【課題】ワイヤーロープ式防護柵等の取付物に衝撃荷重がかかってアスファルト舗装構造に破損が生じた場合でも、アスファルト舗装の下層が破壊されることを防止することができ、アスファルト舗装構造の破損の補修作業に要する労力を低減することができる。
【解決手段】雌ねじ部が設けられ且つスリーブ11の外径に対して1.5倍以上の外径を有する拡径部が設けられている機械式のアンカー1が、拡径部を先端側にしてアスファルト舗装104の内部に固定され、後端部がアスファルト舗装104から突出するようにして取付ボルト14が雌ねじ部に螺着され、取付ボルト14の突出した後端部に取付物200が固定される取付物取付構造。
雌ねじ部が設けられ且つスリーブの外径に対して1.5倍以上の外径を有する拡径部が設けられている機械式のアンカーが、前記拡径部を先端側にしてアスファルト舗装の内部に固定され、
後端部が前記アスファルト舗装から突出するようにして取付ボルトが前記雌ねじ部に螺着され、
前記取付ボルトの突出した前記後端部に取付物が固定されていることを特徴とする取付物取付構造。
前記アンカーが打設されている前記アスファルト舗装の穿孔の隙間を埋めるようにして、注入材が注入されて硬化していることを特徴とする請求項1又は2記載の取付物取付構造。
前記第3工程において、前記アンカーを内挿する前に前記穿孔に注入材を注入し、前記注入材が硬化する前に前記穿孔に前記アンカーを内挿して前記拡張片を拡開させることを特徴とする請求項4又は5記載の取付物取付構造の施工方法。
【背景技術】
【0002】
橋梁やトンネルの道路舗装におけるアスファルト舗装は8cm程度の厚さで形成され、その下にはコンクリート床板が設けられることが一般的であり、
図15のような構造とされる。
図15のアスファルト舗装構造では、コンクリート床板301の上に接着層302、防水層303が順に積層され、その上に基層アスファルト舗装304m、表層アスファルト舗装304nが順に積層されている。
【0003】
このアスファルト舗装構造に、例えばワイヤーロープ式防護柵のような取付物を取り付ける場合、従来の施工工程では、
図15のように、アスファルト舗装を貫通させてコンクリート床板301の内部まで穿孔305を形成し、穿孔305の大径孔部306で金属拡張式のアンカー307の拡張片308を拡開させて孔壁に係止させると共に、大径孔部306を含む穿孔305内にモルタル309を充填して硬化させる。そして、アンカー307におけるアスファルト舗装から地上に突出する雄ねじ部310に取付物の取付板311の貫通穴を外挿し、ワッシャー312を介してナット313を締め付けることにより、取付板311を介して取付物を取り付けている。
【0004】
尚、斯様な取付物のアスファルト舗装構造への取り付けと関連する施工方法として、特許文献1にはアスファルト面への自動販売機の取り付け方法が開示されている。この取り付け方法では、アスファルト面に穴を形成すると共にその下の土部分にアスファルト面の穴よりも直径の大きい穴を形成してアンカーボルトを挿入し、アンカーボルトの拡張片を開いた状態にし、穴の残部の空隙にモルタルを注入する。そして、アンカーボルトの地上への突出部分に平板ブロックの貫通穴を外挿して、平板ブロックを用いて自動販売機を固定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の取付構造でアスファルト舗装に取り付けられたワイヤーロープ式防護柵等の取付物に車両が衝突する等でアンカー307に大きな衝撃荷重がかかった場合には、
図15の太点線で示される深く広範囲の領域が破壊されてコンクリート床板301ごと根こそぎ破壊されてしまう。このような破壊が生ずると、コンクリート床板301の補修を含め、補修作業に多大な労力が必要となる。
【0007】
特に、近年では高速道路等で雨水の排水性や騒音低減効果に優れる高機能アスファルト舗装が採用されることが増えているが、高機能アスファルト舗装は多孔性のポーラスアスファルト舗装であり通常のアスファルト舗装よりも強度が低いため、衝撃荷重がかかった場合に根こそぎ破壊される領域の深さや広さも一層大きなものとなってしまう。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、ワイヤーロープ式防護柵等の取付物に衝撃荷重がかかってアスファルト舗装構造に破損が生じた場合でも、アスファルト舗装の下層が破壊されることを防止することができ、アスファルト舗装構造の破損の補修作業に要する労力を低減することができる取付物取付構造及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の取付物取付構造は、雌ねじ部が設けられ且つスリーブの外径に対して1.5倍以上の外径を有する拡径部が設けられている機械式のアンカーが、前記拡径部を先端側にしてアスファルト舗装の内部に固定され、後端部が前記アスファルト舗装から突出するようにして取付ボルトが前記雌ねじ部に螺着され、前記取付ボルトの突出した前記後端部に取付物が固定されていることを特徴とする。
これによれば、機械式のアンカーをアスファルト舗装の内部に固定して取付物を固定することにより、ワイヤーロープ式防護柵等の取付物に衝撃荷重がかかってアスファルト舗装構造に破損が生じた場合でも、アスファルト舗装のコンクリート層等の下層が破壊されることを防止することができる。従って、アスファルト舗装構造に破損が生じても破損の補修作業に要する労力を低減することができる。また、スリーブの外径に対して1.5倍以上の外径を有する拡径部が設けられている機械式のアンカーをアスファルト舗装の内部に固定することにより、取付物の取り付けに必要な取付強度を確保することができる。また、取付物に衝撃荷重がかかってアスファルト舗装が破損する場合、取付ボルトの曲がり、スリーブへの荷重負荷、アスファルト舗装のアンカーの固定部分への荷重負荷、アスファルト舗装の延性による伸び、アスファルト舗装の延性破壊の順で衝撃を吸収しながらアスファルト舗装の破損が生ずるため、衝撃吸収力が高い。そのため、例えばワイヤーロープ式防護柵等の取付物に車両が衝突した場合に車両を急激にはじくことなく、衝撃を吸収することができ、衝撃を加えた車両等の対象に与えるダメージを緩和することができる。また、アスファルト舗装の内部に固定される機械式のアンカーに雌ねじ部が設けられていることにより、アスファルト舗装から突出する取付ボルトの交換が可能である。従って、必ずしもアスファルト舗装が破損せずとも、取付ボルトの取り外しによって取付物を取り外し、他の取付物と交換することも可能である。
【0010】
本発明の取付物取付構造は、前記アスファルト舗装の前記アンカーと隣接する領域に充填材が浸透するように充填されて硬化しており、前記アスファルト舗装の前記充填材が充填された領域の空隙率が前記アスファルト舗装のそれ以外の領域の空隙率よりも低くなっていることを特徴とする。
これによれば、アスファルト舗装のアンカーと隣接する領域に充填材を浸透させて空隙率を低下させることにより、アンカーの埋め込む深さを浅くしても必要な定着力、固定強度を確実に得ることができると共に、アスファルト舗装の骨材のムラや温度の影響を受けにくくし、アンカーの定着をより安定化させることができる。特に、高機能なポーラスアスファルト舗装が夏場の高温で柔らかくなってしまうような場合にも、アンカー定着の確実性、安定性を高めることができる。
【0011】
本発明の取付物取付構造は、前記アンカーが打設されている前記アスファルト舗装の穿孔の隙間を埋めるようにして、注入材が注入されて硬化していることを特徴とする。
これによれば、穿孔におけるアンカーの周囲の隙間を注入材で埋めることにより、アスファルト舗装に対するアンカーの定着力、固定強度を一層高めることができる。
【0012】
本発明の取付物取付構造の施工方法は、本発明の取付物取付構造を施工する方法であって、機械式のアンカーが打設されるアスファルト舗装の内部の領域に充填材を浸透させるように充填して硬化させる第1工程と、前記充填材が充填された領域内に穿孔を形成する第2工程と、前記穿孔に前記アンカーを内挿し、前記アンカーの拡張片を拡開して前記穿孔の孔壁に係止し、前記アンカーのスリーブの外径に対して1.5倍以上の外径を有する拡径部を拡開した前記拡張片で構成する第3工程と、前記アンカーの雌ねじ部に螺着された取付ボルトの前記アスファルト舗装から突出した後端部に取付物を固定する第4工程を備えることを特徴とする。
これによれば、充填材が充填された領域内にアンカーを打設する穿孔を形成することにより、より正確な形状と大きさの穿孔を形成することができる。また、充填材が充填された領域で孔壁を形成できるので、拡張片の係止力を高めることができる。
【0013】
本発明の取付物取付構造の施工方法は、前記第2工程において、前記穿孔の底部近傍に拡径孔部を形成し、前記第3工程において、拡開した前記拡張片を前記拡径孔部の孔壁に係止することを特徴とする。
これによれば、拡径孔部により、拡張片をスリーブの外径に対して1.5倍以上の外径を有するように容易化且つ確実に拡開して孔壁に係止することができる。
【0014】
本発明の取付物取付構造の施工方法は、前記第3工程において、前記アンカーを内挿する前に前記穿孔に注入材を注入し、前記注入材が硬化する前に前記穿孔に前記アンカーを内挿して前記拡張片を拡開させることを特徴とする。
これによれば、スリーブの外径に対して1.5倍以上の外径を有するように拡開させた拡張片の状態、アンカーの設置状態をより安定させることができ、アンカーの定着力、固定強度を一層高めることができる。
【0015】
本発明の取付物取付構造の施工方法は、本発明の取付物取付構造を施工する方法であって、機械式のアンカーが打設されるアスファルト舗装の内部の領域に充填材を浸透させるように充填して硬化させる第1工程と、前記充填材が充填された領域内に穿孔を形成する第2工程と、前記穿孔に注入材を注入し、スリーブの外径に対して1.5倍以上の外径を有する拡径部が形成されている前記アンカーを前記注入材が硬化する前に前記穿孔に内挿し、前記アンカーが内挿された状態で前記注入材を硬化させる第3工程と、前記アンカーの雌ねじ部に螺着された取付ボルトの前記アスファルト舗装から突出した後端部に取付物を固定する第4工程を備えることを特徴とする。
これによれば、拡張片を拡開する機械式のアンカー以外のアンカーを用い、本発明の取付物取付構造を構築することができ、適用する機械式のアンカーの自由度を高めることができる。また、充填材が充填された領域内にアンカーを打設する穿孔を形成することにより、より正確な形状と大きさの穿孔を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ワイヤーロープ式防護柵等の取付物に衝撃荷重がかかってアスファルト舗装構造に破損が生じた場合でも、アスファルト舗装の下層が破壊されることを防止することができ、アスファルト舗装構造の破損の補修作業に要する労力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による実施形態の取付物取付構造で取付物が取り付けられた状態を示す斜視図。
【
図2】実施形態の取付物取付構造を示す一部断面説明図。
【
図3】(a)は実施形態におけるアンカーの分解斜視図、(b)は実施形態におけるアンカーのスリーブと拡張スリーブの斜視図。
【
図4】(a)は実施形態におけるアンカーの拡張スリーブの左側面図、(b)はその正面図、(c)はその縦断面図。
【
図5】(a)は実施形態におけるアンカーのスリーブと拡張スリーブと段付きナットの正面図、(b)はその縦断面図。
【
図6】(a)は実施形態におけるアンカーの拡開状態の部分縦断面図、(b)はその右側面図。
【
図7】(a)〜(g)は実施形態の取付物取付構造を施工する工程を説明する説明図。
【
図8】実施形態の取付物取付構造を施工する工程を説明するフローチャート。
【
図9】(a)は実施形態の取付物取付構造の施工工程で用いられるドリルビットの例の縦断面図、(b)はそのドリルビットで拡底ブレードを拡開した状態の縦断面図。
【
図10】実施形態の取付物取付構造とその破壊挙動を説明する説明図。
【
図11】実施形態の取付物取付構造と従来例の取付物取付構造の引抜試験結果を示すグラフ。
【
図12】(a)は第1変形例のアンカーによる取付物取付構造を示す断面説明図、(b)は第1変形例のアンカーの非拡開状態の斜視図、(c)は第1変形例のアンカーの拡開状態の斜視図。
【
図13】(a)は第2変形例のアンカーによる取付物取付構造を示す断面説明図、(b)は第2変形例のアンカーの斜視図。
【
図14】(a)は第3変形例のアンカーによる取付物取付構造を示す断面説明図、(b)は第3変形例のアンカーの斜視図。
【
図15】従来例の取付物取付構造とその破壊挙動を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態の取付物取付構造及びその施工方法〕
本発明による実施形態の取付物取付構造は、
図1及び
図2に示すように、アスファルト舗装構造100にワイヤーロープ式防護柵等の取付物200を機械式のアンカー1によって取り付けるものである。本実施形態における取付物200が取り付けられるアスファルト舗装構造100は、コンクリート床板101の上に接着層102、防水層103が順に積層され、その上にアスファルト舗装104が積層して設けられているものであり、アスファルト舗装104は下層の基層アスファルト舗装104mと、上層の表層アスファルト舗装104nとから構成されている(
図2、
図10参照)。
【0019】
本実施形態で取付物200を取り付けるアンカー1は金属拡張式アンカーであり、
図2〜
図6に示すように、スリーブ11と、拡張スリーブ12と、段付きナット13と、全ねじボルトである取付ボルト14を備え、打設されたアンカー1のボルト14の後端部にワッシャー15が外挿され、その外側からナット16が螺合されるようになっている。
【0020】
スリーブ11は、略円筒形状であり、その先端部には先端に向かって内側に傾斜するテーパ部111が形成されており、又、その後端面113はハンマー等で打撃される打撃面になっている。スリーブ11の後部には、アンカー1の埋込深さ、アンカー1が打設される穿孔の穿孔深さが正しい位置になっているか確認するための位置確認部112が設けられている。本実施形態の位置確認部112は、スリーブ11の長さ方向の所定位置にローレット状で周状に設けられている。
【0021】
拡張スリーブ12は、環状の基部121に拡開可能な複数の拡張片122が薄肉ヒンジ部123を介して立設されたものであり、薄肉ヒンジ部123の外周には環状溝124が設けられている。一の拡張片122と薄肉ヒンジ部123と、これと隣り合う別の拡張片122と薄肉ヒンジ部123との間は、基部121と逆側から薄肉ヒンジ部123に達するまで切り込まれたスリット125で区分されている。各々の拡張片122の基部121とは逆側の端面は、内側に向かって傾斜する傾斜面126になっている。
【0022】
段付きナット13は、小径部131と、小径部131より径が大きく小径部131の外周面よりも外側に環状に突出する大径部132から形成され、小径部131と大径部132を連通するように取付ボルト14を螺合する雌ねじ133が形成されている。この雌ねじ133は機械式のアンカー1の雌ねじ部に相当する。また、小径部131の外径は拡張スリーブ12の内径よりも若干小さく形成され、大径部132の外径は拡張スリーブ12の内径よりも大きく形成されており、小径部131が拡張スリーブ12に内挿可能であると共に、小径部131が拡張スリーブ12の基部121側から内挿された状態で、大径部132は基部121と当接可能になっている。
【0023】
アンカー1では、スリーブ11の先端のテーパ部111に拡張スリーブ12の拡張片122の傾斜面126が当接するように配置される。また、段付きナット13の小径部131が拡張スリーブ12に内挿されると共に、段付きナット13の大径部132が拡張スリーブ12の基部121に当接するように配置され、換言すれば拡張スリーブ12が段付きナット13の小径部131に外挿されて基部121が大径部132に当接される。そして、スリーブ11、拡張スリーブ12に内挿される取付ボルト14の先端部が、大径部132を先端側にする段付きナット13の雌ねじ133に螺合されて一体化される。不使用時にはこの螺合状態で、取付ボルト14に外挿されるスリーブ11或いはそのテーパ部111が拡張スリーブ12の拡張片122に当接するように設けられて、拡張片122は非拡開状態で維持される。拡張スリーブ12の拡張片122は、内挿されて段付きナット13に螺合された取付ボルト14の先端近傍に配置して設けられる。
【0024】
アンカー1によって取付物200を取り付ける本実施形態の取付物取付構造では、
図2に示すように、アンカー1がアスファルト舗装構造100のアスファルト舗装104の内部に固定され、アスファルト舗装104を貫通しないようにして打設される。打設されたアンカー1は、拡径部を構成する拡開状態の拡張片122を先端側にしてアスファルト舗装104内に固定され、拡径部に相当する拡開状態の拡張片122の外径D2がスリーブ11の外径D1に対して1.5倍以上になっている(
図2、
図6参照)。
【0025】
取付ボルト14は、打設されたアンカー1の段付きナット13の雌ねじ133に螺着されており、取付ボルト14の後端部がアスファルト舗装104から外部に突出するようにして設けられる。取付ボルト14の後端部には、ワイヤーロープ式防護柵等の取付物200の取付板201が取付穴に挿通するようにして外挿され、取付板201を介して取付物200が取付ボルト14の後端部に固定されている。
【0026】
また、アスファルト舗装104のアンカー1と隣接する領域104fには、セメントミルク等の充填材17が浸透するように充填されて硬化しており、アスファルト舗装104の充填材17が充填された領域104fの空隙率はアスファルト舗装104のそれ以外の領域の空隙率よりも低くなっている(
図7(a)参照)。また、アンカー1が打設されているアスファルト舗装104の穿孔105には、穿孔105とアンカー1との間の隙間を埋めるようにして、樹脂、セメントミルク、セメントモルタル等の注入材18が注入されて硬化している。
【0027】
本実施形態の取付物取付構造を施工する際には、先ずアンカー1が打設されるアスファルト舗装104の内部の領域にセメントミルク等の充填材17を注入し、充填材17をアスファルト舗装104に浸透させるように充填して硬化させる(
図7(a)、
図8のS11参照)。これにより、アスファルト舗装104に充填材17が充填された空隙率の低い領域104fが形成される。
【0028】
その後、充填材17が充填されたアスファルト舗装104の領域104f内に穿孔105を形成する。この穿孔105を形成する際には、例えばストレート孔形成用ドリルビット21でアスファルト舗装104の領域104fにストレートな下孔106を形成し、下孔106内をブラシや吸引具等の清掃具で清掃する(
図7(b)、
図8のS12、S13参照)。
【0029】
そして、拡底ツールとして拡径孔部形成用ドリルビット31を用い、拡径孔部形成用ドリルビット31の先端が下孔106の底部107に略当接するまで拡径孔部形成用ドリルビット31を下孔106に挿入し、拡径孔部形成用ドリルビット31の拡径刃371・371を拡径し、下孔106の底部近傍にテーパ状の拡径孔部108を形成して拡径孔部108を有する穿孔105を形成する(
図7(c)、
図8のS14参照)。この拡径孔部108は、拡径部に相当する拡開状態の拡張片122の外径D2がスリーブ11の外径D1に対して1.5倍以上になることに対応した大きさで形成される。拡径孔部108の形成後には、穿孔105内をブラシや吸引具等の清掃具22で再度清掃する(
図7(d)、
図8のS15参照)。
【0030】
ここで拡径孔部形成用ドリルビット31には、適宜のものを用いることが可能であるが、例えば
図9の構成のものを使用すると好適である。
図9の拡径孔部形成用ドリルビット31は、シャンクスリーブ32と、シャンクスリーブ32の先端側に設けられる中間スリーブ33と、中間スリーブ33に内装される圧縮コイルばね34と、中間スリーブ33の先端側に設けられるスリーブジョイント35と、ドリルビット31の先端部に設けられる拡底スリーブ36と、拡底スリーブ36に定置して内装されている拡底ブレード37と、シャンクスリーブ32から拡底スリーブ36まで延在して設けられる略円柱棒状のシャフト38を有する。
【0031】
シャンクスリーブ32は、ハンマードリル等に取り付けられるシャンク部321と、シャンク部321の先端側に設けられる略有底円筒形のスリーブ部322を備え、スリーブ部322の後部寄りには外方に突出する段差面323が形成されている。スリーブ部322にはシャフト38の後部が嵌挿されてピン結合される。また、中間スリーブ33は、略円筒形の部材であり、先端部の内周面には雌ねじ331が形成されていると共に、後部寄りの対向する位置には軸方向に延びる長孔状のストロークガイド332が周壁に形成されている。雌ねじ331にはスリーブジョイント35の後側の雄ねじ351が螺合され、中間スリーブ33の後側にはシャンクスリーブ32のスリーブ部322が内挿され、スリーブジョイント35の後端面とスリーブ部322の前端面との間に位置するようにして中間スリーブ33に圧縮コイルばね34が内装されている。
【0032】
シャンクスリーブ32に固定されたシャフト38は、圧縮コイルばね34の内側を通るようにして中間スリーブ33に内装される。また、中間スリーブ33に内挿されたスリーブ部322の前部にはガイドビス333が取り付けられ、ガイドビス333はストロークガイド332に引っ掛かるようにして設けられる。ガイドビス333がストロークガイド332に沿って移動する構成により、中間スリーブ33がシャンクスリーブ32、シャフト38に対して回転不能で、シャンクスリーブ32の回転力を拡底スリーブ36まで伝達可能になっていると共に、ストロークガイド332に沿うスムーズな動きでシャンクスリーブ32、シャフト38を拡底スリーブ36側に押し込めるようになっている。
【0033】
スリーブジョイント35は、後側の雄ねじ351の他に、基部352を挟んで前側に雄ねじ353を有し、雄ねじ353は拡底ブレード36の後部の内周面に形成された雌ねじ361に螺合されている。即ち、中間スリーブ33と拡底スリーブ36はスリーブジョイント35にそれぞれ螺着され、拡径孔部形成用ドリルビット31の回転動作の際に中間スリーブ33と拡底スリーブ36が相互に回転不能な状態で固定されている。また、スリーブジョイント35にもシャフト38が内挿され、シャフト38は拡底スリーブ36の内部まで到達するように設けられる。
【0034】
拡底スリーブ36は、略円錐状の先端部362が形成された略有底円筒状であり、後部の内周面にはスリーブジョイント35の雄ねじ353が螺合される雌ねじ361が形成されている。拡底スリーブ36の先端部362の内側には拡底ブレード37が嵌合される嵌合溝363が形成され、周壁364における嵌合溝363の延在方向の対向位置には拡径刃出入り窓365・365が形成されている。
【0035】
拡底ブレード37は、一対の拡径刃371・371と、一対の拡径刃371・371を先端側で傾動可能に支持して閉付勢するねじりコイルばね372から構成されている。拡径刃371は、超硬チップ等の刃材373を外側に有し、その後端面は内側に向かって先端方向に傾斜する傾斜面になっている。後端面の内寄りには、シャフト38の段階的或いは漸次に先細になった先端部を入り込みやすくするように、内側に向かって先端方向に後端面より急角度で傾斜する傾斜溝374が形成されている。一対の拡径刃371・371の内側面を合わせた状態では、後端面相互で先端側に谷状に凹む形状が形成され、傾斜溝374・374で略円錐状の孔が形成されるようになっている。
【0036】
図7(a)〜(d)の工程の後には、底部近傍に拡径孔部108を有する穿孔105に、樹脂、セメントミルク、セメントモルタル等の注入材18を注入ガン23で注入する(
図7(e)、
図8のS16参照)。そして、注入材18が硬化する前に穿孔105に非拡開状態のアンカー1を内挿し、段付きナット13を穿孔105の底部107に当接するように配置して、位置確認部112がアスファルト舗装104或いはその充填材17が充填された領域104fの表面に位置してアンカー1の埋込深さ或いは穿孔105の穿孔深さが正しいことを確認する(
図7(f)、
図8のS17参照)。
【0037】
更に、注入材18が硬化する前に、スリーブ11の後端面113に略有底円筒形の打込具24の開放側の先端面を当接させ、打込具24の後端をハンマー25で打撃してスリーブ11を打ち込む。この打ち込みにより、スリーブ11のテーパ部111が複数の拡張片122の内側に相対的に入り込み、拡張片122が拡張して拡径部が形成され、アンカー1が打設される(
図7(g)、
図8のS18参照)。ここで拡径部を構成する拡張スリーブ12の拡開された拡張片122は、スリーブ11の外径D1に対する拡開後の拡張片122の外径D2の比率が1.5倍以上になるように拡開されて、穿孔105の孔壁或いは拡径孔部108の孔壁に係止され、この状態で穿孔105に注入された注入材18が硬化する。
【0038】
その後、アンカー1の雌ねじ部に相当する段付きナット13の雌ねじ133に螺着された取付ボルト14のアスファルト舗装104から突出した後端部に、ワイヤーロープ式防護柵等の取付物200の取付板201を取付穴に挿通するようにして外挿し、取付板201の外側からワッシャー15を取付ボルト14に外挿し、更に、その外側からナット16を取付ボルト14に螺合する。これにより、取付ボルト14の後端部に取付板201を介して取付物200を固定する(
図2、
図8のS19参照)。
【0039】
このように構成される本実施形態の取付物取付構造では、ワイヤーロープ式防護柵等の取付物200に車両が衝突する等でアンカー1に大きな衝撃荷重がかかった場合、
図15の太点線で示される深く広範囲の破壊領域に比べ、
図10の太点線で示されるアスファルト舗装104の浅く狭い局所的な領域に破壊される領域を限定することが可能である。即ち、本実施形態の取付物取付構造では、アスファルト舗装構造100のアスファルト舗装104よりも下側のコンクリート床板101等が破壊されることを防止することが可能であると共に、コンクリートの根こそぎ破壊の防止によって破壊されるアスファルト舗装104の領域も狭い領域に限定することが可能である。
【0040】
更に、
図11の本実施形態の取付物取付構造と
図15の従来例の取付構造との引抜試験結果のグラフに示されるように、本実施形態の取付物取付構造は従来例に比べて最大荷重では劣るものの、ゆっくりと延性的に破壊されることが分かる。従って、例えばワイヤーロープ式防護柵等の取付物200に車両が衝突した場合には、車両を急激にはじくような強い衝撃を返さずに、衝撃エネルギーを吸収できることが分かる。
【0041】
本実施形態によれば、機械式のアンカー1をアスファルト舗装104の内部に固定して取付物200を固定することにより、ワイヤーロープ式防護柵等の取付物200に衝撃荷重がかかってアスファルト舗装構造100に破損が生じた場合でも、アスファルト舗装104のコンクリート層等の下層が破壊されることを防止することができる。従って、アスファルト舗装構造100に破損が生じても破損の補修作業に要する労力を低減することができる。また、アンカー1の拡開前の外径に略対応するスリーブ11の外径に対して1.5倍以上の外径を有する拡径部が設けられている機械式のアンカー1をアスファルト舗装104の内部に固定することにより、取付物200の取り付けに必要な取付強度を確保することができる。また、取付物200に衝撃荷重がかかってアスファルト舗装104が破損する場合、取付ボルト14の曲がり、スリーブ11への荷重負荷、アスファルト舗装104のアンカー1の固定部分への荷重負荷、アスファルト舗装104の延性による伸び、アスファルト舗装104の延性破壊の順で衝撃を吸収しながらアスファルト舗装104の破損が生ずるため、衝撃吸収力が高い。そのため、例えばワイヤーロープ式防護柵等の取付物200に車両が衝突した場合に車両を急激にはじくことなく、衝撃を吸収することができ、衝撃を加えた車両等の対象に与えるダメージを緩和することができる。また、アスファルト舗装104の内部に固定される機械式のアンカー1に雌ねじ133が設けられていることにより、アスファルト舗装104から突出する取付ボルト14の交換が可能である。従って、必ずしもアスファルト舗装104が破損せずとも、取付ボルト14の取り外しによって取付物200を取り外し、他の取付物と交換することも可能である。
【0042】
また、アスファルト舗装104のアンカーと隣接する領域104fに充填材17を浸透させて空隙率を低下させることにより、アンカー1の埋め込む深さを浅くしても必要な定着力、固定強度を確実に得ることができると共に、アスファルト舗装104の骨材のムラや温度の影響を受けにくくし、アンカー1の定着をより安定化させることができる。特に、高機能なポーラスアスファルト舗装が夏場の高温で柔らかくなってしまうような場合にも、アンカー定着の確実性、安定性を高めることができる。
【0043】
また、充填材17が充填された領域104f内にアンカー1を打設する穿孔105を形成することにより、より正確な形状と大きさの穿孔105を形成することができる。また、充填材17が充填された領域104fで孔壁を形成できるので、拡張片122の係止力を高めることができる。また、拡径孔部108により、拡張片122をスリーブ11の外径に対して1.5倍以上の外径を有するように容易化且つ確実に拡開して孔壁に係止することができる。
【0044】
また、穿孔105におけるアンカー1の周囲の隙間を注入材18で埋めることにより、スリーブ11の外径に対して1.5倍以上の外径を有するように拡開させた拡張片122の状態、アンカーの設置状態をより安定させることができると共に、アスファルト舗装104に対するアンカー1の定着力、固定強度を一層高めることができる。
【0045】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記追加内容や変形例も含まれる。
【0046】
本発明の取付物取付構造は、上記実施形態におけるアスファルト舗装104のアンカー1と隣接する領域を充填材17が充填された領域とする構成に限定されず、充填材が充填されていないアスファルト舗装の領域にアンカーを固定する構造も包含する。また、本発明の取付物取付構造は、上記実施形態における穿孔105の隙間を埋めるように注入材18を注入する構成に限定されず、穿孔に注入材を注入せずに穿孔にアンカーを打設する構造も包含する。また、本発明の取付物取付構造は、上記実施形態の施工方法で施工されたものに限定されず、本発明の趣旨の範囲内で適宜である。
【0047】
また、本発明の取付物取付構造でアスファルト舗装の内部に固定される機械式のアンカーは、上記実施形態のアンカー1に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、例えば
図12〜
図14に示す第1変形例のアンカー4、第2変形例のアンカー5、第3変形例のアンカー6とすることが可能である。
【0048】
第1変形例のアンカー4も、金属拡張式アンカーであり、
図12に示すように、スリーブ41と、コーンナット42と、全ねじボルトである取付ボルト43を備え、打設されたアンカー4の取付ボルト43の後端部にワッシャー44が外挿され、その外側からナット45が螺合されるようになっている。スリーブ41は、略円筒形状であり、スリーブ41の前部に、薄肉ヒンジ部を介してスリットで区分された複数の拡張片411が立設されている。スリーブ41の後部には、アンカー4の埋込深さ、アンカー4が打設される穿孔の穿孔深さが正しい位置になっているか確認するための位置確認部412が設けられている。また、コーンナット42は、環状の基部の後側に後方に向かうに従って漸次外径が縮径するテーパ部421が設けられたものであり、基部とテーパ部421を連通するように取付ボルト43が螺合される雌ねじ部に相当する雌ねじが内周に形成されている。
【0049】
アンカー4では、スリーブ41の前部の拡張片411がコーンナット42の後部のテーパ部421に当接するように配置される。そして、スリーブ41に内挿される取付ボルト43の先端部が、基部を先端側にするコーンナット42の雌ねじに螺合されて一体化される。不使用時にはこの螺合状態で、取付ボルト43に外挿されるスリーブ41の前部の拡張片413が、取付ボルト43の先端部に螺合されたコーンナット42のテーパ部421に当接するように設けられて、拡張片411は非拡開状態で維持される。
【0050】
第1変形例のアンカー4を施工して取付物取付構造を構築する際には、アスファルト舗装104の穿孔105pにコーンナット42とスリーブ41を内挿し、打込具とハンマーでスリーブ41を孔奥側に打ち込み、拡張片411をコーンナット42のテーパ部421に乗り上げさせて拡張片411を拡開する。拡開状態の拡張片411は拡径部を構成し、その外径はスリーブ41の外径の1.5倍以上となる。
【0051】
更に、拡張片411が拡開された状態でコーンナット42の雌ねじに取付ボルト43を螺着し、アスファルト舗装104から突出する取付ボルト43の後端部に取付物200の取付板201を外挿し、その外側からワッシャー44を介してナット45を螺着することにより、第1変形例のアンカー4によって取付物200を固定する取付物取付構造が形成される。尚、第1変形例のアンカー4による取付物取付構造でも、上記実施形態と同様に充填材17や注入材18を用いた構造とすると良好である。
【0052】
第2変形例のアンカー5は、
図13に示すように、スリーブ51の先端側に截頭円錐形の拡径部52が設けられているものであり、拡径部52の最大外径はスリーブ51の外径に対して1.5倍以上で形成されている。アンカー5は全長に亘って筒状であり、内周には雌ねじ部に相当する雌ねじ53が形成されている。
【0053】
第2変形例のアンカー5を施工して取付物取付構造を構築する際には、例えば上記実施形態と同様に、アンカー5が打設されるアスファルト舗装104の内部の領域に充填材17を浸透させるように充填して硬化させ、充填材17が充填された領域104fを形成し、この領域104f内に穿孔105qを形成する。この穿孔105qの径は、拡径部52の最大外径よりも僅かに大きい径とし、ストレート孔で形成する。また、穿孔105qの深さはアンカー5の全長より僅かに深く、アンカー5が穿孔105qに全長に亘って埋設される深さとする。その後、穿孔105qに注入材18を注入し、注入材18が硬化する前にアンカー5を拡径部52側から穿孔105qに内挿し、アンカー5が内挿された状態で注入材18を硬化させる。
【0054】
その後、穿孔105q内に打設されたアンカー5の雌ねじ53に取付ボルト54を螺入、螺着し、アスファルト舗装104から突出する取付ボルト54の後端部に取付物200の取付板201を外挿し、その外側からワッシャー55を介してナット56を螺着することにより、第2変形例のアンカー5によって取付物200を固定する取付物取付構造が形成される。
【0055】
第3変形例のアンカー6は、
図14に示すように、スリーブ61の先端側に、スリーブ61より大径で段差状に形成された拡径部62が設けられているものであり、拡径部62の外径はスリーブ61の外径に対して1.5倍以上で形成されている。アンカー6は全長に亘って筒状であり、内周には雌ねじ部に相当する雌ねじ63が形成されている。
【0056】
第3変形例のアンカー6を施工して取付物取付構造を構築する際には、基本的に第2変形例のアンカー5による取付物取付構造を構築する工程と同様の工程を行う。即ち、アンカー6が打設されるアスファルト舗装104の内部の領域に充填材17を浸透させるように充填して硬化させ、充填材17が充填された領域104fを形成し、この領域104f内に穿孔105rを形成する。この穿孔105rの径は、拡径部62の外径よりも僅かに大きい径とし、ストレート孔で形成する。また、穿孔105rの深さはアンカー6の全長より僅かに深く、アンカー6が穿孔105rに全長に亘って埋設される深さとする。その後、穿孔105rに注入材18を注入し、注入材18が硬化する前にアンカー6を拡径部62側から穿孔105rに内挿し、アンカー6が内挿された状態で注入材18を硬化させる。
【0057】
その後、穿孔105r内に打設されたアンカー6の雌ねじ63に取付ボルト64を螺入、螺着し、アスファルト舗装104から突出する取付ボルト64の後端部に取付物200の取付板201を外挿し、その外側からワッシャー65を介してナット66を螺着することにより、第3変形例のアンカー6によって取付物200を固定する取付物取付構造が形成される。
【0058】
また、本発明の取付物取付構造でアスファルト舗装に取り付けられる取付物は本発明の趣旨の範囲内で適宜であるが、ワイヤーロープ式防護柵等のアスファルト舗装に立設する立設物や、衝撃荷重に対する保護機能を有する取付物や立設物とすると好適である。また、アスファルト舗装による駐車場の車止めを立設物として取り付けるのに用いることもできる。