(54)【発明の名称】金属原子だけからなる金属材料の沸点よりも高い沸点を有した金属原子を含む化合物をプラズマで処理して化合物と異なる生成物を得る製造方法、及び、製造装置
【課題】プラズマの点燈開始を安定して行うことができる、金属原子だけからなる金属材料の沸点よりも高い沸点を有した金属原子を含む化合物をプラズマで処理して化合物と異なる生成物を得る製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、金属原子だけからなる金属材料の沸点よりも高い沸点を有した金属原子を含む化合物をプラズマで処理して化合物と異なる生成物を得る製造方法であって、化合物が気体の状態を保つ温度にした反応室内で、化合物に酸素原子を実質的に含まない反応性ガスのプラズマを照射して化合物と異なる生成物を生成する手順を含み、反応室内の温度が所定の温度範囲外のときに、プラズマの点燈開始が行われ、所定の温度範囲は、手順のときに設定される反応室内の圧力と同じ圧力のときの金属原子だけを有する金属材料の沸点以上、化合物の沸点未満の範囲である。
前記反応室内の前記プラズマの存在する範囲内に配置され、表面温度が前記生成物の析出に適した所定の温度範囲内の温度に制御された付着手段によって、前記生成物を取得することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号又は符号を付している。
【0015】
以下では、金属原子だけからなる金属材料の沸点よりも高い沸点を有した金属原子を含む化合物をプラズマで処理して化合物と異なる生成物を得る製造方法の具体的な一事例として、金属原子であるマグネシウムを含む化合物である無水塩化マグネシウム(圧力約10Paでの沸点が約650℃)をマイクロ波表面波水素プラズマで処理して化合物と異なる生成物である水素化マグネシウムを得る製造方法について説明する。
なお、金属原子であるマグネシウムだけからなる金属材料(金属マグネシウム)の圧力約10Paでの沸点は約400℃である。
【0016】
ただし、無水塩化マグネシウムを水素プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)で処理するだけで、水素化マグネシウムを生成できることは、通常の化学反応式からでは理解できないものであり、本発明に係る実施形態の製造方法及び製造装置1の説明の前に水素化マグネシウムを含む生成物を得ることができる理由について説明する。
【0017】
通常、無水塩化マグネシウムと水素とが反応して水素化マグネシウムになる反応に着目した反応式は、以下の式1のように表される。
MgCl
2 + H
2 ⇔ MgH
2 + Cl
2・・・(1)
【0018】
ここで、問題となるのは、反応中の環境(圧力・温度)をどのようにすれば、式1において右側が安定状態となり、右側への反応が進むかということになる。
【0019】
そして、どちらが安定状態であるかは、Gibbsの自由エネルギーを考えることでわかるが、式1の場合、プラズマの反応を行うための反応室2内の圧力を高密度で電子温度が低い水素プラズマであるマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるために10Paにしたとすると、右側に反応を進めるためには、反応室2(
図2参照)内の温度を約1150℃以上とする必要がある。
【0020】
しかしながら、このような高温状態では、水素化マグネシウム自体が気体の状態になるため、固体として析出させるためには、反応室2内の温度を下げる必要があるが、約1150℃よりも低い温度領域では式1の左側への反応が優勢となるため、固体として析出する物質は、無水塩化マグネシウムになってしまい、水素化マグネシウムが析出しないことになる。
【0021】
また、水素化マグネシウムは100℃を超えると金属マグネシウム(Mg)と水素(H
2)に分解しはじめるため、この点からしても、右側に反応を進めるために、約1150℃以上の炉内温度を要する式1に基づく考え方では、水素化マグネシウム(MgH
2)が分解されて、水素化マグネシウム(MgH
2)として析出することが困難である結果となる。
【0022】
しかし、水素プラズマの存在する範囲内(水素プラズマの発光色が目視できる内)の環境を考慮すると、励起原子・分子、ラジカル(化学的に活性な原子・分子)、電子、イオン(正及び負)及び中性の原子や分子が存在する状況が仮定できる。
【0023】
そして、例えば、一例として、水素原子が存在する状況を仮定した以下の式2について、Gibbsの自由エネルギーに基づいて、右側に進む反応と左側に進む反応の境界を考えると、
図1に示すようになる。
MgCl
2 + 2H +H
2 ⇔ MgH
2 + 2HCl・・・(2)
【0024】
図1は、反応室2(
図2参照)の圧力が10Paとし、横軸に水素原子の分圧(mPa)を取り、縦軸に温度(℃)を取って、水素原子の分圧(mPa)を変えた場合に右側に進む反応と左側に進む反応の境界が何度(℃)のところになるのかを示したグラフである。
【0025】
図1を見るとわかるように、水素原子の分圧が同じ場合、温度を下げることでMgH
2が生成されるようになり、同じ温度では、水素原子の分圧が大きくなるほどMgH
2が生成されるようになっている。
【0026】
つまり、水素プラズマの存在する範囲内(水素プラズマの発光色が目視できる範囲内)の特殊な環境下では、水素化マグネシウム(MgH
2)の分解がはじまる温度(約100℃)以下の温度であっても、式2の反応は右側に進み、水素化マグネシウム(MgH
2)が生成物として生成可能である。
【0027】
そして、例えば、反応室2(
図2参照)の圧力が10Pa程度になるように水素を反応室2内に供給している場合、水素原子の分圧としては10mPa程度になっていると考えられ、この水素原子の分圧からすれば、水素プラズマの存在する範囲内(水素プラズマの発光色が目視できる範囲内)に、表面81の温度を例えば約85℃以下とした付着手段80を配置すれば、その付着手段80の表面81に水素化マグネシウム(MgH
2)を析出させることが可能である。
【0028】
そして、マイクロ波表面波水素プラズマのように低温プラズマの場合、熱プラズマ(例えば、不活性ガスの直流プラズマ)と異なり、プラズマ自体の温度は低いため、プラズマ中に付着手段80を配置しても、その付着手段80の表面81の温度を低い温度に制御することが可能である。
【0029】
そこで、以下で説明する製造装置1では、反応室2内を無水塩化マグネシウムが気体の状態を保つ温度にしつつ、水素化マグネシウムが得られるように反応室2内のプラズマが存在する範囲内(水素プラズマの発光色が目視できる範囲内)に配置され、表面温度が水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲内の温度に制御された付着手段80を設けるようにすることで、プラズマで処理される化合物である無水塩化マグネシウムと異なる水素化マグネシウムを含む生成物を得ることができるようにしている。
【0030】
次に、
図2を参照しながら、本実施形態の製造装置1を説明し、その後、製造方法について詳しく説明する。
図2は本発明に係る実施形態の製造装置1を説明するための断面図である。
【0031】
図2に示すように、製造装置1は、反応室2を形成する筐体10を備えており、本実施形態では、中央に開口部11Aを有する仕切部11を筐体10内に設けることで反応室2が第1空間Fと第2空間Sとを有するようになっている。
ただし、この仕切部11は省略してもよく、反応室2が1つの空間として形成されていてもよい。
【0032】
そして、製造装置1は、反応室2内のマイクロ波を入射させる部分に設けられた誘電体材料(例えば、石英やセラミックス等)の窓Wと、プラズマを生成させるために窓Wを介して反応室2内の第1空間Fに供給されるマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段20(例えば、マグネトロン)と、マイクロ波発生手段20で発生させたマイクロ波を窓Wのところまで導波させる導波管21と、を備えている。
【0033】
なお、本実施形態では、発生するマイクロ波の周波数を2.45GHzとしているが、この周波数に限定される必要はなく、例えば、通信目的以外で使用できるISMバンドの24.1GHz、5GHz、915MHz、40.6MHz、27.1MHz及び13.56MHz等であってもよい。
【0034】
また、本実施形態では、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生させるものとして、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値を高めつつ、平均的なマイクロ波電力(マイクロ波強度)を下げるようにしている。
【0035】
ただし、パルス的なマイクロ波とは、周期的なマイクロ波電力(マイクロ波強度)の強弱を伴うものを意味し、必ずしも、周期的にマイクロ波電力(マイクロ波強度)がゼロになるものに限定されるものではない。
【0036】
具体的には、マイクロ波発生手段20は、パルス的なマイクロ波のマイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値が現れる周期が150マイクロ秒以下(望ましくは、100マイクロ秒以下、更に望ましくは50マイクロ秒以下)であるマイクロ波を発生させ、プラズマ(本例では、マイクロ波表面波水素プラズマ)が大幅に減衰する前に、反応室2内にピーク値のマイクロ波電力を有するマイクロ波を供給することで、ほぼそのマイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値に対応する密度のマイクロ波表面波プラズマを維持しつつ、マイクロ波発生手段20で使用される平均電力を抑制するようにしている。
【0037】
このようにすれば、マイクロ波発生手段20が、マイクロ波電力(マイクロ波強度)をほぼ一定にしたパルス的なマイクロ波でないマイクロ波を発生させる場合に、プラズマ密度が10
12/cm
3以上10
14/cm
3以下であったとすれば、平均的なマイクロ波電力を同様にしても、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生させる場合、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値を高くできるため、更に、高いプラズマ密度(例えば、10
15/cm
3以上の高いプラズマ密度)を得ることができ、平均的なマイクロ波電力を同様にしても一桁以上高いプラズマ密度を得ることができる。
【0038】
したがって、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生するものとすることで、マイクロ波発生手段20で使用される電力量(平均電力)の上昇を抑制しつつ、高密度なマイクロ波表面波プラズマを生成できる。
また、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値が高くなると、マイクロ波表面波プラズマを点火させやすくなるという効果もある。
【0039】
なお、マイクロ波表面波プラズマは、他のプラズマ(例えば、高周波プラズマや直流放電プラズマ等)と比較すれば、電子温度が低く(例えば、1eV程度)、他のプラズマのように、高い電子温度(例えば、10eV以上)とするためにエネルギーが消費されるプラズマと異なり、エネルギーロスが少ないという利点がある。
また、マイクロ波表面波プラズマは、プラズマ中のイオンや分子の温度が熱プラズマと呼ばれるものに比べ大幅に低い(ほぼ常温)という特徴もある。
さらに、マイクロ波表面波プラズマは、上記のような高密度なプラズマを均一に、例えば、0.5m
2以上の大面積の範囲に生成することができる。
【0040】
また、製造装置1は、反応室2内の気体を排出し、反応室2内を減圧する減圧手段30を備えている。
具体的には、製造装置1は、途中に開閉操作又は開閉制御により排気の有無を決める第1排気バルブ31Aが設けられた第1排気管31を介して第1空間Fに接続された減圧手段30としての第1真空ポンプ32と、途中に開閉操作又は開閉制御により排気の有無を決める第2排気バルブ33Aが設けられた第2排気管33を介して第2空間Sに接続された減圧手段30としての第2真空ポンプ34と、を備えている。
【0041】
なお、高密度な水素プラズマであるマイクロ波表面波水素プラズマを安定して発生させるためには、反応室2内の圧力が低いほうが有利であり、少なくとも反応室2内は10分の1気圧以下が好ましく、100分の1気圧以下がより好ましく、1000分の1気圧以下が更に好ましく、本実施形態では、10000分の1気圧程度である約10Paにしている。
【0042】
そして、気体の吸引力の弱い真空ポンプの場合、反応室2内の真空度を高めるのに時間がかかるため、そのような段取り時間を省略するために、第1真空ポンプ32又は第2真空ポンプ34のうちの少なくとも一方を気体の吸引力が高いメカニカルブースターポンプにしておくことが好ましい。
【0043】
なお、製造装置1には、反応室2の第1空間F内の圧力を計測するための第1圧力計32Aと、反応室2の第2空間S内の圧力を計測するための第2圧力計34Aと、が設けられており、例えば、第1圧力計32Aが計測する圧力に基づいて、第1空間F内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように、第1真空ポンプ32及び第1排気バルブ31Aの動作を制御するようにしてもよい。
例えば、第1真空ポンプ32を動作させておいて、第1圧力計32Aが計測する圧力に基づいて、第1排気バルブ31Aの動作を制御するようにすればよい。
【0044】
同様に、例えば、第2圧力計34Aが計測する圧力に基づいて、第2空間S内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように、第2真空ポンプ34及び第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにしてもよい。
例えば、第2真空ポンプ34を動作させておいて、第2圧力計34Aが計測する圧力に基づいて、第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにすればよい。
【0045】
ただし、第1空間F及び第2空間S内の圧力を所定の圧力にするために、2つの真空ポンプ(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)の双方を制御する必要はない。
【0046】
例えば、前段取りとして、反応室2内の圧力を所定の圧力にするときだけ、2つの真空ポンプ(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)を動作させ、反応室2内の圧力が所定の圧力になったところで、第1排気バルブ31Aを閉にして第1真空ポンプ32の動作を停止し、その後は、第1圧力計32A又は第2圧力計34Aの計測する圧力に基づいて、反応室2内の圧力を所定の圧力に維持するように、第2真空ポンプ34及び第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにしてもよい。
【0047】
なお、反応室2内の圧力を所定の圧力に維持するときに使用される反応室2内の圧力の測定値としては、第1圧力計32A及び第2圧力計34Aの計測した圧力を平均したものを使用するようにしてもよい。
【0048】
また、製造装置1は、プラズマ化する酸素原子を実質的に含まない反応性ガスを反応室2内に供給するための、図示しないガス供給手段を備えている。
【0049】
本実施形態では、還元反応を起こす反応性ガスとして水素を用いているが、メタンやプロパン等であっても還元反応を起こすことができるため、反応性ガスが水素に限定されるものではない。
【0050】
このため、以下では、ガス供給手段を水素供給手段と呼ぶが、水素供給手段はガス供給手段の一例でしかない。
【0051】
そして、酸素原子を含むと還元反応が阻害されることになるが、露点の低い極めて高純度なガスであっても微量に水分を含むため、完全に酸素原子が存在しないものではなく、したがって、酸素原子を実質的に含まないとは、高純度ガスのレベルで含まれる水分等以上に酸素原子が含まれていないことを意味する。
【0052】
例えば、水素供給手段は、水素の供給源となる図示しない水素貯蔵部(水素ボンベ又は水素貯蔵タンク)と、水素貯蔵部から反応室2に供給する水素の供給量を制御するマスフローコントローラ等の流量制御器(第1流量制御器MFC1及び第2流量制御器MFC2)と、を備えている。
ただし、水素貯蔵部がボンベの場合、交換のために着脱されることになるため、水素供給手段は、水素貯蔵部を除く部分である場合がある。
【0053】
具体的には、水素貯蔵部は、第1供給管41を介して第1空間Fに水素が供給できるように接続されるとともに、第2供給管42を介して第2空間Sに水素が供給できるように接続され、第1供給管41の水素貯蔵部側に第1流量制御器MFC1が設けられ、その下流側に開閉操作又は開閉制御により供給の有無を決める第1供給バルブ41Aが設けられている。
【0054】
同様に、第2供給管42の水素貯蔵部側に第2流量制御器MFC2が設けられ、その下流側に開閉操作又は開閉制御により供給の有無を決める第2供給バルブ42Aが設けられている。
【0055】
さらに、製造装置1は、金属原子(本例では、マグネシウム原子)だけからなる金属材料(本例では、金属マグネシウム)の沸点(圧力約10Paで約400℃)よりも高い沸点(圧力約10Paで約650℃)を有した金属原子を含む化合物である無水塩化マグネシウムを、反応室2内(より具体的には、反応室2の第1空間F内)に気体の状態で供給する化合物供給手段50を備えている。
【0056】
具体的には、化合物供給手段50は、プラズマで処理される化合物である無水塩化マグネシウムを貯蔵する化合物貯蔵部51と、化合物貯蔵部51内の無水塩化マグネシウムを反応室2の第1空間F内に供給するための化合物供給管52と、第1電源53Aからの電力の供給により発熱し化合物供給管52及び化合物貯蔵部51を加熱する第1加熱部53と、第1加熱部53の温度を計測する第1温度計54と、を備えている。
【0057】
そして、第1温度計54による温度の測定結果が、設定される所定の温度となるように、第1電源53Aから第1加熱部53に供給される電力の供給量が制御され、化合物供給管52及び化合物貯蔵部51が所定の温度に加熱される。
【0058】
本実施形態のように、プラズマで処理される化合物が無水塩化マグネシウムである場合、無水塩化マグネシウムが気体の状態となるように、第1加熱部53によって、化合物供給管52及び化合物貯蔵部51を約700℃程度の温度に加熱する。
そうすると、気化した無水塩化マグネシウムは反応室2の第1空間F内に向かって流れて行き、第1空間F内に供給されることになる。
【0059】
また、製造装置1は、反応室2内をプラズマで処理される化合物(本例では、無水塩化マグネシウム)の沸点(反応室2内の圧力が約10Paの場合の沸点は約650℃)以上の温度に保つ温度制御手段60を備えている。
【0060】
具体的には、温度制御手段60は、反応室2の第1空間F内に設けられ、反応室2内を加熱する第2加熱部61と、第2加熱部61に電力を供給する第2電源61Aと、反応室2の第1空間F内の温度を計測する第2温度計62と、を備えている。
【0061】
そして、製造装置1は、第2温度計62による温度の測定結果が、設定される所定の温度となるように、第2電源61Aから第2加熱部61に供給される電力の供給量を制御し、反応室2の第1空間F内の温度が所定の温度に保たれるようにする。
【0062】
本実施形態では、温度制御手段60は、反応室2内の温度がプラズマで処理される化合物である無水塩化マグネシウムを気体の状態に保つ温度である約700℃に保つようにする。
なお、無水塩化マグネシウムの圧力約10Paにおける沸点が約650℃であるため、本実施形態ではその沸点以上である約700℃に保つようにしているが、沸点は圧力によって変わるため、反応室2内の設定圧力を変えた場合には、それに対応して温度制御手段60に設定される設定温度を変えることになる。
また、本実施形態では、無水塩化マグネシウムであるがフッ化マグネシウム等でもよく、温度制御手段60に設定される設定温度は化合物の違いに応じて変えることになる。
【0063】
一方、第2加熱部61の外側には、第2加熱部61からの輻射熱で筐体10が高温になるのを防止するために、輻射熱を反射するリフレクタ70が設けられるとともに、筐体10の外面上に水冷するための冷却管71が設けられている。
【0064】
このように、製造装置1が、第2加熱部61によって、余分な場所が加熱されないように熱伝導を防止するリフレクタ70のような断熱手段を備える場合、筐体10が高温にならないため、筐体10の各所に使用されているパッキン等の劣化を抑制できるだけでなく、保温効率が高くなるため、消費電力を低減することができる。
【0065】
また、リフレクタ70には、上側の中央寄りの位置に、仕切部11の開口部11Aを通じて、第1空間Fから第2空間Sに挿入される挿入管72が設けられており、詳細については、後述するが、水素プラズマ及びマグネシウムを含むガス等が挿入管72から第2空間Sに放出されるようになっている。
【0066】
そして、
図2に示すように、製造装置1は、挿入管72に対向する位置に水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる付着手段80を備えており、製造装置1を停止させた後、付着手段80を取り出せるように、付着手段80は、筐体10に対して着脱可能に取り付けられている。
【0067】
なお、先にも触れたように、マイクロ波表面波プラズマは、プラズマ中のイオンや分子の温度が熱プラズマと呼ばれるものに比べ大幅に低い(ほぼ常温)という特徴があるため、付着手段80が表面81を挿入管72の近くに位置させることで反応室2内のプラズマが存在する範囲内(水素プラズマの発光色が目視できる範囲内)に配置されていても、以下で説明するような簡単な構成で、その付着手段80の表面温度(表面81の温度)を水素化マグネシウムが固体として析出できる表面温度にすることが可能である。
【0068】
付着手段80は、温調媒体(例えば、冷媒としての外気)を供給する媒体供給口INと温調媒体を排出する媒体排出口OUTを有し、その温調媒体が反応室2の第2空間Sにリークしないようにした密閉容器構造になっている。
【0069】
なお、付着手段80は、挿入管72に対向する側の水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる表面81が、挿入管72から放出される発光状態が目視で確認できる高密度の水素プラズマが直接接触する位置に配置されることで、発生する水素プラズマの存在する範囲内に配置されたものになっている。
【0070】
そして、製造装置1は、例えば、温調媒体となる外気を媒体供給口INから付着手段80内に供給するための図示しない媒体供給手段(例えば、ファンやコンプレッサ等)を備えており、付着手段80の水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる表面81の表面温度が水素化マグネシウムを含む生成物の析出に適した所定の温度範囲内の温度に制御されるようになっている。
なお、上述のように温調媒体に外気を用いる場合には、媒体排出口OUTを大気開放とするように配管を接続すればよい。
【0071】
一方、温調媒体に、例えば、代替フロン等を用いる場合には、媒体排出口OUTから排出された代替フロンをコンプレッサで圧縮して、その圧縮した代替フロンを再び媒体供給口INから導入する循環冷却系(いわゆる、冷蔵庫等と同じである。)のようにすればよい。
【0072】
この場合には、媒体供給手段には、コンプレッサを介して温調媒体を媒体供給口INに供給するとともに媒体排出口OUTから排出された温調媒体をコンプレッサに戻す循環を行うためのポンプ等が用いられる。
【0073】
例えば、水素化マグネシウムの析出する所定の温度としては、200℃を超えると析出量が大幅に低下するため、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましい。
【0074】
実験では、表面温度が200℃を超える状態で析出した水素化マグネシウムを含む生成物の場合、その生成物に水滴を垂らし、水素の分離に伴う発砲現象が非常に弱いことを確認している。
【0075】
一方、表面温度が100℃以下の状態で析出した水素化マグネシウムを含む生成物の場合、水滴を垂らすと水素の分離に伴う激しい発砲現象が見られることを確認しており、発砲しているガスが水素であることについては、水素検知管で確認を行っている。
【0076】
なお、表面温度が100℃を超える場合、水素化マグネシウムが水素と金属マグネシウムに分解する反応も起きるため、析出した水素化マグネシウムを含む生成物中の水素化マグネシウムの割合が減少することになることから、水素化マグネシウムの析出する所定の温度としては、100℃以下が最も好ましい。
【0077】
また、実験では、表面温度が約80℃のときよりも、約70℃のほうが水素化マグネシウムを含む生成物の単位時間当たりの析出量が多く、約50℃のほうが更に単位時間当たりの析出量が多くなる結果を得ていることから、析出量の観点を踏まえれば、表面温度は80℃以下、70℃以下、更には、50℃以下の温度範囲に制御されるのが好ましい。
【0078】
さらに、製造装置1は、途中にリークバルブ91が設けられた大気開放管90を備えており、大気開放管90の図示しない一端は製造装置1が設置される建屋の外で大気開放状態になっている。
【0079】
この大気開放管90は、反応室2の圧力が異常な圧力になった場合に、緊急措置として反応室2を大気開放状態にするためのものであり、通常時には、リークバルブ91は閉の状態とされ、反応室2内に大気が混入することがないようになっている。
【0080】
次に、本実施形態の製造方法について具体的に説明する。
まず、前段取りとして、減圧手段30(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)を駆動させ、反応室2内の圧力が設定される所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように減圧を行う手順を実施する。
【0081】
そして、化合物である無水塩化マグネシウムが気体の状態を保つ温度にした反応室2内で化合物に酸素原子を実質的に含まない反応性ガスである水素のプラズマを照射して化合物と異なる水素化マグネシウムを含む生成物を生成する手順を行うことになるが、反応室2内の温度が所定の温度範囲外のときに、プラズマの点燈開始を行った後に、化合物である無水塩化マグネシウムの反応室2への供給を開始して化合物と異なる生成物を生成する手順を行う。
【0082】
具体的に説明すると、水素化マグネシウムを含む生成物を生成する手順のときには、反応室2内の温度が化合物である無水塩化マグネシウムを気体の状態に保てる温度である約700℃に保たれている。
【0083】
このため、基本的には、反応室2の内壁面は、金属マグネシウムの析出温度である約400℃より高くなるため、金属マグネシウムが反応室2の内壁面に付着し難くなっている。
【0084】
しかしながら、反応室2の内壁面の一部に約400℃より低い温度となる部分ができた場合や水素化マグネシウムを含む生成物を生成する手順を終えるために反応室2内の温度を下げるとき等に、反応室2の内壁面に金属マグネシウムが析出(付着)する場合がある。
【0085】
そして、前回の製造プロセスで、反応室2の内壁面に金属マグネシウムの付着が発生していると、次回の製造プロセスで反応室2の温度を高温にするときに、内壁面に付着している金属マグネシウムの温度が沸点である400℃以上になると、金属マグネシウムが気体の状態となって反応室2内に高濃度の金属マグネシウムが充満する場合がある。
【0086】
ここで、金属マグネシウムはマイクロ波を反射する性質(一般的に金属単体のものはマイクロ波を反射するものが多い)を有しているため、反応室2内に高濃度の金属マグネシウムが充満している状態で反応室2内へのマイクロ波の供給を開始しても、反射され、十分なマイクロ波が窓Wから反応室2内に侵入できず、プラズマが点燈しないことが起る。
【0087】
一方、反応室2の内壁面に金属マグネシウムの付着が発生する場合には、無水塩化マグネシウムの付着も発生していると考えられ、無水塩化マグネシウムが沸点である650℃以上になると無水塩化マグネシウムも気体になるため、反応室2内は金属マグネシウムと無水塩化マグネシウムの混合気体が充満した状態になる。
そうすると、金属マグネシウムの濃度が低下するため、十分なマイクロ波が窓Wから反応室2内に侵入できるようになり、プラズマの点燈ができるようになる。
【0088】
つまり、反応室2内の温度が、金属原子(本例ではマグネシウム)を含む化合物(本例では、無水塩化マグネシウム)の金属原子だけからなる金属材料(本例では金属マグネシウム)の、設定される反応室2の圧力(本例では約10Pa)と同じ圧力のときの沸点以上(本例では約400℃以上)、化合物の沸点未満(本例では、約650℃未満)の所定の温度範囲の温度であるときを避けて、つまり、所定の温度範囲外のときに、プラズマの点燈開始を行えば安定してプラズマの点燈を開始させることができる。
【0089】
そこで、反応室2内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になったら反応室2内にプラズマ化する反応性ガスの供給を開始して、温度制御手段60を駆動させる前にマイクロ波発生手段20によるマイクロ波の供給開始を行うようにする、又は、温度制御手段60を駆動させた場合であっても、所定の温度範囲外(本例では、約400℃以上、約650℃未満の温度範囲外の温度)のときに、マイクロ波発生手段20によるマイクロ波の供給開始を行うようにする。
【0090】
例えば、このために、製造装置1にマイクロ波発生手段20のマイクロ波の供給開始が行われた後にしか温度制御手段60を駆動させることができないインターロックを設ける、又は、製造装置1に所定の温度範囲を設定する温度設定機構を設けるとともに、第2温度計62の計測する反応室2の第1空間F内の温度が設定された所定の温度範囲内のときにはマイクロ波発生手段20のマイクロ波の供給開始が行えないインターロックを設けるようにすることで、確実に、反応室2内の温度が所定の温度範囲外のときに、マイクロ波発生手段20がマイクロ波を供給開始できるようにし、反応室2内の温度が所定の温度範囲外のときに、プラズマの点燈開始が行えるようにすればよい。
【0091】
そして、プラズマの点燈開始を確認した後であって、かつ、反応室2内の温度が化合物である無水塩化マグネシウムの気体の状態を保てる温度になったら、化合物供給手段50による化合物の供給を開始させ、化合物が気体の状態を保つ温度にした反応室2内で、化合物に酸素原子を実質的に含まない反応性ガスのプラズマを照射して化合物と異なる生成物を生成する手順を行うとともに、その手順で生成する生成物を表面温度が生成物の析出に適した所定の温度範囲内の温度に制御された付着手段80の表面81に付着させる手順を行う。
【0092】
このように、本実施形態の製造装置1では、反応室2内の温度が設定される反応室2内の圧力と同じ圧力のときの金属原子だけを有する金属材料の沸点以上、その金属原子を含む化合物の沸点未満の範囲である所定の温度範囲外のときに、プラズマの点燈開始が行えるように、マイクロ波発生手段20が、反応室2内の温度が所定の温度範囲外のときにマイクロ波を供給開始できるようになっているので、プラズマがうまく点燈しないことを回避できる。
【0093】
また、製造方法にあっても、反応室2内の温度が化合物と異なる生成物を生成する手順のときに設定される反応室2内の圧力と同じ圧力のときの金属原子だけを有する金属材料の沸点以上、その金属原子を含む化合物の沸点未満の範囲である所定の温度範囲外のときに、プラズマの点燈開始が行われるため、プラズマがうまく点燈しないことを回避できる。
【0094】
以上、具体的な実施形態に基づいて、本発明について説明してきたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、化合物に無水塩化マグネシウムを用いた場合で説明したが、プラズマで処理して水素化マグネシウムを含む生成物を得るための化合物は、無水ハロゲン化マグネシウムであってもよい。
【0095】
また、水素化マグネシウムを含む生成物を得る場合に限らず、金属原子だけからなる金属材料の沸点よりも高い沸点を有した金属原子を含む化合物をプラズマで処理して化合物と異なる生成物を得る場合には、同様のことが起ると考えられる。
【0096】
したがって、上記では、金属原子であるマグネシウムを含む化合物である無水塩化マグネシウムをマイクロ波表面波水素プラズマで処理して化合物と異なる生成物である水素化マグネシウムを得る場合について説明したが、これに限定されるものではない。
【0097】
このように、本発明は、具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。