特開2020-26417(P2020-26417A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-26417(P2020-26417A)
(43)【公開日】2020年2月20日
(54)【発明の名称】ヒト血中尿酸値の正常化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20200124BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20200124BHJP
【FI】
   A61K31/7004
   A61P19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-153674(P2018-153674)
(22)【出願日】2018年8月17日
(71)【出願人】
【識別番号】390015004
【氏名又は名称】株式会社サナス
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一浩
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZC31
(57)【要約】
【課題】ヒトの血中尿酸値を正常値3.7〜7.0mg/dLに維持または変化させること。
【解決手段】1,5−アンヒドロ−D−フルクトースを含有する、血中尿酸値の正常化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5−アンヒドロ−D−フルクトースを含有することを特徴とする血中尿酸値正常化剤。
【請求項2】
経口投与剤の形態にある請求項1に記載の血中尿酸値正常化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5−アンヒドロ−D−フルクトースのヒト血中尿酸値の正常化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
尿酸はヒトの体内ではプリン体からキサンチンを経由しキサンチンオキシダーゼで酸化され生成する。体内のプリン体は内因性のものが7〜8割、残りは食餌性プリン体であると言われている。尿酸は非常に強い抗酸化性を示し、ヒトにとって必要な成分であるため体内に一定量をプールしており、過剰な尿酸は尿や糞中に排泄し、適切な血中尿酸量を維持している。一方で食事からの尿酸の前駆物質であるプリン体の過剰な摂取、尿酸分解を阻害するアルコールの摂取や肥満などにより尿酸の摂取量や排泄量のバランスが崩れ、その結果として血中の尿酸値が7.0mg/dLを超えると、高尿酸血症と診断される。このような状態では通風や腎障害のリスクが高まるため尿酸値を正常な範囲に戻す必要がある。血中尿酸値を低下させる薬剤が販売されており、その剤には体内の尿酸生合成の阻害剤と尿酸の排泄の促進剤がある。尿酸の生合成阻害剤としてはアロプリノールとフェブキソスタットが、尿酸の尿中排泄促進剤としてはベンズブロマロンやプロベネシドがあるが、これらの薬剤にはしびれ、じんましん、血尿、食欲不振、吐き気、発疹、むくみなどの副作用が発生する場合がある。一方で副作用のない、尿酸血症の予防方法として食品素材による尿酸値の低下剤が提案されている。例えば、レモンポリフェノールがマウス、ヒトで効果があること(特許文献1)、大麦発酵成分に効果があることが報告されている(特許文献2)。このように尿酸値を下げる目的の薬や食品成分は効果があるものの、尿酸値が低くなりすぎることも問題であるため、尿酸値の正常化に寄与する剤が求められる。
【0003】
1,5−アンヒドロ−D−フルクトース(以下、1,5−AF)はでん粉などのα−1,4−グルカンにα−1,4−グルカンリアーゼを作用させることで製造することができる糖であり、1,5−AFを高割合で含有する水あめ製品が食品用素材として我が国で販売されている。この糖は抗酸化性や静菌作用があることから、食品の日持向上の目的で使用される(非特許文献1)。また、1,5−AFには抗炎症作用などの健康機能が報告されているが(特許文献3)、尿酸値と1,5−AFの関連性については報告がない。
【0004】
1,5−アンヒドログルシトール(以下、1,5−AG)はヒトの体内に存在する糖で、正常なヒトでは血中濃度が20μg/ml程度に保たれている。ヒトの体内の1,5−AGは体内のグリコーゲンから1,5−AFを中間体として生合成される内因性のものと、食品から摂取する外因性のものが存在するとみられている。1,5−AGは様々な食品に微量ではあるが存在し、ヒトは1,5−AGを一日に4.8mg摂取していると報告されている。さらに過剰な1,5−AGを経口摂取した場合にはほぼ100%が尿中に排泄されることが報告されている(非特許文献2)。また、正常なヒトでは食品からの摂取量、体内の生合成量、尿中への排泄量のバランスが保たれ血中の1,5−AG濃度は一定に保たれているが、血糖が高くなると尿中への排泄が多くなり、血中濃度が下がることも報告されている。一方で1,5−AFを経口摂取した場合にどのように代謝されるかについては未だ明らかになっていない。
【0005】
体内の尿酸は体内のプール量を維持するために排泄だけでなく、尿細管から腎臓トランスポーターURAT1を介して細胞に吸収され、グルコースのトランスポーターと考えられていた血管側の膜の腎臓トランスポーターURATV1を介して血中に移行することも報告されている(非特許文献3)。
糖尿病患者は尿酸値が低くなるが、2型糖尿病患者や正常な耐糖能のヒトでも血中尿酸値と血中1,5−AG濃度は正の相関をすることが報告されている(非特許文献4、5)。一方で血中1,5−AG濃度を高めることや、尿中に1,5−AGが多く排出されるような状況になった場合の尿酸排出への影響に対する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−59104号公報
【特許文献2】WO2008/129802号公報
【特許文献3】特開2006−306814号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本応用糖質科学会誌、1巻(2011)1号 70−75
【非特許文献2】British J Nutri(2017)118,81−91
【非特許文献3】生化学 第83巻 第4号 323−328
【非特許文献4】人間ドック24(5)40−44、2000
【非特許文献5】Gout and Nucleic Acid Metabolism,2011,35,9−17.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安全で副作用がなく、摂取に負担のない素材からなり、効果的に血中尿酸値を正常値化させるための剤の提供である。
【0009】
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は1,5−AFのヒト安全性試験の血液検査データを細部にまで解析することで、1,5−AF摂取によりヒトの血中尿酸値を正常化できることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、本発明の目的および利点は、1,5−AFを含有することを特徴とする血中尿酸値の正常化剤により達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、1,5−AFからなる血中尿酸値の正常化剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、尿酸値の正常化剤における正常化とは、ヒトの血中尿酸値を、正常と云われている3.7−7.0mg/dLの範囲に維持または変化させる作用をいう。このことは、血中尿酸値が上記範囲を外れる、下限値未満および上限値超のヒトについては、上記範囲に変化あるいは戻すことを意味しており、また上記範囲にあるヒトについては上記範囲に維持することを意味している。
本発明で使用する1,5−AFはでん粉などのα−1,4−グルカンをα−1,4−グルカンリアーゼで分解することにより生産できる。また、本発明で使用する1,5−AFはこの製造方法に限定されるものではない。
【0013】
1,5−AFのヒトへの投与方法は経口投与であり、経口投与回数や投与の時間などは特に制限されるものではない。1,5−AFの投与量は、1日あたり50mg以上がよく、より好ましくは500mg以上、さらに好ましくは2g以上である。1日あたりに20gを超えると、摂取することの負担が大きくなるので20g以下が好ましい。より尿酸値の正常化を効果的にするには毎日連続して摂取するのが好ましく、連続で1週間、好ましくは4週間、より好ましくは8週間にわたり摂取するのが望ましい。
1,5−AFの投与の状態は粉末状、錠剤状、顆粒状、液体、カプセル状、ペスート状、などいずれの形態でも良く、賦形剤や溶媒はなんら限定されるものではないが、賦形剤の例としはぶどう糖、マルトデキストリン、水あめ、でん粉、乳糖などが挙げられる。また、溶媒としては水、果汁、アルコール、牛乳などが例示できる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0014】
実施例1
1,5−AFの食品としての安全性については、マウスやラット、カニクイザルで十分な安全性試験を実施してきた。さらに1,5−AFの安全性を確かなものとするためにヒトでの安全性試験を実施した。
被験者は年齢20−64歳の健常男女から11名を選抜した。被検食品は株式会社サナス(旧日本澱粉工業株式会社)製の「アンヒドロース(製品名)」を用いた。「アンヒドロース」は製品20g中に1,5−AFを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む製品である。この製品を被検物質として20gを1日1回経口摂取させた。摂取期間は28日間とした。体調確認、理学検査、血液検査、尿検査を被検物質の投与前、摂取2週目、摂取4週目、摂取終了後2週目に実施した。
【0015】
投与期間中に有害事象は11名中3名で4件発現したが、いずれも被検食品以外の原因であったことが明確であった。身体測定値、理学検査値、臨床検査値については一部の項目で有意な変動が認められたが、いずれも基準範囲内の変動であり、試験食品との関連性はないと判断された。その他、試験食品に起因する有害事象は体調確認、理学検査、血液検査、尿検査で認められなかった。一方で個別にデータを解析すると、尿酸値については投与前と投与2週間後で比較すると、表−1に示すように尿酸値が5.9mg/dL以上の被験者はすべてその値が下がっていた。また、4週間後のデータでは投与前の尿酸値が4.1mg/dL以下の被験者はすべてその値が高くなり、投与前の尿酸値が4.8mg/dL以上の人は6人中4人の尿酸値が下がっていた。尿酸値は3.7〜7.0mg/dLの範囲が正常であるが、尿酸値が7.1mg/dLで高尿酸血症の被験者は投与後に尿酸値が6.8mg/dLとなり、正常範囲となった。また、3.6mg/dLの被検者は4.3mg/dLとなり、正常な範囲となった。最も投与前に値の低かった3.2mg/dLの被験者は3.6mg/dLまで高まった。このように1,5−AFの経口での連続摂取で血中尿酸値が正常な値に近づくことが解った。本試験は、「ヘルシンキ宣言(2013年10月修正)及び「疫学研究に関する倫理指針(文部科学省、厚生労働省告示、平成20年12月1日一部改正)」を遵守し、本試験実施計画書に準拠して実施した。
【0016】
【表1】
【0017】
実施例2
1,5−AFには動物細胞を用いた試験で健康機能があることが解っている。また、実施例1に示すようにヒトへの1,5−AFの投与試験で血中尿酸値が正常化することが解った。そこで1,5−AFを経口的に連続で摂取することによるヒトの血液生化学項目の変化について調べた。被験者は年齢42−58歳の男女6名を選抜した。被検食品は株式会社サナス(旧日本澱粉工業株式会社)製のアンヒドロースを用いた。アンヒドロースは製品20g中に1,5−AFを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む製品である。この製品を被検物質として20gを1日1回経口摂取させた。摂取方法と摂取時間は自由とし、摂取期間は28日間とした。体調確認、採血を摂取4週目に実施した。
【0018】
投与後の採血の結果、血液生化学検査の項目の中で尿酸値以外については有意な変化は認められなかった。一方、表−2に示すように、尿酸値については6人中5人が摂取前より摂取後の方が適正な値に近づいていた。この結果より1,5−AFの連続経口摂取により血中尿酸値が正常化することが解った。
本試験は、「ヘルシンキ宣言(2013年10月修正)及び「疫学研究に関する倫理指針(文部科学省、厚生労働省告示、平成20年12月1日一部改正)」を遵守し、本試験実施計画書に準拠して実施した。
【0019】
【表2】
【0020】
実施例3
実施例1、実施例2の臨床試験により1,5−AFの投与が血中尿酸値を適正な値に変化させることが解った。特に血中尿酸値が6.5−8.0付近の境界域のヒトに対して有効であることが解った。そこで尿酸値が高い方の境界域に近いボランティアの男5名を選抜しヒト試験を実施した。被検食品は株式会社サナス製のアンヒドロースを用いた。アンヒドロースは製品20g中に1,5−AFを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む製品である。この製品を被検物質として20gを1日1回経口摂取させた。摂取方法と摂取時間は自由とし、摂取期間は28日間とした。採血は投与前、投与4週間後に実施した。その結果、表−3に示すように投与前後で比較すると被験者5人中4人が0.3−1.1mg/dLの間で尿酸値が下がっており、1,5−AFの摂取で血中尿酸値が正常値に近づくことが確認できた。また、水あめ単独には尿酸値の正常化効果はないことも解った。
本試験は、「ヘルシンキ宣言(2013年10月修正)及び「疫学研究に関する倫理指針(文部科学省、厚生労働省告示、平成20年12月1日一部改正)」を遵守し、本試験実施計画書に準拠して実施した。
【0021】
【表3】