特開2020-37346(P2020-37346A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2020037346-車両の制御装置 図000003
  • 特開2020037346-車両の制御装置 図000004
  • 特開2020037346-車両の制御装置 図000005
  • 特開2020037346-車両の制御装置 図000006
  • 特開2020037346-車両の制御装置 図000007
  • 特開2020037346-車両の制御装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-37346(P2020-37346A)
(43)【公開日】2020年3月12日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20200214BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20200214BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20200214BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20200214BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20200214BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20200214BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20200214BHJP
   F16H 59/56 20060101ALI20200214BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20200214BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20200214BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20200214BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   F02D29/00 FZHV
   F02D29/00 G
   B60K6/485
   B60K6/547
   B60W10/06 900
   B60W20/30
   F16H61/02
   F16H59/56
   F16H63/50
   F16H59/18
   B60L11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-165763(P2018-165763)
(22)【出願日】2018年9月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 正寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 健治
(72)【発明者】
【氏名】池 恭平
(72)【発明者】
【氏名】森貞 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】名越 匡宏
(72)【発明者】
【氏名】大久 千華子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 篤史
(72)【発明者】
【氏名】山根 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】森 工
(72)【発明者】
【氏名】石川 美代子
(72)【発明者】
【氏名】多田 努
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
3J552
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA09
3D202BB01
3D202BB11
3D202CC73
3D202DD05
3D202DD18
3D202DD33
3D202DD38
3D202FF06
3D202FF12
3G093AA04
3G093AA07
3G093BA03
3G093CB08
3G093DA01
3G093DA06
3G093DB05
3G093DB10
3G093DB11
3G093EA03
3G093EB03
3J552MA01
3J552MA13
3J552MA17
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA21
3J552RA03
3J552RA12
3J552SA01
3J552SB09
3J552UA03
3J552UA10
3J552VA32W
3J552VA76W
3J552VB10W
3J552VD04W
5H125AA01
5H125AC08
5H125BD00
5H125BD17
5H125BE05
5H125EE31
5H125EE41
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】手動変速機5のアップシフトの際に運転者が自然な動作で途中で止めることなく両足を動かしてペダル操作を行うことができ、しかも、クラッチ6の接続時に変速ショックの発生を防止可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の制御装置は、手動変速機5のアップシフトに際しての運転者のアクセルペダルの戻し状態に基づいて、クラッチ6の遮断からの時間であってエンジン2の回転速度を低下させる時間の目標値である目標時間を設定する目標時間設定手段と、クラッチ6の遮断から上記目標時間が経過したときに、エンジン2の回転速度が、アップシフト後におけるクラッチ6の手動変速機5側の回転速度である変速機側回転速度に到達するように、発電機(ISG3)の発電量の制御によりエンジン2の回転速度を低下制御するエンジン回転速度低下制御手段と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、手動変速機と、該エンジンと該手動変速機との接続及び遮断を行うクラッチと、該エンジンに対して該クラッチを介さずに接続され、該エンジンにより駆動されて発電する発電機とを有する車両の制御装置であって、
上記車両の運転者による上記手動変速機のアップシフトに際しての該運転者のアクセルペダルの戻し状態に基づいて、上記クラッチの遮断からの時間であって上記エンジンの回転速度を低下させる時間の目標値である目標時間を設定する目標時間設定手段と、
上記クラッチの遮断から、上記目標時間設定手段により設定された目標時間が経過したときに、上記エンジンの回転速度が、上記アップシフト後における上記クラッチの手動変速機側の回転速度である変速機側回転速度に到達するように、上記発電機の発電量の制御により上記エンジンの回転速度を低下制御するエンジン回転速度低下制御手段と、を備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置において、
上記目標時間設定手段は、上記運転者のアクセルペダルの戻し速度のピーク値に基づいて、上記目標時間を設定するよう構成されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両の制御装置において、
上記エンジン回転速度低下制御手段は、上記クラッチの遮断から上記目標時間が経過するまでの間、上記エンジンの回転速度の制御目標値を、所定回転速度から上記変速機側回転速度まで、時間に対して所定の傾きでもって低下するように設定するよう構成されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両の制御装置において、
上記エンジン回転速度低下制御手段は、上記所定回転速度を、上記クラッチの遮断時における上記エンジンの回転速度よりも低回転側の値に設定するよう構成されていることを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、手動変速機を備えた車両では、運転者は、手動変速機のアップシフトを行う際には、踏み込んでいたアクセルペダルを戻すとともに、クラッチペダルを踏み込み、その踏み込んだ状態でアップシフトを行い、その後にクラッチペダルを戻す、という動作を行う。このクラッチペダルの戻し操作時において、運転者は、クラッチの接続による変速ショックが生じないように、戻し操作の途中で半クラッチにする場合がある。
【0003】
例えば特許文献1では、手動変速機のアップシフトの際に、エンジンの動力でモータジェネレータを駆動してモータジェネレータを発電し、この発電によってエンジンの負荷トルクを増加させてエンジンの回転速度を低下させるようにしている。これにより、クラッチの接続時にクラッチのエンジン側と手動変速機側との回転速度差を小さくして、クラッチペダルの戻し操作の途中で半クラッチにしなくても、変速ショックを抑制できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−221561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らは、運転者のアップシフトの際の両足のペダル操作について、自然な動作で行うことができれば、運転者の操作フィーリングを向上できることを見出した。すなわち、運転者が、途中で止めることなく両足をスムーズに動かしてペダル操作を行うことができれば、フィーリング良くペダル操作を行うことができるようになる。
【0006】
しかし、上記特許文献1では、手動変速機のアップシフトの際に、運転者のペダル操作状態に合わせてエンジンの回転速度を低下させてはいないので、運転者が両足を自然に動かしてペダル操作を行うと、クラッチの接続時にクラッチのエンジン側と手動変速機側とで回転速度が合わず、変速ショックが生じてしまう。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、手動変速機のアップシフトの際に運転者が自然な動作で途中で止めることなく両足を動かしてペダル操作を行うことができ、しかも、クラッチの接続時に変速ショックの発生を防止可能な車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明では、エンジンと、手動変速機と、該エンジンと該手動変速機との接続及び遮断を行うクラッチと、該エンジンに対して該クラッチを介さずに接続され、該エンジンにより駆動されて発電する発電機とを有する車両の制御装置を対象として、上記車両の運転者による上記手動変速機のアップシフトに際しての該運転者のアクセルペダルの戻し状態に基づいて、上記クラッチの遮断からの時間であって上記エンジンの回転速度を低下させる時間の目標値である目標時間を設定する目標時間設定手段と、上記クラッチの遮断から、上記目標時間設定手段により設定された目標時間が経過したときに、上記エンジンの回転速度が、上記アップシフト後における上記クラッチの手動変速機側の回転速度である変速機側回転速度に到達するように、上記発電機の発電量の制御により上記エンジンの回転速度を低下制御するエンジン回転速度低下制御手段と、を備えている、という構成とした。
【0009】
上記の構成により、運転者のアクセルペダルの戻し状態(戻し速度、戻し時間、戻し加速度、戻し躍度、又は、戻し直前のアクセル開度)に基づいて目標時間が設定され、クラッチの遮断から、その設定された目標時間が経過したときに、エンジンの回転速度が、アップシフト後におけるクラッチの手動変速機側の回転速度である変速機側回転速度に到達するように、発電機の発電量の制御によりエンジンの回転速度が低下制御される。すなわち、運転者のアクセルペダルの戻し状態から、当該運転者がどのように両足を動かしてペダル操作を行おうとしているのかが分かり、その操作状態から上記目標時間が設定される。上記目標時間は、当該運転者のクラッチの遮断から接続までの時間に相当し、クラッチの遮断から上記目標時間が経過したときには、当該運転者によりクラッチの接続が行われると考えられる。このクラッチの接続時には、エンジン回転速度低下制御手段によって、エンジンの回転速度が変速機側回転速度にまで低下していることになる。したがって、運転者が自然に両足を動かしてペダル操作を行えば、クラッチの接続時にクラッチのエンジン側と手動変速機側との回転速度差がなくなり、変速ショックの発生を防止することができる。
【0010】
上記車両の制御装置の一実施形態では、上記目標時間設定手段は、上記運転者のアクセルペダルの戻し速度のピーク値に基づいて、上記目標時間を設定するよう構成されている。
【0011】
このことで、運転者が自然に動作を行った場合の操作の状態を的確に把握することができるようになる。
【0012】
上記車両の制御装置の他の実施形態では、上記エンジン回転速度低下制御手段は、上記クラッチの遮断から上記目標時間が経過するまでの間、上記エンジンの回転速度の制御目標値を、所定回転速度から上記変速機側回転速度まで、時間に対して所定の傾きでもって低下するように設定するよう構成されている。
【0013】
このことにより、制御のハンチングを防止しながら、エンジンの回転速度を変速機側回転速度までなめらかに低下させることができる。
【0014】
上記のように、上記エンジンの回転速度の制御目標値を、時間に対して所定の傾きでもって低下させる場合、上記エンジン回転速度低下制御手段は、上記所定回転速度を、上記クラッチの遮断時における上記エンジンの回転速度よりも低回転側の値に設定するよう構成されている。
【0015】
このことで、制御のハンチングをより一層確実に防止しながら、エンジンの回転速度を変速機側回転速度までなめらかに低下させることができる。尚、クラッチの遮断時におけるエンジンの回転速度は、実測値であってもよく、推定値であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の車両の制御装置によると、手動変速機のアップシフトの際に運転者が自然な動作でスムーズに両足を動かしてペダル操作を行うことができ、しかも、クラッチの接続時に変速ショックの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る制御装置が搭載された車両の概略構成を示す図である。
図2】エンジン及びISGの制御系の構成を示すブロック図である。
図3】目標時間設定用マップを示す図である。
図4】制御目標ラインLと、エンジン回転速度低下制御部の制御によるエンジンの回転速度の低下の様子を示すグラフである。
図5】目標時間設定部及びエンジン回転速度低下制御部による回転速度合わせ処理を示すフローチャートである。
図6】回転速度合わせ処理に関連する一連の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置が搭載された車両1の概略構成を示す。本実施形態では、車両1は、エンジン2と、エンジン2の駆動を補助する、スタータ及びジェネレータ兼用のモータであるISG3(Integrated Starter-Generator)とを備えるハイブリッド車両である。
【0020】
車両1は、手動変速機5と、エンジン2と手動変速機5との接続及び遮断を行うクラッチ6とを更に備える。クラッチ6は、車両1の運転者によるクラッチペダルの踏み込み操作により遮断され、クラッチペダルの戻し操作により接続される。詳しくは、クラッチペダルの踏み込み操作においてその踏み込み量が第1所定閾値d1(例えば、全踏み込みストロークの約50%に相当する値)を超えたときに、クラッチ6が遮断され、戻し操作において踏み込み量が第1所定閾値d1以下になったとき、クラッチ6が接続される。
【0021】
本実施形態では、ISG3は、エンジン2により駆動されて発電する発電機に相当する。ISG3は、エンジン2に対してクラッチ6を介さずに接続されており、クラッチ6の接続状態及び遮断状態に関係なく、エンジン2により駆動されて発電することができるようになっている。尚、発電機は、ISGに限られるものではない。
【0022】
クラッチ6の接続状態において、エンジン2の駆動力(又は、エンジン2及びISG3の駆動力)がクラッチ6及び手動変速機5(差動機構を含む)を介して車輪8(前輪)に伝達される。
【0023】
図1及び図2に示すように、車両1には、エンジン2及びISG3を制御するコントロールユニット50が設けられている。このコントロールユニット50は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。コントロールユニット50は、CPU、メモリ、入出力バス等を備えている。CPUは、コンピュータプログラム(OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)を実行する中央演算処理装置である。メモリは、RAM及びROMにより構成されている。ROMには、種々のコンピュータプログラム(エンジン2及びISGを制御するための制御プログラム)や、該コンピュータプログラムの実行時に用いられる、後述の目標時間設定用マップを含むデータ等が格納されている。RAMは、CPU51が一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バスは、コントロールユニット50に対して電気信号の入出力をするものである。
【0024】
コントロールユニット50には、車両1の運転者によるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセルペダル踏み込み量センサ51からの信号と、運転者によるクラッチペダルの踏み込み量を検出するクラッチペダル踏み込み量センサ52からの信号と、車両1の車速を検出する車速センサ53からの信号と、手動変速機5のシフトレバーを介して運転者により選択されたシフト位置(変速段位)を検出するシフト位置センサ54からの信号と、エンジン2の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ55からの信号と、が入力されるようになっている。また、コントロールユニット50には、その他に、車両1の、手動変速機5のアップシフト時以外の走行時において、エンジン2の制御に必要な信号が入力される。
【0025】
コントロールユニット50は、上記入力した信号に基づいて、エンジン2を制御するとともに、手動変速機5のアップシフトの際には、発電機としてのISG3の発電量の制御によりエンジン2の回転速度の低下制御を行う。
【0026】
コントロールユニット50内には、エンジン2を制御するエンジン制御部50aと、ISG3を制御するISG制御部50bとが設けられている。ISG制御部50bは、目標時間設定部50c(目標時間設定手段)と、エンジン回転速度低下制御部50d(エンジン回転速度低下制御手段)とを含む。
【0027】
エンジン制御部50a及びISG制御部50b(目標時間設定部50c及びエンジン回転速度低下制御部50d)は、上記ROMに記憶されているコンピュータプログラムに従って、上記入力した信号のうち各部での処理に必要な信号を上記CPUで処理して、エンジン2及びISG3をそれぞれ制御する。
【0028】
目標時間設定部50cは、車両1の運転者による手動変速機5のアップシフト(変速段位Gから変速段位G+1へのアップシフト)に際しての該運転者のアクセルペダルの戻し状態に基づいて、クラッチ6の遮断(クラッチペダルの踏み込み量が第1所定閾値d1よりも大きくなったとき)からの時間であってエンジン2の回転速度を低下させる時間の目標値である目標時間taを設定する。本実施形態では、目標時間設定部50cは、運転者のアクセルペダルの戻し速度のピーク値vpに基づいて、目標時間taを設定する。ここで、運転者のアクセルペダルの戻し動作は、通常、その前半において戻し速度が徐々に速くなる一方、後半において徐々に遅くなるような動作になる。これにより、その戻し動作の途中で戻し速度のピーク値vpが出現する。このピーク値vpが出現するのは、通常、クラッチ6の遮断の前である。アクセルペダルの戻し速度は、アクセルペダル踏み込み量センサ51からの信号に基づいて算出される。そして、アクセルペダルの戻し動作の開始から所定時間(数ms乃至数十ms)毎に戻し速度を算出して、その戻し速度の値が前回の戻し速度の値を超えなくなれば、その前回の戻し速度の値がピーク値vpとなる。仮に、クラッチ6の遮断前にピーク値vpが出現しなかった場合には、クラッチ6の遮断時までの戻し速度の最大値がピーク値vpとされる。
【0029】
尚、目標時間設定部50cは、戻し速度のピーク値vpに代えて、アクセルペダルの戻し時間(戻し開始から、踏み込み量が0又は所定量(0に近い値)になるまでの時間)、戻し加速度、戻し躍度、又は、戻し直前のアクセル開度に基づいて、目標時間taを設定するようにしてもよい。
【0030】
本実施形態では、上記ROMに、図3に示す目標時間設定用マップが予め記憶されている。この目標時間設定用マップには、アクセルペダルの戻し速度のピーク値vpと目標時間taとの関係が示されており、目標時間設定部50cは、戻し速度のピーク値vpから目標時間設定用マップを用いて目標時間taを設定する。目標時間taは、運転者のクラッチ6の遮断から接続までの時間に相当し、クラッチ6の遮断から目標時間taが経過したときには、当該運転者によりクラッチ6の接続が行われると考えられる。
【0031】
図3から分かるように、基本的に、戻し速度が速い場合には、目標時間taが短く、戻し速度が遅い場合には、目標時間taが長くなる。これは、運転者が自然な動作で両足を動かした場合、戻し速度が速い場合にはクラッチ6の遮断から接続までの時間が短く、戻し速度が遅い場合にはクラッチ6の遮断から接続までの時間が長くなるためである。
【0032】
エンジン回転速度低下制御部50dは、クラッチ6の遮断から、目標時間設定部50cにより設定された目標時間taが経過したときに、エンジン2の回転速度が、アップシフト後(変速段位G+1)におけるクラッチ6の手動変速機5側の回転速度である変速機側回転速度N1に到達するように、ISG3の発電量の制御によりエンジン2の回転速度を低下制御する。変速機側回転速度N1は、後述の回転速度N3に、(変速段位G+1のギヤ比/変速段位Gのギヤ比)(<1)を掛けた値である。
【0033】
具体的に、図4に示すように、エンジン回転速度低下制御部50dは、クラッチ6の遮断(t0)から目標時間taが経過する時点(t1)までの間、エンジン2の回転速度の制御目標値を、所定回転速度N2から変速機側回転速度N1まで、時間に対して所定の傾き(N1−N2)/ta(負の値)でもって低下するように設定する(図4の制御目標ラインL参照)。エンジン回転速度低下制御部50dは、t0の時点からt1の時点までの間、エンジン回転速度センサ55により検出される回転速度が、上記制御目標値(制御目標ラインL)に一致するように、ISG3の発電量を制御する。尚、t0の時点からt1の時点までの間(より詳細には、クラッチペダルの踏み込み量が最大値となっている間)に、シフト操作が行われて、変速段位Gからニュートラルを挟んで変速段位G+1に変化する(図6の変速段位の欄を参照)。
【0034】
所定回転速度N2は、クラッチ6の遮断時におけるエンジン2の回転速度N3(本実施形態では、クラッチ6の遮断時においてエンジン回転速度センサ55により検出された実測値)よりも低回転側の値に設定される。本実施形態では、所定回転速度N2は、回転速度N3よりも低い値になるように、変速機側回転速度N1に第1所定値を加算することで設定される。尚、クラッチ6の遮断時におけるエンジン2の回転速度N3は、クラッチ6の遮断時において車速センサ53により検出された車速とシフト位置センサ54により検出されたシフト位置(変速段位G、つまり変速段位Gのギヤ比)とから推定される推定値であってもよい。
【0035】
仮に、エンジン2の回転速度の制御目標値を、クラッチ6の遮断時におけるエンジン2の回転速度N3から(N1−N3)/taの傾きで変速機側回転速度N1まで低下させた場合には、制御のハンチングが生じる可能性が高くなる。これに対し、所定回転速度N2から(N1−N2)/taの傾きで変速機側回転速度N1まで低下させれば、図4に示すように、制御のハンチングを防止しながら、エンジン2の回転速度を変速機側回転速度N1までなめらかに低下させることができるようになる。
【0036】
所定回転速度N2を適切に設定することによって、クラッチ6の遮断から目標時間taが経過する手前で、エンジン2の回転速度は制御目標ラインLに到達し、この時点でISG3の発電を停止しても、その発電の停止以降、基本的に、エンジン2の回転速度は制御目標ラインLに沿って低下して、t1の時点で変速機側回転速度N1に達するようになり、アンダーシュートを抑制することができる。本実施形態では、エンジン2の回転速度が、変速機側回転速度N1に第2所定値(第1所定値よりも小さい値)を加算して設定された設定回転速度N4に達した時点(t2)で、エンジン2の回転速度が制御目標ラインLに到達したと見做して、ISG3の発電を停止する。
【0037】
本実施形態では、エンジン制御部50aは、t0の時点からt2の時点までの間、エンジン2における燃料噴射を停止する一方、t2の時点以降は、燃料噴射を行う。エンジン制御部50aは、t2の時点からt1の時点までの間、エンジン2の燃焼制御によって、エンジン2の回転速度が制御目標ラインLに沿って低下するように補助する。但し、このエンジン制御部50aによる補助はなくても、上述したように、エンジン2の回転速度は制御目標ラインLに沿って低下する。
【0038】
エンジン制御部50aは、t1の時点からクラッチペダルの踏み込み量が第2所定閾値d2以下になるまでの間は、アクセルペダル踏み込み量センサ51によるアクセルペダルの踏み込み量が0であれば、エンジン2の燃焼制御によって、エンジン2の回転速度を変速機側回転速度N1に維持する。第2所定閾値d2は、第1所定閾値d1よりも小さい値であって、クラッチペダルが踏み込まれていないと見做せるような値である。エンジン制御部50aは、t1の時点からクラッチペダルの踏み込み量が第2所定閾値d2以下になるまでの間にアクセルペダルが踏み込まれた場合には、アクセルペダルの踏み込み量に応じてエンジン2を制御する。一方、クラッチペダルの踏み込み量が第2所定閾値d2以下になっても、アクセルペダルの踏み込み量が0であれば、エンジン2の回転速度を変速機側回転速度N1からアイドル回転速度にまで徐々に低下させる(図6のエンジン回転速度の欄では、クラッチペダルの踏み込み量が第2所定閾値d2以下になった以降、アイドル回転速度に向けて低下させている)。
【0039】
エンジン回転速度低下制御部50dは、t2の時点からクラッチペダルの踏み込み量が第2所定閾値d2以下になるまでの間は、ISG3の発電を停止した状態を維持し、クラッチペダルの踏み込み量が第2所定閾値d2以下になった時点で、エンジン回転速度低下制御部50dによる制御は終了する。
【0040】
次に、図5のフローチャートにより、車両1の運転者による手動変速機5のアップシフトに際しての該運転者のアクセルペダルの戻し開始からアップシフト後にクラッチペダルの踏み込み量が第2所定閾値d2以下になるまでの目標時間設定部50c及びエンジン回転速度低下制御部50dによる回転速度合わせ処理について説明する。以下のステップS1〜S5の処理が、目標時間設定部50cにより実行され、ステップS6〜S10の処理が、エンジン回転速度低下制御部50dにより実行される。
【0041】
ステップS1で、アクセルペダル踏み込み量センサ51からの信号に基づいて算出した戻し速度をピーク値として上記RAMに記憶し、次のステップS2で、新たに算出した戻し速度が、上記記憶した値を超えないか否かを判定する。このステップS2の判定がNOであるときには、ステップS1に戻って、新たに算出した戻し速度をピーク値として記憶更新する。
【0042】
一方、ステップS2の判定がYESであるときには、ステップS3に進んで、クラッチペダル踏み込み量センサ52によるクラッチペダルの踏み込み量が第1所定閾値d1よりも大きいか否か、つまり、クラッチ6が遮断されたか否かを判定する。このステップS3の判定がNOであるときには、ステップS2に戻る一方、ステップS3の判定がNOであるときには、ステップS4に進む。
【0043】
ステップS4では、エンジン回転速度センサ55からの信号(回転速度N3)、及び、シフト位置センサ54からの信号(変速段位G)を読み込む。次のステップS5では、最後に記憶された戻し速度のピーク値であるピーク値vpから目標時間設定用マップを用いて目標時間taを設定する。
【0044】
次のステップS6で、回転速度N3に(変速段位G+1のギヤ比/変速段位Gのギヤ比)を掛けて変速機側回転速度N1を算出するとともに、所定回転速度N2を、回転速度N3よりも小さい値に設定して、制御目標ラインLを設定する。次のステップS7で、エンジン回転速度センサ55により検出される回転速度が、制御目標ラインLの回転速度に一致するように、ISG3の発電量を制御する。
【0045】
次のステップS8で、エンジン2の回転速度が制御目標ラインLに到達したか否か(ここでは、エンジン2の回転速度が設定回転速度N4に達したか否か)を判定する。このステップS8の判定がNOであるときには、ステップS7に戻る一方、ステップS8の判定がYESであるときには、ステップS9に進んで、ISG3の発電を停止する(発電量を0にする)。
【0046】
次のステップS10では、クラッチペダル踏み込み量センサ52によるクラッチペダルの踏み込み量がd2以下になったか否かを判定する。このステップS10の判定がNOであるときには、ステップS9に戻る一方、ステップS10の判定がYESであるときには、回転速度合わせ処理を終了する。
【0047】
次に、上記回転速度合わせ処理に関連する一連の動作を、図6を参照しながら説明する。
【0048】
車両1の運転者がアクセルペダルを踏み込んでエンジン2の回転速度が上昇しているときに、アップシフトを行おうとして、アクセルペダルを戻しながらクラッチペダルを踏み込む。クラッチペダルの踏み込み量が第1所定閾値d1を超える前に、アクセルペダルの戻し速度がピークとなって、そのピーク値vpが最終的にRAMに記憶される。このピーク値vpから目標時間設定用マップにより目標時間taが設定される。目標時間taは、運転者が自然に、操作途中で止まることなく両足を動かしたと仮定して設定されており、クラッチ6の遮断から目標時間taが経過したとき(t1の時点)に、当該運転者によりクラッチ6の接続が行われると考えられる。
【0049】
クラッチ6の遮断から目標時間taが経過する時点(t1)までの間、ISG3の発電量の制御によって、エンジン2の回転速度が低下していき、t2の時点で発電量が0になる。t2の時点以降は、エンジン2の回転速度が制御目標ラインLに沿って低下し、t1の時点で、変速機側回転速度N1に達する。こうしてエンジン2の回転速度は、制御のハンチングが生じることなく、回転速度N3から変速機側回転速度N1までなめらかに低下する。
【0050】
したがって、本実施形態では、車両1の運転者が自然に、操作途中で止まることなく両足を動かしてペダル操作を行えば、クラッチ6の接続時にクラッチ6のエンジン2側と手動変速機5側との回転速度差がなくなり、変速ショックの発生を防止することができる。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0052】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、エンジンと、手動変速機と、該エンジンと該手動変速機との接続及び遮断を行うクラッチと、該エンジンに対して該クラッチを介さずに接続され、該エンジンにより駆動されて発電する発電機とを有する車両の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 車両
2 エンジン
3 ISG(発電機)
5 手動変速機
6 クラッチ
50c 目標時間設定部(目標時間設定手段)
50d エンジン回転速度低下制御手段(エンジン回転速度低下制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6