、例えば、有機金属錯体がアミノフェロセンやフェロセンの誘導体(例えばヒドラジノカルボニルフェロセン)である場合には、有機金属錯体からナノシートへと電荷が移動して非磁性から強磁性に変化する。さらに複数のクラスタは、ナノシート上に均一に位置し、クラスタ間の距離が短くなるとクラスタ同士が強磁性的に結合してスピンの相関が強められる。このような機能性ナノシートは、クラスタが保磁力および残留磁化を有するため、磁気メモリとして有効である。さらに本発明の機能性ナノシートは、クラスタが重金属イオンを選択的に吸着できるので、吸着剤として機能し得る。
【0009】
本発明の機能性ナノシートの製造方法は、少なくともカルボキシル基または活性エステル基を有する酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、少なくともアミノ基を有する有機金属錯体とを、少なくとも非プロトン性極性溶媒を含有する分散媒に分散させ、反応させるステップを包含する。本発明によれば、単に分散させ、混合するだけで、ペプチド結合が形成し、有機金属錯体からなるクラスタが自己組織的に形成するので、熟練した技術や高価な装置を不要とし、有利である。また、反応時間を制御するだけで、クラスタの面密度を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の機能性ナノシートを模式的に示す図
図2】本発明の機能性ナノシートの製造工程を示すフローチャート
図3】本発明の磁気メモリを模式的に示す図
図4】例1〜例27における反応の様子を模式的に示す図
図5】例2、例10および例11の試料のTEM像と粒径頻度分布とを示す図
図6】例25の試料のTEM像と粒径頻度分布とを示す図
図7】例26の試料のTEM像を示す図
図8】表2に基づく例3、例9〜例11の試料のクラスタ間平均距離およびクラスタの平均粒径と反応時間との関係を示す図
図9】表2に基づく例1、例4、例6、例9〜例11の試料の面密度と反応時間との関係を示す図
図10】GOナノシートに吸着したアミノフェロセンの量と反応時間との関係を示す図
図11】例11の試料のTEM像とEDSスペクトルとを示す図
図12】例11の試料のXRDパターンを示す図
図13】例2、例6、例8、例10、例11および例13のC1sのXPSスペクトルを示す図
図14】例1、例2、例4、例9、例10および例11のFe2pのXPSスペクトルを示す図
図15】例27の試料によるGOナノシートに吸着したアミノフェロセンの量と反応時間との関係を示す図
図16】例1、例9および例10の試料の磁化曲線を示す図
図17】例1、例3、例8〜例10および例14の試料の動的帯磁率の実数部(χ’(ω))および虚数部(χ”(ω))と温度との関係を示す図
図18】例10の試料の種々の条件における磁化の温度変化および各温度まで500Oeの磁場中冷却した後、磁場をゼロにした後の残留磁化の時間変化を示す図
図19】例10の試料の温度によるメモリ効果を示す図
図20】例3の試料の重金属イオンの吸着能を調べた結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
実施の形態1では、本発明の機能性ナノシートおよびその製造方法について説明する。
【0013】
図1は、本発明の機能性ナノシートを模式的に示す図である。
【0014】
本発明の機能性ナノシートは、酸化物またはその誘導体からなるナノシート110と、ナノシート110上に均一に位置する有機金属錯体からなる複数のクラスタ120とを備える。さらに、複数のクラスタのそれぞれを構成する有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合130を介して、ナノシート110と結合している。これにより、クラスタ120は安定化し、ナノシート110から脱離することはない。また、ペプチド結合130により有機金属錯体からなるクラスタ120からナノシート110への電子移動を可能とするため、有機金属錯体分子に含まれる金属イオンのイオン価を変えることができる。
【0015】
さらに、複数のクラスタ120のそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径Rのピークを有する。このようなサイズを有するクラスタ120が均一に位置することにより、クラスタ120に基づく機能を発現できる。なお、本願明細書において、クラスタ120の平均粒径Rは、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等による顕微鏡観察において、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアを用い、無作為に300個以上のクラスタの長径を測定した際の粒径頻度分布におけるピーク値を意図する。好ましくは、複数のクラスタ120のそれぞれは、粒径頻度分布において、1.5nm以上2.5nm以下の範囲に平均粒径Rのピークを有する。クラスタ120の平均粒径Rが揃っているので、クラスタ120に基づく機能をさらに発現できる。なお好ましくは、複数のクラスタ120のそれぞれは、粒径頻度分布において、1.9nm以上2.1nm以下の範囲に平均粒径Rのピークを有する。
【0016】
クラスタ120の厚さは、好ましくは、1nm以上3nm以下の範囲である。これにより、クラスタ120に基づく機能を発現できる。
【0017】
クラスタ120は、ナノシート110上に均一に位置していれば制限はないが、好ましくは、3nm以上30nm以下の範囲の間隔(平均距離とも呼ぶ)<d>で離間している。この範囲であれば、クラスタ120間の相互作用により、クラスタ120に基づく機能を発現できる。クラスタ120は、さらに好ましくは、3nm以上11nm以下の範囲の間隔で離間している。この範囲であれば、クラスタ120は、ナノシート110上に密に位置することにより、クラスタ120に基づく機能をさらに発現できる。クラスタ120は、なおさらに好ましくは、3nm以上8nm以下の範囲の間隔で離間している。
【0018】
クラスタ120のナノシート110に対する面密度は、好ましくは、0.005nm-2以上0.1nm-2以下の範囲である。この範囲であれば、上述のクラスタ120の間隔<d>を満たす。クラスタ120のナノシート110に対する面密度は、さらに好ましくは、0.01nm-2以上0.07nm-2以下の範囲である。この範囲であれば、上述のクラスタ120の間隔を満たし、クラスタ120間の相互作用によりクラスタ120に基づく機能を発現できる。クラスタ120のナノシート110に対する面密度は、なおさらに好ましくは、0.015nm-2以上0.07nm-2以下の範囲である。
【0019】
クラスタ120は、上述したように、有機金属錯体からなるが、好ましくは、有機金属錯体が集合した結晶である。結晶であることにより、クラスタ120内において有機金属錯体から新たな機能を発現できる。
【0020】
クラスタ120を構成する有機金属錯体は、いわゆる、金属(M)に炭素(C)が直接結合したM−C結合を含む任意の錯体であるが、金属Mは、好ましくは、3d遷移元素からなる群から少なくとも1つ選択される元素である。3d遷移元素からなる群とは、周期表の3d遷移元素すべてを意図する。3d遷移元素であれば、クラスタ120の機能として磁気特性を発現できる。3d遷移元素は、例示的には、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される。さらに詳細には、クラスタ120中では、鉄の場合は、ナノシート110への電子移動によって、価数が+2から+3に変化する。
【0021】
クラスタ120を構成する有機金属錯体の錯体は、好ましくは、シクロペンタジエニル錯体、ポルフィリン錯体、カルボニル錯体、および、その誘導体からなる群から選択される。これらの錯体であれば、クラスタ120となった際に機能の発現が期待できる。誘導体とは、例えば、これら錯体のサンドイッチ構造や、末端にアミノ基、カルボキシル基等の修飾基を有するものを意図する。中でも、シクロペンタジエニル錯体およびその誘導体は、合成の観点から好ましい。
【0022】
ナノシート110は、原子レベルの厚さ(例示的には、0.5nm以上10nm以下の厚さ)を有する結晶性のシートであれば特に制限はないが、好ましくは、層状金属酸化物から単層剥離されたナノシートである金属酸化物(ここで、金属は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、および、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される)、または、酸化グラフェンである。これらのナノシートは周知であり、容易に入手できる。
【0023】
なお、酸化物の誘導体とは、上述した金属酸化物ナノシートまたは酸化グラフェンにカルボキシル基、ヒドロキシル基等の修飾基がついたものや、酸化グラフェンが還元処理されたグラフェンを意図する。
【0024】
上述したような構成を有する機能性ナノシート100は、クラスタ120に基づく機能を発現することを述べてきたが、機能についてより具体的に説明する。本願発明者らは、例えば、有機金属錯体の金属が3d遷移元素として鉄(Fe)を有する場合に、クラスタ化されていない有機金属錯体であれば非磁性であるものが、クラスタ化することにより強磁性となることを見出した。これは、有機金属錯体が結晶性のクラスタ120を構成し、なおかつ、ナノシート110上に均一に位置することにより、クラスタ120同士を構成する分子のスピン間に磁気的な相互作用が働くためである。このような機能性ナノシート110は、複数のクラスタ120のそれぞれが保磁力および残留磁化を有するため、磁気メモリとして有効である。このように、有機金属錯体がクラスタ化することによって新たな特性を発現することを、クラスタ120に基づく機能を発現すると称しており、有機金属錯体中の金属の種類によっては磁気特性以外にも強誘電特性、ピエゾ特性等の発現が期待される。
【0025】
さらに本願発明者らは、本発明の機能性ナノシート100は、クラスタ120が重金属イオンを選択的に吸着することを見出した。このため本発明の機能性ナノシート100は、重金属イオン用の吸着剤として機能し、水質浄化に有利である。吸着可能な重金属イオンは、鉛(Pb)、クロム(Cr)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)、セシウム(Ce)等である。
【0026】
図2は、本発明の機能性ナノシートの製造工程を示すフローチャートである。
【0027】
ステップS210:少なくともカルボキシル基または活性エステル基を有する酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、少なくともアミノ基を有する有機金属錯体とを、少なくとも非プロトン性極性溶媒を含有する分散媒に分散させ、反応させる。単に、上述のナノシートと有機金属錯体とを分散媒中で混合するだけで、カルボキシル基または活性エステル基と、アミノ基とが反応し、ナノシートの表面にペプチド結合を形成する。そのようにして形成されたペプチド結合を有する少なくとも1つ有機金属錯体を核として自己組織的に有機金属錯体が集合し、クラスタが形成される。このようにして、図1を参照して説明した本発明の機能性ナノシート100が得られるため、複雑な技術や高価な装置を不要とし、有利である。
【0028】
原料に用いる酸化物またはその誘導体からなるナノシートは、少なくともカルボキシル基または活性エステル基を有する点が異なる以外は、図1を参照して説明したナノシート110と同様であるため説明を省略する。なお、本願明細書において、活性エステル基とは、カップリング試薬などを用いてエステル基の片方の置換基に酸性度の高い電子吸引性基を有し、求核反応に対して活性化されたエステル群を意図し、例示的には、−COORと記載され、Rは、アルキル基、ピリジル基、NHS基や反応性のHOBtエステル等がある。例えば、原料に用いるナノシートが酸化グラフェンナノシートである場合、グラフェンを改良Hummers法により酸化し、単層剥離することによって酸化グラフェンナノシートが得られるが、処理工程においてカルボキシル基等を有することが知られている。なお、カルボキシル基に加えて、ヒドロキシル基やエポキシ基等の修飾基を有していてもよい。その他、市販されている酸化グラフェンを水や有機溶媒中で超音波洗浄することによって、劈開してナノシートの分散液とすることも可能である。
【0029】
原料に用いる有機金属錯体は、少なくともアミノ基を有する点が異なる以外は、図1を参照して説明した有機金属錯体と同様であるため説明を省略する。このようなアミノ基の有機金属錯体への修飾は、触媒反応によって容易に得られる。また、アミノ基を付加した有機金属錯体は市販されており、容易に入手できる。なお、アミノ基は有機金属錯体に直接修飾していてもよいし、官能基を介して修飾していてもよいが、末端にアミノ基を有する。
【0030】
非プロトン性極性溶媒は、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、および、炭酸プロピレン(PC)からなる群から選択される。これらの溶媒であれば、反応を促進させることができる。
【0031】
分散媒は、非プロトン性極性溶媒単独でもよいが、非プロトン極性溶媒に加えて、水を含有してもよい。これにより、例えば、ナノシートがカルボキシル基または活性エステル基を有する酸化グラフェンからなるナノシートである場合、ナノシートを水に分散させた後に、アミノ基を有する有機金属錯体と非プロトン性極性溶媒中で混合できる。酸化グラフェンは水中で良好に分散するため、反応を促進できる。
【0032】
なお、ナノシートと有機金属錯体(ナノシート/有機金属錯体)とは、質量比で1/6以上1以下(ナノシート:有機金属錯体=1:1〜1:6)となるように混合されることがよい。これにより、ナノシートの表面にてペプチド結合を形成し、さらに、クラスタの形成を促進する。
【0033】
反応させるステップにおいて、ペプチド結合のためのカップリング試薬をさらに分散させてもよい。これにより、カルボキシル基または活性エステル基とアミノ基との反応が促進し、ペプチド結合が効率的に形成され、平均粒径Rが均一なクラスタが得られる。なお、カップリング試薬は、ペプチド結合を促進させるものであれば制限はないが、好ましくは、C8177・HClおよびC653O・H2Oの組み合わせである。これにより、反応が促進する。
【0034】
反応させるステップは、分子とシートが衝突して反応が起こる頻度を増加させるために、攪拌することが望ましい。攪拌は手動にて行ってもよいし、マグネチックスターラを用いて機械的に攪拌してもよい。400時間を超えても、それ以上反応が進まず、非効率である。なお、カップリング試薬を用いれば、短い反応時間であってもクラスタは成長している。
【0035】
反応時間が長いほど、クラスタ間の距離<d>が短く、クラスタの面密度の高い機能性ナノシートが得られ、反応時間が短いほど、クラスタ間の距離が長く、クラスタの面密度が低い機能性ナノシートが得られる。所望のクラスタ間距離や面密度を有する機能性ナノシートに応じて、反応時間を調整すればよい。なお、本発明では、驚くべきことに、クラスタの平均粒径Rは、反応時間との依存性はなく、上述の範囲を満たすことが分かっている。
【0036】
反応させるステップに続いて、遠心分離機やろ過機等により生成物と分散媒とに分離し、生成物を洗浄し、乾燥することにより、本発明の機能性ナノシートを粉末で得ることもできる。あるいは、このようにして得られた本発明の機能性ナノシートを、再度、非プロトン性極性溶媒に分散させ、これに少なくともアミノ基を有する有機金属錯体を添加し、反応させてもよい(すなわち、反応させるステップを繰り返してもよい)。これによりさらに反応が促進し、ペプチド結合の形成、ならびに、有機金属錯体のクラスタ化が劇的に進行する。当然ながら、ここで、ペプチド結合のためのカップリング試薬を用いてもよい。
【0037】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の機能性ナノシートを用いた用途について説明する。
図3は、本発明の磁気メモリを模式的に示す図である。
【0038】
本発明の磁気メモリは、少なくとも3d遷移元素を含有する機能性ナノシート100を備える。図3では、簡単のため、ペプチド結合を省略して示す。図3(a)に示すように、本発明の磁気メモリは、各クラスタ120が方向の揃ったスピンを有することができるので、保磁力や残留磁化を持つことができる。このことは、クラスタ120ごとに異なる情報を記録する多重記録の磁気メモリとして機能することを示唆する。
【0039】
図3(b)には、本発明の磁気メモリが異なる温度の情報を保持する様子を模式的に示す。図3(b)において左のクラスタは、温度T1において磁場をゼロにした温度情報が記録されており、中央のクラスタと右のクラスタとは、温度T2において磁場をゼロにした温度情報が記録されている。
【0040】
第三者がこのような磁気メモリから情報を盗み出そうとする場合、磁気メモリを、温度T1を超えて昇温すると、T1を超えた温度の磁化は、T1以下の温度のそれから変化するため、磁化を測定した際に温度T1の情報が漏洩したことが分かる。同様に、磁気メモリを、温度T2を超えて昇温すると、T2を超えた温度の温度の磁化は、T2以下の温度のそれから変化するため、磁化を測定した際に温度T2の情報が漏洩したことが分かる。このように、本発明の磁気メモリは、情報を記憶した温度を超えると、磁化が変化し、情報が消去されるが、情報が漏洩したことが磁化を測定するだけで判別できるので、情報漏洩防止の効果を持つ。本発明の磁気メモリは、冷却装置、磁場測定装置とともに使用され得る。
【0041】
本発明の機能性ナノシート100は、上述したように、クラスタ120が重金属イオンを選択的に吸着するため、吸着剤として機能する。本発明の機能性ナノシート100からなる吸着剤と、重金属イオンを含有する被処理溶液とを混合・攪拌し、遠心分離機やろ過機等により、吸着剤と被処理溶液とを分離すればよい。これにより、被処理溶液中の重金属イオンは、吸着剤中のクラスタに吸着するので、被処理溶液から重金属イオンが除去される。あるいは、本発明の機能性ナノシート100をカラム充填剤として用いてもよく、カラム内に重金属イオンを含有する被処理溶液を通水するだけで、被処理溶液から重金属イオンが除去される。あるいは、本発明の機能性ナノシート100を重ねて濾紙状にして、濾過器の濾紙として重イオンを除去することもできる。
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0043】
[例1〜13]
例1〜13は、図4にしたがって、GOナノシートにアミノフェロセンからなるクラスタが分散した機能性ナノシートを製造した。詳細には、カルボキシル基または活性エステル基を有する酸化物またはその誘導体からなるナノシートとしてカルボキシル基を有する酸化グラフェンナノシート(GO)と、アミノ基を有する有機金属錯体としてアミノフェロセン(AFc)とを用い、非プロトン性極性溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を含有する分散媒に分散させ、表1に示す反応時間、マグネチックスターラにより攪拌した。
【0044】
カルボキシル基を有するGOナノシートは、改良Hummers法により得た。GOナノシートがカルボキシル基を有することをX線光電子分光法(XPS)によって確認し、GOナノシートの厚さが0.5nm〜10nmの範囲内であることを原子間力顕微鏡(AFM)によって確認した。粉末状のアミノフェロセンおよびDMFは、それぞれ、東京化成工業株式会社およびナカライテスク株式会社より入手した。
【0045】
GOナノシートを純水に分散させたGOナノシート分散液(濃度:4mg/mL)を調整した。このGOナノシート分散液(濃度4mg/mL)1mLをDMF溶液50mLに添加し、マグネチックスターラで攪拌した。次いで、アミノフェロセン20mgとカップリング試薬としてC8177・HClおよびC653O・H2Oの組み合わせ(C8177・HCl:C653O・H2O=2:1モル比)とを添加し、室温(25℃)にて表1に示す反応時間、攪拌した。なお、GOナノシートとアミノフェロセン(GOナノシート/アミノフェロセン)とは、質量比で1/5(GOナノシート:アミノフェロセン=1:5)となるように混合された。
【0046】
所定時間攪拌後、反応溶液を遠心分離機で生成物と分散媒とに分離し、生成物をDMFに再度分散させて、容器を強く数回揺さぶり、GOナノシートの表面に弱く吸着した分子を取り除いた。この作業を3回繰り返し、最後に純水で2回洗浄し、例1〜13の試料を得た。
【0047】
例1〜13の試料について、エネルギー分散型X線分光装置(EDS)を備えた透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL製、JEM−2100F)により観察し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアにより粒径頻度分布、クラスタ間平均距離、クラスタの厚さを求めた。結果を図5図8図9および表2に示す。
【0048】
例1〜13の試料について、未反応のアミノフェロセンの濃度を誘導結合プラズマ発光分光(ICP)分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社、Agilent 720−ES型)を用いて、残留溶液中の未反応のFe濃度の測定より求め、アミノフェロセンの吸着量の時間依存性を調べた。結果を図10に示す。例1〜13の試料について、試料の表面をEDSにより分析した。結果を図11に示す。例1〜13の試料について、粉末X線回折(XRD、RIGAKU、Rint2000,UltimaIII)を行った。結果を図12に示す。例1〜13の試料について、C1sスペクトルおよびFe2pスペクトルをX線光電子分光(XPS)装置(Thermo Fisher Scientific, Theta Probe)により求めた。結果を図13および図14に示す。
【0049】
例1〜13の試料について、極低温下(2K)における磁気特性を、超伝導量子干渉計(QUANTUM DESIGN、MPMS−1T)を用いて行った。結果を図16図19に示す。例1〜13の試料について、重金属イオンの吸着能を調べた。重金属イオンとして鉛(Pb)イオンを含有する水溶液中に例1〜13の試料を分散させ、ICPおよびEDSにより評価した。結果を図20に示す。
【0050】
[例14〜25]
例14〜25は、図4にしたがって、GOナノシートにアミノフェロセンからなるクラスタが分散した機能性ナノシートを製造した。ペプチド結合のカップリング試薬を用いない以外は、例1〜13と同様の手順で、表1の反応時間にしたがって、試料を得た。
【0051】
例14〜25の試料について、例1〜13の試料と同様に、TEM観察、粒径頻度分布、クラスタ間平均距離、クラスタの厚さ、未反応のアミノフェロセンの濃度、試料の表面分析、XRD、XPSスペクトル、磁気特性および吸着実験を行った。結果を図6および図10に示す。
【0052】
[例26]
例26は、図4にしたがって、GOナノシートに(ヒドラジノカルボニル)フェロセンからなるクラスタが分散した機能性ナノシートを製造した。アミノフェロセンに代えて、(ヒドラジノカルボニル)フェロセンを用いた以外は、例1〜13と同様の手順で、表1の反応時間にしたがって、試料を得た。
【0053】
例26の試料について、例1〜13の試料と同様に、TEM観察、粒径頻度分布、クラスタ間平均距離、クラスタの厚さ、未反応のアミノフェロセンの濃度、試料の表面分析、XRD、XPSスペクトル、磁気特性および吸着実験を行った。結果を図7に示す。
【0054】
[例27]
例27は、例3で得た試料をDMFに分散させ、アミノフェロセン20mgのみ添加し、表1の反応時間、マグネチックスターラにより攪拌した。各反応時間におけるアミノフェロセンの吸着量をICPにより測定した。結果を図15に示す。
【0055】
以上の実験条件を表1に示し、結果をまとめて説明する。
図4は、例1〜例27における反応の様子を模式的に示す図である。
【0056】
図4には、少なくともカルボキシル基を有するGOナノシートとアミノフェロセンとが反応し、GOナノシートとアミノフェロセンとがペプチド結合を形成している様子、ならびに、少なくともカルボキシル基を有するGOナノシートと(ヒドラジノカルボニル)フェロセンとが反応し、GOナノシートと(ヒドラジノカルボニル)フェロセンとがペプチド結合を形成している様子を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
図5は、例2、例10および例11の試料のTEM像と粒径頻度分布とを示す図である。
図6は、例25の試料のTEM像と粒径頻度分布とを示す図である。
図7は、例26の試料のTEM像を示す図である。
【0059】
図5のTEM像によれば、コントラストが明るく示される略円形のクラスタが均一に分布していることが示される。一方、図6(a)および図7のTEM像によれば、コントラストが暗く示される略円形のクラスタが均一に分布していることが示される。特に、図5(a)〜(c)を参照すれば、この略円形のクラスタは、反応時間が長くなるについて、密となり、クラスタ間の距離が小さくなることが分かった。図示しないが、他の例の試料についても、同様に均一に分布したクラスタが確認された。
【0060】
図5および図6(b)の粒径頻度分布によれば、クラスタは、反応時間に関わらず、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有することが分かった。さらに驚くべきことに、クラスタは、カップリング試薬を用いることにより、粒径頻度分布において、1.5nm以上2.5nm以下の範囲、詳細には、1.9nm以上2.1nm以下の範囲に平均粒径のピークを有することが分かった。
【0061】
【表2】
【0062】
図8は、表2に基づく例3、例9〜例11の試料のクラスタ間平均距離およびクラスタの平均粒径と反応時間との関係を示す図である。
【0063】
図8によれば、カップリング剤を用いた場合には、反応時間に関わらず、クラスタの平均粒径は1.9nm以上2.1nm以下の範囲であることが示された。さらに、反応時間の増大に伴い、クラスタ間平均距離が短くなり、クラスタが密に分布することが分かった。
【0064】
図9は、表2に基づく例1、例4、例6、例9〜例11の試料の面密度と反応時間との関係を示す図である。
【0065】
図9によれば、反応時間の増大に伴い、面密度が増大することが確認された。また、表2を参照すれば、クラスタ間平均距離<d>は、3nm以上30nm以下の範囲の間隔を有して離間していた。クラスタの厚さは、1nm以上3nm以下の範囲を有することが分かった。図示しないが、他の試料についても同様のクラスタのサイズを有した。
【0066】
図10は、GOナノシートに吸着したアミノフェロセンの量と反応時間との関係を示す図である。
【0067】
図10には、例1〜例13の試料によるカップリング試薬を用いた場合と、例14〜例25の試料によるカップリング試薬を用いなかった場合とを比較して示す。図10によれば、カップリング試薬を用いることにより、反応が促進され、アミノフェロセンの吸着量が増大することが示された。
【0068】
図11は、例11の試料のTEM像とEDSスペクトルとを示す図である。
【0069】
図11(b)は、図11(a)の白丸で示す領域のEDSスペクトルであり、図11(c)は、図11(a)の白丸で示す領域のEDSスペクトルである。図11(b)によれば、アミノフェロセンに基づくFeのピークは見られなかった。一方、図11(c)によれば、アミノフェロセンに基づくFeのピークが明瞭に見られた。このことから、TEM像で観察された複数のクラスタは、アミノフェロセンからなることが示された。図示しないが、他の例も同様のEDSスペクトルを示した。
【0070】
図12は、例11の試料のXRDパターンを示す図である。
【0071】
図12によれば、例11の試料は、2θが9.5°および12.5°にピークを示した。これらのピークは、アミノフェロセンの積層周期に相当しており、クラスタが結晶であることが示された。図示しないが、他の例も同様のXRDパターンを示した。
【0072】
図13は、例2、例6、例8、例10、例11および例13のC1sのXPSスペクトルを示す図である。
【0073】
図13には、原料に用いたカルボキシル基を有するGOナノシートのC1sのXPSスペクトルを併せて示す。図13によれば、反応時間が増大するにつれて、カルボキシル基(COOH)、酸素(CO)に対応するピーク強度が低減することが分かった。このことから、GOナノシートのカルボキシル基と、アミノフェロセンのアミノ基とが結合し、ペプチド結合が形成されたことにより、カルボキシル基が低減したことを示唆する。この結果は、例えば、図9に示す反応時間の増大に伴いクラスタの面密度が増大することに良好に一致する。
【0074】
図14は、例1、例2、例4、例9、例10および例11のFe2pのXPSスペクトルを示す図である。
【0075】
図14には、原料に用いたアミノフェロセンのFe2pのXPSスペクトルを併せて示す。アミノフェロセンにおいて、鉄イオンは2価を有するが、GOナノシートとアミノフェロセンとが反応し、クラスタを形成することにより、クラスタ中の鉄イオンは3価となることが示された。このことは、有機金属錯体がクラスタ化することにより、有機金属錯体からナノシートへの電子移動を可能にすることが示された。鉄イオンが2価の場合、アップとダウンのスピンで対を形成するため、その分子のスピンはゼロとなる。鉄イオンが3価の場合、対を形成できないスピンが存在し、分子はスピンを持つ。
【0076】
以上の結果から、図2に示す本発明の製造方法を実施することにより、酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、ナノシート上に均一に位置する有機金属錯体からなる複数のクラスタとを備え、複数のクラスタのそれぞれを構成する有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合を介して、ナノシートと結合しており、複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有する、機能性ナノシートが得られることが示された。実験結果からペプチド結合が形成されればよいことは明らかであるため、ナノシートは酸化グラフェンに限定されないことが示唆される。さらに、有機金属錯体もアミノフェロセン、(ヒドラジノカルボニル)フェロセンなど使用できることから制限はない。
【0077】
また、製造方法において、反応時間を調整するだけで、得られるクラスタのクラスタ間距離または面密度を制御できることが示された。また、カップリング剤を使用することにより、反応時間が短縮するだけでなく、より均一な平均粒径を有するクラスタを形成できことが示された。
【0078】
図15は、例27の試料によるGOナノシートに吸着したアミノフェロセンの量と反応時間との関係を示す図である。
【0079】
図15には、図10の結果を併せて示す。図15によれば、酸化グラフェンナノシート上にアミノフェロセンからなる複数のクラスタが均一に位置した能性ナノシート(例3の試料)を、再度、非プロトン性極性溶媒中でアミノフェロセンと反応させることにより、ペプチド結合の形成およびアミノフェロセンのクラスタ化が劇的に進行した。このことから、図2に示す反応させるステップを繰り返すことが有効であることが示された。
【0080】
図16は、例1、例9および例10の試料の磁化曲線を示す図である。
【0081】
図16には、原料に用いたカルボキシル基を有するGOナノシートおよびアミノフェロセンの磁化曲線も併せて示す。アミノフェロセンの磁化はほぼゼロであり、GOナノシートはわずかながら磁化を示したが、欠陥等によるものである。これらは非磁性である。一方、本発明の機能性ナノシートは、磁化の増大が見られ、ヒステリシスを示し、強磁性的挙動を示した。これは、原料中のアミノフェロセンの鉄イオンからGOナノシートへの電解移動が起こり、鉄イオンが2価から3価に変化したためである。
【0082】
さらに、図16によれば、例9や例10などのクラスタ間の平均距離が小さく、面密度の高い機能性ナノシートにおいてより大きな磁化を示し、高い保磁力および残留磁化を有することが分かった。
【0083】
図17は、例1、例3、例8〜例10および例14の試料の動的帯磁率の実数部(χ’(ω))および虚数部(χ”(ω))と温度との関係を示す図である。
【0084】
図17では、1Oeの磁場を2Hzの駆動周波数で振動させた際の各試料の応答特性を示す。図17によれば、10K以下の温度においてスピンに相関が表れていることが分かる。特に、クラスタ間の平均距離が8nm以下の機能性ナノシートにおいて帯磁率のピークが表れており、クラスタ間に強いスピン相互作用が働き、クラスタ間のスピンが秩序状態へと相変化することが分かった。
【0085】
これらの結果から、本発明の機能性ナノシートは、3nm以上8nm以下の範囲のクラスタ間距離を有する際にクラスタ間相互作用により、特に、高い機能(ここでは磁気効果)を発現することが示された。
【0086】
図18は、例10の試料の種々の条件における磁化の温度変化および各温度まで500Oeの磁場中冷却した後、磁場をゼロにした後の残留磁化の時間変化を示す図である。
【0087】
図18(a)の破線は、例10の試料を磁場(500Oe)中で30Kから冷却した際の磁化の温度変化を表し、実線は、例10の試料を無磁場中で各温度まで冷却した後に磁場(500Oe)を加えた場合の磁化の温度変化を表し、点線は、例10の試料を磁場(500Oe)中で冷却した後、各温度で磁場をゼロにした直後の磁化の温度変化を表す。図18(a)によれば、例10の試料はスピングラスと同様の挙動を示し、8K以下において残留磁化が存在することが分かった。
【0088】
図18(b)は、各温度における残留磁化の時間変化を示す。図18(b)によれば、残留磁化は、時間とともに極めてゆっくりと減衰することが分かった。このことから、本発明の機能性ナノシートは、残留磁化を利用することにより磁気メモリとして機能することが示唆される。
【0089】
図19は、例10の試料のメモリ効果を示す図である。
【0090】
図19(a)の丸1で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3Kで磁場をゼロにして10分保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸1で示す挙動によれば、温度を上昇させると、磁場を変化させた3Kにて磁化が増加し、元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0091】
同様に、図19(a)の丸2で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3Kで磁場をゼロにして4時間保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸2で示す挙動によれば、丸1で示す挙動と同様に、温度を上昇させると、磁場を変化させた3Kにて磁化が増加し、元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0092】
同様に、図19(b)の丸3で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3Kで磁場をゼロにして1時間保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸3で示す挙動によれば、温度を上昇させると、磁場を変化させた3Kにて磁化が増加し、元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0093】
これらの結果は、本発明の機能性ナノシートにおけるクラスタ中の分子スピンが、3Kに磁場を変化させた記憶を保持しており、磁気メモリとして機能することを示す。
【0094】
一方、図19(b)の丸4で示す挙動は、例10の試料に、磁場(20Oe)中冷却の途中の3K、4Kおよび5Kのそれぞれで磁場をゼロにして1時間保持し、再度、磁場(20Oe)を印加し、2Kまで磁場中冷却し、その後、磁場を印加したまま温度を上昇したものを示す。丸4で示す挙動によれば、温度を上昇させると、磁場を変化させた3K、4Kおよび5Kのそれぞれにて磁化が段階的に増加し、最終的に元の磁化曲線に戻ることが分かった。
【0095】
この結果は、本発明の機能性ナノシートにおける複数のクラスタのそれぞれの分子スピンが、3K、4Kおよび5Kに磁場を変化させた記憶を保持しており、多重記憶可能な磁気メモリとして機能することを示す。
【0096】
図20は、例3の試料の重金属イオンの吸着能を調べた結果を示す図である。
【0097】
図20(a)は、例3の試料を、鉛イオンを含有する水溶液に分散させ、2時間経過後の機能性ナノシートのTEM像を示す。図20(a)によれば、コントラストが暗く示される略円形のクラスタが均一に分散している様子が確認された。図20(c)は、このクラスタにおけるEDSスペクトルを示す。図20(c)によれば、アミノフェロセンに基づくFeのピークに加えて、Pbのピークが明瞭に見られた。一方、図20(d)は、クラスタ以外におけるEDSスペクトルを示すが、Pbのピークはほぼ観察されなかった。
【0098】
このことから、本発明の機能性ナノシートは、クラスタに選択的に重金属イオンが吸着するので、重金属イオンの吸着剤として機能し、水質浄化に有利であることが示された。
【0099】
また、図20(b)は、Pbイオンの吸着量の時間依存性を示すが、本発明の機能性ナノシートは、重金属イオンと接触さえすれば、即座に吸着できることが分かった。このことから、本発明の機能性ナノシートからなる吸着剤をカラム充填剤に用いれば、重金属イオンを含有する水溶液を通水するだけで、重金属イオンを除去できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の機能性ナノシートは、クラスタの保磁力および残留磁化を利用した磁気メモリや重金属イオンの吸着剤として利用され得る。
【符号の説明】
【0101】
100 機能性ナノシート
110 ナノシート
120 クラスタ
130 ペプチド結合
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