【解決手段】Mg、及び、Znからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含有する基材と、上記基材の少なくとも一部を覆うように配置された上記金属の酸化物、及び、上記金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物aを含有する、被覆層と、所定の繰り返し単位を有し、アニオン性置換基で修飾された重合体Aを含有する重合体層と、をこの順に有する積層体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものとともに置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(ポリ)オキシアルキレン」はオキシアルキレン、及び、ポリオキシアルキレンの双方、又は、いずれかを表す。
【0012】
[積層体]
本発明の実施形態に係る積層体は、Mg、及び、Znからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含有する基材と、上記基材の少なくとも一部を覆うように配置された上記金属の酸化物、及び、上記金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物aを含有する、被覆層と、後述する式1で表される繰り返し単位を有し、アニオン性置換基で修飾された重合体Aを含有する重合体層と、をこの順に有する積層体である。
【0013】
上記積層体により本発明の課題を解決することができる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序によらず、本発明の課題が解決される場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。言い換えれば、本発明の積層体が課題を解決する機序は以下に制限されない。
【0014】
本発明の実施形態に係る積層体は、基材と、基材の少なくとも一部を覆うように配置された被覆層とを有する被覆層付き基材上に、所定の繰り返し単位を有し、アニオン性置換基で修飾された重合体Aを含有する重合体層を有する。
上記積層体が、本発明の効果を奏する機序を
図1〜4を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る積層体100の断面図を表す。積層体100は、所定の金属を含有する基材101と、基材上に形成された上記金属の酸化物、及び、水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物aを含有する被覆層102と、被覆層102上に配置された上記化合物aとは異なる無機化合物bを含有する無機化合物層103と、無機化合物層103上に配置された重合体層104とを有する、積層体である。
【0016】
なお、
図1においては、基材101の片側の主面に他の層が積層された積層体を示したが、本発明の実施形態に係る積層体としては上記に制限されず、基材の少なくとも一部(基材の表面積の20%以上が好ましく、40%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。)が被覆層によって覆われていればよい。
なお、積層体としては、基材の両側の主面に被覆層を含む他の層が積層された形態であってもよいし、基材の表面の全部に、被覆層を含む他の層が積層された形態であってもよい。
【0017】
ここで、重合体層104は、後述する式1で表される繰り返し単位を有し、アニオン性置換基で修飾された重合体Aを含有する。
【0018】
上記重合体Aは、アニオン性置換基を有するため、無機化合物層103(無機化合物層を有さない形態にあっては被覆層、以下、併せて「下層」ともいう。)が含有する金属原子との間で、イオン結合等に由来して比較的強い相互作用を有する。そのため、本発明の実施形態に係る積層体においては、重合体層と下層との間での剥離(言い換えれば、下層からの重合体Aの脱離)がより生じにくいものと推測される。
【0019】
更に、重合体Aは、式1で表される繰り返し単位を有するため、親水性が高い。そのため、最外層として上記重合体層を有する積層体においては、生体内に留置した際に、(生体)環境中に存在する水分子が重合体層に捕捉されやすく、下層まで達しにくい結果、これらの相乗効果により、埋入初期における基材金属の溶解がより抑制されるものと推測される。
【0020】
本発明者らの検討によれば、特許文献1でポリマー層の材料として具体的に開示された親水性かつ非イオン性のポリマーによれば、下層との結合が配位結合等に由来し、より弱い。従って、上記部材を生体内に埋入した場合に、ポリマー層と下層との間で速やかに剥離が起きることがあり、結果として、意図せず基材の金属が溶解してしまうことがあった。
一方、本発明の実施形態に係る積層体においては、重合体Aはアニオン性置換基を有するため、金属原子との間の相互作用がより強く、埋入初期の剥離がより起きにくいものと推測される。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る積層体を生体内に埋入した(例えば、重合体層104側は体液に暴露している)初期における模式図を表している。本発明の実施形態に係る積層体は、埋入初期(典型的には、埋入後1週間程度)においては金属の溶解がより抑制されているため、基材101は十分な力学強度を維持し、患部の組織の再生のための時間を確保することができる。
【0022】
更に、重合体層104は、親水性の高分子を含有するため、血小板(図中「A」と示した)、及び/又は、タンパク質等の細胞の吸着、及び/又は、接着が抑制される。
例えば、積層体を血管内に留置するステントとして用いた場合、埋入初期に血小板、及び/又は、タンパク質等がステントに接着、及び/又は、吸着すると血管の再狭窄を引き起こすおそれがある。本発明の実施形態に係る積層体は、埋入初期の金属の溶解が抑制される結果、患部の組織の再生のための時間が確保されるとともに、患部への意図しない物質の吸着をも抑制することができる。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に係る積層体を生体内に埋入し、一定期間経過した後の断面模式図を表している。本発明の実施形態に係る積層体を生体内に埋入し、一定期間経過すると、重合体層が徐々に剥離していく。
生体内(典型的には体液中)には、リン酸イオン等が存在し、そのような環境下では、比較的強固に結合されたアニオン性置換基による結合も徐々に解離し、結果として重合体層が剥離していくものと推測される。
【0024】
積層体において、重合体Aが剥離した部分には、リン酸カルシウムが析出し、リン酸カルシムを含有する層105が形成されていく(図中Yの形態)。一方、重合体層104が剥離しなかった部分においても、親水性の重合体層104上に、同様にして、リン酸カルシウムが析出し、リン酸カルシウムを含有する層105が形成されていく(図中Xの形態)。このとき、重合体層と下層との間で剥離が起きると、下層が体液中の水分と接触しやすくなり、基材の溶解が促進される。
【0025】
その後、
図4に示すように、リン酸カルシウムを含有する層105上に血管内皮細胞の接着が促進され、結果として、リン酸カルシウムを含有する層105上に血管内皮細胞層106が形成される。この段階に至ると、上記ステントは溶解、及び/又は、生体組織と一体化して、消失する。
【0026】
上記において説明したとおり、本発明の実施形態に係る積層体は、埋入初期においては、金属の溶解がより抑制されることにより、結果として、患部が治癒するまでの間、積層体が十分な力学強度を有する。
また、埋入後には、重合体層における重合体Aが徐々に剥離していくため、結果として基材が徐々に溶解していく。これにより、患部が治癒するに従い基材は溶解していき、最終的には消失する。
【0027】
以下では、本発明の実施形態に係る積層体が有する各部材について詳述する。
【0028】
〔基材〕
本発明の実施形態に係る積層体が有する基材としては特に制限されず、Mg、及び、Znからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含有していれば、
生体内吸収性材料として公知の基材を用いることができる。
上記基材は、Mg、及び、Znからなる群より選択される少なくとも1種の金属(以下、「特定金属」ともいう。)を含有するため、基材は優れた生体適合性、優れた力学強度、及び、優れた溶解性を有する。
【0029】
上記基材は、Mg、及び、Znからなる群より選択される少なくとも1種を含有していれば、Mg、又は、Znの単体であってもよいが、Mg、及び/又は、Znと他の金属とを含有する合金が好ましい。なお、合金の組織としては特に制限されず、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、及び、これらの共存するもののいずれであってもよい。
【0030】
他の金属としては特に制限されないが、Ca、Mn、Bi、Cu、Al、Re、及び、希土類元素(Sc、及び、Yを含む)等が挙げられる。なかでも、基材がより優れた力学強度を有する点で、他の金属としては、希土類元素、Al、Bi、及び、Mnからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、Mn、及び、Biからなる群より選択される少なくとも1種を含有することがより好ましい。
【0031】
なお、生体内に留置した際に、基材の溶解速度をより制御しやすい点で、基材は、Tiを実質的に含有しないことが好ましい。なお、Tiを実質的に含有しないとは、基材の全質量に対して、Tiの含有量が1.0質量%以下であることを意味し、0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましく、0.001質量%以下が更に好ましい。
【0032】
基材の材料としては特に制限されないが、例えば、AZ系(Mg−Al−Zn)、WE系(Mg−Y−Re)、特開2016−17183号公報、国際公開第2007/058276号、及び、国際公開第2017/154969号に記載された材料が使用でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0033】
基材の厚みとしては特に制限されず、用途に応じて適宜選択可能である。特に制限されないが、例えば、血管内に留置して用いるステントである場合、基材の厚みとしては、一般に、0.005〜1.0mmが好ましい。
基材の形状、及び、大きさとしては特に制限されず、用途に応じて適宜選択可能である。形状としては、平板状であってもよいし、平板を又は円筒をくりぬいて形成した網目状であってもよい。
例えば、本発明の実施形態に係る積層体をステントとして用いる場合、積層体は、ステントを構成するフレーム(以下、「ストラット」ともいう。)として用いることもできる。
【0034】
〔被覆層〕
本発明の実施形態に係る積層体は、基材上に、基材の少なくとも一部を覆うように配置された基材に含有されるのと同様の金属の酸化物、及び、基材に含有されるのと同様の金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物aを含有する被覆層を有する。
上記被覆層は、基材を保護する機能を有し、積層体を生体内に埋入した場合に、初期における金属成分の溶出をより抑制することができる。
【0035】
被覆層は、基材に含有されるのと同様の金属の酸化物、及び、基材に含有されるのと同様の金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有すればよいが、基材が2種以上の金属を含有する場合、被覆層としては、基材が含有する金属の少なくとも一方の酸化物、及び/又は、水酸化物を含有していればよく、2種以上の金属の酸化物、及び/又は、水酸化物を含有していてもよい。
【0036】
化合物aとしては、Mg(OH)
2、Zn(OH)
2、MgO、及び、ZnOからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
また、化合物aとしては上記加えて、Ca(OH)
2、Mn(OH)
2、Fe(OH)
2、Fe(OH)
3、Cu(OH)
2、La(OH)
3、Al(OH)
3、CaO、MnO、FeO、Fe
2O
3、CuO、La
2O
3、及び、Al
2O
3からなる群より選択される少なくとも1種を併せて使用してもよい。
【0037】
被覆層の厚みとしては特に制限されないが、一般に、0.1〜5000nmが好ましく、10〜2000nmがより好ましく、20〜1000nmが更に好ましい。被覆層の厚みが上記範囲内である積層体は、基材と重合体層とがより優れた密着性を有する、及び/又は、基材と後述する無機化合物層とがより優れた密着性を有する。
【0038】
〔重合体層〕
本発明の実施形態に係る重合体層は、式1で表される繰り返し単位を有し、アニオン性置換基で修飾された重合体Aを含有する。
【0040】
式1中、Rは、置換基を有していてもよい、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基又はアルケニレン基を表す。言い換えれば、Rは、直鎖状のアルキレン基、分岐鎖状のアルキレン基、直鎖状のアルケニレン基、及び、分岐鎖状のアルケニレン基からなる群より選択される少なくとも1種を表す。
なお、重合体Aは、上記繰り返し単位の1種を単独で有していてもよいし、2種以上を併せて有していてもよい。その際、2種以上の繰り返し単位の配列は特に制限されず、ランダム、交互、ブロック、及び、これらの組み合わせ等のいずれであってもよい。
【0041】
Rが有していてもよい置換基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが挙げられ、中でもより優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、ヒドロキシ基、及び、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。
ヘテロ原子としては特に制限されないが、O、N、S、及び、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0042】
Rのアルキレン基の炭素数としては特に制限されないが、一般に1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜4が更に好ましく、2〜4が特に好ましい。
アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、及び、オクチレン基等が挙げられ、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、及び、ブチレン基等が好ましく、エチレン基、又は、プロピレン基がより好ましく、エチレン基が更に好ましい。
【0043】
Rのアルケニレン基の炭素数としては特に制限されないが、一般に2〜20が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜4が更に好ましい。
アルキレン基としては、例えば、エテニレン基、プロペニレン基、及び、ブテニレン基等が挙げられる。
【0044】
重合体Aはアニオン性置換基で修飾されている。本明細書において、アニオン性置換基で修飾されているとは、重合体Aが、アニオン性置換基を有していることを意味し、重合体Aがアニオン性置換基を有する形態としては、すでに説明した式1表される繰り返し単位(以下「単位1」ともいう。)が有する水素原子、又は、単位1が有する1価の基がアニオン性置換基で置き換えられた形態が挙げられる。
【0045】
また、重合体Aがアニオン性置換基を有する形態としては、重合体Aの少なくとも1つの末端にアニオン性置換基が結合されてなる形態も好ましい。上記形態である重合体Aは、アニオン性置換基を下層側に、単位1を含む高分子鎖を積層体の外側に向けて整列しやすく、より優れた本発明の効果が得られやすい。
【0046】
なお、本明細書において、アニオン性置換基とは各アニオンの解離定数pKaより高いpHで90%以上解離するプロトン解離性酸性基が挙げられる。アニオン性置換基としては、例えば、ホスホン酸基(−PO(OH)
2)、リン酸基(−OPO(OH)
2)、ピロリン酸基、チオリン酸基、カルボキシ基、及び、スルホン酸基等が挙げられる。
【0047】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、アニオン性置換基としては、ホスホン酸基、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、及び、カルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ホスホン酸基、リン酸基、及び、カルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
なお、アニオン性置換基は、金属塩を形成していてもよく、対イオンとなる金属イオンとしては特に制限されないが、基材に含有される金属としてすでに説明したものが好ましい。
【0048】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、重合体Aとしては、式1中Rが、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基であり、少なくとも1つの末端に、すでに説明したアニオン性置換基(より好ましくは、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホン酸基、リン酸基、又は、これらの塩、更に好ましくは、ホスホン酸基、リン酸基、又は、これらの塩)が結合されてなる重合体A1が好ましい。
このとき、Rのアルキレン基が有していてもよい置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、及び、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0049】
また、重合体A1は、上記アニオン性置換基が結合した末端以外の末端に以下の置換基を有していてもよく、また、式1中のRが以下の置換基であるか、又は、以下の置換基を有する基であってもよい。
上記置換基としてとしては、例えば、RGDモチーフ(アルギニンーグリシンーアスパラギン酸(Arg−Gly−Asp)配列)等の細胞接着に関係するアミノ酸配列;シロリムス(Sirolimus)、及び、パクリタキセル(Paclitaxel)等の平滑筋増殖抑制の薬剤;内皮化促進ペプチド;ヘパリン、低分子ヘパリン、アルガトロバン、ダナパロイドナトリウム、及び、フォンダパリヌクス等の抗凝固薬;等が挙げられる。
【0050】
重合体Aの分子量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、一般に500以上が好ましく、2000以上がより好ましく、3000以上がより好ましく、5000以上が更に好ましく、1000000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、10000以下が更に好ましい。
【0051】
重合体層中の重合体Aの含有量としては特に制限されないが、重合体層の全質量に対して、1〜100質量%であることが好ましい。
重合体Aは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合体Aの2種以上を併用する場合には、2種以上の重合体Aの合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0052】
重合体層の厚みとしては特に制限されないが、一般に、0.1〜10000nmが好ましく、0.2〜5000nmがより好ましく、0.2〜500nmが更に好ましい。
【0053】
<その他の成分>
重合体層は、上記重合体A以外の重合体を更に有していてもよい。重合体A以外の重合体としては特に制限されないが、よりすぐれた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、アニオン性置換基を有さないポリアルキレングリコール(重合体B)が好ましい。
重合体Bを含有する積層体がより優れた本発明の効果を有する機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。
【0054】
上記重合体Bはアニオン性置換基を有さないため、下層の金属原子(又はイオン)とヒドロキシ基による配位結合、及び/又は、ヒドロキシ基同士の水素結合による相互作用により下層との接着性が発揮される。
上記相互作用は、イオン結合を主体とする重合体Aよりも相対的に小さく、結果として、積層体を生体内に埋入した後、重合体層が剥離する速度をより制御しやすくなったものと推測される。
【0055】
また、ポリアルキレングリコールは、重合体Aとの相溶性も高く、重合体A及び重合体Bを含有する重合体層を形成しやすい点でも好ましい。
なお、重合体Bのアルキレン基としては特に制限されないが、炭素数1〜20のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜10のアルキレン基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基が更に好ましく、炭素数2〜4のアルキレン基が特に好ましい。
【0056】
より具体的には、重合体Bとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び、ポリテトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0057】
重合体層が重合体Bを含有する場合、重合体層中における重合体Bの含有量としては特に制限されないが、一般に、1〜50質量%が好ましい。
また、重合体Bの分子量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、500〜1000000が好ましい。
【0058】
重合体層が、重合体A、及び、重合体Bを含有する場合それぞれの重合体の下層から脱離しやすさが異なると考えられるため、上記積層体はより優れた本発明の効果を有する。
すなわち、埋入初期(1週間程度)は、アニオン性置換基を有する重合体Aによる金属の溶解抑制効果、細胞接着抑制効果、及び、血栓の形成抑制効果と、重合体Bの、細胞接着抑制効果、及び、血栓の形成抑制効果とが発揮され、患部の治癒が促進されやすい。
【0059】
〔その他の層〕
本発明の実施形態に係る積層体は、本発明の効果を奏する範囲内において上記以外の層を有していてもよい。上記以外の層としては、例えば、化合物aとは異なる無機化合物bを含有する無機化合物層、が挙げられる。
また、陽極酸化、化成処理、水熱処理、めっき、及び、他のポリマー等からなる層が挙げられる。
【0060】
<無機化合物層>
無機化合物層は、すでに説明した化合物aとは異なる無機化合物bを含有する層であり、特に制限されないが、被覆層と、重合体層との間に配置されることが好ましい。無機化合物層を有する積層体は、より優れた本発明の効果を有する。
【0061】
無機化合物bとしては、化合物aと異なる無機化合物であれば特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、及び、フッ化マグネシウム等が挙げられる。
【0062】
無機化合物層の厚みとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、500〜10000nmが好ましく、500〜5000nmがより好ましく、1000〜5000nmが更に好ましい。
なお、無機化合物層を有する積層体は、基材の溶解がより抑制されやすい。
【0063】
(置換基W)
置換基Wとしては、ハロゲン原子、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、及び、ペンタデシル等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、及び、シクロヘキシル等)、アルケニル基(例えば、ビニル、及び、アリル等)、アルキニル基(例えば、エチニル、及び、プロパルギル等)、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環、アリール等ともいい、例えば、フェニル、p−クロロフェニル、メシチル、トリル、キシリル、ナフチル、アントリル、アズレニル、アセナフテニル、フルオレニル、フェナントリル、インデニル、ピレニル、及び、ビフェニリル等)、芳香族へテロ環基(5又は6員環の芳香族へテロ環基が好ましく、また環構成ヘテロ原子は、硫黄原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、ホウ素、及び、セレン原子が好ましく、例えば、ピリジル、ピリミジニル、フリル、ピロリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ピラゾリル、ピラジニル、トリアゾリル(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル、及び、1,2,3−トリアゾール−1−イル等)、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、フラザニル、チエニル、キノリル、ベンゾフリル、ジベンゾフリル、ベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、インドリル、カルバゾリル、カルボリニル、ジアザカルバゾリル(上記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル、ピリダジニル、トリアジニル、キナゾリニル、フタラジニル、ボロール、アザボリン等)、ヘテロ環基(芳香族でないヘテロ環基で、飽和環であっても不飽和環であってもよく、5又は6員環が好ましく、また環構成ヘテロ原子は、硫黄原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、又は、セレン原子が好ましく、例えば、ピロリジル、イミダゾリジル、モルホリル、オキサゾリジル等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ドデシルオキシ等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、ナフチルオキシ等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ペンチルチオ、ヘキシルチオ、オクチルチオ、ドデシルチオ等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ、シクロヘキシルチオ等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、ナフチルチオ等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル、メチルアミノスルホニル、ジメチルアミノスルホニル、ブチルアミノスルホニル、ヘキシルアミノスルホニル、シクロヘキシルアミノスルホニル、オクチルアミノスルホニル、ドデシルアミノスルホニル、フェニルアミノスルホニル、ナフチルアミノスルホニル、2−ピリジルアミノスルホニル等)、
【0064】
アシル基(例えば、アセチル、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、ペンチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、オクチルカルボニル、2−エチルヘキシルカルボニル、ドデシルカルボニル、アクリロイル、メタクリロイル、フェニルカルボニル、ナフチルカルボニル、ピリジルカルボニル等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、エチルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、オクチルカルボニルオキシ、ドデシルカルボニルオキシ、フェニルカルボニルオキシ等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ、エチルカルボニルアミノ、ジメチルカルボニルアミノ、プロピルカルボニルアミノ、ペンチルカルボニルアミノ、シクロヘキシルカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ、オクチルカルボニルアミノ、ドデシルカルボニルアミノ、フェニルカルボニルアミノ、ナフチルカルボニルアミノ等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル、メチルアミノカルボニル、ジメチルアミノカルボニル、プロピルアミノカルボニル、ペンチルアミノカルボニル、シクロヘキシルアミノカルボニル、オクチルアミノカルボニル、2−エチルヘキシルアミノカルボニル、ドデシルアミノカルボニル、フェニルアミノカルボニル、ナフチルアミノカルボニル、2−ピリジルアミノカルボニル等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド、エチルウレイド、ペンチルウレイド、シクロヘキシルウレイド、オクチルウレイド、ドデシルウレイド、フェニルウレイド、ナフチルウレイド、2−ピリジルアミノウレイド等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、ブチルスルフィニル、シクロヘキシルスルフィニル、2−エチルヘキシルスルフィニル、ドデシルスルフィニル、フェニルスルフィニル、ナフチルスルフィニル、2−ピリジルスルフィニル等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、ブチルスルホニル、シクロヘキシルスルホニル、2−エチルヘキシルスルホニル、ドデシルスルホニル等)、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル、2−ピリジルスルホニル等)、アミノ基(アミノ基、アルキルアミノ基、アルケニルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含み、例えば、アミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、アニリノ、ナフチルアミノ、2−ピリジルアミノ等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル、トリイソプロピルシリル、トリフェニルシリル、フェニルジエチルシリル等)等が挙げられる。
これらの各基は、更に置換基を有していてもよく、この置換基としては上記の置換基が挙げられる。例えば、アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基、アルキル基にヒドロキシ基が置換したヒドロキシアルキル基等が挙げられる。なお、置換基Wが更に複数の置換基を有する場合、複数の置換基同士は互いに結合して環を形成してもよい。
【0065】
〔積層体の用途〕
本発明の実施形態に係る積層体は、生体内に埋入して用いられる医療用インプラントとして用いることができる。本発明の実施形態に係る積層体は、生体内埋入初期における金属成分の溶出がより抑制されるため、埋入初期において基材の機械的強度が低下しにくく、結果として、積層体自体の機械的強度も埋入初期において低下しにくい。
更に、本発明の実施形態に係る積層体によれば、重合体層が含有する重合体Aは、アニオン性置換基を有し、下層との間でイオン結合等に起因する比較的強い相互作用によって結合されうる。従って、埋入初期において、積層体の表面に血栓が形成されるのをより抑制することができる。
典型的には血管用のステントとして上記積層体を用いた場合、血液の細胞成分(例えば白血球等)の積層体への付着、及び/又は、接着が抑制されるものと推測される。
【0066】
上記ステントの場合、典型的には、埋入初期の炎症が治まるまでの1週間程は血小板等の細胞接着を抑制し、その後は血管内皮細胞の接着が促進されることが求められる。本発明の積層体においては、経時的に重合体層が剥離しうるため、結果として、炎症が収まった後、血管内皮細胞の形成が促進される。
【0067】
[積層体の製造方法]
積層体の製造方法としては特に制限されず、公知の方法が適用できる。なかでも、より簡便に本発明の実施形態に係る積層体を製造できる点で、積層体の製造方法は以下の各工程を有することが好ましい。
【0068】
Mg、及び、Znからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含有する基材と、前記基材の少なくとも一部を覆うように配置された前記金属の酸化物、及び、前記金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物aを含有する被覆層と、を有する被覆層付き基材を準備する工程(工程A)。
【0069】
被覆層付き基材を、重合体Aと接触させ、被覆層付き基材上に、重合体Aを含有する重合体層を形成し、積層体を得る工程(工程B)。
【0071】
<工程A>
工程Aは、被覆層付き基材を準備する工程である。本明細書において準備とは、対象物(被覆層付き基材)を原材料を用いて調製(又は作製)することのほか、対象物(被覆層付き基材)を単に調達(例えば、購入)することも含む。
【0072】
工程Aにおいて、被覆層付き基材を得る方法としては特に制限されず、公知の方法が適用できる。
被覆層付き基材を得る方法としては、例えば、基材を大気中で研磨する方法が挙げられる。基材を大気中で研磨することにより、基材上の有機物等が除去され、基材上に被覆層が形成される。なお、この被覆層には、典型的には、基材中の金属の酸化物又は水酸化物が含まれる。
【0073】
更に、研磨した基材を所定期間保管する方法によっても被覆層は形成、及び、維持できる。保管条件としては特に制限されないが、保管温度としては0〜40℃が好ましく、相対湿度としては5〜10%が好ましい。
なお、保管は、大気中、又は、水中のいずれで行ってもよく、保管の際に減圧してもよい。
【0074】
<工程B>
工程Bは、被覆層付き基材を、重合体Aと接触させ、被覆層付き基材上に、重合体Aを含有する重合体層を形成し、積層体を得る工程である。
被覆層付き基材を重合体Aと接触させる方法としては特に制限されず、溶液状に溶解状態の重合体Aと被覆層付き基材とを接触させる方法、及び、重合体Aと溶媒とを含有する組成物(以下、「組成物I」ともいう。)を用いて被覆層付き基材上に重合体層を形成する方法等が挙げられる。
【0075】
なかでも、より簡便に積層体を製造できる点で、工程Bとしては、組成物Iを被覆層付き基材と接触させて、基材上に重合体層を形成する方法が好ましい。
【0076】
被覆層付き基材と組成物とを接触させる方法としては特に制限されず、公知の方法が適用可能である。例えば、組成物を基材に塗布する方法、組成物を基材に噴霧する方法、及び、組成物に基材を浸漬する方法等が挙げられる。
より具体的には、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法(ダイコート法)、又は、マイクログラビアコート法等が挙げられ、なかでも、ディップコート法が好ましい。
【0077】
組成物Iが含有する溶媒としては特に制限されず、水、及び、有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、水がより好ましい。
組成物Iの固形分の含有量としては特に制限されず、重合体層の厚みに応じて適宜選択可能である。
【0078】
ディップコート法により積層体を製造する場合、温度調整された組成物Iに被覆層付き基材を浸漬させる方法であってもよい。この際、組成物Iの温度としては特に制限されず、一般に0〜100℃が好ましい。
また、浸漬時間としては特に制限されず、0.01〜24時間程度が好ましい。
【0079】
本工程は更に必要に応じて上記組成物I層にエネルギを付与する工程を有していてもよい。エネルギとしては典型的には熱エネルギが挙げられ、熱エネルギを付与する工程によれば、重合体層に含有される溶媒をより簡便に除去することができる。
なお、加熱の際の温度としては特に制限されないが、典型的には10〜50℃が好ましく、加熱の時間としては、1分〜24時間が好ましい。
【0080】
[積層体の製造方法の第2実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る積層体の製造方法は、基材と、上記基材の少なくとも一部を覆うように配置された被覆層と、重合体A、及び、重合体Bを含有する重合体層と、をこの順に有する積層体の製造方法である。本積層体の製造方法は、以下の各工程を有する積層体の製造方法である。
【0081】
基材と、基材の少なくとも一部を覆うように配置された被覆層と、を有する被覆層付き基材を準備する工程(工程A2)。
【0082】
被覆層付き基材を重合体Bと接触させ、被覆層付き基材上に、重合体Bを含有する重合体B層を形成し、重合体B層付き基材を得る工程(工程C)。
【0083】
重合体B層付き基材を重合体Aと接触させ、被覆層付き基材上に、重合体A、及び、重合体Bを含有する重合体層を形成し、積層体を得る工程(工程D)。
【0084】
以下、各工程について詳述する。なお、以下において、説明のない事項は、第1実施形態に係る積層体の製造方法と同様である。
【0085】
<工程A2>
工程A2は、被覆層付き基材を準備する工程であり、すでに説明した工程Aと同様の形態である。
【0086】
<工程C>
工程Cは、被覆層付き基材を重合体Bと接触させ、被覆層付き基材上に、重合体Bを含有する重合体B層を形成し、重合体B層付き基材を得る工程である。本工程において、被覆層付き基材上に重合体Bを含有する重合体B層を形成する方法としては特に制限されず、すでに説明した、被覆層付き基材上に重合体Aを含有する重合体層を形成する方法において、重合体Aに代えて重合体Bを用いる方法が挙げられる。
【0087】
<工程D>
工程Dは、重合体B層付き基材を重合体Aと接触させ、被覆層付き基材上に、重合体A、及び、重合体Bを含有する重合体層を形成し、積層体を得る工程である。
【0088】
重合体B層付き基材を重合体Aと接触させる方法としては特に制限されず、溶解状態の重合体Aと、重合体B層付き基材と、を接触させる方法、及び、重合体Aと溶媒とを含有する組成物(以下「組成物II」ともいう。)を用いて被覆層付き基材上に重合体層を形成する方法等が挙げられる。
【0089】
なかでも、より簡便に積層体を製造できる点で、工程Dとしては、組成物IIを重合体B層付き基材と接触させて、被覆層付き基材上に重合体層を形成する方法が好ましい。
すでに説明したとおり、重合体Aと重合体Bとは優れた相溶性を有しており、上記方法によれば、結果として、重合体Aと重合体Bとを含有する重合体層を基材上に形成できる。
【0090】
重合体B層付き基材と組成物とを接触させる方法としては特に制限されず、公知の方法が適用可能である。例えば、組成物を基材に塗布する方法、組成物を基材に噴霧する方法、及び、組成物に基材を浸漬する方法等が挙げられる。
より具体的には、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法(ダイコート法)、又は、マイクログラビアコート法等が挙げられ、なかでも、ディップコート法が好ましい。
【0091】
組成物IIが含有する溶媒としては特に制限されず、水、及び、有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、水がより好ましい。
組成物IIの固形分としては特に制限されず、重合体層の所望の厚みに応じて適宜選択可能である。
【0092】
ディップコート法により積層体を製造する場合、温度調整された組成物IIに被覆層付き基材を浸漬させる方法であってもよい。この際、組成物IIの温度としては特に制限されず、一般に0〜100℃が好ましい。
また、浸漬時間としては特に制限されず、0.01〜24時間程度が好ましい。
【0093】
本工程は更に必要に応じて上記重合体層にエネルギを付与する工程を有していてもよい。エネルギとしては典型的には熱エネルギが挙げられ、熱エネルギを付与する工程によれば、重合体層に含有される溶媒をより簡便に除去することができる。
なお、加熱の際の温度としては特に制限されないが、典型的には10〜50℃が好ましく、加熱の時間としては、1分〜24時間が好ましい。
【0094】
上記各工程を有する積層体の製造方法によれば、製造工程中における基材の腐食がより抑制され、結果として、得られる積層体がより優れた力学強度を有する。本工程を有する積層体の製造方法により、製造工程中における基材の腐食がより抑制される機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のとおり推測している。
【0095】
本実施形態に係る積層体の製造方法は、工程Cを有しており、基材を重合体Aと接触させる前に、予め基材上に重合体Bによる被膜を形成する点に特徴点の一つを有する。上記特徴点を有する本実施形態に係る積層体の製造方法は、アニオン性置換基を有する重合体Aが基材とより接触しにくく、結果として、製造工程中における基材の腐食(溶解)がより抑制されるものと推測される。
【0096】
〔その他の工程〕
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法は、すでに説明した各工程のほか、本発明の効果を奏する範囲内において更に他の工程を有していてもよい。他の工程としては特に制限されないが、例えば、被覆層と重合体層との間に、無機化合物bを含有する無機化合物層を形成する工程Eが挙げられる。
【0097】
工程Eは被覆層付き基材の被覆層上に、すでに説明した化合物bを含有する無機化合物層を形成する工程であり、その方法としては特に制限されないが、例えば、化合物bと溶媒とを含有する組成物(以下「組成物III」ともいう。)を調製し、上記組成物IIIを用いて被覆層付き基材上に無機化合物層を形成する方法が挙げられる。
【0098】
被覆層付き基材と組成物IIIとを接触させる方法としては特に制限されず、公知の方法が適用可能である。例えば、組成物IIIを基材に塗布する方法、組成物IIIを基材に噴霧する方法、及び、組成物IIIに基材を浸漬する方法等が挙げられる。
より具体的には、化成処理法、電気泳動析出法、陽極酸化法、ゾルーゲル法、蒸着法、スパッタリング法、バイオミメティック法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法(ダイコート法)、及び、マイクログラビアコート法等が挙げられ、なかでも、化成処理法が好ましい。
【0099】
[医療用インプラント]
本発明の実施形態に係る医療用インプラントは、すでに説明した積層体からなる医療用インプラントである。医療用インプラントとしては、ステント、骨接合用部材、ステントグラフト、マイクロコイル、及び、パッチ等が挙げられる。なかでも、医療用インプラントとしてはステントが好ましい。
本発明の実施形態に係る医療用インプラントは、すでに説明した積層体からなり埋入初期の金属の溶解をより抑制できる。
【0100】
図5は、本発明の実施形態に係るステントの一例を示す正面図である。
図5においてステント500は、折りたたまれたストラット501により構成されている。
図6は、拡径させた状態である本発明の実施形態に係るステントの正面図である。ステント600は、典型的には、バルーンカテーテルのバルーン部にマウントされ、バルーン部の拡張により拡径されるステントである。
【0101】
図7は、ストラットの長さ方向に略垂直な方向(
図6中のA−A′方向)に切断した断面図を表す。ストラット501は、基材101と、基材101上に形成された被覆層102と、被覆層102上に形成された重合体層104とを有する積層体である。
なお、
図7において、ストラット501は、無機化合物層を有していないが、本発明の実施形態に係る医療用インプラントとしては、ストラットが更に無機化合物層を有していてもよい。その場合、無機化合物層の配置としては特に制限されないが、被覆層と重合体層との間に配置されることが好ましい。
【0102】
ステントの大きさは留置対象部位により異なるが、典型的には、拡張時(非縮径時、復元時)の外径が1.5〜30mmが好ましく、2.0〜20mmがより好ましく、長さは、5〜250mmが好ましく、8〜200mmがより好ましい。
特に、血管内留置用ステントの場合には、典型的には外径が1.5〜14mmが好ましく、2.0〜15mmがより好ましく、長さは5〜200mmが好ましく、8〜80mmがより好ましい。厚みとしては、0.04〜0.3mmが好ましく、0.06〜0.22mmがより好ましい。
【実施例】
【0103】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0104】
[被覆層付き基板の作製]
Mg−4mass%Y−3mass% RE(以下、「WE43」ともいう。RE:希土類元素)ディスクの表面を大気中で#1200耐水研磨紙で研磨した(以下、「as−polished WE43」ともいう。)。上記によって、基板上にMgの酸化物、及び/又は、水酸化物を含有する被覆層を形成し、被覆層付き基材を得た。
【0105】
[例1:積層体1の作製]
分子量6000のポリエチレングリコール(以下、「PEG」ともいう。重合体Bに該当する。)、及び、分子鎖の1つの末端をリン酸基で置換した分子量6000のポリエチレングリコール(以下、「phosPEG」ともいう。重合体Aに該当する。)を、それぞれ超純水に固形分5wt%で溶解し、PEG水溶液、及び、phosPEG水溶液を調製した。
【0106】
次に、PEG水溶液を60℃に加温し、研磨したディスク(被覆層付き基材)を浸漬し、一定の速度で引き上げるディップコーティング操作を2回繰り返し、被覆層付き基板上に、PEG(重合体B)を含有する層を有する積層体1(以下、「PEG−WE43」ともいう。)を作製した。
【0107】
[例2:積層体2の作製]
phosPEG水溶液を60℃に加温し、研磨したディスク(被覆層付き基材)を浸漬し、一定の速度で引き上げるディップコーティング操作を1回行い、被覆層付き基材上に、phosPEG(重合体A)を含有する層を有する積層体2(以下、「phosPEG−WE43−1」ともいう。)を作製した。
【0108】
[例3:積層体3の作製]
phosPEG水溶液を60℃に加温し、研磨したディスクを浸漬し、引き上げ速度をより遅くしてディップコーディング操作を1回行い、被覆層付き基材上に重合体Aを含有する層を有する積層体3(以下、「phosPEG−WE43−2」ともいう。)を作製した。
【0109】
[例4:積層体4の作製]
phosPEG水溶液を60℃に加温し、積層体1を浸漬し、一定の速度で引き上げるディップコーティング操作を1回行い、被覆層付き基材上に、重合体A及び重合体Bを含有する重合体層を有する積層体4(以下、「PEG−phosPEG−WE43」ともいう。)を作製した。
【0110】
作製した各試料について、表1にまとめて示した。
【表1】
【0111】
図8に、PEG−WE43、phosPEG−WE43−1、phosPEG−WE43−2、及び、PEG−phosPEG−WE43のFT−IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)スペクトルを示す。
【0112】
図8によれば、いずれの試料でもPEGのC−O−C伸縮、及び、C−H曲げ振動に起因するピークが明瞭に現れ、被覆層付き基材上にPEG、及び/又は、phosPEGを含有する層が積層されたことがわかる。積層体2及び積層体3では、リン酸基のP−O伸縮振動に起因するピークはC−O−C伸縮振動に起因するピークの位置(
図8中「B」で表される領域)と重複しており、リン酸基はC−O−C結合に比較して非常に少ないため、P−O伸縮振動に起因するピークは明瞭に観察されなかった。
【0113】
一方、3000〜3700cm
−1(
図8中「A」で表される領域)にリン酸基のO−H伸縮振動に起因するピークが現れ、phosPEG水溶液へのディップ回数の増加に伴いピーク強度が増加したことから、被覆層付き基材上にphosPEGを含有する重合体層が形成されたことがわかる。この3000〜3700cm
−1のO−HピークはPEG−phosPEG−WE43でも現れたことから、PEGを含有する層を形成した後、更にphosPEG水溶液を用いてディップコーティングすることで、PEG、及び、phosPEGを含有する重合体層が形成できることがわかった。
【0114】
図9〜12に、(a)As−polished WE43、(b)PEG−WE43、(c)phosPEG−WE43−1、及び、(d)PEG−phosPEG−WE43の表面の光学顕微鏡像を示した。
また、
図13〜16には、(e)as−polished WE43、(f)PEG−WE43、(g)phosPEG−WE43−1、及び、(h)PEG−phosPEG−WE43の表面のレーザ顕微鏡で測定した3D画像を示した。
【0115】
上記によれば、PEG−phosPEG−WE43表面の粒界腐食の幅はphosPEG−WE43−1表面におけるよりも小さく、重合体Bを含有する層を形成した後に、重合体Aを含有する組成物に浸漬する積層体の製造方法によれば、積層体製造中における基材の腐食をより抑制できることがわかった。
なお、PEG−WE43表面には粒界に腐食孔が観察された。
【0116】
レーザ顕微鏡で測定した3D画像及び表面粗さ(Ra)では、As−polished WE43では#1200研磨紙による研磨痕が観察され(
図13)、積層体1では研磨痕に加えてPEG分子とみられる凸が観察された(
図14)。積層体2表面での凸の密度は積層体1よりも高く、phosPEGを用いることで、基材への定着(結合)量を増加できることが明らかになった。
積層体4での凸の密度は積層体2よりは小さかったが積層体1よりは明瞭に高かった。これより、重合体Bを含有する層を形成した後に、重合体Aを含有する組成物に浸漬する積層体の製造方法によっても、phosPEGがWE43表面に定着(結合)されたことがわかる。
【0117】
[細胞培養液浸漬試験]
上記と同様の方法で作製したAs−polished WE43、PEG−WE43(積層体1)、phosPEG−WE43−1(積層体2)、及び、PEG−phosPEG−WE43(積層体4)を、細胞培養液に4週間浸漬し、培養液のMgイオン濃度を分析した。試験は、単位試料面積あたりの培養液量を60mL/cm
2とし、浸漬試験は5%CO
2インキュベータ内で行った。
【0118】
図17に培養液のMgイオン濃度の経時変化を示す。浸漬初期には、as−polished WE43、積層体1、2、及び、4からのMgイオン溶出速度に違いは見られなかったが、浸漬1週間以降では、PEG−phosPEG−WE43からのMgイオン溶出速度が最も小さくなり、as−polished WE43、及び、PEG−WE43の約1/2になった。
また、phosPEG−WE43の溶出速度はPEG−WE43よりも小さかった。
【0119】
これらの結果より、phosPEGの基材表面における安定性が向上したことで浸漬初期(埋入初期)である1週間程度までのMgの溶出がより抑制されたことがわかった。更に、それ以降のMg溶出も、積層体2、及び、積層体4は、積層体1と比較して、より少なかった。
【0120】
図18〜21には、細胞培養液に4週間浸漬した後の試料表面の光学顕微鏡像を示した。各試料とも顕著な腐食孔はみられず、全面腐食に近い腐食形態を示した。表面は培養液からの析出物に覆われており、各試料とも腐食形態の変化はみられなかった。
以上の結果から、重合体層中の重合体の種類(PEG、phosPEG)は基材の腐食形態に影響を及ぼさないこと、及び、局部腐食を発生させないことがわかった。基材の局部腐食は応力集中から破壊への原因となることが知られているが、本発明の実施形態に係る積層体によれば、表面修飾による局部腐食が促進されないことがわかった。
【0121】
[細胞初期接着性試験]
上記と同様の方法で作製した(a)As−polished WE43、(b)PEG−WE43、(c)phosPEG−WE43−1、(d)PEG−phosPEG−WE43、及び、(e)ガラス表面においてマウス線維芽細胞L929を3日間培養し、上記細胞を固定・ギムザ染色し、細胞接着密度、及び、細胞の形態を観察した。
【0122】
図22〜26にギムザ染色した細胞の光学顕微鏡像を示した。コントロールとして用いたガラス表面でのL929細胞は、丸くなっている細胞と伸展している細胞の両方がみられ(
図26)、培養3日目が対数増殖期であることがわかる。
【0123】
細胞密度は、ガラス(
図26)に比べてAs−polished WE43
図22)では若干低下した。積層体2(
図24)、及び、積層体4(
図25)表面での細胞密度はAs−polished WE43に比べて顕著に低下していた。
伸展細胞の丸い細胞に対する割合は、As−polished WE43(
図22)ではガラス表面(
図26)よりは低いが、積層体2(
図24)、及び、積層体4(
図25)表面では伸展細胞はほとんどみられなかった。細胞が接着しにくい表面では細胞は丸くなることから、積層体2(
図24)、及び、積層体4(
図25)においては、細胞接着が抑制されていることが明らかになった。
【0124】
[例11:積層体11の作製]
分子量6000のPEG、及び、分子量6000のphosPEGを、それぞれ超純水に固形分5wt%で溶解し、PEG水溶液、及び、phosPEG水溶液を調製した。
【0125】
次に、PEG水溶液を60℃に加温し、ディスクの表面を#1200耐水研磨紙で研磨したMg−0.3mass% Mn(以下、「As−polished MgMn」ともいう。)ディスク(被覆層付き基材)を浸漬し、一定の速度で引き上げるディップコーティング操作を2回繰り返し、PEGを含有する層を有する積層体11(PEG−MgMn)を作製した。
【0126】
[例12:積層体12の作製]
次に、phosPEG水溶液を60℃に加温し、積層体11を浸漬し、一定の速度で引き上げるディップコーティング操作を1回行い、被覆層付き基材上に、PEG(重合体B)、及び、phosPEG(重合体A)を含有する重合体層を有する積層体12(以下、「PEG−phosPEG−MgMn」ともいう。)を作製した。
【0127】
[例21:積層体21の作製]
上記で調整したPEG水溶液を60℃に加温し、ディスクの表面を#1200耐水研磨紙で研磨したMg−0.3mass% Bi(以下、「As−polished MgBi」ともいう。)ディスク(被覆層付き基材)を浸漬し、一定の速度で引き上げるディップコーティング操作を2回繰り返し、PEGを含有する層を有する積層体21(PEG−MgBi)を作製した。
【0128】
[例22:積層体22の作製]
次に、phosPEG水溶液を60℃に加温し、積層体21を浸漬し、一定の速度で引き上げるディップコーティング操作を1回行い、被覆層付き基材上に、PEG(重合体B)、及び、phosPEG(重合体A)を含有する重合体層を有する積層体12(以下、「PEG−phosPEG−MgBi」ともいう。)を作製した。
【0129】
上記で作製した試料を表2にまとめて示した。
【表2】
【0130】
図27には、As−polished MgMn、PEG−MgMn、及び、PEG−phosPEG−MgMnのFT−IRスペクトルを示した。
また、
図28には、As−polished MgBi、PEG−MgBi、及び、PEG−phosPEG−MgBiのFT−IRスペクトルを示した。
【0131】
また、
図29〜31には、(a)As−polished MgMn、(b)PEG−MgMn、及び、(c)PEG−phosPEG−MgMnの表面の光学顕微鏡像を示した。
また、
図32〜34には、(d)As−polished MgBi、(e)PEG−MgBi、及び、(f) PEG−phosPEG−MgBiの表面の光学顕微鏡像を示した。
【0132】
PEG−MgMn、PEG−phosPEG−MgMn、PEG−MgBi、及び、PEG−phosPEG−MgBiでPEGのC−O−C伸縮及びC−H曲げ振動に起因するピークが明瞭に現れ、基材上にPEG、及び、phosPEGを含有する層が形成されたことがわかる。
phosPEGのリン酸基のO−H伸縮振動に起因する3000〜3700cm
−1のピークがPEG−phosPEG−MgMn、及び、PEG−phosPEG−MgBiだけでなく、PEG−MgMn、及び、PEG−MgBiにおいてもわずかに現れた。
【0133】
Mg−Mn、及び、Mg−Bi合金の耐食性はWE43よりも低いことから、
図30、及び、
図33に示したようにPEG水溶液に浸漬することで合金表面にMg(OH)
2層が形成され、
図29、及び、
図32の基材よりも金属光沢がみられなくなっていた。これより、FT−IRにおいてMg(OH)
2に起因するO−H伸縮振動が検出されたと考えられる。
【0134】
図31、及び、
図34に示した積層体12、及び、積層体22の表面は、それぞれ積層体11、及び、積層体21の表面よりも光沢があったことから、重合体層がPEGを含有する層よりも厚いために光沢を生じさせたと考えられる。
これより、PEG−phosPEG−MgMn及びPEG−phosPEG−MgBiのFT−IRスペクトルにおける3000〜3700 cm
−1のピークは主にリン酸基に起因すると考えられる。
【0135】
[細胞培養液浸漬試験]
上記と同様の方法で作成した基材、及び、積層体22(表2に示した試料)を、細胞培養液に4週間浸漬し、培養液のMgイオン濃度を分析した。試験は、単位試料面積あたりの培養液量を60mL/cm
2とし、浸漬試験は5%CO
2インキュベータ内で行った。
図35に培養液のMgイオン濃度の経時変化を示した。
【0136】
図35に示したとおり、基材がMgBiである場合でも、浸漬初期段階から基材金属の溶解が抑制されることがわかった。また、基材がMgMnである場合でも、同様の結果が得られた。
【0137】
[細胞初期接着性試験]
積層体22、及び、基材について、それぞれの表面で、マウス線維芽細胞L929を3日間培養し、細胞を固定・ギムザ染色し、細胞接着密度及び細胞の形態を光学顕微鏡で観察した。
【0138】
図36、37には、(a) As−polishedMgBi、及び、(c)PEG−phosPEGMgBi上のギムザ染色した細胞の光学顕微鏡像をそれぞれ示した。
【0139】
phosPEG修飾Mg合金表面には細胞はほとんど接着しておらず、Mg合金の組成によらず、phosPEG修飾によりMg合金表面への細胞接着が抑制できることが明らかになった。