特開2020-27207(P2020-27207A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-27207(P2020-27207A)
(43)【公開日】2020年2月20日
(54)【発明の名称】精密ピンホール
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20200124BHJP
   B23K 26/066 20140101ALI20200124BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20200124BHJP
【FI】
   G02B5/00 B
   B23K26/066
   C22C1/04 B
   C22C1/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-152809(P2018-152809)
(22)【出願日】2018年8月15日
(71)【出願人】
【識別番号】318004338
【氏名又は名称】株式会社SND
(74)【代理人】
【識別番号】100183715
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 康治
(72)【発明者】
【氏名】工藤 栄
【テーマコード(参考)】
2H042
4E168
4K018
【Fターム(参考)】
2H042AA06
2H042AA14
2H042AA21
4E168EA19
4E168KA17
4K018AA08
4K018AA20
4K018AA22
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】ピンホール部にダイヤモンドを使用し、レーザー光線の入射により生じるに高温化に対応した耐熱性に優れ、長時間の使用が可能である精密ピンホールを提供する。
【解決手段】
ダイヤモンドを貫通して形成された孔を有するピンホール部2と、ピンホール部2に環装した熱膨張率が低い焼結合金で構成されるマウント部3と、マウント部3に環装した熱伝導率が高い金属で構成されるケース部4の三層構造からなることを特徴とする精密ピンホール。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドを貫通して形成された孔を有するピンホール部と、ピンホール部に環装した熱膨張率が低い焼結合金で構成されるマウント部と、マウント部に環装した熱伝導率が高い金属で構成されるケース部の三層構造からなることを特徴とする精密ピンホール。
【請求項2】
前記ピンホール部のダイヤモンドを貫通して形成された孔が、孔のその両側の縁辺から孔長の中心に向けて円錐状、又は擂鉢状のザグリにより形成された縮径部と、その縮径部の間に位置する小孔から構成されることを特徴とする請求項1に記載の精密ピンホール。
【請求項3】
前記ピンホール部に環装したマウント部の内周面縁辺が、ピンホール部の中心部の孔に向けて両縁辺が左右対称にティーパー状又は放物線状の形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の精密ピンホール。
【請求項4】
前記ケース部の表・裏の面に放射線状、又はリング状に連続する溝形状を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の精密ピンホール。
【請求項5】
前記マウント部が、タングステン合金、ニッケル合金、モリブデン合金のいずれか1の焼結合金から構成され、前記ケース部が、銅、真鍮、又はアルミニウムのいずれか1の金属であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の精密ピンホール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペイシャルフィルター、解析技術、結像システム、レーザー装置等の精密光学システムの設計・製造に用いる精密ピンホールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密ピンホールは、対物レンズと共に構成するスペイシャルフィルター等に用いられ、レーザー光線の歪んだ波面やノイズを取り除き、またゴミやレンズのキズなどにより発生する干渉縞を取り除いて、ノイズのない綺麗に整形された拡散光を作ることができる。
【0003】
このことから、精密ピンホールにより光線外周部のノイズが遮断された光源の像が生成され、解像度が大幅に向上する。従って、精密ピンホールは、解析技術、レーザー装置、ホログラフィーや光情報処理などでは特に大きな役割を果たしている。
【0004】
従来の精密ピンホールは、ニッケル、銅、又はステンレス等の非常に薄い金属膜の基板に小孔が形成されているものである。このため、外的圧力に非常に弱く、曲げや歪み等が発生し易く簡単に使用不能になってしまうため、アルミニウム等のマウント部に基板を収めた二層構造にして補強することで取扱を容易にしている。
【0005】
しかし、光源に高エネルギーレーザーを使用した場合、金属膜の小孔にレーザー光線が入射されるとそのレーザー光線による熱で孔周辺が焼けて破損する、又は孔の形状が変形してしまうことが多くあり、短期間に交換しなければならない問題が生じていた。
【0006】
これらの問題に対応するため、高エネルギーレーザー用精密ピンホールと称して、熱伝導率に優れている銅の薄膜の基板に、赤外線に対する反射率の高い金をコーティングしたピンホール基板が存在する。しかし、パルスレーザーやYAGレーザー、またCOレーザーの光源で使用すると、そのような処理をしたピンホール基板であっても長時間の使用は期待できず十分な効果があるまでには至っていない。
【0007】
この問題を解決するために特許文献1には、ピンホール基盤にダイヤモンドを使用するピンホール装置が開示されている。ダイヤモンドは熱伝導率が高い一方、熱変形が少ないためレーザー光線が入射することで生じる損傷が、従来の金属膜のピンホール基盤と比較して少なく耐久性が向上する。
【0008】
図5は、このピンホール装置の説明図である。装置の中央には所定直径のピンホール53が形成されたダイヤモンドから構成されるピンホールブロック52が配置され、ピンホールブロック52の周りにはピンホールブロック52から所定距離離れたピンホールフレーム51が配置されている。ピンホールフレーム51にはピンホールブロック52の垂直及び水平方向の位置を調節してレーザー光線の進行軸をピンホール53に整列させる水平及び垂直方向のバネ55が付勢されており、各バネ55a、55bの反対側には前記ピンホールブロック52を支持する調節スクリュー54a、54bが設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−202575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながらダイヤモンドは価格的に高価なものであり、ピンホールブロック52自体をすべてダイヤモンドで構成すると、消耗品として扱われる部品としては高額になってしまい価格上の問題があった。
【0011】
更に、特許文献1に拠れば、ダイヤモンドのピンホールブロック52自体を直にピンホールフレーム51に設置しなければならず、使用の際に取扱上の問題があった。
【0012】
この対応措置として、ダイヤモンドを必要最小限のサイズにしてのその周囲を金属性のマウント部で保持することが考えられる。しかし、ダイヤモンドは物質特性として脆弱性があるため、レーザー光線の長時間の入射によりダイヤモンドが熱せられるとその周囲のマウント部の金属も熱せられることで金属が熱膨張し、この金属の熱膨張がダイヤモンドを伸張させて破壊してしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、係る従来技術の問題を解決したものである。すなわち、レーザー光線が入射される小孔を有するダイヤモンドを必要最小限のサイズにして、その周囲を高温化に対応した構造とすることで、耐熱性に優れ、長時間の使用が可能であり、しかも取扱い易い精密ピンホールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載された発明に係る精密ピンホールは、ダイヤモンドを貫通して形成された孔を有するピンホール部と、ピンホール部に環装した熱膨張率が低い焼結合金で構成されるマウント部と、マウント部に環装した熱伝導率が高い金属で構成されるケース部の三層構造からなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項2に記載された発明に係る精密ピンホールは、請求項1に記載のピンホール部のダイヤモンドを貫通して形成された孔が、孔のその両側の縁辺から孔長の中心に向けて円錐状、又は擂鉢状のザグリにより形成された縮径部と、その縮径部の間に位置する小孔から構成されることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3に記載された発明に係る精密ピンホールは、請求項1又は2に記載のピンホール部に環装したマウント部の内周面縁辺が、ピンホール部の中心部の孔に向けて両縁辺が左右対称にティーパー状又は放物線状の形状を有することを特徴とするものである。
【0017】
請求項4に記載された発明に係る精密ピンホールは、請求項1〜3のいずれかに記載のケース部の表・裏の面に放射線状、又はリング状に連続する溝形状を有することを特徴とするものである。
【0018】
請求項5に記載された発明に係る精密ピンホール部材は、請求項1〜4のいずれかに記載のマウント部が、タングステン合金、ニッケル合金、モリブデン合金のいずれか1の焼結合金から構成され、ケース部が、銅、真鍮、又はアルミニウムのいずれか1の金属であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性に優れ、取り扱いが容易で、レーザー光線の長時間の使用にも耐えうる精密ピンホールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は、精密ピンホールの平面図である。(b)は、精密ピンホールのAA断面図である。
図2図1(b)の破線部Bの拡大図である。
図3】精密ピンホールのAA断面でマウント部とケース部の接合部分を示す。
図4】ケース部の表面の溝形状を示す。
図5】特許文献1のピンホール装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の精密ピンホールの実施の形態を図1〜4を参照して説明する。
【0022】
本発明の精密ピンホール1は、図1に示すようにホール部5を形成したピンホール部2を中心に、ピンホール部2に環装してピンホール部2を保持するマウント部3、及びマウント部3に環装してピンホール部2とマウント部3を保護するケース部4のそれぞれ異なる材質から構成されている。
【0023】
このように精密ピンホール1は、直径が16.0mmの円盤の形状を有し、その中心部が上述したピンホール部2、そのピンホール部2の周囲にマウント部3が環装され、マウント部3の周囲にはケース部4が環装された三層構造になっている。また、精密ピンホール1は、ピンホール部2を除いてその厚みが2.0mm〜3.0mm、好ましくは2.2mm〜2.5mmとなっている。
【0024】
ピンホール部2は、図2に示すように硬度が高く、熱伝導率が高く、そして熱膨張率が低く、熱に対して安定性があるダイヤモンドに小孔7を形成したものである。
ダイヤモンドには一般に、天然、人造単結晶、人造多結晶のものがあり、何れもピンホール部2に使用できる。本発明では、ダイヤモンドに形成された小孔7の周縁に凹凸が少なく、より真円に近い小孔7を形成するのに適している人造単結晶ダイヤモンドを使用している。
【0025】
人造単結晶ダイヤモンドは、厚さ0.5mm〜1.5mmのものを用い、そのダイヤモンドの中央部に必要に応じた孔径のホール部5を形成している。このホール部5は、人造単結晶ダイヤモンドの一面側10と他面側11を貫通して形成されており、ホール部5のその両側の孔の縁辺から中心部に向けて円錐状、又は擂鉢状のザグリにより形成された縮径部6と、その縮径部6の間に位置する小孔7から構成されている。
【0026】
小孔7の孔長8の距離は、小さい程その小孔7を通過するレーザー光線の量が削減されにくいことから、なるべく小さく形成するのが好ましい。両側に縮径部6を設けることでレーザー光線が通過するホール部5の小孔7の孔長8の距離を極力小さくすることを可能にしている。また、両面の縮径部6を左右対称に形成しているのでピンホール部2の何れの側からレーザー光線を入射させても同じ効果が得られる構造になっている。
【0027】
このダイヤモンドのピンホール部2は、その周囲を焼結合金から構成されるマウント部3で環装・固着されている。
【0028】
マウント部3は、平板な円環の形状を有しており、高温強度が高く、熱膨張率の比較的低い焼結合金から構成されている。この焼結合金の円環の内周面にダイヤモンドのピンホール部2の外周部を嵌め込んで固着している。
【0029】
ピンホール部2のダイヤモンドは熱伝導率が高く、レーザー光線の長時間の入射により熱が蓄積されダイヤモンド自体の温度が上昇して高温化してくる。使用中に高温化の状態が継続することはピンホール部2にとって精度上好ましくない。
この高温化の対応措置として、マウント部3には、高温強度と熱伝導率が高く、熱膨張率が低い焼結合金を使用することが必要とされる。
【0030】
熱伝導率が高い材質をマウント部3に使用することでピンホール部2に蓄積した熱を速やかにマウント部3に伝導させ、ピンホール部2の高温化を軽減することができる。
【0031】
また、このピンホール部2からマウント部3への熱の伝導によりマウント部3自体も高温化して熱膨張する。このとき、熱によるマウント部3の膨張が激しいとピンホール部2を構成しているダイヤモンドが伸張されて破損する虞が生じる。このため、マウント部3には熱膨張率の低い焼結合金を使用することが必要とされる。
【0032】
従って、線膨張係数が好ましくは、5.0×10−6/K〜13.0×10−6/Kの範囲であり、より好ましくは、5.0×10−6/K〜10.0×10−6/Kの範囲である焼結合金でマウント部3を構成するのが望ましい。
【0033】
また、ピンホール部2のダイヤモンドは、その外周部をマウント部3の内周面に嵌め込まれて固着されているが、図2に示すようにマウント部3の内周面の両縁辺9はピンホール部2の中心部に位置するホール部5に近づくにつれ左右対称に肉厚が薄くなるティーパー状、又は放物線状に削成されている。
【0034】
これにより、ピンホール部2に蓄積された熱を放熱しつつマウント部3に速やかに伝導させることができ、ピンホール部2の高温化を更に効率的に軽減することができる。
【0035】
更に、ピンホール部2を含むマウント部3の直径を6.0mm〜12.0mmの範囲に定め、ピンホール部2に環装したマウント部3のサイズを調整することでピンホール部2がマウント部3から受ける影響を低減している。
【0036】
これはまた、ダイヤモンドのピンホール部2をマウント部3に固着して一体的に製造する工程において、マウント部3となる合金粉末が加熱により焼結し冷却される際に生じる内部応力がピンホール部2のダイヤモンドに与える負荷も軽減している。
【0037】
このマウント部3を構成する焼結合金として、例えばタングステン合金、ニッケル合金、モリブデン合金等の使用が挙げられる。そして、これらいずれか1つの焼結合金から構成されるマウント部3は、その周囲を金属のケース部4で環装され保護されている。
【0038】
ケース部4は、マウント部3と同じ厚みで、平板な円環の形状を有しており、熱伝導率の高い金属から構成されている。そして、このケース部4は、ダイヤモンドからなるピンホール部2と焼結合金からなるマウント部3を保護すると共にマウント部3に伝導された熱を受けて、放熱するように設計されている。
【0039】
マウント部3とケース部4は、マウント部3の外周面がケース部の内周面に嵌挿されて環装一体化しているが、好ましくは、図3の(a)、(b)に示すようにマウント部3とケース部4の接合面12を楔型、又はL字切り欠き加工をした形状にして接合面積を大きくして合着一体化するのが好ましい。このようにマウント部3とケース部4の接合面12の面積を大きくすることでマウント部3からの熱伝導が効率的に行われる。
【0040】
また、図4の(a)、(b)に示すようにマウント部3の外周面に環装している円環形状のケース部4の表・裏の面には一定の距離を置いてリング状、又は放射線状に連続する溝形状13が削成されているのが好ましい。この溝形状13によりケース部4の表面積を大きくすることで、より効果的な放熱を図ることができる。
尚、放熱を図るためのケース部4の表面積の拡大化は、リング状、又は放射線状に限定されるものではない。
【0041】
また、ケース部4に使用される金属もマウント部3から熱が伝導されることにより熱膨張する。このためケース部4の熱膨張によるマウント部3への影響を少なく抑えるようにその円環幅を4.0mm〜10.0mmの範囲に定めている。
【0042】
ケース部4に使用する金属の熱伝導率は、好ましくは106W/m・K〜398W/m・Kの範囲であり、より好ましくは236W/m・K〜398W/m・Kの範囲である。従って、ケース部4に使用する金属としては、熱伝導率の高い真鍮、アルミニウム、銅などが挙げられる。
【0043】
以上から、本発明の精密ピンホール1は、ピンホール部2に耐熱性のあるダイヤモンドを適用することで高エネルギーレーザー光線の使用に対応しており、また長時間の使用により生じるピンホール部2の高温化に対しては、ピンホール部2の外周を囲むマウント部3に熱伝導率が高く、熱膨張率の低い焼結合金を使用し、更に、マウント部3の外周を囲むケース部4には熱伝導率の高い金属を使用することでレーザー光線の長時間入射による高温化を緩和して長時間の使用を可能としている。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の精密ピンホール1は、ピンホール部2にダイヤモンド、マウント部3に熱膨張率の低い焼結合金、ケース部4に熱伝導率の高い金属から構成される三層構造とすることで、耐熱性に優れており、取り扱いが容易であることからレーザー光線を長時間入射する解析機器や光情報処理装置の使用に提供できる。
【符号の説明】
【0045】
1 精密ピンホール
2 ピンホール部
3 マウント部
4 ケース部
5 ホール部
6 縮径部
7 小孔
8 孔長
9 縁辺
10 一面側
11 他面側
12 接合面
13 溝形状
図1
図2
図3
図4
図5