【課題】優れた防食性を有するとともに、高湿度の条件において過膜厚の塗装を行った際にも塗膜内に水素ガスを発生させることがなく、現場での塗装適用幅の広い塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)鉄よりも卑な金属、(B)バインダー樹脂、(C)付着促進剤、及び(D)水を含む塗料組成物であって、(B)バインダー樹脂は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びエポキシエステル樹脂より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、(C)付着促進剤は、リン酸エステル化合物及びスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする塗料組成物である。
(A)鉄よりも卑な金属、(B)バインダー樹脂、(C)付着促進剤、及び(D)水を含む塗料組成物であって、(B)バインダー樹脂は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びエポキシエステル樹脂より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、(C)付着促進剤は、リン酸エステル化合物及びスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする塗料組成物。
(B)バインダー樹脂及び(C)付着促進剤の合計重量に対する(A)鉄よりも卑な金属の重量割合が(A)/[(B)+(C)]=3〜15の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の塗料組成物。
(B)バインダー樹脂の塗料中の含有量が5〜30重量%の範囲内であるとともに、(C)付着促進剤の塗料中の含有量が0.1〜10重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の塗料組成物。
(A)鉄よりも卑な金属の重量に対する(C)付着促進剤の重量割合が(C)/(A)=0.001〜0.2の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の塗料組成物。
前記塗料組成物による金属系基材の塗装条件が、温度5℃〜40℃、相対湿度50〜95%の塗装環境下において、乾燥膜厚30〜500μmの塗膜を形成する塗装条件である、請求項10に記載の防食方法。
前記塗料組成物による金属系基材の塗装条件が、温度20℃〜40℃、相対湿度60〜95%の塗装環境下において、乾燥膜厚250〜500μmの塗膜を形成する塗装条件である、請求項10に記載の防食方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の塗料組成物は、鋼構造物の一般部の塗装に対して優れた性能を発揮することができるが、本発明者が検討を続けたところ、塗料調合後、水と亜鉛末の反応によって水素ガスが発生することから、高湿度等の塗膜乾燥に時間を要する塗装条件下、鋼材の継ぎ目部や段差部等で過膜厚となった箇所では、塗膜が表面乾燥した後に塗膜内で水素ガスが発生することが明らかになった。発生した水素ガスは、塗装前の塗料の状態においては大気中に放散されるものの、表面乾燥した後の塗膜内で発生した場合には、大気中に逃げることができず、塗膜欠陥に繋がる恐れがある。
【0006】
ジンクリッチペイントにおいて水素の発生を抑制する方法としては、加水分解によって重合度を低下させたアルカリケイ酸塩溶液と亜鉛粉末を混合して得られる亜鉛粉末含有スラリーを用いて亜鉛粉末の表面にシリカの緻密な被膜を形成させ、亜鉛と水との接触を防止して亜鉛粉末の高い水中安定性を得る方法(特開2004−2637号公報)、メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いて、シランカップリング剤の分子中に含まれるメルカプト基が、亜鉛粉末と選択的に化学結合を形成し、亜鉛粉末の反応を抑制する保護効果を与える方法(特開2004−35828号公報)、鱗片状亜鉛粉末粒子に疎水基を持つシラン化合物を付加することによって結合剤水溶液との反応による水素泡の発生を抑制する方法(特開2005−194490号公報、特開2005−238001号公報)等が提案されている。
【0007】
しかしながら、これら従来の方法は、水中において亜鉛末表面を保護する方法であることから、塗膜乾燥過程における水素ガスの発生については考慮されておらず、高湿度の環境下において過膜厚に塗装された場合に生じる水素ガス発生を十分に防止することができないとともに、亜鉛の表面を過剰に被覆してしまうことから、亜鉛の有する犠牲防食機能を低下させ、防食性と水素ガス発生抑制を両立できるものではなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、優れた防食性を有するとともに、高湿度の条件において過膜厚に塗装された場合にも塗膜内に水素ガスを発生させることがなく、現場での塗装適用幅の広い塗料組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる塗料組成物を用いた防食方法及び塗装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、リン酸エステル又はスルホン酸エステルである付着促進剤を、亜鉛のような鉄よりも卑な金属を含む防食用塗料組成物に配合することで、高湿度、過膜厚の塗装条件下であっても、水素ガス発生による塗膜欠陥を生じることがなく、現場での塗装適用幅の広い犠牲防食機能を示す防食用塗料組成物を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の塗料組成物は、(A)鉄よりも卑な金属、(B)バインダー樹脂、(C)付着促進剤、及び(D)水を含む塗料組成物であって、(B)バインダー樹脂は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びエポキシエステル樹脂より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、(C)付着促進剤は、リン酸エステル及びスルホン酸エステルから選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする。
【0011】
本発明の塗料組成物の好適例においては、(C)付着促進剤が、アルキル基及びアリル基から選択される少なくとも1つの基を有する化合物である。
【0012】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、(C)付着促進剤が、リン酸エステルの遊離酸である。
【0013】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、(C)付着促進剤の分子量が300〜3000の範囲内である。
【0014】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、(A)鉄よりも卑な金属が、亜鉛である。
【0015】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、(B)バインダー樹脂及び(C)付着促進剤の合計重量に対する(A)鉄よりも卑な金属の重量割合が(A)/[(B)+(C)]=3〜15の範囲内である。
【0016】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、(B)バインダー樹脂の塗料中の含有量が5〜30重量%の範囲内であるとともに、(C)付着促進剤の塗料中の含有量が0.1〜10重量%の範囲内である。
【0017】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、(A)鉄よりも卑な金属の重量に対する(C)付着促進剤の重量割合が(C)/(A)=0.001〜0.2の範囲内である。
【0018】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、(B)バインダー樹脂がエポキシ樹脂であり、硬化剤としてアミン化合物を更に含む。
【0019】
また、本発明の防食方法は、上記の塗料組成物で金属系基材を塗装して塗膜を形成させる工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の防食方法の好適例においては、前記塗料組成物による金属系基材の塗装条件が、温度5℃〜40℃、相対湿度50〜95%の塗装環境下において、乾燥膜厚30〜500μmの塗膜を形成する塗装条件である。
【0021】
本発明の防食方法の他の好適例においては、前記塗料組成物による金属系基材の塗装条件が、温度20℃〜40℃、相対湿度60〜95%の塗装環境下において、乾燥膜厚250〜500μmの塗膜を形成する塗装条件である。
【0022】
本発明の防食方法の他の好適例においては、前記塗料組成物とは異なる水性塗料で前記塗膜を塗装して更なる塗膜を形成させる工程を含む。
【0023】
また、本発明の塗装体は、金属系基材と、金属系基材上に形成された塗膜とを備えており、前記塗膜が上記の塗料組成物から形成されていることを特徴とする。
【0024】
本発明の塗装体の好適例においては、前記塗膜上に形成された更なる塗膜を備えており、該更なる塗膜が、前記塗料組成物とは異なる水性塗料から形成されている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の塗料組成物によれば、優れた防食性を有するとともに、高湿度の条件において過膜厚の塗装を行った際にも塗膜内に水素ガスを発生させることがなく、現場での塗装適用幅の広い塗料組成物を提供することができる。また、本発明の防食方法及び塗装体によれば、かかる塗料組成物を用いた防食方法及び塗装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の塗料組成物を詳細に説明する。本発明の塗料組成物は、(A)鉄よりも卑な金属、(B)バインダー樹脂、(C)付着促進剤、及び(D)水を含む塗料組成物であって、(B)バインダー樹脂は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びエポキシエステル樹脂より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、(C)付着促進剤は、リン酸エステル及びスルホン酸エステルから選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする。
【0027】
本発明の塗料組成物は、(A)鉄よりも卑な金属を含む。本明細書において「鉄よりも卑な金属」とは、鉄よりもイオン化傾向の大きい金属又は該金属を含む合金を意味し、亜鉛、アルミニウム、マンガン、マグネシウム等の金属単体やその合金が挙げられる。以下、「(A)鉄よりも卑な金属」を成分(A)ともいう。鉄や鉄よりも貴な金属を含む基材を、成分(A)を含む塗料組成物で塗装することにより、該基材に防食性を付与することができる。このように、被塗物に防食性を付与する塗料組成物を防食用塗料組成物とも称される。なお、本明細書において「鉄よりも貴な金属」とは、鉄よりもイオン化傾向の小さい金属又は該金属を含む合金を意味する。
【0028】
(A)鉄よりも卑な金属は、塗料や塗膜中に分散させる観点から粉末状であることが好ましい。本発明の塗料組成物中において、成分(A)の含有量は、40〜80重量%であることが好ましい。成分(A)は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。成分(A)は、市販品を使用することができる。
【0029】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中における(A)鉄よりも卑な金属の含有量は、60〜90重量%であることを例示することができ、70〜90重量%であることが好ましい。ここで、不揮発分とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分であるが、本発明においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を不揮発分として取り扱う。本発明の塗料組成物において、不揮発分の含有量は、75〜90重量%であることが好ましい。
【0030】
本発明の塗料組成物において、(A)鉄よりも卑な金属は、防食性の観点から、亜鉛であることが好ましい。本発明の塗料組成物において、不揮発分中における亜鉛の含有量は70重量%以上であることが好ましく、このように亜鉛を多く含有する塗料組成物をジンクリッチペイントと称する。また、本発明の塗料組成物においては、亜鉛ニッケル、亜鉛鉄、すず亜鉛等の亜鉛系合金を用いることも好ましい。
【0031】
本発明の塗料組成物において、(A)鉄よりも卑な金属は、塗料中での分散性、混合時の作業性及び塗膜の防食性等の点から、自然落下法によって測定されるかさ比重が1.0以上のものであることが好ましく、特に2.0以上のものが更に好ましい。ここで、成分Aの自然落下法によるかさ比重の算出法は、成分A 100g(m)を上皿天秤にて測り取り、漏斗を用いて200mLメスシリンダー(最小目盛単位:2mL)へ徐々に落下させ、メスシリンダーを静かに傾け最上部の試料面を圧密せずに注意深く平らに均した後、その時点のかさ体積(V0)を最小目盛単位まで読み取る。その後、m/V0によってかさ比重(g/mL)を算出した。本発明におけるかさ比重は、5回測定の平均値を採用した。
【0032】
本発明の塗料組成物において、(A)鉄よりも卑な金属は、体積平均粒子径は3〜15μmの範囲内であることが好ましい。本明細書において、体積平均粒子径は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D
50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばSALD−7000:株式会社島津製作所社製)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。そして、本明細書における粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0033】
本発明の塗料組成物は、(B)バインダー樹脂を含む。以下、「(B)バインダー樹脂」を成分(B)ともいう。成分(B)としては、特に限定されるものではなく、水溶性樹脂、水分散性樹脂を問わず、塗料業界において水性塗料に通常使用されているバインダー樹脂を例示することができる。また、成分(B)は、1液型塗料組成物に使用されるバインダー樹脂であってもよいし、後述する硬化剤と併用する2液型塗料組成物に使用されるバインダー樹脂であってもよい。成分(B)として、具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、基材への付着性や防食性に優れる観点から、バインダー樹脂(B)は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びエポキシエステル樹脂より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましく、エポキシ樹脂を含むことが更に好ましい。なお、成分(B)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステル類又はメタクリル酸エステル類の重合体であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸並びにそのエステル、アミド及びニトリル等から選択されるアクリル成分の1種又は複数種を重合させて得られる重合体が挙げられ、更には、アクリル成分と、例えば、スチレン等の非アクリル成分とを重合させて得られる重合体も含まれる。
【0035】
エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する樹脂であることが好ましく、例えば、多価アルコール又は多価フェノールとハロヒドリンとを反応させて得られるものであり、具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0036】
エポキシエステル樹脂は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基にアクリル酸やメタクリル酸等のカルボン酸のカルボキシル基を反応させて得られるエステル部分を有する樹脂である。
【0037】
本発明の塗料組成物中において、(B)バインダー樹脂の含有量は、5〜30重量%の範囲内であることが好ましく、10〜20重量%の範囲内であることが更に好ましい。また、本発明の塗料組成物において、不揮発分中における(B)バインダー樹脂の含有量は、5〜30重量%であることを例示することができ、10〜30重量%であることが好ましい。
【0038】
本発明の塗料組成物は、硬化剤を含むことができる。本発明に使用できる硬化剤としては、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択され、塗料業界において通常使用されている硬化剤を使用できる。これら硬化剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化剤の含有量は、樹脂に含まれる硬化剤との反応性基の量に応じて適宜調整されるものであるが、本発明の塗料組成物において、不揮発分中における硬化剤の含有量は、例えば1.0〜15重量%であることが好ましい。
【0039】
例えば、水酸基を含むような樹脂(水酸基含有アクリル樹脂など)に対しては、イソシアネート系硬化剤が好適に使用できる。具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の他、これらポリイソシアネートの変性体が挙げられる。変性体の具体例としては、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体(例えばトリメチロールプロパン付加物)、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体等が挙げられる。
【0040】
また、エポキシ樹脂に対しては、アミン系硬化剤が好適に使用できる。具体例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、トリアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ポリアミン;フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、及びジアミノジフエニルメタン等の芳香族ポリアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、トリエチレングリコールジアミン、及びトリプロピレングリコールジアミン等の他のポリアミン化合物と、これらアミン化合物のアミノ基を変性してなる変性ポリアミン化合物とが挙げられる。なお、上記アミン化合物の変性には、既知の方法が利用でき、変性反応の例としては、アミノ基のアミド化、アミノ基とカルボニル化合物のマンニッヒ反応、アミノ基とエポキシ基の付加反応等が挙げられる。ここで、アミノ基にエポキシ基等が付加したタイプの変性ポリアミン化合物をアダクトタイプの変性ポリアミン化合物といい、アミノ基にエポキシ基が付加したエポキシアダクトタイプの変性ポリアミン化合物が好ましい。
【0041】
本発明の塗料組成物は、基材への付着性や防食性に優れる観点から、(B)バインダー樹脂がエポキシ樹脂であり、硬化剤としてアミン化合物を含む塗料組成物であることが好ましい。
【0042】
本発明の塗料組成物は、付着促進剤を含むものであるが、付着促進剤として、リン酸エステル化合物及びスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物である(C)付着促進剤を含む。以下、「(C)付着促進剤」を成分(C)ともいう。付着促進剤とは、塗膜と基材(特には金属系基材)の付着性を向上させるために塗料中に配合される成分であるが、これら付着促進剤のうち、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物である付着促進剤を、成分(A)を含む塗料組成物に配合することで、高湿度の条件において過膜厚に塗装された場合にも塗膜内に水素ガスを発生することがなく、塗膜の膨れを防止することができるため、現場での塗装適用幅の広い塗料組成物を提供することができる。
【0043】
本明細書において「塗装環境」とは、塗装が行われる環境を指し、例えば構造物の塗装を行う場合は屋外が塗装環境になる。本発明の塗料組成物は、高湿度の条件において過膜厚の塗装を行った際にも塗膜内の水素ガス発生を防止することができるが、例えば、相対湿度が60〜100%、特には75〜100%で且つ乾燥膜厚が150μm以上、特には300μm以上である塗装条件下であっても、塗膜膨れの発生を十分に防止することができる。また、塗装環境が低温であると、乾燥に更に時間を要し、乾燥温度が高温になると表面乾きし易くなると同時に亜鉛と水が反応し易くなるため、水素ガス発生は塗装温度にも影響を受けるが、本発明の塗料組成物は、例えば、温度が5℃〜35℃で、相対湿度が60〜100%で且つ乾燥膜厚が300〜500μmである塗装条件下であっても、塗膜膨れの発生を十分に防止することができる。
【0044】
付着促進剤は、例えば、金属系基材の表面と何らかの結合を形成する部位と、塗膜を構成する樹脂との相溶性の高い部位とをその分子中に有するものが知られているが、リン酸エステル化合物及びスルホン酸エステル化合物である(C)付着促進剤であれば、塗料組成物中においては、リン酸由来の構造(P(=O)(−O)
3)やスルホ基由来の構造(S(=O)
2(−O))を介して、亜鉛等の成分(A)の表面に結合して該表面を覆うことで、乾燥過程における成分(A)と水の反応による水素の形成を効果的に抑制することができる。また、塗膜の付着性も向上できることから、最終的に塗膜が形成された際には、付着促進剤の本来の用途の通り、成分(C)のリン酸由来の構造やスルホ基由来の構造は、金属系基材の表面に結合しているものと考えられる。実際、本発明の塗料組成物が優れた防食性を有していることからも、塗料組成物中で成分(A)の表面を覆っていた成分(C)の少なくとも一部は、金属系基材の表面に結合しているものと考えられる。
【0045】
本発明の塗料組成物において、(C)付着促進剤は、分子量が300〜3000の範囲内であることが好ましく、分子量が400〜2000の範囲内であること、特には500〜1200の範囲内であることが更に好ましい。成分(C)の分子量が大きくなるほど、塗膜を構成する樹脂との相溶性の高い部位が分子中を占める割合が高くなるが、分子量が大きくなりすぎると、金属系基材や成分(A)と結合する能力が弱くなるため、上記特定した範囲の分子量を有する成分(C)が好ましい。
【0046】
本明細書において「リン酸エステル化合物」とは、リン酸(O=P(OH)
3)が持つ3つのOH基の水素の一部又は全部が有機基で置換された化合物であり、ここで、リン酸が持つ3つのOH基のうち1つのOH基の水素が有機基で置換された化合物をリン酸モノエステルとも称し、リン酸が持つ3つのOH基のうち2つのOH基の水素が有機基で置換された化合物をリン酸ジエステルとも称し、リン酸が持つ3つのOH基のうちすべてのOH基の水素が有機基で置換された化合物をリン酸トリエステルとも称する場合がある。
本明細書において、リン酸モノエステルやリン酸ジエステルのように、リン酸が持つ3つのOH基のうち1つ又は2つのOH基を有するリン酸エステル(塩やイオン形態の場合も含む)をリン酸エステルの遊離酸とも称される。本発明の塗料組成物において、リン酸エステル化合物は、リン酸エステルの遊離酸であることが好ましい。
また、リン酸が持つOH基の水素に置換した有機基は、炭化水素基であることが好ましい。また、上記炭化水素基は、直鎖状のものでもよいし、枝分かれしたものでもよいが、(B)バインダー樹脂との相溶性の観点から直鎖状の炭化水素基であることが好ましく、例えば、アルキル基、アルケニル基等が挙げられる。アルキル基及びアルケニル基としては、炭素数が10〜30個のアルキル基(C10〜C30のアルキル基)及び炭素数が3〜30個のアルケニル基(C3〜C30のアルケニル基)が好ましい。
本発明の塗料組成物において、(C)付着促進剤は、アルキル基及びアリル基から選択される少なくとも1つの基を有する化合物であることが好ましく、アルキル基及びアリル基から選択される少なくとも1つの基を有するリン酸エステル化合物である場合には、アルキル/アリルリン酸エステルの遊離酸(リン酸が持つ1つOH基を有し、1つのOH基の水素がアルキル基で置換され、1つのOH基の水素がアリル基で置換されたリン酸エステル)、アルキルリン酸エステルの遊離酸(リン酸が持つ1つ又は2つのOH基を有し、残りの2つ又は1つのOH基の水素がアルキル基で置換されたリン酸エステル)が更に好ましい。
なお、リン酸が持つOH基の水素に置換した有機基は、ポリマーに基づく有機基であってもよい。例えば、後述するビックケミー社製Disperbyk−180は、リン酸エステル基を含む共重合物のアルキロールアンモニウム塩であるが、これは、共重合物のアルキロールアンモニウム塩(ポリマーに基づく有機基)でリン酸のOH基の水素が置換されたリン酸エステル化合物であり、本明細書において成分(C)に該当する。
【0047】
本発明の塗料組成物において、(C)付着促進剤として使用できるリン酸エステル化合物の具体例としては、ポリエステル/ポリエーテルポリマーのリン酸エステル化合物、ポリエーテルポリマーのリン酸エステル化合物、アルキルリン酸エステル化合物の遊離酸、アルキル/アリルリン酸エステル化合物の遊離酸等を挙げることができ、市販品を好適に使用することができる。市販品としては、ルーブリゾール社製LUBRIZOL2061、2062H、ビックケミー社製Disperbyk−110、111、180、102、103、106、東邦化学工業社製フォスファノールRE−610、RS−710、楠元化成社製ディスパロンDA−325、DA−375等が挙げられる。なかでもリン酸エステルの遊離酸であるルーブリゾール社製LUBRIZOL2061、2062Hおよびビックケミー社製Disperbyk−180が効果的に亜鉛表面を保護可能なことから、最も好ましい。
【0048】
本明細書において「スルホン酸エステル化合物」は、スルホン酸が持つスルホ基(SO
3H)の水素が有機基で置換された化合物であり、R
1S(=O)
2(OR
2)の式で表すことができる。ここで、R
1及びR
2は、それぞれ独立したものであり、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、炭化水素基であることが好ましい。また、上記炭化水素基は、直鎖状のものでもよいし、枝分かれしたものでもよいが、(B)バインダー樹脂との相溶性の観点から直鎖状の炭化水素基であることが好ましく、例えば、アルキル基、アルケニル基等が挙げられる。アルキル基及びアルケニル基としては、炭素数が5〜30個のアルキル基(C5〜C30のアルキル基)及び炭素数が3〜30個のアルケニル基(C3〜C30のアルケニル基)が好ましい。
本発明の塗料組成物において、(C)付着促進剤は、アルキル基及びアリル基から選択される少なくとも1つの基を有する化合物であることが好ましく、アルキル基及びアリル基から選択される少なくとも1つの基を有するスルホン酸エステル化合物である場合には、アルキルスルホン酸アリル(上記式においてR
1がアルキル基であり、R
2がアリル基である化合物)が更に好ましい。
なお、スルホン酸が持つスルホ基の水素に置換した有機基は、ポリマーに基づく有機基であることも好ましい。
【0049】
本発明の塗料組成物において、(C)付着促進剤として使用できるスルホン酸エステル化合物の具体例としては、ポリオキシエチレンアリルオキシメチルアルコキシエチルスルホン酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレンメタクリレートのスルホン酸エステルナトリウム塩、スルホコハク酸のアルキルアリルジエステルのナトリウム塩、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルのスルホン酸エステル等を挙げることができ、市販品を好適に使用できる。市販品としては、花王社製ラテムルS−180A、三洋化成社製エレミノールJS−2、第一工業製薬社製アクアロンKH−10、KH−20、アクアロンHS−10、アクアロンBC−10、旭電化工業社製アデカリアソープSE−10N、SE−20N、アデカリアソープSR−10、SR−20、ER−20、第一工業製薬社製アクアロンRS−20等が挙げられる。
【0050】
本発明の塗料組成物中において、(C)付着促進剤の含有量は、0.1〜10重量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜5重量%の範囲内であることが更に好ましく、0.1〜4重量%の範囲内であることが特に好ましい。また、本発明の塗料組成物において、不揮発分中における(C)付着促進剤の含有量は、0.1〜5.0重量%であることが好ましい。成分(C)の含有量を多くすれば、塗膜膨れの発生を防止する効果を高めることができるものの、成分(C)の含有量が多すぎると、成分(A)の表面を必要以上に被覆してしまい、成分(A)による犠牲防食性能を低下させる恐れがあるため、成分(C)の含有量は上記特定した範囲内にあることが好ましい。
【0051】
本発明の塗料組成物において、(B)バインダー樹脂及び(C)付着促進剤の合計重量に対する(A)鉄よりも卑な金属の重量割合が(A)/[(B)+(C)]=3〜15の範囲内であることが好ましく、3〜10の範囲内であることが更に好ましく、3〜5の範囲内であることが特に好ましい。成分(B)及び成分(C)の重量に対する成分(A)の重量割合を高くすることで、犠牲防食性能を付与する効果を高めることができるが、成分(A)の重量割合が高すぎると、塗膜物性を低下させる恐れがあるため、重量割合(A)/[(B)+(C)]は上記特定した範囲内にあることが好ましい。
【0052】
本発明の塗料組成物において、(A)鉄よりも卑な金属の重量に対する(C)付着促進剤の重量割合が(C)/(A)=0.001〜0.2の範囲内であることが好ましく、0.001〜0.15の範囲内であることが更に好ましく、0.002〜0.1の範囲内であることが更に好ましい。成分(A)の重量に対する成分(C)の重量割合を高くすることで、水素ガスの発生を抑制する効果を高めることができるものの、成分(C)の重量割合が高すぎると、成分(A)の表面を必要以上に被覆してしまい、成分(A)による犠牲防食性能の向上効果を低下させる恐れがあるため、重量割合(C)/(A)は上記特定した範囲内にあることが好ましい。
【0053】
本発明の塗料組成物は、(D)水を含むが、水を主溶媒として含む水性塗料であることが好ましい。本発明の塗料組成物において、水の含有量は、2〜50重量%であることが好ましく、2〜25重量%であることがより好ましい。また、本発明の塗料組成物は、完全水系化することも可能であり、使用される溶媒に占める水の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上、最も好ましくは100質量%である。なお、「(D)水」を成分(D)ともいう。
【0054】
本発明の塗料組成物は、顔料を含むことができる。本発明に使用できる顔料としては、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている顔料を使用できる。ただし、(A)鉄よりも卑な金属に分類されるものは、本明細書でいう顔料から除かれる。具体例としては、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料等が挙げられる。また、防錆顔料や光輝顔料等も挙げられる。これら顔料は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の塗料組成物中において、顔料の含有量は、0.5〜10重量%の範囲内であることが好ましい。
【0055】
本発明の塗料組成物には、その他の成分として、有機溶媒、染料、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、成膜助剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。
【0056】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。本発明の塗料組成物は、(A)鉄よりも卑な金属と(D)水とを含むため、塗料を構成する成分(A)と成分(D)とが反応し、水素ガスを発生する恐れがあるため、塗装直前に調製されることが好ましい。本発明の塗料組成物が、2液型の塗料組成物である場合は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって、主剤や硬化剤を予め用意しておき、塗装時に主剤と硬化剤とを混合することで使用される。なお、硬化剤は、硬化剤そのものでもよいし、他の成分との混合物であってもよい。
【0057】
本発明の塗料組成物の23℃における粘度は、0.1〜120d Pa・sであることが好ましい。粘度の測定は、例えば、リオン株式会社製ビスコテスタ(粘度計)で測定することができる。
【0058】
次に、本発明の防食方法を詳細に説明する。本発明の防食方法は、上述した本発明の塗料組成物で金属系基材を塗装して塗膜を形成させる工程を含むことを特徴とする。本発明の防食方法によれば、高湿度の条件において過膜厚に塗装された場合にも塗膜内に水素ガスを発生させることなく金属系基材の塗装を行うことができるとともに、優れた防食性を金属系基材に付与することができる。
【0059】
本発明の防食方法において、金属系基材は、金属(好ましくは鉄又は鉄よりも貴な金属、より好ましくは鉄)を材料の少なくとも一部とする基材であり、例えば、鉄鋼、ステンレス鋼等の金属基材や、金属と非金属材料から形成される複合基材等が挙げられる。本発明の防食方法は、金属系基材が、条鋼、鋼板、鋼管等の鋼材や、これら鋼材を利用して建築・建設された橋梁、タンク、プラント、船舶等の構造物(鋼構造物)であることが特に好ましい。なお、金属系基材には、各種表面処理が施された基材も含まれる。また、金属系基材は、プライマー処理が施されていてもよいし、基材表面の少なくとも一部に旧塗膜(本発明の防食方法において本発明の塗料組成物を用いた塗装を行う際に既に形成されている塗膜)が存在していてもよい。
【0060】
本発明の防食方法において、本発明の塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装等が利用できる。
【0061】
本発明の防食方法において、塗装時の温度は、特に制限されず、広範な温度範囲で塗装を行うことが可能であり、5〜40℃の範囲を例示することができる。
【0062】
本発明の防食方法において、塗装時の相対湿度は、特に制限されず、広範な温度範囲で塗装を行うことが可能であり、5〜95%の範囲を例示することができるが、例えば、60〜95%の範囲である高湿度環境下においても、塗膜に膨れを発生させることなく、塗装を行うことができる。
【0063】
本発明の防食方法において、本発明の塗料組成物から形成される乾燥膜厚は、特に制限されるものではなく、30〜75μmの範囲を例示することができるが、例えば、100〜500μmの範囲である過膜厚の場合であっても、塗膜内に水素ガスを発生させることなく、塗装を行うことができる。
【0064】
本発明の防食方法においては、本発明の塗料組成物による金属系基材の塗装条件が、例えば、温度5℃〜40℃、相対湿度50〜95%の塗装環境下において、乾燥膜厚30〜500μmの塗膜を形成する塗装条件である場合に、塗膜内の水素ガス発生を十分に防止することができるため、現場での塗装適用幅が広い防食方法であるといえる。
特に、本発明の防食方法は、温度が20〜40℃で、相対湿度が60〜95%で且つ乾燥膜厚が250〜500μmである場合であっても、更には、温度が20〜40℃で、相対湿度が80〜95%で且つ乾燥膜厚が400〜500μmである場合であっても、塗膜内の水素ガス発生を十分に防止することができるため、高湿度、過膜厚の塗装条件下であっても好適である。
【0065】
本発明の防食方法は、本発明の塗料組成物から形成される塗膜(第一の塗膜)を、本発明の塗料組成物とは異なる水性塗料で塗装して、更なる塗膜(第二の塗膜)を形成させる工程を含むことができる。
【0066】
本発明の防食方法において、上記水性塗料としては、主溶媒として水を用いる水性塗料であれば、従来から公知の各種塗料が利用可能である。上記水性塗料は、樹脂、着色顔料や染料等の着色剤、体質顔料、防錆顔料、光輝顔料、湿潤剤、分散剤、乳化剤、樹脂ビーズ、粘性調整剤、皮張り防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、硬化剤、硬化触媒、可塑剤、成膜助剤、防錆顔料、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。上記水性塗料は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって、調製できる。
【0067】
本発明の防食方法において、上記水性塗料の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、コテ塗装、ヘラ塗装等が利用できる。また、上記水性塗料から形成される乾燥膜厚は、特に制限されるものではなく、30〜300μmの範囲を例示することができる。
【0068】
本発明の防食方法において、塗膜の乾燥や硬化の手段は特に制限されるものではなく、使用する塗料の種類に応じて適宜選択される。例えば、加熱による乾燥や、加熱又は紫外線照射等による硬化を行ってもよいし、また、自発的に硬化反応が進む塗料(例えば2液型塗料)や自然乾燥が可能な塗料(例えば揮発性溶剤系塗料)であれば特別な乾燥や硬化手段を採用しなくてもよい。本発明の防食方法において、複数の塗膜を形成する場合は、塗膜を形成する度に該塗膜の乾燥や硬化を行ってもよいし、複数の塗膜を形成してから該塗膜の乾燥や硬化を行ってもよい。特に、本発明の防食方法は鋼構造物用途の塗装に適しており、自然乾燥で乾燥した場合に防食性に優れた塗膜の形成が可能になる。
【0069】
次に、本発明の塗装体を詳細に説明する。本発明の塗装体は、金属系基材と、金属系基材上に形成された塗膜とを備えており、前記塗膜が上述した本発明の塗料組成物から形成されていることを特徴とする。本発明の塗装体によれば、塗膜に膨れが生じておらず、また、防食性に優れる塗装体を提供することができる。
【0070】
本発明の塗装体において、金属系基材は、本発明の防食方法において説明した通りである。また、本発明の塗料組成物から形成される塗膜(第一の塗膜)は、本発明の塗料組成物による金属系基材の塗装を行うことで得られるが、該塗装については、本発明の防食方法において説明した通りである。本発明の塗装体において、第一の塗膜は、特に制限されるものではなく、30〜75μmの範囲を例示することができるが、例えば、100〜500μmの範囲である過膜厚の場合であってもよい。
【0071】
本発明の塗装体は、第一の塗膜上に形成された更なる塗膜を備えることができ、ここで、該更なる塗膜は、本発明の塗料組成物とは異なる水性塗料から形成されている。該水性塗料から形成される塗膜(第二の塗膜)は、該水性塗料による第一の塗膜の塗装を行うことで得られる。ここで、本発明の塗料組成物とは異なる水性塗料及び該水性塗料による第一の塗膜の塗装については、本発明の防食方法において説明した通りである。本発明の塗装体において、第二の塗膜は、特に制限されるものではなく、30〜300μmの範囲を例示することができる。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、下記例において、各成分の含有量を示す「部」及び「%」の記載は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を意味する。
【0073】
(実施例1)
基材としては、素地調整程度がISO 8501−1 Sa2.5のグリッドブラスト処理鋼板(150×70×3.2mm)を用いた。主剤としてのエポキシ樹脂エマルジョン(注1)、LUBRIZOL2061(注6)、水と硬化剤としてのアミン樹脂エマルジョン(注10)を混合した後に、亜鉛粉末(注12)を混合して水性防食塗料組成物を調製した。
【0074】
(実施例2〜23及び比較例1〜7)
実施例1と同様の方法で表1〜4の配合に従って、水性防食塗料組成物を調製した。
【0075】
表1〜4に示す成分について以下に説明する。
(注1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂エマルジョン、樹脂固形分55%、エポキシ当量495g/eq、(商品名:エポルジョンEA55、日本NSC社製)
(注2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂エマルジョン、樹脂固形分62%、エポキシ当量200g/eq、(商品名:エポルジョンHD2、日本NSC社製)
(注3)ビスフェノールF型エポキシ樹脂エマルジョン、樹脂固形分70%、エポキシ当量200g/eq、(商品名:JER W8735R70、三菱化学社製)
(注4)エポキシエステル樹脂エマルジョン、樹脂固形分40%、(商品名 ウォーターゾールEFD−5570、DIC社製)
(注5)スチレンアクリル樹脂エマルジョン、樹脂固形分50%、(商品名 PLIOTEC HDT 12、OMNOVA SOLUTIONS社製)
(注6)付着促進剤、アルキルリン酸エステル化合物の遊離酸(商品名LUBRIZOL2061、ルーブリゾール社製)
(注7)付着促進剤、アルキル/アリルリン酸エステル化合物の遊離酸(商品名LUBRIZOL2062H、ルーブリゾール社製)
(注8)付着促進剤、リン酸エステル基を含む共重合物のアルキロールアンモニウム塩(商品名Disperbyk−180、ビックケミー社製)
(注9)付着促進剤、スルホン酸エステル化合物、固形分25%(商品名SR−1025、ADEKA社製)
(注10)変性脂肪族ポリアミン系樹脂エマルジョン、樹脂固形分56%、(商品名:フジキュアーFXS−918−FA、T&K TOKA社製)
(注11)変性ポリアミドアミン(水溶性)、樹脂固形分60%、(商品名:JERキュア WD11M60、三菱化学社製)
(注12)亜鉛粉末A:平均粒子径4μm、かさ比重2.5
(注13)亜鉛粉末B:平均粒子径7μm、かさ比重3.1
(注14)アルミニウム粉末:平均粒子径25μm、かさ比重1.2
【0076】
次に、得られた水性防食塗料組成物を予め水で希釈して適切な塗装粘度(23℃、0.1〜5d Pa・s、リオン株式会社製ビスコテスタ(粘度計)で測定)に調整し、23℃、50%相対湿度の条件にて乾燥膜厚が70〜80μmになるようにエアスプレーを用いて基材の両面に塗布し、板の縁を同塗料で塗り包んだ後に23℃、50%相対湿度の条件にて7日間乾燥させ、試験片を作製した。なお、水素発生試験については、異なる条件により試験板を作製したので、詳細については以下に説明する。これらの試験片を下記の評価試験に供した。結果を表1〜4に示す。
【0077】
<塗装作業性>
エアスプレー塗装時に噴霧した塗料の微粒化状態を、以下の基準で目視判定した。
(評価基準)
○:微粒化が良好で塗膜表面が平滑。
△:スプレー粒子が断続的に吐出する、あるいは、塗膜表面に凹凸がある。
×:微粒化が不良で吐出できず、あるいは、塗膜表面の凹凸が大きく、塗膜外観が著しく悪い。
【0078】
<付着性試験>
JIS K 5600に規定の付着性の試験方法に準拠し、カッターナイフを用いて試験片上に2mmの碁盤目を100個作製し、セロハンテープによる剥離試験を行い、以下の基準で目視判定した。
(判定基準)
○:碁盤目にはがれがなく、塗膜表面に異常がない。
△:塗膜上に残存する目の数が95個以上である。
×:塗膜上に残存する目の数が94個以下である。
【0079】
<防食性>
試験片に対して、JIS K 5600−7−9(2006)サイクル腐食試験方法サイクルDに準拠して30日間(720時間)複合サイクル試験を行った。塗膜外観を、以下の基準で目視判定した。
(判定基準)
◎:クロスカット部周辺に異常なし
○:クロスカット部周辺に、直径1mm未満の赤さびが発生
△:クロスカット部周辺に、直径1mm以上2mm未満の赤さびやふくれが発生
×:クロスカット部周辺に、直径2mm以上の赤さびやふくれが発生
【0080】
<水素発生試験>
得られた水性防食塗料組成物を、23℃、40%相対湿度の条件1、23℃、60%相対湿度の条件2、及び23℃、90%相対湿度の条件3のそれぞれの条件下で、乾燥膜厚が250〜350μmになるようにアプリケーターを用いて基材の片面に塗布し、条件1〜条件3のそれぞれの条件下で3日間乾燥させ、試験片を作製した。
3日間の乾燥過程における水素ガスの発生とそれに伴う塗膜ふくれの発生を以下の基準で目視判定した。結果を表1〜4に示す。
(判定基準)
◎:水素発生せず、塗膜表面に、異常なし。
○:水素ガスが発生し、塗膜面積の5%未満にふくれを発生する。
△:水素ガスが発生し、塗膜面積の5%以上20%未満にふくれを発生する。
×:水素ガスが発生し、塗膜面積の20%以上にふくれを発生する。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】