(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-28223(P2020-28223A)
(43)【公開日】2020年2月27日
(54)【発明の名称】植物栄養液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20200131BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-153932(P2018-153932)
(22)【出願日】2018年8月20日
(71)【出願人】
【識別番号】509266789
【氏名又は名称】株式会社微酸研
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】土井 豊彦
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB17
2B022DA19
2B022DA20
(57)【要約】
【課題】本発明は、製造コストを大きく増加させることなく微生物汚染の無い植物栄養液を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分が微酸性電解水又は該微酸性電解水の水希釈液に溶解してなる植物栄養液が提供される。前記有効成分は、生育効果、着花効果、結実効果、活力付与効果、害虫防除効果または有害微生物防除効果からなる群から選択される少なくとも一の効果をもたらす物質であり、本発明において、前記植物栄養液の有効塩素濃度は、0.1ppm以上、50ppm以下であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分が微酸性電解水又は該微酸性電解水の水希釈液に溶解してなる植物栄養液。
【請求項2】
前記植物栄養液の有効塩素濃度が、0.1ppm以上、50ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の植物栄養液。
【請求項3】
前記有効成分が、生育効果、着花効果、結実効果、活力付与効果、害虫防除効果または有害微生物防除効果からなる群から選択される少なくとも一の効果をもたらす物質である、
請求項1または2に記載の植物栄養液。
【請求項4】
希塩酸を無隔膜電解槽で電解して得られる水溶液又は該水溶液の水希釈液に、植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分を混合溶解して植物栄養液を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に封入された植物栄養液に関し、より詳細には、微酸性電解水を使用した植物栄養液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭菜園用や園芸用もしくは農業用として、植物の健全な生育に必要な複数の成分を含有する水溶液が植物活性液若しくは液体肥料(以下、植物栄養液という)として広く販売されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、現在販売されている植物栄養液の製造環境は、食品工場のように微生物が厳格にコントロールされている環境ではないので、製品に微生物が混入する可能性が極めて高く、混入した微生物の繁殖によって、内容液に変色、黴苔、菌塊等が生じたり、成分の変質によって機能が劣化したりして、不良品となることが少なくない。
【0004】
もちろん、原料、内容液、容器、充填環境の全てにおいて完全な滅菌を実施すれば、微生物汚染による不良品の発生を防止することはできるが、それらの滅菌に係る設備改造や運転コストを商品価格に反映させると、今度は、市場における価格競争力が低下してしまうというトレードオフの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−246663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、製造コストを大きく増加させることなく微生物汚染の無い植物栄養液を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、製造コストを大きく増加させることなく微生物汚染の無い植物栄養液を製造する方法につき鋭意検討した結果、以下の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分が微酸性電解水又はその水希釈液に溶解してなる植物栄養液が提供される。なお、「植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分が微酸性電解水又はその水希釈液に溶解してなる」の表現は、単に状態を示すことにより植物栄養液の構造又は特性を特定しているにすぎず、植物栄養液の製造方法を記載するものではない。なお、本発明の植物栄養液は、植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分を溶質とし、微酸性電解水又はその水希釈液を溶媒とする植物栄養液と言い換えることもできる。
【0009】
また、本発明によれば、塩酸を無隔膜電解槽で電解して得られる水溶液もしくはその水希釈液に、植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分を混合溶解して植物栄養液を製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、製造コストを大きく増加させることなく微生物汚染の無い植物栄養液を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の植物栄養液の製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0013】
以下、本発明の実施形態である植物栄養液の製造方法を
図1に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、本実施形態において、「植物栄養液」は、植物の栽培に用いられる栄養液を意味し、植物活性液および液体肥料を包含する概念である。
【0014】
(工程1)
工程1では、塩酸を無隔膜電解槽で電解し水で希釈することによって微酸性電解水を生成する。本実施形態において、微酸性電解水とは、希塩酸を無隔膜電解槽で電解した液を水で稀釈して得られる分子状次亜塩素酸の水溶液である。
【0015】
(工程2)
工程2では、植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す各有効成分を、必要量秤取する。本実施形態において、植物を活性化する、もしくは植物の成長を促す有効成分とは、植物の健全な成長に必要とされる成分であって、植物に対して、生育効果、着花効果、結実効果、活力付与効果、害虫防除効果、有害微生物防除効果などをもたらす化学物質を意味する。このような化学物質としては、チッソ、リン酸、カリウム、鉄、マンガン、ホウ素といった必須要素の他、植物の健康を維持又は成長に効果のある各種の微量要素或いは化学合成物を例示することができる。
【0016】
(工程3)
工程3では、工程2で秤取した有効成分を、有効塩素濃度の調整された一定量の微酸性電解水に投入し、混合溶解する。
【0017】
(工程4)
工程4では、工程3で調製された溶液を容器に充填し密封する。
【0018】
(工程5)
工程5は、微酸性電解水生成装置で、調整できない低有効塩素濃度の微酸性電解水を原料とする時に、装置で生成された微酸性電解水に水を加えて希釈し、所望の有効塩素濃度に調整する工程であり、必要としないこともある。
【0019】
容器に充填される時の植物栄養液の有効塩素濃度が、0.1ppm以上、50ppm以下となるように調整することが好ましく、0.5ppm以上、10ppm以下となるように調整することがより好ましく、0.5ppm以上、5ppm以下となるように調整することがより一層好ましい。
【0020】
以上、本実施形態の植物栄養液の製造方法について説明したが、上述した製造方法は、原料(溶質)を溶解する溶媒として微酸性電解水又はその水希釈液を使用するという一点を除いて、従来の製造工程を大きく変更するものではないので、製造コストを大きく増加させない。
【0021】
そして、溶媒に使用する微酸性電解水は、細菌、細菌芽胞、真菌、原虫、ウイルスといったほとんどの微生物を殺菌する能力を持つため、仮に、使用する原料や、原料の溶解や微酸性電解水の希釈に使用する水や、植物栄養液を充填する容器や、充填機、充填環境の空気などが微生物で汚染されていたとしても、植物栄養液に混入した微生物は、微酸性電解水の殺菌作用で事後的に死滅し、その後、容器内の植物栄養液は無菌状態に維持される。
【0022】
加えて、溶媒に使用する微酸性電解水は、その原料に塩を使用しないので、植物に対する塩害を発生させる心配がなく、また、植物栄養液の有効成分と反応することもないので、植物栄養液の品質に影響を与える心配がない。
【0023】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうるその他の実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0025】
本発明の効果を検証する実験を行った。なお、以下に述べる実験では、未殺菌の原料、水、容器、充填機を使用し、仕込み液の滅菌処理や充填環境の空気清浄化を一切行っていない。
【0026】
(試験例1)
株式会社微酸研社の製品である微酸性電解水生成装置HOCL0.36tは、無隔膜電解槽を具備しており、微酸性電解水を時間当たり360L生成する能力があり、さらに生成水(微酸性電解水)の有効塩素濃度及びpHを変更する機能も具備している。該装置で、重量濃度9%の塩酸を原料として、有効塩素濃度4.5ppm、pH6.8の微酸性電解水を調製した。
【0027】
調製した微酸性電解水に、植物に効果を示す有効成分として、硝酸カリウム、第一燐酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウムを、溶解後の窒素分が0.5%、燐酸分が0.7%、カリウム分が0.5%、マグネシウム分が0.1%になるように混合溶解して、本試験例の植物栄養液(以下、A液という)を作製した。
【0028】
併せて、比較例として、本試験例の植物栄養液に使用した同じ原料を、同じ濃度で水道水に溶解して、植物栄養液(以下、B液という)を調製した。
【0029】
調製したA液の有効塩素濃度およびpHを調べたところ、それぞれ、4.4ppmおよび5.1であった。一方、B液の有効塩素濃度およびpHを調べたところ、それぞれ、0.4ppmおよび6.8であった。その結果、肥料成分を溶解する前と溶解後で、肥料成分を溶解したことによる計算上の有効塩素濃度の低下以上の有効塩素濃度の低下が見られなかったことから、本試験例の植物栄養液において、微酸性電解水の成分である分子状次亜塩素酸と植物栄養液の成分が反応していないことが確認された。
【0030】
本試験例及び対照例の植物栄養液を、未殺菌の50ml容ネジ蓋付ポリエチレン容器にそれぞれ50個ずつ充填し、室温で1ヶ月間保存した。1ヶ月後、各容器の内容液の状態を目視で観察したところ、A液ではいずれについても混濁や沈殿物は一切見られず、透明な状態を維持していた。一方、B液では2個に白濁が、1個に薄い茶色の変色が、2個に液面に黴塊が観察された。併せて、各容器の内容液について、標準寒天培地を使って穿刺培養したところ、A液からはいずれの内容物からも微生物は検出されなかったが、B液からは11個から細菌もしくは黴が検出された。なお、1ヶ月後の本実施例のA液、B液の有効塩素濃度およびpHを調べたところ、それぞれ、4.1ppmおよび5.3であった。
【0031】
続いて、本試験例のA液を未殺菌の100ml容ネジ蓋付ポリエチレン容器20個に充填するとともに、B液を同様の容器20個に充填し、それらを室温で3ヶ月保存した。3ヶ月後、各容器の内容液について、その状態を目視で観察するとともに、標準寒天培地を使って穿刺培養した。
【0032】
その結果、本試験例のA液には、混濁や沈殿物は一切見られず、微生物検査も全て陰性であった。一方、B液を充填した各容器の内容液には、全てにおいて、白濁や沈殿物が確認され、微生物検査も全て陽性であった。
【0033】
続いて、本試験例の植物栄養液(A液)を水道水で1500倍に希釈した希釈液を、4種類の鉢植え(ムスカリ、パンジー、スノードロップ、ポピー)に対して、1週間に1回の頻度で2ヶ月間にわたって施肥した。併せて、B液を水道水で1500倍に希釈した希釈液を同様の条件で施肥を実施した。2ヶ月後、本実施例の植物栄養液(A液)の希釈液を施肥した群とB液の希釈液を施肥した群について、植物の状態を目視で確認したところ、両群の間で明確な違いは見られず、本実施例の植物栄養液の効果が次亜塩素酸による影響を受けないことが確認された。
【0034】
(試験例2)
有効成分を微酸性電解水希釈液(有効塩素濃度4.6ppm、pH5.8)に、表1に示す配合で混合溶解して本試験例の植物栄養液を作製し、それを1リットル容のネジ蓋付ポリエチレン容器30個に充填した。併せて、比較例として、溶解水として微酸性電解水の代わりに水道水を使用したこと以外は試験例と同一の配合で作製し、試験例と同様の容器30個に充填した。
【0035】
【表1】
【0036】
上述した各容器に対して、ペニシリウム属の胞子(野生株)を接種した後、室温で3ヶ月間保存した。3ヶ月後、各容器を開封し、内容液を取り出して目視検査した。その結果、水道水で調製した試料全ての内容液には、綿屑状の異物が確認され、僅かながら変色も見られた。一方、本実試験例の植物栄養液を充填した各容器の内容液には、濁りや異物は全ての試料で確認されなかった。
【0037】
上述した実験結果から、本発明によって、製造コストを大きく増加させることなく、無菌状態の植物栄養液を製造できること、また、そのようにして製造された植物栄養液が長期間にわたって無菌状態を維持する可能性があることが確認された。