(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-30986(P2020-30986A)
(43)【公開日】2020年2月27日
(54)【発明の名称】RF空洞に加速電場を高速で立ち上げる方法
(51)【国際特許分類】
H05H 7/02 20060101AFI20200131BHJP
H05H 9/04 20060101ALI20200131BHJP
H05H 9/00 20060101ALI20200131BHJP
【FI】
H05H7/02
H05H9/04
H05H9/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-156295(P2018-156295)
(22)【出願日】2018年8月23日
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093816
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】方 志高
(72)【発明者】
【氏名】福井 佑治
(72)【発明者】
【氏名】杉村 高志
(72)【発明者】
【氏名】二ツ川 健太
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA04
2G085AA06
2G085AA18
2G085BA05
2G085BA19
2G085CA02
2G085CA13
2G085CA15
2G085CA17
2G085CA24
2G085CA26
2G085EA07
(57)【要約】
【課題】一台のRF源を用いて、二つの特性が異なるRF空洞に高速で所定の電場を形成する、「RF空洞に加速電場を高速で立ち上げる方法」を提供する。
【解決手段】本発明は、第一RF空洞及びチューナーを有する第二RF空洞と、それら特性が異なるRF空洞に加速電場を形成させる一台のRF源を備える高周波加速器において、
RF空洞の起動時に、両RF空洞の共振周波数を検出し、RF電力のRF周波数を、検出にて得た共振周波数のいずれか一方に一致させるよう変調しRF電力を出力し、チューナーを制御して、両RF空洞の共振周波数を同じにすることで、第一RF空洞及び第二RF空洞の共振周波数とRF電力のRF周波数を同じにして両RF空洞からの反射電力を低減させることで、RF源から出力されるRF電力及びRF周波数を所定値に短時間で到達させ、両RF空洞の加速電場を高速に所定の電場に形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一RF空洞及びチューナーを有する第二RF空洞と、特性が異なる前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に、駆動電力であるRF電力をRF周波数で出力、供給することで、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に加速電場を形成させる一台のRF源を備える高周波加速器において、
前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の起動時に、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の両方の共振周波数を検出し、
前記RF源から前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に出力する前記RF電力の前記RF周波数を、前記検出にて得た前記共振周波数のいずれか一方に一致させるよう変調し、変調した周波数である変調周波数で、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に前記RF電力を出力するとともに、
前記チューナーを制御して、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の共振周波数を同じにすることで、
前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の共振周波数と前記RF電力の前記RF周波数を同じにし、
前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞からの反射電力を低減させることで、
前記RF源から出力され、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞を駆動する前記RF電力及び前記RF周波数を所定値に短時間で到達させ、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の加速電場を高速に所定の電場に形成することを特徴とする
RF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
【請求項2】
前記第一RF空洞がRFQ空洞で、前記第二RF空洞がDTL空洞であることを特徴とする
請求項1に記載のRF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
【請求項3】
前記共振周波数の検出を、QL値が高い前記RF空洞から行うことを特徴とする請求項1に記載のRF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
【請求項4】
前記加速電場高速立ち上げ方法が、BNCT陽子加速器に利用される場合においては、前記QL値が高いRF空洞が、前記DTL空洞であることを特徴とする請求項3に記載のRF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一台のRF源を用いて、二つの特性が異なるRF空洞を駆動するRF電力とRF電力の出力周波数であるRF周波数をそれぞれの所定の値に高速で到達させ、RF空洞に所定の電場を形成する、「RF空洞に加速電場を高速で立ち上げる方法」に関する。
【背景技術】
【0002】
一.BNCT陽子加速器におけるRF空洞について
特許文献1に示すように、中性子捕捉療法(BNCT)に用いる高周波加速器(ここでは、BNCT陽子加速器)におけるRF空洞はRFQ(Radio Frequency Quadrupole Linac:高周波4重極型リニアック)空洞と、DTL(Drift Tube Linac:ドリフトチューブリニアック)空洞の二種類のRF空洞で構成され、その二つのRF空洞は構成と特性が大きく異なっている。
【0003】
構成面では、RFQ空洞とDLT空洞(以下、単に「それらRF空洞」ともいう)に備えられている共振周波数調整システムが異なっている。RFQ空洞の共振周波数調整システムは冷却水循環システムを用いて水温で共振周波数を調整する。一方、DTL空洞の共振周波数調整システムは冷却水循環システムと可動式機械チューナーを用いて共振周波数を調整する。
【0004】
他方、RFQ空洞とDLT空洞の高周波の特性面では、主に次のような違いがある。
(1)
二つのRF空洞は、負荷品質係数(loaded quality factor、以下「Q
L値」という)が大きく異なっている。Q
L値が大きいほうが、RF空洞の周波数帯域は狭くて、消耗電力は少ない。
RFQ空洞のQ
L値は約3500で、DTL空洞のQ
L値は約16000でRFQ空洞のQ
L値の約5倍である。またQ
L値が大きく異なっていることから、Q
L値に関連するすべての特性が大きく異なっている。例えば、RF空洞自身の消費電力の割合、RF空洞のRF立上げ時の充填時間(filling time)などが大きく異なっている。
(2)
二つのRF空洞は、ビームに対しての機能と負荷も大きく異なっている。
RFQ空洞の加速電場はビームを加速しながらbunchingする。DTL空洞の加速電場はビームを加速するだけである。
さらに、二つのRF空洞は、ビームに与えるエネルギー及びビーム負荷が異なっている。RFQ空洞はビームを3MeVまで加速し、ピーク電流50mAの場合のビーム負荷は150kWである。一方、DTL空洞はビームを更に8MeVまで加速するので、50mAの場合にビーム負荷は250kWとなる。
【0005】
二.RFQ空洞とDTL空洞を駆動するRF源について
特性の異なる二つのRF空洞であるFQ空洞とDLT空洞を駆動するRF源は、2台の独立なRF源を用いる場合と、一台のRF源で行う場合がある。それぞれの利点と欠点を表1にまとめた。
【0006】
【表1】
【0007】
通常の加速器研究開発では、複数の特性が異なるRF空洞は、各々独立したRF源で駆動することが一般的である。特に、RFQ空洞とDTL空洞の特性は大きく異なっていることから、2台の独立したRF源が必要であるということが今までの常識的な考えであった。
【0008】
しかし、BNCT陽子加速器は、大型科学研究施設用ではなく、将来的に多くの医療機関に普及することを目指しているため、できるだけ低コストで、高性能であることが望まれる。
【0009】
従って、低コストと高性能の両立は重要課題で、BNCT陽子加速器では敢えて一台のRF源で二つのRF空洞を駆動する構成を採用し、医療用高周波加速器としての実現性を最優先にすることにした。
【0010】
三.加速電場立ち上げ制御について
一台のRF源で、二つのRF空洞に、RF電源をRF周波数で供給して加速電場を形成する場合に、LLRF制御に多くの課題がある。特に、加速電場立ち上げ時の制御は非常に重要で、医療利用できる高周波加速器の要求を満たす性能を実現しなければならない。
【0011】
医療用高周波加速器の加速電場立ち上げについて、基本的な要求は二つある。
一つは、加速電場立ち上げの際、それらのRF空洞からの反射電力を同時にできるだけ最小に抑えなければならないことである。
そうしないと、どちらの一方から大きな反射電力があった場合に、設備の重故障を避けるための自動インターロック保護システムが作動し、立ち上げ失敗となり、途中で終了してしまうためである。
【0012】
もう一つは、加速電場立ち上げの所要時間をできるだけ短くしなければならないことである。目標は5分間以内である。
そうしないと、治療中に加速器運転再開が必要な場合に、患者の待ち時間が長くなって、医療用治療装置としての条件を満たさなくなる。
【0013】
一方、RFQ空洞とDTL空洞の特性は大きく異なっているから、加速電場立ち上げの際に、それらRF空洞の温度と共振周波数は、時間の経過に伴い、それぞれ異なる変化を示し、一般的なLLRFの手法では、上記の二つの要求を満たすのは非常に困難である。
従って、加速電場立ち上げの制御について、一台のRF源で二つのRF空洞を駆動する場合、二台の場合よりも、より正確かつ精密な制御システムの開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−95553
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、一台のRF源を用いて、二つの特性が異なるRF空洞を駆動するRF電力とRF電力の出力周波数であるRF周波数をそれぞれの所定の値に高速で到達させ、RF空洞に所定の電場を形成する、「RF空洞に加速電場を高速で立ち上げる方法」を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)
第一RF空洞及びチューナーを有する第二RF空洞と、特性が異なる前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に、駆動電力であるRF電力をRF周波数で出力、供給することで、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に加速電場を形成させる一台のRF源を備える高周波加速器において、
前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の起動時に、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の両方の共振周波数を検出し、
前記RF源から前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に出力する前記RF電力の前記RF周波数を、前記検出にて得た前記共振周波数のいずれか一方に一致させるよう変調し、変調した周波数である変調周波数で、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞に前記RF電力を出力するとともに、
前記チューナーを制御して、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の共振周波数を同じにすることで、
前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の共振周波数と前記RF電力の前記RF周波数を同じにし、
前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞からの反射電力を低減させることで、
前記RF源から出力され、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞を駆動する前記RF電力及び前記RF周波数を所定値に短時間で到達させ、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の加速電場を高速に所定の電場に形成することを特徴とする
RF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
(2)
前記第一RF空洞がRFQ空洞で、前記第二RF空洞がDTL空洞であることを特徴とする
(1)に記載のRF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
(3)
前記共振周波数の検出を、Q
L値が高い前記RF空洞から行うことを特徴とする(1)に記載のRF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
(4)
前記加速電場高速立ち上げ方法が、BNCT陽子加速器に利用される場合においては、前記Q
L値が高いRF空洞が、前記DTL空洞であることを特徴とする(3)に記載のRF空洞に加速電場を高速で立ち上げ方法。
とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記構成であるので、次の効果を奏する。
本発明の方法では
(一)従来法に比して、4−10倍も短く(3−5分に短縮)、加速電場を高速に立ち上げることが可能となる。
(二)RFQ空洞とDTL空洞など異なる複数の型のRF空洞を有する高周波加速器に対し、一台のRF源でRF電力供給が可能になる。
(三)加速電場立ち上げの時、RFQ空洞とDTL空洞の共振周波数とRF源の出力RF周波数は同じであり、それらRF空洞からの反射電力を極めて少ないレベルに維持することができる。その結果、高周波加速器の運転維持は容易になるし、高周波加速システム全体(RF源、RF dummy loadなど)に対する負荷は最少となり、機器故障確率も低減するので、高周波加速器システム全体は長寿命になる。
(四)加速電場立ち上げの時、入口水温は一定でも高速で立ち上げが可能となる。
(五)RF源とLLRF制御はそれぞれ一台で、建設費用は約半分になり、敷地もコンパクトになり、高周波加速器は小型化できる。
との効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、BNCT陽子加速器におけるRF源、RF空洞、LLRFシステムの配置図、及び加速電場立ち上げ周波数制御方式の説明図であり、(1)従来技術と(2)本発明の対比説明図である。
【
図2】
図2は、加速電場立ち上げ時間について、(1)従来技術と(2)本発明との比較試験結果である。
【
図3】
図3は、本発明におけるRF空洞の停止時間の長短と、加速電場立ち上げ時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、従来技術と対比しながら、詳細に説明する。なお、本発明は下記形態例に限定されるものではない。
【0020】
・従来技術
加速電場を所定の値に立ち上げる従来技術は、
図1(1)に示すように、「RF空洞の共振周波数を加速器運転周波数f
0に維持しながら、徐々にRF源の出力RF電力を上げる」方法であった。
なお、
図1の記号の意味は次の通りである。
f
0:加速器運転周波数
f
1:RFQ共振周波数
f
2:DTL共振周波数
f
rf:RF源の出力RF周波数
【0021】
従来技術では、RFQ空洞3及びDTL空洞4の立ち上げの際は、加速器運転周波数f
0を持つ一台のRF源2から、徐々に、RF源の出力RF電力を上げて、それらRF空洞に与える。そうすると、それらRF空洞が昇温するので、それらRF空洞に付いている共振周波数調整システムを使って、それらRF空洞のRFQ共振周波数f
1及びDTL共振周波数f
2を、共に、加速器運転周波数f
0に近づけていく。
【0022】
RFQ空洞3は冷却水6の入口水温を調整することで、RFQ共振周波数f
1を加速器運転周波数f
0に維持する。一方、DTL空洞4は冷却水6の入口水温調整とチューナー5の調整で、DTL共振周波数f
2を加速器運転周波数f
0に維持する。
【0023】
このような調整を行うことで、それらRF空洞からの反射電力をある設定した閾値の以内に維持しながら、少しずつRF源の出力RF電力を高めていく必要がある。冷却水6を提供する冷却水循環システムは、一回の温度調整に相当時間がかかるため、通常水温から目標水温まで安定するには10分以上必要である。
【0024】
従って、RF源2は時間をかけて、少しずつ出力RF電力を高めいくしかない。そうしないと、共振周波数の維持が間に合わない。実際BNCT陽子加速器では、この従来の方法を使って要求された出力までにRFを立ち上げるのに、約20分〜30分ぐらいの時間が必要である。
【0025】
故に、従来技術の方法では、加速電場立ち上げの時間がかかるため、医療用の施設としての要求を満たすことができない。その問題を解決しないと、BNCT陽子加速器は最終的に普及可能な信頼できる医療装置に至らない。
【0026】
ここで、従来技術を整理すると、
BNCT陽子加速器のような高周波加速器において、一台のRF源を用いて、二つの特性が異なる第一RF空洞(RFQ空洞)、チューナーを備える第二RF空洞(DTL空洞)に加速電場を所定の値に到達させる立ち上げ方法であって、
前記RF源から前記第一RF空洞及び第二RF空洞に前記高周波加速器の加速器運転周波数を持つ加速電場を供給し、
前記第一RF空洞及び前記第二空洞が共振するように、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の冷却水の水温及びチューナーを調整することで、前記第一RF空洞及び前記第二空洞からの反射を低減させる共振調整工程を経た後、
前記RF源の出力RF電力を上げて前記前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の温度を上昇させることで前記共振にズレを生じさせ昇温工程を行い、
再び、前記前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞が共振するように、前記第一RF空洞及び前記第二RF空洞の前記冷却水の水温及び前記チューナーを調整し、前記第一RF空洞及び前記第二空洞からの反射を低減させる再共振調整工程を経る、
一連の前記共振調整工程、昇温工程、再共振調整工程を、
前記RF源の出力RF電力が所定の値に到達するまで繰り返す、立ち上げ方法を採用していた。
【0027】
RF空洞の温度調整は、水冷機構であり、水の温度を設定してからRF空洞の温度が安定するまで数分以上かかる。従来技術における、上記繰り返しサイクルは数十サイクル必要であり、20分から30分の立ち上げ時間を要している。医療用高周波加速器などでは患者を待たせる必要があるなど著しい時間的損失が避けられない。
【0028】
・本発明
他方、本発明は、
図1(2)に示すように、主に、BNCT用に「二つの特性が異なるRF空洞に対して、一台のRF源の出力RF周波数変調よるRF空洞の加速電場早い立ち上げ方法」という新しい技術を開発した。
具体的には、RFQ空洞3及びDTL空洞4の立ち上げの際は、Q
L値が高いRF空洞、BNCT陽子加速器ではDTL空洞4の共振周波数f
2を検出して、RF源の出力RF周波数f
rfをDTL共振周波数f
2に変調し、それらRF空洞に出力する。同時にDTL空洞4のチューナー5を調整して、DTL空洞4のDTL共振周波数f
2をRFQ共振周波数f
1にする。
そうすると、それらRF源の出力RF周波数f
rfとDTL空洞の共振周波数f
2とRFQ空洞の共振周波数f
1、その三つの周波数は同じになるため、それらRF空洞からの反射電力は同時に最小に維持できる。その理由は、RF電力はRF空洞に入る時、そのRF電力のRF周波数により、RF空洞内で形成した加速電場と、RF空洞からの反射電力が変わる。RF周波数はRF空洞の共振周波数で、RF空洞内に形成した電場は最大となり、RF空洞からの反射電力は最小となる。
従って、RF源の出力RF電力が所定の値に到達する時間を大幅に短縮することが可能となる。
本発明の方法によれば、立ち上げ中も冷却水入口温度は一定のままでよく、その点からも、加速電場高速立ち上げが可能である。
【0029】
そして、BNCT陽子加速器の立ち上げ試験では、冷却水6の入口水温を一定にして、本発明の新しい加速電場立ち上げの方法を適用すると、加速電場立ち上げの時間は、従来の20分〜30分から、3分〜5分に短縮することができた。
この新しいRFの立ち上げの方法である本発明は、現時点で同類の高周波加速器において、はじめての研究開発、実用例である。
【実施例1】
【0030】
図2に、(1)従来技術と、(2)本発明を適用したBNCT陽子加速器における加速電場立上げの試験結果を示した。
【0031】
図2の記号の意味は次の通りである。
pf_kly:RF源(ここではklystron)の出力RF電力
Pr_RFQ:RFQ空洞からの反射電力
Pr_DTL:DTL空洞からの反射電力
Dfrq_DTL=f
2−f
0
Dfrq_RFQ=f
1−f
0
f
0:加速器運転周波数
f
1:RFQ共振周波数
f
2:DTL共振周波数
【0032】
試験条件は、加速器の運転繰り返しは50Hz、RF幅は1ms、RF源の出力RF電力の所定値は850kW、加速器運転周波数(f
0)は324MHzである。
【0033】
従来技術では、(1)のグラフに、RF源の出力RF電力が、縦軸0から所定値まで、つまり、加速電場立上げ所要時間は20〜30分であった。他方、本発明では、(2)のグラフに、RF源の出力RF電力が0から所定値まで、また両空洞(RFQ空洞とDTL空洞)の共振周波数f1及びf2が加速器運転周波数f
0と一致するまで、すなわち、縦軸において、Dfrq_RFQ=f
1−f
0=0、Dfrq_DTL=f
2−f
0=0になるまで
、つまり、加速電場立上げ所要時間は3〜5分に短縮され、加速電場高速立ち上げ方法であることがわかる。
【実施例2】
【0034】
グラフに、RF源の出力RF電力が0(縦軸)から所定値まで、また両空洞(RFQ空洞とDTL空洞)の共振周波数が加速器運転周波数と一致(特にDTL空洞の共振周波数が加速器運転周波数と一致)なったころから、つまり、加速電場立ち上げ時間は、2分50秒であることがわかる。
【0035】
図3の記号の意味は次の通りである。
Dfrq_RFQ=f
1−f
0
Dfrq_DTL=f
2−f
0
その中
f
0:加速器運転周波数
f
1:RFQ共振周波数
f
2:DTL共振周波数
pf_kly/10:RF源(ここではklystron)の出力RF電力の10分の1という
Pr_RFQ:RFQ空洞からの反射電力
Pr_DTL:DTL空洞からの反射電力
【0036】
試験条件は、加速器の運転繰り返しは50Hz、RF幅は1ms、RF源の出力RF電力の所定値は850kW、加速器運転周波数(f
0)は324MHzである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、医療用分野において、低コスト、省スペースで、医療用高周波加速器を提供することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 LLRFシステム
2 RF源
3 RFQ空洞
4 DTl空洞
5 チューナー
6 冷却水