【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、低粘度した場合においても低摩擦を有し、且つ、ギヤ油に要求される摩耗防止性を有することができる。さらには、より低粘度化された条件において、前記効果に加えて、優れた耐スコーリング性を有する潤滑油組成物を与えることができる。本発明の潤滑油組成物は、特には、ハイブリッド自動車用、変速機用、及びギヤ油用として好適に使用することができる。
【0011】
(A)潤滑油基油
本発明における潤滑油基油は特に限定されることはなく、潤滑油基油として従来公知のものが使用できる。潤滑油基油としては、鉱油系基油、合成系基油、及びこれらの混合基油が挙げられる。
【0012】
鉱油系基油の製法は限定されるものではない。鉱油系基油としては、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋または水素化脱蝋などの処理を施した高度に精製されたパラフィン系鉱油(高粘度指数鉱油系潤滑油基油)が好ましい。また、上記以外の鉱油系基油としては、例えば、潤滑油原料をフェノール、フルフラールなどの芳香族抽出溶剤を用いた溶剤精製により得られるラフィネート、シリカ−アルミナを担体とするコバルト、モリブデンなどの水素化処理触媒を用いた水素化処理により得られる水素化処理油などが挙げられる。例えば、100ニュートラル油、150ニュートラル油、500ニュートラル油などを挙げることができる。
【0013】
合成系基油としては、例えば、メタン等の天然ガスからフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得られる基油(いわゆるフィッシャー・トロプシュ由来基油)、ポリ−α−オレフィン基油、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ポリグリコールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、及び、シリコン油などを挙げることができる。なお、ポリ−α−オレフィン(PAO)基油は、特に制限されるものではないが、例えば1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー、イソブテンオリゴマー並びにこれらの水素化物を使用できる。
【0014】
上記潤滑油基油は1種単独でも良いし、2種以上の併用であってもよい。2種以上の潤滑油基油を併用する場合は、鉱油系基油同士、合成系基油同士、または鉱油系基油と合成系基油の組合せであってよく、その態様は限定されない。
【0015】
潤滑油基油の動粘度は、本発明の要旨を損なわない限り制限されることはない。特には、低粘度の潤滑油組成物を得るためには、潤滑油基油全体が100℃における動粘度1〜9mm
2/sを有することが好ましく、さらに好ましくは1〜8mm
2/s、一層好ましくは2〜6mm
2/sを有するのがよい。潤滑油基油の100℃における動粘度が前記上限値超であると、潤滑油組成物の低粘度化を図ることが困難となり、省燃費性を達成することが困難となる可能性がある。また100℃における動粘度が前記下限値未満であると、省燃費性は達成できるが、摩耗特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0016】
(B)リン系極圧剤
本発明の潤滑油組成物は、(B1)アルキル基を1つ又は2つ有し、該アルキル基がいずれも炭素数4〜10を有する、酸性リン酸エステル(以下、単に、炭素数4〜10のアルキル基を有する酸性リン酸エステルという)及び(B2)リン酸エステルのアミン塩を必須に含む事を特徴とする。(B1)短鎖アルキル基を有する酸性リン酸エステルを含有することにより、潤滑油組成物の表面粗さを小さくすることができ、摩擦係数を低減することができる。酸性リン酸エステルのアルキル基の炭素数が上記上限値より長いと、潤滑油組成物の表面が粗くなる恐れがある。また、(B2)リン酸エステルのアミン塩を含有することにより、潤滑油組成物の摩耗を低減することができ、耐スコーリング性を向上することができる。
【0017】
(B1)短鎖アルキル基を有する酸性リン酸エステル
当該酸性リン酸エステルとは(R
1O)
aP(=O)(OH)
3−a で表される。前記式においてa=1又は2であり、aが異なる値である化合物の混合物として使用することもできる。上記式において、R
1は互いに独立に炭素数4〜10のアルキル基である。炭素数4〜10のアルキル基のなかで、好ましくはブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、及びオクチル基であり、分岐を有していてもよい。(B)成分は上記アルキル基を有する酸性リン酸エステルの1種単独でも2種以上の併用であってもよい。R
1の炭素数は少ないほど好ましい。特には、炭素数4のアルキル基を有する酸性リン酸エステルが摩擦係数の低減効果により優れるため、好ましい。
【0018】
該酸性リン酸エステルとしては、好ましくは、酸性リン酸(ジ)ブチルエステル、酸性リン酸(ジ)ペンチルエステル、酸性リン酸(ジ)ヘキシルエステル、及び酸性リン酸(ジ)オクチルエステルが挙げられる。より好ましくは、酸性リン酸(ジ)ブチルエステル、又は酸性リン酸(ジ)ヘキシルエステルであり、最も好ましくは酸性リン酸(ジ)ブチルエステルである。
【0019】
本発明の潤滑油組成物中に含まれる酸性リン酸エステルの量は、特に限定されることないが、潤滑油組成物全体の質量に対して、リン原子含有量として100〜1500質量ppmが好ましく、180〜1200質量ppmがより好ましく、200〜1000質量ppmがさらに好ましい。含有量が上記上限値を超えると、スラッジが発生する可能性があり好ましくない。含有量が上記下限値を下回ると、摩擦が高くなる可能性が高く、省燃費に寄与しない可能性があり、好ましくない。2種以上の酸性リン酸エステルを併用する場合は合計としてのリン原子含有量が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0020】
(B2)リン酸エステルのアミン塩
リン酸エステルのアミン塩とは(R
2O)
bP(=O)(OH)
3−b ・(NH
cR
3O
3−c)
3−bで表される。前記式においてb,c=1又は2であり、b,cが異なる値である化合物の混合物であってもよい。上記式において、R
2とR
3は互いに独立に炭化水素基である。炭化水素基であれば、直鎖状であっても分岐を有していてもよい。炭化水素基としては、炭素数4〜30のアルキル基であることが好ましい。(B2)成分は上記アルキル基を有する酸性リン酸エステルのアミン塩の1種単独でも2種以上の併用であってもよい。R
2とR
3の炭素数は、限定されることはないが、それぞれ4〜30の範囲が好ましく、炭素数4〜20の範囲がより好ましく、炭素数4〜16の範囲がさらに好ましく、これらはそれぞれ独立してアルキル基であることが好ましい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物中に含まれるリン酸エステルのアミン塩の量は、特に限定されることないが、潤滑油組成物全体の質量に対して、リン原子含有量として100〜1500質量ppmが好ましく、180〜1200質量ppmがより好ましく、200〜1000質量ppmがさらに好ましい。含有量が上記上限値を超えると、スラッジが発生する可能性があり好ましくない。含有量が上記下限値を下回ると、摩耗が高くなる可能性が高く、好ましくない。2種以上のリン酸エステルのアミン塩を併用する場合は合計としてのリン原子含有量が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0022】
本発明の潤滑油組成物は、上記(B1)及び(B2)に併せて、さらに(B3)チオリン酸エステルアミン塩を含むことができる。該チオリン酸エステルのアミン塩を含有することにより、潤滑油組成物の摩耗を低減することができる。
【0023】
チオリン酸エステルのアミン塩とは、(R
4O)
dP(=X)(XH)
3−d ・(NH
eR
5O
3−e)
3−dで表される。前記式において、d,e=1又は2であり、d,eが異なる値である化合物の混合物として使用することもできる。Xは酸素原子又は硫黄原子であるが、少なくとも1つは酸素原子である。上記式において、R
4とR
5は互いに独立に炭素数4〜30のアルキル基である。炭素数4〜30のアルキル基であれば、直鎖状であっても分岐を有していてもよい。(B3)成分は上記チオリン酸エステルアミン塩の1種単独でも2種以上の併用であってもよい。R
4とR
5の炭素数は、それぞれ4〜30の範囲である限り、限定されることはないが、炭素数4〜20の範囲が好ましく、炭素数4〜16の範囲がより好ましい。
【0024】
また本発明の潤滑油組成物はさらに、(B4)亜リン酸エステル及び(B5)ホスホン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含んでいてよい。(B4)成分又は(B5)成分を含有することにより、潤滑油組成物の摩耗を低減することができる。
【0025】
(B4)亜リン酸エステルとは、例えば、下記式(1)又は(2)で表される化合物である。
(R
6O)
bP(=O)(OH)
2−bH (1)
(R
7O)
3P (2)
上記式(1)においてb=1又は2であり、かつR
6は、互いに独立に、炭化水素基である。上記式(2)において、R
7は、互いに独立に、炭化水素基である。R
6及びR
7の炭素原子数は特に制限されるものでない。
【0026】
上記式(1)において、R
6は、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4〜20のアルキル基、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基、最も好ましくは炭素数4〜8のアルキル基であるのがよい。上記式(2)においてR
7は、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数4〜20のアルキル基、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数4〜8のアルキル基である。
【0027】
上記亜リン酸エステルとしては、例えば、亜リン酸トリブチルエステル、亜リン酸ジブチルエステル、亜リン酸モノブチルエステル、亜リン酸トリペンチルエステル、亜リン酸ジペンチルエステル、亜リン酸モノペンチルエステル、亜リン酸トリヘキシルエステル、亜リン酸ジヘキシルエステル、亜リン酸モノヘキシルエステル、亜リン酸トリヘプチルエステル、亜リン酸ジヘプチルエステル、亜リン酸モノヘプチルエステル、亜リン酸トリオクチルエステル、亜リン酸ジオクチルエステル、及び亜リン酸モノオクチルエステルが挙げられる。中でも、亜リン酸トリブチルエステル、亜リン酸トリペンチルエステル、亜リン酸トリヘキシルエステル、亜リン酸トリヘプチルエステル、及び亜リン酸トリオクチルエステルが好ましく用いられる。
【0028】
(B5)ホスホン酸エステルは、下記式で表される。
(R
8O)(R
9O)(R
10)P(=O) (3)
式(3)において、R
8及びR
9は、互いに独立に、水素原子又は一価炭化水素基であり、R
8及びR
9の少なくとも一方は一価炭化水素基であり、R
10は一価炭化水素基である。
【0029】
上記式(3)において、R
8及びR
9は、互いに独立に、水素原子又は好ましくは炭素数1〜30の一価炭化水素基であって、少なくとも一方が炭化水素基である。即ち、R
8及びR
9のうちいずれかは好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数2〜20のアルキル基であり、炭素数4〜18のアルキル基であることが一層好ましく、炭素数8〜18のアルキル基であることが最も好ましい。
【0030】
上記式(3)においてR
10は、好ましくは炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数2〜20のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数4〜18のアルキル基であり、特には炭素数8又は18のアルキル基である。
【0031】
ホスホン酸エステルとしては、例えば、ブチルホスホン酸ジメチル、ブチルホスホン酸ジエチル、ブチルホスホン酸ジプロピル、ブチルホスホン酸ジブチル、ブチルホスホン酸ジペンチル、ブチルホスホン酸ジヘキシル、ブチルホスホン酸ジヘプチル、ブチルホスホン酸ジオクチル、ヘキシルホスホン酸ジメチル、ヘキシルホスホン酸ジエチル、ヘキシルホスホン酸ジプロピル、ヘキシルホスホン酸ジブチル、ヘキシルホスホン酸ジペンチル、ヘキシルホスホン酸ジヘキシル、ヘキシルホスホン酸ジヘプチル、ヘキシルホスホン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸ジメチル、オクチルホスホン酸ジエチル、オクチルホスホン酸ジプロピル、オクチルホスホン酸ジブチル、オクチルホスホン酸ジペンチル、オクチルホスホン酸ジヘキシル、オクチルホスホン酸ジヘプチル、オクチルホスホン酸ジオクチル、デシルホスホン酸ジメチル、デシルホスホン酸ジエチル、デシルホスホン酸ジプロピル、デシルホスホン酸ジブチル、デシルホスホン酸ジヘキシル、デシルホスホン酸ジオクチル、デシルホスホン酸ジデシル、ドデシルホスホン酸ジメチル、ドデシルホスホン酸ジエチル、ドデシルホスホン酸ジプロピル、ドデシルホスホン酸ジブチル、ドデシルホスホン酸ジヘキシル、ドデシルホスホン酸ジオクチル、ドデシルホスホン酸ジデシル、ドデシルホスホン酸ジドデシル、テトラデシルホスホン酸ジメチル、テトラデシルホスホン酸ジエチル、テトラデシルホスホン酸ジプロピル、テトラデシルホスホン酸ジブチル、テトラデシルホスホン酸ジヘキシル、テトラデシルホスホン酸ジオクチル、テトラデシルホスホン酸ジデシル、テトラデシルホスホン酸ジドデシル、テトラデシルホスホン酸ジテトラデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジメチル、ヘキサデシルホスホン酸ジエチル、ヘキサデシルホスホン酸ジプロピル、ヘキサデシルホスホン酸ジブチル、ヘキサデシルホスホン酸ジヘキシル、ヘキサデシルホスホン酸ジオクチル、ヘキサデシルホスホン酸ジデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジドデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジテトラデシル、オクタデシルホスホン酸ジメチル、オクタデシルホスホン酸ジエチル、オクタデシルホスホン酸ジプロピル、オクタデシルホスホン酸ジブチル、オクタデシルホスホン酸ジペンチル、オクタデシルホスホン酸ジヘキシル、オクタデシルホスホン酸ジヘプチル、オクタデシルホスホン酸ジオクチル、オクタデシルホスホン酸ジオクタデシルなどが挙げられる。
【0032】
(B)成分の潤滑油組成物中における含有量は、特に限定されることないが、リン原子含有量として200〜1700質量ppmが好ましく、300〜1500質量ppmがより好ましく、300〜120質量ppmがさらに好ましい。含有量が上記上限値を超えると、スラッジが発生する可能性があり、好ましくない。含有量が上記下限値を下回ると、摩擦が高くなる可能性が高く、省燃費に寄与しない可能性があり、好ましくない。2種以上を併用する場合は合計としてのリン原子含有量が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0033】
(C)硫黄系極圧剤
本発明の潤滑油組成物は硫黄系極圧剤を含有する。硫黄系極圧剤は耐焼付性を付与し、ギア油用の潤滑油組成物として好適に機能することができる。(C)成分は公知の硫黄系極圧剤から選択されることができる。好ましくは、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、及びポリサルファイドから選ばれる少なくとも1種であり、特には硫化オレフィンが好ましい。尚、本発明において(C)成分はリンを有する極圧剤を包含しない。
【0034】
硫化オレフィン及びポリサルファイドは下記一般式(4)で表される。なお、後述するように、硫化オレフィンはオレフィン類を硫化して得られるものであり、ポリサルファイドはオレフィン類以外の炭化水素原料を硫化して得られる。
R
11−S
x−(R
12−S
x−)
n−R
13 (4)
【0035】
上記式(4)中、R
11及びR
13は互いに独立に、一価の炭化水素基であり、例えば炭素数2〜20の、直鎖構造または分岐鎖を有する、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、及び、炭素数2〜26の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。より詳細には、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、及びヘキシルフェニル基などがある。
【0036】
上記式(4)中、R
12は、炭素数2〜20の、直鎖構造または分岐鎖を有する、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜26の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。より詳細には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、及びフェニレン基などが挙げられる。
【0037】
上記式(4)中、xは互いに独立に、1以上の整数であり、好ましくは1〜8の整数である。xが小さいと極圧性が小さくなり、xが大きすぎると熱酸化安定性が低下する傾向にある。極圧性及び熱酸化安定性を共に得るためには、括弧内に示される単位におけるxが1〜6の整数であるのが好ましく、より好ましくは2〜4の整数であり、特に好ましくは2または3である。
【0038】
硫化オレフィンとしては、例えば、ポリイソブチレン及びテルペン類などのオレフィン類を、硫黄その他の硫化剤で硫化して得られるものが挙げられる。
【0039】
ポリサルファイド化合物としては、例えば、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、及びジ−tert−ベンジルポリサルファイドなどが挙げられる。
【0040】
硫化油脂は、油脂と硫黄との反応生成物であり、油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂を使用し、これを硫化反応して得られるものである。この反応生成物は、単一のものではなく、種々の物質の混合物であり、化学構造そのものは明確でない。
【0041】
硫化エステルは、上記油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸エステルを硫化することにより得られるものである。硫化油脂と同様、化学構造そのものは明確でない。
【0042】
上記硫黄系極圧剤の活性硫黄量は、特に限定されることはないが、活性硫黄を該極圧剤の質量に対して30質量%以下で有すること、好ましくは15質量%以下で有すること、より好ましくは13質量%以下で有することを特徴とする。活性硫黄量が上記上限値超であると、金属腐食を起こすだけでなく、摩耗の発生を抑制することができなくなる。なお、活性硫黄量の下限も特に限定されることはないが、極圧性確保のためには、極圧剤の質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以上であり、一層好ましくは3質量%以上であるのがよい。
【0043】
ここで、活性硫黄量とはASTM D1662に規定される方法により測定されるものである。ASTM D1662に基づく活性硫黄量は、より詳細には以下の手順により測定することができる。
1.200ml用のビーカーに硫黄系添加剤(活性硫黄系極圧剤)50gと銅粉5gを入れ、スターラで攪拌しながら温度を150℃まで上げる。
2.150℃に達したら、更に銅粉を5g加え、30分間攪拌する。
3.攪拌終了後、ASTM D130準拠の銅板をビーカーへ入れて浸漬させる。このとき、銅板に変色が見られたら、さらに銅粉を5g加えて30分間攪拌する(この操作を変色が認められなくなるまで続ける)。
4.銅板変色が認められなくなったら、ろ過により硫黄系添加剤中の銅粉を除去し、添加剤に含まれる硫黄量を測定する。
活性硫黄量は以下のように算出される。
活性硫黄量(質量%)=銅粉と反応前の硫黄量(質量%)−銅粉と反応後の硫黄量(質量%)
【0044】
本発明の潤滑油組成物において上記硫黄系極圧剤の含有量は限定されることはないが、潤滑油組成物全体の質量に対して好ましくは0.1質量%〜15質量%、より好ましくは0.2質量%〜12質量%、さらに好ましくは0.3質量%〜10質量%である。含有量が上記上限値を超えると摩耗発生は抑制できるがスラッジが発生するようになり、場合により金属腐食を発生させることがあるため好ましくない。
【0045】
本発明の潤滑油組成物において、硫黄含有量は限定されることはないが、潤滑油組成物全体の質量に対して好ましくは0.3〜5質量%、より好ましくは0.4〜4質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。含有量が上記上限値を超えると摩耗発生は抑制できるがスラッジが発生するようになり、場合により金属腐食を発生させることがあるため好ましくない。
【0046】
(D)モリブデン摩擦調整剤
(D)成分としては公知のモリブデン摩擦調整剤が使用できる。例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体等、或いは、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。前記モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等が挙げられる。
さらに本発明における摩擦調整剤として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物を用いることもできる。
【0047】
モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)は下記式[I]で表される化合物であり、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)は下記[II]で表される化合物である。
【0048】
【化1】
【0049】
上記一般式[I]および[II]において、R
1〜R
8は、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜30の炭化水素基である。炭化水素基は直鎖状でも分岐状でもよい。該炭化水素基としては、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状アルキル基;炭素数2〜30のアルケニル基;炭素数4〜30のシクロアルキル基;炭素数6〜30のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。アリールアルキル基において、アルキル基の結合位置は任意である。より詳細には、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができ、特に炭素数3〜8のアルキル基が好ましい。また、X
1およびX
2は酸素原子または硫黄原子であり、Y
1およびY
2は酸素原子または硫黄原子である。
【0050】
本発明の摩擦調整剤として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物も使用できる。該有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩等が挙げられる。中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0051】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO
3・nH
2O)、モリブデン酸(H
2MoO
4)、モリブデン酸アルカリ金属塩(M
2MoO
4;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NH
4)
2MoO
4又は(NH
4)
6[Mo
7O
24]・4H
2O)、MoCl
5、MoOCl
4、MoO
2Cl
2、MoO
2Br
2、Mo
2O
3Cl
6等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。これらのモリブデン化合物の中でも、モリブデン−アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0052】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物は、特に制限されない。例えば、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。さらに詳細には、炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン、及び炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン、炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン、炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン、またジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン、上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物、また、これらの化合物のアルキレンオキシド付加物、及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0053】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−アミン錯体におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0054】
モリブデン−コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示した硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、後述する無灰分散剤の項で述べる炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4〜39、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0055】
有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示したモリブデン酸化物、或いはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、カルボン酸が好ましい。また、カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
【0056】
一塩基酸としては、炭素数が通常2〜30、好ましくは4〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また、飽和のものでも不飽和のものでもよく、飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。また、一塩基酸として上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは7〜30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0〜3個、好ましくは1〜2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられる。
【0057】
多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましく挙げられる。
【0058】
アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示した硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステル若しくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)等のいずれであってもよい。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。水酸基を有する窒素化合物としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)等が挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。
【0059】
モリブデン摩擦調整剤としては、これに該当する限り限定されることはないが、特にモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)が好ましい。
【0060】
潤滑油組成物中のモリブデン摩擦調整剤の含有量は、限定されることはないが、モリブデン原子量として、100〜1500質量ppmが好ましく、100〜1200質量ppmがより好ましく、250〜1000質量ppmが最も好ましい。
【0061】
その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、上記(A)〜(D)以外のその他の添加剤として、前記上記(B)成分に該当しない他のリン系極圧剤、金属清浄剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、摩擦調整剤(上記(D)成分となるモリブデン摩擦調整剤に該当しないもの)及び流動点降下剤等を含有することができる。
【0062】
前記上記(B)成分に該当しない他のリン系極圧剤としては、リン酸、亜リン酸、リン酸エステル(酸性リン酸エステルを除く)、亜リン酸エステルのアミン塩、チオリン酸エステル、チオ亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステルのアミン塩、ジチオリン酸亜鉛が挙げられる。
【0063】
他のリン酸エステルとしては、リン酸ジデシル、リン酸ジドデシル、リン酸トリドデシル、チオリン酸トリドデシル、リン酸トリヘキサドデシル、チオリン酸トリヘキサドデシル、リン酸トリオクタデセニル、及び、チオリン酸トリオクタデセニル等が挙げられる。
【0064】
金属清浄剤は特に限定されるものでないが、カルシウム、マグネシウムから選択された元素を有する金属清浄剤の1種以上であるのが好ましい。カルシウムを有する金属清浄剤としては、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。マグネシウムを有する金属清浄剤としては、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、マグネシウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは50〜〜600(mgKOH/g)、より好ましくは100〜500(mgKOH/g)、さらに好ましくは200〜300(mgKOH/g)である。
【0065】
無灰分散剤は従来公知のものを使用すればよく、特に制限されるものでない。例えば、炭素数40〜400の、直鎖構造又は分枝構造を有するアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。無灰分散剤は1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、ホウ素化無灰分散剤を使用することもできる。ホウ素化無灰分散剤は潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤をホウ素化したものである。ホウ素化は一般に、含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
上記アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40〜400であり、より好ましくは60〜350である。アルキル基及びアルケニル基の炭素数が前記下限値未満であると、化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にある。また、アルキル基及びアルケニル基の炭素数が上記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。上記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖構造を有していても分枝構造を有していてもよい。好ましい態様としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマー、エチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基又は分枝状アルケニル基等が挙げられる。
コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとがある。本発明の潤滑油組成物は、モノタイプ及びビスタイプのうちいずれか一方を含有してもよいし、あるいは双方を含有してもよい。
【0066】
例えば、ホウ素化コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42−8013号公報及び同42−8014号公報、特開昭51−52381号公報、及び特開昭51−130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。この様にして得られるホウ素化コハク酸イミドに含まれるホウ素含有量は通常0.1〜4質量%とすることができる。特に、アルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素変性化合物(ホウ素化コハク酸イミド)は耐熱性、酸化防止性及び摩耗防止性に優れるため好ましい。
【0067】
ホウ素化無灰分散剤中に含まれるホウ素含有量は特に制限はない。通常無灰分散剤の質量に対して0.1〜3質量%である。本発明の1つの態様としては、無灰分散剤中のホウ素含有量は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上であり、また好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下であるのがよい。ホウ素化無灰分散剤として好ましくはホウ素化コハク酸イミドであり、特にはホウ素化ビスコハク酸イミドが好ましい。ホウ素化無灰分散剤を使用する場合、そのホウ素含有量は、組成物全体の質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上であるのがよく、また0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下であるのがよい。
ホウ素化無灰分散剤は、ホウ素/窒素質量比(B/N比)0.1以上、好ましくは0.2以上を有するものであり、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.4以下を有するものが好ましい。
【0068】
粘度指数向上剤としては、例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体、若しくはその水添物などの、いわゆる非分散型粘度指数向上剤、又は、さらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)、若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0069】
粘度指数向上剤の分子量は、潤滑油組成物のせん断安定性を考慮して選定することが必要である。例えば、粘度指数向上剤の重量平均分子量は、分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合には、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。
【0070】
酸化防止剤は潤滑油に一般的に使用されているものであればよく、例えば、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤及び有機金属系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤の添加により、潤滑油組成物の酸化防止性をより高められ、本発明の組成物の鉛含有金属の腐食又は腐食摩耗防止性能を高めるだけでなく、塩基価維持性をより高めることができる。
【0071】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0072】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0073】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0074】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0075】
(D)成分に該当しない摩擦調整剤としては、有機摩擦調整剤が挙げられる。例えば、アミド系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤、エーテル系摩擦調整剤を挙げることができ、特に代表的なものとして、グリセリンモノオレート(GMO)を挙げることができる。
【0076】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度1000〜10万mm
2/sを有するシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレート及びo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0077】
その他の添加剤として、少なくとも1の末端に官能基を有するポリジエンを含むことができる。少なくとも1の末端に官能基を有するポリジエンとは、ポリジエンの分子鎖の少なくとも1の末端が官能基の導入により変性されたものである(以下、末端変性ポリジエンということがある)。ポリジエンとは、単量体ジエンを(共)重合して得られたものであり、飽和ポリジエンとは、前記のようにして得られたポリジエンの炭素−炭素二重結合が水素化により飽和された水素化物である。当該末端変性ポリジエンは、末端変性不飽和ポリジエンであってもよいし、末端変性飽和ポリジエンであってもよい。なお、潤滑油基油への溶解性の観点からは、末端変性飽和ポリジエンを使用することが好ましい。官能性基を有するポリジエンは、摺動面に吸着し、部分的に組成物を高粘度化させて、潤滑油組成物の油膜厚さを厚くする。これにより、低粘度化した潤滑油組成物における、ギア歯面やベアリングの金属疲労や摩耗を抑制、部品保護性能を向上することができる。ここで、官能基とは、酸素、イオウ、窒素およびリンからなる群より選択される少なくとも一種のヘテロ原子を含有する官能基であり、好ましい官能基としては、カルボキシル基、エステル基、無水カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ウレタン基及びアミノ基等を挙げることができる。
【0078】
なお、末端変性ポリジエンの配合量は、特に限定されないが、潤滑油組成物全体の質量に対して0.6〜4.0質量%であり、好ましくは0.8〜3.8質量%であり、さらに好ましくは1.0〜3.6質量%である。
【0079】
潤滑油組成物は、上記(A)〜(D)成分及びその他の添加剤を混合することにより得られる。潤滑油組成物の動粘度は省燃費性を確保するため、100℃の動粘度が2〜10mm
2/sであり、2〜8mm
2/sであることが好ましく、3〜8mm
2/sであることが好ましい。
潤滑油組成物中の硫黄含有量は、限定的ではないが、0.3〜5質量%が好ましく、0.4〜4質量%がより好ましく、0.5〜3質量%がさらに好ましい。
潤滑油組成物中のリン含有量は、限定的ではないが、200〜2000ppmが好ましく、200〜1900質量ppmがより好ましく、300〜1700質量ppmがさらに好ましい。
潤滑油組成物中のモリブデン含有量は、限定的ではないが、100〜1500ppmが好ましく、100〜1200質量ppmがより好ましく、250〜1000質量ppmが最も好ましい。