【解決手段】ユーザが調べて欲しいと望む1又は複数の疾病を入力し、ユーザの便を予め解析した結果であるユーザの腸内細菌叢、ユーザの属性、並びに、複数の被験者の属性、被験者の便を解析した結果である被験者の腸内細菌叢、及び、疾病を内部因子とする連関モデルをデータベースから抽出し、ユーザの腸内細菌叢、ユーザの属性、及び、連関モデルを用いて、前記疾病に対するリスクを算出する。
前記内部因子は、前記被験者の属性に関するデータに加え、前記被験者の生活に関するデータ及び環境に関するデータも有する請求項7に記載のコンピュータによる疾病評価指標算出方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
(疾病評価指標算出システム)
図1は、本発明の実施形態に係る疾病評価指標算出システムの全体概略図である。疾病評価指標算出システムは、多数の被験者及び評価希望者(ユーザ)が提出する採便キットから腸内細菌叢データベース(DB)を作成するフェーズ、ユーザが評価を希望する1又は複数の疾病(特定の疾病)の評価モデルを作成するフェーズ、及び、特定の疾病に対するリスクの評価指標を算出するフェーズを備える。
【0016】
(腸内細菌叢DB作成フェーズ)
腸内細菌叢DB作成フェーズでは、数千人以上という多数の被験者が各自の大便をトイレで排泄し、それを採便キットで採取する。次に、採便キットを受け取った抽出業者は、採便キットを腸内細菌DNA抽出装置100に入力し、腸内細菌叢に関するDNA溶液が出力される。
【0017】
DNA溶液を受け取った解析業者は、DNA溶液を腸内細菌叢解析装置200に入力し、腸内細菌叢を解析する。解析業者は解析結果データを腸内細菌叢DB300に格納する。なお、抽出業者と解析業者を分けて説明したが、同一の事業者が抽出作業と解析作業を行ってもよい。
【0018】
図2は、腸内細菌叢解析装置200及び腸内細菌叢DB300の概略構成図である。本実施形態では、腸内細菌叢解析装置200は、DNA溶液から腸内細菌叢を解析する方法として2種類用意するために、NGS解析装置210及びT−RFLP解析装置220を備えている。ただし、この2種類のうち少なくとも一方を備え、解析してもよい。
【0019】
NGS解析装置210では、予め試薬調整分注操作が行われたDNA溶液を入力し、次世代シーケンサ(Next Generation Sequencer)で解析することによって、腸内細菌叢に関するDNA配列が出力され、腸内細菌叢(DNA配列)DB310に格納される。つまり、NGSでは、配列による細菌分類を行い、菌分類毎の細菌の相対量を解析することができる。
【0020】
T−RFLP解析装置220では、試薬分注と調整を施したDNA溶液を入力し、キャビラリーシーケンサがT−RFLP(Terminal − Restriction Fragment Length Polymorphism)で解析することによって、腸内細菌叢に関するDNAフィンガープリントが出力され、腸内細菌叢(DNAフィンガープリント)DB320に格納される。つまり、T−RFLPでは、DNA断片長による細菌分類(OTU)を行い、OTU毎の細菌の相対量を解析することができる。OTUは操作的分類単位(Operational Taxonomic Unit)といい、「A193」などの群に分類されるが、実際の菌属の名前はわからない。なお、「A193」の「A」は制限酵素
の略称である。この制限酵素によってDNAを切断している。
【0021】
腸内細菌叢DB300は、腸内細菌叢(DNA配列)DB310及び腸内細菌叢(DNAフィンガープリント)DB320を備えている。この2種類のDB(310及び320)は上述した2種類の解析装置(210及び220)の解析結果をそれぞれ格納する。なお、2種類の解析装置の一方(210又は220)が腸内細菌叢解析装置200に含まれている場合、対応するDB(310又は320)が腸内細菌叢DB300に含まれていればよい。このようなデータベース構造により、数千人以上という多数の被験者の腸内細菌叢が異なる方法で解析された場合であっても一つのデータベースとして取り扱うことができる。そして、腸内細菌叢DB300は各被験者のID(識別番号)情報とその被験者の腸内細菌叢とを関係付けている。
【0022】
次に、採便キットを提出した多数の被験者は、アンケートを記入し、アンケート回収業者に提出する。アンケート回収業者はアンケート結果をアンケートDB400に格納する。ここで、アンケート回収の初期段階では、アンケートDB400に格納されているアンケート結果が少ないため、外部のアンケートDBをアンケートDB400として利用してもよい。同様に、腸内細菌叢DB300に格納されているデータも少ないため、外部の腸内細菌叢DBを腸内細菌叢DB300として利用してもよい。
【0023】
(評価モデル作成フェーズ)
評価モデル作成フェーズでは、まず、評価モデル作成業者は、評価したい属性と疾病を選定する。モデル作成装置500は、選定された属性及び疾病の入力を受け付ける入力部と、これら属性及び疾病に関係する被験者のID情報をアンケートDB400から抽出し、該当するID情報の腸内細菌叢も腸内細菌叢DB300から抽出する抽出部と、後述する作成方法によって、評価モデルを作成する作成部を備える。モデル作成装置500は、作成した評価モデルを評価モデルDB600に格納する。
【0024】
(疾病評価指標算出フェーズ)
疾病評価指標算出フェーズでは、評価業者は、採便キットで採取した大便を提出し、かつ、特定の疾病に対するリスクの評価を希望する者(以下、ユーザという)に対し、腸内細菌叢DB作成フェーズで説明した採便キットの提出、及び、評価モデル作成フェーズで説明したアンケートの記入を依頼する。ユーザの採便キット及びアンケートは、多数の被験者の採便キット及びアンケートと同様の処理が行われ、腸内細菌叢DB300及びアンケートDB400に格納される。さらに、ユーザが評価を希望する疾病(特定の疾病)、及び、ユーザのID情報を疾病評価指標算出装置700に入力する。
【0025】
疾病評価指標算出装置700は、入力情報を受付ける入力部と、入力情報に関係する情報を抽出する抽出部と、評価指標を算出する算出部と、評価レポートを出力する出力部を備える。入力部は特定の疾病及びユーザのID情報の入力を受け付ける。抽出部は外部のアンケートDB400及び腸内細菌叢DB300からユーザのID情報に関係する情報(ユーザの要因、及び、腸内細菌叢)を抽出し、評価モデルDB600から特定の疾病に関する評価モデルを抽出する。そして、疾病評価指標算出装置700は、抽出されたユーザの要因(属性や生活習慣など)及び腸内細菌叢を、特定の疾病の評価モデルに入力し、特定の疾病に対するリスクの評価指標を算出する。算出された評価指標に基づく、評価レポートが出力される。なお、各フェーズを行う業者を分けて説明したが、同一の事業者が全てのフェーズを行ってもよい。
【0026】
図3は、評価モデルDB600に格納される評価モデルの一例を説明するための概念図である。評価モデルは、特定の疾病と一定以上の相関が認められた観測変数と、観測変数と関係する潜在変数(以下、因子という)によって構築される統計解析モデルである。なお、この評価モデルでは、要因(主な原因)も因子として取り扱っている。
【0027】
観測変数は実線の長方形で表し、因子は楕円形で表している。各観測変数は、
図1の腸内細菌叢DB300又はアンケートDB400の情報の一部である。
【0028】
評価モデルの主要部は、観測変数としての属性(性別・年齢)610−1、並びに、因子としての要因1(腸内細菌叢)620−1、要因2(生活・環境等)620−2及び因子(疾病等)620−3を備える。属性(性別・年齢)610−1はアンケートDB400の情報の一部である。矢印の向きは「影響を与える向き」を定義している。また、要因1(腸内細菌叢)620−1から因子(疾病等)620−3への太い矢印は一方向になっているが、双方向の評価モデルを構築することも可能である。
【0029】
次に、因子を詳細に説明する。点線で囲まれた長方形630−1は要因1(腸内細菌叢)620−1の詳細を示す。要因1(腸内細菌叢)620−1は腸内細菌叢因子620−1’及び複数の「OTU又は菌属(菌種)」610−2に分解できる。複数の「OTU又は菌属(菌種)」610−2は観測変数であり、
図1の腸内細菌叢DB300の情報の一部である。
【0030】
点線で囲まれた長方形630−2は要因2(生活・環境等)620−2の詳細を示す。要因2(生活・環境等)620−2は、環境要因620−2’−1、生活環境(アンケート)610−3及び家庭環境(アンケート)610−4、並びに、食生活要因620−2’−2、食行動(アンケート)610−5及び食意識(アンケート)610−6に分解できる。生活環境(アンケート)610−3及び家庭環境(アンケート)610−4、並びに、食行動(アンケート)610−5及び食意識(アンケート)610−6は観測変数であり、
図1のアンケートDB400の情報の一部である。
【0031】
点線で囲まれた長方形630−3は因子(疾病等)620−3の詳細を示す。因子(疾病等)620−3は、疾病・健康状態因子620−3’、疾病(アンケート)610−7及び健康状態(アンケート)610−8に分解できる。疾病(アンケート)610−7及び健康状態(アンケート)610−8は観測変数であり、
図1のアンケートDB400の情報の一部である。
【0032】
この図では、ユーザを属性(性別・年齢)610−1、並びに、各アンケート610−3乃至610−8で分割された集団に割り当て、その集団が保有する要因1(腸内細菌叢)620−1の場合、ユーザが評価を希望する疾病(特定の疾病)に対するリスクは高いか低いかを算出することができることを概念的に表している。ここで、特定の疾病に対するリスクとは、特定の疾病に対して現在罹患している、又は、将来罹患する確率(可能性も含む)をいう。
【0033】
すなわち、特定の疾病と一定以上の相関が認められた観測変数として「OTU又は菌属(菌種)」610−2、並びに、属性(性別・年齢)610−1、生活環境(アンケート)610−3、家庭環境(アンケート)610−4、食行動(アンケート)610−5、食意識(アンケート)610−6、疾病(アンケート)610−7、及び、健康状態(アンケート)610−8を選択し、これらの観測変数と関係する因子によって評価モデルが構築される。
【0034】
ここで、属性610−1については、統計解析を行う母集団を男女別に分割し、性別及び年齢を観測変数として用いている。また、腸内細菌叢因子620−1’の観測変数として、OTU又は菌属(菌種)名610−2を用いている。これは、T−RFLPによりDNAフィンガープリントがわかる場合、OTUを用い、NGSによりDNA配列が分かる場合、菌属(菌種)名を用いるためである。
【0035】
図4は、本実施形態に係るアンケート内容の説明図である。アンケートの構成概念は、「属性」、「生活・家庭環境(ライフスタイル)」、「食意識」、「食行動」、「心理的負荷(ストレス)」、「投薬」、「病気・未病(健康状態)」であり、これらに該当する各質問項目は一つ又は複数である。また、「7−3身体状況」には、身体状況から判断される健康状態、例えば、アトピー性皮膚炎に関するものとして、かゆみや皮膚の赤みという項目、又は、自分で測定できる血圧などを含まれる。ここで、説明の簡略化のため、「病気・未病(健康状態)」は「疾病」と述べてもよく、「生活・家庭環境(ライフスタイル)」、「食意識」、「食行動」、「心理的負荷(ストレス)」及び「投薬」はまとめて「生活及び環境」と述べてもよい。
【0036】
図5は、本実施形態に係る各集団の説明図である。全被験者で構成される母集団、疾病にかかっていない健康母集団、アトピーにかかっている集団、アトピー及び喘息にかかっている集団、喘息にかかっている集団で構成されている。
【実施例1】
【0037】
(実施例1:属性と腸内細菌叢から疾病リスクを評価する場合)
実施例1では、
図3で説明した評価モデルの主要部のうち、観測変数としての属性(性別・年齢)、並びに、因子としての要因1(腸内細菌叢)及び因子(疾病等)を用いて、疾病リスクを評価する場合について説明する。
【0038】
図6は、実施例1に係る評価モデルの概略図である。実施例1の評価モデルは、疾病「アトピー」又は「喘息」に対するリスクの評価指標を算出するためのモデルである。観測変数「性別」及び「年齢」は被験者が提出したアンケートから抽出し、観測変数「A58」、「A131」などは被験者が提出した採便キットから抽出している。また、観測変数「アトピー」及び「喘息」が、ユーザが評価を希望する疾病である。この評価モデルを用いることによって、ユーザが「アトピー」及び「喘息」になるリスクの評価指標を算出することができる。
【0039】
実施例1の評価モデルの内部因子は「属性」、「腸内細菌叢」及び「疾病・健康状態」である。これらの内部因子同士の関係が、連関モデルとして評価モデルの概略構成で表現されている。本願では、こうした観測変数、内部因子同士の多様な関係性を統計学的に評価する分析方法として共分散構造分析を採用する。
図6に示す観測変数と内部因子との関係、及び、内部因子同士の関係は構造方程式モデル(SEM;Structural Equation Modeling)で表現され、評価モデルが生成される。
【0040】
また、内部因子と観測変数との関係は次のようになる。内部因子「属性」の観測変数が「性別」及び「年齢」であり、内部因子「腸内細菌叢」の観測変数が「A58」、「A131」などのOTUであり、さらに、内部因子「疾病・健康状態」の観測変数が「アトピー」及び「喘息」である。なお、説明の簡略化のため、内部因子「疾病・健康状態」は内部因子「疾病」と述べてもよい。
【0041】
図7は、実施例1に係る評価モデル作成のフローチャートである。ここでは、疾病の一例として「アトピー」及び「喘息」について説明するが、他の疾病、例えば、「心臓病」、「大腸がん」、「胃腸病」、「肝臓病」、「腎臓病」、「糖尿病」、「高血圧」、「脂質異常」、「低体重(BMI)」、「肥満(BMI)」、「骨病」、「関節痛」、「うつ」などについても同様に評価モデルを作成することができる
【0042】
まず、疾病として「アトピー」及び「喘息」を選択する(S100)。評価に使用する属性として「性別」及び「年齢」を使用することを選択する(S110)。
【0043】
次に、疾病「アトピー」と関係の強いOTUを選定する(S120)。この選定は、例えばロジスティック回帰分析に基づいて行われてもよい。ここで、所定の疾病と関係の強いOTUをロジスティック回帰分析により選定する際に、所定の属性の時に、所定の腸内細菌叢と所定の疾病・健康状態とのパス、そのパスの係数、オッズ比、及び、p値(有意確率)で構成される疾病リスク係数表を用いる。
【0044】
次いで、選定されたOTUを観測変数として、評価モデルの内部因子「腸内細菌叢」を推定する(S130)。この推定は、例えば因子分析に基づいて行われてもよく、あるいは主成分分析、主座標分析等、他の分析方法に基づいてもよい。また、疾病「喘息」についても同様の処理(S120及びS130)を行う。
【0045】
S120と平行して(時間の前後は問わない)、疾病「アトピー」に関係する、評価モデルの内部因子としての属性を疾病リスク係数表より選定する(S140)。そして、選定された属性に対し、評価モデルの内部因子「属性」を推定する(S150)。この推定は、例えば因子分析に基づいてもよく、あるいは主成分分析、主座標分析等、他の分析方法に基づいてもよい。また、疾病「喘息」についても同様の処理(S140及びS150)を行う。
【0046】
S130で推定された評価モデルの内部因子「腸内細菌叢」及び、S140で推定された内部因子「属性」、さらに内部因子「疾病・健康状態」によりSEM解析を実施する(S160)。
【0047】
そして、
図8に示す構造方程式のパラメータα、β、γを求め、評価モデルを作成する(S170)。
【0048】
図9は、実施例1に係る評価モデル作成フローチャートの一部(S120)の説明図である。特定の疾病に関して、疾病リスク係数表からOTUを選定するステップについて説明する。
【0049】
まず、(1)疾病を決める。ここでは「アトピー」及び「喘息」とする。(2)係数表からOTUを選定する。ここでは「A58」、「A131」、「A477」及び「A498」等を記載しているが、実際には各OTUの次元は40〜100次元程度になる。
【0050】
次に、(3)
図5で説明した各集団から母集団を選定する。(4)所定の属性として「年齢」を選択する。ここでは、
図5の各集団は男性のみ、女性のみ、及び、全体に予め分かれており、母集団毎の評価モデルを構築するため、「年齢」を選択する。(5)SEM解析を実施し、(6)各パスの計数と、モデルの適合度を確認、すなわち、所定のしきい値以上であれば終了する。
【0051】
図10は、実施例1に係るアトピー及び喘息の場合の評価モデルの具体例である。各パスの矢印の向きは影響を与える向きを表し、各パスの数値が1に近いほど正の相関度が高い、すなわち、影響を与える要素として高いことを示している。一方、中黒の三角印はマイナスの数値であり、負の相関であることを示している。
【0052】
図10の評価モデルの具体例によれば、疾病「アトピー」及び「喘息」については、ある被験者は「年齢」が高く、「A131」に属する菌を多く保有している場合、「年齢」と「疾病因子」とは正の相関があるため、「年齢」が高いほど「アトピー」及び「喘息」にかかりやすい、と評価できる。しかしながら、「A131」と「腸内細菌叢A」は正の相関があるため、「腸内細菌叢A」が高いことを意味する。そして、「アトピー」及び「喘息」と「疾病因子」は正の相関があり、かつ、「腸内細菌叢A」と「疾病因子」は負の相関があるため、「腸内細菌叢A」が高ければ、「アトピー」及び「喘息」にはかかりにくい、と評価できる。
【0053】
さらに、「年齢」から「疾病因子」へのパスは、直接的なパスと、「腸内細菌叢A」を経由する間接的なパスがあることに留意する。直接的なパスによれば、上述した通り「年齢」が高いほど「アトピー」及び「喘息」にかかりやすい。一方、間接的なパスによれば、年齢が高くなると、「腸内細菌叢A」も少し高くなり、「アトピー」及び「喘息」にはかかりにくい。このように間接的なパスも考慮すると、「年齢」が高いほど「アトピー」及び「喘息」にかかりにくいという影響は実は小さいと評価できる。
【0054】
評価モデルの適合度指標として3種類用いており、GFIはGoodness of Fit Index、AGFIはAdjusted GFI、RMSEAはRoot Mean Square Error of Approximationの略称である。GFI及びAGFIは値が1に近くなるほどデータへの当てはまり(以下、適合度という)が良いことを意味する。一方、RMSEAは値が小さいほど適合度が良いことを意味する。また、評価モデルには、誤差のバラツキの指標である誤差分散を用いてもよい。
【0055】
図10の評価モデルの適合度指標は、GFIが0.9788、AGFIが0.9735、RMSEAが0.1096であり、この評価モデルの適合度は高いことが示されている。
【0056】
(効果)
実施例1によれば、属性と腸内細菌叢から疾病リスクを評価する評価モデルを作成することができる。すなわち、
図3の要因1(腸内細菌叢)620−1から因子(疾病等)620−3への太い矢印の関連性を評価するモデルを作成することができる。また、
図6で説明したように観測変数、内部因子同士の多様な関係性をモデル化しているため、
図10で説明したように直接的なパス及び間接的なパスの両方を判断可能な評価モデルを作成することができる。
【0057】
そして、ユーザは採便キットで大便を採取、提出し、さらにアンケートに回答することによって、自分の大便が「A131」を多く保有していれば、年齢による影響は小さく、「腸内細菌叢A」が高く、「アトピー」及び「喘息」にかかりにくい、という評価を受けることができる。
【0058】
そして、疾病評価指標算出装置700は、「アトピー」及び「喘息」になるリスクの評価を希望するユーザから、ユーザID情報を受け付け、アンケートDB400及び腸内細菌叢DB300からユーザのID情報に関係する情報(ユーザの属性、及び、腸内細菌叢の情報)を抽出し、評価モデルDB600からユーザが評価を希望する疾病「アトピー」及び「喘息」に関する評価モデルを抽出する。そして、疾病評価指標算出装置700は、抽出されたユーザの属性(この場合、年齢)及び腸内細菌叢の情報(この場合、「A131」を多く保有)を、
図10の評価モデルに入力し、「アトピー」及び「喘息」に対するリスクの評価指標を算出することができる。さらに、算出された評価指標に基づく、評価レポートが出力される。
【0059】
ユーザは評価レポートを読むことによって、ユーザ自身の腸内細菌叢に、腸内細菌叢A(因子)への因子負荷量が大きい「A131」が多く含まれているため、年齢による影響は小さく(年齢が高くなっても、将来的に)「アトピー」及び「喘息」に対するリスクは低いということを理解できる。
【0060】
次に、疾病評価指標算出システム事業者にとっての効果を述べる。ユーザの腸内細菌叢に「A131」が多く含まれていることが「アトピー」及び「喘息」に対するリスクを低減させるのであれば、「A131」に含まれる実在の菌を摂取すれば、「アトピー」及び「喘息」に対するリスクが低減される可能性を評価レポートは示唆している。この可能性に基づき、事業者はプロバイオティクスの設計、検討、及び提案を行うことができる。
【実施例2】
【0061】
(実施例2;属性並びに、生活及び環境と、腸内細菌叢から疾病リスクを評価する場合)
実施例2では、
図3で説明した要因2(生活・環境等)を実施例1に加え、すなわち、
図3で説明した評価モデルの主要部全てを用いて、疾病リスクを評価する場合について説明する。実施例2の疾病評価指標算出システム700も、
図1の全体概略図と同じである。評価モデルを作成する際に、要因2(生活・環境等)を用いている点が、実施例1と異なる点である。
【0062】
図11は、実施例2に係る評価モデルの具体例を示す図である。実施例2特有の評価モデルの内部因子は、
図3の要因2(生活・環境等)として、「食生活」を用いている。内部因子「食生活」の観測変数が「牛乳」、「パン」、「肉」等である。
【0063】
観測変数「牛乳」、「パン」、「肉」等を評価モデルに加えることは、
図4で説明したアンケートの構成概念「食行動」の各質問項目をアンケート情報に追加することによって可能になる。また、各質問項目の数を増やすことによって、より詳細な評価をすることが可能になる。
【0064】
図11の評価モデルの具体例によれば、実施例1の解釈に加え、ある被験者が「肉」を食する頻度が高い場合、「食生活」因子が高いことを意味する。これは、「腸内細菌叢A」因子が低下し、「腸内細菌叢B」因子が増加し、さらに、「疾病因子」の増加を意味する。この「疾病因子」は「アトピー」及び「喘息」になるリスクを増加させていることを示唆している。また、この「食生活」因子が高いことにより、「腸内細菌叢B」因子が高くなり、その高い「腸内細菌叢B」因子が「疾病因子」を高めている可能性をさらに示唆している、と評価できる。
【0065】
図11の評価モデルの適合度指標は、GFIが0.9265であり、AGFIが0.9048であり、RMSEAが0.0738である。このため、この評価モデルの適合度は高いことが示されている。
【0066】
(効果)
実施例2によれば、属性及び生活・環境等と、腸内細菌叢から疾病リスクを評価する評価モデルを作成することができる。
図11の場合、「年齢」、「腸内細菌叢A」、「腸内細菌叢B」、「食生活」から「アトピー」及び「喘息」になるリスクを評価する評価モデルを作成することができる。
【0067】
そして、疾病評価指標算出装置700は、「アトピー」及び「喘息」になるリスクの評価を希望するユーザから、ユーザID情報を受け付け、アンケートDB400及び腸内細菌叢DB300からユーザのID情報に関係する情報(ユーザの属性及び「食生活」に関するアンケート結果、並びに、腸内細菌叢の情報)を抽出し、評価モデルDB600からユーザが評価を希望する疾病「アトピー」及び「喘息」に関する評価モデルを抽出する。そして、疾病評価指標算出装置700は、抽出されたユーザの要因「年齢、食生活」及び腸内細菌叢の情報を、「アトピー」及び「喘息」の評価モデルに入力し、「アトピー」及び「喘息」に対するリスクの評価指標を算出することができる。さらに、算出された評価指標に基づく、評価レポートが出力される。
【0068】
ユーザは評価レポートを読むことによって、実施例1の評価に加え、「肉」を食する頻度が高いため、「腸内細菌叢A」因子が低下し、「腸内細菌叢B」因子が増加する傾向にあり、「アトピー」及び「喘息」になるリスクを増加させていることを示唆している。また、「肉」を食する頻度が高いことにより、「腸内細菌叢B」因子が高くなり、「アトピー」及び「喘息」になるリスクを高めている可能性をさらに示唆している、という詳細な評価を理解できる。
【0069】
次に、疾病評価指標算出システム事業者にとっての効果を述べる。ユーザの「肉」を食する頻度が高く、「野菜」を食する頻度が低いことが「アトピー」及び「喘息」に対するリスクを増加させるのであれは、「肉」を食する頻度を抑え、また「野菜」を多く摂取すれば、「アトピー」及び「喘息」に対するリスクが低減される可能性を評価レポートは示唆している。このような可能性に基づき、事業者はプレバイオティクスの設計、検討、及び提案を行うことができる。
【0070】
以上、本発明の実施例(変形例を含む)について説明してきたが、これらのうち、2つ以上の実施例を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、これらのうち、1つの実施例を部分的に実施しても構わない。さらには、これらのうち、2つ以上の実施例を部分的に組み合わせて実施しても構わない。
【0071】
また、本発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0072】
例えば、実施例の腸内細菌叢解析装置200としてqPCRなどの他の解析装置を用いてもよい。qPCR解析装置の場合、試薬分注と調整を施したDNA溶液を入力し、リアルタイムの定量PCR(quantitative Polymerase Chain Reaction)で解析することによって、腸内細菌叢に関する指標菌群が出力され、腸内細菌叢DB300内の腸内細菌叢(指標菌群)DBに格納される。
【0073】
また、実施例では、連関モデルを解析する方法として、共分散構造分析を用いたが、パス解析などの他の解析方法を用いてもよい。