【課題】複数の経済指標の過去の動向に基づき、特定の経済指標の将来動向をより精度高く予測するための予兆管理方法、予兆管理システム、及び経済データの選別方法を提供すること。
【解決手段】予兆管理方法は、時系列に沿って変動する対象データの将来動向を予測する。時系列に沿って変動する複数の経済データと対象データとを用いて、複数の第1選別データを選別する第1選別工程と、複数の第1選別データと対象データとを用いて複数の第2選別データを選別する第2選別工程と、複数の第2選別データを合成して合成データを生成する合成工程とを有し、生成された合成データに基づき、対象データの将来予測値を算出する。予兆管理システムは、第1選別工程を実現する第1選別手段と、第2選別工程を実現する第2選別手段と、合成工程を実現する合成手段と、を有する。経済データの選別方法は、第1選別工程と、第2選別工程とを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経済情勢をより正確に把握するためには、各種経済指標を評価するだけなく、特定の経済指標が将来どのような動向を示すのかより精度高く予測することが求められている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、複数の経済指標の過去の動向に基づき、特定の経済指標の将来動向をより精度高く予測するための予兆管理方法、予兆管理システム、及び経済データの選別方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
[1]時系列に沿って変動する対象データの将来動向を予測するための予兆管理方法であって、
時系列に沿って変動する複数の経済データと前記対象データとを用いて、以下の(1)〜(3)の各工程を実行することにより複数の第1選別データを選別する第1選別工程と;
(1)前記複数の経済データのうちの特定の経済データと前記対象データとの第1時間幅における第1相関値を算出する工程であって、前記特定の経済データを前記対象データに対して第1シフト時間の整数N倍だけ時間的に前方へシフトさせつつ、整数Nが0から正の整数nとなるまでn+1回繰り返してn+1個の前記第1相関値を算出する第1工程、
(2)前記第1工程により算出されたn+1個の第1相関値のうち絶対値が最大のものを最大相関値とし、当該最大相関値に対応する前記整数Nの値をkとした場合において、前記最大相関値の絶対値が予め定められた第1基準相関値以上であり、かつ、前記第1シフト時間のk倍である先行シフト時間が予め定められた第1基準シフト時間以上である場合に当該特定の経済データを第1選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の経済データを非選別とする第2工程、及び、
(3)前記第1工程及び前記第2工程を、前記複数の経済データのうち、前記特定の経済データ以外のすべての経済データについて実行する第3工程、
前記複数の第1選別データと前記対象データとを用いて、以下の(4)〜(6)の各工程を実行することにより複数の第2選別データを選別する第2選別工程と;
(4)前記複数の第1選別データのうちの特定の第1選別データをそれに対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトしたものと前記対象データとの第2時間幅における第2相関値を算出する工程であって、前記第2時間幅の始期を第2シフト時間の整数M倍だけ時間的にシフトさせつつ、整数Mが0から正の整数mとなるまでm+1回繰り返してm+1個の第2相関値を算出する第4工程、
(5)前記第4工程により算出されたm+1個の第2相関値の絶対値のいずれもが、予め定められた第2基準相関値以上である場合に当該特定の第1選別データを第2選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の第1選別データを非選別とする第5工程、及び、
(6)前記第4工程及び前記第5工程を、前記複数の第1選別データのうち、前記特定の第1選別データ以外のすべての第1選別データについて実行する第6工程、
前記複数の第2選別データを用いて、以下の(7)〜(8)の各工程を実行することにより前記複数の第2選別データを合成する合成工程と;
(7)前記複数の第2選別データを、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトする第7工程、及び、
(8)前記第7工程で得られた、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトされた前記複数の第2選別データの各々の値を標準化した上で合成して合成データを生成する第8工程
を有し、
前記第8工程で生成された合成データに基づき、前記対象データの将来予測値を算出する予兆管理方法。
【0007】
[2]時系列に沿って変動する対象データの将来動向を予測するための予兆管理システムであって、
時系列に沿って変動する複数の経済データと前記対象データとを用いて、以下の(1)〜(3)の各工程を実行することにより複数の第1選別データを選別する第1選別手段と;
(1)前記複数の経済データのうちの特定の経済データと前記対象データとの第1時間幅における第1相関値を算出する工程であって、前記特定の経済データを前記対象データに対して第1シフト時間の整数N倍だけ時間的に前方へシフトさせつつ、整数Nが0から正の整数nとなるまでn+1回繰り返してn+1個の前記第1相関値を算出する第1工程、
(2)前記第1工程により算出されたn+1個の第1相関値のうち絶対値が最大のものを最大相関値とし、当該最大相関値に対応する前記整数Nの値をkとした場合において、前記最大相関値の絶対値が予め定められた第1基準相関値以上であり、かつ、前記第1シフト時間のk倍である先行シフト時間が予め定められた第1基準シフト時間以上である場合に当該特定の経済データを第1選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の経済データを非選別とする第2工程、及び、
(3)前記第1工程及び前記第2工程を、前記複数の経済データのうち、前記特定の経済データ以外のすべての経済データについて実行する第3工程、
前記複数の第1選別データと前記対象データとを用いて、以下の(4)〜(6)の各工程を実行することにより複数の第2選別データを選別する第2選別手段と;
(4)前記複数の第1選別データのうちの特定の第1選別データをそれに対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトしたものと前記対象データとの第2時間幅における第2相関値を算出する工程であって、前記第2時間幅の始期を第2シフト時間の整数M倍だけ時間的にシフトさせつつ、整数Mが0から正の整数mとなるまでm+1回繰り返してm+1個の第2相関値を算出する第4工程、
(5)前記第4工程により算出されたm+1個の第2相関値の絶対値のいずれもが、予め定められた第2基準相関値以上である場合に当該特定の第1選別データを第2選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の第1選別データを非選別とする第5工程、及び、
(6)前記第4工程及び前記第5工程を、前記複数の第1選別データのうち、前記特定の第1選別データ以外のすべての第1選別データについて実行する第6工程、
前記複数の第2選別データを用いて、以下の(7)〜(8)の各工程を実行することにより前記複数の第2選別データを合成する合成手段と;
(7)前記複数の第2選別データを、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトする第7工程、及び、
(8)前記第7工程で得られた、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトされた前記複数の第2選別データの各々の値を標準化した上で合成して合成データを生成する第8工程
を有し、
前記第8工程で生成された合成データに基づき、前記対象データの将来予測値を算出する予兆管理システム。
【0008】
[3]時系列に沿って変動する複数の経済データと時系列に沿って変動する対象データとを用いて、以下の(1)〜(3)の各工程を実行することにより複数の第1選別データを選別する第1選別工程;
(1)前記複数の経済データのうちの特定の経済データと前記対象データとの第1時間幅における第1相関値を算出する工程であって、前記特定の経済データを前記対象データに対して第1シフト時間の整数N倍だけ時間的に前方へシフトさせつつ、整数Nが0から正の整数nとなるまでn+1回繰り返してn+1個の前記第1相関値を算出する第1工程、
(2)前記第1工程により算出されたn+1個の第1相関値のうち絶対値が最大のものを最大相関値とし、当該最大相関値に対応する前記整数Nの値をkとした場合において、前記最大相関値の絶対値が予め定められた第1基準相関値以上であり、かつ、前記第1シフト時間のk倍である先行シフト時間が予め定められた第1基準シフト時間以上である場合に当該特定の経済データを第1選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の経済データを非選別とする第2工程、及び、
(3)前記第1工程及び前記第2工程を、前記複数の経済データのうち、前記特定の経済データ以外のすべての経済データについて実行する第3工程、
前記複数の第1選別データと前記対象データとを用いて、以下の(4)〜(6)の各工程を実行することにより複数の第2選別データを選別する第2選別工程;
(4)前記複数の第1選別データのうちの特定の第1選別データをそれに対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトしたものと前記対象データとの第2時間幅における第2相関値を算出する工程であって、前記第2時間幅の始期を第2シフト時間の整数M倍だけ時間的にシフトさせつつ、整数Mが0から正の整数mとなるまでm+1回繰り返してm+1個の第2相関値を算出する第4工程、
(5)前記第4工程により算出されたm+1個の第2相関値の絶対値のいずれもが、予め定められた第2基準相関値以上である場合に当該特定の第1選別データを第2選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の第1選別データを非選別とする第5工程、及び、
(6)前記第4工程及び前記第5工程を、前記複数の第1選別データのうち、前記特定の第1選別データ以外のすべての第1選別データについて実行する第6工程、
を有する経済データの選別方法。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の経済指標の過去の動向に基づき、特定の経済指標の将来動向をより精度高く予測するための予兆管理方法、予兆管理システム、及び経済データの選別方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態1]
以下、実施形態1に係る予兆管理方法、及び当該予兆管理方法を実現する予兆管理システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0013】
<予兆管理システム>
予兆管理システムは、時系列に沿って変動する対象データの将来動向を、時系列に沿って変動する複数の経済データを用いて予測するためのシステムである。ここで、対象データとは、各種経済データのうち、将来動向を予測しようとしている特定の経済データである。
【0014】
本実施形態において用いる経済データは特に制限なく、各種経済指標を構成する任意の経済データを用いることができる。経済データは、特定の時点から定期的に継続して算出され、蓄積されたデータである。経済データとしては、例えば、各種公的機関、民間企業が公表する経済指標を構成する経済データを採用することができる。
【0015】
経済データは、所定期間以上継続して算出された経済データであることが好ましい。所定期間としては、例えば、10年以上、20年以上等とすることができ、通常、当該所定期間が長ければ長い程、対象データの将来動向をより正確に予測することができる。
【0016】
経済データは、所定頻度以上の頻度で継続して算出された経済データであることが好ましい。所定頻度としては、例えば、3ヵ月に1度以上、6ヵ月に1度以上、1年に1度以上等とすることができ、当該所定頻度が高ければ高いほど、対象データの将来動向をより正確に予測することができる。
【0017】
予兆管理システムは、第1選別手段としての第1選別部と、第2選別手段としての第2選別部と、合成手段としての合成部と、を有する。第1選別部は、本実施形態に係る予兆管理方法の第1選別工程を実現するための第1選別手段として機能し、第2選別部は、本実施形態に係る予兆管理方法の第2選別工程を実現するための第2選別手段として機能し、合成部は、本実施形態に係る予兆管理方法の合成工程を実現するための合成手段として機能する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る予兆管理システムの概要図である。予兆管理システムは、上述の第1選別部、第2選別部、合成部を備えるプログラムを実行する中央処理装置(CPU)を有する情報処理端末と、当該プログラムを記憶する記憶装置と、により実現することができる。当該プログラムは、第1選別部、第2選別部、合成部のそれぞれを、単一のプログラムが備えていてもよいし、複数のプログラムが分散して備えていてもよい。複数のプログラムであった場合、それぞれのプログラムは相互に通信可能に接続された別々の記憶装置に記憶されていてもよく、また、それぞれのプログラムが相互に通信可能に接続された別々の情報処理端末によって実行されてもよい。情報処理端末と記憶装置とは、それぞれ複数存在していた場合であっても、単一の筐体に格納されていてもよいし、別々の筐体に格納されていてもよい。情報処理端末と記憶装置とは、インターネットを介して相互に通信可能に接続されていてもよい。
【0019】
<第1選別部>
第1選別部は、経済データと対象データとを用いて、複数の第1選別データを選別する機能を有する。複数の第1選別データは、第1工程実行部、第2工程実行部、及び第3工程実行部が、それぞれ第1工程、第2工程、第3工程の各工程を実行することにより、選別される。
図2は、予兆管理システムが実現する予兆管理方法の概要図である。
図2においては、第1選別工程によって、経済データ1、経済データ3、経済データ4、経済データ6、及び経済データ7が、第1選別データとして選別されている。
【0020】
(1)第1工程
第1工程は、特定の経済データと対象データとの間の第1相関値を算出する工程である。ここで、特定の経済データとは、上述の複数の経済データのうちの特定の1つの経済データである。当該特定の経済データ以外の、その他の経済データについては、後述する第3工程において処理する。なお、複数の経済データからは、任意に特定の経済データを1つ選択すればよい。
【0021】
第1相関値は、特定の経済データと対象データとの間の相関値(相関係数)であり、特定の経済データの値と、対象データの値との比較に基づき算出される値である。なお、相関値としてはピアソン積率相関係数を用いることができる。ピアソン積率相関係数ρは、下記計算式により算出することができる。
ρ=σ
xy/σ
x・σ
y
σ
xy:x,yの共分散、σ
x:xの標準偏差、σ
y:yの標準偏差
【0022】
第1相関値は、第1時間幅の範囲内において算出される。第1時間幅は特に制限されないが、より正確に第1相関値を求めるため、第1時間幅はなるべく長い時間幅とすることが好ましく、データが存在する全期間とすることができる。
【0023】
第1時間幅は、経済データと対象データの両方が存在することを前提とした可変時間幅とすることができる。すなわち、第1相関値を求めるためには、所定の時点における経済データと対象データとの両方のデータが必要となるため、経済データと対象データの両方が揃っていない期間を除いた期間を第1時間幅とすることができる。第1時間幅としては、例えば、対象データ又は経済データのうち、最もデータ収録期間が短いもののデータ収録期間とすることができる。第1時間幅は、経済データの種類に応じて、適宜変更することができる。具体的には、第1時間幅を、経済データのデータ収録期間に応じて適宜変更することができる。
【0024】
第1相関値の算出に際して、特定の経済データを対象データに対して、時間的に所定時間だけ前方へシフトさせた状態で、相関値を算出する。ここで、「経済データを時間的に前方へシフト」とは、時間軸において経済データを未来の方へシフトさせることを意味する。すなわち、経済データの時間座標に対して、シフトさせる分だけの時間(先行シフト時間)を加算することを意味する。
【0025】
先行シフト時間は、第1シフト時間の整数N倍であり、整数Nは、0(ゼロ)から正の整数nまで変化させることができる。すなわち、nが2であった場合、特定の経済データの先行シフト時間は、第1シフト時間の0(ゼロ)倍、1倍、2倍の3種類(n+1種類)となる。nの値は特に制限されず、任意の自然数とすることができ、例えば、2〜6等とすることができる。
【0026】
第1シフト時間は、特定の経済データを時系列上で前方へシフトさせる時間(先行シフト時間)の基準となる時間である。第1シフト時間としては、例えば、対象データ又は経済データが算出される間隔(更新頻度)とすることができる。
【0027】
(2)第2工程
第2工程は、第1工程により算出されたn+1個の第1相関値のうち絶対値が最大のものを最大相関値とし、この最大相関値の絶対値が予め定められた第1基準相関値以上であり、かつ、最大相関値に対応する先行シフト時間が予め定められた第1基準シフト時間以上である場合に、当該特定の経済データを第1選別データとして選別する工程である。第2工程においては、最大相関値の絶対値が第1基準相関値以上であり、かつ、最大相関値に対応する先行シフト時間が第1基準シフト時間以上であるとの条件を満たさなかった場合、当該特定の経済データを第1選別データとして選別しない。ここで、最大相関値の先行シフト時間は、最大相関値に対応する整数Nの値をkとした場合、第1シフト時間のk倍である。
【0028】
第1基準相関値及び第1基準シフト時間は、任意に設定することができる。第1基準相関値及び第1基準シフト時間を、適宜所定値以上に設定することにより、より正確な予兆管理に有効な第1選別データを選別することができる。
【0029】
(3)第3工程
第3工程は、上述の第1工程及び第2工程を、複数の経済データのうち、上記特定の経済データ以外のすべての経済データについて実行する工程である。すなわち、上記特定の経済データ以外の経済データについても、第1工程及び第2工程を実行することを意味する。なお、複数の経済データのそれぞれについての第1工程及び第2工程の実行は、各経済データについて順次直列的に実行してもよいし、2つ以上の経済データについて同時に並列的に実行してもよい。
【0030】
図3は、実施形態1における第1選別工程の一例を説明する表である。表中、「CAPレート」の欄には、対象データとして、2000年06月から2017年12月までの6ヵ月置きに算出されたデータが表示されている。
図3において、第1時間幅は、対象データとしてのCAPレートのデータ収録期間に対応している。
【0031】
図3の表中、「貸出態度DI」の先行シフト時間が「0期」の欄には、特定の経済データとして、1997年06月から2018年03月までの3ヵ月置きに算出されたデータが表示されている。「貸出態度DI」の先行シフト時間が「1期」、「2期」、「3期」、「4期」、「5期」、「6期」の各欄には、上記「0期」の欄のデータを、第1シフト時間である6ヵ月の1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍だけ先行シフト時間として時間的に前方へシフトさせたデータが表示されている。
【0032】
図3において、特定の経済データと対象データとの間の第1相関値のうち、絶対値が最大である最大相関値は、先行シフト時間が2期(1年)の場合の「−0.80」である。
図3の例において、第1基準相関値は0.6であり、第1基準シフト時間は2期(1年)であることから、特定の経済データとしての「貸出態度DI」のデータは、第1選別データとして選別されることになる。
【0033】
<第2選別部>
第2選別部は、第1選別部により選別された第1選別データと対象データとを用いて、複数の第2選別データを選別する機能を有する。複数の第2選別データは、第4工程実行部、第5工程実行部、及び第6工程実行部が、それぞれ第4工程、第5工程、第6工程の各工程を実行することにより、選別される。
図2においては、第2選別工程によって、経済データ1、経済データ4、及び経済データ6が、第2選別データとして選別されている。
【0034】
(4)第4工程
第4工程は、特定の第1選別データと対象データとの間の第2相関値を算出する工程である。ここで、特定の第1選別データとは、上述の複数の第1選別データのうちの特定の1つの第1選別データである。当該特定の第1選別データ以外の、その他の第1選別データについては、後述する第6工程において処理する。なお、複数の第1選別データからは、任意に特定の第1選別データを1つ選択すればよい。
【0035】
第2相関値は、特定の第1選別データを当該特定の第1選別データに対応する先行シフト時間だけシフトさせたデータと対象データとの間の相関値(相関係数)であり、特定の経済データの値と、対象データの値との比較に基づき算出される値である。なお、相関値としてはピアソン積率相関係数を用いることができる。ピアソン積率相関係数ρは、下記計算式により算出することができる。
ρ=σ
xy/σ
x・σ
y
σ
xy:x,yの共分散、σ
x:xの標準偏差、σ
y:yの標準偏差
【0036】
第2相関値は、第2時間幅の範囲内において算出される。第2時間幅は特に制限されないが、より正確に第2相関値を求めるため、第2時間幅はなるべく長い時間幅とすることが好ましく、データが存在する全期間とすることができる。
【0037】
第2時間幅は、第1選別データと対象データの両方が存在することを前提とした可変時間幅とすることができる。すなわち、第2相関値を求めるためには、所定の時点における第1選別データと対象データとの両方のデータが必要となるため、第1選別データと対象データの両方が揃っていない期間を除いた期間を第2時間幅とすることができる。第2時間幅としては、例えば、対象データ又は第1選別データのうち、最もデータ収録期間が短いもののデータ収録期間とすることができる。また、第2時間幅としては、後述するmの値が最小となる場合の第1選別データ又は対象データの収録期間を第2時間幅とすることができる。第2時間幅としては、例えば、5年、10年、20年等とすることができる。
【0038】
第4工程においては、第1選別データを先行シフト時間だけシフトさせたデータと対象データとの間の第2相関値を第2時間幅において算出するに際して、第2時間幅の始期を所定時間ずつ時間的にシフトさせつつ算出する。すなわち、第4工程においては、第1選別データを先行シフト時間だけシフトさせたデータと対象データとの間の第2相関値を、第2時間幅の範囲であって所定時間ずつシフトさせた範囲を複数切り取り、切り取った複数の範囲のそれぞれにおいて第2相関値を算出する。
【0039】
第2時間幅の始期をシフトする所定時間(始期シフト時間)は、第2シフト時間の整数M倍とすることができ、整数Mを0(ゼロ)から正の整数mまで変化させることができる。すなわち、mが3であった場合、始期シフト時間は、第2シフト時間の0(ゼロ)倍、1倍、2倍、3倍の4種類(m+1種類)となる。mの値は特に制限されず、任意の自然数とすることができるが、第1選別データを先行シフト時間だけシフトさせたデータの収録期間と、対象データの収録期間とが、両方揃っている期間の範囲内となるように、mの値を設定することが好ましい。
【0040】
第2シフト時間は、始期シフト時間の基準となる時間である。第2シフト時間としては、例えば、対象データ又は第1選別データが算出される間隔(更新頻度)とすることができる。
【0041】
第2時間幅の始期をシフトさせる方向としては、特に制限されず、シフトさせる基準となる対象データ及び第1選別データに応じて、時間的に前方に(未来に向かって)シフトさせても良いし、時間的に後方に(過去に向かって)シフトさせても良い。
【0042】
(5)第5工程
第5工程は、第4工程により算出されたm+1個の第2相関値の絶対値のいずれもが、予め定められた第2基準相関値以上である場合に、特定の第1選別データを第2選別データとして選別する工程である。第2相関値の絶対値のいずれかが、第2基準相関値以下であった場合には、特定の第1選別データは第2選別データとして選別しない。
【0043】
第2基準相関値は、任意に設定することができる。第2基準相関値を適宜所定値以上に設定することにより、より正確な予兆管理に有効な第2選別データを選別することができる。
【0044】
(6)第6工程
第6工程は、上述の第4工程及び第5工程を、複数の第1選別データのうち、上記特定の第1選別データ以外のすべての第1選別データについて実行する工程である。すなわち、上記特定の第1選別データ以外の第1選別データについても、第4工程及び第5工程を実行することを意味する。なお、複数の第1選別データのそれぞれについての第4工程及び第5工程の実行は、各第1選別データについて順次直列的に実行してもよいし、2つ以上の第1選別データについて同時に並列的に実行してもよい。
【0045】
図4は、実施形態1における第2選別工程の一例を説明する表である。表中、「始期シフト時間(M期)」が「0期」の「CAPレート」の欄には、対象データとして、2008年03月から2017年12月までの6ヵ月置きに算出されたデータが表示されており、「貸出態度DI」の欄には、第1選別データとして、同期間の貸出態度DIのデータが表示されている。
図4において、第2時間幅は、10年である。
【0046】
図4の表中、始期シフト時間が「1期」、「2期」、「3期」、「4期」、「5期」の欄には、対象データ及び第1選別データとして、第2時間幅の始期を、第2シフト時間である6ヵ月の1倍、2倍、3倍、4倍、5倍だけ時間的に後方へ(過去へ)シフトさせたデータが表示されている。
【0047】
図4において、特定の第1選別データと対象データとの間の第2相関値の絶対値は、いずれも、第2基準相関値である0.5であることから、特定の第1選別データとしての「貸出態度DI」のデータは、第2選別データとして選別されることになる。
【0048】
<合成部>
合成部は、第2選別部により選別された複数の第2選別データを合成する機能を有する。複数の第2選別データの合成は、第7工程実行部、及び第8工程実行部が、それぞれ第7工程、第8工程の各工程を実行することにより、実行される。
図2では、経済データ11、経済データ4、及び経済データ6が合成され、合成データが生成されている。
【0049】
(7)第7工程
第7工程は、第2選別工程において選別された第2選別データの各々の値を、第2選別データの各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトする工程である。
【0050】
(8)第8工程
第8工程は、第7工程で得られたシフト後の第2選別データの各々の値を標準化した上で合成して合成データを生成する工程である。
【0051】
第2選別データを標準化する方法は特に制限されないが、例えば、第2選別データの各々の値の平均値及び標準偏差を基に、偏差値を算出することで標準化することができる。偏差値は、例えば、下記偏差値算出式により算出することができる。
【0052】
(偏差値算出式)
T=(A−μ)÷σ×10+50(第2相関値が正の値(順相関)の場合)
T=−(A−μ)÷σ×10+50(第2相関値が負の値(逆相関)の場合)
μ:過去の平均値
σ:過去の標準偏差
A:特定の時点における値(実数値)
T:特定の時点における偏差値(T)
【0053】
標準化された第2選別データの各々の値を合成する方法は、特に制限されないが、例えば、相加平均を求めることで合成することができる。これにより、複数の第2選別データの値のそれぞれが、単一の合成された合成データの値となる。
【0054】
標準化された第2選別データの各々の値の合成に際して、単に相加平均を求めるだけでなく、第1相関値の最大相関値の絶対値に応じた重み付け比率を乗じて加算したものであってもよい。特定の第2選別データの最大相関値の絶対値が1に近い程、重み付け比率が大きくなり、合成データにおける特定の第2選別データの影響を大きくすることができる。
【0055】
本実施形態の予兆管理方法では、合成データに基づき、対象データの将来予測値を算出する。合成データに基づいて対象データの将来予測値を算出する方法は、特に制限されないが、例えば、現在以前(過去)の所定の時点の合成データの値に対する、現在以降(将来)の値の変動率を算出し、当該変動率を、上記所定の時点の対象データの値に乗じることで、対象データの将来予測値を算出することができる。ここで、上記所定の時点は、現在であってもよい。なお、合成データの現在以降(将来)の値は、先行シフト時間の分だけ存在することになる。
【0056】
[実施形態2]
実施形態2に係る経済データの選別方法は、上述の実施形態1に係る予兆管理方法における第1選別工程及び第2選別工程により実現することができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0058】
(趣旨1)時系列に沿って変動する対象データの将来動向を予測するための予兆管理方法であって、
時系列に沿って変動する複数の経済データと前記対象データとを用いて、以下の(1)〜(3)の各工程を実行することにより複数の第1選別データを選別する第1選別工程と;
(1)前記複数の経済データのうちの特定の経済データと前記対象データとの第1時間幅における第1相関値を算出する工程であって、前記特定の経済データを前記対象データに対して第1シフト時間の整数N倍だけ時間的に前方へシフトさせつつ、整数Nが0から正の整数nとなるまでn+1回繰り返してn+1個の前記第1相関値を算出する第1工程、
(2)前記第1工程により算出されたn+1個の第1相関値のうち絶対値が最大のものを最大相関値とし、当該最大相関値に対応する前記整数Nの値をkとした場合において、前記最大相関値の絶対値が予め定められた第1基準相関値以上であり、かつ、前記第1シフト時間のk倍である先行シフト時間が予め定められた第1基準シフト時間以上である場合に当該特定の経済データを第1選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の経済データを非選別とする第2工程、及び、
(3)前記第1工程及び前記第2工程を、前記複数の経済データのうち、前記特定の経済データ以外のすべての経済データについて実行する第3工程、
前記複数の第1選別データと前記対象データとを用いて、以下の(4)〜(6)の各工程を実行することにより複数の第2選別データを選別する第2選別工程と;
(4)前記複数の第1選別データのうちの特定の第1選別データをそれに対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトしたものと前記対象データとの第2時間幅における第2相関値を算出する工程であって、前記第2時間幅の始期を第2シフト時間の整数M倍だけ時間的にシフトさせつつ、整数Mが0から正の整数mとなるまでm+1回繰り返してm+1個の第2相関値を算出する第4工程、
(5)前記第4工程により算出されたm+1個の第2相関値の絶対値のいずれもが、予め定められた第2基準相関値以上である場合に当該特定の第1選別データを第2選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の第1選別データを非選別とする第5工程、及び、
(6)前記第4工程及び前記第5工程を、前記複数の第1選別データのうち、前記特定の第1選別データ以外のすべての第1選別データについて実行する第6工程、
前記複数の第2選別データを用いて、以下の(7)〜(8)の各工程を実行することにより前記複数の第2選別データを合成する合成工程と;
(7)前記複数の第2選別データを、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトする第7工程、及び、
(8)前記第7工程で得られた、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトされた前記複数の第2選別データの各々の値を標準化した上で合成して合成データを生成する第8工程
を有し、
前記第8工程で生成された合成データに基づき、前記対象データの将来予測値を算出する予兆管理方法を趣旨とする。
【0059】
これによれば、複数の経済指標の過去の動向に基づき、特定の経済指標の将来動向をより精度高く予測するための予兆管理方法、予兆管理システム、及び経済データの選別方法を提供することができる。
【0060】
(趣旨2)前記第1時間幅が、前記経済データと前記対象データの両方が存在することを前提とした可変時間幅であってもよい。
【0061】
(趣旨3)前記第2時間幅が、前記第1選別データと前記対象データの両方が存在することを前提とした可変時間幅であってもよい。
【0062】
(趣旨4)前記第8工程における標準化が、下記偏差値算出手順により算出される偏差値であってもよい。
(偏差値算出式)
T=(A−μ)÷σ×10+50(第2相関値が正の値(順相関)の場合)
T=−(A−μ)÷σ×10+50(第2相関値が負の値(逆相関)の場合)
μ:過去の平均値
σ:過去の標準偏差
A:特定の時点における値(実数値)
T:特定の時点における偏差値(T)
【0063】
(趣旨5)前記合成データが、標準化された前記第2選別データの各々を相加平均したものであってもよい。
【0064】
(趣旨6)前記将来予測値を、現在の合成データ値に対する将来の合成データ値の変動比率を現在の対象データ値に乗じることによって算出するものであってもよい。
【0065】
(趣旨7)時系列に沿って変動する対象データの将来動向を予測するための予兆管理システムであって、
時系列に沿って変動する複数の経済データと前記対象データとを用いて、以下の(1)〜(3)の各工程を実行することにより複数の第1選別データを選別する第1選別手段と;
(1)前記複数の経済データのうちの特定の経済データと前記対象データとの第1時間幅における第1相関値を算出する工程であって、前記特定の経済データを前記対象データに対して第1シフト時間の整数N倍だけ時間的に前方へシフトさせつつ、整数Nが0から正の整数nとなるまでn+1回繰り返してn+1個の前記第1相関値を算出する第1工程、
(2)前記第1工程により算出されたn+1個の第1相関値のうち絶対値が最大のものを最大相関値とし、当該最大相関値に対応する前記整数Nの値をkとした場合において、前記最大相関値の絶対値が予め定められた第1基準相関値以上であり、かつ、前記第1シフト時間のk倍である先行シフト時間が予め定められた第1基準シフト時間以上である場合に当該特定の経済データを第1選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の経済データを非選別とする第2工程、及び、
(3)前記第1工程及び前記第2工程を、前記複数の経済データのうち、前記特定の経済データ以外のすべての経済データについて実行する第3工程、
前記複数の第1選別データと前記対象データとを用いて、以下の(4)〜(6)の各工程を実行することにより複数の第2選別データを選別する第2選別手段と;
(4)前記複数の第1選別データのうちの特定の第1選別データをそれに対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトしたものと前記対象データとの第2時間幅における第2相関値を算出する工程であって、前記第2時間幅の始期を第2シフト時間の整数M倍だけ時間的にシフトさせつつ、整数Mが0から正の整数mとなるまでm+1回繰り返してm+1個の第2相関値を算出する第4工程、
(5)前記第4工程により算出されたm+1個の第2相関値の絶対値のいずれもが、予め定められた第2基準相関値以上である場合に当該特定の第1選別データを第2選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の第1選別データを非選別とする第5工程、及び、
(6)前記第4工程及び前記第5工程を、前記複数の第1選別データのうち、前記特定の第1選別データ以外のすべての第1選別データについて実行する第6工程、
前記複数の第2選別データを用いて、以下の(7)〜(8)の各工程を実行することにより前記複数の第2選別データを合成する合成手段と;
(7)前記複数の第2選別データを、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトする第7工程、及び、
(8)前記第7工程で得られた、各々に対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトされた前記複数の第2選別データの各々の値を標準化した上で合成して合成データを生成する第8工程
を有し、
前記第8工程で生成された合成データに基づき、前記対象データの将来予測値を算出する予兆管理システムも趣旨の1つとする。
【0066】
(趣旨8)時系列に沿って変動する複数の経済データと時系列に沿って変動する対象データとを用いて、以下の(1)〜(3)の各工程を実行することにより複数の第1選別データを選別する第1選別工程;
(1)前記複数の経済データのうちの特定の経済データと前記対象データとの第1時間幅における第1相関値を算出する工程であって、前記特定の経済データを前記対象データに対して第1シフト時間の整数N倍だけ時間的に前方へシフトさせつつ、整数Nが0から正の整数nとなるまでn+1回繰り返してn+1個の前記第1相関値を算出する第1工程、
(2)前記第1工程により算出されたn+1個の第1相関値のうち絶対値が最大のものを最大相関値とし、当該最大相関値に対応する前記整数Nの値をkとした場合において、前記最大相関値の絶対値が予め定められた第1基準相関値以上であり、かつ、前記第1シフト時間のk倍である先行シフト時間が予め定められた第1基準シフト時間以上である場合に当該特定の経済データを第1選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の経済データを非選別とする第2工程、及び、
(3)前記第1工程及び前記第2工程を、前記複数の経済データのうち、前記特定の経済データ以外のすべての経済データについて実行する第3工程、
前記複数の第1選別データと前記対象データとを用いて、以下の(4)〜(6)の各工程を実行することにより複数の第2選別データを選別する第2選別工程;
(4)前記複数の第1選別データのうちの特定の第1選別データをそれに対応する先行シフト時間だけ時間的に前方へシフトしたものと前記対象データとの第2時間幅における第2相関値を算出する工程であって、前記第2時間幅の始期を第2シフト時間の整数M倍だけ時間的にシフトさせつつ、整数Mが0から正の整数mとなるまでm+1回繰り返してm+1個の第2相関値を算出する第4工程、
(5)前記第4工程により算出されたm+1個の第2相関値の絶対値のいずれもが、予め定められた第2基準相関値以上である場合に当該特定の第1選別データを第2選別データとして選別し、それ以外の場合に当該特定の第1選別データを非選別とする第5工程、及び、
(6)前記第4工程及び前記第5工程を、前記複数の第1選別データのうち、前記特定の第1選別データ以外のすべての第1選別データについて実行する第6工程、
を有する経済データの選別方法も趣旨の1つとする。