(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-32539(P2020-32539A)
(43)【公開日】2020年3月5日
(54)【発明の名称】ドリルビット及びあと施工アンカーの施工方法
(51)【国際特許分類】
B28D 1/14 20060101AFI20200207BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20200207BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20200207BHJP
F16B 13/10 20060101ALI20200207BHJP
E21B 10/00 20060101ALI20200207BHJP
【FI】
B28D1/14
E04G21/12 105Z
E04B1/41 503G
F16B13/10 C
E21B10/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-158356(P2018-158356)
(22)【出願日】2018年8月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】成願 正彦
【テーマコード(参考)】
2D129
2E125
3C069
3J025
【Fターム(参考)】
2D129AA06
2D129AB20
2D129AC08
2D129BA30
2D129BB20
2D129DA12
2D129EB22
2D129GA34
2D129GB09
2D129HB01
2E125AA76
2E125AF01
2E125AF02
2E125AG13
2E125AG26
2E125BA17
2E125BB08
2E125BB09
2E125BB29
2E125BC06
2E125BC09
2E125BD01
2E125BE07
2E125BF01
2E125CA82
2E125EB12
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB01
3C069CA10
3C069EA03
3J025AA08
3J025BA25
3J025BA35
3J025CA03
3J025DA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】拡径刃の良好な拡径・復元動作を持続的に維持することができ、施工コストを低減することができるドリルビットを提供する。
【解決手段】先端部に設けられる拡底スリーブ6と、拡底スリーブ6に定置して内装される拡底ブレード7を備え、拡底スリーブ6には、周壁の対向位置に拡径刃出入り窓65が形成され、拡底ブレード7は、一対の拡径刃71・71と、一対の拡径刃71・71を先端側で傾動可能に支持して閉付勢するねじりコイルばね72から構成され、拡径刃71のそれぞれの先端側からねじりコイルばね72のアーム部722が着脱自在に係入される係合収容部が形成され、拡底ブレード7の内寄り後端への押圧によって拡径刃71が傾動して拡径可能になっているドリルビット。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に設けられる拡底スリーブと、
前記拡底スリーブに定置して内装される拡底ブレードを備え、
前記拡底スリーブには、周壁の対向位置に拡径刃出入り窓が形成され、
前記拡底ブレードは、一対の拡径刃と、前記一対の拡径刃を先端側で傾動可能に支持して閉付勢するねじりコイルばねから構成され、
前記拡径刃のそれぞれの先端側から前記ねじりコイルばねのアーム部が着脱自在に係入される係合収容部が形成され、
前記拡底ブレードの内寄り後端への押圧によって前記拡径刃が傾動して拡径可能になっていることを特徴とするドリルビット。
【請求項2】
前記拡底ブレードの先端に前記ねじりコイルばねの保護部が設けられ、
前記保護部が前記拡底スリーブの嵌合溝に嵌合されて前記拡底ブレードが定置されていることを特徴とする請求項1記載のドリルビット。
【請求項3】
請求項1又は2記載のドリルビットを拡径孔部形成用ドリルビットとして用いるあと施工アンカーの施工方法であって、
ストレート孔形成用ドリルビットで既設構造物に穿孔を形成する第1工程と、
前記拡径孔部形成用ドリルビットの先端が前記穿孔の底部に略当接するまで前記拡径孔部形成用ドリルビットを前記穿孔に挿入し、前記拡径刃を拡径して前記拡径刃出入り窓から外側に突出し、前記穿孔の底部近傍にテーパ状の拡径孔部を形成する第2工程と、
前記拡径孔部にアンカーの係止部を係合するようにして前記アンカーを打設する第3工程を備えることを特徴とするあと施工アンカーの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路等の既設構造物にあと施工アンカーを設置する穿孔を形成する際に、穿孔の底部近傍にテーパ状の拡径孔部を形成することができるドリルビット及びあと施工アンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設構造物に穿孔を形成する際に穿孔の底部近傍にテーパ状の拡径孔部を形成できるドリルビットとして特許文献1のドリルビットがある。このドリルビットは、先端のストレート孔加工用カッタブレードで先行してストレート孔を穿孔し、このストレート孔を拡径するように非拡径状態にあるアンダーカット加工用カッタブレードで下孔を穿孔すると共に、下孔深さが所定の深さとなった段階で揺動突出によりアンダーカット加工用カッタブレードを拡径し、先端のストレート孔に近接する部分にテーパ状の拡径孔部を形成するものである。
【0003】
上記アンダーカット加工用カッタブレードは、そのフック部が操作ロッドの下端の受容係止部に係合されており、通常は操作ロッドを引き上げる力の作用によりアンダーカット加工用カッタブレードは未拡張状態とされ、テーパ状の拡径孔部を加工する時には、操作ロッドを押し下げることにより、フック部が受容係止部に係合されたアンダーカット加工用カッタブレードを揺動しながら拡径する。(特許文献1の段落[0067]〜[0073]、
図39〜
図41参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−183707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のドリルビットは、繰り返し拡径穿孔を行っているうちに、アンダーカット加工用カッタブレード(拡径用カッタブレード)のフック部と操作ロッドの受容係止部で構成される可動部に切粉が詰まっていき、遂には拡径用カッタブレードが元の位置に戻らなくなりドリルビットが抜けなくなってしまうという不具合がある。特に穿孔を施す母材がアスファルトである場合には、穿孔時にビット刃が熱を帯び、それによって粘性が増したアスファルトが拡径用カッタブレードの可動部に付着し易いことから、拡径用カッタブレードが復元不能になってドリルビットが抜けなくなる事態がより発生しやすい。
【0006】
斯様な事態を回避するためには、事前に、ストレート孔加工用カッタブレード、拡径用カッタブレード、操作ロッド、カッタボディから構成されるドリルビット全体を新しいものに交換する必要があるが、ドリルビット全体の頻繁な交換は施工コストの上昇を招いてしまう。そのため、拡径刃の良好な拡径・復元動作を持続的に維持することができ、施工コストを低減することができるドリルビットが求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、既設構造物に形成する穿孔の底部近傍にテーパ状の拡径孔部を形成できるドリルビットにおいて、拡径刃の良好な拡径・復元動作を持続的に維持することができ、施工コストを低減することができるドリルビット、及びこのドリルビットを用いるあと施工アンカーの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のドリルビットは、先端部に設けられる拡底スリーブと、前記拡底スリーブに定置して内装される拡底ブレードを備え、前記拡底スリーブには、周壁の対向位置に拡径刃出入り窓が形成され、前記拡底ブレードは、一対の拡径刃と、前記一対の拡径刃を先端側で傾動可能に支持して閉付勢するねじりコイルばねから構成され、前記拡径刃のそれぞれの先端側から前記ねじりコイルばねのアーム部が着脱自在に係入される係合収容部が形成され、前記拡底ブレードの内寄り後端への押圧によって前記拡径刃が傾動して拡径可能になっていることを特徴とする。
これによれば、拡底ブレードを一対の拡径刃と、一対の拡径刃を先端側で傾動可能に支持して閉付勢するねじりコイルばねから構成し、拡径刃のそれぞれの先端側から係合収容部にねじりコイルばねのアーム部を着脱自在に係入する構造とすることにより、拡底ブレードを必要に応じて工具無しで簡単に分解して清掃し、清掃後に簡単に再構築することができる。従って、こまめに拡底ブレードを清掃することが可能となり、コンクリートやアスファルトの切粉、粘性が増したアスファルト等が拡底ブレードの動作を妨げることを事前に防止し、拡径刃の良好な拡径・復元動作を持続的に維持することができる。また、ドリルビット全体の頻繁な交換は不要で、拡底ブレードの簡単な清掃で済むことから、施工コストを低減することもできる。
【0009】
本発明のドリルビットは、前記拡底ブレードの先端に前記ねじりコイルばねの保護部が設けられ、前記保護部が前記拡底スリーブの嵌合溝に嵌合されて前記拡底ブレードが定置されていることを特徴とする。
これによれば、ねじりコイルばねを保護部で保護することにより、ねじりコイルばねの所要動作を確実に得ることができると共に、ねじりコイルばねの破損を防止できる。また、保護部を拡底スリーブの嵌合溝に嵌合して拡底ブレードを定置することにより、拡底スリーブ内で拡底ブレードを安定して定置することができる。
【0010】
本発明のあと施工アンカーの施工方法は、本発明のドリルビットを拡径孔部形成用ドリルビットとして用いるあと施工アンカーの施工方法であって、ストレート孔形成用ドリルビットで既設構造物に穿孔を形成する第1工程と、前記拡径孔部形成用ドリルビットの先端が前記穿孔の底部に略当接するまで前記拡径孔部形成用ドリルビットを前記穿孔に挿入し、前記拡径刃を拡径して前記拡径刃出入り窓から外側に突出し、前記穿孔の底部近傍にテーパ状の拡径孔部を形成する第2工程と、前記拡径孔部にアンカーの係止部を係合するようにして前記アンカーを打設する第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、拡底ブレードが復元不能になってドリルビットが抜けなくなる事態を防止或いは最大限抑制しつつあと施工アンカーを施工することができ、全体的なあと施工アンカーの施工作業を効率化することができる。また、本発明のドリルビットを拡径孔部形成用ドリルビットとして用い、ストレートな穿孔の形成にはストレート孔形成用ドリルビットを別途用いることにより、本発明のドリルビットの構造を簡易で低コストな構造とすることができると共に、全体的な穿孔作業における使用割合を低減し、本発明のドリルビットに穿孔作業で加わる負荷を少なくして製品寿命を長期化することができる。更に、全体的な穿孔作業における使用割合を低減することにより、切粉詰まりが発生する可能性をより一層低下させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既設構造物に形成する穿孔の底部近傍にテーパ状の拡径孔部を形成できるドリルビットを、拡径刃の良好な拡径・復元動作を持続的に維持することができ、施工コストを低減することができるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は本発明による実施形態のドリルビットの正面図、(b)はその縦断面図、(c)はその拡底ブレードの拡開状態における縦断面図。
【
図2】実施形態のドリルビットにおけるシャンクスリーブの正面図。
【
図3】実施形態のドリルビットにおける中間スリーブの正面図。
【
図4】(a)は実施形態のドリルビットにおけるスリーブジョイントの縦断面図、(b)はそのスリーブジョイントの同図(a)の切断面に対して垂直な切断面の縦断面図。
【
図5】実施形態のドリルビットにおけるシャフトの正面図。
【
図6】(a)は実施形態のドリルビットにおける拡底スリーブの正面図、(b)はその平面図、(c)はその縦断面図。
【
図7】(a)は実施形態のドリルビットにおける拡底ブレードの平面図、(b)はその左側面図、(c)はその正面図、(d)は同図(a)の拡底ブレードからねじりコイルばねを抜いた状態の正面図、(e)は同図(e)のA−A矢視図、(f)は同図(a)の拡底ブレードの分解図。
【
図8】(a)、(b)は実施形態のドリルビットの拡径動作を説明する部分拡大説明図。
【
図9】(a)は実施形態のドリルビットで形成された穿孔に打設される第1例のアンカーの斜視図、(b)は第1例のアンカーの拡張スリーブの斜視図、(c)は第1例のアンカーの正面図、(d)は第1例のアンカーの縦断面図、(e)は第1例のアンカーに取付ボルトを螺合して拡開した状態の縦断面図。
【
図10】(a)〜(g)は実施形態のドリルビットを用いて第1例のアンカーを施工する手順を説明する説明図。
【
図11】(a)〜(g)は実施形態のドリルビットを用いて第2例のアンカーを施工する手順を説明する説明図。
【
図12】第1例のアンカーを用いて立設構造体を設置した例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態のドリルビット及びあと施工アンカーの施工方法〕
本発明による実施形態のドリルビット1は、
図1〜
図8に示すように、シャンクスリーブ2と、シャンクスリーブ2の先端側に設けられる中間スリーブ3と、中間スリーブ3に内装される圧縮コイルばね4と、中間スリーブ3の先端側に設けられるスリーブジョイント5と、ドリルビット1の先端部に設けられる拡底スリーブ6と、拡底スリーブ6に定置して内装されている拡底ブレード7と、シャンクスリーブ2から拡底スリーブ6まで延在して設けられる略円柱棒状のシャフト8を有する。
【0014】
シャンクスリーブ2は、
図2に示すように、ハンマードリル等に取り付けられるシャンク部21を有し、シャンク部21の先端側に略有底円筒形のスリーブ部22が設けられている。スリーブ部22の後部寄りには外方に突出する段差面23が形成されている。スリーブ部22には、シャフト8の後部が嵌挿され、スリーブ部22のピン孔24とシャフト8のピン孔81にスプリングピン等のピン25が連通され、スリーブ部22にシャフト8が嵌合された状態でピン結合されている。また、シャンクスリーブ2の前部にはビス孔26が対向する位置に形成されている。
【0015】
中間スリーブ3は、
図3に示すように、略円筒形の部材であり、先端部の内周面には雌ねじ31が形成されていると共に、後部寄りの対向する位置には軸方向に延びる長孔状のストロークガイド32が周壁に形成されている。雌ねじ31にはスリーブジョイント5の後側の雄ねじ51が螺合され、中間スリーブ3の後側にはシャンクスリーブ2のスリーブ部22が内挿され、スリーブジョイント5の後端面52とスリーブ部22の前端面221との間に位置するようにして中間スリーブ2に圧縮コイルばね4が内装されている。シャンクスリーブ2を中間スリーブ3に押し込まずに力を加えない状態では、圧縮コイルばね4の両端はそれぞれスリーブジョイント5の後端面52とスリーブ部22の前端面221に略当接或いは近接した状態になっている。
【0016】
シャンクスリーブ2に固定されたシャフト8は、圧縮コイルばね4の内側を通るようにして中間スリーブ3に内装される。また、中間スリーブ3に内挿されたスリーブ部22のビス孔26にはガイドビス33が取り付けられ、ガイドビス33はストロークガイド32の外側に若干突出する或いはストロークガイド32に引っ掛かるようにして設けられる。ガイドビス33がストロークガイド32に沿って移動する構成により、中間スリーブ3がシャンクスリーブ2、シャフト8に対して回転不能になっており、シャンクスリーブ2の回転力を拡底スリーブ6まで伝達可能になっていると共に、ストロークガイド32に沿うスムーズな動きでシャンクスリーブ2、シャフト8を拡底スリーブ6側に押し込めるようになっている。
【0017】
尚、シャンクスリーブ2、シャフト8の拡底スリーブ6側に押し込むことが可能な距離Sは、圧縮コイルばね4に圧縮力が加わらずにスリーブ部22の前端面221が略当接或いは近接している状態における段差面23と中間スリーブ3の後端面34との間の距離であり、シャンクスリーブ2、シャフト8を距離Sだけ押し込んで段差面23と後端面34を当接させた状態では、後述する拡底ブレード7が最大限に拡径した状態となる(
図1参照)。
【0018】
スリーブジョイント5は、
図4に示すように、前述の後側の雄ねじ51の他に、基部53を挟んで前側に雄ねじ54を有し、雄ねじ54は拡底ブレード6の後部の内周面に形成された雌ねじ61に螺合されている。即ち、中間スリーブ3と拡底スリーブ6はスリーブジョイント5にそれぞれ螺着され、ドリルビット1の回転動作の際に中間スリーブ3と拡底スリーブ6が相互に回転不能な状態で固定されている。スリーブジョイント5の基部53の対向する位置には、スパナ等の工具を嵌められる平面部55が設けられている。また、スリーブジョイント5にもシャフト8が内挿され、シャフト8は拡底スリーブ6の内部まで到達するように設けられる。
【0019】
拡底スリーブ6は、
図6に示すように、略円錐状の先端部62が形成された略有底円筒状であり、後部の内周面にはスリーブジョイント5の雄ねじ54が螺合される雌ねじ61が形成されている。拡底スリーブ6の先端部62の内側には拡底ブレード7が嵌合される嵌合溝63が形成され、周壁64における嵌合溝63の延在方向の対向位置には拡径刃出入り窓65・65が形成されている。
【0020】
拡底ブレード7は、
図7に示すように、一対の拡径刃71・71と、一対の拡径刃71・71を先端側で傾動可能に支持して閉付勢するねじりコイルばね72から構成されている。拡径刃71は、超硬チップ等の刃材711を外側に有し、その後端面712は内側に向かって先端方向に傾斜する傾斜面になっている。後端面712の内寄りには、シャフト8の段階的或いは漸次に先細になった先端部82を入り込みやすくするように、内側に向かって先端方向に後端面712より急角度で傾斜する傾斜溝713が形成されている。一対の拡径刃71・71の内側面714・714を合わせた状態では、後端面712・712で先端側に谷状に凹む形状が形成され、傾斜溝713・713で略円錐状の孔が形成されるようになっている。
【0021】
拡底ブレード7の先端に相当する拡径刃7の先端には略弧状の保護部715が形成され、一対の拡径刃71・71の保護部715・715の間にねじりコイルばね72の巻回部721が収容され、保護部715・715によってねじりコイルばね72が保護される。拡径刃71には、先端側から係合収容部に相当する係合収容溝716が設けられ、係合収容溝716はねじりコイルばね72のアーム部722の延びる形状に合わせて拡径刃71の正面と背面にそれぞれ形成されている。ねじりコイルばね72のアーム部722は係合収容溝716に着脱自在に係入され、一対の拡径刃71・71とねじりコイルばね72から構成される拡底ブレード7はねじりコイルばね72を介して一体化されている。
図7の例では、正面と背面の係合収容溝716・716に収容されるアーム部722で正面側と背面側から一対の拡径刃71・71が内方に付勢されて挟持されるようにして拡底ブレード7が一体化されている。
【0022】
拡底ブレード7は、
図7(f)のように、ねじりコイルばね72のアーム部722、巻回部721をそれぞれ係合収容溝716、保護部715・715間の収容部から取り外すことにより、容易に分解することが可能である。尚、アーム部722の先端寄りの部分が係合される係合収容部は、係合収容溝716に代えて、拡径刃71に孔状に形成された係合収容孔とすることも可能である。また、拡底ブレード7は、保護部715・715が拡底スリーブ6の嵌合溝63に嵌合されることにより、拡底スリーブ6内で定置される。
【0023】
本実施形態のドリルビット1を使用する際には、
図8に示すように、穿孔径D1で形成された穿孔91の底部に略当接するまでドリルビット1を穿孔91に挿入し、圧縮コイルばね4を圧縮するようにしてシャンクスリーブ2、シャフト8を先端側に押し込み(
図8(a)の太線矢印参照)、シャフト8の先端で拡底ブレード7の内寄り後端を押圧する、換言すればシャフト8の先端で傾斜溝713、後端面712を押圧することにより、拡径刃71・71をねじりコイルばね72の閉付勢に抗して傾動させて拡径させる(
図8(b)の太線矢印参照)。拡径した拡径刃71・71は、それぞれ拡径刃出入り窓65・65から外側に突出し、超硬チップ等の刃材711も外側に突出する。そして、拡径刃71・71を拡径した状態でドリルビット1に回転力を与え、穿孔91の底部近傍に穿孔径D2のテーパ状の拡径孔部92を形成する。
【0024】
テーパ状の拡径孔部92の形成を完了した際には、シャンクスリーブ2、シャフト8の先端側への押込力を解放し、シャンクスリーブ2、シャフト8は圧縮コイルばね4の付勢でドリルビット1の後側に移動して復元する。これに伴い、シャフト8の先端による拡底ブレード7への押圧も解放され、拡底ブレード7はねじりコイルばね72の付勢で
図8(a)の閉状態に復元し、拡径刃71、71は拡径刃出入り窓65・65の内側に入って拡底スリーブ6内に収容される。そして、拡底ブレード7が閉状態になったドリルビット1を拡径孔部92が形成された穿孔91から抜き出す。
【0025】
本実施形態のドリルビット1は、多様なあと施工アンカーの設置、施工に使用することが可能であり、例えば
図9の金属拡張式アンカーである第1例のアンカー100の施工に使用することが可能である。第1例のアンカー100は、略円筒形のスリーブ110と、拡張スリーブ120と、段付きナット130から構成される。スリーブ110の先端部には先端に向かって内側に傾斜するテーパ面111が形成されており、その後部にはアンカー100の埋込深さ、アンカー100が挿入される穿孔303の穿孔深さが正しい位置になっているか確認するための位置確認部112が設けられている。本例の位置確認部112は、スリーブ110の長さ方向の所定位置にローレット状で周状に設けられている。
【0026】
拡張スリーブ120は、環状の基部121に複数の拡張片123が薄肉ヒンジ部122を介して立設されたものであり、一の拡張片123と薄肉ヒンジ部122と、これと隣り合う別の拡張片123と薄肉ヒンジ部122との間は切り込まれたスリット124で区分されている。段付きナット130は、基部131と基部131の外周面よりも外側に環状に突出する底部132から形成され、基部131と底部132を連通するように取付ボルト140を螺合する雌ねじ133が形成されている。
【0027】
アンカー100では、スリーブ110の先端に拡張スリーブ120の拡張片123が当接するように配置され、段付きナット130の基部131を拡張スリーブ120に内挿し、段付きナット130の底部132を拡張スリーブ120の基部121に当接するように配置される。そして、スリーブ110、拡張スリーブ120に内挿される取付ボルト140の先端部を段付きナット130の雌ねじ133に螺合して一体化される。
【0028】
第1例のアンカー100を施工する際には、例えばストレート孔形成用ドリルビット301でアスファルト或いはコンクリート等の既設構造物302に穿孔303を形成し、穿孔303内を清掃具304で清掃する(
図10(a)、(b)参照)。その後、拡径孔部形成用ドリルビットとしてドリルビット1を用い、ドリルビット1の先端が穿孔303の底部305に略当接するまでドリルビット1を穿孔303に挿入し、拡径刃71・71を拡径して拡径刃出入り窓65・65から外側に突出し、穿孔303の底部近傍にテーパ状の拡径孔部306を形成する(
図10(c)参照)。拡径孔部306の形成後には、穿孔303内を清掃具304で再度清掃する(
図10(d)参照)。
【0029】
その後、拡張片123が非拡張状態で取付ボルト140により一体化されているアンカー100を段付きナット130側から穿孔303に挿入し、位置確認部112が既設構造物302の表面に位置してアンカー100の埋込深さ或いは穿孔303の穿孔深さが正しいことを確認する(
図10(e)参照)。そして、スリーブ110の後端面113に略有底円筒形の打込具307の開放側の先端面308を当接させ、打込具307の後端をハンマー309で打撃する。この打撃により、スリーブ110のテーパ面111が複数の拡張片123の内側に入り込み、拡張片123が拡張してアンカー100が打設される。複数の拡張した拡張片123はアンカー100の係止部を構成し、拡径孔部306に係合される(
図10(f)参照)。
【0030】
その後、アンカー100によって取り付けられる所要の構造体の取付板310を、既設構造物302から突出する取付ボルト140に挿通するように配置し、取付板310の外側からワッシャー141を取付ボルト140に外挿し、更に、その外側からナット142を取付ボルト140に螺合して、所要の構造体が既設構造物302に取り付けられる(
図10(g)参照)。
【0031】
また、本実施形態のドリルビット1は、
図11の樹脂注入式アンカーである第2例のアンカー200の施工に使用することも可能である。第2例のアンカー200を施工する際にも、
図11(a)〜(d)のように、第1例のアンカー100の
図10(a)〜(d)に対応する施工工程を同様の施工工程を行う。その後、穿孔303に樹脂カプセル200aを挿入し(
図11(e)参照)、先端が鋭利な取付ボルト210を穿孔303に挿入して樹脂カプセル200aを破断する。樹脂カプセル200aから流出した樹脂は所定時間の経過で取付ボルト210を埋設するように硬化して第2例のアンカー200を構成する。樹脂注入式アンカーであるアンカー200の一部である係止部201は拡径孔部306に係合される(
図11(f)参照)。
【0032】
その後、第1例のアンカー100の場合と同様に、アンカー100によって取り付けられる所要の構造体の取付板310を、既設構造物302から突出する取付ボルト210に挿通するように配置し、取付板310の外側からワッシャー211を取付ボルト210に外挿し、更に、その外側からナット212を取付ボルト210に螺合して、所要の構造体が既設構造物302に取り付けられる(
図11(g)参照)。
【0033】
本実施形態によれば、ドリルビット1の拡底ブレード7を一対の拡径刃71・71と、一対の拡径刃71・71を先端側で傾動可能に支持して閉付勢するねじりコイルばね72から構成し、拡径刃71のそれぞれの先端側から係合収容溝716にねじりコイルばね72のアーム部722を着脱自在に係入する構造とすることにより、拡底ブレード7を必要に応じて工具無しで簡単に分解して清掃し、清掃後に簡単に再構築することができる。従って、こまめに拡底ブレード7を清掃することが可能となり、コンクリートやアスファルトの切粉、粘性が増したアスファルト等が拡底ブレード7の動作を妨げることを事前に防止し、拡径刃71の良好な拡径・復元動作を持続的に維持することができる。また、ドリルビット全体の頻繁な交換は不要で、拡底ブレード7の簡単な清掃で済むことから、施工コストを低減することもできる。
【0034】
また、ねじりコイルばね72を保護部715・715で保護することにより、ねじりコイルばね72の所要動作を確実に得ることができると共に、ねじりコイルばね72の破損を防止できる。また、保護部715・715を拡底スリーブ6の嵌合溝63に嵌合して拡底ブレード7を定置することにより、拡底スリーブ6内で拡底ブレード7を安定して定置することができる。
【0035】
また、ドリルビット1を拡径孔部形成用ドリルビットとして用いるあと施工アンカーの施工方法によれば、拡底ブレード7が復元不能になってドリルビット1が抜けなくなる事態を防止或いは最大限抑制しつつアンカー100、200等のあと施工アンカーを施工することができ、全体的なあと施工アンカーの施工作業を効率化することができる。また、ドリルビット1を拡径孔部形成用ドリルビットとして用い、ストレートな穿孔の形成にはストレート孔形成用ドリルビット301を別途用いることにより、本発明のドリルビットの構造を簡易で低コストな構造とすることができると共に、全体的な穿孔作業における使用割合を低減し、本発明のドリルビットに穿孔作業で加わる負荷を少なくして製品寿命を長期化することができる。更に、全体的な穿孔作業における使用割合を低減することにより、切粉詰まりが発生する可能性をより一層低下させることができる。
【0036】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0037】
上記実施形態のドリルビット1は、シャンクスリーブ2、中間スリーブ3、圧縮コイルばね4、スリーブジョイント5、シャフト8を備える構造としたが、本発明のドリルビットには、拡底スリーブ、拡底ブレードが所定の構造で形成され、所定の動作をするものであれば適宜の構造のものが包含される。
【0038】
また、本発明のあと施工アンカーの施工方法で施工されるあと施工アンカーを用いて、既設構造物に取り付けられる構造体は適宜であり、例えば
図12に示すように、アスファルトの道路舗装401に第1例のアンカー100を打設し、取付板402を介してワイヤーロープ式防護柵403を取り付け、設置すること等が可能である。尚、アスファルト等の脆弱母材だけにあと施工アンカーを設置する際には、ストレートな穿孔の穿孔径D1に対するテーパ状の拡径孔部の穿孔径D2が1.5倍以上になるように形成し、この拡径孔部の穿孔径D2の略全体に亘ってアンカーの係止部が係止される構造とすると、必要な強度を確保できて良好である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば道路等の既設構造物にあと施工アンカーを設置する穿孔を形成する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…ドリルビット 2…シャンクスリーブ 21…シャンク部 22…スリーブ部 221…前端面 23…段差面 24…ピン孔 25…ピン 26…ビス孔 3…中間スリーブ 31…雌ねじ 32…ストロークガイド 33…ガイドビス 34…後端面 4…圧縮コイルばね 5…スリーブジョイント 51…雄ねじ 52…後端面 53…基部 54…雄ねじ 55…平面部 6…拡底スリーブ 61…雌ねじ 62…先端部 63…嵌合溝 64…周壁 65…拡径刃出入り窓 7…拡底ブレード 71…拡径刃 711…刃材 712…後端面 713…傾斜溝 714…内側面 715…保護部 716…係合収容溝 72…ねじりコイルばね 721…巻回部 722…アーム部 8…シャフト 81…ピン孔 82…先端部 91…穿孔 92…拡径孔部 100…アンカー 110…スリーブ 111…テーパ面 112…位置確認部 113…後端面 120…拡張スリーブ 121…基部 122…薄肉ヒンジ部 123…拡張片 124…スリット 130…段付きナット 131…基部 132…底部 133…雌ねじ 140…取付ボルト 141…ワッシャー 142…ナット 200…アンカー 201…係止部 200a…樹脂カプセル 210…取付ボルト 211…ワッシャー 212…ナット 301…ストレート孔形成用ドリルビット 302…既設構造物 303…穿孔 304…清掃具 305…底部 306…拡径孔部 307…打込具 308…先端面 309…ハンマー 310…取付板 401…アスファルトの道路舗装 402…取付板 403…ワイヤーロープ防護柵 S…シャンクスリーブ、シャフトの拡底スリーブ側に押し込むことが可能な距離 D1…穿孔の穿孔径 D2…拡径孔部の穿孔径