特開2020-26397(P2020-26397A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2020-26397TrkBアンタゴニストを含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-26397(P2020-26397A)
(43)【公開日】2020年2月20日
(54)【発明の名称】TrkBアンタゴニストを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20200124BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20200124BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20200124BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20200124BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20200124BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20200124BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20200124BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20200124BHJP
【FI】
   A61K38/02ZNA
   A61K38/16
   A61K47/69
   A61P29/00
   A61P3/04
   A61P11/06
   A61P25/08
   C07K14/705
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-150847(P2018-150847)
(22)【出願日】2018年8月9日
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大内田 守
(72)【発明者】
【氏名】中塚 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】板野 義太郎
(72)【発明者】
【氏名】羽間 恵太
(72)【発明者】
【氏名】池田 佳恵
(72)【発明者】
【氏名】三棹 聡美
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076CC01
4C076CC03
4C076CC15
4C076CC21
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA03
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA42
4C084CA53
4C084MA24
4C084NA14
4C084ZA061
4C084ZA062
4C084ZA081
4C084ZA082
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA701
4C084ZA702
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生体内においてTrkBタンパク質とBDNFとが異常に相互作用することに起因する症状や疾患に適用可能な医薬組成物を提供する。
【解決手段】TrkBタンパク質を構成するアミノ酸配列のうち、細胞外領域から選択される特定の部分配列を含むペプチド又はタンパク質を有効成分とする医薬組成物による。具体的には以下の1)又は2)に示すいずれかのアミノ酸配列を含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質を有効成分とする医薬組成物による。1)配列表の配列番号4又は配列番号10に示すアミノ酸配列;2)上記1)に示すアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列。更には、さらに本発明の医薬組成物は、リポソーム結合型の製剤とすることで、より継続的に医薬としての効果を発揮しうる。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BDNFとTrkBとの相互作用において、TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項2】
TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質が、以下の1)又は2)に示すいずれかのアミノ酸配列を含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質である、請求項1に記載の医薬組成物:
1)配列表の配列番号4又は配列番号10に示すアミノ酸配列;
2)上記1)に示すアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列。
【請求項3】
TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質が、以下の3)又は4)に示すいずれかのアミノ酸配列を含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質である、請求項1に記載の医薬組成物:
3)配列表の配列番号6又は配列番号11に示すアミノ酸配列;
4)上記3)に示すアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列。
【請求項4】
有効成分としてのペプチド又はタンパク質が、疼痛、肥満、喘息及びてんかんより選択されるいずれかの症状若しくは疾患の改善又は治療のために使用される、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物に含まれる有効成分としてのペプチド又はタンパク質が、リポソームと結合しているリポソーム結合型タンパク質であることを特徴とするリポソーム結合型タンパク質製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tyrosine receptor kinase B(TrkB)アンタゴニストを有効成分として含む医薬組成物に関する。具体的には、BDNFとTrkBとの相互作用において、TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質を有効成分として含む医薬組成物に関する。更には、TrkBアンタゴニストを有効成分として含む、リポソーム結合型タンパク質製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢に加えた痛みは、後根神経節(dorsal root ganglion: DRG)に存在する知覚神経(一次ニューロン)を通じて脊髄後角に伝達され、脊髄後角I層及びII層に存在する二次ニューロンにシナプスを介して伝えられ、二次ニューロンはその信号を中枢(脳)に伝達する。神経栄養因子ファミリーのうち、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)は、疼痛刺激により発現誘導される。BDNF特異的な受容体であるチロシン受容体キナーゼB(Tyrosine receptor kinase B: TrkB)はBDNFと結合するとPI3キナーゼ(phosphoinositide 3-kinase: PI3K)、MAPキナーゼ(extracellular signal-regulated kinase: ERK)、ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(phosphoinositide-specific phospholipase C: PLCγ)やNaイオンチャネル(Nav1.9)を介して痛みを伝達する。
【0003】
痛みは持続期間によって、急性疼痛と慢性疼痛とに分類される。急性疼痛は組織障害に伴う痛みでその持続期間は限られる。慢性疼痛は組織障害の治癒後にも続き、はっきりとした器質的原因を有さないことが多い。慢性疼痛における急性増悪期の痛みは急性疼痛と類似しており、内因性発痛物質が深く関わると考えられている。慢性疼痛として、交通事故又は手術後の後遺症、末期がん又は糖尿病などの耐え難い慢性的な痛みが挙げられる。また、痛みは原因によって、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛(neuropathic pain)、心因性疼痛に分類される。これらの独立した痛みは時間の経過とともに徐々に融合し、分類が困難な慢性の難治性疼痛となる。神経障害性疼痛を抑制することができれば、臨床面において患者の肉体的苦痛の緩和及びQOLの向上をもたらすことが可能となる。
【0004】
分泌型TrkB、即ちTrkBの細胞外領域のみからなるタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたベクターを有効成分とする疼痛治療剤について報告がある(特許文献1:特許第6105838号)。特許文献1では、上記遺伝子を組み込んだ発現ベクターをin vitroの培養細胞系で発現後、BDNFを捕獲可能であったことが報告された。さらに、上記発現ベクターをin vivoの疼痛モデル動物に投与したところ、慢性疼痛動物の痛みが軽減されたことも報告された。TrkB-Fc融合タンパク質が疼痛を改善することについても報告がある(非特許文献1:Journal of Neurochemistry 93: 584-594 (2005))。
【0005】
TrkBに関連して、TrkBアンタゴニストを有効成分として含む肥満又は過体重状態を治療する方法について報告がある(特許文献2:特開2009-525319号公報)。ここでは、TrkBアンタゴニストとして、抗BDNF抗体、抗TrkB抗体又はTrkB-Fc融合タンパク質が例示されている。TrkB-Fc融合タンパク質が喘息を改善することについて報告がある(非特許文献2:Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 313: L360-L370 (2017))。TrkB-Fc融合タンパク質がてんかんを改善することについても報告がある(非特許文献3:Journal of Neuroscience, 19 (4), 1424-1436 (1999))。さらに、TrkBアンタゴニストであるANA-12がうつ病に有効であることも報告されている(非特許文献4:J Clinical Investigation; 121, 1846-1857 (2011))。BDNFとそのレセプターであるTrkBとの相互作用において、TrkBの機能については不明な点も多く、各種疾患に対するTrkBの役割についても解明が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6105838号
【特許文献2】特開2009-525319号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Neurochemistry; 93, 584-594 (2005)
【非特許文献2】Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol; 313, L360-L370 (2017)
【非特許文献3】Journal of Neuroscience; 19 (4), 1424-1436 (1999)
【非特許文献4】Journal of Clinical Investigation; 121, 1846-1857 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、TrkBアンタゴニストを有効成分として含む医薬組成物を提供することを課題とする。具体的には、BDNFとTrkBとの相互作用において、TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質を見出し、医薬組成物の有効成分として提供することを課題とする。更には、有効成分としてのペプチド又はタンパク質の作用をより効果的、持続的に発揮しうる製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、TrkBタンパク質を構成するアミノ酸配列のうち、最も効果的にBDNFと相互作用する部位を見出し、本発明を完成した。当該最も効果的にBDNFと相互作用する部位に係るペプチド又はタンパク質は、BDNFとTrkBとの相互作用において、TrkBタンパク質と競合的に作用し、例えば疼痛に対して効果的に作用する。さらには、上記ペプチド又はタンパク質をリポソーム結合型ペプチド又はタンパク質とすることで、より効果的、持続的にペプチド又はタンパク質の作用を発揮する。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.BDNFとTrkBとの相互作用において、TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質を有効成分として含む医薬組成物。
2.TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質が、以下の1)又は2)に示すいずれかのアミノ酸配列を含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質である、前項1に記載の医薬組成物:
1)配列表の配列番号4又は配列番号10に示すアミノ酸配列;
2)上記1)に示すアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列。
3.TrkBタンパク質と競合的に作用するペプチド又はタンパク質が、以下の3)又は4)に示すアミノ酸配列を含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質である、前項1に記載の医薬組成物:
3)配列表の配列番号6又は配列番号11に示すアミノ酸配列;
4)上記3)に示すアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列。
4.有効成分としてのペプチド又はタンパク質が、疼痛、肥満、喘息及びてんかんより選択されるいずれかの症状若しくは疾患の改善又は治療のために使用される、前項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
5.前項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物に含まれる有効成分としてのペプチド又はタンパク質が、リポソームと結合しているリポソーム結合型タンパク質であることを特徴とするリポソーム結合型タンパク質製剤。
【発明の効果】
【0011】
TrkBタンパク質を構成するアミノ酸配列のうち、本発明の細胞外領域から選択される特定の部分配列を含むペプチド又はタンパク質はBDNFと結合能力を有し、上記ペプチド又はタンパク質はTrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用する。これにより、本発明の医薬組成物における有効成分としてのペプチド又はタンパク質は、生体内においてTrkBタンパク質とBDNFとが異常に相互作用することに起因する症状や疾患の改善又は治療のために使用することができる。具体的には疼痛、肥満、喘息及びてんかんより選択されるいずれかの症状若しくは疾患の改善又は治療のために使用することができる。本発明の有効成分としてのペプチド又はタンパク質は特に疼痛抑制効果が持続する。さらに有効成分としてのペプチド又はタンパク質が、リポソームと結合しているリポソーム結合型タンパク質の場合に、より長期間疼痛抑制効果が持続する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】TrkBタンパク質及び細胞外領域のみを持つTrkB(eTrkB)タンパク質の構造を示す図である。実施例1の各eTrkBタンパク質を作製するために、各ベクターの構成を模式的に示した図である。(実施例1)
図2】ラットTrkBタンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号1)及び図1に示すNo.1ベクターから作製されるラットTrkB部分タンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。(実施例1)
図3図1に示すNo.2〜5の各ベクターから作製されるラットTrkB部分タンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号3〜6)を示す図である。(実施例1)
図4図1に示すNo.6〜7の各ベクターから作製されるラットTrkB部分タンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号7〜8)を示す図である。(実施例1)
図5】ヒトTrkBタンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号9)、図1のNo.3に対応するベクターから作製されるヒトTrkB部分タンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号10)及び図1のNo.5に対応するベクターに含まれるヒトTrkB部分タンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号11)を示す図である。(実施例1)
図6】大腸菌を用いて作製したeTrkB精製タンパク質(No.3)について、BDNFとの結合能を電気泳動により確認した結果を示す図である。(実施例1)
図7】高等動物培養細胞を用いて作製したeTrkB精製タンパク質(No.5)について、BDNFとの結合能を電気泳動により確認した結果を示す図である。(実施例2)
図8】eTrkB精製タンパク質(No.5)の疼痛抑制効果を、L5疼痛モデルラットを用いて確認した結果を示す図である。(実験例1)
図9】eTrkB精製タンパク質(No.5)を95℃、4分加温した不活化eTrkB精製タンパク質(No.5)について、疼痛抑制効果をL5疼痛モデルラットを用いて確認した結果を示す図である。(実験例1)
図10】eTrkB精製タンパク質(No.3)、リポソーム結合型eTrkBタンパク質(No.3)について、疼痛抑制効果をL5疼痛モデルラットを用いて確認した結果を示す図である。(実験例2)
図11】eTrkB精製各種タンパク質(No.3, 5)、リポソーム結合型eTrkBタンパク質(No.3)について、疼痛抑制効果をL5疼痛モデルラットを用いて確認した結果を示す図である。(実験例3)
図12】TrkB-Fcタンパク質について、疼痛抑制効果をL5疼痛モデルラットを用いて確認した結果を示す図である。(実験例4)
図13】TrkB-Fcタンパク質について、投与量を変えて疼痛抑制効果をL5疼痛モデルラットを用いて確認した結果を示す図である。(実験例4)
図14】TrkBアンタゴニスト(ANA-12)について、疼痛抑制効果をL5疼痛モデルラットを用いて確認した結果を示す図である。(比較例1)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、TrkBアンタゴニストを有効成分として含む医薬組成物に関する。上記において、TrkBアンタゴニストとは、TrkBとBDNFの相互作用において、TrkBタンパク質と競合的にBDNFに作用する物質を意味する。係る意味において、TrkBアンタゴニストの例としてTrkBタンパク質と競合的にBDNFに作用するペプチド又はタンパク質をいう。
【0014】
本明細書において、TrkBタンパク質として、具体的にはGenBank Accession number=M55291(配列番号1)に示すアミノ酸配列を含むタンパク質、及びGenBank Accession number=Q16620.1(配列番号9)に示すアミノ酸配列を構成として含むタンパク質などが挙げられる。
【0015】
本発明の医薬組成物において、有効成分として含まれるペプチド又はタンパク質は、例えばTrkBタンパク質の細胞外領域のみを持つTrkB(eTrkB)タンパク質から選択されるペプチド又はタンパク質が挙げられる。例えば、図1に示すTrkBタンパク質の細胞外領域の1〜6に示す領域のいずれかの領域のアミノ酸配列からなるペプチド又はタンパク質、あるいはこれらのアミノ酸配列のうち1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用する機能を有するペプチド又はタンパク質が挙げられる。図1において、領域1はシグナルペプチド(Signal Peptide)配列、領域2はロイシンリッチ(Leucine rich repeat)配列、領域3は免疫グロブリン様(Immunoglobulin like)配列、領域4−5はTrkタンパク質の5番目のドメイン(Fifth domain;immunoglobuline like)を示し、領域7は膜貫通領域を示す。なお、本明細書において、ペプチドとタンパク質の違いは、これらを構成するアミノ酸数の違いにより一般的に解釈され、いわゆる当業者により適宜解釈される。本明細書において、ペプチド又はタンパク質を構成するアミノ酸数の違いについては明確な境界線は特に定義しない。
【0016】
本発明の医薬組成物において、有効成分として含まれるペプチド又はタンパク質は、具体的には配列番号2〜8、10及び11に示すアミノ酸配列より選択されるいずれかのアミノ酸配列、あるいは配列番号2〜8、10及び11に示すアミノ酸配列より選択されるいずれかのアミノ酸配列のうち1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用する機能を有するペプチド又はタンパク質が挙げられる。
【0017】
本発明の医薬組成物において、有効成分として含まれるペプチド又はタンパク質は、好ましくは、以下の1)又は2)に示すいずれかのアミノ酸配列を含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質である。
1)配列表の配列番号4又は配列番号10に示すアミノ酸配列;
2)上記1)に示すアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列。
【0018】
本発明の医薬組成物において、有効成分として含まれるペプチド又はタンパク質は、以下の3)又は4)に示すいずれかのアミノ酸配列を含み、TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質であってもよい。
3)配列表の配列番号6又は配列番号11に示すアミノ酸配列;
4)上記3)に示すアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加又は導入されてなるアミノ酸配列。
【0019】
本発明は、上記TrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質を有効成分として含む医薬組成物に関し、タンパク質製剤として使用することができる。
【0020】
本発明の医薬組成物に有効成分として含まれるペプチド又はタンパク質は、生体内においてTrkBタンパク質とBDNFとが異常に相互作用することに起因するあらゆる症状や疾患に適用することができる。係る症状や疾患の例として、疼痛、肥満、喘息及びてんかんなどが挙げられる。本発明のTrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用するペプチド又はタンパク質を有効成分として含む医薬組成物は、疼痛、肥満、喘息及びてんかんより選択されるいずれかの症状若しくは疾患の改善又は治療のために使用される。
【0021】
上記に示した生体内においてTrkBタンパク質とBDNFとが異常に相互作用することに起因するあらゆる症状や疾患のうち、特に疼痛について詳述する。痛みは持続期間によって、急性疼痛と慢性疼痛とに分類される。急性疼痛は組織障害に伴う痛みでその持続期間は限られる。慢性疼痛は組織障害の治癒後にも続き、はっきりとした器質的原因を有さないことが多い。慢性疼痛における急性増悪期の痛みは急性疼痛と類似しており、内因性発痛物質が深く関わると考えられている。慢性疼痛として、交通事故又は手術後の後遺症、末期がん又は糖尿病などの耐え難い慢性的な痛みが挙げられる。また、痛みは原因によって、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛(neuropathic pain)、心因性疼痛に分類される。これらの独立した痛みは時間の経過とともに徐々に融合し、分類が困難な慢性の難治性疼痛となる。
【0022】
神経障害性疼痛は、創傷などによる初期の痛み(急性痛)とは異なり、創傷が治癒した後に新たに発生する痛みである。神経障害性疼痛として、通常であれば痛みを引き起こさない程度の刺激によっても激烈な痛みを誘発する症状(「アロディニア」とよばれる。)が知られている。従来、神経障害性疼痛などの難治性疼痛に対しては、既存の麻薬、消炎鎮痛剤などと、神経ブロック注射(麻酔薬)を組み合わせて行なっている。しかし、何れの方法も効果は不十分である。例えば、神経障害性疼痛モデルであるL5腰髄神経結紮ラットを用いて、ノイロトロピン(Neurotropin: NTP)と疼痛疾患治療に用いられる消炎鎮痛薬及び抗うつ薬の効果を比較検討した報告がある(日本ペインクリニック学会誌 Vol.15, No.14, 407-413 (2008))。ここでは、ノイロトロピン(R)及びミルナシプランでは、薬剤投与後2時間のみ鎮痛効果が認められたことが報告されているものの、効果の持続性において十分とはいえない。
【0023】
本発明の医薬組成物を疼痛に適用する場合は、有効成分としてのペプチド又はタンパク質は、BDNFのうち脊髄後角に作用するBDNF、より具体的には知覚神経及び/又はグリア細胞などより放出されるBDNFとTrkBタンパク質との相互作用を競合的に阻害しうるペプチド又はタンパク質が好適である。本発明の医薬組成物における有効成分が脊髄後角に作用するBDNF、より具体的には知覚神経及び/又はグリア細胞などより放出されるBDNFと競合的に作用することで、BDNFとTrkBタンパク質の相互作用をブロックし、その後の痛みの伝達を抑制することができる。BDNFは、分子量13.5kDよりなる分泌性タンパク質であり、ホモ2量体を形成している。BDNFは、その受容体である標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBと高親和性に結合し、細胞内のシグナル伝達機構を介してその生理作用を発揮する。BDNFは、海馬に高濃度に存在することも知られている。BDNFは脊髄後角で痛みの伝達を増強する働きを有している可能性があることから、本発明では、BDNFとTrkBタンパク質との相互作用を競合的に阻害することで痛みを抑え得ると考えられる。
【0024】
本発明の医薬組成物に含まれる有効成分としてのペプチド又はタンパク質の量は、疼痛、肥満、喘息又はてんかん等の各症状や疾患の重症度、投与部位、投与回数、所望治療期間、患者の年齢、体重等により異なり、適宜決定することができる。本願ペプチド又はタンパク質を有効成分とする医薬組成物が溶液製剤の場合には、一般的には、溶液製剤の全体量に対して、0.01μg〜200 mg/mL、好ましくは0.5μg〜100 mg/mLのペプチド又はタンパク質を含むことができる。
【0025】
本発明の医薬組成物において、有効成分として含まれるペプチド又はタンパク質は、リポソームやマイクロカプセルと結合させることができ、より好適にはリポソーム結合型タンパク質製剤とすることができる。リポソームやマイクロカプセルと、本発明における有効成分としてのペプチド又はタンパク質を結合させることで、医薬組成物における有効成分の作用がより持続的に作用しうる。
【0026】
本発明の医薬組成物には、薬学的に許容しうる担体を含めることができる。タンパク質製剤の製剤化に際して、好ましくは安定化剤が添加される。安定化剤としては、例えば、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、マンニトール、グルコース、デキストラン、エチレングリコール等が挙げられる。さらに、本発明の製剤は製剤化に必要な添加物、例えば、賦形剤、溶解補助剤、酸化防止剤、無痛化剤、等張化剤等と配合してもよい。液状製剤とした場合は、凍結保存又は凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥剤は、用事に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。また、徐放剤とした場合は、徐放用担体として例えば、可溶性コラーゲン又は可溶性コラーゲン誘導体、ゼラチン等のタンパク質、セラミックス多孔体、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、キチン又はキチン誘導体、水膨潤性高分子ゲル等を使用することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物は、通常非経口的投与経路により投与することができ、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注、脊髄くも膜下腔内注など)として投与することができる他、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与することができる。このような医薬組成物は、溶液製剤であってもよいし、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマンニトール、ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することが出来る。溶液製剤である場合には、通常密封、滅菌されたプラスチック又はガラス製のバイアル、アンプル、注射器のような規定容量の形状の容器、ならびに瓶のような大容量の形状の容器で供給することができる。
【実施例】
【0028】
本発明の理解を助けるために、実施例、実験例等を示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0029】
(実施例1)大腸菌を用いたeTrkBタンパク質の作製
細胞外領域のみを持つTrkB(eTrkB)タンパク質を作製するため、大腸菌用発現プラスミドを構築し、大腸菌に導入後、タンパク質精製を行った。ラットTrkB遺伝子(GenBank Accession number=M55291)のアミノ酸配列(配列番号1)を基に、細胞外領域と膜貫通領域を7つ(1〜7)に区分けし、複数の領域を持つ4種類の改変型タンパク質eTrkBについて各々cDNA発現ベクターを設計した(図1参照)。
【0030】
なお、7つに区分けした領域には、以下が含まれる。
領域1=シグナルペプチド(Signal Peptide)配列
領域2=ロイシンリッチ(Leucine rich repeat)配列
領域3=免疫グロブリン様(Immunoglobulin like)配列
領域4−5=Trkタンパク質の5番目のドメイン(Fifth domain;immunoglobuline like)
領域7=膜貫通領域
【0031】
各cDNAをDNA合成にて作製した。各cDNAには精製用のS-tag配列とFLAG-tag配列を融合させ、lacプロモーターとHAT-tag配列を持つpHAT-10プラスミドに導入した。シークエンシング解析により、TrkB遺伝子及びHAT-tag、FLAG-tag、S-tag配列が確認された。
No.1:図1に示す領域234567を含むTrkB部分領域(配列番号2)
No.2:図1に示す領域23456を含むTrkB部分領域(配列番号3)
No.3:図1に示す領域456を含むTrkB部分領域(配列番号4)
No.4:図1に示す領域45を含むTrkB部分領域(配列番号5)
【0032】
pHAT-10プラスミド(No.1〜4)を導入した大腸菌BL21(DE3)pLysSを培養し、培養液にIPTG(isopropyl β-D-thiogalactopyranoside、最終濃度2 mM)を添加することによりlacプロモーターの転写を誘導し、cDNAのタンパク質発現を行なった。6時間後に培養液から大腸菌を集菌し、一部をSDS-サンプルバッファで調整後、SDSゲル電気泳動を行なった。4種類のプラスミドからタンパク質の発現を検出した。すべて、目的の推定分子量の近傍であることを確認した。残りの菌体をPBSで撹拌、超音波処理し可溶化分画と不溶化分画に分離後、SDSゲルで目的タンパク質の確認を行なった。可溶化分画に目的タンパク質が存在するのはNo.3プラスミド搭載細胞の培養上清(培養上清No.3)のみであった。
【0033】
そこで、培養上清No.3中に存在するタンパク質の可溶化分画を、HAT-tag配列に特異的に結合するTALON-Resinカラム(TAKARA BIO Inc. Siga, Japan)に吸着後、 10 mM Imidazol で洗浄し、Imidazol(150 - 1000 mM)で溶出、精製を行なった。
【0034】
培養上清No.3から精製して得たeTrkBタンパク質溶液の一部を使用して、0.5μgのBDNF(Abcam ab9794, mature type; Cambridge)とProtease inhibitor(10μL; Sigma)を添加後、30分間4℃で混合した。eTrkBタンパク質のS-tag配列を利用して、S-proteinアガロースビーズ(50μL; Novagen)でeTrkBタンパク質複合体を吸着させpull-downし、リン酸バッファーで5回洗浄した。eTrkBタンパク質がBDNFとの結合能を保持しているのであれば、eTrkBタンパク質を沈降させた複合体の中にBDNFが検出されるはずである。得られた複合体にSDS-サンプルバッファを添加後、95℃で5分間加熱処理してSDSゲル電気泳動を行い、抗BDNF抗体(ab9793)を用いたウェスタンブロットで解析したところ、BDNFが検出された(図6、レーン1)。No.3培養液から精製したeTrkBタンパク質(以下、「eTrkB精製タンパク質(No.3)」がBDNFに結合可能であることが確認された。
【0035】
(実施例2)高等動物培養細胞を用いたeTrkBタンパク質作製
細胞外領域のみを持つTrkB(eTrkB)タンパク質を作製するため、高等動物用発現プラスミドを構築し、培養細胞に導入後、タンパク質精製を行った。ラットTrkB遺伝子(GenBank Accession number=M55291)のアミノ酸配列を基に、細胞外領域を持つ3種類の改変型タンパク質eTrkB cDNA発現ベクターを設計した(図1)。
【0036】
No.5:図1に示す領域123456を含むTrkB部分領域(配列番号6)
No.6:図1に示す領域1456を含むTrkB部分領域(配列番号7)
No.7:図1に示す領域15を含むTrkB部分領域(配列番号8)
【0037】
各cDNAをDNA合成にて作製した。各cDNAには、精製用のHis-tag配列、S-tag配列及びFLAG-tag配列を融合させ、CMVプロモーターとG418薬剤耐性遺伝子を持つpCMVscriptプラスミドに導入した。シークエンシング解析により、TrkB遺伝子及びHis-tag、S-tag、FLAG-tag配列が確認された。
【0038】
ヒトHEK293細胞(T-175TCフラスコ10枚)にプラスミド(No.5〜7)をLipofectamin 2000(Invitrogen)で導入後、翌日、無血清培地に交換し、その2日後に培養上清1 Lを回収した。その培養上清の1 mLを採取し、S-proteinアガロースビーズ(50μL; Novagen)でeTrkBタンパク質をpull-downし、抗His抗体、抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロットで解析したところ、No.5プラスミド搭載細胞の培養上清(培養上清No.5)にのみeTrkBタンパク質が分泌されることを確認した。
【0039】
そこで、培養上清No.5の1 mLに0.5μgのBDNF(Abcam ab9794, mature type)とProtease inhibitor(Sigma)を添加後、30分間4℃で混合させ、S-tagアガロースビーズでeTrkBタンパク質複合体をpull-downし、リン酸バッファーで5回洗浄した。得られた複合体にSDS-サンプルバッファを添加後、95℃5分間加熱処理してSDSゲル電気泳動を行い、抗BDNF抗体(Abcam ab9793)を用いたウェスタンブロットで解析した。その結果、No.5培養液から精製したeTrkBタンパク質(以下、「eTrkB精製タンパク質(No.5)」)がBDNFに結合できることを確認した(図7、レーン2)。残りの培養上清から目的のHis-tag融合タンパク質を、Ni-NTAカラム(QIAGEN, Hilden, Germany)を用いて精製した。
【0040】
(実験例1)疼痛モデルラットへのeTrkBタンパク質の投与実験
本実験例では、実施例1で作製したeTrkB精製タンパク質(No.3)及び実施例2で作製したeTrkB精製タンパク質(No.5)について、神経障害性疼痛モデルラットへ投与し、疼痛抑制効果の判定試験を行なった。また、eTrkB精製タンパク質(No.5)については、eTrkB精製タンパク質(No.5)を95℃、4分加温して不活化させた不活化eTrkBについても疼痛抑制効果の判定試験を行なった。
【0041】
1)疼痛モデルラットの作製
Chung JMら(Methods Mol Med 2004; 99, 35-45)の方法に従い、疼痛モデルラットを作製した。生後7週齢、雄のWisterラットをセボフルランによる全身麻酔を施した。背部を正中切開しL6横突起を同定、切断した後、左のL5腰髄神経(後根神経節よりも末梢)を5-0の絹糸で結紮することで作製した(以下、「L5疼痛モデルラット」)。 膜と皮膚を縫合し、消毒を施した。モデル作製をday0とした。
【0042】
2)疼痛評価方法
疼痛評価は、von Frey testにより行った。具体的には、金網を下に引いた透明プラスチックケース(10×13×15 cm3)にラットを入れ、30分間馴化させた後、von Frey filaments (TACTILE TEST AESTHSIO, Murimachi Kikai Co.)を用いてvon Frey testを行った。疼痛閾値は、Chaplan SRら(J Neurosci Methods 1994; 53, 55-63)の方法に従い、50% PWT(paw withdrawal threshold)を計算した。疼痛閾値の変化はBonferroni法で調整されたWilcoxn rank-sum testで確認した。p < 0.05を統計学的な有意差とした。
【0043】
3)各eTrkBタンパク質の疼痛抑制作用
上記1)で作製したL5疼痛モデルラット作製1週間後(day7)に疼痛閾値を測定した。疼痛閾値測定後day7にセボフルランによるL5疼痛モデルラットの全身麻酔を行い、ラットの脊髄くも膜下へカテーテルを挿入した。23G針を穿刺し、その内腔にカテーテルを通して先端がL5椎体中央になる深さに挿入した。カテーテルを通して各eTrkB精製タンパク質を投与し、疼痛閾値を測定した。
【0044】
・eTrkB精製タンパク質(No.5)
eTrkB精製タンパク質(No.5)を100 ng/3μL投与後に生理食塩液を20μL追加で投与し(n=9)た。Controlとして生理食塩液を10μL(n=9)投与した。投与前(day 7)で1.56 vs 1.01(eTrkB群 vs Control群, p=1.00)と有意差は認められなかった。一方、投与2日後(day 9)では10.73 vs 1.19(eTrkB群 vs Control群, p=0.0068)とeTrkB精製タンパク質(No.5)投与群で有意な疼痛抑制効果が認められた。投与5日後(day 12)においては4.78 vs 1.32(eTrkB群 vs Control群, p=0.179)と抑制傾向は見られたが、統計的な有意差はなかった(図8)。
【0045】
・不活化eTrkB精製タンパク質(No.5)
上記eTrkB精製タンパク質(No.5)を95℃、4分加温した不活化eTrkB精製タンパク質(No.5)についても同様に疼痛抑制効果を確認した。100 ng/3μL投与後に生理食塩液を20μL追加で投与し(n=6)た。Controlとして生理食塩液を10μL(n=6)投与した。不活化eTrkB投与群(n=6)とcontrol群(n=6)とで疼痛閾値の差はみられなかった(図9)。これらの結果は、熱処理していない活性型のeTrkB精製タンパク質(No.5)は強力な疼痛抑制効果を持つことを示している。
【0046】
・eTrkB精製タンパク質(No.3)
eTrkB精製タンパク質(No.3)を10 ng/μLを10μL(n=3)投与し、Controlとして生理食塩液を20μL(n=5)投与した。投与4時間後(day7.5)で非常に強い疼痛抑制効果がみられ、day12ごろまで持続した(図10)。
【0047】
eTrkB精製タンパク質(No.5)は、配列表の配列番号6に示すTrkBの425アミノ酸から構成されているが、eTrkB精製タンパク質(No.3)は、配列表の配列番号4に示す131アミノ酸から構成されている。上記の結果は、TrkBの細胞外領域に係る部分配列であって、配列表の配列番号4に示す131アミノ酸で特定されるペプチドであっても疼痛抑制効果があることを示しており、有効成分のペプチドとして分子量を小さくすることが可能であることが示唆された。
【0048】
(実施例3)eTrkBタンパク質結合型リポソームの調製
本実施例では、実施例1で作製したeTrkB精製タンパク質(No.3)を用いて、eTrkBタンパク質とリポソームを結合させたeTrkBタンパク質結合型リポソーム(以下、「eTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソーム」)を作製した。
【0049】
高純度リン脂質であるCOATSOME NC-21(Hydrogenated soy phosphatidylcholines水素添加大豆ホスファチジルコリン90%)とCOATSOME FE-8181SU5(N-(Succinimidyloxy-glutaryl)-L-α-phosphatidyl ethanolamine, Dioleoyl)をクロロフォルム・メタノール溶液で溶解し、真空乾燥により溶媒を留去し、脂質薄膜を作製した。薄膜をバッファー(10 mMリン酸ナトリウム(pH8.0)、150 mM NaCl)で溶解し、バス型ソニケーター30分間処理でリポソーム化させた(片山化学工業株式会社)。
【0050】
予備検討として、ヒト血清アルブミン(HSA)とリポソームの加工処理を行い、限外濾過膜で分画した。精製したリポソームの粒子径、電位の測定を行なった後、分解して脂質定量とタンパク質定量を行なった。
【0051】
次に、この条件でeTrkB精製タンパク質(No.3)をリポソームと加工処理して、限外濾過膜で分画した。得られたeTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソームの粒子径と電位、多分散指数(Polydispersity Index:PDI、粒子径分布の幅を評価するための指数)はゼータサイザーナノ ZSP(Malvern Instruments Ltd, Worcestershire, UK)を用いて測定した。タンパク質定量は BCA Protein Assay Reagent(Thermo Fisher Scientific)を、脂質測定は リン脂質C-テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。eTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソームの粒子径は平均201 nm、電位は-16mVであった。多分散指数DPIは0.3以下の値であったので、当eTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソームからなる製剤は狭い径分布を有すると考えられる。脂質濃度は1.7 mg/mL、タンパク質濃度は57μg/mLであり、脂質あたりのタンパク質量は33.5μg/mgであった。本製剤はオレインを使用した高純度の不飽和リン脂質からなり、著しく高い酸化安定性を示すと考えられる(図10)。
【0052】
(実験例2)疼痛モデルラットへのリポソームeTrkB(No.3)の投与実験
本実験例では、上記実施例3で作製したeTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソームによる疼痛抑制効果を、実験例1と同手法によりL5疼痛モデルラットを用いてvon Frey testで評価した。
【0053】
実験例1と同様に、L5疼痛モデルラット作製1週間後(day7)に疼痛閾値を測定した後、eTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソームを脊髄くも膜下腔に投与した。eTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソームをタンパク質濃度10 ng/μLを10μL(n=4)投与した。eTrkBタンパク質(No.3)結合型リポソームでは投与4時間後(day7.5)で疼痛抑制傾向が認められ、day 16までの10日程度、疼痛抑制効果が観察された。同条件で疼痛抑制効果を確認した実験例1のeTrkB精製タンパク質(No.3)の結果と比較したところ、eTrkBタンパク質結合型リポソームは、eTrkBタンパク質の単独投与よりも、長期間抑制効果を持続することが確認された(図10)。
【0054】
(実験例3)逃避反応時間測定(Plantar 試験法)による疼痛抑制効果の評価
本実験例では、eTrkB精製タンパク質(No.3)(実施例1)、eTrkB精製タンパク質(No.5)(実施例2)及びeTrkB精製タンパク質(No.3)結合型リポソーム(実施例3)について、L5疼痛モデルラットへ投与し、逃避反応時間測定(Plantar 試験法)による疼痛抑制効果の判定試験を行なった。
【0055】
1)疼痛モデルラットの作製
実験例1の手法に従いL5疼痛モデルラットを作製した。
【0056】
2)疼痛評価方法
疼痛評価は、逃避反応時間測定(Plantar 試験法)により行った。具体的には、プラスチックケージ内にラットを1匹ずつ入れて環境に順応させた後、ガラス板の下からラットの後肢足蹠へ熱刺激を加え、後肢の逃避反応を示すまでの潜時をプランター式鎮痛効果測定装置(MODEL37370、UgoBasile社)を用いて測定し、評価した。
【0057】
3)各eTrkBタンパク質の疼痛抑制作用
上記1)で作製したL5疼痛モデルラット作製1週間後(day7)に疼痛閾値を測定後、実験例1と同手法により10 ng/μLのeTrkB精製タンパク質(No.5)を10μL(n=6)、10 ng/μLのeTrkB精製タンパク質(No.3)を10μL(n=7)、eTrkBタンパク質No.3結合型リポソーム(タンパク質濃度10 ng/μL)を10μL(n=7)、及び、Controlとして生理食塩液を10μL(n=3)投与した。
【0058】
eTrkB精製タンパク質(No.5)投与群において、投与前では逃避反応を示すまでの潜時にはControl群とほとんど差がないが、投与2日後(day9)でeTrkB投与群の逃避反応を示すまでの潜時の延長が見られた。このことは、eTrkB投与により熱刺激に対する痛覚過敏が抑制されることを示している。図11(A)
【0059】
eTrkB精製タンパク質(No.3)投与群においても同様に、投与前では逃避反応を示すまでの潜時にはControl群とほとんど差がないが、投与2日後(day9)でeTrkB投与群の逃避反応を示すまでの潜時の延長が見られた。このことは、eTrkB投与により熱刺激に対する痛覚過敏が抑制されることを示している。図11(B)
【0060】
eTrkB精製タンパク質(No.3)投与群とeTrkBタンパク質No.3結合型リポソーム投与群において、タンパク質投与ラットでは投与2日後(day9)に痛覚過敏の抑制が見られるが、リポソーム投与群ラットでは投与2日後から少なくとも投与9日後(day16)まで統計的有意に痛覚過敏の抑制が見られる。リポソーム投与群ラットの、この痛覚過敏の抑制傾向は投与後14日(day21)まで観察された。図11(C)
【0061】
(実験例4)TrkB-Fcタンパク質投与による疼痛抑制効果
本実験例では、市販のTrkB-Fc(Recombinant human TrkB-Fc Chimeraタンパク質, 688-TK-100, R&D systems)について、実験例1と同手法によりL5疼痛モデルラットへ投与し、von Frey testにより疼痛抑制効果の判定試験を行なった。
【0062】
実験例1に示したL5疼痛モデルラット作製1週間後(day7)に疼痛閾値を測定し、その後実験例1と同手法により脊髄くも膜下腔にTrkB-Fcを100 ng/5μL投与した(n=6)。Controlとして生理食塩液を10μL(n=6)投与した。疼痛閾値を測定した結果、TrkB-Fc群とcontrol群との間に有意差は認められなかった(図12)。TrkB-Fcタンパク質量としてeTrkBタンパク質量と同様に100 ng投与したが、疼痛閾値の改善効果が低かった理由として、TrkB-Fcは分子量が大きくなり、有効成分としてのTrkBタンパク質の投与モル数が低いためと考えられた。
【0063】
上記結果より、TrkB-Fcの投与量を増加させることで疼痛閾値の改善がみられるかを確認した。TrkB-Fcを1μg/5μLを投与した以外は、上記と全く同条件で疼痛閾値を測定した。その結果、疼痛閾値改善効果が確認された(図13)。上記結果より、eTrkBタンパク質はTrkB-Fcよりも少ない投与量で鎮痛効果を発揮しうると考えられた。
【0064】
(比較例1)TrkBアンタゴニスト(ANA-12)投与による疼痛抑制効果
本実験例では、TrkBアンタゴニストであるANA-12(SML 0209, N-[2-[[(Hexahydro-2-oxo-1H-azepin-3-yl)amino]carbonyl]phenyl]-benzo[b]thiophene-2-carboxamide, igma-Aldrich)について、実験例1と同手法によりL5疼痛モデルラットへ投与し、von Frey testにより疼痛抑制効果の判定試験を行なった。
【0065】
実験例1に示したL5疼痛モデルラット作製1週間後(day7)に疼痛閾値を測定し、その後実験例1と同手法により脊髄くも膜下腔にANA-12を100 ng/5μL投与した(n=7)。Controlとして生理食塩液を10μL(n=6)投与した。
【0066】
投与前 (day 7)では、0.74 vs 0.78(ANA-12群 vs control群, p=1.00)であり、両群間で差はなかったが、ANA-12投与4時間後(day 7.5)に11.83 vs 1.01(ANA-12群 vs Control群, p=0.0132)と有意差を認めた。day 8では3.47 vs 1.19(ANA-12群 vs Control群, p=0.0704)であり、ANA-12投与が疼痛抑制効果を示す傾向はみられたが、統計学的な有意差はみられなかった。投与後2日(day 9)では1.60 vs 1.32 (ANA-12群 vs Control群, p=0.88)であり、両群間で差はなかった(図14)。
【0067】
ANA-12はTrkBのアンタゴニストとして働き、BDNFと競合することでBDNF/TrkB経路を阻害しうることが報告されている(Cazorla M.ら, J Clinical Investigation 2011; 121, 1846-1857)。ANA-12に関し、これまでうつ病に関する報告はいくつかみられる(Zhang JCら, Int J Neuropsychopharmacol 2015; 18, 1-9、Shirayama Yら, Eur Neuropsychopharmacol 2015; 25, 2449-2458)。一方、神経障害性疼痛に関する報告はなく、脊髄くも膜下腔への投与で疼痛閾値が改善した報告は、本比較例での結果が初めてである。しかしながら、ANA-12投与によりみられた疼痛の改善効果は投与4時間後で確認されたが、翌日にはL5疼痛モデルラットは疼痛過敏の状態となっていた。eTrkBタンパク質は2日後にも疼痛閾値改善効果がみられたことから、1回の投与では、eTrkBタンパク質はANA-12より長い時間効果が持続すると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上詳述したように、TrkBタンパク質を構成するアミノ酸配列のうち、本発明の細胞外領域から選択される特定の部分配列を含むペプチド又はタンパク質はBDNFと結合能力を有し、上記ペプチド又はタンパク質はTrkBタンパク質と競合的にBDNFと相互作用する。これにより、本発明の医薬組成物における有効成分としてのペプチド又はタンパク質は生体内においてTrkBタンパク質とBDNFとが異常に相互作用することに起因する症状や疾患の改善又は治療のために使用することができる。具体的には疼痛、肥満、喘息及びてんかんより選択されるいずれかの症状若しくは疾患の改善又は治療のために使用することができる。本発明の有効成分としてのペプチド又はタンパク質は特に疼痛抑制効果が持続する。さらに有効成分としてのペプチド又はタンパク質が、リポソームと結合しているリポソーム結合型タンパク質の場合に、より長期間疼痛抑制効果が持続する。
【0069】
上記に示した症状、疾患のうち、特に疼痛について、既存の医薬品を用いても効果の持続性において十分とはいえないのが現状である。本発明の医薬組成物における有効成分としてのペプチド又はタンパク質を使用することで、より持続的に効果を発揮しうることが確認され、リポソーム結合型の製剤とすることで、更にその効果の持続が期待される。慢性疼痛として、交通事故又は手術後の後遺症、末期がん又は糖尿病などの耐え難い慢性的な痛みが挙げられる。がんや糖尿病の患者数は多い。これらの患者に伴う慢性疼痛の症状を抑制又は軽減することができれば、臨床面において患者の肉体的苦痛の緩和及びQOLの向上をもたらすことが可能となり、産業上の利用可能性も優れている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]