【解決手段】多極磁石20は、合計磁極数をp(pは偶数)とすると、(p/2)個のN極25と(p/2)個のS極26とが周方向に交互に配置されている。一組のヨーク341、342の各ヨークは、多極磁石20が挿通されるリング部31、32、及び、リング部31、32から他方のヨークに向かって軸方向に延びる(p/2)個の爪部41、42を有する。多極磁石20の中心軸Oに垂直な平面において、多極磁石20を構成する各磁極25、26の周方向両端の境界線がなす中心角の平均値である、(360[deg]/p)で算出される角度を「平均磁極角θp」と定義する。また、各爪部41、42の周方向両端がなす中心角を「爪幅中心角θc」と定義する。軸方向におけるヨークの爪幅中心角の最大値θc_maxは、平均磁極角より大きく設定されている。
前記ヨーク(341、342)の前記爪部(41、42)は、前記リング部との境界をなす根元部(43)から、前記リング部から最も離れた先端部(45)に向かって前記爪幅中心角が単調減少する三角形状である請求項2に記載のトルクセンサ。
軟磁性体で形成され、前記ヨークの爪部より径方向外側において前記ヨークと非接触の状態で設けられ、前記ヨークの磁束を集磁し前記磁気センサに伝達する一組の補助ヨーク(81、82)をさらに備える請求項1〜4のいずれか一項に記載のトルクセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、トルクセンサの複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の第1〜第4実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態のトルクセンサは、車両のステアリング操作をアシストするための電動パワーステアリング装置に適用される。
【0014】
最初に
図2を参照し、各実施形態のトルクセンサが適用される電動パワーステアリング装置の概略構成について説明する。なお、
図2に示す電動パワーステアリング装置90はコラムアシスト式であるが、ラックアシスト式電動パワーステアリング装置にも同様に適用可能である。
【0015】
ハンドル93に接続されたステアリングシャフト94には操舵トルクを検出するためのトルクセンサ10が設置されている。ステアリングシャフト94の先端にはピニオンギア96が設けられており、ピニオンギア96はラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して、一対の車輪98が回転可能に連結されている。ステアリングシャフト94の回転運動は、ピニオンギア96によってラック軸97の直線運動に変換され、一対の車輪98が操舵される。
【0016】
トルクセンサ10は、ステアリングシャフト94を構成する入力軸11と出力軸12との間に設けられ、ステアリングシャフト94に加わる操舵トルクを検出してECU91に出力する。ECU91は、検出された操舵トルクに応じてモータ92の出力を制御する。モータ92が発生した操舵アシストトルクは、減速ギア95を介して減速され、ステアリングシャフト94に伝達される。
【0017】
(第1実施形態)
第1実施形態について、
図1、
図3〜
図8を参照して説明する。
図1に示すように、トルクセンサ10は、トーションバー13、多極磁石20、一組のヨーク341、342、及び、磁気センサ75等を備える。なお、第2、第3実施形態は、一組のヨークの形状が異なる点以外の構成は同様である。第4実施形態は、補助ヨークがさらに追加される点以外の構成は同様である。
【0018】
トーションバー13は、一端側が「第1の軸」としての入力軸11に、他端側が「第2の軸」としての出力軸12に、それぞれ固定ピン15で固定され、入力軸11と出力軸12とを回転軸Oの同軸上に連結する。トーションバー13は、棒状の弾性部材であり、ステアリングシャフト94に加わる操舵トルクを捩じれ変位に変換する。多極磁石20は、入力軸11に固定され、N極25とS極26とが周方向に交互に配置されている。
【0019】
一組のヨーク341、342は、軟磁性体で形成され、多極磁石20の径方向外側で出力軸12に固定され、軸方向にギャップを介して互いに対向する。一組のヨーク341、342は、多極磁石20の磁界内に磁気回路を形成し、トーションバー13の捩じれによる多極磁石20との相対位置の変化に伴って磁気回路に発生する磁束密度が変化する。
【0020】
一組のヨーク341、342を区別する必要がある場合、入力軸11側のヨークを第1のヨーク341とし、出力軸12側のヨークを第2のヨーク342とする。また、第1のヨーク341の要素には符号の末尾に「1」を付し、第2のヨーク342の要素には符号の末尾に「2」を付して対応関係を示す。各ヨーク341、342は、多極磁石20が挿通されるリング部31、32、及び、リング部31、32から他方のヨークに向かって軸方向に延びる、N極25及びS極26の数と同数の爪部41、42を有する。
【0021】
詳しくは、爪部41、42は、リング部31、32の内縁に沿って全周に等間隔に設けられる。第1のヨーク341の爪415と第2のヨーク342の爪42とは、周方向にずれて交互に配置される。例えば爪部41、42は、リング部31、32と一体の金属板が折り曲げて形成されるが、リング部31、32とは別体の爪部41、42が組み合わされてもよい。また、一般にリング部31、32及び爪部41、42は樹脂モールドされる。こうして、一組のヨーク341、342は、多極磁石20が発生する磁界内に磁気回路を形成する。
【0022】
以下、トーションバー13に捩じれ変位が生じていない状態、すなわち、入力軸11と出力軸12との間に操舵トルクが加わっていない状態を「中立状態」という。中立状態では、爪部41、42の中心と、多極磁石20のN極25とS極26との境界とが一致するように配置されている。一方、操舵トルクが加わりトーションバー13に捩じれ変位が加わると、多極磁石20と一組のヨーク341、342との相対回転に伴って磁気回路を通る磁束が変化する。
【0023】
磁気センサ75は、互いに対向するリング部31、32の間に配置され、一組のヨーク341、342の磁気回路に発生した磁束、すなわち、多極磁石20と一組のヨーク341、342との相対回転に伴う磁束密度の変化を検出する。例えば磁気センサ75は、ホール素子や磁気抵抗素子のICパッケージの形態で構成されており、磁束密度を電圧信号に変換し、信号線76を介してECU91に出力する。
【0024】
ところで、特許文献1(特開2015−14614号公報)の
図10に開示されているように、多極磁石とヨークとが一体に回転したとき、一部の磁束は、多極磁石からヨークを経由せず空間を通って、直接磁気センサの感磁部に到達する。この磁束の影響により、出力変動が発生する。そこで特許文献1のトルクセンサは、径方向の多極磁石と磁気センサとの間に磁気シールド部材を設けることで、多極磁石から直接磁気センサに向かう磁束を遮蔽し、出力変動による振れ回りノイズを低減している。
【0025】
しかし特許文献1の構成では、振れ回りノイズの低減のために別部品である磁気シールド部材を用いるため、部品点数が増加するという問題があった。そこで本実施形態では、ヨーク341、342の爪部41、42が磁気シールド機能を兼ねることで、部品点数を増加することなく振れ回りノイズを低減可能とすることを目的とする。そのための構成について以下に詳しく説明する。
【0026】
図3、
図4には、トルクセンサ10の中立状態における多極磁石20とヨーク341、342の爪部41、42との位置関係を示す。第1実施形態の爪部41、42は、根元部43から先端部45に向かって幅が単調減少する三角形状に形成されている。中立状態では、爪部41、42の先端部45の位置がN極25とS極26との境界に一致する。
【0027】
第1のヨーク341について、爪部41の根元部43はリング部31との境界をなす。爪部41の先端部45は自身のヨーク341のリング部31から最も離れており、且つ、他方の第2のヨーク342のリング部32に最も近接している。第2のヨーク342について、爪部42の根元部43はリング部32との境界をなす。爪部42の先端部45は自身のヨーク342のリング部31から最も離れており、且つ、他方の第1のヨーク341のリング部31に最も近接している。
【0028】
図4に示す径方向断面、すなわち多極磁石20の中心軸Oに垂直な平面において、多極磁石20の磁極数をp(pは偶数)とする。多極磁石20は、(p/2)個のN極25と(p/2)個のS極26とが周方向に交互に配置されている。
図4の例では、磁極数pは16であり、8個のN極25と8個のS極26とが周方向に交互に配置されている。ヨーク341、342の爪部41、42の数は、それぞれ、N極25及びS極26の数と同じ(p/2)個、つまり、この例では8個となる。なお、他の実施形態では、磁極数pは、12、20等であってもよい。
【0029】
以下、多極磁石20を構成する各磁極25、26の周方向両端の境界線がなす中心角の平均値を「平均磁極角θp」と定義する。各N極25の中心角θp
N及び各S極26の中心角θp
Sはそれぞれ均一であるため、式(1)が成り立つ。
θp
N+θp
S=360/(p/2) ・・・(1)
【0030】
したがって、平均磁極角θpは、式(2)で算出される。
θp=(θp
N+θp
S)/2=360/p ・・・(2)
【0031】
基本的には、各N極25の中心角θp
Nと各S極26の中心角θp
Sとは等しく形成されるため、式(3)のようになる。
θp=θp
N=θp
S ・・・(3)
【0032】
また、ヨーク341、342の各爪部41、42の周方向両端がなす中心角を「爪幅中心角θc」と定義する。第1実施形態の爪部41、42は、根元部43から先端部45に向かって爪幅中心角θcが単調減少する三角形状である。つまり、爪部41、42は、リング部31、32との境界をなす根元部43(厳密には根元部43の底辺)において爪幅中心角θcが最大である。そして、根元部43における爪幅中心角の最大値θc_maxは、平均磁極角θpより大きく設定されている。
【0033】
次に
図5、
図6には、回転角度が「θp×(n+0.5)」(nは整数)となる場合の、トルクセンサ10の捩れ状態における多極磁石20とヨーク341、342の爪部41、42との位置関係を示す。このとき、根元部43では、ある磁極の中心角が対応する爪部41、42の爪幅中心角の範囲に含まれる状態となる。したがって、多極磁石20から直接磁気センサ75に向かう磁束が爪部41、42により効率良く遮蔽される。
【0034】
ここで、爪幅中心角の最大値θc_max及び平均磁極角θpより、極ラップ率r
Lを式(4)で定義する。ただし、r
L<0のとき、極ラップ率は0%とする。
r
L=(θc_max−θp)/θp ・・・(4)
【0035】
従来のトルクセンサでは、ヨーク爪部の爪幅中心角の最大値θc_maxは平均磁極角θp以下に設定されるため、極ラップ率は0%となる。それに対し本実施形態では、爪幅中心角の最大値θc_maxは平均磁極角θpより大きく設定されるため、極ラップ率は0%より大きくなる。
【0036】
図7(a)及び
図7(b)に、極ラップ率と感度との関係、及び、極ラップ率と振れ回りノイズとの関係を示す。極ラップ率が0%から大きくなると、感度が低下する一方で振れ回りノイズも低減する。極ラップ率が30%以下の範囲では、感度の低下率が比較的小さく、且つ、振れ回りノイズの低減効果が大きい。そこで、第1実施形態において極ラップ率は、0%より大きく30%以下に設定されることが好ましい。すなわち、爪幅中心角の最大値θc_maxは平均磁極角θpの1倍より大きく、平均磁極角θpの1.3倍以下であることが好ましい。
【0037】
ただし、極ラップ率が0%よりわずかに大きい場合、振れ回りノイズの低減効果が十分であるとは言えない場合もある。そこで、極ラップ率は10%以上30%以下に設定されること、すなわち、爪幅中心角の最大値θc_maxは平均磁極角θpの1.1倍以上、1.3倍以下であることがより好ましい。さらに、極ラップ率は20%以上30%以下に設定されること、すなわち、爪幅中心角の最大値θc_maxは平均磁極角θpの1.2倍以上、1.3倍以下であることが一層好ましい。
【0038】
図8に、比較例及び第1実施形態のトルクセンサにおける回転角度に伴う磁束変動を示す。比較例は、極ラップ率が0%以下であり、また、特許文献1に開示されたような磁気シールド部材を備えていない。比較例では、多極磁石20から磁気センサ75に直接到達する磁束によって磁気センサ75の出力変動が発生する。これに対し第1実施形態では、爪幅中心角の最大値θc_maxが平均磁極角θpよりも大きく設定された爪部41、42が磁気シールド部材としての機能を兼ねるため、振れ回りノイズが大幅に低減する。
【0039】
なお、
図7(a)に示すように、極ラップ率r
Lを大きくすることにより感度低下の背反が生じるが、極ラップ率が30%以下の範囲では、感度低下よりも振れ回りノイズ低減効果の方が上回る。したがって、ノイズに対する感度の比であるS/N比を向上させることができる。
【0040】
このように本実施形態では、特許文献1のトルクセンサのように別部品の磁気シールド部材を用いることなく、ヨーク341、342の爪部41、42が磁気シールド機能を兼ねることで、振れ回りノイズを有効に低減することができる。よって、部品点数を増加することなく、低コストで検出性能を向上させることができる。また、第1実施形態では爪部41、42が単純な三角形状であるため、製造が容易であり、製造ばらつきを抑制することができる。
【0041】
次に、第1実施形態に対し爪部の形状が異なる第2、第3実施形態、及び、第1実施形態に対し補助ヨークがさらに設けられる第4実施形態について、
図9〜
図12を参照して説明する。
図9〜
図11に示すヨーク及び多極磁石の正面図は、第1実施形態の
図3に準じ、トルクセンサ10の中立状態を示す。同様に
図12に示す断面図は、第1実施形態の
図4に準じ、トルクセンサ10の中立状態を示す。
【0042】
(第2実施形態)
図9に示すように、第2実施形態の一組のヨーク351、352では、爪部51、52は単純な三角形でなく、根元部53から先端部55に向かって幅が連続的に漸減する途中に、幅が不連続に急減する段差部54が形成されている。段差部54は、高さ方向の中心よりも根元部53側に形成されている。第1実施形態と同様に、リング部31、32との境界をなす根元部53の底辺において爪幅中心角θcが最大である。
【0043】
これにより第2実施形態では、(*)印で示すように、高さ方向の中心付近において隣り合う爪部51と爪部52との間のギャップを維持しつつ、根元部53の底辺を第1実施形態より長く設定することができる。したがって、振れ回りノイズの低減効果がより大きくなる。
【0044】
(第3実施形態)
図10に示すように、第3実施形態の一組のヨーク361、362は、爪部61、62の根元部63が幅の広い略平行の帯状に形成されている。また、爪部61、62の先端部65は幅の狭い略平行の帯状に形成されており、根元部63から先端部65との間に、幅が漸減する徐変部64が形成されている。第1、第2実施形態と同様に、リング部31、32との境界をなす根元部63において爪幅中心角θcが最大である。
【0045】
第3実施形態では、根元部63の面積を広く確保することができるため、周方向の位置ずれに対するロバスト性が向上する。
【0046】
(第4実施形態)
図11、
図12に示すように、第4実施形態のトルクセンサは、一組のヨーク341、342のリング部31、32と磁気センサ75との間に一組の補助ヨーク81、82を備える。補助ヨーク81、82は、軟磁性体で形成され、ヨーク341、342の爪部41、42より径方向外側においてヨーク341、342と非接触の状態で設けられ、ヨーク341、342の磁束を集磁し磁気センサ75に伝達する。
【0047】
図示の構成例では、一組の補助ヨーク81、82は、集磁部83、接続部84及び伝達部85を有する。集磁部83は、ヨーク341、342のリング部31、32に沿った円弧状に形成され、リング部31、32に軸方向に対向してヨーク341、342の磁束を集磁する。伝達部85は、磁気センサ75を軸方向に挟み、集磁部83で集磁された磁束を磁気センサ75に伝達する。接続部84は、集磁部83から伝達部85に向かって折り曲げられる。図示例の接続部84は斜め方向に折り曲げられているが、磁気センサ75をヨーク341、34に近く配置できる場合には、接続部84は略直角に折り曲げられてもよい。
【0048】
第4実施形態では、補助ヨーク81、82を設けることで、ヨーク341、342の磁束を効率良く集磁することができ、トルクの検出感度が向上する。なお、爪部の形状が異なる第2実施形態のヨーク351、352、又は第3実施形態のヨーク361、362に対しても同様に補助ヨーク81、82を追加することができる。また、集磁部83の形状は円弧状に限らず、適宜選択してよい。
【0049】
(その他の実施形態)
(a)上記実施形態では、リング部31、32との境界をなす根元部43、53、63において爪幅中心角θcが最大である。これに対し他の実施形態では、爪部が太鼓形状を呈しており、高さ方向の途中の位置で爪幅中心角θcが最大となってもよい。
【0050】
(b)磁気センサ75の数は一つに限らず、二つ以上の磁気センサ75が冗長的に設けられてもよい。ECU91の制御に用いるトルク情報を冗長出力する構成とすることで、仮に磁気センサや演算回路の故障により一方のトルク情報が使用不能となっても、ECU91は、他方のトルク情報を用いてモータ92の駆動を継続することができる。
【0051】
(c)上記実施形態では、多極磁石20が入力軸11に、一組のヨーク341、342等が出力軸12に固定されるが、逆に、多極磁石20が出力軸12に、一組のヨーク341、342等が入力軸11に固定されてもよい。また、多極磁石20がトーションバー13の一端側に、一組のヨーク341、342等がトーションバー13の他端側に固定されてもよい。
【0052】
(d)本発明のトルクセンサは、電動パワーステアリング装置に限らず、軸トルクを検出する様々な装置に適用することができる。
【0053】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。