(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-2498(P2020-2498A)
(43)【公開日】2020年1月9日
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/224 20060101AFI20191206BHJP
D06M 13/248 20060101ALI20191206BHJP
D06M 13/207 20060101ALI20191206BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20191206BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20191206BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20191206BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/248
D06M13/207
D06M13/256
D06M13/292
D06M15/53
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-123188(P2018-123188)
(22)【出願日】2018年6月28日
(11)【特許番号】特許第6445205号(P6445205)
(45)【特許公報発行日】2018年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳人
(72)【発明者】
【氏名】村上 卓
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA04
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC09
4L033AC11
4L033BA20
4L033BA21
4L033BA23
4L033BA28
4L033BA39
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】合成繊維の製糸工程において良好な工程通過性、且つ後加工工程において良好なゴム接着性を有する合成繊維用処理剤及び合成繊維を提供する。
【解決手段】本発明の合成繊維用処理剤は、下記の平滑剤、下記のオキシカルボン酸誘導体、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含有することを特徴とする。平滑剤は、多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、及び一価アルコールと多価カルボン酸とのエステル化合物から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物、並びに一価アルコールと分子中に硫黄元素を有する多価カルボン酸との含硫黄エステル化合物を含むものである。オキシカルボン酸誘導体は、オキシカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも一つの化合物である。本発明の合成繊維は、前記合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の平滑剤、下記のオキシカルボン酸誘導体、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
平滑剤:多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、及び一価アルコールと多価カルボン酸とのエステル化合物から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物、並びに一価アルコールと分子中に硫黄元素を有する多価カルボン酸との含硫黄エステル化合物を含むもの。
オキシカルボン酸誘導体:オキシカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも一つの化合物。
【請求項2】
前記オキシカルボン酸誘導体が、分子中に1〜2個の水酸基及び1〜3個のカルボキシル基を有する炭素数2〜8のオキシカルボン酸、又はその塩である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記合成繊維用処理剤の不揮発分中に、オキシカルボン酸の占める割合とその塩の占める割合の合計が、0.001〜5質量%である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤が、硬化ひまし油1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜100モルの割合で付加した化合物、及びひまし油1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜100モルの割合で付加した化合物から選ばれる化合物1モルに対し、一価カルボン酸を1〜3モルの割合でエステル化した化合物を含むものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記イオン界面活性剤が、炭素数4〜22の炭化水素基をもつスルホン酸アルカリ金属塩及び炭素数4〜22の炭化水素基をもつリン酸アミン塩から選ばれる少なくとも一つの化合物を含むものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、前記イオン界面活性剤、及び前記オキシカルボン酸誘導体の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を20〜85質量%、前記非イオン界面活性剤を10〜75質量%、前記イオン界面活性剤を0.1〜15質量、及び前記オキシカルボン酸誘導体を0.001〜5質量%の割合で含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維の製糸工程において良好な工程通過性を発揮し、且つ後加工工程において良好なゴム接着性を有する合成繊維用処理剤、及びかかる処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の製糸工程において、摩擦を低減し、糸切れ等の繊維の損傷を防止する観点から、合成繊維のフィラメント糸条の表面に界面活性剤を含有する合成繊維用処理剤を付与する処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1〜4に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、カルボン酸塩を含有し、且つ含水時の最高粘度を制御した合成繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、第四級アンモニウムカチオンを含む合成繊維用処理剤について開示する。特許文献3は、特定の界面活性剤を含み40質量%水系エマルションの粘度が20cst以下の合成繊維用処理剤について開示する。特許文献4は、硫黄元素を有するエステル化合物とソルビタンエステル化合物、有機アミン化合物を含有する合成繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−148280号公報
【特許文献2】特開平07−258969号公報
【特許文献3】特開平07−216734号公報
【特許文献4】特開2016−180190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら従来の合成繊維用処理剤は、合成繊維の製糸工程における工程通過性の向上、特に近年の産業資材用途での高温製糸工程におけるゴデットローラー周りのタール汚れと毛羽の抑制、更にゴム接着性の向上という各機能の両立を十分に図ることができなかった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、合成繊維の製糸工程において良好な工程通過性、且つ後加工工程において良好なゴム接着性を有する合成繊維用処理剤及び合成繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特に平滑剤として多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル又は一価アルコールと多価カルボン酸とのエステル化合物、及び特定の含硫黄エステル化合物、並びに特定のオキシカルボン酸誘導体を含有する合成繊維用処理剤が正しく好適であることを見出した。
【0008】
すなわち本発明の一態様では、下記の平滑剤、下記のオキシカルボン酸誘導体、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含有して成る合成繊維用処理剤が提供される。
前記平滑剤は、多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、及び一価アルコールと多価カルボン酸とのエステル化合物から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物、並びに一価アルコールと分子中に硫黄元素を有する多価カルボン酸との含硫黄エステル化合物を含むものである。
【0009】
前記オキシカルボン酸誘導体は、オキシカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも一つの化合物である。
前記オキシカルボン酸誘導体が、分子中に1〜2個の水酸基及び1〜3個のカルボキシル基を有する炭素数2〜8のオキシカルボン酸、又はその塩であることが好ましい。
【0010】
前記合成繊維用処理剤の不揮発分中に、オキシカルボン酸の占める割合とその塩の占める割合の合計が、0.001〜5質量%であることが好ましい。
前記非イオン界面活性剤が、硬化ひまし油1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜100モルの割合で付加した化合物、及びひまし油1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜100モルの割合で付加した化合物から選ばれる化合物1モルに対し、一価のカルボン酸を1〜3モルの割合でエステル化した化合物を含むものであることが好ましい。
【0011】
前記イオン界面活性剤が、炭素数4〜22の炭化水素基をもつスルホン酸アルカリ金属塩及び炭素数4〜22の炭化水素基をもつリン酸アミン塩から選ばれる少なくとも一つの化合物を含むものであることが好ましい。
【0012】
前記平滑剤、前記非イオン界面活性剤、前記イオン界面活性剤、及び前記オキシカルボン酸誘導体の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を20〜85質量%、前記非イオン界面活性剤を10〜75質量%、前記イオン界面活性剤を0.1〜15質量、及び前記オキシカルボン酸誘導体を0.001〜5質量%の割合で含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の別の態様は、前記合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、合成繊維の製糸工程において良好な工程通過性、且つ後加工工程において良好なゴム接着性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
先ず、本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態について説明する。本実施形態の処理剤は、特定の平滑剤、特定のオキシカルボン酸誘導体、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含有して成る処理剤である。
【0016】
平滑剤は、多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、及び一価アルコールと多価カルボン酸とのエステル化合物から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物、並びに一価アルコールと分子中に硫黄元素を有する多価カルボン酸との含硫黄エステル化合物を含有するものである。
【0017】
オキシカルボン酸誘導体は、オキシカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも一つの化合物である。これらのオキシカルボン酸誘導体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。オキシカルボン酸誘導体は、分子中に1〜2個の水酸基及び1〜3個のカルボキシル基を有する炭素数2〜8のオキシカルボン酸、又はその塩を含有するものが好ましい。かかる化合物を使用することにより、本発明の効果、特に後加工工程においてゴム接着性をより向上させることができる。
【0018】
本実施形態の処理剤の不揮発分中において、オキシカルボン酸の占める割合とその塩の占める割合の合計が、0.001〜5質量%となることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果、特にタール汚れをより抑制し、工程通過性をより向上させることができる。なお、不揮発分とは、本実施形態の処理剤が溶媒と混合されている場合、溶媒を含む希釈液を105℃で2時間熱処理して揮発性希釈剤を十分に除去した絶乾物のことをいう。
【0019】
本実施形態の処理剤に供する平滑剤に含まれる化合物の具体例としては、例えば(1)1,4−ブタンジオールジオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、ペンタエリスリトールテトラオクタノアート、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、グリセリンモノラウラート、グリセリントリラウラート、グリセリントリオレアート等の、多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、(2)ジオレイルアジパート、トリオクチルトリメリテート等の、多価カルボン酸と一価アルコールとのエステル化合物、(3)ナタネ白絞油、パーム油、ヤシ油等の、天然油脂、(4)ジオクチルチオジプロピオナート、ジイソラウリルチオジプロピオナート、ジラウリルチオジプロピオナート、ジイソセチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート等の、一価アルコールと分子中に硫黄元素を有する多価カルボン酸との含硫黄エステル化合物が挙げられる。
【0020】
これらの中でもトリメチロールプロパントリオレアート、グリセリントリオレアート、ナタネ白絞油、トリオクチルトリメリテート、ジオレイルアジパート、ジオレイルチオジプロピオナート、ジイソセチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナートが好ましい。
【0021】
本実施形態の処理剤に供する非イオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)有機酸、有機アルコール、有機アミン及び/又は有機アミドに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、例えばポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステルメチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテルメチルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル、ポリオキシエチレンジエタノールアミンモノオレイルアミド等のエーテル型ノニオン界面活性剤、(2)ポリエチレングリコールジオレアート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシブチレンソルビタントリオレアート、ポリオキシプロピレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンプロピレン硬化ひまし油トリオレアート、ポリオキシエチレン硬化ひまし油トリラウラート、硬化ひまし油のエチレンオキサイド付加物とフマル酸とを縮合させたエーテルエステル化合物、ひまし油のエチレンオキサイド付加物及び硬化ひまし油のエチレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一種の化合物とモノカルボン酸及びジカルボン酸とを縮合させたエーテルエステル化合物、ビスポリオキシエチレンラウリルアジパート、ビスポリオキシエチレンオレイルアジパート、等のポリオキシアルキレンエーテルエステル型ノニオン界面活性剤、(3)ジエタノールアミンモノラウロアミド等のアルキルアミド型ノニオン界面活性剤、等が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
非イオン界面活性剤としては、ひまし油のアルキレンオキサイド付加物及び硬化ひまし油のアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一種の化合物1モルに対し、一価のカルボン酸を1〜3モルの割合でエステル化した化合物を含有するものが好ましい。該エーテルエステル化合物に使用されるアルキレンオキサイドとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。1価のカルボン酸としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、硬化ひまし油1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜100モルの割合で付加した化合物、及びひまし油1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを1〜100モルの割合で付加した化合物から選ばれる化合物1モルに対し、一価カルボン酸を1〜3モルの割合でエステル化した化合物を含むものがより好ましい。かかる構成により、本願発明の効果、特に糸条の毛羽をより抑制し、工程通過性をより向上させることができる。
【0024】
更に好ましい該エーテルエステル化合物としては、硬化ひまし油1モルに対しエチレンオキサイド20モル付加したものとオレイン酸3モルをエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルにエチレンオキサイド40モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、ひまし油1モルにエチレンオキサイド25モル付加したものをラウリン酸3モルでエステル化した化合物等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の処理剤に供するイオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)オクタン酸カリウム塩、オレイン酸カリウム塩、アルケニルコハク酸カリウム塩等のカルボン酸石鹸型イオン界面活性剤、(2)ペンタデシルスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩等のスルホン酸エステル型イオン界面活性剤、(3)ポリオキシエチレンラウリル硫酸エステルナトリウム塩、ヘキサデシル硫酸カリウム塩、牛脂硫化油、ひまし油硫化油等の硫酸エステル型イオン界面活性剤、(4)オクチルホスフェートのナトリウム塩、ポリオキシエチレンラウリルホスフェートのカリウム塩、オレイルホスフェートのトリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンオレイルホスフェートのポリオキシエチレンラウリルアミン塩、ポリオキシエチレンオレイルホスフェートのジブチルエタノールアミン塩等が挙げられる。これらのイオン界面活性剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
イオン界面活性剤としては、炭素数4〜22の炭化水素基をもつスルホン酸アルカリ金属塩及び炭素数4〜22の炭化水素基をもつリン酸アミン塩から選ばれる少なくとも一つの化合物を含むものが好ましい。これらの中でもアルキルスルホン酸ナトリウム、オレイルホスフェートエチレンオキサイド(以下、EOという)15(エチレンオキサイドの付加モル数を示す。以下同じ)ステアリルアミノエーテル塩、イソセチルホスフェートEO10ラウリルアミノエーテル塩が特に好ましい。
【0027】
オキシカルボン酸誘導体の具体例としては、例えばクエン酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸等のオキシカルボン酸、又はそれらの塩が挙げられる。塩としては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。これらの中でもクエン酸、乳酸、クエン酸カリウム塩、乳酸カリウム塩、酒石酸トリエタノールアミン塩が好ましい。
【0028】
本実施形態の処理剤において、上述した平滑剤、非イオン界面活性剤、イオン界面活性剤、及びオキシカルボン酸誘導体の含有比率は特に制限はない。上述した平滑剤、非イオン界面活性剤、イオン界面活性剤、及びオキシカルボン酸誘導体の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤を20〜85質量%、非イオン界面活性剤を10〜75質量%、及びイオン界面活性剤を0.1〜15質量%、オキシカルボン酸誘導体を0.001〜5質量%の割合で含有するものが好ましい。かかる範囲内に規定することにより、本発明の効果をより向上させることができる。
【0029】
(第2実施形態)
本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維としては、特に制限はないが、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。
【0030】
第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に付着させる割合は、特に制限はないが、第1実施形態の処理剤を合成繊維に対し0.1〜3質量%の割合となるよう付着させることが好ましい。また、第1実施形態の処理剤を付着させる方法は、公知の方法を適宜採用することができる。例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。
【0031】
上記実施形態の合成繊維用処理剤及び合成繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
上記実施形態では、特定の平滑剤、特定のオキシカルボン酸誘導体、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤を含有する合成繊維用処理剤として構成した。したがって、合成繊維の製糸工程において良好な工程通過性を発揮する。特にゴデットローラー周りのタール汚れ、合成繊維糸条の毛羽を低減することにより、良好な工程通過性を発揮することができる。また、後加工工程において良好なゴム接着性を発揮することができる。かかる効能は、特にタイヤコード用途等における後加工工程において有効である。
【0032】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定剤やつなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの通常処理剤に用いられる成分を更に配合してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0034】
試験区分1(オキシカルボン酸誘導体)
今回の実施例及び比較例において使用したオキシカルボン酸誘導体(OA−1〜OA−5及びrOA−1,rOA−2)の内容を表1に示した。表1において、オキシカルボン酸誘導体を構成する水酸基数、カルボキシル基数、炭素数、及びカウンターイオンの種類を示した。
【0035】
【表1】
表1において、
OA−1:クエン酸、
OA−2:乳酸、
OA−3:クエン酸カリウム塩、
OA−4:乳酸カリウム塩、
OA−5:酒石酸トリエタノールアミン塩、
rOA−1:リシノール酸ナトリウム塩、
rOA−2:ヒドロキシステアリン酸カリウム塩、
を示す。
【0036】
試験区分2(合成繊維用処理剤の調製)
・合成繊維用処理剤(実施例1)の調製
平滑剤としてトリメチロールプロパントリオレアート(L−1)を60部、ジオレイルチオジプロピオナート(LS−1)を5部、非イオン界面活性剤として硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N−1)10部、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(rN−1)5部、硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加した化合物(rN−2)5部、ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート(rN−4)10.9部、イオン界面活性剤としてアルキルスルホン酸ナトリウム(I−1)2部、オレイルホスフェート(EO15)ステアリルアミノエーテル塩(I−2)2部、オキシカルボン酸誘導体としてクエン酸(OA−1)0.1部を均一混合して実施例1の合成繊維用処理剤を調製した。平滑剤、オキシカルボン酸誘導体、非イオン界面活性剤、及びイオン界面活性剤の種類、並びにかかる成分の配合比率の合計を100%とした場合の各成分の比率を表2に示した。
【0037】
・合成繊維用処理剤(実施例2)の調製
実施例1の合成繊維用処理剤と同様に調製した。但し、表2の原料以外に酸化防止剤として1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸を処理剤100部に対し0.5部の割合で添加した。
【0038】
・合成繊維用処理剤(実施例3〜11及び比較例1〜4)の調製
実施例1の合成繊維用処理剤の調製と同様に、実施例3〜11及び比較例1〜4の合成繊維用処理剤を調製した。各原料を表2に示した。また、各処理剤の不揮発分中におけるオキシカルボン酸の占める割合とその塩の占める割合の合計を表2の※1欄に示した。
【0039】
【表2】
表2において、
L−1:トリメチロールプロパントリオレアート、
L−2:グリセリントリオレアート、
L−3:ナタネ白絞油、
L−4:トリオクチルトリメリテート、
L−5:ジオレイルアジパート、
LS−1:ジオレイルチオジプロピオナート、
LS−2:ジイソセチルチオジプロピオナート、
LS−3:ジイソステアリルチオジプロピオナート、
rL−1:イソステアリルオレアート、
N−1:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物、
N−2:硬化ひまし油1モルにEO40モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、
N−3:ひまし油1モルにEO25モル付加したものをラウリン酸3モルでエステル化した化合物、
rN−1:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(MW5,000)、
rN−2:硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したもの、
rN−3:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの、
rN−4:ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート、
rN−5:ポリオキシエチレン(5モル)ソルビタンモノオレアート、
I−1:アルキルスルホン酸ナトリウム、
I−2:オレイルホスフェート(EO15)ステアリルアミノエーテル塩、
I−3:イソセチルホスフェート(EO10)ラウリルアミノエーテル塩、
OA−1:クエン酸、
OA−2:乳酸、
OA−3:クエン酸カリウム塩、
OA−4:乳酸カリウム塩、
OA−5:酒石酸トリエタノールアミン塩、
rOA−1:リシノール酸ナトリウム塩、
rOA−2:ヒドロキシステアリン酸カリウム塩、
を示す。
【0040】
試験区分3(合成繊維用処理剤の評価)
合成繊維用処理剤について、工程通過性及びゴム接着性を評価した。工程通過性は、より具体的には毛羽及び耐熱性タールとして評価した。
【0041】
・毛羽の評価
試験区分2で調製した各処理剤を必要に応じてイオン交換水又は有機溶剤にて均一に希釈し、15%溶液とした。ポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて溶融紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、前記の15%溶液を不揮発分として付与量0.6質量%となるよう設定したローラー給油法にて付着させた。その後、ガイドで集束させて、230℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.3倍となるように延伸し、1670デシテックス288フィラメントの延伸糸を10kg捲きチーズとして得た。
【0042】
その紡糸工程において、糸をチーズとして巻き取る前に、毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製)にて1時間当たりの毛羽数を測定し、次の基準で評価した。結果を表2に示した。
【0043】
・毛羽の評価基準
◎:測定された毛羽数が0個。
○:測定された毛羽数が2個未満(但し、0を含まない)。
×:測定された毛羽数が2個以上且つ10個未満。
××:測定された毛羽数が10個以上。
【0044】
・耐熱性タールの評価
処理剤の耐熱性について、前記の紡糸工程において、48時間紡糸した後のゴデットローラーの汚れ(タール)として下記のように評価した。結果を表2に示した。
【0045】
・耐熱性タールの評価基準
◎:汚れ(タール)が認められない。
○:汚れ(タール)がほとんど認められない。
×:汚れ(タール)がわずかに認められる。
××:汚れ(タール)が認められる。
【0046】
・ゴム接着性の評価
前記の紡糸工程で得られた合成繊維用処理剤を付着させた合成繊維2本を、下撚40回/10cm、上撚40回/10cmの撚数で撚り、撚糸コードとした。この撚糸コードを、第1接着剤(エポキシ化合物(ナガセケムテックス社製の商品名デナコールEX−512)/ブロックドイソシアネート(第一工業製薬社製の商品名エラストロンBN−27)=5/5(固形分比))に浸漬した後、熱処理した。更に第2接着剤(レゾルシン(キシダ化学社製の商品名レソルシノール)/ホルマリン(キシダ化学社製の商品名ホルムルデヒド液(37%))/ラテックス(日本ゼオン社製の商品名Nipol 2518FS)=1.5/0.5/8(固形分比)のRFL溶液)に浸漬した。その後、熱処理して、接着剤で処理した補強用コードを得た。JIS−L1017(化学繊維タイヤコード試験方法)に記載のTテスト(A法)に準拠して、補強コードの接着力を測定し、次の基準で評価した。結果を表2に示した。
【0047】
・ゴム接着性の評価基準
◎:接着力が16kg以上。
○:接着力が15kg以上且つ16kg未満。
×:接着力が14kg以上且つ15kg未満。
××:接着力が14kg未満。
【0048】
表2の結果からも明らかなように、本発明によれば、合成繊維の製糸工程においてゴデットローラー周りのタール汚れ、毛羽を低減し、更に後加工工程でのゴム接着性を向上することができるという効果がある。