特開2020-28956(P2020-28956A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-28956(P2020-28956A)
(43)【公開日】2020年2月27日
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/72 20060101AFI20200131BHJP
【FI】
   B23Q1/72 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-156808(P2018-156808)
(22)【出願日】2018年8月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】保坂 昭夫
【テーマコード(参考)】
3C048
【Fターム(参考)】
3C048BC04
3C048EE06
3C048EE10
(57)【要約】
【課題】コラム上にラムを有する工作機械において、ラムの前側に生じるモーメントによる下向きの力を低減させる。
【解決手段】上端側がラム3に回転可能に支承された上リンク21と、下端側がコラム2に回転可能に支承されると共に上端側が上リンク21の下端側と回転可能に連結された下リンク22とを有し、上リンク21および下リンク22が前方に向かって開いた状態とされた各リンク体20F、20Rを、互いに前後に間を置いて設ける。そして、伸長する方向に付勢された連結アーム30をリンク体20F、20Rの間に設けて、前側リンク体20Fの両リンク21、22の連結部に対して前方を向く力を加えると共に、後側リンク体20Rの両リンク21、22の連結部に対して後方を向く力を加える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラムと、
前記コラムの上方に配置されたラムと、
前記コラムと前記ラムとの間に介設されて、前記ラムを前記コラムに対して前後方向に移動自在に案内するガイド機構と、
を備えた工作機械において、
上端側が前記ラムに回転可能に支承された上リンクと、下端側が前記コラムに回転可能に支承されると共に上端側が前記上リンクの下端側と回転可能に連結された下リンクとを有し、連結している上リンクおよび下リンクが前方に向かって180°未満の角度で開いた状態とされたリンク体が、前記前後方向に間を置いて2体設けられてなるリンク機構と、
前記2体のリンク体のうち前記前後方向の前側に配置された前側リンク体の、上リンクと下リンクとの連結部に対して前方を向く力を加えると共に、前記2体のリンク体のうち前記前後方向の後側に配置された後側リンク体の、上リンクと下リンクとの連結部に対して後方を向く力を加える付勢手段と、
が設けられたことを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記付勢手段が、前記前側リンク体と前記後側リンク体とを連結する、伸長する方向に付勢力が付与された連結アームである請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記連結アームが、前記前側リンク体に連結する一端部と、前記後側リンク体に連結する他端部と、前記一端部と他端部との間に介設された圧縮ばねとから構成されている請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記連結アームの一端部が、前記前側リンク体の上リンクと下リンクとの連結部に連結され、前記連結アームの他端部が、前記後側リンク体の上リンクと下リンクとの連結部に連結されている請求項2または3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記2体のリンク体が、前記コラムおよびラムの左右外側にそれぞれ設けられている請求項1から3いずれか1項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械に関し、特に詳細には、コラムの上にラムが配置された構造を有する工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる縦型の工作機械は基本的に、ベッド(基台)の上に立設されたコラムと、このコラムの上に水平に設置されて加工ヘッドを直接支持するラムとを有し、縦向きの主軸が取り付けられた加工ヘッドにより、テーブルに載置されている被加工物に対して加工がなされるように構成されている。
【0003】
上述のような構成の工作機械において、コラムとラムとの間に、ラムをコラムに対して水平方向に移動自在に案内するガイド機構を設けた構成のものは、テーブルの下にサドルのような移動体を配置する場合と比べると、テーブルをより低くすることが可能で、作業性が向上するという利点がある。また、上記の構成は、サドルが有る場合の荷重の制限が小さくなるので、加工槽の容量をより大きくすることができる。そのため、上記の構成は大型の工作機械に採用されることが多く、そうした場合は結果的に、ラムが大きくなりやすい。
【0004】
上述のようにコラムとラムとの間にガイド機構を設けた構造は、ガイド機構によりラムを移動可能に支持する必要があるので、ラムがコラムに固定された構造と比べると、ラムを支持する強度が低くなりがちである。そのため、ラムが例えば前後方向(Y軸方向)に移動する場合は、ラムが前進したときに前側に傾斜してモーメントの片寄りを引き起こし、その結果、ラムの移動に伴って加工における位置決め精度が低下したり、機械全体に揺動や振動が生じたりすることがある。
【0005】
従来、上記の問題に対処するようにした工作機械も提案されている。例えば特許文献1には放電加工装置において、ラムおよびバランサにネジ軸を螺合させ、このネジ軸を回転させてラムとバランサとを互いに反対方向に移動させ、それにより、ラムに作用するモーメントをバランサによって相殺させるようにした技術が示されている。また特許文献2には放電加工機において、ラムに大型の補強リブを取付けて剛性を向上させ、上述のモーメントによるラムのオーバーハングを防止するようにした技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−152740号公報
【特許文献2】特許第3837910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1や2に示された技術には、工作機械の構造を複雑化させたり、ラムの重量を増加させて大きなモーメントを発生させ易い、といった問題が認められている。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ラムに発生するモーメントによる位置決め精度の低下や、振動発生を防止することができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による工作機械は、
コラムと、
このコラムの上方に配置されたラムと、
コラムとラムとの間に介設されて、ラムをコラムに対して前後方向に移動自在に案内するガイド機構と、
を備えた工作機械において、
上端側がラムに回転可能に支承された上リンクと、下端側がコラムに回転可能に支承されると共に上端側が上リンクの下端側と回転可能に連結された下リンクとを有し、連結している上リンクおよび下リンクが前方に向かって180°未満の角度で開いた状態とされたリンク体が、前後方向に間を置いて2体設けられてなるリンク機構と、
上記2体のリンク体のうち前後方向の前側に配置された前側リンク体の、上リンクと下リンクとの連結部に対して前方を向く力を加えると共に、上記2体のリンク体のうち前後方向の後側に配置された後側リンク体の、上リンクと下リンクとの連結部に対して後方を向く力を加える付勢手段と、
が設けられたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の工作機械において、上記の付勢手段としては例えば、前側リンク体と後側リンク体とを連結する、伸長する方向に付勢力が付与された連結アームを好適に用いることができる。
【0011】
上述のような連結アームは、より具体的には、前側リンク体に連結する一端部と、後側リンク体に連結する他端部と、上記一端部と他端部との間に介設された圧縮ばねとから構成することができる。
【0012】
また上述のような連結アームが適用される場合は、連結アームの一端部が、前側リンク体の上リンクと下リンクとの連結部に連結され、連結アームの他端部が、後側リンク体の上リンクと下リンクとの連結部に連結されていることが望ましい。
【0013】
他方、上記2体のリンク体は、コラムおよびラムの左右外側にそれぞれ設けられていることが望ましい。ただしそれに限らず、上記2体のリンク体は、コラムおよびラムの左外側だけに、あるいは右外側だけに設けられてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明による工作機械は、コラムとラムとの間に設けられる前後2体のリンク体を含んでなるリンク機構と、例えば連結アームからなる付勢手段とを有しているので、前側リンク体の上リンクからラムに向きの力が作用し、後側リンク体の上リンクからラムに下向きの力が作用する。そこで、それら上向きの力と下向きの力により、ラムにおいて発生するラムの前側を下方に押すような下向きのモーメントが打ち消されるようになり、このモーメントに起因する位置決め精度の低下や、振動発生が防止される。なお上述の「モーメントが打ち消される」とは、モーメントが完全に相殺されることを意味するものではなく、モーメントによるラムの前側を下方に押すような下向きの力が低減されることを意味するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による工作機械の側面図
図2】上記工作機械においてラムに生じるモーメントを打ち消す力を説明する図
図3】上記工作機械におけるリンク機構をモデル化した図
図4】上記工作機械における、モーメントを打ち消す力の分布状態を示すグラフ
図5】モーメントを打ち消す力の分布状態の別の例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態による工作機械10の側面形状を示している。この工作機械10は一例としてワイヤ放電加工機であり、ベッド(基台)1と、このベッド1の上に水平1軸方向(Y軸方向)に往復移動可能に立設されたコラム2と、このコラム2の上にY軸方向と平行な水平1軸方向(V軸方向)に往復移動可能に水平に設置されたラム3と、このラム3の前側(+Y側)の端部に固定された支持体4と、この支持体4に取り付けられた加工ヘッド5とを有している。なお加工ヘッド5は、支持体4に鉛直1軸方向(Z軸方向)に支持された上下移動体5Aと、この上下移動体5Aに対して水平1軸方向(X軸方向)に移動可能とされた図示外のテーブルと、このテーブルに対して平行な水平1軸方向(U軸方向)に往復移動可能に取り付けられた左右移動体5Bとを有する。上下移動体5Aおよび左右移動体5Bは、一体でZ軸方向に移動する。また上記左右移動体5Bの上側アームの先端には、上側ワイヤガイドユニット6が固定されている。なお、加工ヘッド5における左右移動体5Bは、ラム3と共にテーパ機構の移動体である。
【0017】
上記ラム3の底部にはY軸方向に延びる複数のレール11が固定され、これらのレール11は、コラム2の上部に固定された複数のリニアガイド12と係合している。それによりラム3は、Y軸方向に直線移動するコラム2に対してY軸に平行な軸方向、つまりV軸方向に相対的に直線移動可能となっている。なおリニアガイド12は公知のものが適宜利用可能であり、該リニアガイド12とレール11とによって、ラム3をコラム2に対して位置決め案内するガイド機構が構成されている。
【0018】
一方支持体4の前端には、Z軸方向に延びる複数のレール13が固定され、これらのレール13は、上下移動体5Aの支持体4に対向する面に固定された複数のリニアガイド14と係合している。それにより上下移動体5は、支持体4に対して上下方向つまりZ軸方向に相対直線移動可能となっている。主に上下移動体5Aと、この上下移動体5Aに取り付けられた左右移動体5Bとからなる加工ヘッド5は、本例のようなワイヤ放電加工機の場合は、上アームを介して上側ワイヤガイドユニット6を支持するように構成されている。なお、被加工物を載置して水平1軸方向(X軸方向)に移動可能なテーブルは、図示を省略している。また、そのテーブルに載置される被加工物は、通常、テーブルに取り付けられている加工槽内の加工液中に浸漬した状態で加工されるが、その加工槽等は図示を省略してある。
【0019】
上記コラム2とラム3とは、前側リンク体20Fおよび後側リンク体20Rによって連結されている。なおこれら2体のリンク体20Fおよび20Rからなるリンク機構は、コラム2およびラム3の左右外側にそれぞれ設けられているが、図1では右側(+Y側から−Y側に見た際に向かって右となる側)に設けられたものだけが示されている。前側リンク体20Fと後側リンク体20Rとは、前後方向つまりY軸方向に互いに間を置いて配置されている。
【0020】
前側リンク体20Fおよび後側リンク体20Rは、それぞれ上リンク21と下リンク22とから構成されている。上リンク21は、上端側が軸23を介してラム3に回転可能に支承され、下リンク22は下端側が軸25を介してラム3に回転可能に支承されている。そして上リンク21の下端側と、下リンク22の上端側は軸24を介して互いに回転可能に連結されている。また前側リンク体20Fおよび後側リンク体20Rの各々において、上リンク21および下リンク22は、前方つまり+Y側に向かって180°未満の角度で開いた状態で互いに連結している。
【0021】
前側リンク体20Fとその後方の後側リンク体20Rとは、連結アーム30によって連結されている。この連結アーム30は、本発明における付勢手段を構成するものであり、前側リンク体20Fに連結する一端部31と、後側リンク体20Rに連結する他端部32と、一端部31および他端部32の間に介設された圧縮ばね33とを有している。一端部31は、上リンク21および下リンク22に対して軸24を介して連結され、前側リンク体20Fの両リンク21および22に対して軸24の周りに相対回転可能とされている。他端部32も、上リンク21および下リンク22に対して軸24を介して連結され、後側リンク体20Rの両リンク21および22に対して軸24の周りに相対回転可能とされている。
【0022】
なお一端部31は、圧縮ばね33を収めている筒状部分に対して例えばスプライン係合されており、それにより、該一端部31がその軸周りに回転してしまうことが防止されている。他端部32も上記と同様にして、その軸周りに回転してしまうことが防止されている。上述の構成を有する連結アーム30は、前側リンク体20Fおよび後側リンク体20Rに連結された状態では、圧縮ばね33の作用で伸長する方向に反発する。なお、連結アーム30は、前側リンク20Fと後側リンク20Rとを所定の力で反発する作用を有しているものであればよく、その他具体的には、例えば、図1に示される圧縮ばね33を収めている筒状体に代えて流体シリンダを用いることができる。
【0023】
上述のような連結アーム30は、前側リンク体20Fの上リンク21の上端部(つまり軸23を介してラム3に連結している部分)に上向きの力を加える一方、後側リンク体20Rの上リンク21の上端部に下向きの力を加えるように作用する。そこでラム3には、前側リンク体20Fに連結している部分に上向きの力、そして後側リンク体20Rに連結している部分に下向きの力が加わるようになる。
【0024】
ラム3の前側に設けられる支持体4、加工ヘッド5、上側アームを含む上側ワイヤガイドユニット6等は、ラム3の後側に比べてラム3の前側にそれぞれの質量の合計によって下向きの負荷を与える“重い要素”である。ラム3の自重を含めて各重い要素を前側で支持しているラム3には、前側を下方に押す向きのモーメントが作用するが、前側リンク体20Fおよび後側リンク体20Rからなるリンク機構と連結アーム30とによる上記の力はこのモーメントを打ち消すように作用する。なお、この「モーメントを打ち消す」とは、完全に相殺することに限らず、このモーメントによる下向きの力を低減することを意味する。そこで、上記モーメントのために放電加工における位置決め精度が低下したり、放電加工機全体に揺動や振動が生じたりすることが抑制される。また、前側リンク体20Fおよび後側リンク体20Rからなるリンク機構と連結アーム30とによる上記の力は、ガイド機構に偏って加わる負荷を軽減するので、ガイド機構の損耗が低減される。
【0025】
なお放電加工に際しては、図示外の駆動手段により、コラム2に対してラム3が前後方向(Y軸方向)に相対移動されることがある。上記のモーメントは、コラム2に対してラム3がより前方に移動するほど大きくなる。本実施形態では、このモーメントが大きくなるほど、つまりラム3がより前側(+Y側)に移動するほど、前側リンク体20Fからラム3に作用する上向きの力がより大きくなるようにして、上記モーメントを打ち消す作用がより顕著になるように構成されている。以下、その点について詳しく説明する。
【0026】
図2は、上述のようにラム3が移動するにつれて、前側リンク体20Fの上リンク21からラム3に(つまり軸23に)作用する上向きの力Fvがより大きく変化する様子を模式的に表している。この図2では、軸23の位置が前後方向内で7つの位置を取った場合に、各位置で軸23に作用する力Fvを示している。なお同図では、上記7つの位置の中で、軸23が最前方の位置を取った場合について、上リンク21および下リンク22を通常の形で示しているが、それ以外の6つの位置を取った場合については、上リンク21および下リンク22を1本の線で示している。ここに図示される通り、軸23の位置がより前方にあるほど、軸23に作用する上向きの力Fvはより増大している。
【0027】
以下、上向きの力Fvを上述のように変化させ得ることについて説明する。上リンク21および下リンク22からなる図2の前側リンク体20Fを、図3のようなモデル系として考える。この系において、下リンク22の長さをLa、上リンク21の長さをLb、両リンク21および22からなるリンク体の高さをH、下リンク22および上リンク21の鉛直方向に対する角度をそれぞれα、βとする。このとき、連結アーム30によって上リンク21と下リンク22との連結部に下向きの角度θで力Bを作用させたとすると、力Bの水平方向成分を力Aで表わすことができる。したがって、図3において、力Aを仮想ベクトルとして、力Aと力Bとの関係を求めると、以下のとおりである。
A=Bcosθ−Asinθ・tanα
=B(cosθ−sinθ・tanα)
【0028】
ここで、上リンク21の長さと下リンク22のそれぞれの長さ、およびリンク体の高さHと、角度θおよび角度βとの関係から
H=La・cosα+Lb・cosβ
∴ cosβ=(H−La・cosα)/Lb
であり、また一般式として、sinβ=√(1−cosβ)
である。そして、上リンク21および下リンク22からなるリンク体の上端の前後方向位置Yと、リンク角度α、βとの関係は、
Y=Lb・sinβ−La・sinα
である。
【0029】
まず、上リンク21と下リンク22との連結部に水平方向に力Aを作用させたとき、上リンク21に働く上記の力Fと力Aとの関係は、
A−Fsinβ=Fcosβ・tanα
で表わされるので、力Fは、
F=A/(cosβ・tanα+sinβ)・・・(1)
となる。次に、上リンク21と下リンク22との連結部に水平方向ではなく、下向き角度θで連結アーム30によりBの力を作用させたとき、上記(1)式のAに相当する水平方向成分が生じるとすると、力Aは、次の(2)式のように表わされる。
A=Bcosθ−Bsinθ・tanα
∴ A=B(cosθ−sinθ・tanα)・・・(2)
ここで、式(1)における力Aに式(2)を代入すると、
F=B(cosθ−sinθ・tanα)/(cosβ・tanα+sinβ)
となり、よって上リンク21の上端に働く力の垂直方向成分である力Fvは、
Fv=Fcosβ
となる。
【0030】
以上のことを基にして、ラム10がコラム11に対して前記V軸方向(Y軸と平行な方向)に相対位置を変えたときの10か所の位置について、垂直方向成分である力Fvを計算により求めた。なお、このときの上記H、La、Lb、B、θの値は下の表1にまとめて示す通りである。上記計算によるFvの値を、他の変数と併せて表2に示す。位置Vは、ラム10が直線移動する前後方向に関して、所定の基準位置からラム10の前端までの位置を示す。この位置は、正の値がより大であるほど、ラム10がコラム11から前方により大きく偏位した状態を示している。この偏位がより大であるほど、ラム10の自重等から発生するモーメントはより大きくなる。図4に、このときの角度α毎の垂直方向成分Fvの値を、棒グラフにして示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
以上から明らかな通り本実施形態では、ラム3がより前側(+Y側)に移動するほど、前側リンク体20Fからラム3に作用する上向きの力Fvがより大きくなって、上記モーメントを打ち消す作用がより顕著になる。
【0034】
なお本発明において、ラム3がより前側に移動するほど、前側リンク体20Fからラム3に作用する上向きの力Fvをより大きくすることは、必ずしも必要ではない。つまり、ラム3の移動位置に関わらず、上記上向きの力Fvが略一定になるように構成してもよい。そのようにした場合の一例について、前述したH、La、Lb、B、θの値を下の表3にまとめて示す。この例において、ラム10の12か所のV軸方向位置毎に、垂直方向成分Fvを計算で求めた結果を、その他の変数と併せて表4に示す。この表4における位置Vは、前述した表2におけるものと同じである。また図5に、このときの角度α毎の垂直方向成分Fvの値を、棒グラフにして示す。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
以上、前側リンク体20Fからラム3に作用する上向きの力Fvについて説明したが、後側リンク体20Rからラム3に作用する下向きの力についても、基本的に上述の考えに基づいて求めることができる。また以上は、図1でコラム2およびラム3の右側に設けられた前側リンク体20Fに関して考えたが、コラム2およびラム3の左側に設けられた前側リンク体20Fについては、図3のモデル系に対して左右反対としたモデル系を考えることにより、ラム3に作用する上向きの力Fv等を求めることが可能である。
【0038】
以上説明した実施形態においては、図1に示される通り、前側リンク体20Fの両リンク21および22を連結する軸24が、後側リンク体20Rの両リンク21および22を連結する軸24よりも低い位置にあるように構成されているが、それとは反対に、前側リンク体20Fの両リンク21および22を連結する軸24が、後側リンク体20Rの両リンク21および22を連結する軸24よりも高い位置にあるように構成されてもよいし、さらにはそれら2つの軸24が略同じ高さ位置にあるように構成されてもよい。
【0039】
また前側リンク体20Fと後側リンク体20Rとを連結する連結アーム30は、上リンク21と下リンク22とを連結する上記軸24の部分で各リンク体20F、20Rに連結しているが、軸24の部分ではなく、そのやや上方あるいは下方の部分で各リンク体20F、20Rに連結するように構成されてもよい。そのように連結アーム30が、軸24からやや離れた位置において各リンク体20F、20Rに連結する場合でも、連結アーム30による力は両方の軸24に作用する。したがってこの場合も、付勢手段である連結アーム30は、前側リンク体20Fの両リンク21、22の連結部に対して前方を向く力を加えると共に、後側リンク体20Rの両リンク21、22の連結部に対して後方を向く力を加えていることになる。
【0040】
また、前側リンク体20Fの両リンク21、22の連結部に対して前方を向く力を加えると共に、後側リンク体20Rの両リンク21、22の連結部に対して後方を向く力を加える付勢手段としては、上述のような連結アーム30に限らず、その他の公知の手段を適宜用いることができる。
【0041】
以上説明した本実施形態の工作機械10は、ラム3がY軸と平行なV軸方向に移動するように構成されたものであるが、本発明は、ラム3がV軸方向に対して平行なY軸方向に移動する構造の場合はもちろん、ラム3がX軸方向に移動するように構成された工作機械に対しても適用可能である。ラム3がX軸方向に移動する構造である場合は、X軸に沿った方向を、本発明における前後方向として考えればよい。さらに本発明は、ワイヤ放電加工機以外の工作機械に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ベッド
2 コラム
3 ラム
5 加工ヘッド
10 工作機械
11、13 レール
12、14 リニアガイド
20F 前側リンク体
20R 後側リンク体
21 上リンク
22 下リンク
23、24、25 リンクの軸
30 連結アーム
31 連結アームの一端部
32 連結アームの他端部
33 連結アームの圧縮ばね
図1
図2
図3
図4
図5