特開2020-346(P2020-346A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-346微小突条の形成方法及びゴルフクラブヘッド
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  • 特開2020000346-微小突条の形成方法及びゴルフクラブヘッド 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-346(P2020-346A)
(43)【公開日】2020年1月9日
(54)【発明の名称】微小突条の形成方法及びゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20191206BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20191206BHJP
【FI】
   A63B53/04 B
   A63B53/04 F
   A63B53/04 J
   A63B53/04 A
   A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-120845(P2018-120845)
(22)【出願日】2018年6月26日
(71)【出願人】
【識別番号】591002382
【氏名又は名称】株式会社遠藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 誠
(72)【発明者】
【氏名】天野 淳一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 将志
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002AA03
2C002CH01
2C002PP04
(57)【要約】
【課題】フェース面に比較的容易に断面が凸形状の細い畝、すなわち微小突条を形成する方法と、その方法によりフェース面に微小突条が形成されたゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】平坦なフェース部表面2を有する基材1を準備するステップ1と、フェース部表面2にレーザー光の照射を行って複数の微小溝11,12,13を形成することによりそれぞれの微小溝11,12,13の縁部にフェース部表面2から突出したバリ21,22,23,24を堆積させるステップ2〜4と、バリ21,22,23,24を除去することなく基材1上にメッキを行うことによりバリ21,22,23,24の上方のメッキ層3の表面に微小突条31,32,33,34を形成させるステップ5とを備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドのフェース面における微小突条の形成方法であって、平坦なフェース部表面を有する基材を準備するステップと、前記フェース部表面にレーザー光の照射を行って複数の微小溝を形成することによりそれぞれの前記微小溝の縁部に前記フェース部表面から突出したバリを堆積させるステップと、前記バリを除去することなく前記基材上にメッキを行うことにより前記バリの上方のメッキ層の表面に微小突条を形成させるステップとを備えることを特徴とする微小突条の形成方法。
【請求項2】
基材と、前記基材のフェース部表面に形成された複数の微小溝と、それぞれの前記微小溝の縁部において前記フェース部表面から突出したバリと、前記基材上に形成されたメッキ層と、前記バリの上方において前記メッキ層の表面に形成された微小突条とを備えることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小突条の形成方法及びゴルフクラブヘッドに関し、特に、ゴルフクラブヘッドのフェース面における微小突条の形成方法と、フェース面に微小突条が形成されたゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフにおけるバックスピンの量は、打球の結果を左右する大きな要素であり、特にショートアイアンやウェッジなどは、狙う領域が狭くなるため、スピン量を多くすることが望ましい。このような目的で、フェース面にスコアラインとは別に、細溝を多数設けることが知られている(特許文献1)。細溝の加工方法としては、切削、プレス、レーザーなどが知られている。
【0003】
ところで、このスピン量の性能をさらに改善する目的で、本出願人は、フェース面に極細の溝を多数設けることを提案した(特許文献2)。これによれば、特に雨天時など濡れた状態でスピン量の低下を劇的に改善する効果がある。また、これに加え、極細の溝を一部間引くことで、意匠性を高めることを提案した(特許文献3)。
【0004】
しかし、打球を繰り返すと、極細の溝に土やボールの削りカスが付着することで目詰まりを起こし、スピン性能が低下するという問題があった。
【0005】
一方、細溝に代わり、フェース面に断面が凸形状の細い畝を数条設ける技術も登場している。これによれば、断面が凸形状であることから、目詰まりは起こらず、安定したスピン性能を維持できるというメリットがある。
【0006】
しかしながら、この細い畝を形成するためには、これまで切削加工するしかなく、フェース全面に数十条以上設けようとすると、加工に多大な時間と労力を要するという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−234748号公報
【特許文献2】特開2013−169413号公報
【特許文献3】特開2015−107227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、フェース面に比較的容易に断面が凸形状の細い畝、すなわち微小突条を形成する方法と、その方法によりフェース面に微小突条が形成されたゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の微小突条の形成方法は、ゴルフクラブヘッドのフェース面における微小突条の形成方法であって、平坦なフェース部表面を有する基材を準備するステップと、前記フェース部表面にレーザー光の照射を行って複数の微小溝を形成することによりそれぞれの前記微小溝の縁部に前記フェース部表面から突出したバリを堆積させるステップと、前記バリを除去することなく前記基材上にメッキを行うことにより前記バリの上方のメッキ層の表面に微小突条を形成させるステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のゴルフクラブヘッドは、基材と、前記基材のフェース部表面に形成された複数の微小溝と、それぞれの前記微小溝の縁部において前記フェース部表面から突出したバリと、前記基材上に形成されたメッキ層と、前記バリの上方において前記メッキ層の表面に形成された微小突条とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微小突条の形成方法によれば、メッキの加工条件は通常の条件と変わりなく、レーザーで微小溝を形成するだけで、容易に細い畝、すなわち微小突条を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の微小突条の形成方法を説明するための模式図である。
図2】実施例2のゴルフクラブヘッドのフェース面の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の微小突条の形成方法及びゴルフクラブヘッドの実施例について、添付した図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本実施例の微小突条の形成方法を説明するための模式図であり、ゴルフクラブヘッドのフェース面及び形成される微小突条に直交する方向の断面を拡大して示している。
【0015】
はじめに、平坦なフェース部表面2を有するゴルフクラブヘッドの金属製の基材1を準備する(ステップ1)。
【0016】
つぎに、フェース部表面2に、1本目の微小溝11を形成するようにレーザー加工機によりレーザー光の照射を行う(ステップ2)。このとき、微小溝11が形成された両側の縁部には、レーザー光の熱によって溶けた金属がバリ21,22として凸状に堆積する。つまり、1本の微小溝11を形成すると、2本の畝が形成される。
【0017】
さらに、1本目の微小溝11から所定の間隔をおいて、レーザー加工機によりレーザー光の照射を行って2本目の微小溝12を形成する(ステップ3)。引き続き、2本目の微小溝12から所定の間隔をおいて、3本目の微小溝13を形成する(ステップ4)。隣接する微小溝間の間隔(ピッチ)等の条件を適切に設定して2本以上の微小溝11,12,13を設けると、微小溝と微小溝との間に形成されるバリ22,23は、左右両側から堆積され、両端部のバリ21,24よりも高くなる。ここでは、微小溝と微小溝との間に形成されるバリ22,23を高く形成することが肝要である。条件次第ではあるが、フェース部表面2より20μm以上高く突出したバリ22,23を形成することが可能である。
【0018】
微小溝と微小溝に挟まれた中央のバリ22,23を高く形成するためには、微小溝のピッチを照射するレーザー光の幅と同等にすることが好ましい。レーザー光の幅より微小溝のピッチが小さいと、折角形成されたバリを2本目の微小溝を形成する際に削ってしまい、かえってバリの高さが低くなってしまうからである。逆に、レーザー光の幅より微小溝のピッチが大きいと、バリが同じ個所に堆積せず、中央のバリが高くならない。例えば、レーザー加工機のレーザー光の幅の仕様が50μmである場合、微小溝のピッチは、50μmが最も好ましく、レーザー光の幅の±10μm程度までの範囲、すなわち40〜60μmが好ましい。このように、レーザー加工機の仕様に合わせて微小溝のピッチを設定すればよい。
【0019】
そして、バリ21,22,23,24を除去することなくメッキを行って、基材1のフェース部表面2の上にメッキ層3を形成する(ステップ5)。これにより、バリ21,22,23,24の上方のメッキ層3の表面に、断面が山型の微小突条31,32,33,34が形成される。ここで、バリ21,22,23,24の高さが高いほど、形成される微小突条31,32,33,34の高さも高くなる。なお、メッキは、電解メッキが好ましい。
【0020】
また、微小溝11,12,13は、メッキ層3により充填された状態になる。したがって、微小溝と微小溝との間に形成されるバリ22,23を高く形成するためにメッキ前の状態でゴルフの表面粗さのルールに抵触するほど微小溝11,12,13を深く形成しても、メッキ後にはルールの範囲内に収まる表面粗さになるため問題ない。
【0021】
以上のように、本実施例の微小突条の形成方法は、平坦なフェース部表面2を有する基材1を準備するステップ1と、フェース部表面2にレーザー光の照射を行って複数の微小溝11,12,13を形成することによりそれぞれの微小溝11,12,13の縁部にフェース部表面2から突出したバリ21,22,23,24を堆積させるステップ2〜4と、バリ21,22,23,24を除去することなく基材1上にメッキを行うことによりバリ21,22,23,24の上方のメッキ層3の表面に微小突条31,32,33,34を形成させるステップ5とを備えている。
【0022】
また、本実施例のゴルフクラブヘッドは、上記の方法により製造されるものであって、基材1と、基材1のフェース部表面2に形成された複数の微小溝11,12,13と、それぞれの微小溝11,12,13の縁部においてフェース部表面2から突出したバリ21,22,23,24と、基材1上に形成されたメッキ層3と、バリ21,22,23,24の上方においてメッキ層3の表面に形成された微小突条31,32,33,34とを備えている。
【0023】
本実施例の微小突条の形成方法によれば、メッキの加工条件は通常の条件と変わりなく、レーザーで微小溝11,12,13を形成するだけで、容易に細い畝、すなわち微小突条31,32,33,34を形成することが可能となる。
【実施例2】
【0024】
実際に、実施例1の微小突条の形成方法により、ゴルフクラブヘッドのフェース面のスコアライン間に、スコアラインと平行に微小突条を形成した。
【0025】
金属(S20C)製のアイアン型のゴルフクラブヘッドの基材のフェース部表面を研磨して平坦にし、そこに機械加工により複数のスコアラインを相互に平行に形成した。つぎに、レーザー加工機を用いて、隣接するスコアラインに挟まれた平坦な部分にそれぞれ、スコアラインと平行に3本の微小溝を形成した。使用したレーザー加工機のレーザー光の幅の仕様は、50μmであった。微小溝のピッチは、レーザー光の幅と同じ50μmとした。基材のフェース部表面を基準として、形成された微小溝の深さは、約35μmであり、それぞれの微小溝の縁部には、バリが形成された。基材のフェース部表面を基準として、微小溝に挟まれた部分に形成された中央の2本のバリの高さは、約25μmであり、微小溝に挟まれていない部分に形成された端部の2本のバリの高さは、約20μmであった。
【0026】
そして、バリを除去することなくニッケル電解メッキを行って、基材のフェース部表面の上に厚さ20μmのメッキ層を形成した。微小溝は、メッキ層により完全に充填され、それぞれのバリの上方において、メッキ層の表面に微小突条が形成された。メッキ層の平坦表面を基準として、中央の2本の微小突条の高さは、約18μmであり、端部の2本の微小突条の高さは、約11μmであった。
【0027】
微小突条が形成された部分を拡大した断面写真を図2に示す。この断面写真は、微小突条の長さ方向と直交する面で切断して、切断面を顕微鏡で撮影したものである。
【0028】
このほか、比較のため、微小溝のピッチを30μm、40μm、75μm、100μm、125μ、150μmとしたゴルフクラブヘッドも上記と同様に作成した。微小溝のピッチを30μmとした場合は、1本目の微小溝の形成時に形成されたバリが2本目の微小溝の形成時に削られて消失し、同様に2本目の微小溝の形成時に形成されたバリが3本目の微小溝の形成時に消失し、微小溝に挟まれた部分にはバリがほとんど残らなかった。微小溝のピッチを40μmとした場合は、微小溝に挟まれた部分にバリが形成されたが、微小溝のピッチを50μmとした場合と比べて、そのバリの高さはやや低かった。微小溝のピッチを75μm、100μm、125μ、150μmとした場合は、それぞれの微小溝の縁部に独立してバリが形成された。これらの検討から、微小溝のピッチはレーザー光の幅と同等の50μmが最適であり、その±10μmである40〜60μm又はそれ以上が好ましいことが確認された。
【0029】
また、本実施例におけるゴルフクラブヘッドの加工時間は、通常の製造工程に微小溝を形成するためのレーザー加工時間が追加されるのみであり、微小突条を機械加工で形成する従来の方法から大幅に短縮できることが確認された。
【実施例3】
【0030】
実施例2で作成したゴルフクラブヘッドについて、フェース面の平均粗さRaとRtを測定した。その結果、Raは4.17、Rtは17.55であった。この値は、メッキ層に極細の溝を幅が50μm、ピッチが50μm、深さが20μmになるように形成した従来例における値と比べても遜色がなかった。
【実施例4】
【0031】
実施例2で作成したゴルフクラブヘッドについて、打撃時のボールのバックスピン量を評価した。なお、ゴルフクラブヘッドは、ロフト角は56°のウェッジとし、フェース面が乾燥したドライ条件と、フェース面とボールを水で濡らしたウェット条件にて、スウィングロボットを用いて評価を行った。その結果、非降雨時のドライ条件、降雨時のウェット条件のどちらにおいても、メッキ層に極細の溝を幅が50μm、ピッチが50μm、深さが20μmになるように形成した従来例における値と比べて遜色がなく、バックスピン量の変化を確実に抑制することができることが確認された。
【0032】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、本実施例では、スコアライン間にスコラインと平行に微小突条を形成したが、これに限られない。また、本実施例では、微小溝を3本形成する例を示したが、微小溝を2本、4本、又は5本以上形成してもよい。また、アイアンタイプのゴルフクラブヘッドであっても、ドライバーなどウッドタイプのゴルフクラブヘッドであってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 基材
2 フェース部表面
3 メッキ層
11,12,13 微小溝
21,22,23,24 バリ
31,32,33,34 微小突条
図1
図2