【解決手段】金属管の外面最外層に、ガラス転移温度(Tg)28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョン、およびアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%含む水性塗料であって、成膜助剤の含有量が1〜5質量%であり、最低造膜温度が25〜45℃である水系塗料を塗布してなる塗膜層を有する金属管用耐食層、ならびにその金属管用耐食層を有する金属管、特に鋳鉄管。
金属管の外面最外層に、ガラス転移温度(Tg)28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョン、およびアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%含む水性塗料であって、成膜助剤の含有量が1〜5質量%であり、最低造膜温度が25〜45℃である水系塗料を塗布してなる塗膜層を有する金属管用耐食層。
(1)(i)金属管を加熱して、内面にエポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する、または(ii)金属管内面にモルタルライニング層を形成し、蒸気養生する工程、
(2)前記金属管の外面に金属系溶射被膜を形成する工程、
(3)(a)前記工程(1)(i)を採用した場合、前記(2)の工程後、金属管を加温し、前記溶射被膜層の外面に、Tg28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョンにアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%添加し、塗料中の成膜助剤の含有量を1〜5質量%とし、最低造膜温度を25〜45℃に調整した水系塗料を塗装して外面塗膜層を形成する、または
(b)前記工程(1)(ii)を採用した場合、前記(2)の工程後、金属管を加温し、前記モルタルライニング層の表面にアクリル樹脂塗料を塗装して内面塗膜層を形成し、その後、その余熱を用いて前記溶射被膜層の外面に、Tg28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョンにアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%添加し、塗料中の成膜助剤の含有量を1〜5質量%とし、最低造膜温度を25〜45℃に調整した水系塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程
を含む金属管の耐食方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に、水系塗料は外気温や被塗物温度により、その乾燥性に大きな影響を受ける。安定した乾燥性を確保するためには、被覆物を予熱する方法が知られており、初期の乾燥性は、溶媒系塗料に比べても迅速で安定しているが、見た目の乾燥が完了していても、塗膜中の溶媒が完全に揮発しているわけではない。充分な乾燥時間(たとえば1日)が確保されず、屋外で降雨に曝されると、溶剤系塗料に比べて親水性のある塗膜であるため、雨水が塗膜中に侵入して塗膜白化やクラックが発生する。また、巨視的には異常がなくても、マイクロクラック等の微視的な欠陥が生じて本来の性能が得られない可能性もある。特許文献3に開示された水系塗料についても、さらに改善の余地がある。
【0007】
また、塗装後の塗膜硬度の発現が遅くなると、管搬送時に傷が入りやすくなる。ここで、水分散型のエマルジョン塗料は、ポリマー粒子が水中に分散しており、均一な膜になるために、粒子同士の癒着が必要である。Tg以上になると粒子変形が大きくなり、粒子間癒着が生じ、連続皮膜が得られる。このため、指触乾燥と硬化乾燥がほぼ同時となるような乾燥性が求められる。これに対し、耐傷付性を向上させるために樹脂のTgを高くする手法があるが、樹脂Tgを高くすると、最低造膜温度(以下、MFTという)が高くなり、塗装温度によっては造膜不良となって本来の塗膜性能が得られなくなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、水系塗料を用い、管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れ、かつ指触乾燥および硬化乾燥のバランスがよい耐水白化性および耐食性に優れた金属管用耐食層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、金属管の最外面層に、ガラス転移温度28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョンにアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%を加え、最低造膜温度が25〜45℃となるように塗料中の成膜助剤の含有量を1〜5質量%に調整した水系塗料を塗布してなる被膜層を用いることにより、管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れ、かつ指触乾燥および硬化乾燥のバランスがよい耐水白化性および耐食性に優れた金属管用耐食層が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]金属管の外面最外層に、ガラス転移温度(Tg)28〜50℃、好ましくは30〜45℃のアクリル樹脂エマルジョン、およびアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%、好ましくは2〜4質量%含む水性塗料であって、成膜助剤の含有量が1〜5質量%、好ましくは1〜3質量%であり、最低造膜温度が25〜45℃、好ましくは25〜40℃、より好ましくは25〜35℃である水系塗料を塗布してなる塗膜層を有する金属管用耐食層、
[2]前記水系塗料が、さらに防錆顔料を1〜5質量%、好ましくは2〜4質量%含有する上記[1]記載の金属管用耐食層、
[3]さらに、金属管の外面かつ前記水系塗料を塗布してなる塗膜層の下層に、金属系溶射被膜層を有する上記[1]または[2]記載の金属管用耐食層、
[4]さらに、前記溶射被膜層に封孔処理がなされている上記[3]記載の金属管用耐食層、
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の耐食層を有する金属管、
[6]金属管が鋳鉄管である上記[5]記載の金属管、
[7]金属管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装してなる塗膜層またはモルタルライニング層を有する上記[5]または[6]記載の金属管、
[8](1)(i)金属管を加熱して、内面にエポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する、または(ii)金属管内面にモルタルライニング層を形成し、蒸気養生する工程、
(2)前記金属管の外面に金属系溶射被膜を形成する工程、
(3)(a)前記工程(1)(i)を採用した場合、前記(2)の工程後、金属管を加温し、前記溶射被膜層の外面に、Tg28〜50℃、好ましくは30〜45℃のアクリル樹脂エマルジョンにアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%、好ましくは2〜4質量%添加し、塗料中の成膜助剤の含有量を1〜5質量%、好ましくは1〜3質量%とし、最低造膜温度を25〜45℃、好ましくは25〜40℃、より好ましくは25〜35℃に調整した水系塗料を塗装して外面塗膜層を形成する、または
(b)前記工程(1)(ii)を採用した場合、前記(2)の工程後、金属管を加温し、前記モルタルライニング層の表面にアクリル樹脂塗料を塗装して内面塗膜層を形成し、その後、その余熱を用いて前記溶射被膜層の外面に、Tg28〜50℃、好ましくは30〜45℃のアクリル樹脂エマルジョンにアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%、好ましくは2〜4質量%添加し、塗料中の成膜助剤の含有量を1〜5質量%、好ましくは1〜3質量%とし、最低造膜温度を25〜45℃、好ましくは25〜40℃、より好ましくは25〜35℃に調整した水系塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程
を含む金属管の耐食方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属管用耐食層によれば、溶剤系塗料の使用を抑えるため環境にやさしく、また管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れ、かつ指触乾燥および硬化乾燥のバランスがよい耐水白化性および耐食性に優れた金属管が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、金属管の外面最外層に、ガラス転移温度(Tg)28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョンおよびアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%含む水性塗料であって、成膜助剤の含有量が1〜5質量%であり、最低造膜温度が25〜45℃の水系塗料を塗布してなる塗膜層を金属管用の耐食層として適用することを特徴とする。具体的には、ガラス転移温度が比較的高いアクリル樹脂を使用することで乾燥性を高め、成膜助剤を所定量組み合わせることで、最低造膜温度を25〜45℃に抑えることができ、これにより指触乾燥および硬化乾燥のバランスがよくなり、高い塗装温度が原因となる造膜不良を抑えることができる。また、塗膜硬度の発現が早くなり、塗装後短時間で降雨に曝された場合でも、白化などの塗膜異常を引き起こすことなく、耐食性に優れた耐食層を金属管に付すことができる。
【0013】
本明細書において、「水系」との用語は、溶剤系と区別するために用いられるものであり、媒体として水性媒体、好ましくは水を用いるものを意味し、構成成分として、成分中有機溶剤がある程度含まれているものが用いられることを排除するものではない。
【0014】
本発明に用いる水系塗料の溶媒としては、水性溶媒、好ましくは水が用いられる。また、界面張力を調整し、金属溶射被膜への濡れ性を良くするなどのためにわずかな量の有機溶剤を配合しても良い。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリル酸」などの用語は、それぞれ「メタクリル」と「アクリル」、「メタクリル酸」と「アクリル酸」の総称である。
【0016】
<水系塗料>
(アクリル樹脂エマルジョン)
本発明に用いるアクリル樹脂エマルジョンは、Tgが28〜50℃のアクリル樹脂が水中に分散している乳濁液であり、必要に応じて界面活性剤などの添加剤が含まれる。アクリル樹脂エマルジョンを構成するアクリル樹脂は、通常、アクリル酸、メタクリル酸およびそのエステルよりなる群から選択される1種以上のアクリル系モノマーを重合させて得られる重合体であるが、1種以上のアクリル系モノマーとアクリル系モノマー以外の1種以上のモノマーとを共重合させて得られる共重合体も含まれる。上記アクリル樹脂としては、特に限定されず、塗料業界において通常使用されているもの単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記アクリル系モノマーのうち、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの具体例としては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられ、また、アクリル系モノマー以外のモノマーの具体例としては、スチレンなどが挙げられる。
【0017】
本発明に用いるアクリル樹脂のTgは上述の通り28〜50℃であるが、30℃以上が好ましい。アクリル樹脂のTgが28℃未満であると、塗膜の硬度が低く、耐傷付き性が低い塗膜となる傾向がある。また、アクリル樹脂のTgは、45℃以下が好ましい。アクリル樹脂のTgが50℃を超えると、水系塗料が突沸しない程度の温度に予熱した管に塗装しても成膜せず、耐水性および耐食性が低くなる傾向がある。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により測定されたものである。
【0018】
アクリル樹脂の合成方法は特に限定されるものではなく、乳化重合などの公知の重合方法を用いることができる。アクリル樹脂エマルジョンの調製方法としては、たとえば単量体、乳化剤、重合開始剤などの混合物(単量体プレミックス)を、予め所定量の水の入った反応容器の中に一括して仕込み、単量体混合物を乳化重合させて、反応が終了した後、反応物を冷却し、中和して目的とする水性アクリルエマルジョンを得る。
【0019】
上記反応で用いる乳化剤は、アクリル樹脂エマルジョンを水に強制的に乳化させるための必須の成分である。その具体例としては、たとえば脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン系重合乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン系重合乳化剤などがあげられる。これらの乳化剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノニオン系およびアニオン系の併用、および陽イオン界面活性剤、両イオン界面活性剤などの使用も可能である。乳化剤の使用量は、乳化重合に供する重合性モノマーの全量100重量部に対して、0.3〜3重量部が好ましい。
【0020】
乳化重合反応で使用する重合開始剤としては、たとえば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水性触媒;tert−ブチルハイドパ−オキサイド、クメンハイドロパ−オキサイドなどの油性触媒があげられる。重合開始剤の使用量は、乳化重合に供する重合性単量体の100重量部に対して、0.1〜0.7重量部が好ましい。
【0021】
また、乳化重合反応では、分子量を調整するために重合時に連鎖移動剤や重合停止剤などの分子量調整剤、重合率調整剤を適宜使用することができる。さらに冷却による反応中断により分子量のコントロールを行っても良い。連鎖移動剤としては、たとえばt−ドデシルメルカプタン、n−トデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンなどのメルカプタン、ターピノーレン、t−テルピネン、α−メチルスチレンダイマー、エチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンスルフィド、アミノフェニルスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、乳化重合に供する重合性単量体の全量100重量部に対して1.0重量部以下が好ましい。
【0022】
また、重合停止剤としては、たとえばハイドロキノン(フェノール)、アミン系硫黄、硫酸ヒドロキシルアミン、アンモニア、苛性ソーダ、苛性カリなどがあげられ、またその他重合停止効果のあるものが使用できる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。その使用量は重合禁止剤の種類および単量体との反応性比により異なる。乳化重合反応においては、前記乳化剤、連鎖移動剤および重合開始剤のほか、必要に応じて各種電解質、pH調製剤などの添加剤を併用しても良い。
【0023】
上述したようなアクリル系樹脂エマルジョンの具体例としては、ボンコートCM−8430や、ボンコートCP−6450(DIC(株)製)、NeoCrylA655(DSM社製)などがあげられる。
【0024】
(アクリル樹脂ディスパージョン)
本発明で用いるアクリル樹脂ディスパージョンは、耐食性に優れた塗膜を形成するために水性塗料に配合される。本発明においてアクリル樹脂ディスパージョンとは、アクリル樹脂骨格に何らかの親水性基を化学的に導入し、樹脂自体が乳化能を有する自己乳化型の分散体であって、必要に応じて中和剤、消泡剤などの添加剤が含まれる。アクリル樹脂ディスパージョンを構成するアクリル樹脂骨格は、通常、上述のアクリル樹脂エマルジョンを構成するアクリル樹脂と同様のものを使用することができる。アクリル樹脂骨格に導入される親水性基を有する成分としては、たとえば、(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、シトラコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等の酸類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル等のアルキル基の炭素数が1〜24の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類が代表的なものとしてあげられるが、特に限定されるものではない。
【0025】
上述したようなアクリル樹脂ディスパージョンの具体例としては、ウォーターゾールS−720(DIC(株)製)、アクロナールYJ−1100D(BASFディスパージョン社製)、バイヒドロールXP2470(バイエル社製)などがあげられる。
【0026】
水系塗料におけるアクリル樹脂ディスパージョンの含有量は、固形分として、1質量%以上であり、2質量%以上が好ましい。アクリル樹脂ディスパージョンの含有量が、固形分として、1質量%未満では、防食性が低下する傾向がある。水系塗料におけるアクリル樹脂ディスパージョンの含有量は、固形分として、5質量%以下であり、4質量%以下が好ましい。アクリル樹脂ディスパージョンの含有量が、固形分として、5質量%を超えると、乾燥が遅くなる傾向がある。
【0027】
水系塗料の最低造膜温度は25〜45℃である。水系塗料に用いるアクリル樹脂エマルジョンが高いTgを有する場合、水系塗料の最低造膜温度を低めに設定するためには、成膜助剤を多く添加する必要があり、所望の性能、たとえば塗膜の乾燥性を低下させない等の点から最低造膜温度の下限は25℃である。また、水系塗料の最低造膜温度は45℃以下であるが、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。水系塗料の最低造膜温度が45℃を超えると、水系塗料が沸かない限界の温度まで予熱した管においても、塗装した塗膜が成膜せず、耐水性および耐食性が低くなる。なお、最低造膜温度は、JIS K 6828−2 合成樹脂エマルジョン 第2部:白化温度及び最低造膜温度の求め方に準じて測定される値である。
【0028】
(成膜助剤)
本発明に使用される成膜助剤は、たとえば、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートなどが挙げられ、高沸点溶剤など、本技術分野において最低成膜温度を下げる目的で使用されているものを特に制限なく使用することができる。
【0029】
水系塗料における成膜助剤の含有量は、1〜5質量%であり、最低造膜温度を所望の範囲、すなわち25〜45℃、好ましくは25〜40℃、より好ましくは25〜35℃に下げることができる量であれば、特に制限されるものではなく、使用するアクリル樹脂の種類に合わせて適宜設定することができる。水系塗料における成膜助剤の含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。成膜助剤の含有量が1質量%未満では、Tgと最低造膜温度を所望の範囲に調整することが困難となる傾向がある。水系塗料における成膜助剤の含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。成膜助剤の含有量が5質量%を超えると、塗膜の乾燥が遅くなる傾向がある。
【0030】
(顔料)
本発明の鉄系金属用耐食層においては、水系塗料に十分な着色性や防錆性などを付与するために、顔料を配合することができる。具体的には、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック(たとえば、商品名 MA100、三菱化学(株)製など)、シアニンブルー、シアニングリーンなどの着色顔料;炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、クレーなどの体質顔料;燐酸亜鉛、燐酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料などが挙げられる。これらは単独で使用しても良く、必要により2種以上を混合して使用しても良い。
【0031】
顔料のうちでも、水系塗料における防錆顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。防錆顔料の含有量が1質量%未満では、塗膜の防食性が低くなる傾向がある。水系塗料における防錆顔料の含有量は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。防錆顔料の含有量が5質量%を超えると、塗膜の耐水性が低くなる傾向がある。
【0032】
<その他の成分>
上記水系塗料には、上記成分のほかに必要に応じて公知の添加剤などを添加することができる。その他の添加剤としては、シリコーンや有機高分子からなる消泡剤;シリコーンや有機高分子からなる表面調整剤;アマイドワックス、有機ベントナイトなどからなる粘性調整剤(タレ止め剤);シリカ、アルミナなどからなる艶消し剤;ポリカルボン酸塩などからなる分散剤;ベンゾフェノンなどからなる紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、フェノール系などの酸化防止剤;ワックスなど、公知の添加剤を挙げることができる。これらは必要により単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
上記水系塗料の製造には塗料製造に慣用されている設備を使用する。製造方法は特に限定されないが、たとえば市販の樹脂成分に顔料、添加剤(顔料分散剤、粘性調整剤等)、溶剤などを添加した後、ロールミル、SGミル、ディスパーなどで分散処理することによって所望の塗料が得られる。
【0034】
上記水系塗料による塗膜層の形成は、特に限定されるものではないが、通常、金属管を加温してから行われる。水系塗料の塗装前の金属管の表面温度は、好ましくは50〜80℃であり、より好ましくは70〜80℃である。50℃未満では塗膜が乾燥しにくい傾向があり、80℃を超えると塗料中の水分が沸く傾向がある。塗装方法としては、特に限定されないが、刷毛塗装、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装などの方法で塗布される。
【0035】
金属管用耐食層の最外層の厚さは、塗装処理される金属の用途により適宜設定されるものであり、特に限定されるものではない。たとえば上下水道に用いられる鋳鉄管の場合、おおよそ10μm〜100μmの範囲で適宜設定することができる。
【0036】
本発明の金属管用耐食層には、金属管の外面かつ上記水系塗料を塗布してなる塗膜層の下層に、金属系溶射被膜層を有することが好ましく、さらに、この金属系溶射被膜に封孔処理がなされていることがより好ましい。
【0037】
<金属系溶射被膜層>
上記耐食層は、良好な防食性を付与するため、金属管の外面かつ上記水系塗料を塗布してなる塗膜層の下層に金属系溶射被膜層が形成されることが好ましい。金属系溶射被膜は、素地金属に合わせて選択される。たとえば、鉄系金属に対する金属系溶射被膜としては、金属系溶射被膜が用いられる。この金属系溶射被膜としては、特に限定されるものではないが、亜鉛溶射被膜、亜鉛−アルミ合金溶射被膜、亜鉛−アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛−ケイ素含有アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛−ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛−スズ合金溶射被膜などが挙げられる。この工程の前に、必要に応じて管外面にブラスト処理、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。なお、亜鉛−アルミニウム擬合金とは、溶射された亜鉛とアルミニウムとが不規則に重なり合い、外見的に亜鉛−アルミニウム合金を形成しているものをいう。
【0038】
溶射被膜の膜厚は、素地金属の種類や、溶射材料の種類、得られる金属部材の用途によって適宜設定することができるが、水道管用の鋳鉄の場合、亜鉛系溶射被膜では、おおよそ20μm〜500μmが好ましく、20μm〜100μmがより好ましい。
【0039】
溶射方法は特に限定されるものではないが、たとえばガス溶射法やアーク溶射法、プラズマ溶射法があげられる。より具体的には、回転しながら管軸方向に移送される鋳鉄管に、固定した溶射ガンにより亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−ケイ素マンガン含有アルミ擬合金を溶射する方法、回転させた鋳鉄管に、溶射ガンを移動させながら亜鉛を溶射する方法があげられる。
【0040】
溶射被膜層の厚さは、日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010−2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」において、亜鉛溶射の場合、防食性の観点から130g/m
2以上にするよう定められており、これは厚さ20μmに相当する。また、厚さは密着性を考慮して300g/m
2以下が好ましく、260g/m
2以下がより好ましい。亜鉛−アルミニウム擬合金、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−ケイ素含有アルミニウム擬合金または亜鉛−ケイ素マンガン含有アルミ擬合金を溶射する場合、防食性の観点から130〜600g/m
2の範囲であればよく、180〜500g/m
2の範囲が好ましく、200〜400g/m
2の範囲がより好ましい。
【0041】
<封孔処理>
本発明の金属管用耐食層においては、上述した金属系溶射被膜層の表面に通常の封孔処理をおこない封孔処理層を設けることが好ましく、これにより金属系溶射被膜層の気孔を封鎖し、防食効果をさらに高めることができる。
【0042】
封孔処理としては、特に限定されるものではなく、一般に本技術分野において使用されているものを用いることができる。たとえば、金属塗装に用いられるアクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルシリコーン樹脂などの樹脂成分に、コロイダルシリカなどの無機化合物、表面調整剤などの添加剤を含む水系処理液による処理が挙げられる。
【0043】
封孔処理剤を素地金属に形成された金属系溶射被膜に塗布する方法としては、特に限定されないが、刷毛塗装、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装などの方法が挙げられる。
【0044】
塗布した封孔処理剤の膜厚は、素地金属の種類や、溶射材料の種類、得られる金属部材の用途によって適宜設定することができるが、たとえば、おおよそ5〜30μmが好ましい。特に水道管用の鋳鉄の場合、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μmである。5μmより薄いと、長期間にわたる封孔効果が十分でない可能性があり、30μmより厚いと乾燥不良となる可能性がある。
【0045】
<金属管>
本発明の金属管用耐食層が設けられる金属管は、金属製のものであれば特に限定されないが、たとえば鋳鉄管、鋼管などの金属管が挙げられる。
【0046】
本発明の金属管用耐食層を有する金属管、とりわけ鋳鉄管は、管の搬送や接合時に塗膜の傷が入りにくい耐傷付性に優れ、かつ指触乾燥および硬化乾燥のバランスがよい耐水白化性および耐食性に優れたものであり、さらに溶剤系の塗料を用いていないため、溶剤臭がほとんどなく、環境負荷が小さい。また、最外面層に用いる塗料は乾燥が早く、さらに最低造膜温度を抑えているため、造膜不良の原因となる高い塗装温度を必要とせず、品質の安定した耐食層を有する金属管を得ることができる。
【0047】
<金属管の耐食方法>
本発明の別の一実施態様としては、(1)(i)金属管を加熱して、内面にエポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する、または(ii)金属管内面にモルタルライニング層を形成し、蒸気養生する工程、
(2)前記金属管の外面に金属系溶射被膜を形成する工程、
(3)(a)前記工程(1)(i)を採用した場合、前記(2)の工程後、金属管を加温し、前記溶射被膜層の外面に、Tg28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョンにアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%添加し、塗料中の成膜助剤の含有量を1〜5質量%とし、最低造膜温度を25〜45℃に調整した水系塗料を塗装して外面塗膜層を形成する、または
(b)前記工程(1)(ii)を採用した場合、前記(2)の工程後、金属管を加温し、前記モルタルライニング層の表面にアクリル樹脂塗料を塗装して内面塗膜層を形成し、その後、その余熱を用いて前記溶射被膜層の外面に、Tg28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョンにアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%添加し、塗料中の成膜助剤の含有量を1〜5質量%とし、最低造膜温度を25〜45℃に調整した水系塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程
を含む金属管の耐食方法が提供される。
【0048】
(エポキシ樹脂粉体塗料による内面塗膜層の形成)
金属管内面に防食性を付与するため、金属管を加熱し、金属管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。
【0049】
金属管は、塗装されるエポキシ樹脂粉体塗料を溶融し、硬化させるために塗装前に加熱される。加熱方法は特に限定されるものではないが、たとえばガス炉や電気炉などの加熱炉を用いて行われる。金属管の加熱温度は、使用するエポキシ樹脂粉体塗料の種類や硬化時間などによって任意に決定されるものであるため特に限定されるものではないが、樹脂を溶融させ、樹脂と硬化剤とを架橋反応させるため、金属管の表面温度は好ましくは150℃以上であり、より好ましくは170〜270℃である。
【0050】
管内面に塗装されるエポキシ樹脂粉体塗料は、常温で固形のエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂用の硬化剤、さらに必要に応じて各種顔料、添加剤などを含有する。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂などがあげられる。また、エポキシ樹脂の軟化点は特に限定されるものではないが、好ましくは60〜150℃であり、エポキシ当量も特に限定されるものではないが、好ましくは400〜3000である。軟化点が60℃未満またはエポキシ当量が400未満では、粉体塗料が貯蔵中に固まる傾向があり、軟化点が150℃を超え、またはエポキシ当量が3000を超えると、溶融粘度が高くなるため、塗面が平滑になりにくい傾向があり、ピンホールなどが生じやすい傾向がある。
【0051】
粉体塗料用のエポキシ樹脂に用いる硬化剤は、通常使用される硬化剤であれば特に限定されるものではないが、たとえばイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ジシアンジアミド、酸無水物、ポリカルボン酸ヒドラジドおよびその誘導体、フェノール樹脂およびその誘導体などがあげられる。なかでも、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物またはポリカルボン酸ヒドラジドおよびその誘導体を単独または併用して用いることが塗膜の防食性、可撓性、密着性および強度が著しく良好となる点から好ましい。
【0052】
エポキシ樹脂粉体塗料には、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルクなどの各種顔料や、充填剤、分散剤、表面調整剤などの各種添加剤を必要に応じて配合することができる。顔料および充填剤の添加量は、塗膜を厚膜化できるという理由から、塗料中に好ましくは20〜50重量%、より好ましくは30〜45重量%である。エポキシ樹脂粉体塗料の製造方法は特に限定されず、たとえばドライブレンド法や熱溶融錬合法により製造することができる。
【0053】
エポキシ樹脂粉体塗料の塗装方法は特に限定されるものではなく、たとえばスプレー塗装などにより塗装することができる。より具体的には、金属管内面にスプレーノズルを挿入し、管軸方向に移動させながら、金属管を回転させてスプレー塗装する方法や、金属管を回転させ、管内部に粉体塗料を気体とともに過剰送入し、管内面に融着させ、余剰の粉体塗料を除去する方法などによって粉体塗料を塗装する。エポキシ樹脂粉体塗料を塗装することによって形成される内面塗膜層の厚さは、好ましくは300μm、より好ましくは350〜500μmである。厚さが300μm未満では管内面の防食性が低下する傾向がある。
【0054】
(モルタルライニング層の形成)
金属管内面に防食性を付与するため、上記エポキシ樹脂粉体塗料による内面塗膜層を形成する代わりに金属管内面にモルタルライニング層を形成することもできる。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。モルタルライニング層の形成は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。たとえば珪砂などの骨材を含むセメント材料を、内面ライニング装置を管軸方向に移動させながら、管内面にモルタルライニングを形成し、蒸気養生する方法があげられる。モルタルライニング層の厚さはJWWA A 113「水道用ダクタイル鋳鉄管モルタルライニング」において口径ごとに規定されている。
【0055】
(金属系溶射被膜の形成)
金属系溶射被膜の形成については、金属管用耐食層について説明した内容が適用される。
【0056】
(外面塗膜層の形成)
(i)内面塗装がエポキシ樹脂粉体塗料による場合
内面塗膜層を形成した後、金属管を加温し、金属管の外面の溶射被膜層の表面に、水系塗料を塗装して最外面塗膜層を形成する。水系塗料、その塗装方法、塗装時の金属管の表面温度、および得られる塗膜の膜厚については、上述の金属管用耐食層について説明した内容が適用される。
【0057】
水系塗料を塗装することによって形成される外面塗膜層の厚さは、日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010−2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」において、所定の耐腐食性と耐久性を得るために溶射被膜層との合計を100μm以上としなければならないことが定められている。したがって、外面塗膜層の厚さはこの基準を満たすものであれば特に限定されず、たとえば溶射被膜層の厚さが20μmの場合、外面塗膜層の厚さは80μm以上であり、防食性と付着性を考慮して好ましくは100μm〜200μmである。
【0058】
(ii)管内面にモルタルライニング層を形成した場合
蒸気養生した後、金属管を加温し、モルタルライニング層の表面にシールコートと呼ばれるアクリル系重合体を塗装して内面塗膜層を形成する。この塗装はモルタルライニングを保護し、pH上昇を抑制するなどの目的で行われるものである。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。
【0059】
塗装されるシールコートを硬化し、乾燥させるために、塗装前に金属管を加温する。加温方法は特に限定されるものではないが、たとえば金属管を温水浸漬することがあげられる。金属管の加温温度は50〜80℃であり、より好ましくは70〜80℃である。50℃未満では塗膜の乾燥に時間がかかり、また、後述する外面塗膜層を形成するための温度が不足する傾向があり、80℃を超えると仕上がりが悪くなる。
【0060】
シールコートには、JWWA A 113 附属書Aに規定される材料が用いられ、シールコートの塗装方法はJWWA A 113 6.5に規定される方法が用いられる。
【0061】
次に、内面塗膜層を形成した後の余熱を利用して、金属管の外面の溶射被膜層の表面に、上記水系塗料を塗装して最外面塗膜層を形成する。最外面塗膜層の形成は、内面塗膜層を形成するときの余熱を利用して行うため、内面塗膜層を形成した後、連続して行われることが好ましい。内面塗膜層の形成工程と外面塗膜層の形成工程との間隔は特に限定されるものではないが、自然冷却の場合、内面塗膜層の形成工程の後、通常15分以内の間隔、より好ましくは10分以内の間隔で連続して外面塗膜層の形成を行う。このときの金属管の表面温度は好ましくは50〜80℃であり、より好ましくは70〜80℃である。50℃未満では塗膜が乾燥しにくい傾向があり、80℃を超えると塗料中の水分が沸く傾向がある。塗装方法については、上述の金属管用耐食層について説明した内容が適用される。
【0062】
水系塗料を塗装することによって形成される外面塗膜層の厚さは、日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010−2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」において、所定の耐食性と耐久性を得るために溶射被膜層との合計を100μm以上としなければならないことが定められている。したがって、外面塗膜層の厚さはこの基準を満たすものであれば特に限定されず、たとえば溶射被膜層の厚さが20μmの場合、外面塗膜層の厚さは80μm以上であり、防食性と付着性を考慮して好ましくは100μm〜200μmである。
【0063】
また、本発明の金属管の耐食方法においては、金属系溶射被膜を形成する工程の後に、金属系溶射被膜を封孔処理する工程を含むことが好ましい。これにより金属系溶射被膜層の気孔を封鎖し、防食効果をさらに高めることができる。使用する封孔処理剤やその塗布方法、膜厚などは上述の金属管用耐食層についてした説明の内容が適用される。
【0064】
<金属管>
本発明の耐食方法が適用される金属管は、金属製のものであれば特に限定されないが、たとえば鋳鉄管、鋼管などの金属管が挙げられる。
【0065】
本発明の耐食処理された金属管によれば、外面塗膜層が1層であるにもかかわらず、管の搬送や接合時に塗膜の傷が入りにくい耐傷付性に優れ、かつ指触乾燥および硬化乾燥のバランスがよい耐水白化性および耐食性に優れたものであり、安定した品質を有する。また、管の搬送や接合時に塗膜の傷が入りにくく、耐食性に優れたものである。また、外面塗膜層は水系塗料によるものなので、溶剤臭がほとんどなく、環境負荷が小さい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
まず、実施例および比較例で使用した成分を下記に示す。
<亜鉛溶射>
亜鉛−ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射被膜
<水系塗料>
アクリル樹脂エマルジョンA:ボンコートEC−5400EF(DIC(株)製、Tg6℃、固形分濃度55%)
アクリル樹脂エマルジョンB:ボンコートCM−8430(DIC(株)製、Tg33℃、固形分濃度40%)
アクリル樹脂エマルジョンC:ボンコートCP−6450(DIC(株)製、Tg42℃、固形分濃度40%)
アクリル樹脂ディスパージョン:ウォーターゾールS−720(DIC(株)製、Tg45℃、固形分濃度47.5%)
体質顔料:堺化学(株)製の沈降性硫酸バリウム100
着色顔料:三菱化学(株)製のMA100
防錆顔料:テイカ(株)製のCa650
分散剤:ビックケミージャパン(株)製のBYK−180
成膜助剤:大商化成(株)製のブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
<二次塗装>
溶剤系塗料:クリモトコートAC−1(日本ペイント・インダストリアルコーティングス(株)製、アクリル樹脂系塗料)
【0068】
実施例1〜6および比較例1〜8
呼び径100のダクタイル鋳鉄管の外面に亜鉛−ケイ素マンガン含有アルミニウムを130g/m
2で溶射して、鋳鉄管上に亜鉛−ケイ素マンガン含有アルミニウム擬合金溶射被膜を形成した。その後、鋳鉄管をガス炉で加温し、鋳鉄管の表面温度を50℃(接触温度計にて測定)とし、その上に表1に示す配合により調製した水系塗料を膜厚が80μmになるようにスプレーにより塗装し、乾燥させた。比較例8のみ、水系塗料を膜厚が60μmになるように塗装し、二次塗装としてさらに溶剤系塗料を膜厚20μmで塗装した。得られた鋳鉄管について下記の評価を行った。結果を表1に示す。なお、水系塗料の最低造膜温度は、JIS K 6828−2 合成樹脂エマルジョン 第2部:白化温度及び最低造膜温度の求め方に準じ、熱勾配試験装置(造膜温度測定装置)を用いて、設定温度域4〜55℃、膜厚100μmの条件により測定した。
【0069】
<乾燥性>
実施例1〜6および比較例1〜7について、水系塗料の塗装後30秒ごとに塗装面を指で触って指に塗料が付着しなくなるまでの時間を測定した。以下の判定基準により結果を表1に示す。性能目標は1分以内とする。
(判定基準)
◎:30秒
○:1分
△:2分
×:3分
【0070】
<耐白化性>
実施例1〜6および比較例1〜6で得られた各鋳鉄管に、塗装30分後から4時間散水し、その20時間後に塗膜状態を目視によって確認した。結果を以下の判定基準により評価し、表1に示す。
(判定基準)
○:異常なし
△:塗膜白化なし・白錆あり
×:塗膜白化
【0071】
<耐水白化試験後の耐食性>
上記耐白化試験後の鋳鉄管を150×90mmの瓦状試験片に切り出し、試験片中央部表面にカッターを用いて0.3×50mmのX状の鉄素地に達する傷を付けた。JIS K 5600−7−9(2006)サイクル腐食試験方法サイクルAに準拠して、30日間複合サイクル試験を行った。塗膜外観を以下の基準で目視判定した。結果を以下の判定基準により評価し、表1に示す。
(判定基準)
○:カット部白錆あり、一般部以上なし
△:カット部、一般部共に白錆あり
×:カット部赤錆あり、一般部白錆あり
【0072】
<耐傷付性>
実施例1〜6および比較例1〜6で得られた各鋳鉄管について、23℃で塗装1時間後の塗膜硬度をJIS K 5600−5−4(1999)硬度(鉛筆法)に準拠して測定した。結果を以下の判定基準により評価し、表1に示す。
(判定基準)
◎:H
○:HB
△:B
×:2B
【0073】
【表1】
【0074】
表1の試験結果から明らかなように、実施例1〜6のガラス転移温度(Tg)が28〜50℃のアクリル樹脂エマルジョン、およびアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1〜5質量%含む水性塗料であって、成膜助剤の含有量が1〜5質量%であり、最低造膜温度が25〜45℃である水系塗料からなる塗膜は、乾燥時間がいずれも1分以内と迅速であり、塗装30分後での耐水白化性や耐傷付性にも優れており、塗装後の塗膜硬度の発現が早く、指触乾燥と硬化乾燥のバランスが良好であることが分かる。また、従来の溶剤系塗料を上塗りする比較例6と比べても同等の耐食性および同等以上の耐傷付性を有することが分かる。
【0075】
なお、表1中のアクリル樹脂エマルジョンおよびアクリル樹脂ディスパージョンの質量%は固形分のみを表し、水はアクリル樹脂エマルジョンおよびアクリル樹脂ディスパージョン中の媒体を含めたものとする。表1中の成膜助剤の質量%は、ブチルセロソルブ単体として添加した量だけでなく、水系塗料に含まれる総量を表すものである。