【解決手段】音響情報測定装置は、所定の指向特性を有し、到来してくる音を収音する収音部を複数備え、収音部により当該収音部の指向特性に応じて音が収音されることに伴って収音部毎に生成される信号と、音を伝える媒質の粒子速度の特定の向きの成分である粒子速度成分を表す第1項と音の音圧を表す第2項とにより信号が表された場合の第1項の係数と第2項の係数との組によって収音部毎に表される収音特性とに基づいて、音についての情報である音響情報を算出する音響情報算出部とを備える。
前記複数の前記収音部は、前記収音部毎に大きさが同じである方向ベクトルによって示される方向をもち、前記複数の前記方向ベクトルの合成ベクトルの大きさを所定の値以下にして前記方向に向けられそれぞれ配置される
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の音響情報測定装置。
前記粒子速度算出部は、前記方向ベクトルによって示される前記方向に向けられ配置される前記収音部の前記信号に当該収音部の前記収音特性に基づく因子と当該方向ベクトルとを乗じて前記複数の前記収音部毎に得られるベクトルの和に基づいて、前記粒子速度を算出する
請求項9に記載の音響情報測定装置。
前記粒子速度算出部により算出された前記粒子速度と、前記音圧算出部により算出された前記音圧との積に基づいて、前記音の音響インテンシティを算出する音響インテンシティ算出部
をさらに備える請求項8から請求項10のいずれか一項に従属する請求項11に記載の音響情報測定装置。
前記粒子速度算出部により算出された前記粒子速度と、前記音圧算出部により算出された前記音圧との比に基づいて、前記音の音響インピーダンスを算出する音響インピーダンス算出部
をさらに備える請求項8から請求項10のいずれか一項に従属する請求項11、または請求項12、または請求項13のいずれか一項に記載の音響情報測定装置。
前記収音特性は、前記複数の前記収音部のうちの1つを校正対象収音部にして、第1の向きに前記校正対象収音部が配置された場合に、前記校正対象収音部によって収音された基準音に応じて生成される信号である第1信号と、前記第1の向きと対向する第2の向きに前記校正対象収音部が配置された場合に、前記校正対象収音部によって収音された前記基準音に応じて生成される信号である第2信号との和と、前記第1信号と前記第2信号との差とに基づいて、前記校正対象収音部の前記収音特性として算出される、
または、
前記収音特性は、前記第1の向きと前記第2の向きとにそれぞれ配置される2つの前記収音部のうち、前記校正対象収音部の指向特性と、前記校正対象収音部以外の前記収音部の指向特性との間の向き毎の感度差が所定の範囲内にされ、前記校正対象収音部以外の前記収音部の前記信号である校正補助信号と前記校正対象収音部の前記信号との和と、前記校正補助信号と前記校正対象収音部の前記信号との差とに基づいて、前記校正対象収音部の前記収音特性として算出される
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の音響情報測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る音響情報測定装置1の構成の一例を示す図である。音響情報測定装置1は、到来してくる音SDを収音し、当該音SDについての情報である音響情報SIを算出する。ここで音響情報SIは、粒子速度、音圧、音響インテンシティ、音が到来する向き、及び音響インピーダンスを含む。
音響情報測定装置1は、複数の収音部2と、処理部3とを備える。
【0027】
複数の収音部2は、第1の収音部21と、第2の収音部22とを含む。複数の収音部2は、所定の指向特性を有し、到来してくる音SDを収音する。第1の収音部21は、指向特性C1を有し、音SDを収音する。第2の収音部22は、指向特性C2を有し、音SDを収音する。複数の収音部2は、一例として、複数のカーディオイドマイクである。
【0028】
本実施形態では一例として、複数の収音部2について複数の所定の指向特性は、複数の収音部2相互に向き毎の感度差が所定の範囲内である。例えば、指向特性C1と、指向特性C2とは向き毎の感度差が同じである。なお、複数の所定の指向特性は、複数の収音部2相互に向き毎の感度差が所定の範囲内でなくてもよい。
【0029】
ここで
図2を参照し、第1の収音部21と、第2の収音部22との配置について説明する。
図2は、本実施形態に係る第1の収音部21と、第2の収音部22との配置の一例を示す図である。矢印A21は第1の収音部21の向きを示す。矢印A22は第2の収音部22の向きを示す。ここで収音部の向きとは、一例として、当該収音部の有する指向特性が最大の感度を示す向きである。
【0030】
第1の収音部21と、第2の収音部22とは互いに対向して配置される。第1の収音部21と、第2の収音部22とが互いに対向するとは、一例として、矢印A21と矢印A22とが互いに外側を向いて180度反対向きとなることである。
複数の収音部2は、互いの距離が近くなるように配置されることが好ましい。複数の収音部2は、一例として、ある位置からの距離が所定の範囲となるように設置されて音響中心が揃えられる。なお、複数の収音部2は、任意の一点から複数の収音部2の音響中心までの距離が互いに等しくなるように配置されてもよい。
【0031】
なお、第1の収音部21と、第2の収音部22とは、矢印A21と矢印A22とが互いに内側を向いて180度反対向きとなるように、互いに対向して配置されてもよい。また、矢印A21と矢印A22とは、所望の測定精度に応じて、180度反対向きから所定の角度だけずれた向きを向いていてもよい。
【0032】
図1に戻って音響情報測定装置1の構成の説明を続ける。
複数の収音部2は、収音部の指向特性に応じて当該収音部が収音した音が収音されることに伴って収音部毎に信号を生成する。例えば、第1の収音部21は、第1の収音部21の指向特性C1に応じて音を収音することに伴って信号M1を生成する。第2の収音部22は、第2の収音部22の指向特性C2に応じて音を収音することに伴って信号M2を生成する。
【0033】
処理部3は、音響情報算出部31と、記憶部32とを備える。
音響情報算出部31は、一般化されたC−C法に基づいて音響情報SIを算出する。ここで、一般化される前の従来のC−C法について説明する。
【0034】
C−C法では、2本以上の複数のカーディオイドマイクが用いられる。例えば、2本のカーディオイドマイクが用いられる場合、当該2本のカーディオイドマイクは、
図2に示した第1の収音部21及び第2の収音部22のように、180度反対向きに向けられて配置される。C−C法は、例えば、ホールやスタジオの音響解析、航空機の騒音の監視、工事の騒音の監視などに用いられる。
【0035】
音響情報算出部31の内部構成を説明する前に
図3を参照し、C−C法について説明する。
図3は、本実施形態に係る遠距離音場におけるC−C法の一例を示す図である。
図3では、2本のカーディオイドマイクが180度反対向きに対向して配置される場合の2本のカーディオイドマイクの指向特性が示されている。以下では、2本のカーディオイドマイクを、単にマイクMC1及びマイクMC2ということがある。マイクMC1は指向特性C1を有する。マイクMC2は指向特性C2を有する。
マイクMC1とマイクMC2とは、それぞれ第1の収音部21と第2の収音部22とに対応する。
【0036】
X軸に対して角度θで到来する平面波Pを考える。
図3では、平面波Pが到来する向きは矢印A1によって示されている。平面波Pの音圧は音圧p(t)とする。平面波Pの粒子速度u(t)は、理論値として式(1)によって表される。
【0038】
ここで媒質密度ρは空気の媒質密度を示し、音速cは到来する音の音速を示す。なお、音響インピーダンスは、媒質密度ρと音速cとの積によって表される。
X軸方向の粒子速度成分u
x(t)は、理論値として式(2)によって表される。
【0040】
X軸方向の音響インテンシティI
x(t)は、理論値として式(3)によって表される。
【0042】
ここでカーディオイドマイクの指向特性が式(4)によって表されるとする。
【0044】
カーディオイドマイクによって生成される信号の波形は、式(5)によって表される。
【0046】
ここでカーディオイドマイクによって生成される信号の波形とは、カーディオイドマイクの収音する音に対する応答である。マイクMC1によって生成される信号M1の波形、及びマイクMC2によって生成される信号M2の波形は、それぞれ式(6)及び式(7)によって表される。
【0049】
式(6)及び式(7)から、式(8)のように無指向性応答が得られる。ここで無指向性応答とは、音圧p(t)である。
【0051】
一方、式(6)及び式(7)から、式(9)のようにマイクMC1とマイクMC2との応答の差分が得られる。
【0053】
式(2)及び式(9)からX軸方向の粒子速度成分u
x(t)は、式(10)のように得られる。
【0055】
式(10)から音響インテンシティI
x(t)は、式(11)のように得られる。
【0057】
音響インテンシティI
x(t)は、式(12)によっても得られる。
【0059】
ここで
図4及び
図5を参照し、2本のカーディオイドマイクの方向別の感度差について説明する。
【0060】
図4は、本実施形態に係る2本のカーディオイドマイクの方向別の感度差の第1例を示す図である。Y軸に対して角度φ1で到来する平面波を考える。当該平面波の進行方向は、矢印A2により示される。指向特性C1は、矢印A2により示される方向から到来する平面波に対して感度P1を示す。指向特性C2は、矢印A2により示される方向から到来する平面波に対して感度P2を示す。感度差D1は、感度P1と感度P2との差分である。
【0061】
図5は、本実施形態に係る2本のカーディオイドマイクの方向別の感度差の第2例を示す図である。Y軸に対して角度φ2で到来する平面波を考える。当該平面波の進行方向は、矢印A3により示される。指向特性C1は、矢印A3により示される方向から到来する平面波に対して感度P3を示す。指向特性C2は、矢印A3により示される方向から到来する平面波に対して感度P4を示す。感度差D2は、感度P3と感度P4との差分である。
【0062】
図4の感度差D1と、
図5の感度差D2とを比較すると、2本のカーディオイドマイクでは、平面波が到来する方向によって感度差が異なる。C−C法では、到来する音の方向を推定するために、2本のカーディオイドマイクの方向別の感度差を利用する。したがって、C−C法の角度分解能は、原理的には測定対象である音波の波長に依存しない。
【0063】
C−C法では、物理的にマイクMC1とマイクMC2とを同じ位置に置くことができないことが誤差要因となり得る。C−C法では、なるべくマイクMC1とマイクMC2とを近づけて配置することが精度向上の基本である。
【0064】
C−C法では、精度を確保するためのマイク間隔の上限は、測定対象である音波に含まれる上限周波数に依存する。一方、C−C法では、マイク間隔の下限はない。つまり、C−C法では、マイク間隔は近づけるほど測定精度は上がる。マイク間隔の下限は、マイク同士を物理的に近づけることによる遮蔽効果が主な誤差要因となると考えられる。マイク間隔の上限は、測定対象である音波に含まれる周波数の上限によって決まり、当該上限以下の周波数であれば周波数ごとにマイク間隔を変える必要はない。
【0065】
ここで時間平均インテンシティについて説明する。時間平均インテンシティは、C−C法において測定される音響情報の一例である。時間平均インテンシティは、各時間の音響インテンシティである瞬間インテンシティを時間平均することにより算出される。時間平均インテンシティは、アクティブインテンシティともいう。C−C法では、様々な時間平均の方法がある。
【0066】
式(13)は、瞬時インテンシティの平均として算出される時間平均インテンシティの一例を示す。
【0068】
式(14)は、瞬時二乗応答の差分の平均として算出される時間平均インテンシティの一例を示す。
【0070】
式(15)は、二乗平均の差分として算出される時間平均インテンシティの一例を示す。
【0072】
ここで式(15)によれば、C−C法では、音場が定常的である場合、一本のマイクの向きを変えて2回測定を行うことによって時間平均インテンシティを算出できる。ある時間幅で音場が定常とみなせる場合、この原理を用いることができる。
以下では、瞬時インテンシティを音響インテンシティI(t)と表し、時間平均インテンシティを音響インテンシティIと表し区別する。X軸方向の瞬時インテンシティは、音響インテンシティI
X(t)と表し、X軸方向の時間平均インテンシティは、音響インテンシティI
xと表す。Y軸方向やZ軸方向についても同様である。
【0073】
上述の説明においては、遠距離音場におけるC−C法について説明したが、C−C法は近距離音場や干渉音場においても音圧と粒子速度とを算出することができ、近距離音場や干渉音場にも適用可能である。
【0074】
次に一般化されたC−C法について説明する。
C−C法を一般化すると、カーディオイドマイクによって、音圧p(t)とマイクを向けた方向の粒子速度u(t)が係数αと係数βとの比率で混合された応答を測定することに帰結される。当該応答は式(16)によって表される。
【0076】
ここで式(16)において項β・{u(t)ρc}は、音を伝える媒質の粒子速度の特定の向きの成分である粒子速度成分を表す第1項T1である。ここで第1項T1は、粒子速度成分u(t)に積ρcが乗じられた項である。式(16)において項α・p(t)は、音の音圧を表す第2項T2である。係数αと係数βとの組をマイクの収音特性という。収音特性は、マイクに固有であり、マイクの指向特性に応じて決まる。
【0077】
カーディオイドは係数αと係数βとが0.5の場合に相当する。係数αと係数βとが予めわかっていれば、測定に用いられるマイクの指向特性は、カーディオイドである必要はない。言い換えると、係数αと係数βとが0.5のカーディオイドであると仮定して音響情報を算出すると、カーディオイドであるとの仮定からのずれが誤差を生じる。音響情報の算出において誤差を生じさせないためには、使用するマイクの係数αと係数βとを予め知っておく必要がある。マイク間の感度補正をする場合、正面感度で補正するだけでは不十分であり、係数αと係数βとの補正をする必要がある。
【0078】
図2及び
図3と同様に、x軸上に180度反対向きに設置したマイクMC1とマイクMC2とによる応答を考える。なお、マイクMC1はx軸+方向、マイクMC2はx軸−方向に向けるものとする。マイクMC1の収音特性AC1を、係数α
1及び係数β
1とする。マイクMC2の収音特性AC2を、係数α
2及び係数β
2とする。マイクMC1とマイクMC2との応答は、式(17)及び式(18)のように表せる。
【0081】
式(17)と式(18)とを加算すると、式(19)が得られる。
【0083】
式(17)と式(18)との差分をとると、式(20)が得られる。
【0085】
単純な加算と差分によって、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を抽出できるのは、係数α
1と係数α
2とが等しくかつ係数β
1と係数β
2とが等しい場合あり、係数α
1と係数α
2とが等しくないときまたは係数β
1と係数β
2とが等しくないときには、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を単純な加算と差分によっては抽出することができない。
【0086】
そこで、式(17)と式(18)とを連立させて、粒子速度成分u
x(t)の項を消去して音圧p(t)だけを抽出すると式(21)を経て式(22)を得る。
【0089】
同様に、音圧p(t)の項を消去して粒子速度成分u
x(t)だけを抽出すると式(23)を経て式(24)を得る。
【0092】
図1に戻って音響情報算出部31の構成の説明を続ける。
音響情報算出部31は、第1の収音部21によって生成される信号M1と、第2の収音部22によって生成される信号M2と、第1の収音部21の収音特性AC1と、第2の収音部22の収音特性AC2とに基づいて、音響情報SIを算出する。
音響情報算出部31は、音圧算出部311と、粒子速度算出部312と、音響インテンシティ算出部313と、向き判定部314と、音響インピーダンス算出部315とを備える。
【0093】
音圧算出部311は、複数の信号(信号M1及び信号M2)と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1及び収音特性AC2)とに基づいて、音圧p(t)を算出する。
粒子速度算出部312は、複数の信号(信号M1及び信号M2)と、収音部毎の収音特性(収音特性AC1及び収音特性AC2)とに基づいて、粒子速度u(t)を算出する。
【0094】
音響インテンシティ算出部313は、粒子速度算出部312により算出された粒子速度u(t)と、音圧算出部311により算出された音圧p(t)との積に基づいて、音SDの音響インテンシティIを算出する。ここで音響インテンシティ算出部313は、上述した式(13)、(14)、及び(15)のいずれを用いて音響インテンシティIを算出してもよい。
【0095】
向き判定部314は、音響インテンシティ算出部313により算出された音響インテンシティIに基づいて音が到来する向きを判定する。
音響インピーダンス算出部315は、粒子速度算出部312により算出された粒子速度u(t)と、音圧算出部311により算出された音圧p(t)との比に基づいて、音の音響インピーダンスZを算出する。
【0096】
記憶部32には、第1収音特性情報321と、第2収音特性情報322とが予め記憶される。第1収音特性情報321は、収音特性AC1を示す情報である。第2収音特性情報322は、収音特性AC2を示す情報である。
本実施形態では、収音特性AC1及び収音特性AC2は予め算出されて記憶部32に記憶される場合について説明する。収音特性AC1及び収音特性AC2が算出される方法は、第2実施形態において説明する。
【0097】
出力部4は、音響情報算出部31によって算出された音響情報SIを出力する。出力部4は、例えば外部の表示装置に音響情報SIを出力し、当該表示装置に音響情報SIを表示させる。
【0098】
次に、
図6及び
図7を参照し、音響情報測定装置1が音響情報SIを算出する処理について説明する。
図6は、本実施形態に係る音響情報算出処理の一例を示す図である。
【0099】
ステップS100:第1の収音部21及び第2の収音部22は、到来してくる音SDを収音する。ここで第1の収音部21は、指向特性C1に応じて音SDを収音する。第1の収音部21は、指向特性C1に応じて音SDを収音することに伴って信号M1を生成する。第1の収音部21は、生成した信号M1を音響情報算出部31に供給する。第2の収音部22は、指向特性C2に応じて音SDを収音する。第2の収音部22は、指向特性C2に応じて音SDを収音することに伴って信号M2を生成する。第2の収音部22は、生成した信号M2を音響情報算出部31に供給する。
【0100】
ステップS110:音響情報算出部31は、第1の収音部21により生成された信号M1、及び第2の収音部22により生成された信号M2を取得する。
ステップS120:音響情報算出部31は、記憶部32に記憶される収音特性AC1及び収音特性AC2を取得する。
【0101】
ステップS130:音響情報算出部31は、ステップS110において取得した信号M1及び信号M2と、ステップS120において取得した収音特性AC1及び収音特性AC2とに基づいて音響情報SIを算出する。
【0102】
ここで信号M1及び信号M2は、収音部の指向特性に応じて当該収音部により音が収音されることに伴って収音部毎に生成される。収音特性AC1及び収音特性AC2とは、音を伝える媒質の粒子速度の特定の向きの成分である粒子速度成分を表す第1項と音の音圧を表す第2項とにより信号が表された場合の第1項の係数と第2項の係数との組によって収音部毎に表される。
【0103】
したがって、音響情報算出部31は、収音部により当該収音部の指向特性に応じて音SDが収音されることに伴って収音部毎に生成される信号と、音を伝える媒質の粒子速度の特定の向きの成分である粒子速度成分を表す第1項と音の音圧を表す第2項とにより信号が表された場合の第1項の係数と第2項の係数との組によって収音部毎に表される収音特性とに基づいて、音SDについての情報である音響情報SIを算出する。
【0104】
図7を参照し、音響情報算出部31が、音圧p(t)、粒子速度u(t)、音響インテンシティI、音が到来する向き、及び音響インピーダンスZを、音響情報SIとして算出する各処理について説明する。
【0105】
図7は、本実施形態に係る各種の音響情報の算出処理の一例を示す図である。ステップS200〜S240は、
図6のステップS130として実行される。
【0106】
ステップS200:音圧算出部311は、信号M1及び信号M2と、収音特性AC1(係数α
1及び係数β
1)及び収音特性AC2(係数α
2及び係数β
2)とに基づいて、上述した式(22)を用いて音圧p(t)を算出する。
ここで式(22)によれば、音圧p(t)は、信号M1と信号M2との和に基づいて算出される。ここで当該和とは、収音特性AC1(係数α
1及び係数β
1)及び収音特性AC2(係数α
2及び係数β
2)に基づいて補正された和である。
【0107】
ステップS210:粒子速度算出部312は、信号M1及び信号M2と、収音特性AC1(係数α
1及び係数β
1)及び収音特性AC2(係数α
2及び係数β
2)とに基づいて、上述した式(24)を用いて粒子速度成分u
x(t)を算出する。
ここで式(24)によれば、粒子速度成分u
x(t)は、信号M1と信号M2との差に基づいて算出される。ここで当該差とは、収音特性AC1(係数α
1及び係数β
1)及び収音特性AC2(係数α
2及び係数β
2)に基づいて補正された差である。
【0108】
粒子速度算出部312は、粒子速度成分u
x(t)に加えて、Y軸方向の粒子速度成分u
y(t)、及びZ軸方向の粒子速度成分u
z(t)を粒子速度成分u
x(t)と同様に算出し、粒子速度u(t)を算出する。
【0109】
ステップS220:音響インテンシティ算出部313は、粒子速度算出部312により算出された粒子速度u(t)と、音圧算出部311により算出された音圧p(t)との積に基づいて、音SDの音響インテンシティIを算出する。ここで音響インテンシティ算出部313は、式(25)に基づいて音響インテンシティI
x(t)を算出する。
【0111】
ここで式(25)において、音圧p(t)は式(22)により表され、粒子速度成分u
z(t)は式(24)により表される。
音響インテンシティ算出部313は、式(26)に基づいて音響インテンシティI
xを算出する。
【0113】
ここで式(26)における音響インテンシティI
xは、式(13)と同様に瞬時インテンシティの平均であってもよいし、式(14)と同様に瞬時二乗応答の差分の平均であってもよいし、式(15)と同様に二乗平均の差分であってもよい。つまり、音響インテンシティ算出部313は、瞬時インテンシティの平均として音響インテンシティI
xを算出してもよいし、瞬時二乗応答の差分の平均として音響インテンシティI
xを算出してもよいし、及び二乗平均の差分として音響インテンシティI
xを算出してもよい。
音響インテンシティ算出部313は、音響インテンシティI
xと同様に、音響インテンシティI
y及び音響インテンシティI
zを算出する。
音響インテンシティ算出部313は、算出した音響インテンシティI
xと、音響インテンシティI
yと、音響インテンシティI
zとの組を音響インテンシティIとする。
【0114】
ステップS230:向き判定部314は、音響インテンシティ算出部313により算出された音響インテンシティIに基づいて音が到来する向きを判定する。ここで向き判定部314は、音響インテンシティI
xと、音響インテンシティI
yと、音響インテンシティI
zとの組により示される向きと反対の向きを、音が到来する向きであると判定する。
【0115】
ステップS240:音響インピーダンス算出部315は、粒子速度算出部312により算出された粒子速度u(t)と、音圧算出部311により算出された音圧p(t)との比に基づいて、音の音響インピーダンスZを算出する。
【0116】
以上に説明したように、本実施形態に係る音響情報測定装置1は、複数の収音部2と、音響情報算出部31とを備える。
収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)は、所定の指向特性を有し、到来してくる音SDを収音する。
音響情報算出部31は、収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)により当該収音部の指向特性(この一例において、指向特性C1または指向特性C2)に応じて音SDが収音されることに伴って収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)毎に生成される信号(この一例において、信号M1または信号M2)と、音を伝える媒質の粒子速度の特定の向きの成分である粒子速度成分(この一例において、粒子速度成分u
x(t)、粒子速度成分u
y(t)、粒子速度成分u
z(t))を表す第1項T1と音の音圧を表す第2項T2とにより信号(この一例において、信号M1または信号M2)が表された場合の第1項T1の係数(この一例において、係数α)と第2項T2の係数(この一例において、係数β)との組によって収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)毎に表される収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)とに基づいて、音SDについての情報である音響情報SIを算出する。
【0117】
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)に基づいて音響情報SIを算出できるため、音響情報SIの測定の精度を高めることができる。
【0118】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、複数の指向特性(この一例において、指向特性C1及び指向特性C2)は、複数の収音部2相互に向き毎の感度差が所定の範囲内である。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、複数の指向特性が複数の収音部2相互に向き毎の感度差が所定の範囲内でない場合に比べて、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)の算出の精度を高めることができるため、複数の指向特性が複数の収音部2相互に向き毎の感度差が所定の範囲内でない場合に比べて音響情報SIの測定の精度を高めることができる。
【0119】
ここで、上述したように式(19)及び式(20)によれば、式(17)及び式(18)を単純な加算と差分によって解くことができるのは、係数α
1と係数α
2とが等しくかつ係数β
1と係数β
2とが等しい場合である。係数α
1と係数α
2とが等しくない場合や、係数β
1と係数β
2とが等しくない場合には、係数α
1と係数α
2との差、及び係数β
1と係数β
2との差は、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を算出する際の誤差となる。複数の指向特性が複数の収音部2相互に向き毎の感度差が所定の範囲内である場合には、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を算出する際の誤差を、複数の指向特性が複数の収音部2相互に向き毎の感度差が所定の範囲内でない場合に比べて小さくできる。
なお、式(19)及び式(20)を公知の数値計算手法に基づいて解くことにより、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)が算出されてもよい。
【0120】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、複数の収音部2は、第1の収音部21と、第2の収音部22とを含み、第1の収音部21と、第2の収音部22とは互いに対向して配置される。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、第1の収音部21と、第2の収音部22とは互いに対向していない場合に比べて粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)の算出の精度を高めることができるため、第1の収音部21と、第2の収音部22とは互いに対向していない場合に比べて音響情報SIの測定の精度を高めることができる。
【0121】
ここで式(17)と式(18)とを比較すると、係数α
1及び係数α
2と、係数β
1及び係数β
2とが異なる点以外に、粒子速度成分を表す第1項T1(u
x(t)ρc)の符号が異なる。式(17)と式(18)との差異が、係数α
1及び係数α
2と、係数β
1及び係数β
2とが異なる点以外に、第1項T1の符号が異なる点のみであるのは、第1の収音部21と、第2の収音部22とが互いに対向しているためである。
【0122】
第1の収音部21と、第2の収音部22とが180度反対向きに配置されていない場合には、第1の収音部21の向きと、第2の収音部22の向きとの間の角度の180度からのずれは、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を算出する際の誤差となる。第1の収音部21の向きと、第2の収音部22の向きとの間の角度の180度からのずれを所定の範囲内にして第1の収音部21と第2の収音部22とを対向させれば、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を算出する際の誤差を、第1の収音部21の向きと、第2の収音部22の向きとの間の角度の180度からのずれが所定の範囲内でない場合に比べて小さくできる。
なお、式(19)及び式(20)を公知の数値計算手法に基づいて解くことにより、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)が算出されてもよい。
【0123】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1は、粒子速度算出部312をさらに備える。粒子速度算出部312は、複数の信号(この一例において、信号M1及び信号M2)と、収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)毎の収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)とに基づいて、粒子速度u(t)を算出する。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)に基づいて粒子速度u(t)を算出できるため、粒子速度u(t)の測定の精度を高めることができる。
【0124】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1は、音圧算出部311をさらに備える。音圧算出部311は、複数の信号(この一例において、信号M1及び信号M2)と、収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)毎に表される収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)とに基づいて、音圧p(t)を算出する。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)に基づいて音圧p(t)を算出できるため、音圧p(t)の測定の精度を高めることができる。
【0125】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1は、音響インテンシティ算出部313をさらに備える。音響インテンシティ算出部313は、粒子速度算出部312により算出された粒子速度u(t)と、音圧算出部311により算出された音圧p(t)との積に基づいて、音SDの音響インテンシティ(この一例において、音響インテンシティI、または音響インテンシティI(t))を算出する。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)に基づいて音響インテンシティ(この一例において、音響インテンシティI、または音響インテンシティI(t))を算出できるため、音響インテンシティ(この一例において、音響インテンシティI、または音響インテンシティI(t))の測定の精度を高めることができる。
【0126】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1は、向き判定部314をさらに備える。向き判定部314は、音響インテンシティ算出部313により算出された音響インテンシティ(この一例において、音響インテンシティI、または音響インテンシティI(t))に基づいて音SDが到来する向きを判定する。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)に基づいて音SDが到来する向きを判定できるため、当該向きの判定の精度を高めることができる。
【0127】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1は、音響インピーダンス算出部315をさらに備える。音響インピーダンス算出部315は、粒子速度算出部312により算出された粒子速度u(t)と、音圧算出部311により算出された音圧p(t)との比に基づいて、音SDの音響インピーダンスZを算出する。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1では、収音特性(この一例において、収音特性AC1または収音特性AC2)に基づいて音響インピーダンスZを算出できるため、音響インピーダンスZの測定の精度を高めることができる。
【0128】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。
上記第1の実施形態では、音響情報測定装置1の記憶部32に収音特性ACを示す収音特性情報が予め記憶されている場合について説明をした。本実施形態では、収音特性ACが算出される場合について説明をする。
本実施形態に係る音響情報測定装置を音響情報測定装置1aという。
【0129】
図8は、本実施形態に係る音響情報測定装置1aの構成の一例を示す図である。本実施形態に係る音響情報測定装置1a(
図8)と第1の実施形態に係る音響情報測定装置1(
図1)とを比較すると、処理部3aが収音特性算出部33aを備えている点が異なる。ここで、他の構成要素(複数の収音部2、音響情報算出部31、記憶部32、及び出力部4)が持つ機能は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ機能の説明は省略し、第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0130】
収音特性算出部33aは、校正対象収音部CTの収音特性ACを算出する。ここで校正対象収音部CTとは、収音特性ACの校正の対象となる収音部である。収音特性算出部33aは、複数の収音部2のうちの1つを校正対象収音部CTにして、当該校正対象収音部CTの収音特性ACを算出する。
【0131】
収音特性算出部33aは、C−C法の校正方法であるC−C法校正方法に基づいて、カーディオイドマイクである校正対象収音部CTを校正する。ここでカーディオイドマイクである校正対象収音部CTを校正するとは、当該校正対象収音部CTの収音特性ACを算出することである。上述したように、カーディオイドマイクの収音特性ACは、係数α及び係数βがともに0.5の場合に相当する。係数αと係数βとの組である収音特性ACを算出することは、校正対象収音部CTの係数αと係数βとを0.5から補正することに対応する。
ここで1次元の場合のC−C法校正方法について説明する。
【0132】
C−C法校正方法では、単一平面波である基準音SD0がx軸の+方向から到来するようにする。基準音SD0では、校正の基準となる音であり、音圧、及び粒子速度が予めわかっている。基準音SD0の校正対象収音部CTの位置における音圧を基準音圧p
0(t)、当該位置における粒子速度を基準粒子速度u
0(t)とする。基準音SD0は、単一平面波なので基準音圧p
0(t)は基準粒子速度u
0(t)に音響インピーダンスであるρcを乗じた値となる(p
0(t)=ρc・u
0(t))。
なお、基準音SD0は、基準音圧p
0(t)と基準粒子速度u
0(t)とが既知の音場であれば単一平面波でなくてもよい。
【0133】
校正対象収音部CTをx軸上の同一点においてx軸の+方向と−方向とに向きを変えて2回に分けて基準音SD0を測定したマイク応答をそれぞれ信号M
+(t)、及び信号M
−(t)とする。
係数αは式(27)によって算出される。
【0135】
係数βは式(28)によって算出される。
【0137】
C−C法校正方法では、第1の収音部21と第2の収音部22とをそれぞれ校正対象収音部CTとして、式(27)及び式(28)により係数α及び係数βが算出される。算出された係数α及び係数βを、それぞれ第1の収音部21の収音特性AC1である係数α1及び係数β1、第2の収音部22の収音特性AC2である係数α2及び係数β2とする。
【0138】
上述した式(27)及び式(28)は振幅のみの校正である。位相を含めて校正する場合は以下のようにする。
【0139】
式(29)〜(32)のように、基準音圧p
0(t)のフーリエ変換を周波数領域基準音圧P0(ω)、基準粒子速度u
0(t)のフーリエ変換を周波数領域基準粒子速度U0(ω)、{M
+(t)+M
−(t)}のフーリエ変換を周波数領域加算時間応答M
P(ω)、{M
+(t)−M
−(t)}のフーリエ変換を周波数領域差分時間応答M
m(ω)とする。
【0144】
周波数領域では、係数α及び係数βは、それぞれ角速度ωをパラメータとした複素関数となり、式(33)及び式(34)によって表される。
【0147】
係数α及び係数βは、それぞれ式(33)によって表される周波数領域係数α(ω)、及び式(34)によって表される周波数領域係数β(ω)を逆フーリエ変換することによって算出される。
つまり、収音特性AC(係数α及び係数β)は、校正対象収音部CTの収音特性ACの周波数特性に基づいて算出される。
【0148】
周波数領域係数α(ω)、及び周波数領域係数β(ω)を用いて、周波数領域基準音圧P0(ω)、及び周波数領域基準粒子速度U0(ω)は式(35)及び式(36)によって算出される。
【0151】
ここで周波数領域音圧P(ω)、周波数領域粒子速度成分U
x(ω)、周波数領域信号M
1(ω)、及び周波数領域信号M
2(ω)は、式(37)〜(40)に示すようにそれぞれ、音圧P(t)、粒子速度成分u
x(t)、信号M1(t)、及び信号M2(t)のフーリエ変換である。
【0156】
式(35)及び式(36)によれば、時間応答である信号M
1(t)、及び信号M
2(t)をフーリエ変換して、周波数領域において周波数領域音圧P(ω)及び周波数領域粒子速度成分U
x(ω)を求めることができる。
式(35)によって表される周波数領域音圧P(ω)、及び式(36)によって表される周波数領域粒子速度成分U
x(ω)に、逆フーリエ変換を施せば時間応答として音圧p(t)と粒子速度成分u
x(t)が得られる。
【0157】
図9を参照し、収音特性算出部33aが校正対象収音部CTを校正する処理について説明する。
図9は、本実施形態に係る収音部に対する校正処理の一例を示す図である。
図9に示す校正処理は、
図6の音響情報算出処理が行われる前に予め行われる。
【0158】
ステップS300(第1の収音過程):校正対象収音部CTは、x軸上のある点においてx軸の+方向に向けられて配置され、到来してくる基準音SD0を収音する。
ステップS310:収音特性算出部33aは、校正対象収音部CTにより生成された第1信号である信号M
+(t)を取得する。
【0159】
ステップS320(第2の収音過程):校正対象収音部CTは、x軸上のステップS300(第1の収音過程)と同一の点においてx軸の−方向に向けられて配置され、到来してくる基準音SD0を収音する。
ステップS330:収音特性算出部33aは、校正対象収音部CTにより生成された第2信号である信号M
−(t)を取得する。
【0160】
ステップS340:収音特性算出部33aは、式(27)に基づいて、信号M
+(t)と信号M
−(t)との和に基づいて係数αを算出する。
ステップS350:収音特性算出部33aは、式(28)に示したように信号M
+(t)と信号M
−(t)との差に基づいて係数βを算出する。
【0161】
ここで信号M
+(t)は、複数の収音部2のうちの1つを校正対象収音部CTにして、第1の向きであるx軸の+方向に校正対象収音部CTが配置された場合に、校正対象収音部CTによって収音された基準音SD0に応じて生成される第1信号である。信号M
−(t)は、第1の向きと対向する第2の向きであるx軸の−方向に校正対象収音部CTが配置された場合に、校正対象収音部CTによって収音された基準音SD0に応じて生成される第2信号である。
したがって、収音特性AC(係数α及び係数β)は、複数の収音部2のうちの1つを校正対象収音部CTにして、第1の向きに校正対象収音部CTが配置された場合に、校正対象収音部CTによって収音された基準音SD0に応じて生成される信号である第1信号と、第1の向きと対向する第2の向きに校正対象収音部CTが配置された場合に、校正対象収音部CTによって収音された基準音SD0に応じて生成される信号である第2信号との和と、第1信号と第2信号との差とに基づいて、校正対象収音部CTの収音特性ACとして算出される。
【0162】
ステップS360:収音特性算出部33aは、ステップS340において算出した係数αと、ステップS350において算出した係数βとの組を収音特性ACとして出力する。ここで収音特性算出部33aは、一例として、記憶部32に算出した収音特性ACを記憶させることにより、収音特性ACを出力する。なお、収音特性算出部33aは、算出した収音特性ACを音響情報算出部31に出力してもよい。
収音特性算出部33aは、校正処理を終了する。
【0163】
なお、本実施形態では、校正対象収音部CTがx軸上の同一点においてx軸の+方向と−方向とに向きを変えて2回に分けて基準音SD0を測定したマイク応答をそれぞれ信号M
+(t)、及び信号M
−(t)とされる場合について説明したが、これに限らない。
【0164】
複数の収音部2のうちの例えば、第1の収音部21が校正対象収音部CTとしてx軸の+方向に配置され、複数の収音部2のうちの例えば、第2の収音部22がx軸の−方向に配置されて、基準音SD0を測定したマイク応答をそれぞれ信号M
+(t)、及び信号M
−(t)としてもよい。ここで第1の収音部21の指向特性C1と、第2の収音部22の指向特性C2との間の向き毎の感度差は所定の範囲内にされる。校正対象収音部CT以外の収音部である第2の収音部22が基準音SD0を測定したマイク応答である信号M
−(t)を、校正補助信号という。
【0165】
つまり、収音特性AC(係数α及び係数β)は、第1の向きと第2の向きとにそれぞれ配置される2つの収音部のうち、校正対象収音部CTの指向特性CAと、校正対象収音部CT以外の収音部の指向特性CAとの間の向き毎の感度差が所定の範囲内にされ、校正対象収音部CT以外の収音部の信号である校正補助信号と校正対象収音部CTの信号との和と、校正補助信号と校正対象収音部CTの信号との差とに基づいて、校正対象収音部CTの収音特性ACとして算出される。
【0166】
また、本実施形態では、収音特性算出部33aは、処理部3aに備えられる場合について説明したが、これに限らない。収音特性算出部33aは、音響情報測定装置1aとは独立した外部の装置である収音特性算出装置として備えられてもよい。収音特性算出部33aが音響情報測定装置1aとは独立した収音特性算出装置として備えられる場合、音響情報測定装置1aの構成は、第1実施形態の音響情報測定装置1の構成と同一となる。
【0167】
以上に説明したように、本実施形態に係る音響情報測定装置1aでは、収音特性ACは、複数の収音部2のうちの1つを校正対象収音部CTにして、第1の向きに校正対象収音部CTが配置された場合に、校正対象収音部CTによって収音された基準音SD0に応じて生成される信号である第1信号(この一例において、信号M
+(t))と、第1の向きと対向する第2の向きに校正対象収音部CTが配置された場合に、校正対象収音部CTによって収音された基準音SD0に応じて生成される信号である第2信号(この一例において、信号M
−(t))との和と、第1信号(この一例において、信号M
+(t))と第2信号(この一例において、信号M
−(t))との差とに基づいて、校正対象収音部CTの収音特性ACとして算出される、または、収音特性ACは、第1の向きと第2の向きとにそれぞれ配置される2つの収音部(この一例において、第1の収音部21及び第2の収音部22)のうち、校正対象収音部CT(この一例において、第1の収音部21)の指向特性CA1と、校正対象収音部CT以外の収音部(この一例において、第2の収音部22)の指向特性CA2との間の向き毎の感度差が所定の範囲内にされ、校正対象収音部CT以外の収音部(この一例において、第2の収音部22)の信号である校正補助信号と校正対象収音部CT(この一例において、第1の収音部21)の信号との和と、校正補助信号と校正対象収音部CTの信号との差とに基づいて、校正対象収音部CTの収音特性ACとして算出される。
【0168】
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1aでは、C−C法校正方法に基づいて1つの校正対象収音部CTの向きを変えることにより校正対象収音部CTの収音特性ACを算出できるため、複数の収音部2を容易に校正できる。
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1aでは、C−C法校正方法に基づいて、校正対象収音部CTの指向特性との間の向き毎の感度差が所定の範囲内である収音部を用いて、校正対象収音部CTの収音特性ACを算出できるため、複数の収音部2を容易に校正できる。
【0169】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1aでは、収音特性ACは、校正対象収音部CTの収音特性ACの周波数特性に基づいて算出される。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1aでは、位相を含めて複数の収音部2を校正することができるため、位相を含めずに例えば振幅のみを校正する場合に比べて複数の収音部2の校正の精度を向上できる。
【0170】
(第3の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第3の実施形態について詳しく説明する。
上記第1の実施形態では、第1の収音部と第2の収音部とが対向して配置される場合について説明した。本実施形態では、第1の収音部と第2の収音部とが方向ベクトルによって示される方向に向けられそれぞれ配置される場合について説明する。第1の収音部と第2の収音部とが方向ベクトルによって示される方向に向けられそれぞれ配置されることにより、C−C法はベクトル合成法によって一般化される。
本実施形態に係る音響情報測定装置を音響情報測定装置1bという。
【0171】
図10及び
図11を参照し、C−C法のベクトル合成法による一般化について説明する。
図10は、本実施形態に係る方向ベクトルに基づく収音部の配置の一例を示す図である。
図10では、矢印A4によって示される方向から、音が到来している。当該音は、位置P0において、音圧p(t)、及び粒子速度ベクトルu(t)により示される粒子速度をもつ。
【0172】
C−C法をベクトル合成法により一般化すると、カーディオイドマイクによって、音圧p(t)とカーディオイドマイクを向けた方向の粒子速度ベクトルu(t)が係数αiとβiとの比率で混合された応答を測定することに帰結される。カーディオイドマイクによる応答M
i(t)は式(41)のように表される。
【0174】
ここで、方向ベクトルm
iは、i番目のカーディオイドマイクの向きを示し、式(42)を満たすとする。
【0176】
方向ベクトルm
iと矢印A4とは、角度θ
1をなす。
【0177】
図11は、本実施形態に係る方向ベクトルに基づく2つの収音部の配置の一例を示す図である。ここで、180度反対向きの2本のカーディオイドマイクの向きをそれぞれ示す方向ベクトルを、方向ベクトルm
1、方向ベクトルm
2とする。方向ベクトルm
1と方向ベクトルm
2とは、定義から式(43)を満たす。
【0179】
つまり、方向ベクトルm
1と方向ベクトルm
2との合成ベクトルは、ゼロベクトルである。
1番目のカーディオイドマイクの応答M
1(t)、及び2番目のカーディオイドマイクの応答M
2(t)は、それぞれ式(44)及び式(45)によって表される。
【0182】
式(44)及び式(45)を連立させることによって、音圧p(t)と粒子速度ベクトルu(t)とが算出される。
【0183】
ここで音圧p(t)の算出方法について説明する。式(44)及び式(45)を連立させて、粒子速度ベクトルu(t)を消去して音圧p(t)を算出する。
式(44)及び式(45)より、式(46)が得られる。
【0185】
式(43)より、式(46)から式(47)が得られる。
【0187】
よって、式(48)のように音圧p(t)が算出される。
【0189】
次に、粒子速度ベクトルu(t)の算出方法について説明する。式(44)及び式(45)を連立させて、音圧p(t)を消去して粒子速度ベクトルu(t)を算出する。
式(44)及び式(45)より、式(49)が得られる。
【0191】
式(43)より、式(49)から式(50)が得られる。
【0193】
よって、式(51)のように粒子速度ベクトルu(t)が算出される。
【0195】
図12は、本実施形態に係る音響情報測定装置1bの構成の一例を示す図である。本実施形態に係る音響情報測定装置1b(
図12)と第1の実施形態に係る音響情報測定装置1(
図1)とを比較すると、処理部3bが音響情報算出部31bと、記憶部32bとを備えている点が異なる。ここで、他の構成要素(複数の収音部2、及び出力部4)が持つ機能は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ機能の説明は省略し、第3の実施形態では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0196】
第1の収音部21は、方向ベクトルm
1が示す向きに向けられ配置される。第2の収音部22は、方向ベクトルm
2が示す向きに向けられ配置される。ここで方向ベクトルm
1と方向ベクトルm
2との合成ベクトルはゼロベクトルである。
つまり、複数の収音部2は、収音部毎に大きさが同じである方向ベクトルによって示される方向をもち、複数の方向ベクトルの合成ベクトルの大きさを所定の値以下にして方向ベクトルによって示される方向に向けられそれぞれ配置される。
【0197】
処理部3bは、音響情報算出部31bと、記憶部32bとを備える。
音響情報算出部31bは、音圧算出部311bと、粒子速度算出部312bと、音響インテンシティ算出部313と、向き判定部314と、音響インピーダンス算出部315とを備える。ここで音響インテンシティ算出部313と、向き判定部314と、音響インピーダンス算出部315とが持つ機能は第1の実施形態と同じである。
【0198】
音圧算出部311bは、複数の信号(応答M
1(t)及び応答M
2(t))と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1及び収音特性AC2)とに基づいて、音圧p(t)を算出する。ここで音圧算出部311bは、上述した式(48)に基づいて音圧p(t)を算出する。
【0199】
粒子速度算出部312bは、複数の信号(応答M
1(t)及び応答M
2(t))と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1及び収音特性AC2)と、方向ベクトル情報323bとに基づいて、粒子速度ベクトルu(t)を算出する。ここで、方向ベクトル情報323bとは、方向ベクトルm
1と方向ベクトルm
2とを示す情報である。またここで、粒子速度算出部312bは、上述した式(51)に基づいて粒子速度ベクトルu(t)を算出する。
つまり、粒子速度算出部312bは、複数の信号(応答M
1(t)及び応答M
2(t))と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1及び収音特性AC2)と、複数の方向ベクトル(方向ベクトルm
1及び方向ベクトルm
2)とに基づいて粒子速度(粒子速度ベクトルu(t))を算出する。
【0200】
記憶部32bには、方向ベクトル情報323bと、第1収音特性情報321と、第2収音特性情報322とが予め記憶される。
【0201】
以上に説明したように、本実施形態に係る音響情報測定装置1bでは、複数の収音部2は、収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)毎に大きさが同じである方向ベクトル(この一例において、方向ベクトルm
1または方向ベクトルm
2)によって示される方向をもち、複数の方向ベクトル(この一例において、方向ベクトルm
1及び方向ベクトルm
2)の合成ベクトルの大きさを所定の値以下(この一例において、ゼロベクトル)にして方向ベクトル(この一例において、方向ベクトルm
1または方向ベクトルm
2)によって示される方向に向けられそれぞれ配置される。
【0202】
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1bでは、複数の方向ベクトルの合成ベクトルの大きさが所定の値以下でない場合に比べて、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)の算出の精度を高めることができるため、複数の方向ベクトルの合成ベクトルの大きさが所定の値以下でない場合に比べて音響情報SIの測定の精度を高めることができる。
【0203】
ここで式(46)から式(47)が導出される過程や、式(49)から式(50)が導出される過程によれば、式(43)のように複数の方向ベクトルの合成ベクトルの大きさがゼロベクトルである場合に、式(47)や式(50)が単純に導出される。複数の方向ベクトルの合成ベクトルの大きさがゼロベクトルでない場合には、複数の方向ベクトルと合成ベクトルのゼロベクトルとの差は、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を算出する際の誤差となる。複数の方向ベクトルの合成ベクトルの大きさが所定の値以下である場合には、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)を算出する際の誤差を、複数の方向ベクトルの合成ベクトルの大きさが所定の値以下でない場合に比べて小さくできる。
なお、式(44)及び式(45)を公知の数値計算手法に基づいて解くことにより、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)が算出されてもよい。
【0204】
また、本実施形態に係る音響情報測定装置1bは、粒子速度算出部312bを備える。粒子速度算出部312bは、複数の信号(この一例において、応答M
1(t)及び応答M
2(t))と、収音部(この一例において、第1の収音部21または第2の収音部22)毎に表される収音特性(この一例において、収音特性AC1及び収音特性AC2)と、複数の方向ベクトル(この一例において、方向ベクトルm
1及び方向ベクトルm
2)とに基づいて粒子速度(この一例において、粒子速度ベクトルu(t))を算出する。
【0205】
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1bでは、複数の方向ベクトルに基づいて粒子速度u(t)を算出できるため、複数の方向ベクトルに基づかない場合に比べて粒子速度u(t)の測定の精度を高めることができる。
【0206】
(第4の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第4の実施形態について詳しく説明する。
上記第3の実施形態では、第1の収音部と第2の収音部とが方向ベクトルによって示される方向に向けられそれぞれ配置される場合について説明した。本実施形態では、6つの収音部が方向ベクトルによって示される方向に向けられそれぞれ配置される場合について説明する。
本実施形態に係る音響情報測定装置を音響情報測定装置1cという。
【0207】
第3の実施形態においてベクトル合成法によって一般化されたC−C法が2本以上のカーディオイドマイクに適用される場合について説明する。
まず、数nの本数のカーディオイドマイクの場合の、音圧と粒子速度の算出方法について説明する。つまり、nチャンネルの測定システムの場合について説明する。
カーディオイドマイクによる応答M
i(t)は、式(52)によって表される。
【0209】
音圧p(t)は、式(53)によって表される。
【0211】
粒子速度ベクトルu(t)は、式(54)によって表される。
【0213】
ここで方向ベクトルm
iは、式(55)及び式(56)を満たす。
【0216】
ここで方向ベクトルm
iのx軸、y軸、z軸の各方向の成分を成分x
i、成分y
i、及び成分z
iとする。成分x
i、成分y
i、及び成分z
iは式(57)を満たす。
【0218】
つまり、方向ベクトルm
iの成分毎の二乗和の当該成分間の差はゼロである。なお、方向ベクトルm
iの成分毎の二乗和の当該成分間の差は、所定の値だけゼロからずれていてもよい。つまり、複数の方向ベクトルの成分毎の二乗和の当該成分間の差はそれぞれ所定の値以下である。
【0219】
次に、数nの本数のカーディオイドマイクの場合の、周波数領域における音圧と粒子速度の算出方法について説明する。
カーディオイドマイクによる周波数領域応答M
i(ω)は、式(58)によって表される。
【0221】
周波数領域音圧p(ω)は、式(59)によって表される。
【0223】
周波数領域粒子速度ベクトルU(ω)は、式(60)によって表される。
【0225】
ここで周波数領域係数α
i(ω)、及び周波数領域係数β
i(ω)は複素数である。
【0226】
次に、数nの本数のカーディオイドマイクの場合のカーディオイドマイクの校正方法について説明する。
【0227】
図13は、本実施形態に係る複数のカーディオイドマイクの校正方法の一例を示す図である。複数のカーディオイドマイクの校正方法は、第2の実施形態において説明した対向して配置される2本のカーディオイドマイクの校正方法と、校正対象である1本のカーディオイドマイクを180度反対向きに2回測定する点において同様である。
以下、校正対象である1本のカーディオイドマイクを、校正対象マイクという。
【0228】
x方向において同一の校正対象マイクを180度反対向きに2回測定する。180度反対向きのベクトルを、方向ベクトルm
i1、m
i2とする。このとき、既知の音圧である基準音圧p
0(t)と粒子速度成分u
x(t)が音圧と粒子速度成分とが既知の音場を用意する。当該音場の音圧を基準音圧p
0(t)とし、当該音場のx方向の粒子速度成分を基準粒子速度成分u
0x(t)とする。基準粒子速度成分u
0x(t)は、基準粒子速度u
0(t)のx方向成分である。
図13においては、既知の音場は、スピーカSP1から出力される音によって生成される。スピーカSP1から出力される音は、矢印A5によって示される向きから校正対象マイクに到来する。
【0229】
既知の音場として、例えば、校正対象マイクからスピーカSP1を十分離し、受音点において単一平面波音場を仮定できる音場が考えられる。単一平面波の場合、基準音圧p
0(t)は、式(61)によって表される。
【0231】
あるいは既知の音場として、音響管など一次元音場となる条件を用いてもよい。
【0232】
校正対象マイクを、180度反対の向きそれぞれに向けた場合の応答Mi1(t)、応答Mi2(t)は、式(62)及び式(63)によって表される。
【0235】
式(62)及び式(63)を連立させることによって、係数α
i及び係数β
iを算出する。
式(62)と式(63)との加算は、式(64)によって表される。
【0237】
式(64)から、係数α
iが式(65)のように算出される。
【0239】
ここで、完全に同一点において測定し、校正対象マイクの位相差がない場合には、式(66)のように、校正対象マイクが180度反対の向きそれぞれに向けた場合の応答Mi1(t)、応答Mi2(t)のそれぞれの実効値が用いられてもよい。
【0241】
次に、式(62)から式(63)を減じると、式(67)が得られる。
【0243】
式(67)から、係数β
iが式(68)のように算出される。
【0245】
ここで、完全に同一点において測定し、校正対象マイクの位相差がない場合には、式(69)のように、校正対象マイクが180度反対の向きそれぞれに向けた場合の応答Mi1(t)、応答Mi2(t)のそれぞれの実効値が用いられてもよい。
【0247】
既知の音場として、単一平面波を用いる場合には、式(61)となるから、係数β
iは、式(70)及び式(71)のようにしても算出することができる。
【0250】
次に、周波数領域における複数のカーディオイドマイクの校正方法について説明する。
周波数領域において音圧と粒子速度を算出する場合の周波数領域係数αi(ω)と周波数領域係数βi(ω)とは、上述した式(59)及び式(60)から、式(72)及び式(73)のように算出される。
【0253】
既知の音場として、単一平面波を用いる場合には、式(61)となるから、周波数領域係数β
iは、式(74)のようにしても算出することができる。
【0255】
図14は、本実施形態に係る音響情報測定装置1cの構成の一例を示す図である。本実施形態に係る音響情報測定装置1c(
図14)と第3の実施形態に係る音響情報測定装置1b(
図12)とを比較すると、複数の収音部2cと、処理部3cが音響情報算出部31cと、記憶部32cとを備えている点が異なる。ここで、他の構成要素(収音特性算出部33a、及び出力部4)が持つ機能は第3の実施形態と同じである。第3の実施形態と同じ機能の説明は省略し、第4の実施形態では、第3の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0256】
複数の収音部2cは、第1の収音部21cと、第2の収音部22cと、第3の収音部23cと、第4の収音部24cと、第5の収音部25cと、第6の収音部26cとを含む。つまり、音響情報測定装置1cは、6チャンネルの測定システムである。
【0257】
ここで
図15を参照し、複数の収音部2cの配置について説明する。
図15は、本実施形態に係る複数の収音部2cの配置の一例を示す図である。
図15に示す例では、正八面体の各頂点に基づいて示される6つの測定位置に、第1の収音部21cと、第2の収音部22cと、第3の収音部23cと、第4の収音部24cと、第5の収音部25cと、第6の収音部26cとが配置される。
【0258】
第1の収音部21c、第2の収音部22c、第3の収音部23c、第4の収音部24c、第5の収音部25c、及び第6の収音部26cは、それぞれ矢印A21c、矢印A22c、矢印A23c、矢印A24c、矢印A25c、及び矢印A26cの向きに配置される。ここで矢印A21cと、矢印A22とは180度反対向きである。矢印A23c、矢印A24cとは180度反対向きである。矢印A25c、及び矢印A26cとは180度反対向きである。
つまり、第1の収音部21cと、第2の収音部22cとが対向して配置され、第3の収音部23cと、第4の収音部24cとが対向して配置され、第5の収音部25cと、第6の収音部26cとが対向して配置される。
【0259】
ここで矢印A21c、矢印A22c、矢印A23c、矢印A24c、矢印A25c、及び矢印A26cの向きは、方向ベクトルm
1、方向ベクトルm
2、方向ベクトルm
3、方向ベクトルm
4、方向ベクトルm
5、及び方向ベクトルm
6がそれぞれ示す向きである。方向ベクトルm
1、方向ベクトルm
2、方向ベクトルm
3、方向ベクトルm
4、方向ベクトルm
5、及び方向ベクトルm
6は、正八面体の中心から各頂点への向きをそれぞれ示す。
【0260】
なお、
図15に示す例では、第1の収音部21cと第2の収音部22cとは、矢印A21cと矢印A22cとが互いに正八面体の中心から外側を向いて180度反対向きとなって対向しており、第3の収音部23cと第4の収音部24cとは、矢印A23cと矢印A24cとが互いに正八面体の中心から外側を向いて180度反対向きとなって対向しており、第5の収音部25cと第6の収音部26cとは、矢印A25cと矢印A26cとが互いに正八面体の中心から外側を向いて180度反対向きとなって対向しているが、これに限らない。
第1の収音部21cと第2の収音部22cとは、矢印A21cと矢印A22cとが互いに正八面体の中心へ内側を向いて180度反対向きとなって対向し、第3の収音部23cと第4の収音部24cとは、矢印A23cと矢印A24cとが互いに正八面体の中心へ内側を向いて180度反対向きとなって対向し、第5の収音部25cと第6の収音部26cとは、矢印A25cと矢印A26cとが互いに正八面体の中心へ内側を向いて180度反対向きとなって対向してもよい。
また、なお、複数の収音部2cのそれぞれは、正六面体の各面を構成する正方形の中心に基づいて示される6つの測定位置に配置されてもよい。
【0261】
図14に戻って、音響情報測定装置1cの構成の説明を続ける。
処理部3cは、音響情報算出部31cと、記憶部32cと、収音特性算出部33cとを備える。
音響情報算出部31cは、音圧算出部311cと、粒子速度算出部312cと、音響インテンシティ算出部313と、向き判定部314と、音響インピーダンス算出部315とを備える。ここで音響インテンシティ算出部313と、向き判定部314と、音響インピーダンス算出部315とが持つ機能は第1の実施形態と同じである。
【0262】
音圧算出部311cは、複数の信号(応答M
1(t)〜応答M
6(t))と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1〜収音特性AC6)とに基づいて、音圧p(t)を算出する。ここで音圧算出部311cは、上述した式(53)に基づいて音圧p(t)を算出する。
【0263】
粒子速度算出部312cは、複数の信号(応答M
1(t)〜応答M
6(t))と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1〜収音特性AC6)と、方向ベクトル情報327cとに基づいて、粒子速度ベクトルu(t)を算出する。ここで、方向ベクトル情報327cとは、方向ベクトルm
iを示す情報である。またここで、粒子速度算出部312cは、上述した式(54)に基づいて粒子速度ベクトルu(t)を算出する。
【0264】
つまり、粒子速度算出部312cは、方向ベクトルm
iによって示される方向に向けられ配置される収音部の信号(応答M
i(t))に当該収音部の収音特性ACiに基づく因子と当該方向ベクトルm
iとを乗じて複数の収音部2c毎に得られるベクトルの和に基づいて、粒子速度(粒子速度ベクトルu(t))を算出する。
【0265】
記憶部32cには、方向ベクトル情報327cと、第1収音特性情報321cと、第2収音特性情報322cと、第3収音特性情報323cと、第4収音特性情報324cと、第5収音特性情報325cと、第6収音特性情報326cとが予め記憶される。方向ベクトル情報327cは、方向ベクトルm
1〜方向ベクトルm
6を示す情報である。
【0266】
収音特性算出部33cは、上述した複数のカーディオイドマイクの校正方法に基づいて、カーディオイドマイクである校正対象収音部CTを校正する。
【0267】
次に、
図16及び
図17を参照し、音響情報測定装置1cが音響情報SIを算出する処理について説明する。
図16は、本実施形態に係る音響情報算出処理の一例を示す図である。なお、ステップS400、ステップS410、ステップS420、及びステップS430の各処理は、
図6におけるステップS100、ステップS110、ステップS120、及びステップS130の各処理と、複数の収音部2cに含まれる収音部の数が2から6に増えた点以外は同様であるため、説明を省略する。
【0268】
図17は、本実施形態に係る各種の音響情報の算出処理の一例を示す図である。ステップS500〜S540は、
図16のステップS430として実行される。なお、ステップS520、ステップS530、及びステップS540の各処理は、
図6におけるステップS220、ステップS230、及びステップS240の各処理と同様であるため、説明を省略する。
【0269】
ステップS500:音圧算出部311cは、複数の信号(応答M
1(t)〜応答M
6(t))と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1〜収音特性AC6)とに基づいて、上述した式(53)を用いて音圧p(t)を算出する。
【0270】
ステップS510:粒子速度算出部312cは、複数の信号(応答M
1(t)〜応答M
6(t))と、収音部毎に表される収音特性(収音特性AC1〜収音特性AC6)と、方向ベクトル情報327cとに基づいて、上述した式(54)を用いて粒子速度ベクトルu(t)を算出する。
【0271】
なお、本実施形態では、6つの収音部が正八面体の各頂点に基づいて示される6つの測定位置に配置される場合について説明したが、これに限らない。複数の収音部2cに含まれる収音部の数は、2つ以上であればいずれの数でもよい。
【0272】
ここで
図18を参照し、本実施形態の変形例として、複数の収音部に含まれる収音部の数が4つである場合について説明する。本変形例に係る音響情報測定装置を音響情報測定装置1dといい、本変形例に係る複数の収音部を複数の収音部2dという。
図18は、本実施形態の変形例に係る複数の収音部2dの配置の一例を示す図である。複数の収音部2dは、第1の収音部21dと、第2の収音部22dと、第3の収音部23dと、第4の収音部24dとを含む。
図17に示す例では、正四面体の各頂点に基づいて示される4つの測定位置に第1の収音部21dと、第2の収音部22dと、第3の収音部23dと、第4の収音部24dとが配置される。
【0273】
第1の収音部21d、第2の収音部22d、第3の収音部23d、及び第4の収音部24dは、それぞれ矢印A21d、矢印A22d、矢印A23d、及び矢印A24dの向きに配置される。ここで矢印A21d、矢印A22d、矢印A23d、及び矢印A24dは、正四面体の重心から各頂点へ向かう向きをそれぞれ示す。つまり、第1の収音部21d、第2の収音部22d、第3の収音部23d、及び第4の収音部24dは、それぞれ正四面体の重心から各頂点へ向かう向きに外側を向いて配置される。
【0274】
なお、矢印A21d、矢印A22d、矢印A23d、及び矢印A24dは、正四面体の各頂点から重心へ向かう向きであってもよい。つまり、第1の収音部21d、第2の収音部22d、第3の収音部23d、及び第4の収音部24dは、それぞれ正四面体の各頂点から重心へ向かう向きに内側を向いて配置されてもよい。
【0275】
本実施形態に係る音響情報測定装置1cでは、複数の収音部2cは、第1の収音部21cと、第2の収音部22cと、第3の収音部23cと、第4の収音部24cと、第5の収音部25cと、第6の収音部26cとを含み、正八面体の各頂点に基づいて示される6つの測定位置に、第1の収音部21cと、第2の収音部22cと、第3の収音部23cと、第4の収音部24cと、第5の収音部25cと、第6の収音部26cとが配置される。
【0276】
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1cでは、複数の収音部のうちの1つの収音部が故障した場合であっても、故障した収音部と、当該収音部と対向する収音部を除いた4つの収音部により音響情報の測定ができるため、複数の収音部の数が6つ未満の場合に比べて測定装置に冗長性を持たせることができる。
ここで音響情報測定装置1cは、6つの収音部により3次元空間における音響情報の測定ができる。音響情報測定装置1cでは、複数の収音部のうちの1つの収音部が故障した場合であっても、故障した収音部と、当該故障した収音部と対向する収音部との2つ収音部を除く、4つの収音部によって2次元平面における音響情報の測定ができる。
【0277】
なお、音響情報測定装置は、複数の収音部として、例えば、10つの収音部を備えてもよい。当該音響情報測定装置は、10つの収音部のうち1つの収音部が故障した場合であっても、残りの9つの収音部によって3次元空間における音響情報の測定ができる。
【0278】
本実施形態に係る音響情報測定装置1cでは、複数の方向ベクトル(この一例において、方向ベクトルm
1〜方向ベクトルm
6)の成分毎の二乗和の成分間の差はそれぞれ所定の値以下である。
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1cでは、複数の方向ベクトルの成分毎の二乗和の成分間の差はそれぞれ所定の値以下でない場合に比べて、粒子速度成分u
x(t)や音圧p(t)の算出の精度を高めることができるため、複数の方向ベクトルの成分毎の二乗和の成分間の差はそれぞれ所定の値以下でない場合に比べて音響情報SIの測定の精度を高めることができる。
【0279】
本実施形態に係る音響情報測定装置1cでは、粒子速度算出部312cは、方向ベクトルm
iによって示される方向に向けられ配置される収音部の信号(応答M
i(t))に当該収音部の収音特性ACiに基づく因子と当該方向ベクトルm
iとを乗じて複数の収音部2c毎に得られるベクトルの和に基づいて、粒子速度(粒子速度ベクトルu(t))を算出する。
【0280】
この構成により、本実施形態に係る音響情報測定装置1cでは、収音部の信号に当該収音部の収音特性ACiに基づく因子と当該方向ベクトルm
iとを乗じて複数の収音部2c毎に得られるベクトルの和に基づいて、粒子速度(粒子速度ベクトルu(t))を算出できるため、収音部の信号に当該収音部の収音特性ACiに基づく因子と当該方向ベクトルm
iとを乗じて複数の収音部2c毎に得られるベクトルの和に基づかない場合に比べて、粒子速度(粒子速度ベクトルu(t))の測定の精度を高めることができる。
【0281】
本実施形態の変形例に係る音響情報測定装置1dでは、複数の収音部2dは、第1の収音部21dと、第2の収音部22dと、第3の収音部23dと、第4の収音部24dとを含み、正四面体の各頂点に基づいて示される4つの測定位置に第1の収音部21dと、第2の収音部22dと、第3の収音部23dと、第4の収音部24dとが配置される。
この構成により、本実施形態の変形例に係る音響情報測定装置1dでは、4つの収音部により3次元空間における音響情報の測定ができるため、3次元空間における測定に用いられる収音部の数を5つ以上の場合に比べて少なくできる。
【0282】
なお、上述した実施形態においては、複数の収音部によって生成される信号は、周波数領域の信号として生成されてもよい。当該信号が周波数領域の信号として生成される場合、上述した音響情報を算出するための各演算は、周波数領域の量に基づいて行われる。
【0283】
なお、上述した実施形態における音響情報測定装置1、1a、1b、1cの一部、例えば、音響情報算出部31、31b、31c、及び収音特性算出部33a、33cをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、音響情報測定装置1、1a、1b、1cに内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における音響情報測定装置1、1a、1b、1cの一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。音響情報測定装置1、1a、1b、1cの各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0284】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。