(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-27796(P2020-27796A)
(43)【公開日】2020年2月20日
(54)【発明の名称】リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液及び当該電解液を含むリチウム/ナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20200124BHJP
【FI】
H01M10/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-139639(P2019-139639)
(22)【出願日】2019年7月30日
(31)【優先権主張番号】201810916548.9
(32)【優先日】2018年8月13日
(33)【優先権主張国】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507190994
【氏名又は名称】上海交通大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAO TONG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】楊 軍
(72)【発明者】
【氏名】朱 金輝
(72)【発明者】
【氏名】張 濤
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ06
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ10
(57)【要約】
【課題】本発明は、リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液及び当該電解液を含むリチウム/ナトリウムイオン電池に関するものである。
【解決手段】当該リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液は、リチウム/ナトリウムイオン塩の水溶液に親水性酸化物ナノ粒子が均一に分散されている。本発明のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液によれば、水系電解液の電位窓を向上できるとともに、水素生成副反応の発生を抑制できる。よって、より多くの低電圧負極を水系電解液による電池系に適用でき、電池のエネルギー密度を向上できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム/ナトリウムイオン塩の水溶液に親水性酸化物ナノ粒子が均一に分散されていることを特徴とする、リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項2】
リチウムイオン塩は、LiClO4、LiTFSI、LiFSI、Li2SO4、LiNO3のうちの一つ又は複数であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項3】
リチウムイオン塩の濃度が1−5mol/Lであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項4】
前記親水性酸化物ナノ粒子は、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2のうちの一つ又は複数であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項5】
前記親水性酸化物ナノ粒子は、粒子サイズが7−40nmであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項6】
前記親水性酸化物ナノ粒子の含有量が0より大きく且つ10wt%より小さいが、1−3wt.%である、請求項1に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項7】
ナトリウムイオン塩は、NaClO4、NaTFSI、NaFSI、Na2SO4、NaNO3のうちの一つ又は複数であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項8】
ナトリウムイオン塩の濃度が1−5mol/Lであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液。
【請求項9】
請求項1−8に記載のリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液を含むリチウム/ナトリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液及び当該電解液を含むリチウム/ナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、エネルギーニーズの急激な増加に伴い、高エネルギー密度の二次電池は、将来のエネルギー産業発展のポイントになっている。また、リチウム/ナトリウムイオン電池は、その際立った性能利点によって研究のホットスポットになっている。しかし、従来におけるリチウム/ナトリウムイオン電池で使用された電解液は、有機電解液であるため、導電率が低く、燃焼するリスクがあった。そのため、有機電解液の代わりに水系電解液を使用することが考えられた。水系電解液は、コストが低く、安全性が高く、環境にも優しいなどの利点がある。さらに、より高い導電率を有し、電気の出力特性も改善できる。一方、水系電解液は、電位窓が狭いという解題がある。それは、水の電位窓が安定的で狭いため、負極において水素生成反応が発生しやすいとともに、正極において酸素発生反応が発生しやすい。現時点、水系電解液の電位窓を広げるための方法として、濃度の高いリチウム/ナトリウム塩水溶液により、「塩が水をラップする」構成を形成することで、水の分解を抑制し、電解液の電位窓を広げるものが一般的であった。しかし、このような方法は、コストが高く、電解液の粘度が大きくなるため、塩析出現象が発生してしまうことがあった。したがって、簡単で作業しやすく、コストも低い、水系電解液の電位窓を広げる方法を調べることが重要となった。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、電位窓を広げることができるリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液及び当該電解液を含むリチウム/ナトリウムイオン電池を提供する。水系電解液は、導電率及び安全性が高く、環境にも優しいなどの利点を有するが、その電位窓が狭いため、水系電解液によるリチウム/ナトリウムイオン電池のエネルギー密度が低い。本発明では、低価の酸化物ナノ粒子を水系電解液の添加剤として使用することで、水系電解液の電位窓が大幅に広げられる。また、当該方法は、簡単で作業しやすいとともに、コストも低いため、工業化生産の実現にも非常に有利である。
【0004】
本発明は、以下に示す技術案によって実現される。
上記の課題を解決するリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液は、リチウム/ナトリウムイオン塩の水溶液に親水性酸化物ナノ粒子が均一に分散されている。
【0005】
前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液において、前記リチウムイオン塩は、LiClO
4、LiTFSI、LiFSI、Li
2SO
4、LiNO
3のうちの一つ又は複数であることが好ましい。
【0006】
前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液において、前記リチウムイオン塩の濃度が1−5mol/Lであることが好ましい。
濃度が5mol/Lを超えると、導電率が計測器の測定範囲を超えており、コストも増加するため、好ましくない。また、濃度が1mol/L未満の場合、導電率が低いため、好ましくない。
【0007】
前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液において、前記親水性酸化物ナノ粒子は、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2のうちの一つ又は複数であることが好ましい。
【0008】
前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液において、前記親水性酸化物ナノ粒子は、粒子サイズが7−40 nmであることが好ましい。
粒子サイズが40nmを超える場合、酸化物粒子が電解液で沈降しやすくなるため、好ましくない。また、7nm未満の場合、値段が高いため、好ましくない。
【0009】
前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液において、前記親水性酸化物ナノ粒子の含有量が0より大きく且つ10wt%より小さいが、1−3 wt.%であることが好ましい。
【0010】
含有量が3wt%を超える場合、粘度が高くなり、流動性が悪くなるため、好ましくない。含有量が1wt%未満の場合、効果が顕著でないため、好ましくない。
前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液において、前記ナトリウムイオン塩は、NaClO
4、NaTFSI、NaFSI、Na
2SO
4、NaNO
3のうちの一つ又は複数であることが好ましい。
【0011】
前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液において、前記ナトリウムイオン塩の濃度が1−5mol/Lであることが好ましい。
濃度が5mol/Lを超えると、導電率が計測器の測定範囲を超えており、コストも増加するため、好ましくない。また、濃度が1mol/L未満の場合、導電率が低いため、好ましくない。
【0012】
上記の課題を解決するリチウム/ナトリウムイオン電池は、前記リチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液を含むことが好ましい。
本発明は、従来技術に比べて、以下のような効果が得られる。
1、低価の酸化物ナノ粒子を添加剤として加入することで、高濃度のリチウム/ナトリウムイオン塩水溶液を水系電解液として使用しなくてもよいとともに、電位窓を広げることができる。
2、簡単で作業しやすいため、工業化生産を実現しやすい。
【0013】
以下、図面を参照しながら実施例を詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限られない。本発明の他の特徴、目的や効果は、以下の説明により明瞭になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例7−9で調製された水系電解液に係るサイクル電圧電流グラフ及び一部拡大図である。
【
図2】本発明の実施例16−18で調製された水系電解液に係るサイクル電圧電流グラフ及び一部拡大図である。
【
図3】本発明の実施例25−27で調製された水系電解液に係るサイクル電圧電流グラフ及び一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、具体的な実施例を通じて、本発明を詳しく説明する。以下の実施例は、当業者に本発明を理解させるためのものであり、いかなる形態で本発明を制限するものではない。当業者は、本発明の技術的思想を超えない範囲で、変形又は変更を行ってもよい。これらの変形や変更も本願の保護範囲に含まれる。
【0016】
・実施例1−9
リチウムイオン塩として、LiClO
4を使用することで、濃度がそれぞれ1、3、5M(mol/L)となるリチウムイオン塩水溶液を調製した。そして、得られたリチウムイオン塩水溶液に、添加剤として、サイズが12nmであるSiO
2を1、3、5wt%の含有量となるように添加し、撹拌又は超音波によりリチウムイオン塩水溶液に均一に分散させることで、実施例1−9のリチウムイオン電池用水系電解液を調製した。なお、実施例7−9におけるリチウムイオン電池用水系電解液に対して、ステンレス鋼を作用電極とし、Ag/AgClを参照電極として、サイクル電圧電流テストを行った。
【0017】
実施例1−9で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に対して、そのpH値及び導電率を以下の表1に示す。
【0018】
【表1】
実施例7−9で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に対するサイクル電圧電流グラフを
図1に示す。
図1から分かるように、水系電解液に添加剤としてSiO
2を添加した結果、添加剤を添加しない場合に比べて、陰極の還元電位が明らかにマイナスシフトされたことが確認できた。具体的数値を以下の表2に示す。
【0019】
【表2】
・実施例10−18
ナトリウムイオン塩として、NaClO
4を使用することで、濃度がそれぞれ1、3、5M(mol/L)となるナトリウムイオン塩水溶液を調製した。そして、得られたナトリウムイオン塩水溶液に、添加剤として、サイズが12nmであるSiO
2を1、3、5wt%の含有量となるように添加し、撹拌又は超音波によりナトリウムイオン塩水溶液に均一に分散させることで、実施例1−9のナトリウムイオン電池用水系電解液を調製した。なお、実施例16−18におけるナトリウムイオン電池用水系電解液に対して、ステンレス鋼を作用電極とし、Ag/AgClを参照電極として、サイクル電圧電流テストを行った。
【0020】
実施例16−18で調製されたナトリウムイオン電池用水系電解液に対して、そのpH値及び導電率を以下の表3に示す。
【0021】
【表3】
実施例16−18で調製されたナトリウムイオン電池用水系電解液に対するサイクル電圧電流グラフを
図2に示す。
図2から分かるように、水系電解液に添加剤としてSiO
2を添加した結果、添加剤を添加しない場合に比べて、陰極の還元電位が明らかにマイナスシフトされたことが確認できた。具体的数値を以下の表4に示す。
【0022】
【表4】
・実施例19−27
リチウムイオン塩として、LiTFSIを使用した以外、実施例1−8と同様に、実施例19−27のリチウムイオン電池用水系電解液を調製し、実施例1−8と同様に、サイクル電圧電流テストを行った。
【0023】
実施例19−27で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に対して、そのpH値及び導電率を以下の表5に示す。
【0024】
【表5】
実施例25−27で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に対するサイクル電圧電流グラフを
図3に示す。
図3から分かるように、水系電解液に添加剤としてSiO
2を添加した結果、添加剤を添加しない場合に比べて、陰極の還元電位が明らかにマイナスシフトされたことが確認できた。具体的数値を以下の表6に示す。
【0025】
【表6】
・実施例28−36
ナトリウムイオン塩として、NaTFSIを使用した以外、実施例10−18と同様に、実施例28−36のナトリウムイオン電池用水系電解液を調製し、実施例1−8と同様に、サイクル電圧電流テストを行った。
【0026】
実施例28−36で調製されたナトリウムイオン電池用水系電解液に対して、そのpH値及び導電率を以下の表7に示す。
【0027】
【表7】
実施例34−36で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に、添加剤としてSiO
2を添加した結果、添加剤を添加しない場合に比べて、陰極の還元電位が明らかにマイナスシフトされたことが確認できた。具体的数値を以下の表8に示す。
【0028】
【表8】
・実施例37−38
添加剤としてのSiO
2をそれぞれサイズが30、40nmとなるものに変更した以外、実施例7と同様に、実施例37、38のナトリウムイオン電池用水系電解液を調製し、実施例1−8と同様に、サイクル電圧電流テストを行った。
【0029】
実施例37、38で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に対して、そのpH値及び導電率を以下の表9に示す。
【0030】
【表9】
実施例37、38で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に、添加剤としてSiO
2を添加した結果、添加剤を添加しない場合に比べて、陰極の還元電位が明らかにマイナスシフトされたことが確認できた。具体的数値を以下の表10に示す。
【0031】
【表10】
・実施例39
添加剤として、サイズが15nmとなるAl
2O
3を使用した以外、実施例7と同様に、実施例39のリチウムイオン電池用水系電解液を調製し、実施例7と同様に、サイクル電圧電流テストを行った。
【0032】
実施例9で調製されたリチウムイオン電池用水系電解液に、添加剤としてAl
2O
3を添加した結果、添加剤を添加しない場合に比べて、陰極の還元電位が156 mVマイナスシフトされたことが確認できた。
【0033】
本発明は、リチウム/ナトリウムイオン塩の水溶液に親水性酸化物ナノ粒子が均一に分散されているリチウム/ナトリウムイオン電池用水系電解液及び当該電解液を含むリチウム/ナトリウムイオン電池を提供する。本発明に係る方法は、低価の酸化物ナノ粒子を水系電解液添加剤として使用することで、水系電解液の電位窓を顕著に向上できる。また、当該方法は、簡単で作業しやすいとともに、コストも低いため、工業化生産の実現にも非常に有利である。
【0034】
以上、本発明の具体的実施例を説明した。ただし、当業者は、本発明が上記の実施形態に限られず、特許請求の範囲内で適宜に変形又は変更を行ってもよいと理解できるだろう。