【実施例】
【0032】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0033】
本実施例は、地中に設けられる排水処理坑21の変位計測装置であって、前記排水処理坑21の内壁面における第一基準部位P1と該第一基準部位P1から直径方向に対向する第二基準部位P2との間に計測用線材L1を架設して前記第一基準部位P1と前記第二基準部位P2との間の距離を計測する第一距離計測部1と、この第一距離計測部1の計測用線材L1と交差する方向に長さを有する状態で配され、前記排水処理坑21の内壁面における第三基準部位P3と該第三基準部位P3から直径方向に対向する第四基準部位P4との間に計測用線材L2を架設して前記第三基準部位P3と前記第四基準部位P4との間の距離を計測する第二距離計測部2と、前記第一距離計測部1及び前記第二距離計測部2において計測したデータを記録するデータ記録部7とを有するものである。
【0034】
本実施例では、計測対象となる排水処理坑21として、
図1,2,5に図示したように長さ方向に流水溝部21aを備えた底壁面部21Aと、この底壁面部21Aの左右に立設される左壁面部21B及び右壁面部21Cと、この左壁面部21B及び右壁面部21Cに連設され底壁面部21Aと対向する天壁面部21Dとを備えた排水トンネル(横抗)を採用しており、本実施例に係る排水処理坑21は、本線部21’と、この本線部21’から分岐した枝線部21”とで構成されている。また、この枝線部21”の先端部には集水部22(ボーリング室)が設けられ、この集水部22の周面から放射方向に複数の集水パイプ23が突設され、この集水パイプ23を予め調査して判明した地下水の溜まり易い部位に配設することで、この各集水パイプ23を介して集水部22内に地下水が集められ、この集水部22で集められた地下水は枝線部21”から本線部21’へ流れ、この排水処理杭21の終端に設けられた排水路24へ導出される。この排水路24は例えば河川まで延設されており、排水処理坑21で集められた地下水は最終的に河川に排出されることになる。尚、排水処理坑21は立坑でも良いなど、本実施例の特性を発揮する構造物であれば適宜採用し得るものである。
【0035】
以下、本実施例に係る構成各部について詳細な説明をする。
【0036】
第一距離計測部1及び第二距離計測部2は、各基準部位の間に架設される計測用線材L1,L2(インバー線)の変位により、各基準部位間の距離変位量を計測する伸縮計であり、本実施例では、ジオテクサービス(株)社製の簡易伸縮計「GSL−050」を採用しており、
図3に図示したように装置本体1a,2a内に回動自在に収納されたドラム1b,2bに巻回されたワイヤーから成る計測用線材L1,L2の伸縮(引き出し及び巻取り)により距離を計測するものである。
【0037】
本実施例では、
図1,2に図示したように排水処理坑21の左壁面部21Bの所定部位としての第一基準部位P1に第一距離計測部1を設け、この第一距離計測部1から計測用線材L1を水平方向に引き出し、この計測用線材L1が水平状態に架設されるように該計測用線材L1の先端を水処理坑21の右壁面部21C所定部位としての第二基準部位P2に連結固定し、一方、排水処理坑21の天壁面部21Dの所定部位としての第四基準部位P4に第二距離計測部2を設け、この第二距離計測部2から計測用線材L2を鉛直方向に引き出し、この計測用線材L2が鉛直状態に架設されるように該計測用線材L2の先端を排水処理坑21の底壁面部21Aの所定部位(中央部位)としての第三基準部位P3に連結固定する。
【0038】
従って、第一距離計測部1の計測用線材L1と第二距離計測部2の計測用線材L2とは、互いに略直交する状態に配され、第一距離計測部1にて排水処理坑21の横幅(内空幅)を計測し、第二距離計測部2にて排水処理坑21の高さ(内空高さ)を計測する。尚、第一距離計測部1の計測用線材L1と第二距離計測部2の計測用線材L2とは、互いに斜交する状態に配されても良く、この場合、ひずみ換算する場合に矩形ひずみ解析を行なえば、構造物の変形度合い(ひずみ変位)を定性的に評価できる。
【0039】
また、第一距離計測部1の計測用線材L1と第二距離計測部2の計測用線材L2は、排水処理坑21内に配される管状部材4内に収納されている。
【0040】
本実施例は、管状部材4を塩化ビニル管で構成しており、第一距離計測部1の計測用線材L1を収納する管状部材4は、基端が第一距離計測部1に当接され先端が壁面(右壁面部21C)に当接された水平状態で天壁面部21Dから垂設される吊り下げ部材6(ワイヤー)を介して吊り下げ状態に設けられ、第二距離計測部2の計測用線材L2を収納する管状部材4は、基端が第二距離計測部2に当接され先端が壁面(底壁面部21A)に当接された垂下状態に設けられている。
【0041】
また、管状部材4の先端部に長さ調整し得る蛇腹部4aが設けられている。
【0042】
尚、排水処理坑21は暗所であるから、点検等の作業員が照射する照射光に反射する反射材を管状部材4の周面に設けても良い。
【0043】
また、第一距離計測部1及び第二距離計測部2は、
図4に図示したようにデータ記録部7(ジオテクサービス(株)社製のデータロガー「GTR−24H」)に接続され、この第一距離計測部1及び第二距離計測部2で計測されたデータはデータ記録部7で随時記録される。尚、データ記録部7には後述する傾斜計測部5が接続され、この傾斜計測部5から得られるデータを記録する。
【0044】
また、本実施例は、データ記録部7で記録されたデータをもとに排水処理坑21の変位量を算出する変位量算出部を備えている。
【0045】
この変位量算出部は、
図4に図示したようにデータ記録部7で記録されたデータを処理(集積・加工)する管理コンピュータ(図示省略)で構成され、第一距離計測部1,第二距離計測部2及び傾斜計測部5はデータ記録部7に接続されている。
【0046】
尚、管理コンピュータは、ノート型パソコンやタブレット型パソコンなどの計測現場へ持ち込んだパソコンでも良いし、データ記録部7に無線信号送信部を設け、このデータ記録部7で記録されたデータを無線信号送信部からインターネット回線を介して受信する遠隔地のパソコン(データセンター)でも良い。
【0047】
符号8は収納ボックス,9はPT温度変換器,10はバッテリー(DC24V)である。
【0048】
傾斜計測部5は、傾斜に比例した液面の傾きを左右の電極の静電容量変化とし検出し、電気信号に変換するセンサーであり、X軸とY軸の2軸の傾斜値を計測し得るジオテクサービス(株)社製の傾斜計「GIC−10WD」を採用している。
【0049】
本実施例では、
図1,2に図示したようにこの傾斜計測部5を、排水処理坑21の底壁面部21Aに配置し、底壁面部21Aの縦断方向(Y方向)及び横断方向(X方向)の傾斜を計測する。尚、本実施例では、傾斜計測部5に温度計を装着している。
【0050】
以上の構成から成る本実施例に係る排水処理坑21の変位計測装置を設置する場合、
図5に図示したように左右の坑口から5〜10mの地点ST1及びST3と中間地点ST2の三箇所に設置される。
【0051】
本実施例は上述のように構成したから、第一距離計測部1により、排水処理坑21の内壁面における第一基準部位P1と該第一基準部位P1から直径方向に対向する第二基準部位P2との間に計測用線材L1を架設して第一基準部位P1と第二基準部位P2との間の距離を計測するとともに、第二距離計測部2により、第一距離計測部1の計測用線材L1と交差する方向に長さを有する状態で配され、排水処理坑21の内壁面における第三基準部位P3と該第三基準部位P3から直径方向に対向する第四基準部位P4との間に計測用線材L2を架設して第三基準部位P3と第四基準部位P4との間の距離を計測する。
【0052】
この第一距離計測部1及び第二距離計測部2において計測したデータはデータ記録部7で記録される。このデータ記録部7のデータを例えばコンピュータで処理して排水処理坑21の変位量が算出される。
【0053】
この算出された変位量から排水処理坑21の状態(ひずみ変位)を確実に把握することができ、この排水処理坑21の補修時期、廃坑時期を確知することができる。
【0054】
また、排水処理坑21の変位量により該排水処理坑21が設けられている土塊のこれまでの移動量が確知でき、更に、排水処理坑21の変位量をもとに該排水処理坑21の今後の変位量を予測して該平水処理坑21が設けられている土塊の今後の移動量を予測することができる。
【0055】
よって、本実施例によれば、土塊の移動(例えば地すべり)による排水処理坑21の状態(ひずみ変位)を変位として定量化することで、熟練者でなくても排水処理坑21の状態を簡易且つ確実に確認することができ、仮に異常が確認された場合には直ちに対応することができる。
【0056】
また、本実施例の変位計測装置は、レーザー光をではなく、線材を利用した計測であるから、例えば気象条件の変化などの影響を受けにくく高精度に計測することができ(レーザー光は結露水や霧などの影響による反射率の関係で精度が落ちる場合がある)、しかも、装置自体が安価である故にコスト安に計測することができる。
【0057】
また、本実施例は、土塊の移動(地すべりの活動が活発か否か)を監視できることになる。
【0058】
即ち、本実施例を用いた監視方法の具体例として、地中に設けられる排水処理坑21のひずみ変位を計測する本実施例に係る変位計測装置と、この変位計測装置により計測したデータ(変位データ)をもとに排水処理坑21の変位量を算出する変位量算出部と、この変位量算出部で算出した変位量により排水処理坑21が設けられている土塊の過去の移動量を確知する土塊移動量確知手段とで構成された土塊移動監視方法が可能となる。
【0059】
また、この変位量算出部で算出した排水処理坑21の変位量をもとに該排水処理坑21の今後の変位量を予測して該排水処理坑21が設けられている土塊の今後の移動量を予測する土塊移動量予測手段を有しても良い。
【0060】
また、複数の排水処理坑21が設けられている場合、土塊移動量予測手段は、複数の排水処理坑21が設けられている所定区域の土塊の今後の移動量を予測する土塊移動量予測手段を有しても良い。
【0061】
その他にも、地中に設けられる排水処理坑21のひずみ変位を計測する本実施例に係る変位計測装置と、この変位計測装置により計測したデータ(変位データ)をもとに排水処理坑21の変位量を算出する変位量算出部と、この変位量算出部で算出した変位量により排水処理坑21の補修若しくは廃坑の時期を確知する抗状態確知手段とで構成された排水処理坑監視方法が可能となる。
【0062】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。