【課題】 操作の煩雑化を招くことなく、流動系においてアニオン性化合物の吸着分離精度を向上させることができるアニオン化合物捕集用花冠状カラム充填材及びアニオン捕集用カラムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)に係るカラム用充填材は、層状複水酸化物の花冠状凝集粒子を含む。
【0014】
本実施形態の層状複水酸化物は、下記一般式(1)で表される。
[M
II1-yM
IIIy(OH)
2](X
n-)
y/n・mH
2O (1)
ここで、M
IIは2価の金属イオンであり、M
IIIは3価の金属イオンであり、X
n-はn価のアニオンであり、yは0<y≦0.34を満たす。また、mは層間水の量を示しており、環境の湿度によって変化するためその値は限定されないが、一例として0≦m≦5が挙げられる。
前記一般式で表される層状複水酸化物は、2価の金属イオン(M
II)にOH
-が六配位した八面体が平面状に配列して形成された水酸化物層の積層構造を基本とし、該水酸化物層の2価の金属イオン(M
II)の一部が3価の金属イオン(M
III)で置換されると共に、該水酸化物層間にアニオン(X
n-)が配置された結晶構造をもつ。3価の金属イオン(M
III)の置換により、前記水酸化物層は正電荷を有しており、層間のアニオン(X
n-)でこの正電荷を中和している。本実施形態の層状複水酸化物は、水酸化物層が有する正電荷によりアニオン吸着特性を示すものである。また、層間のアニオン(X
n-)は、選択性の差によってイオン交換が可能であり、これを利用することで、特定のアニオンをより多く吸着することが可能となる。
このような一般式で表される層状複水酸化物としては、天然鉱物ハイドロタルサイト:Mg
6Al
2CO
3(OH)
16・4H
2Oが例示される。
2価の陽イオン(M
II)としてはMg
2+の他にCa
2+、Mn
2+、Fe
2+、Ni
2+、Cu
2+、Zn
2+等が、3価の陽イオン(M
III)としてはAl
3+の他にFe
3+、Co
3+、Mn
3+、Cr
3+、In
3+等が、n価のアニオン(X
n-)としてはCO
32-の他にSO
42-、Cl
-、Br
-等が、それぞれ知られている。
【0015】
前述した層間のアニオン(X
n-)のイオン交換性について、詳細に説明する。一般的に、水溶媒中においては、価数の大きいアニオン(例えば、2価、3価などの多価のアニオン)やサイズの小さいアニオンは、アニオン交換性が乏しい。逆に、1価のアニオンやサイズの大きいアニオンは、アニオン交換性に富むことが知られており、そのアニオン交換性は、イオンサイズが大きくなるほどより高くなる。このことから、本実施形態では、層状複水酸化物として、前記一般式(1)におけるX
n-が、1価のアニオン、(CH(OH)COO)
22-、SO
42-及びFe(CN)
64-から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ClO
4-、ClO
3-、ClO
2-、ClO
-、NO
3-、Br
-、Cl
-、F
-、OH
-、CH
3COO
-、CH
3CH
2COO
-、CH
3−CH(OH)−COO
-及びHOC
2H
4SO
3-から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。より好ましいこれらのアニオンは、いずれも1価のアニオンであり、イオンサイズも大きいので、層状複水酸化物に対する親和性が弱い。このため、これらのアニオンを含む層状複水酸化物は、アニオン交換性が高くなる。なお、イオンサイズが大きい1価のアニオンであれば、前述したもの以外でも同様の作用が期待される。
【0016】
本実施形態に係る層状複水酸化物の花冠状凝集粒子は、
図1に模式的に示すように、前述した層状複水酸化物の片状結晶が集合して花冠形状となったものであり、個々の片状結晶が花弁のように見えることを特徴とする。このような粒子形状により、バインダーを使用することなく比較的大きな粒子が得られ、かつ容器に充填した際には、隣接する粒子の片状結晶同士が接触することで、粒子間に多くの隙間が形成される。このため、本実施形態に係る花冠状凝集粒子を含むカラム用充填材は、処理対象流体の浸透・透過性に優れたものとなる。
【0017】
本実施形態に係る層状複水酸化物の花冠状凝集粒子は、中心径D
50が5μm〜50μmの範囲にあることが好ましい。D
50を5μm以上とすることで、これを用いて形成したカラムベッドを処理対象流体の浸透・透過性に優れたものとすることができ、50μm以下とすることで、適正なコストで生産ができる。D
50は、処理対象流体の浸透・透過性の点からは10μm以上であることがより好ましく、生産性の点からは30μm以下であることがより好ましい。ただし、D
50の好ましい上限値については、あくまで合成を短時間で済ませること、並びに微小粒子の分級除去による工数の増加及び収率の低下を避けること等の生産の効率性を考慮したものであるから、要求される特性に応じて前述の好ましい上限を超えても、実用上問題はない。
【0018】
また、本実施形態に係る層状複水酸化物の花冠状凝集粒子は、粒度分布における10%及び90%の積算径、すなわちD
10、D
90を求めたとき、D
90−D
10が4μm〜60μmの範囲内であることが好ましく、5μm〜35μmの範囲内であることがより好ましい。また、前記各範囲内においてD
90−D
10は20μm以内であることが更に好ましい。粒度分布の幅に対応するD
90−D
10の値が前記範囲内にあることで、これを用いて形成したカラムベッド内に適度な空隙が形成され、高い濾過効率を得ることができる。
【0019】
前述した花冠状凝集粒子の粒度分布は、透過型電子顕微鏡像(TEM)、走査型電子顕微鏡像(SEM)、デジタルマイクロスコープ、CCDカメラ或はレーザー顕微鏡などを使用して個々の花冠状凝集粒子の粒子径(一次粒子径)を計測し、該粒子径の個数分布を求めることで取得する。この場合、個々の花冠状凝集粒子は、結晶のc軸方向から見たab軸面の形状が六角形であり、花弁に相当する片状結晶が花冠を形成するよう対称的に積層しているため、粒子径としては、その最外六角粒子の定方向径(長軸径)を画像法により計測する。計測した粒子径の個数分布を求める際には、積算分布データとして求め、積算分布の値が50%となる粒子径を中心径(D
50)、積算分布の値が10%、90%となる粒子径をそれぞれD
10、D
90とする。
【0020】
花冠状凝集粒子の粒度分布についてさらに説明すると、後述する方法で合成された後、イオン交換処理を行っていない層状複水酸化物の花冠状凝集粒子では、頻度分布による粒度分布図において2つのピークを示す場合が多い(以下、このような粒度分布を、「二峰性粒度分布」と記載する)。カラム用充填材としての利用を考えると、この二峰性粒度分布は、ピーク間隔、すなわちピークを示す粒度の差、が大きすぎると、カラムベッドを形成する際に、粒子が密に充填されすぎてしまうため好ましくない。このため、花冠状凝集粒子が二峰性粒度分布を示す場合、各ピークを示す粒度の差は20μm以内であることが好ましい。
【0021】
本実施形態では、カラムの透水性を評価するために、土の透水試験法(JIS A 1218:1998)に準拠する透水係数K(cm/s)を一つの指標とし、該透水係数Kが測定できたことをもって透水性に優れるカラム用充填材と判断した。カラム用充填材の透水係数は、粒子径や間隙率といった充填材粒子の性質で決まる。変位透水試験法により求めた花冠状凝集粒子の透水係数Kは1×10
-6〜1×10
−3cm/secの範囲が好適である。花冠状凝集粒子の透水係数Kを1×10
-6cm/sec以上とすることで、十分な量の処理対象流体を流通させることができ、1×10
-3cm/sec以下とすることで、処理対象アニオンを十分に吸着させることができる。透水係数Kは、処理対象流体の流通性の点からは、3×10
-6以上であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態に係る層状複水酸化物の花冠状凝集粒子の製造には、アンモニア発生源としてヘキサメチレンテトラミン(C
6H
12N
4)を用いた均一沈殿法が採用される。均一沈殿法とは、出発原料である金属塩の水溶液にヘキサメチレンテトラミンや尿素等のアンモニア発生源を予め加え、得られた混合水溶液を高温で処理する方法である。均一沈殿法は、高温水溶液中でアンモニア発生源が分解してアンモニアと二酸化炭素とを生じ、水溶液がアルカリ性となって層状複水酸化物の沈殿が生じることを利用しており、水溶液中でアンモニアが均一に発生するために反応に偏りが生じず、大きさが均一でしかも比較的大きな板状結晶が得られることを特徴とする。結晶の形成は、まずM
III水酸化物前駆体が初期段階に生成し、それが花冠状凝集粒子成長の核となり、その後、核から層状複水酸化物が形成される。ヘキサメチレンテトラミン濃度が低いと産出される核が少なく、サイズが大きくなり、さらにその核から2つ以上のLDHが円状を描くように形成され花冠状となると考えられている。
【0023】
均一沈殿法において、層状複水酸化物結晶を早く成長させるためには、高アルカリ環境を保ちつつ、水熱合成系内の結晶核発生を抑制すればよい。具体的な結晶核発生抑制方法としては、結晶核と親和性を有する固体を水熱合成系内に共存させることが挙げられる。結晶核と親和性を有する固体が水熱合成系内に共存すると、その表面が結晶核の吸着体(担体)となり、固体表面と液相間に結晶核の密度勾配が生じる。その結果、核生成数が抑制された液相中の結晶核は、より多くの原料の供給を受けることによって、より早い結晶成長を達成する。水熱合成系内に共存させる、結晶核と親和性を有する固体としては、アンモニアと親和性のあるポリアクリロニトリル繊維や、親水基を骨格に持つセルロースなどが例示される。
【0024】
ヘキサメチレンテトラミンを用いた均一沈殿法では、ヘキサメチレンテトラミンの分解によりアンモニウムとホルムアルデヒドとが発生し、さらにホルムアルデヒドの分解で二酸化炭素が発生する。このため、製造された花冠状凝集粒子を構成する層状複水酸化物は、該ホルムアルデヒドの熱分解で発生した二酸化炭素、或は反応雰囲気中の二酸化炭素に由来する炭酸イオンを層間に包接する炭酸型層状複水酸化物となる場合が多い。この炭酸イオンは選択性(水酸化物層への親和性)が高く、他のアニオンとイオン交換を起こしにくい。このため、花冠状凝集粒子のアニオン吸着性能を高めるために、層間の炭酸イオンを易イオン交換性の他のアニオンに置換することが好ましい。
【0025】
層間の炭酸イオンを易イオン交換性の他のアニオンに置換する方法としては、これに限定されるものではないが、有機溶剤を用いる方法又は緩衝液を用いる方法が有効である。
有機溶媒を用いる方法では、メタノール、エタノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン又はアセトン等の有機溶媒に、炭酸型層状複水酸化物と酸性化合物(MX
m)とを加え、1価のアニオン(X
-)への置換処理を行なう。ここで、酸性化合物(MX
m)におけるXは1価のアニオン(X
-)に対応する元素又は原子団を意味し、mは1、2又は3である。m=1の場合には、酸性化合物(MX)は、プロトン性の酸(HX)又は、アミンの酸塩(NRR’R”・HX(ここでR、R’及びR”は水素、ヒドロキシル基又は有機基であって、それぞれは同一又は異なっていてもよい))となり、m=2又は3の場合には、Mは2価又は3価の金属となる。
緩衝液を用いる方法では、例えば酢酸のような弱酸とその共役塩基とからなる緩衝液に1価のアニオン(X
-)を含む塩を混合した水溶液中で、層間アニオンの置換処理を行う。
【0026】
前述した置換処理により、炭酸イオンが1価のアニオン(X
-)に完全に置換された場合、得られるアニオン交換性層状複水酸化物は、下記一般式(2)で表される。
[M
II1-yM
IIIy(OH)
2](X
-)
y・mH
2O (2)
ここで、M
IIは2価の金属イオンであり、M
IIIは3価の金属イオンであり、Xは1価のアニオンに対応する元素又は原子団であり、yは0<y≦0.34を満たす。また、mは層間水の量を示しており、環境の湿度によって変化するためその値は限定されないが、一例として0≦m≦5が挙げられる。
【0027】
均一沈殿法により層状複水酸化物結晶を合成する際には、前記一般式(1)ないし(2)において、M
IIがMg
2+であり、M
IIIがAl
3+であることが好ましい。また、花冠状粒子を形成するに当たっては、M
II/M
III比(モル比)が1.5〜2.8の範囲であることが好ましく、1.8〜2.4の範囲であることがより好ましい。この範囲内とすることで、結晶成長が促進され、花冠状粒子の形成が容易になる。
【0028】
層間の炭酸イオンが完全に1価のアニオンに置換された前記一般式(2)で表されるアニオン交換性層状複水酸化物は、アニオン交換性に富むため好ましい。しかしながら、反応条件を緩和させることにより、層間の炭酸イオンの一部のみを1価のアニオン(X
-)に置換した層状複水酸化物も、アニオン交換性を示す。したがって、実用上、完全な置換体が要求されない場合や、炭酸イオンの一部のみの置換が要求される場合には、このような不完全置換された層状複水酸化物が有用である。
【0029】
上述したとおり、均一沈殿法で製造された炭酸型層状複水酸化物の花冠状凝集粒子は、頻度分布による粒度分布曲線において2つのピークを示す場合が多い。しかし、炭酸イオンを易イオン交換性の他のアニオンに置換する処理を行うと、単一のピーク、ないしはピーク値を示さないショルダーが付随する単一のピーク(準単一ピーク)を示す粒度分布となる。なお、本明細書において、頻度分布による粒度分布に関して「単一のピーク」と記載した場合には、特に断らない限り、この準単一ピークをも含むものとする。したがって、粒度分布を調整する点からも、前述したイオン交換処理を行うことが好ましい。なお、イオン交換処理を行わない炭酸型層状複水酸化物の花冠状凝集粒子をカラム用充填材とする際には、篩分級等によって粒度分布を調整することが好ましい。
【0030】
前述の工程を経て製造されたカラム用充填材は、用途に応じてディスクやカラム、カートリッジなどに充填し、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、GPC等のクロマトグラフィー用分析カラム、クロマトグラフィー用分取カラム、固相抽出カートリッジを形成し、目的化合物の精製・濃縮・分析・分取用具として用いることができる。
【0031】
以上に説明したカラム用充填材は、処理対象物質を含有する液体(若しくは気体)試料等から、処理対象物質を分離して処理する際に好適に用いられる。すなわち、本実施形態の充填材が充填されてなるディスク、カラム、カートリッジに液体(若しくは気体)試料等を流通させることにより、処理対象物質を充填材に吸着させて分離処理を行うことができる。
【0032】
前述の分離処理としては、充填材が充填されてなるディスク、カラム、カートリッジ等に、測定対象物質及びこれ以外の物質を含む流体を流通させ、測定対象物質の検出を妨害する他の物質を吸着させることによって測定対象物質を精製すること、処理対象流体の流通により処理対象物質を充填材に一旦吸着させた後、例えば、選択性の高いCO
32-を含む溶液で溶出させることによって処理対象物質を精製・濃縮すること、処理対象流体の流通により処理対象物質をその他の共存物質と分離した上で、処理対象物質が吸着した充填材を適当な検出器で分析し、処理対象物質を定量すること、並びに処理対象流体の流通により処理対象物質を分取すること、が挙げられる。より具体的な使用態様としては、固相抽出カートリッジを用いた環境汚染物質の捕捉・濃縮が挙げられる。
【0033】
なお、本実施形態の変形例として、本実施形態に係る充填材と他の充填材とを混合した混合物をカラム容器内に充填してもよく、また、本実施形態に係る充填材で形成された充填材層と、他の充填材もしくは基材からなる層とが多層構造を成すように充填してもよい。他の充填材としては、公知のものを適宜用いることができる。具体例としては、ポリスチレンビーズ、ゼオライト、アルミナビーズ等が挙げられる。
【0034】
[実施例]
以下、本実施形態を実施例により詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。本実施例において使用した評価法は以下のとおりである。
【0035】
<評価法>
1.粒子形状、粒子径及び粒度分布
層状複水酸化物の花冠状凝集粒子の形態を、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−6700F)を用いて加速電圧15kVの条件で観察した。画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac−View,マウンテック社製)を用いてSEM観察像から無作為に500個以上の粒子を選び出し、その定方向径を計測した。計測データに基づいて積算分布及び頻度分布による粒度分布曲線を得て、積算粒度分布曲線から中心径(D
50:メジアン径)とともに、積算10%粒子径(D
10)及び積算90%粒子径(D
90)を求めた。
【0036】
2.層状複水酸化物の層間隔
層状複水酸化物は、層間アニオン種によって、また湿度に応じて層間隔を変化させるため、環境(雰囲気)の湿度を制御したX線回折測定を実施しなければ正確な層間隔を計測することはできない。このため、ポリイミドフィルム製のX線透過窓を有する樹脂製密閉チャンバーを作製し、これをX線回折装置(Cu−Kα線)(リガク社製、ULTIMA−IV)に取り付けて、湿度制御装置(キッツマイクロフィルター社製、AHCU−2)によりチャンバー内の湿度を相対湿度(RH)60%に制御しながらX線回折測定を行った。測定された003反射の位置からBraggの条件式を用いて(003)面の面間隔を算出し、層状複水酸化物の層間隔とした。
【0037】
3.フーリエ変換型赤外吸収(FTIR)スペクトル
フーリエ変換赤外吸収測定装置(IRAffinity、島津製作所製)を使用して、ATR法により、アニオン種の吸着に応じたスペクトル変化を調べた。
【0038】
4.アニオン吸着特性
層状複水酸化物花冠状凝集粒子のアニオン吸着性能を調べるため、Na
2HPO
4(試薬特級)及びNaNO
3(試薬特級)を用いてバッチ吸着試験を実施した。種々の濃度のアニオンを含む水溶液を調製し、吸着材に各アニオン水溶液を液/固比=100の比率で混合し、PP製遠沈管に投入して転倒回転式の振とう機(ロータ・ミックスRKVSD)を用いて50rpm、23℃、24時間撹拌した。処理終了後、15000rpmで10分間遠心分離して各上澄み溶液の残存HPO
42-イオン及びNO
3-イオン量をそれぞれ計測した。残存HPO
42-イオン分析には紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2450)を用いたモリブデンブルー法を、残存NO
3-イオン分析にはイオンクロマトグラフィー(東ソー社製、IC−2010)をそれぞれ用いた。得られた各残存イオン量を処理前の水溶液中の各イオン量から差し引いた後、使用した吸着材の質量で除すことで、単位質量の吸着材に吸着した各イオンの量を算出した。
【0039】
5.透水性
充填材の透水係数を変水位透水試験により計測した。層状複水酸化物花冠状凝集粒子を、
図2に示す簡易の変水位透水試験器の内径10mm、高さ50mmのアクリル樹脂製円筒に約10mmの高さになるように詰めた。この際、充填床中に気泡が入らないように充填した。その後、土の透水試験法(JIS A 1218:1998)に準拠して透水係数を測定した。使用した試験器におけるスタンドパイプの内径は2mmであった。
【0040】
<実施例1>
非特許文献3に従い、硝酸マグネシウム六水和物及び硝酸アルミニウム九水和物をMg:Al=2:1となるように配合し、ヘキサメチレンテトラミンを加えて混合溶液を調製した。得られた溶液40mlをテフロン(登録商標)容器(100ml)に入れて、140℃で4日間、水熱処理を行なった。水熱処理後、濾過・水洗浄を繰り返した後、凍結乾燥して粉末試料を得た。この粉末試料の相対湿度60%下におけるXRDパターン(
図3)から、層間隔は0.78nmと算出された。併せて、この試料のFTIRスペクトル(
図4)において1360cm
-1近傍のピークが観測されたことから、炭酸型層状複水酸化物が得られたと判断できる。
【0041】
この粉末試料を開口18μmのポリエステル製の篩により分級して、分級粉末試料を得た。この分級粉末試料をSEM観察した結果を
図5に示す。殆どの合成された粒子が花冠形状であることが確認された。視野の異なる複数のSEM像を画像解析ソフトで処理することで500個以上の粒子のサイズを計測し、該計測結果に基づいて作成した粒度分布曲線を
図6に示す。解析の結果、中心径D
50=26.1μm、D
10=15.1μm、D
90=38.7μmであった。頻度分布による粒度分布曲線は二峰性粒度分布を示し、ピーク粒度差(ΔD)は13μmであった。透水試験の結果、この分級粉末試料の透水係数は、2.9×10
-6cm/secであった。本透水試験から、本実施例に係る花冠状凝集粒子で形成した充填層は、導入される処理対象流体が加圧なしで透過できることが示された。以上の結果をまとめて表1に示す。
【0042】
<実施例2>
実施例1で製造した炭酸型層状複水酸化物の粉末試料をメタノール溶媒中に投入して1%の懸濁液を調製し、該粉末試料に対して42質量%の過塩素酸を加えて、窒素雰囲気下、40℃で約1時間過塩素酸処理を行なった。その後、実施例1と同様に濾過・水洗・凍結乾燥を行ない、粉末試料を得た。粉末試料のXRDパターン(
図7)から層間隔を算出した結果、実施例1の0.78nmから0.9nmへとシフトしたことが確認された。また、粉末試料のFTIRスペクトル(
図8)からは、実施例1で観測された1360cm
-1近傍のCO
32-に帰属されるピークが消失し、1080cm
-1近傍に強いピークが観測された。開口18μmのポリエステル製の篩により分級した分級粉末試料のSEM観察像(
図9)からは、過塩素酸処理後も花冠形状が維持されていることが確認された。以上の結果から、本実施例では、層間アニオンを過塩素酸に置換した層状複水酸化物の花冠状凝集粒子(ClO
4-roseLDH)が得られたといえる。また、得られた分級粉末試料について、実施例1と同様の方法で作成した粒度分布曲線(
図10)からは、得られた分級粉末試料は中心径D
50=27.1μm、D
10=19.1μm、D
90=38.6μmのより狭い分布に調整され、実施例1で観測されていた二峰性粒度分布は無くなり、ピーク値を示さないショルダーが付随する単一のピーク(準単一ピーク)を示す粒度分布となることが確認された。この粉体の透水係数は、8.6×10
-6cm/secであり、粒子固有の透水性も向上した。以上の結果を表1にまとめて示す。
【0043】
この花冠状凝集粒子ClO
4-roseLDHのリン酸イオン(HPO
42-)及び硝酸イオン(NO
3-)の吸着等温線を
図11に示す。何れもラングミュアタイプの吸着等温線を示し、最大吸着量はリン酸イオンが1.61mmol/g、硝酸イオンが3.0mmol/gを示し、層間のアニオンサイト(イオン交換サイト)に吸着していることが明らかになった。
【0044】
<実施例3>
過塩素酸を硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)に変えた以外は実施例2と同様に処理を行って、実施例3に係る粉末試料を調製した。この粉末試料のFTIRスペクトルにおいて1340cm
-1近傍にブロードなピークが観測された。一方、相対湿度60%下におけるXRDパターンからは、層間隔が0.9nmと算出され、炭酸型の層間隔0.78nmに由来するピークは見られなかった。確認のため、チャンバー内の相対湿度を10%から80%まで変えて測定測定したところ、層間隔に大きな変化は観測されなかった。この結果は、これまでに報告されているNO
3-型層状複水酸化物(Mg/Al比=2)の結果(例えば、Iyi, N., Fujii, K., Okamoto, K., Sasaki, T. “Factors influencing the hydration of layered double hydroxides (LDHs) and the appearance of an intermediate second staging phase.” Applied Clay Sci., 35, 218-227(2007).参照)と一致している。したがって、本実施例では、硝酸型層状複水酸化物の花冠状凝集粒子(NO
3-roseLDH)が得られたと判断できる。実施例1と同様に行った分級粉末試料の粒度分布測定及び透水試験の結果を表1に示す。本実施例における粒度分布は、実施例2と類似の準単一ピークを示した。
【0045】
<実施例4>
過塩素酸を塩化アンモニウム(NH
4Cl)に変えた以外は実施例2と同様に処理を行って、実施例4に係る粉末試料を調製した。この粉末試料の相対湿度60%下におけるXRDパターンからは、層間隔が0.89nmと算出された。また、FTIRスペクトルにおいて1360cm
-1近傍の炭酸イオンのピークの消失が観測されたことから、塩素型層状複水酸化物の花冠状凝集粒子(Cl
-roseLDH)が得られたと判断できる。実施例1と同様に行った分級粉末試料の粒度分布測定及び透水試験の結果を表1に示す。本実施例における粒度分布は、実施例2と類似の準単一ピークを示した。
【0046】
<実施例5>
実施例1における水熱合成の条件を140℃、2日間に変えて粉末試料を調製した後、実施例2と同様に過塩素酸処理を行った。その後、開口14μmのポリエステル製の篩で分級し、分級粉末試料を得た。この粉末試料の相対湿度60%下におけるXRDパターンからは、層間隔が0.9nmと算出された。また、FTIRスペクトルにおいて1080cm
-1近傍のピークが観測されたことから、過塩素酸型層状複水酸化物の花冠状凝集粒子(ClO
4-roseLDH)が得られたと判断できる。実施例1と同様に実施した分級粉末試料の粒度分布測定及び透水試験の結果を表1に示す。本実施例における粒度分布は、実施例2と類似の準単一ピークを示した。
【0047】
<実施例6>
実施例1における水熱合成の条件を140℃、2日間に変えて粉末試料を調製した。この粉末試料の相対湿度60%下におけるXRDパターンからは、層間隔が0.78nmと算出された。また、FTIRスペクトルにおいて1360cm
-1近傍のピークが観測されたことから、炭酸型層状複水酸化物の花冠状凝集粒子(CO
32-roseLDH)が得られたと判断できる。この試料を篩分級せずにそのまま実施例1と同様に粒度分布測定及び透水試験を実施した。本比較例に係る粉末試料の粒度分布は、中心径D
50=12.2μmであり、D
10=2.3μm、D
90=32.6μmの広い粒度分布幅を有していた。粒度分布は二峰性となり、ピーク粒子径差(ΔD)は25μmであった。また、本実施例に係る粉末試料の透水係数は9.0×10
-7cm/secとなった。以上の結果をまとめて表1に示す。
【0048】
<実施例7>
本実施例では、水熱合成系内の結晶核発生を抑制し、層状複水酸化物結晶を早く成長させるために、結晶核と親和性を有する固体であるナノファイバー膜を水熱合成系内に共存させる手法を採用した。
ナノファイバー膜は、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒とするポリアクリロニトリル(重量平均分子量150000)の15質量%溶液を、エレクトロスピニング装置(NEU,カトーテック社製)により、印加電圧15kVで電界紡糸することで作製した。
このナノファイバー膜を1cm
2のサイズ(4mg)に切り出して、実施例1と同様の方法で調製した混合溶液(40ml)に投入し、140℃の水熱処理を2日間実施し、実施例1と同様に濾過・水洗浄及び凍結乾燥を行って粉末試料を得た。この粉末試料の相対湿度60%下におけるXRDパターンからは、層間隔は0.78nmと算出された。併せて、この試料のFTIRスペクトルにおいて1360cm
-1近傍のピークが観測されたことから、炭酸型層状複水酸化物が得られたと判断できる。この粉末試料を開口18μmのポリエステル製の篩により分級して、分級粉末試料を得た。この分級粉末試料をSEM観察した結果を
図12に示す。殆どの合成された粒子が花冠形状であることが確認された。また、実施例1と同様の方法で作成した粒度分布曲線(
図13)からは、得られた分級粉末試料は、中心径D
50=39.0μm、D
10=23.0μm、D
90=56.0μmの、ピーク値を示さないショルダーが付随する単一のピーク(準単一ピーク)を示す粒度分布となることが確認された。この粉体の透水係数は、2.1×10
-4cm/secであった。以上の結果を表1にまとめて示す。
【0049】
<比較例1>
原料として市販の層状腹水酸化物(DHT−6、協和化学社製)を用い、これに実施例2と同様の方法で過塩素酸処理を行った。この粉末試料の相対湿度60%下におけるXRDパターンからは、層間隔が0.9nmと算出された。また、FTIRスペクトルにおいて1080cm
-1近傍のピークが観測されたことから、過塩素酸型に変換された試料が得られたと判断できる。実施例1と同様に実施した粒度分布測定及び透水試験の結果を表1に示す。透水試験では、1日経過しても水が浸透せず、透水係数を求めることができなかった。この結果から、本比較例に係る粉末試料をカラム充填材に適用することは不可能と判断できる。