【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「高効率メタン転換へのナノ相分離触媒の創製」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【課題】メタンから炭化水素を直接変換することができる工業的に使用が可能な炭化水素変換触媒とその製造方法およびかかる炭化水素変換触媒を用いた炭化水素の製造方法を提供する。
炭化水素をメタンから直接変換して製造する際に用いられる触媒であり、該触媒が、カルシウムの酸化物と、ナトリウムの炭酸塩と、を含有する複合酸化物を有するものである。高価な金属を用いない複合酸化物であってもメタンからC
【背景技術】
【0002】
石油化学等の基幹原料である炭素数が2のC
2炭化水素のエチレンやアセチレンなどは、一般的に、石油から製造されている。しかし、近年の石油資源問題に鑑みて、地球上に豊富に存在する資源であり、その埋蔵量も石油よりも各段に多い天然ガスやメタンハイドレードの主成分であるメタンからC
2炭化水素のエチレン等を製造する方法が盛んに開発されている。
【0003】
しかし、メタンは上記のように安定供給が可能かつ安価であるなど工業用原料としての基本的条件を満たしている一方、非常に安定な分子である。そして、メタンから直接C
2炭化水素などに変換するプロセスは難度が高いとされている。このため、現状では、工業的にメタンからC
2炭化水素を生産する場合には、メタンから直接変換するプロセスは採用されにくく、通常はメタンの改質によって生成する合成ガス(COとH
2)を経由する間接的なプロセスでの生産方法が採用されている。
【0004】
従来、触媒を用いたメタンの酸化カップリングにより、メタンから直接C
2炭化水素であるエチレンを生産する技術、つまりメタンを酸素存在雰囲気下、触媒と接触させてC
2炭化水素を生産するという技術の開発が検討されている。
【0005】
酸化カップリング触媒としては、酸化マグネシウム(MgO)にリチウム(Li)やナトリウム、ストロンチウム(Sr)を担持させた触媒(特許文献1)、LiCrO
3やLiNiO
2を担持させた触媒(特許文献2)や、酸化カルシウム(CaO)を担体として酸化リチウムLi
2Oと酸化錫を担持させた触媒(特許文献3)など様々な技術が提案されている。
また、特許文献4には、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO
3)またはチタン酸鉛(PbTiO
3)を担体としてハロゲン化物を担持させた触媒が開示されており、特許文献5、6には、担体に石英ウール等を使用し、この担体にナトリウム(Na)とマンガン(Mn)およびタングステン(W)の複合酸化物を担持させた触媒が提案されている。さらに、特許文献7には、酸化カップリング触媒として酸化イットリウム(Y
20
3)と炭酸カルシウム(CaO)の複合酸化物を用いる技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態の炭化水素変換触媒は、メタンカップリングにより炭素数が2のC
2炭化水素および/または炭素数が3のC
3炭化水素をメタンから製造する際に用いられる触媒であって、安価な原料を用いてメタンを直接C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素に変換できるようにしたこと特徴を有している。
【0013】
ここで、メタンカップリングとは、複数のメタン分子をカップリングにより反応させることをいい、例えば、メタン2分子を反応させる場合には、以下に示すような反応式で表すことができる。
2CH
4+CO
2 → C
2H
6+CO+H2O
2CH
4+2CO
2 → C
2H
6+2CO+2H
2O
【0014】
また、明細書中のC
2炭化水素とは、エタン、エチレンおよびアセチレンの炭素数が2の炭化水素を意味し、C
3炭化水素とは、プロピレンおよびプロパンの炭素数が3の炭化水素を意味する。
【0015】
(本実施形態の炭化水素変換触媒)
つぎに、本実施形態の炭化水素変換触媒を説明する。
本実施形態の炭化水素変換触媒は、カルシウムの酸化物とナトリウムの炭酸塩とを含有する複合酸化物を有するものである。具体的には、本実施形態の炭化水素変換触媒は、触媒として機能する複合酸化物を備えており、この複合酸化物の構成要素として少なくともカルシウムの酸化物とナトリウムの炭酸塩を含有するように形成されたものである。
【0016】
本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物中に含まれるカルシウムの酸化物としては、酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO
3)などを挙げることができ、ナトリウムの炭酸塩としては、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)や重炭酸ナトリウム(NaHCO
3)などを挙げることができる。
【0017】
複合酸化物中のカルシウムの酸化物とナトリウムの炭酸塩の含有率はとくに限定されない。例えば、カルシウムの酸化物が酸化カルシウムであり、ナトリウムの炭酸塩が炭酸ナトリウムとする場合、両者は、モル比において、酸化カルシウム:炭酸ナトリウム=2:1〜1:2となるように調製するのが好ましく、より好ましくは3:2〜2:3となるよう調製する。さらにより好ましくは1:1になるように調製する。
【0018】
本実施形態の炭化水素変換触媒が、以上のごとき構成であるので、触媒として機能を発揮させるために高価な金属等を必須の構成成分としない。つまり、高価な金属を用いない複合酸化物であってもメタンからC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素の生成する際の触媒として機能を発揮させることができる。言い換えれば、本実施形態の炭化水素変換触媒の製造コストを従来の触媒と比べて低減することができる。このため、本実施形態の炭化水素変換触媒を用いれば、メタンからC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を直接変換して製造する際のコストを従来の触媒と比べて低減することができるので、工業的にも適した触媒として本実施形態の炭化水素変換触媒を供給することができる。
【0019】
また、本実施形態の炭化水変換触媒をメタンカップリング反応に用いる際に、所定の温度で加熱すれば、本実施形態の炭化水素変換触媒の触媒機能を向上させることができるので、より効率的にメタンからC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を直接変して生産することができる。つまり、本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物がナトリウムの炭酸塩を含有しているので、このナトリウムの炭酸塩の融点以上となるように加熱すれば、ナトリウムの炭酸塩を融解させることができる。
このため、本実施形態の炭化水素変換触媒を所定の温度(後述する)で加熱すれば、ナトリウムの炭酸塩を溶融させた溶融塩を複合酸化物の表面に形成させることができる。すると、本実施形態の炭化水素変換触媒を反応触媒として用いる場合、所定の温度でメタンカップリング反応を行えば、かかる反応をより促進させる、つまり本実施形態の炭化水素変換触媒の触媒機能をより向上させることができる。
【0020】
したがって、後述するように、本実施形態の炭化水素変換触媒を用いれば、メタンを原料として工業的に有用なC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を、従来の高価な金属触媒を用いる場合と比べて、効率よく製造することができる。しかも、メタンカップリング反応の反応条件(例えば反応温度)を調整すれば、C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素の生産性を向上させることができる。
【0021】
とくに、本実施形態の炭化水素変換触媒は、複合酸化物として、カルシウムの酸化物とナトリウムの炭酸塩のほかに、ハロゲン元素を含有するものが好ましい。
ハロゲン元素としては、フッ素や塩素、臭素などを挙げることができるが、とくに限定されない。しかし、経済的な観点から入手がし易い塩素を用いるのが望ましい。複合酸化物が塩素を含有する構成とした場合、複合酸化物の触媒活性を向上させることができるようになる。言い換えると、本実施形態の炭化水素変換触媒を用いてメタンからC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素の生成を行う場合、これらの炭化水素の生成の再現性を向上させることができるようになる。
【0022】
なお、複合酸化物中のカルシウムの酸化物とナトリウムの炭酸塩の含有率を上記範囲内となるように調製した本実施形態の炭化水素変換触媒を用いれば、メタンからC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を効率よく製造することができるようになる。
【0023】
本実施形態の炭化水素変換触媒は、上述したように元素組成として、炭素(C)、酸素(O)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)を含有するものであり、これらの元素が複合酸化物の状態で構成されている。含有する元素の濃度はとくに限定されないが、例えば、以下のように調製されたものを採用することができる。
【0024】
複合酸化物中に上述した塩素を含有する場合、各元素の含有量(元素濃度)は、以下のような範囲となるように調製することができる。
炭素(C)が5%〜10%、酸素(O)が50%〜65%、ナトリウム(Na)が10%〜15%、塩素(Cl)が0.05%〜1%、カルシウム(Ca)が10%〜15%となるように調製することができる。
なお、各元素の濃度%とは、複合酸化物中に占める各元素のモル%を意味する。
【0025】
ここで、上記のごとき塩素が含有した本実施形態の炭化水素変換触媒の場合、塩素の含有量は、上記のごとく他の元素に比べて非常に低くなっている一方、塩素を含有することによって、C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素の生成の再現性が向上する傾向にある。つまり、本実施形態の炭化水素変換触媒に含まれる塩素は、ドーパントとして機能するような状態で含有している。
【0026】
本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物に含有される塩素濃度が0.05%よりも低いと、C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素の生成の再現性を十分に発揮させにくくなる。一方、1.0%よりも高いとC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素の生成の再現性が低下する傾向にある。このため、本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物が塩素を含有する場合には、塩素の含有量は上記範囲内となるように調整するのが好ましい。
【0027】
なお、本実施形態の炭化水素変換触媒の形状は、使用状況に応じて適宜調製すればよい。例えば、粉状(パウダー状)、顆粒状、粒子状、球状、ペレット状、ハニカム状、板状、格子状、塊状及び繊維状など様々な形状のものを採用することができる。
また、本実施形態の炭化水素変換触媒は、上記のごとき複合酸化物をそのまま使用してもよいが、触媒担体に担持させた状態で使用してもよい。触媒担体としては、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム、アルミナ、シリカ等を使用することができる。
【0028】
(本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法)
本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法は、カルシウムの酸化物とナトリウムの炭酸塩を含有する複合酸化物として調製することができる方法であれば、その製法はとくに限定されない。
なお、以下の説明では、カルシウムの酸化物として酸化カルシウム、ナトリウムの炭酸塩として炭酸ナトリウムを用いる場合を代表として説明する。
【0029】
本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法の概略は、カルシウム等の原料を混合した第一調製液を調製した後、この第一調製液から第二調製液を調製し、この第二調製液を加熱することによって、本実施形態の炭化水素変換触媒を製造するというものである。
【0030】
本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法では、原料として以下の化合物を用いる。
カルシウムの原料としては、クエン酸カルシウムを用いる。ナトリウムの原料としては、クエン酸ナトリウムを用いる。その他の原料としては、アスパラギン酸を用いる。
【0031】
本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法における第一調製液の調製工程では、上記3種類の原料を直接混合した方法を採用してもよいし、クエン酸カルシウムとアスパラギン酸およびクエン酸ナトリウムとアスパラギン酸とをそれぞれ別々に混合する工程を採用してもよい。
以下では、まず3種類の原料を直接混合する方法で本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法を説明した後に、クエン酸カルシウムとアスパラギン酸およびクエン酸ナトリウムとアスパラギン酸とを別々に混合する場合について説明する。
【0032】
(3種類の原料を直接混合する場合)
まず、
図1に基づいて、3種類の原料を直接混合して本実施形態の炭化水素変換触媒を製造する場合について説明する。
【0033】
(第一調製液の調製)
図1に示すように、クエン酸カルシウムとクエン酸ナトリウムとアスパラギン酸とを水に混合して第一調製液を調製する。各化合物の混合割合は、とくに限定されない。
例えば、クエン酸カルシウムとクエン酸ナトリウムとアスパラギン酸が、モル比において、クエン酸カルシウム:クエン酸ナトリウム:アスパラギン酸=1〜2:1〜2:6〜10となるように混合するのが好ましく、より好ましくは、1:1:9となるように混合する。
【0034】
(第二調製液の調製)
ついで、調製した第一調製液を硝酸と混合して第二調製液を調製する。
混合する硝酸は、とくに限定されず、例えば、質量分率が60%の濃硝酸水溶液を用いることができる。また、硝酸の混合割合もとくに限定されない。例えば、第一調製液中のクエン酸カルシウム1molに対して硝酸を少量ずつ入れて、かかるクエン酸カルシウムが溶けるまで混合すればよい。
【0035】
なお、各混合操作においては、撹拌しながら混合するのがよく、とくに、第二調製液を混合する際には超音波処理によって混合するのがより望ましい。
【0036】
(第二調製液の加熱)
調製した第二調製液を所定の温度で加熱すれば、乾燥した状態の複合酸化物を調製することができる。この複合酸化物が本実施形態の炭化水素変換触媒である。
この複合酸化物はそのまま本実施形態の炭化水素変換触媒として使用してもよいし、他の形状(例えば、粉状(パウダー状)、顆粒状、粒子状、球状、ペレット状、ハニカム状、板状、格子状等)に成形して使用してもよい。
例えば、粉状(パウダー状)とする場合、平均粒子径が、1μm〜20μm程度となるような粉末状に調製すれば、接触面積をより向上させることができる。この場合、触媒としての機能をより向上させることが可能となるので好ましい。なお、平均粒子径とは、レーザー回析・散乱法により測定された粒度分布における体積平均粒径のことを意味する。
【0037】
以上のごとく、クエン酸カルシウムと、アスパラギン酸と、クエン酸ナトリウムとを混合した第一調製液を硝酸と混合して第二調製液を調製し、かかる第二調製液を加熱するだけの簡単な操作で本実施形態の炭化水素変換触媒を製造することができる。しかも、原料として、クエン酸カルシウムと、アスパラギン酸とおよびクエン酸ナトリウムといった安価な化合物で本実施形態の炭化水素変換触媒を製造することができる。
つまり、本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法は、メタンから直接C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を変換するための触媒として高価な金属を用いた従来の触媒を製造する方法と比べて、触媒の製造コストを確実に低くすることができる。言い換えれば、本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法は、経済的に優れた触媒の製造方法であるといえる。
したがって、工業的にメタンから直接C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を変換して製造する場合、本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法を用いて製造した触媒を使用すれば、従来の触媒を採用する場合と比べてC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素の製造コストを低く抑えることができる。
【0038】
(加熱温度)
なお、第二調製液を加熱する方法は、上述したような複合酸化物の形態を形成することができる処理方法であれば、とくに限定されない。例えば、第二調製液を所定の温度で焼成することによって調製することができる。具体的には、第二調製液を600℃〜900℃で焼成するのが好ましく、より好ましくは650℃〜750℃であり、さらに好ましくは700℃で焼成する。
なお、この焼成工程においては、酸素存在下で加熱するのが好ましい。酸素の供給方法はとくに限定されない。例えば、酸素を直接供給してもよいし、酸素を含有する空気などの酸素含有ガスを供給してもよい。
また、焼成する時間もとくに限定されない。例えば、焼成後の焼成物(つまり本実施形態の炭化水素変換触媒)の形状が、パウダー状(粉状)になるまで行うのが好ましい。焼成物(つまり本実施形態の炭化水素変換触媒)をパウダー状(粉末状)にすることによって、接触面積を向上させることができるので、触媒としての機能をより発揮させやすくなる。
【0039】
(予備乾燥)
なお、第二調製液を加熱する工程において、第二調製液を予備的に加熱して焼成前の前駆体を形成する工程(予備乾燥の工程)を含むようにしてもよい。
この場合、乾燥した状態の焼成前前駆体を焼成すればよいので、焼成温度を低くでき、焼成時間も短くできるので、第二調製液を直接焼成して焼成物を得る場合と比べて安定した複合酸化物を調製できるという利点が得られる。
この予備乾燥を行う工程は、第二調製液を焼成しやすい状態に調製する工程である。具体的には、第二調製液の水分がある程度なくなるまで乾燥して焼成前の前駆体を調製する工程である。
乾燥温度は、とくに限定されないが、100℃〜140℃で乾燥するのが好ましく、より好ましくは、110℃〜130℃である。また、乾燥時間もとくに限定されない。例えば、第二調製液を120℃下で乾燥する場合、乾燥する時間は第二調製液の量等に応じて適宜調整すればよく、例えば、第二調製液が100mlの場合、12時間の予備乾燥を行えば、上記のような状態にすることができる。
【0040】
そして、予備乾燥で調製した第二調製液の乾燥物(焼成前前駆体)を、次工程の焼成工程に供給すれば、短いで時間で所望の形状の焼成物(本実施形態の炭化水素変換触媒)を得ることができる。例えば、予備乾燥で調製した第二調製液の乾燥物(焼成前前駆体)の量が3g程度であれば、2時間程度焼成すればパウダー状(粉末状)の焼成物(本実施形態の炭化水素変換触媒)を調製することができる。
【0041】
とくに、本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法では、第二調製液を調製する工程において、ハロゲン化合物を添加(ドープ)するのが好ましい。
ハロゲン化合物を添加(ドープ)した第二調製液を加熱することによって、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、酸素(O)、炭素(C)およびハロゲン元素を含有する複合酸化物を調製することができる。
この複合酸化物を本実施形態の炭化水素変換触媒として使用する場合、塩素を含まない複合酸化物と比べてメタンカップリングによるC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を生成する際の再現性を向上させることができる。言い換えれば、ハロゲン元素をドープすることによって、本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物の触媒活性を向上させることができる。
【0042】
ハロゲン化合物中のハロゲン元素は、とくに限定されないが、経済的な観点から、塩素が好ましい。
塩素を含有する塩素化合物としては、とくに限定されないが、アルカリ金属と結合したものが好ましく、とくに経済的観点から、一般に入手し易い塩化ナトリウムが好ましい。
【0043】
ハロゲン化合物として塩化ナトリウムを添加(ドープ)する場合、添加濃度はとくに限定されない。例えば、第一調製液中のクエン酸カルシウム1molに対して塩化ナトリウムが塩化ナトリウム/クエン酸カルシウムのモル比において、0.05〜2.0となるように添加するのが好ましく、より好ましくは、塩化ナトリウム/クエン酸カルシウムのモル比が0.6となるように添加する。言い換えれば、ナトリウム/カルシウムのモル比が、0.017〜0.67となるように添加するのが好ましく、より好ましくは0.2となるように添加する。
なお、塩化ナトリウムは、粉末状ものものであってもよく水溶液の状態であってもよい。水溶液の状態で添加する場合には、塩化ナトリウムを水に加えて20重量%の水溶液として用いることができる。
【0044】
(第一調製液を2工程で調製する場合)
つぎに、
図2に基づいて、本実施形態の炭化水素変換触媒の製造方法において、第一調製液を2工程で調製する場合について説明する。
なお、第一調製液後の工程は、上述した3種類の原料を直接混合する場合と同様の操作であるので、以下の説明では割愛する。
【0045】
図2に示すように、第一調製液を2工程で調製する。具体的には、第一調製液を調製する工程が、クエン酸カルシウムとアスパラギン酸とを水に混合して第一準備液を調製する工程と、クエン酸ナトリウムとアスパラギン酸とを水に混合して第二準備液を調製する工程と、を含む。
各化合物の混合割合は、とくに限定されない。例えば、クエン酸カルシウムとアスパラギン酸が、モル比において、クエン酸カルシウム:アスパラギン酸=1:8〜1:10となるように混合するのが好ましい。また、クエン酸ナトリウムとアスパラギン酸が、モル比において、クエン酸ナトリウム:アスパラギン酸=1:8〜1:10となるように混合するのが好ましい。
【0046】
(本実施形態の炭化水素の製造方法)
つぎに、本実施形態の炭化水素変換触媒を用いた炭化水素の製造方法について説明するが、まず、その概略ついて説明する。
【0047】
本実施形態の炭化水素の製造方法は、メタンを含有するメタン含有ガスを本実施形態の炭化水素変換触媒に接触させる。このとき、二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有ガスの存在下で両者を接触させる。すると、メタンのメタンカップリング反応によりメタンから直接、炭素数が2のC
2炭化水素および/または炭素数が3のC
3炭化水素を変換して製造することができるという方法である。以下、具体的に説明する。
【0048】
メタンカップリング反応に用いられるメタン含有ガスは、メタンを含有するものであれば、とくに限定されない。
例えば、メタン含有ガスは、メタン100%とからなるガスであってもよく、メタン以外の成分を含有したものであってもよいが、反応性を向上させる上ではメタンを主成分とするガスが好ましい。
なお、メタン含有ガス中のメタン以外の成分は、メタンカップリング反応を阻害しない範囲となるように調製するのが好ましい。また、メタン含有ガスは、そのまま反応に用いてもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈させたものを用いてもよい。例えば、ヘリウムで希釈した際のメタンの濃度が、体積%において、1%となるように調整したものをメタン含有ガスとして用いてもよいが、かかる濃度に限定されるものではない。
【0049】
メタン含有ガスは、天然ガス、石炭の高温コークス炉で得られたメタン含有ガス、石炭分解ガスから生成する一酸化炭素や二酸化炭素の水素化反応や石油留分由来炭化水素の分解によって得られたメタン含有ガス、発酵法で得られたメタン含有ガス等から得ることができ、また必要に応じて、これらメタン含有ガスからメタンの単離または精製処理を施したものを用いることができる。
【0050】
メタンのメタンカップリング反応は、上述したように二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有ガス下、つまり二酸化炭素含有ガス存在雰囲気下で行われる。この二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素を含有するものであれば、とくに限定されない。
例えば、二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素100%とからなるガスであってもよく、二酸化炭素以外の成分を含有したものであってもよいが、反応性を向上させる上では二酸化炭素を主成分とするガスが好ましい。
なお、二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素以外の成分は、メタンカップリング反応を阻害しない範囲となるように調製するのが好ましい。
また、二酸化炭素含有ガスは、そのまま反応に用いてもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈させたものを用いてもよい。例えば、ヘリウムで希釈した際の二酸化炭素の濃度が、体積%において、1%となるように調整したものを二酸化炭素含有ガスとして用いてもよいが、かかる濃度に限定されるものではない。
【0051】
二酸化炭素含有ガスは、例えば、石炭の高温コークス炉で得られる二酸化炭素を含有したガスから得ることができ、また必要に応じて、これら二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素の単離または精製処理を施したものを用いることができる。
【0052】
(メタンと二酸化炭素の供給割合)
メタンカップリング反応に供するメタンと二酸化炭素の割合は、メタン/二酸化炭素のモル比が、0.3〜3となるように調整するのが好ましく、より好ましくは1となるように調整する。とくに、メタンと二酸化炭素の供給する割合を、メタン/二酸化炭素のモル比が1以上となるように調整すれば、熱平衡の観点からメタンカップリングを促進させることができるようになるので、好ましい。
【0053】
(メタンカップリング反応の反応温度)
メタンカップリング反応の温度は、800℃〜1000℃が好ましく、より好ましくは900℃〜1000℃であり、さらに好ましくは950℃〜1000℃である。反応温度が、800℃よりも低いと、触媒の活性が低下する傾向があり、1000℃よりも高くなるとメタンの燃焼反応が増大して炭素数が2のC
2炭化水素や炭素数が3のC
3炭化水素の選択率が低下する傾向がある。
したがって、メタンカップリング反応の温度は、上記範囲内となるように調整するのが好ましい。
【0054】
とくに、本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物の表面において、ナトリウムの炭酸塩が溶融した溶融塩を形成させ易くなるという観点では、反応温度を950℃とするのが好ましい。
この場合、本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物の表面では、ナトリウムの炭酸塩が溶融した溶融塩が形成される。このため、ナトリウムの炭酸塩をカップリング反応に寄与させる場合と比べてより触媒としての活性を向上させることができるようになる。つまり、メタンカップリング反応を促進させることができるようになるので、より炭素数が2のC
2炭化水素や炭素数が3のC
3炭化水素の生産性を向上させることができるようになる。
【0055】
なお、メタンカップリング反応は、反応容器内に本実施形態の炭化水素変換触媒を設置して、かかる容器内にメタン含有ガスと二酸化炭素含有ガスを供給して大気圧で反応を行わせる固定床反応式を採用してもよいし、流動床や移動床反応器を用いた方法でもよい。また、かかる反応は、大気圧よりも高い加圧下(例えば、10気圧下)で反応させてもよい。
【0056】
(ガス流量)
メタンカップリング反応に用いられるメタン含有ガスと二酸化炭素含有ガスの流量(ml/min)は、本実施形態の炭化水素変換触媒を量との関係で、適宜調整すればよく、例えば、所定の空間速度となるように調整することができる。空間速度で表す場合には、5000〜60000ml/g/hとなるように調整するのが好ましく、より好ましくは6000〜12000ml/g/hである。
なお、空間速度とは、触媒単位重量あたりの供給するガス(例えば、メタン含有ガスと二酸化炭素含有ガス)の時間あたりの総容積流量であり、触媒重量とは、反応容器内に設置した本実施形態の炭化水素変換触媒の重量である。
【0057】
メタンカップリング反応により生成された生成物は、反応容器から排出されるガスに含まれるので、この排出ガスを公知の方法により分離・精製処理すれば、所定の炭素数を有する炭化水素を得ることができる。
例えば、上記排出ガスには、メタンのメタンカップリング反応により生成した炭素数が2のC
2炭化水素や炭素数が3のC
3炭化水素のほか、副生成物として一酸化炭素および水が含まれる。このため、排出ガスを目的成分(C
2炭化水素、C
3炭化水素)に応じて適宜、分離精製処理を行えば、所望の純度のC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を得ることができる。なお、排出ガスの分離精製方法により、C
2炭化水素とC
3炭化水素をそれぞれ単独となるように精製してもよいし、混同するように精製してもよいのは言うまでもない。
【0058】
以上のごとく、メタン含有ガスを二酸化炭素含有ガスの存在下で本実施形態の炭化水素変換触媒と接触させることによって、メタンカップリング反応によりメタンから直接C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を変換して製造することができる。
しかも、触媒として使用する本実施形態の炭化水素変換触媒は、複合酸化物としてナトリウムの炭酸塩を含有しているので、メタンカップリング反応における反応温度を上記範囲内となるように調整すれば、本実施形態の炭化水素変換触媒の複合酸化物の表面に、ナトリウムの炭酸塩が溶融した溶融塩を形成させることができる。かかる溶融塩によって、本実施形態の炭化水素変換触媒の触媒機能をより向上させることができるので、メタンカップリングの反応をより促進させることができる。すると、メタンから直接C
2炭化水素および/またはC
3炭化水素をより効率よく製造(生産)することができる。
さらに、メタンカップリング反応における触媒として作用する本実施形態の炭化水素変換触媒は上述したように安価に製造することができるので、メタンからC
2炭化水素および/またはC
3炭化水素を経済的に製造することができるようになる。
また、近年、世界的に問題となっている二酸化炭素を反応ガスとして使用することによって、環境負荷を低減することが可能となる。
したがって、本実施形態の炭化水素の製造方法は、工業的に適した製法として採用することができる。
【実施例】
【0059】
以下では、本実施形態の炭化水素変換触媒を用いることによって、メタンからC
2炭化水素およびC
3炭化水素を直接変換して製造することができることを確認した。
なお、本実施形態の炭化水素変換触媒、その製造方法、炭化水素変換触媒を用いた炭化水素の製造方法を実施例に基づいて以下説明するが、本実施形態がこれら実施例により限定されるものではない。
【0060】
(炭化水素変換触媒の調製)
【0061】
クエン酸カルシウム四水和物Ca
3(C
6H
50
7)
2・4H
2O(富士フイルム和光純薬社製、品番;031-00555)0.57gと、クエン酸三ナトリウムC
6H
5Na
30
7(富士フイルム和光純薬社製、品番;203-13605)0.26gと、L-アスパラギン酸C
4H
7NO
4(富士フイルム和光純薬社製、品番;017-04835)1.2gと、それぞれ、モル比において、1:1:9となるように水100mlに加え撹拌混合して第一調製液を調製した。
【0062】
調製した第一調製液に、質量分率60%の硝酸(HNO
3)水溶液(富士フイルム和光純薬社製、品番;144-08355)2mlと、塩化ナトリウム粉末(富士フイルム和光純薬社製、品番;195-15975)0.0348gを加え、超音波攪拌機(アズワン社製、型番;1-2160-02)を用いて撹拌混合して第二調製液を調製した。
なお、硝酸は、第一調製液中のクエン酸カルシウムに対して、クエン酸カルシウムが溶液に溶ける最小量となるように調製した。
また、塩化ナトリウムは、第一調製液中のクエン酸カルシウムに対して、モル比(塩化ナトリウム/クエン酸カルシウム)において、0.6となるように調製した。
【0063】
ついで、調製した第二調製液を乾燥器(ヤマト科学社製、型番;DY300)を用いて120℃で12時間乾燥した。そして、この第二調製液の乾燥物を、空気流通下700℃で2時間焼成して触媒0.3gを得た。
この触媒が、本実施形態の炭化水素変換触媒に相当する。
【0064】
この触媒は、各種測定機器を用いることによって、構成する組成がCaNaCOCl(カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、炭素(C)、酸素(O)、塩素(Cl))の複合酸化物であることを確認した。
【0065】
測定に使用した機器は、以下のとおりである。
走査型電子顕微鏡(SEM):日本電子社製、型番;JIB−4600f
透過型電子顕微鏡(TEM):日本電子社製、型番;JEOL−2100f−WCs
エネルギー分散型X線分析装置(EDX):日本電子社製、型番;JED−2300t
【0066】
実験結果を
図3〜
図6に示す。
図3には、調製した触媒のSEM画像を示し、
図4には、触媒のTEM−EDS画像を示す。また、
図5には、SEM−EDSによる調製した触媒の組成データを示す。
図6には、調製した触媒のX線解回折結果を示す。
【0067】
(メタンカップリング反応)
上述した製造方法で調製した触媒を石英反応器(内径5mm)に入れて、950℃に加熱しながら、ヘリウムで希釈したメタンガス(1%)と二酸化炭素(1%)の混合ガスを10ml/minで導入し、反応を開始した。かかる反応器における、空間速度は、6000ml/g/hであった。なお、メタンと二酸化炭素のモル比(メタン/二酸化炭素)は1であった。
反応器の排出ガスをガスクロマトグラフィー(島津社製、型番GC-2014)を用いて測定した。
【0068】
実験結果を
図7に示す。
図7に示すように、調製した炭化水素変換触媒を用いれば、メタンカップリング反応により、メタンから直接C
2炭化水素(エチレン、アセチレン、エタン)およびC
3炭化水素(プロパン、プロピレン)を変換して生成させることができることが確認できた。
とくに、メタンカップリング反応を950℃で行ったが、かかる温度は炭酸ナトリウムの融点以上である。このため、炭化水素変換触媒の複合酸化物の表面上では炭酸ナトリウムの融解が促進され、その融解塩が形成されているものと考えられる。このため、メタンカップリング反応が促進され、メタンから上記C
2炭化水素およびC
3炭化水素を効率よく生成することができたものと推察される。
【0069】
なお、実験では、第二調製液を調製する工程において、塩化ナトリウムを添加することによって、C2炭化水素であるエチレンを再現よく生成させることができることを確認した。
【0070】
実験結果を
図8に示す。
図8に示すように、塩化ナトリウムを添加した製法(
図8(B))では、塩化ナトリウムを添加しない製法(
図8(A))と比べてC2炭化水素であるエチレンの再現性を向上させることができることを確認した。
また、
図8(B)に示すように、塩化ナトリウムの添加量は、第一調製液中のクエン酸カルシウムに対して、塩化ナトリウム/クエン酸カルシウムのモル比が0.6(ナトリウム/カルシウムのモル比では0.2)となるように調製すれば、より効率よくC
2炭化水素であるエチレンを製造することができることが確認できた。
【0071】
以上の実験結果より、上記のごとく調製した炭化水素変換触媒を用いれば、メタンから直接C
2炭化水素およびC
3炭化水素を変換して製造することができることが確認できた。しかも、カップリング反応の反応温度をナトリウムの炭酸塩の融点以上となるように調整することによって、その生成効率を向上させることが可能であることが確認できた。
さらに、炭化水素変換触媒は、クエン酸カルシウム四水和物、クエン酸三ナトリウム、L-アスパラギン酸といった安価な原料を用いて製造することができることが確認できたので、メタンからC
2炭化水素およびC
3炭化水素を直接変換するコストを従来の高価な金属を用いた触媒と比べて低く抑えることができる可能があることが確認できた。
【0072】
したがって、本実施形態の炭化水素変換触媒は、メタンのメタンカップリング反応における触媒として機能を発揮させることが確認できた。そして、本実施形態の炭化水素変換触媒を用いれば、工業的に、メタンから直接変換してC
2炭化水素およびC
3炭化水素を製造することができることが確認できた。
また、工業的な分野のみならず、メタンカップリング反応を利用する他の技術分野についても本実施形態の炭化水素変換触媒に関する技術を幅広く利用できる可能性があることが確認できた。