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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-25374(P2020-25374A)
(43)【公開日】2020年2月13日
(54)【発明の名称】電子装置および蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20200121BHJP
【FI】
   H02N11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-147498(P2018-147498)
(22)【出願日】2018年8月6日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】土屋 敬志
(72)【発明者】
【氏名】寺部 一弥
(57)【要約】
【課題】
時間的に変動する磁場により効率的に交流の電気を発生する電子装置を提供する。
【解決手段】
第1の電極層、第2の電極層および第1と第2の電極層の間に形成された電解質層を有し、電解質層はお互いに混じり合わない2以上の液相を有し、2以上の液相は第1の電極層に対して各々異なる接触電位を生じるとともに第2の電極層に対しても各々異なる接触電位を生じ、2以上の液相の少なくとも1つは2以上の液相の他の液相に対して磁場に対して異なる加速度で動き、第1および第2の電極層は2以上の液相の全てに対して耐腐食性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間的に変動する磁場に置かれて交流の電気を発生する電子装置であって、
前記電子装置は、第1の電極層、第2の電極層および前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に形成された電解質層を有し、
前記電解質層は、お互いに混じり合わない2以上の液相を有し、
前記2以上の液相は、前記第1の電極層に対して各々異なる接触電位を生じるとともに、前記第2の電極層に対しても各々異なる接触電位を生じ、
前記2以上の液相の少なくとも1つは、前記2以上の液相の他の液相に対して、磁場に対して異なる加速度で動き、
前記第1の電極層および前記第2の電極層は、前記2以上の液相の全てに対して耐腐食性を有する、電子装置。
【請求項2】
第1の電極層、第2の電極層および前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に形成された電解質層を有する発電部と、前記電解質層に変動する磁場を与える変動磁場生成部と、を有し、
前記電解質層は、お互いに混じり合わない2以上の液相を有し、
前記2以上の液相は、前記第1の電極層に対して各々異なる接触電位を生じるとともに、前記第2の電極層に対しても各々異なる接触電位を生じ、
前記2以上の液相の少なくとも1つは、前記2以上の液相の他の液相に対して、前記磁場に応じて異なる加速度で動き、
前記第1の電極層および前記第2の電極層は、前記2以上の液相の全てに対して耐腐食性を有する、電子装置。
【請求項3】
前記変動磁場生成部は、永久磁石を振動させる手段を有する、請求項2記載の電子装置。
【請求項4】
前記変動磁場生成部は、永久磁石と磁場遮断手段とを有する、請求項2記載の電子装置。
【請求項5】
前記2以上の液相は、お互いに比重が異なる、請求項1から4の何れか一に記載の電子装置。
【請求項6】
前記電解質層は、第1の液相と、第1の液相とお互いに混じり合わない第2の液相からなる、請求項1から5の何れか一に記載の電子装置。
【請求項7】
前記第1の液相は1−ブチル−3−メチルイソミダゾリウムテトラクロロフェラート(C615Cl4FeN2)であり、前記第2の液相はアルカンを含む有機溶媒である、請求項6記載の電子装置。
【請求項8】
前記第2の液相はヘキサンである、請求項7記載の電子装置。
【請求項9】
前記第1の電極層は、白金(Pt)、金(Au)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド、グラファイト、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)の少なくともいずれか1を含む、請求項1から8の何れか一に記載の電子装置。
【請求項10】
前記第2の電極層は、白金(Pt)、金(Au)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド、グラファイト、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)の少なくともいずれか1を含む、請求項1から9の何れか一に記載の電子装置。
【請求項11】
遠心力を印加する手段を備えた請求項1から10の何れか一に記載の電子装置。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一に記載の電子装置と、整流手段と、蓄電手段とを有し、前記電子装置の第1および第2電極層が前記整流手段を介して前記蓄電手段に電気的に繋がれている、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流の電気を発生する電子装置およびその電気を蓄える蓄電装置に係り、特に時間的に変動する磁場により交流の電気を発生する電子装置およびその電気を蓄える蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気エネルギーのスマート利用から蓄電装置の需要が高まっている。
電池やキャパシタなどの蓄電装置においては、化学、熱、光等のエネルギー源により供給される電場下での荷電粒子の輸送を用いて蓄電が行われている。これは荷電粒子が輸送され電極界面や電極内において濃度差を生じ、それに伴い電極の帯電状態を変化させるために通常電場が必要なためである。そして、蓄電には上述のようなエネルギー源が必要になっている。
【0003】
一方、荷電粒子は電場だけでなく磁場でも輸送可能であることが知られており、それを利用した帯電状態制御が示唆されている(非特許文献1、2および参照)。
磁場(磁気エネルギー)は小型磁石で与えることが出来るため可搬性が高く、これを用いた帯電状態の制御が可能になれば、利便性・汎用性の高い蓄電装置等への発展が期待される。
蓄電装置を一例にすれば、太陽光のような光エネルギー、風力エネルギー等の供給源のない暗闇・無風状態でも蓄電出来る。特に高深度、水中、宇宙空間のような極限状態においても好適に利用することができる。
【0004】
磁場を蓄電に用いようとする試みはすでになされているが、下記に示すように、これまでは電力を直接生み出し、蓄電するというものではなかった。
例えば、非接触電力伝送では、電磁誘導によって蓄電する。この場合は電力を非接触で伝送する手段として磁場が使われているが、伝送される電力自体は磁場(磁気エネルギー)で蓄電したものではない(非特許文献3参照)。
また、電池の反応物を効率良く流動させるために磁性流体を利用している例がある。そこでは蓄電装置の動作の一部に磁場が関わっているが、磁場は撹拌に利用されているのであり、磁場(磁気エネルギー)で畜電しているのではない(非特許文献4参照)。
本発明は、磁場の時間的変化を使って電気を発生させ、それを蓄電する電子装置を提供するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inorg.Chem.,vol.40,p.2298(2001)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,vol.392,p.460(2004)
【非特許文献3】IEEE J.,vol.128,No.12,p.796(2008)
【非特許文献4】Nano Lett.,vol.15,p.7394(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明概解決しようとする課題は、時間的に変動する磁場により効率的に交流の電気(交流電力)を発生する電子装置を提供することであり、また、磁場のオンオフにより交流の電気を発生する電子装置を提供することである。そして、発生した電気を基に蓄電する蓄電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、磁場により加速度を発生させる特性の異なる複数の電解質材料(磁性特性の異なる複数の電解質材料)、一対の電極、および永久磁石の運動などによる磁場の時間変化を組み合わせることで、上記課題が効果的に解決される方法を考案し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の構成は以下の通りである。
(構成1)
時間的に変動する磁場に置かれて交流の電気を発生する電子装置であって、
前記電子装置は、第1の電極層、第2の電極層および前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に形成された電解質層を有し、
前記電解質層は、お互いに混じり合わない2以上の液相を有し、
前記2以上の液相は、前記第1の電極層に対して各々異なる接触電位を生じるとともに、前記第2の電極層に対しても各々異なる接触電位を生じ、
前記2以上の液相の少なくとも1つは、前記2以上の液相の他の液相に対して、磁場に対して異なる加速度で動き、
前記第1の電極層および前記第2の電極層は、前記2以上の液相の全てに対して耐腐食性を有する、電子装置。
(構成2)
第1の電極層、第2の電極層および前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に形成された電解質層を有する発電部と、前記電解質層に変動する磁場を与える変動磁場生成部と、を有し、
前記電解質層は、お互いに混じり合わない2以上の液相を有し、
前記2以上の液相は、前記第1の電極層に対して各々異なる接触電位を生じるとともに、前記第2の電極層に対しても各々異なる接触電位を生じ、
前記2以上の液相の少なくとも1つは、前記2以上の液相の他の液相に対して、前記磁場に応じて異なる加速度で動き、
前記第1の電極層および前記第2の電極層は、前記2以上の液相の全てに対して耐腐食性を有する、電子装置。
(構成3)
前記変動磁場生成部は、永久磁石を振動させる手段を有する、構成2記載の電子装置。
(構成4)
前記変動磁場生成部は、永久磁石と磁場遮断手段とを有する、構成2記載の電子装置。
(構成5)
前記2以上の液相は、お互いに比重が異なる、構成1から4の何れか一に記載の電子装置。
(構成6)
前記電解質層は、第1の液相と、第1の液相とお互いに混じり合わない第2の液相からなる、構成1から5の何れか一に記載の電子装置。
(構成7)
前記第1の液相は1−ブチル−3−メチルイソミダゾリウムテトラクロロフェラート(C615Cl4FeN2)であり、前記第2の液相はアルカンを含む有機溶媒である、構成6記載の電子装置。
(構成8)
前記第2の液相はヘキサンである、構成7記載の電子装置。
(構成9)
前記第1の電極層は、白金(Pt)、金(Au)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド、グラファイト、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)の少なくともいずれか1を含む、構成1から8の何れか一に記載の電子装置。
(構成10)
前記第2の電極層は、白金(Pt)、金(Au)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド、グラファイト、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)の少なくともいずれか1を含む、構成1から9の何れか一に記載の電子装置。
(構成11)
遠心力を印加する手段を備えた構成1から10の何れか一に記載の電子装置。
(構成12)
構成1から11の何れか一に記載の電子装置と、整流手段と、蓄電手段とを有し、前記電子装置の第1および第2電極層が前記整流手段を介して前記蓄電手段に電気的に繋がれている、蓄電装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、磁場のオンオフなど時間的に変動する磁場により効率的に交流の電気を発生する電子装置およびその電気を蓄える蓄電装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一態様である、磁場下でのイオン輸送によって発電を可能にする電子装置の模式図。
図2】発電メカニズムを説明する装置断面概要図。
図3】発電メカニズムを説明する装置断面概要図。
図4】蓄電装置の装置概要構成図
図5】蓄電装置の装置概要構成図
図6】磁場変化に伴う電流の変化を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<装置構成>
最初に、本発明の電子装置の構成について説明する。
本発明の電子装置101は、図1に示すように、第1の電極層3、第2の電極層4、第1の電極層と第2の電極層の間に配置されるお互いに混じり合わない2以上の液相からなる電解質層11(図1では、第1の液相1と第2の液相2からなる2の液相からなる場合を図示)を含む。なお、この部分を発電部とも呼ぶことにする。
ここで、電解質層11中の液相のうちの2以上は少なくともその一部分において第1の電極層3または第2の電極層4に接触し、接触電位を生じさせるものとする。
【0012】
そして、電子装置101に時間的に変動する磁力線(磁界)51を印加する。磁力線51は強度が強いほど好ましい。
ここで、磁力線51は、環境等の電子装置101の外部から与えられるものでもよいし、電子装置101に永久磁石を配置するなどして電子装置101に磁場発生手段を具備(図示なし)するようにしてもよい。
磁力線51の発生手段を電子装置101に具備させる場合は、磁場発生源である磁石などを近づけたり遠ざけたりして動きを与え(振動を与え)、電解質層11に印加される磁場に時間変動を与えられるようにする。または、パーマロイなどの磁場遮断材を磁場発生源と第1の電極層3、第2の電極層4および電解質層11からなる電子装置101コア部の間に抜き差しするようにして(磁場遮断オンオフによって)、電解質層11に印加される磁場に時間変動を与えられるようにする。なお、磁場発生源と磁場に時間変動を与える手段を合わせて変動磁場生成部と称することにする。
磁力線51が環境等の電子装置101の外部から与えられる具体例としては、大きなモーターや遮断機器の近くの機電環境、直流駆動の電車が頻繁に往来する近傍の環境、活発な活動をする恒星の影響を受ける宇宙空間などの環境を挙げることができる。
【0013】
磁力線51発生手段として磁石を用いる場合は、磁石としては、外部からのエネルギー供給を必要とせずに磁界を発生させることができる点から永久磁石が好ましい。具体的には、フェライト磁石等の汎用磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石等の希土類磁石等を挙げることができる。この中で、高強度の磁界を発生する観点から、希土類磁石が特に好ましい。磁力線51の強度(磁場)は、強いほど好ましく、100mT以上が好ましい。
【0014】
電解質層11を構成する2以上の液相は、第1の電極層3に対して各々異なる接触電位を生じるとともに、第2の電極層4に対しても各々異なる接触電位を生じるものとする。
ここで、接触電位の差は大きいほど大きな電力を発生しやすくなるので好ましい。
さらに、2以上の液相の少なくとも1つは、2以上の液相の他の液相に対して、磁場に対して異なる加速度で動くものとする。
ここで、2以上の液相は、第1の液相と第2の液相からなる2層であると、構造が簡素化され、電子装置101の製造が容易となり、また小型化する際に有利になる。
液相は、具体的には、第1の液相1として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート(C615Cl4FeN2、以下[bmim]FeCl4と称す)および[bmim]FeCl4を含む液体を挙げることができ、第2の液相2としては、ヘキサン、オクタン等のアルカンを挙げることができる。ここで、[bmim]FeCl4を含む液体の例としては、純水を挙げることができる。
[bmim]FeCl4は磁場に置かれると磁力を受け、加速度が発生する。一方、ヘキサン、オクタン等のアルカンは磁場に反応しないため、加速度は発生しない。
【0015】
電解質層11を構成する2以上の液相は、お互いに比重が異なるようにしておくことが好ましい。液相の間で比重差を設けるようにすると、磁力線51が遮断されたり、その強度が弱まったときに元の状態に戻る復元力が働き、発電効率が上がる。このため、比重差は大きいほど好ましい。
ちなみに、室温における前述の第1の液相1の材料として例示した[bmim]FeCl4の比重は1.4であり、第2の液相2の材料として例示したヘキサンの比重は0.65である。
【0016】
また、電子装置101、特に電解質層11に遠心力が作用する手段が設けられていることが好ましい。重力による比重差復元力とともに、遠心力による復元力が加わって発電効率が上がる。
また、宇宙空間等重力が作用しない空間においても、比重差に基づく復元力が発生して発電効率を上げることが可能になる。
遠心力は、例えば回転する物体の壁面に配置することなどによって作用させることができる。例えば、自転回転する宇宙船の壁面に電子装置101を配置することにより、作用させることができる。
【0017】
第1の電極層3および第2の電極層4は、ともに、電解質層11を構成する2以上の液相全てに対して耐腐食性を有する導電性の電極である。第1の電極層3および第2の電極層が耐腐食性を有することにより、経時的に安定な電子装置101になる。
ここで、第1の電極層3としては、白金(Pt)、金(Au)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド、グラファイト、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)の少なくともいずれか1を挙げることができる。
また、第2の電極層4としても、Pt、Au、BN、ダイヤモンド、グラファイト、GaN、SrTiO3、ZnOの少なくともいずれか1を挙げることができる。
【0018】
<動作>
次に、電子装置101の動作について説明する。
ここでは、簡単化してわかりやすくするため、第1の液相1が第2の液相2より比重が大きくて、かつ第1の液相1が磁場に応じて力を受け、加速度を生じるのに対して、第2の液相2は磁場に応答して加速度を生じない場合について説明する。これは、具体的には、第1の液相1として[bmim]FeCl4を、第2の液相2としてヘキサンを用いた場合に相当する。
【0019】
電解質層11に磁場がかからない(磁力線51が作用しない)状態では、比重の重い第1の液相1が第2の液相2に対して沈み込む(重力方向に沿って下側にくる)。そして、第1の液相1と接する第1の電極層3と、第2の液相2に接する第2の電極層4には各々の材料に応じた接触電位が生じる。
電解質層11に磁力線51が作用すると第1の液相1は磁力線51に応じて加速度を受ける。その方向が、重力方向と反対側、すなわち上側に向かう方向の場合、第1の液相1は上に動き、第2の液相2はそれに伴い下側に沈みこむ。そして、第1の液相1と接する第2の電極層4と、第2の液相2に接する第1の電極層3には各々の材料に応じた接触電位が生じる。
磁力線51が遮断される、あるいは時間とともに磁力線51の向きが逆側に変化すると、今度は第1の液相1が第2の液相2に対して沈み込む(重力方向に沿った下側にくる)。
このように、電解質層11に磁力線51の断続、磁力線強度および向きの周期的変化などにより時間とともに変動する磁場が作用すると、第1の液相1と第2の液相2が動き、それに伴い、材料による接触電位の差に基づき、第1の電極層3と第2の電極層4との間に電圧変動が発生する。この電圧変動を引き出して、電子装置101を交流電源、あるいは蓄電装置として利用することができる。
【0020】
第1の電極層3および第2の電極層4は、電極として作用し、電解質層11を閉じ込める壁の一部として機能する剛性を有すればよいので、その厚さはmmレベル以上であればよい。電子装置101の幅および奥行きは自由に設定することができ、例えば1cm×1cmとすることもできる。したがって、電子装置101は、小型にすることが可能で、しかも簡便な構造を有する交流発電装置、蓄電装置とすることが可能である。
【0021】
<蓄電装置>
次に、本発明による蓄電装置について、図4および図5を用いて説明する。
本発明の蓄電装置121は、図4に示すように、発電部である電子装置101(あるいはそれに変動磁場発生部を付加した電子装置。例えば実施例1で述べる電子装置102)、整流素子(整流手段)111、キャパシタ(蓄電手段)112を備え、これらが配線113で繋がれたものである。そして、キャパシタ112の両端の配線に繋がれた出力端子114から蓄電された電気を取り出すことができる。
図4に示す蓄電装置121は、電子装置101で発生した交流電流の一方向成分のみを蓄電するものであるが、電子装置101で発生した交流電流の両方向成分を蓄電して、蓄電効率を上げた構成とすることも可能である。その構成の一例を図5に示す。
図5に示す蓄電装置122は、電子装置101、整流素子(整流手段)111aおよび111b、キャパシタ(蓄電手段)112aおよび111bを備え、これらが配線113で繋がれたものである。蓄電された電気は、蓄電装置121と同様にキャパシタ112aおよび111bに繋がれた出力端子114から取り出すことができる。
蓄電装置121および蓄電装置122により、磁場を利用した発電機能を有する小型の蓄電装置が提供される。
【0022】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
実施例1は発電を可能にする電子装置102の実験実証例である。その電子装置102の概要構成を図2に示す。
第1の電極層3および第2の電極層4はともに金(Au)とし、電解質層11は、第1の液相1を磁性液体電解質である[bmin]FeCl4、第2の液相2をヘキサンとした。
前述のように、[bmin]FeCl4およびヘキサンの比重は、室温で各々1.4と0.65であり、第1の液相1の比重は第2の液相の2の比重より約2.2倍大きい。また、[bmin]FeCl4とヘキサンは相溶しない。したがって、磁場を与えていない通常状態では、第1の液相1は第2の液相2の下側に沈んだ状態になっている。
【0024】
時間的に変動する磁場は小型の磁石5を使用して印加した。すなわち、図2および図3に示すように、磁石5を遠ざけたり、近づけたりして時間的に変動する磁場を与えた。ここで、磁石5としては小型のネオジウム永久磁石を用いた。その磁束密度は580mTである。
【0025】
第2の金電極層4側に磁石5を近づけると、図3に示すように、磁石5による磁場によって磁気力が磁性液体の第1の液相1である[bmin]FeCl4に働き、第1の液相1が上側に持ち上げられる。それに伴い第2の液相2は下側に押し下げられる。したがって、第1の液相1および第2の液相2が接触する電極層は逆転する。
[bmin]FeCl4と金との接触電位は640mV(対Ag/AgCl電極)であり、ヘキサンと金との接触電位は560mV(対Ag/AgCl電極)である。そのため、第1の電極層3と第2の電極層4の間の電位に変動が生じる。
【0026】
磁石5を第2の金電極層4から遠ざけると、第1の液相1である[bmin]FeCl4に磁力が及ばなくなり、[bmin]FeCl4とヘキサンとの比重差により第1の液相1が第2の液相2の下側に沈む。それに伴い、第1の電極層3と第2の電極層4の間の電位に変動が生じる。
このようにして、磁石5を近づけたり遠ざけたりして磁場の時間変動を与えると、第1の電極層3と第2の電極層4の間に交流電流が生じる。
【0027】
図6に、磁石を近づけた後に遠ざけるという一連の動作を繰り返した際の第1の電極層3と第2の電極層4に生じる電圧をモニターした結果を示す。同図から、40〜50mVの電圧が交互に入れ替わっており、本技術により交流発電していることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、磁場のオンオフなど時間的に変動する磁場により効率的に交流電流を発生する電子装置および蓄電装置が提供される。
磁場の変動は、磁石の運動はもとより、様々な状況で発生する。それを基に発電および蓄電が行われるので、宇宙環境などこれまでにない様々な状況下で利用することが可能と考えられる。
【符号の説明】
【0029】
1:第1の液相(磁気力感応液相)
2:第2の液相(磁気力不感応液相)
3:第1の電極層
4:第2の電極層
5:磁石(ネオジム永久磁石)
6:磁気力
11:電解質層
51:磁力線(磁界)
101:電子装置
102:電子装置
111:整流素子(整流手段)
111a:整流素子(整流手段)
111b:整流素子(整流手段)
112:キャパシタ(蓄電手段)
112a:キャパシタ(蓄電手段)
112b:キャパシタ(蓄電手段)
113:配線
114:出力端子
121:蓄電装置
122:蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6