【解決手段】有効距離取得方法は、走査工程S0と誤差取得工程S1と距離取得工程S2とを備える。誤差取得工程は、レーザ光の反射点Pの集合である点群データを作成する工程S11と、点群データから取得用構造物OCの基準面BPに対応する反射点Pの集合である対象点群Gaを抽出する工程S12と、対象点群Gaに含まれる反射点Pと基準面BPとの離隔距離Dを計測誤差として取得する工程S13と、を含む。距離取得工程S2においては、計測誤差が第1基準値よりも小さくなるレーザ計測装置1と取得用構造物OCとの距離を有効距離として取得する。
前記レーザ計測装置と前記構造物との間の複数の距離において、前記走査工程、前記誤差取得工程、及び前記距離取得工程を行うことにより、前記複数の距離のそれぞれに対して前記有効距離を取得する、
請求項1又は2に記載の有効距離取得方法。
前記走査工程におけるレーザ照射パラメータ及び前記移動体の移動速度を含む照射条件を変更しつつ、前記走査工程及び前記誤差取得工程を複数回行うことにより、前記照射条件と前記計測誤差との関係を取得する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有効距離取得方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、路面計測のためのモービルマッピングシステム(以下、「MMS」という)においては、路面に描かれた区画線等のマーキングや、路面に存在するマンホール等の道路付帯物を座標既知点として、計測データの補正に使用することにより精度向上を図ることができる。
【0005】
一方で、例えば道路工事等において整備される切土の法面といったように、路面から遠く離れた対象物の計測に対して、MMSを使用することが考えられる。この場合には、計測データの補正のために、法面に対する座標既知点の設置作業や、法面の測量作業が必要になるため、高精度な計測のための作業量が増加する。
【0006】
そこで、本発明は、作業量を低減しつつ高精度な計測を可能とする有効距離取得方法、及び、レーザ計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る有効距離取得方法は、レーザ計測の有効距離を取得するための有効距離取得方法であって、移動体に搭載されたレーザ計測装置を用いて、移動体の移動に伴い、移動体の移動経路から離間した構造物を含むエリアへのレーザ光の走査を行う走査工程と、走査工程の後に、レーザ計測の計測誤差を取得する誤差取得工程と、誤差取得工程の後に、有効距離を取得する距離取得工程と、を備え、誤差取得工程は、レーザ光の反射点の集合である点群データを作成する第1工程と、点群データから、構造物の基準面に対応する反射点の集合である対象点群を抽出する第2工程と、対象点群に含まれる反射点と基準面との基準面の法線方向における離隔距離を計測誤差として取得する第3工程と、を含み、距離取得工程においては、計測誤差が第1基準値よりも小さくなるレーザ計測装置と構造物との距離を有効距離として取得する。
【0008】
この有効距離取得方法においては、まず、移動体に搭載されたレーザ計測装置を用いて、移動体の移動経路から離間した構造物を含むエリアへのレーザ光の走査を行う。続いて、レーザ光の反射点の集合である点群データを生成し、その点群データから構造物の基準面に対応する対象点群を抽出する。そして、対象点群と基準面との離隔距離を計測誤差として取得する。これにより、移動体の移動経路から離間した箇所における計測誤差が把握される。その後、計測誤差が、第1基準値よりも小さくなる距離を有効距離として取得する。したがって、移動体の移動経路から離間した計測対象物の実際のレーザ計測に際して、この有効距離の範囲内の反射点を用いて計測データを作成することにより、計測誤差を第1基準値よりも小さくすることが可能となる。このように、この有効距離取得方法によれば、離れた箇所に立ち入っての計測対象物に対する座標既知点の設置作業や測量作業を要することなく、すなわち、作業量を低減しつつ、高精度な計測が可能となる。
【0009】
本発明に係る有効距離取得方法においては、誤差取得工程は、計測誤差に基づいてレーザ計測の精度を確認する第4工程をさらに含み、第4工程の結果、精度が第2基準値よりも低い場合には、レーザ計測装置の角度を含む装置パラメータのキャリブレーションを行うと共に、再び、誤差取得工程を行い、第4工程の結果、精度が第2基準値であるか第2基準値よりも高い場合には、距離取得工程を行ってもよい。この場合、点群データの精度が第2基準値となるか第2基準値よりも高くなる装置パラメータにおいて、有効距離を取得できる。
【0010】
本発明に係る有効距離取得方法においては、レーザ計測装置と構造物との間の複数の距離において、走査工程、誤差取得工程、及び距離取得工程を行うことにより、複数の距離のそれぞれに対して有効距離を取得してもよい。この場合、レーザ計測装置からの複数の距離のそれぞれに対して有効距離を取得できる。
【0011】
本発明に係る有効距離取得方法においては、走査工程におけるレーザ照射パラメータ及び移動体の移動速度を含む照射条件を変更しつつ、走査工程及び誤差取得工程を複数回行うことにより、照射条件と計測誤差との関係を取得してもよい。この場合、照射条件と計測誤差との関係を把握できる。
【0012】
本発明に係る有効距離取得方法においては、走査工程においては、移動体の移動経路の往路及び復路のそれぞれにおいて、レーザ光の走査を行ってもよい。この場合、往路及び復路との異なる照射条件下でレーザ光の走査を行うことにより、より正確に計測誤差及び有効距離を取得できる。
【0013】
本発明に係る有効距離取得方法においては、走査工程においては、移動体の互いに異なる位置に搭載された複数のレーザ計測装置のそれぞれを用いて、レーザ光の走査を行ってもよい。この場合、互いに異なる位置の複数のレーザ計測装置のそれぞれでのレーザ計測について、計測誤差及び有効距離を取得できる。
【0014】
本発明に係る有効距離取得方法においては、誤差取得工程は、第1工程と第2工程との間において、移動経路に存在する座標既知点と、座標既知点に対応する反射点である基準点と、の誤差である基準誤差を確認する第5工程と、第5工程の結果、基準誤差が第3基準値よりも大きい場合に、基準誤差が第3基準値であるか第3基準値よりも小さくなるように、点群データを調整する第6工程と、をさらに含んでもよい。この場合には、移動体(レーザ計測装置)と比較的近い座標既知点との誤差(基準誤差)を用いた点群データの管理により、実際の遠方に対するレーザ計測の精度を担保できる。
【0015】
本発明に係るレーザ計測方法は、上記のいずれかの有効距離取得方法を実施する準備工程と、移動体の移動経路から離間した計測対象物のレーザ計測を行う計測工程と、を備え、計測工程は、移動体の移動に伴い、計測対象物へのレーザ光の走査を行うことにより、レーザ光の反射点の集合である計測点群データを取得する第7工程と、計測点群データに含まれる反射点のうち、レーザ計測装置との距離が有効距離の範囲内の反射点を用いて計測データを作成する第8工程と、を含む。このレーザ計測装置においては、上述したいずれかの有効距離取得方法を用いて有効距離を取得する。したがって作業量を低減しつつ、高精度な計測が可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作業量を低減しつつ高精度な計測を可能とする有効距離取得方法、及び、レーザ計測方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら一実施形態について詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明が省略される場合がある。
【0019】
図1は、レーザ計測装置を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ計測装置1は、車両(移動体)100に搭載されている。車両100には、MMSに用いられる各種の装置が搭載されている。具体的には、車両100には、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)3、撮像装置5,7、DMI(distance measuring Instrument:走行距離計)9、及び、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機11が設けられている。
【0020】
レーザ計測装置1、IMU3、及び、撮像装置5,7は、ここでは一例として車両100の上部に設けられた架台に設置されているが、架台が用いられていなくてもよい。IMU3は、車両100(すなわちレーザ計測装置1)の角速度及び加速度を取得する。撮像装置5は、例えば全方位カメラであり、車両100の全周囲を撮像する。撮像装置7は、例えばHDカメラである。撮像装置7は、一例として車両100の前後に設けられており、車両100の前後方向を撮像する。ただし、撮像装置7が設けられる位置、及び、撮像する方向は、車両100の前後方向に限定されず、車両100の左右上下等のいずれであってもよい。GNSS受信機11は、車両100(すなわちレーザ計測装置1)の位置情報を取得する。この例では、2つのGNSS受信機11が設けられているが、GNSS受信機11の数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。DMI9は、車輪等に設けられており、車両100の走行距離に関する情報を取得する。これらの各種の情報は、レーザ計測装置1に(直接的に或いは間接的に)提供される。なお、IMU3、撮像装置5,7、DMI9、及び、GNSS受信機11は、設けられていなくてもよい。換言すれば、少なくとも後述する有効距離取得方法は、IMU3、撮像装置5,7、DMI9、及び、GNSS受信機11を用いることなく実現可能である。
【0021】
図2は、レーザ計測装置におけるレーザ光の走査を説明するための図である。
図2の(a)は斜視図であり、
図2の(b)は平面図である。
図1,2に示されるように、車両100には、互いに異なる位置に複数のレーザ計測装置1が搭載されている。ここでは、一対のレーザ計測装置1が、車両100の車幅方向に互いに離間して設けられている。レーザ計測装置1は、それぞれ、車両100の移動に伴って所定面内に回転しながらレーザ光LA,LBを出力する。これにより、レーザ計測装置1は、構造物OB,OAを含む車両100の周囲のエリアへのレーザ光LA,LBの走査(スキャン)を行う。なお、レーザ計測装置1の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、レーザ計測装置1は、車両100の車幅方向(左右方向)に限らず、車両100の前後方向に互いに離間して設けられていてもよい。
【0022】
また、レーザ計測装置1は、構造物OA,OBを含む車両100の周囲のエリアからのレーザ光LA,LBの反射光を入力する。これにより、レーザ計測装置1は、レーザ光LA,LBの複数の反射点Pを含む点群Gに関する情報を取得する。一方で、レーザ計測装置1は、IMU3、DMI9、及び、GNSS受信機11等からの各種の情報を入力する。そして、レーザ計測装置1は、レーザ計測装置1の位置と方向から、反射点P(すなわち構造物OA,OB)の3次元位置を求める。これにより、車両100の移動に伴ったレーザ計測が可能となる。なお、上述したようにIMU3やGNSS受信機11等を用いない場合には、一例として、レーザ計測装置1に内蔵された計時手段を用いた反射点Pの距離の取得や、オペレータによる点群データへの座標の設定等によって、レーザ計測を行うことができる。
【0023】
引き続いて、
図3,4を参照して本実施形態に係る有効距離取得方法について説明する。
図3は、有効距離取得方法の主な工程を示すフローチャートである。
図4は、
図3に示された各工程を説明するための図である。
図3に示される有効距離取得方法は、予め定めた有効距離取得用の構造物のレーザ計測を行うことにより、レーザ計測の有効距離を取得するための方法である。なお、以下では、レーザ計測可能な全ての構造物のうち、有効距離取得用の構造物を「取得用構造物」と称する。
【0024】
取得用構造物OCは、例えば、橋脚等であり、他の目的による測量によって予め位置及び寸法が既知となっている基準面(基準面BP:
図4の(b)参照)を含む構造物から選択される。なお、取得用構造物は、基準面が得られるものであればよく、人工物でもよいし自然物であってもよい。また、基準面は、そのサイズや形状について限定されず、平面、曲面、及び、平面と曲面との組み合わせであってもよい。また、有効距離とは、レーザ計測の計測誤差が第1基準値よりも小さくなるレーザ計測装置1と構造物(反射点)との距離である。第1基準値は、任意に設定され得るが、例えば、国土交通省により定められたi-Constructionにおける出来形計測に要求される誤差の値である。
【0025】
有効距離取得方法は、レーザ光の走査(スキャン)を行う走査工程S0と、走査工程S0の後に、レーザ計測の計測誤差を取得する誤差取得工程S1と、誤差取得工程S1の後に、有効距離を取得する距離取得工程S2とを含む。走査工程S0においては、車両100の移動に伴い、車両100の移動経路から離間した取得用構造物OCを含むエリアへのレーザ光の走査を行う。ここでは、例えば、車両100が移動経路としての道路を走行しているときに、道路から水平方向(及び鉛直方向)に離れた位置に設けられている取得用構造物OCを含むエリアへのレーザ光の走査を行う。
【0026】
ここでは、車両100の移動経路の往路及び復路のそれぞれにおいて、レーザ光の走査を行うことができる。ただし、車両100の移動経路の往路及び復路のいずれか一方のみにおいて、レーザ光の走査を行うようにしてもよい。さらには、車両100が移動経路を複数回往復する場合には、車両100の移動経路の複数の往路及び複数の復路において、レーザ光の走査を行ってもよい。
【0027】
続いて、誤差取得工程S1においては、レーザ光の反射点Pの集合である点群Gのデータ(3次元の点群データ)を作成する(工程S11:第1工程)。ここでは、点群データは、当該エリア内に存在する(取得用構造物を含む)複数の構造物における反射点Pの集合である。続いて、工程S12において作成された点群データから、取得用構造物OCの基準面BPに対応する反射点Pの集合である対象点群Gaを抽出する(工程S12:第2工程)。基準面BPに対応する反射点Pとは、例えば、基準面BPの法線方向からみたときに基準面BPに含まれる反射点である。
【0028】
続いて、対象点群Gaに含まれる反射点Pのそれぞれと基準面BPとの基準面BPの法線方向における離隔距離Dを計測誤差として取得する(工程S13:第3工程)。これにより、対象点群Gaに含まれる反射点Pのそれぞれについて、反射点Pの位置及び方向と当該反射点Pの計測誤差とが関連付けられて取得される。換言すれば、レーザ計測装置1から反射点Pまでの距離と、その反射点Pの計測誤差とが紐づけられることにより、レーザ計測の精度が把握されることになる。
【0029】
続いて、工程S13において取得された計測誤差に基づいて、レーザ計測の精度を確認する(第4工程:S14)。ここでは、レーザ計測の精度が、第2基準値であるか、或いは、第2基準値よりも高いか否かを確認する。第2基準値は、第1基準値に関連して任意に設定可能であるが、例えば以下のように設定可能である。すなわち、第2基準値は、後の実際のレーザ計測において要求される計測距離での計測誤差が第1基準値よりも小さくなる反射点Pが、対象点群Gaに一定数含まれるように設定され得る。
【0030】
より具体的には、後の実際のレーザ計測において要求される計測距離が100mであり、且つ、第1基準値が50mmである場合には、精度が第2基準値であるか第2基準値よりも高い場合に、レーザ計測装置1との距離が100m以上であり、且つ、計測誤差が50mmよりも小さい反射点Pが一定数以上の対象点群Gaに含まれるように、第2基準値が設定される。この場合、少なくとも、レーザ計測装置1との距離が100m以上であり、且つ、計測誤差が50mmよりも小さい反射点Pが対象点群Gaに含まれない場合には、精度が第2基準値よりも低いと判断される。
【0031】
ここで、レーザ計測装置1の計測結果は、レーザ計測装置1のIMU3に対する距離と角度とを使用して取得される。このため、装置パラメータは、レーザ計測の精度に影響する。そこで、続く工程においては、工程S14の結果、精度が第2基準値よりも低い場合には、レーザ計測装置1の角度を含む装置パラメータのキャリブレーション(ボアサイトキャリブレーション)を行う(工程S15)。装置パラメータとは、例えば、レーザ計測装置1のIMU3からの距離と角度とを含む。工程S15においてキャリブレーションを行った後には、工程S11に戻り、再び誤差取得工程S1を行う。
【0032】
一方、工程S14の結果、精度が第2基準値であるか第2基準値よりも高い場合には、距離取得工程S2を行う。すなわち、計測誤差が第1基準値よりも小さくなるレーザ計測装置1と取得用構造物OC(すなわち反射点P)との距離を有効距離として取得する。この点についてより詳細に説明する。対象点群Gaには、レーザ計測装置1からの距離が異なる複数の反射点Pが含まれる。一般に、レーザ計測装置1からの距離が大きな(遠い)反射点Pほど、計測誤差が大きくなる傾向にある。
【0033】
したがって、例えば、レーザ計測装置1からの距離が異なる複数の反射点Pの計測誤差を参照することにより、計測誤差が第1基準値を上回る(或いは下回る)距離の閾値を把握することができる。ここでは、当該距離の閾値を有効距離として取得する。以上のように有効距離を取得することにより、後の実際のレーザ計測において、計測対象物からの反射点のうち、有効距離の範囲内の反射点のみを用いることにより、高精度なレーザ計測が可能となる。
【0034】
ここで、以上の有効距離取得方法においては、走査工程S0において、レーザ照射パラメータ及び車両100の移動速度を含む照射条件を変更しつつ、走査工程及び誤差取得工程を複数回行うことにより、照射条件と計測誤差との関係を取得してもよい。
【0035】
図5は、レーザ照射パラメータを説明するための図である。
図5に示されるように、まず、レーザ照射パラメータは、レーザ計測装置1の設定であって、例えば、スキャン周波数及び照射点数である。スキャン周波数は、レーザ計測装置1におけるレーザ光LA,LBのスキャンの周波数である。レーザ計測装置1は、1ラインのスキャンを繰り返し行っており、スキャン周波数が高いほど、スキャンラインSLの間隔SPが狭くなる。照射点数は、レーザ計測装置1が照射するレーザ光LA,LBの点数を意味する。照射点数が多ければ多いほど密な反射点Pを含む点群データを取得できる。
【0036】
また、以上の有効距離取得方法においては、レーザ計測装置1と取得用構造物との間の複数の距離において、走査工程S0、誤差取得工程S1、及び、距離取得工程S2を行うことにより、複数の距離のそれぞれに対して有効距離を取得してもよい。この場合、一例として、レーザ計測装置1(車両100)との距離が異なる複数の取得用構造物を設定し、その複数の取得用構造物のそれぞれを含むエリアへのレーザ光の走査、及び計測誤差の取得、及び、有効距離の取得を行うことができる。レーザ計測装置1との距離が異なる複数の取得用構造物は、例えば、互いに配列された複数の橋脚等である。
【0037】
また、1つ取得用構造物を設定する場合であっても、車両100の移動に伴ってレーザ計測装置1と取得用構造物との相対距離が変化するので、一定の時間間隔(距離間隔)ごとに、1つの取得用構造物を含むエリアに対してレーザ光の走査、計測誤差の取得、及び、有効距離の取得を行ってもよい。
【0038】
引き続いて、本実施形態に係るレーザ計測方法について説明する。このレーザ計測方法は、上記の有効距離取得方法を用いて有効距離を取得した後に、実際に計測対象物のレーザ計測を行う方法である。すなわち、このレーザ計測方法においては、まず、上記の有効距離取得方法を行う。なお、計測対象物の1回のレーザ計測に対して有効距離取得方法を1回行う必要はなく、1回の有効距離取得方法の実施により取得された計測誤差及び有効距離に関する情報を保持しておき、複数回のレーザ計測方法の実施の際に用いることができる。
【0039】
このように、このレーザ計測方法は、上記の有効距離取得方法を実施する準備工程と、車両100の移動経路から離間した計測対象物のレーザ計測を行う計測工程と、を備える。計測工程は、車両100の移動に伴い、計測対象物へのレーザ光の走査を行うことにより、レーザ光の反射点の集合である計測点群データを取得する(第7工程)。
図6に示されるように、計測対象物は、例えば、車両100の移動経路である道路から離間した切土部分ODの法面NSである。
【0040】
計測工程においては、続いて、計測点群データに含まれる反射点のうち、レーザ計測装置1との距離が有効距離(先の有効距離取得方法において取得済みである)の範囲内の反射点を用いて計測データを作成する(第8工程)。これにより、計測誤差が第1基準値よりも小さい高精度な計測データが作成される。
【0041】
なお、計測データを作成する際に、複数の条件下において計測点群データが取得されている場合には、それらの計測点群データの反射点を統合することにより計測データを作成することができる。この場合には、それぞれの計測点群データの反射点に対して、条件に応じて優先度を設定して統合することができる。すなわち、計測データの作成の際に、計測対象物のある位置に対して2つ以上の反射点が存在する場合には、優先度に応じて、より精度の高い反射点を採用することができる。
【0042】
優先度の設定に用いられる条件の一例としては、入射角、計測距離、及び、角度分解能等のパラメータである。入射角とは、レーザ光が計測対象物へ入射する角度を意味する。入射角が浅い(大きい)ほど、反射してくるレーザ光のフットプリント(レーザ光の入射面でのスポットサイズ)が均一でなくなり、精度が低下する。計測距離とは、レーザ計測装置1から計測対象物までの距離を意味する。計測距離が長いほど、角度の精度により位置精度が低下する。角度分解能とは、レーザ計測装置1のレーザ光の照射面内での角度の分解能と、IMU3の角度の分解能との両方を意味する。角度分解能が低いほど、位置精度が低下する。
【0043】
引き続いて、上記の有効距離取得方法及びレーザ計測方法の作用・効果について説明する。上記のように、有効距離取得方法においては、まず、車両100に搭載されたレーザ計測装置1を用いて、車両100の移動経路から離間した取得用構造物OCを含むエリアへのレーザ光の走査を行う。続いて、レーザ光の反射点Pの集合である点群データを生成し、その点群データから取得用構造物OCの基準面BPに対応する対象点群Gaを抽出する。
【0044】
そして、対象点群Gaに含まれる反射点Pと基準面BPとの離隔距離Dを計測誤差として取得する。これにより、車両100の移動経路から離間した箇所における計測誤差が把握される。その後、計測誤差が、第1基準値よりも小さくなる距離を有効距離として取得する。そして、レーザ計測方法においては、車両100の移動経路から離間した計測対象物の実際のレーザ計測に際して、この有効距離の範囲内の反射点Pを用いて計測データを作成する。この結果、計測誤差を第1基準値よりも小さくすることが可能となる。このように、この有効距離取得方法及びレーザ計測方法によれば、
図6の(a)に示される従来の方法のように、計測対象物に実際に赴いて座標既知点CPを設置する作業や測量作業を要することなく、作業量を低減しつつ、
図6の(b)に示されるように車両100から遠く離れた計測対象物の高精度な計測が可能となる。
【0045】
また、本実施形態に係る有効距離取得方法においては、誤差取得工程S1は、計測誤差に基づいてレーザ計測の精度を確認する工程S14をさらに含む。そして、工程S14の結果、精度が第2基準値よりも低い場合には、レーザ計測装置1の角度を含む装置パラメータのキャリブレーションを行うと共に、再び、誤差取得工程S1を行う。一方、工程S14の結果、精度が第2基準値であるか第2基準値よりも高い場合には、距離取得工程S2を行う。このため、点群データの精度が第2基準値であるか第2基準値よりも高くなる装置パラメータにおいて、効率よく有効距離を取得できる。
【0046】
また、本実施形態に係る有効距離取得方法においては、レーザ計測装置1と取得用構造物OCとの間の複数の距離において、走査工程S0、誤差取得工程S1、及び距離取得工程S2を行うことにより、複数の距離のそれぞれに対して有効距離を取得してもよい。この場合、レーザ計測装置1からの複数の距離のそれぞれに対して有効距離を取得できる。
【0047】
また、本実施形態に係る有効距離取得方法においては、走査工程S0におけるレーザ照射パラメータ及び車両100の移動速度を含む照射条件を変更しつつ、走査工程S0及び誤差取得工程S1を複数回行うことにより、照射条件と計測誤差との関係を取得してもよい。この場合、照射条件と計測誤差との関係を把握できる。
【0048】
また、本実施形態に係る有効距離取得方法においては、走査工程S0においては、車両100の移動経路の往路及び復路のそれぞれにおいて、レーザ光の走査を行ってもよい。この場合、往路及び復路との異なる照射条件下でレーザ光の走査を行うことにより、より正確に計測誤差及び有効距離を取得できる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る有効距離取得方法においては、走査工程S0においては、車両100の互いに異なる位置に搭載された複数のレーザ計測装置1のそれぞれを用いて、レーザ光の走査を行う。このため、互いに異なる位置の複数のレーザ計測装置1のそれぞれでのレーザ計測について、計測誤差及び有効距離を取得できる。また、複数のレーザ計測装置1(スキャンライン)が存在する場合には、その特性を考慮することができる。
【0050】
なお、これまで測量では、誤差の範囲が図面縮尺によって定められていたため、適切な範囲にある誤差は結果として調整されることなく成果に残存した。しかし、本実施形態に係る方法によれば、微小な系統誤差も極力低減した上で機器そのものの誤差に近い誤差を実現し、さらに誤差の範囲を把握することで誤差の最大値を考慮した計測を実現できる。
【0051】
また、本実施形態に係る方法は、現地作業の効率化・省力化を実現し、高精度に計測する適切な範囲を定義可能とするものであるが、品質確認やオンサイト調整にも適用可能であり、幅広い有用性を有する。
【0052】
以上の実施形態は、本発明に係る有効距離取得方法及びレーザ計測方法の一例を説明したものである。したがって、本発明に係る有効距離取得方法及びレーザ計測方法は、上述した例に限定されず、任意に変形され得る。
【0053】
例えば、誤差取得工程S1は、精度の管理を行うための別の工程をさらに含むことができる。すなわち、誤差取得工程S1は、工程S11と工程S12との間において、車両100の移動経路に存在する座標既知点CPと、その座標既知点CPに対応する反射点である基準点と、の誤差である基準誤差を確認する第5工程をさらに含むことができる。また、誤差取得工程S1は、第5工程の結果、基準誤差が第3基準値よりも大きい場合に、基準誤差が第3基準値であるか第3基準値よりも小さくなるように点群データを調整する第6工程をさらに含むことができる。
【0054】
この場合には、車両100(レーザ計測装置1)と比較的近い座標既知点CPとの誤差(基準誤差)を用いた点群データの管理により、実際の遠方に対するレーザ計測の精度を担保できる。すなわち、この場合には、まず、移動経路に存在する座標既知点CPと対応する反射点との誤差が第3基準値であるか第3基準値よりも小さいことが担保される。この結果、実際に車両100(レーザ計測装置1)から離れた遠方の計測対象物のレーザ計測の誤差も、第3基準値に応じた誤差の範囲であることが担保される。
【0055】
一例として、レーザ計測装置1のレーザ計測の精度が、移動経路上の近傍箇所において10mmの誤差であるとき、移動経路から離間した所定の遠方箇所において40mmの誤差であるような精度であるとする。一方で、遠方の計測対象物の実際のレーザ計測において50mmよりも小さな誤差の範囲とすることが要求されているとする。その場合、近傍箇所での誤差が10mmよりも大きいと、遠方の計測対象物の実際のレーザ計測の誤差が50mmよりも小さいことが担保されないおそれがある。
【0056】
これに対して、一例として第3基準値を10mmに設定し、上記の第5工程(及び第6工程)を実施することにより、遠方の計測対象物の実際のレーザ計測の誤差が50mmよりも小さいことが担保され得る。すなわち、第5工程において、移動経路に存在する座標既知点CPと対応する反射点(基準点)との誤差(基準誤差)が10mmであるか10mmよりも小さいことが確認された場合には、点群データの調整を行うまでもなく、遠方の計測対象物の実際のレーザ計測の誤差が50mmよりも小さくなり得る。一方、第5工程において、基準誤差が10mmよりも大きい場合には、第6工程において、基準誤差が10mmであるか10mmよりも小さくなるように点群データを調整することにより、遠方の計測対象物の実際のレーザ計測の誤差が50mmよりも小さくなり得る。すなわち、車両100(レーザ計測装置1)と比較的に近い座標既知点CPとの誤差(基準誤差)を用いた点群データの管理により、実際の遠方の計測対象物に対して座標既知点CPを設置することなく、レーザ計測の精度を担保できる。
【0057】
なお、点群データの調整としては、一例として、座標既知点を用いた点群データの移動や、点群データの3次元座標変換を用いて行う方法、及び、座標既知点から車両100の軌跡を算出し、点群データを再作成する方法等が挙げられる。
【0058】
例えば、レーザ計測装置1が搭載される移動体は、車両に限定されず、他のものであってもよい。移動体の一例としては、無人・有人を問わず、船舶、潜水機、航空機、鉄道、動物等が挙げられる。また、取得用構造物OCとしては、橋脚に限定されず、例えば、ビル、マンション、及び、道路に付随する看板等の他の建築物(人工物)や、地形及び地物(自然物)であってもよい。さらに、計測対象物としては、切土部分ODの法面NSに限定されない。すなわち、レーザ計測方法は、任意の計測対象物(例えば取得用構造物OCと同様のもの)に対して適用され得る。