【0018】
そして、前記スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)は、その水溶液若しくはエマルション、またはそれらの混合物を用いることができる。水溶液の場合は、その酸価が100〜250mgKOH/g、ガラス転移温度が−10〜150℃であることが好ましい。
酸価が100mgKOH/g以上であれば分散性は保持される傾向にあり、酸価が250mgKOH/g以下であれば、分散性が保持される傾向にある。また、ガラス転移温度が−10℃以上であれば耐熱性が保持される傾向にあり、ガラス転移温度が150℃以下であれば、造膜性が保持される傾向にある。
エマルションの場合は、その酸価が40〜200mgKOH/g、ガラス転移温度が−10〜150℃が好ましい。酸価が40mgKOH/g以上であれば分散性は保持される傾向にあり、酸価が200mgKOH/g以下であれば、分散性が保持される傾向にある。また、ガラス転移温度が−10℃以上であれば耐熱性は保持される傾向にあり、ガラス転移温度が150℃以下であれば、造膜性が保持される傾向にある。
水溶液とエマルションとの混合物を用いる場合は、スチレン・アクリル樹脂のガラス転移温度は−10〜120℃が好ましい。ガラス転移温度が−10℃以上であれば耐熱性は保持される傾向にあり、スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量は不揮発分で3〜30質量%の範囲であり、ガラス転移温度が120℃以下であれば、造膜性が保持される傾向にある。
尚、本発明の水性コーティング剤中のスチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量は、コーティング剤全量に対して3〜30質量%の範囲である事が好ましい。
前記スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量が不揮発分で3質量%以上であれば、分散性は保持される傾向にあり、前記スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量が不揮発分で30質量%以下であれば、耐熱性、耐摩擦性は保持される傾向にある。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
尚、合成ワックスの平均粒子径は日立製作所製操作型電子顕微鏡S−3400Nを用いて測定した度数分布の状況から算出した。
また、軟化点については、環球法(「JIS K7234−86」に準拠、昇温速度が5℃/分)にて測定を行った。
ガラス転移温度(Tg)の測定は、示差雰囲気下、冷却装置を用い温度範囲−80〜450℃、昇温温度10℃/分の条件下、DMA法で実施した。
【0028】
また、本実施例において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)を用い、下記の条件により測定した値である。
【0029】
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC−8220
カラム ; 東ソー株式会社製ガードカラムH
XL−H
+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製 SC−8010
測定条件: カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ;ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0030】
(水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A1の作製)
下記原料X1、X2を用いて下記に示す質量比でミキサーにて十分混合し、水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体を作製した。
〔原料X1〕
アクリル酸/αメチルスチレン/スチレン/エチルカルビトールアクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート(質量比率:12.8/20.4/33.6/1.2/32)から成る共重合エマルション(不揮発分44%、酸価100mgKOH/g、ガラス転移温度16℃)
〔原料X2〕
アクリル酸/スチレン/αメチルスチレン/エチルカルビトールアクリレート(質量比率:27.1/11.8/54.3/6.8)から成る共重合水溶性樹脂溶液(不揮発分33%、酸価195mgKOH/g、ガラス転移温度113℃、重量平均分子量8000)
前記原料X1を50部、原料X2を10部、及び水40部の質量比率で混合し、水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A1を作製した。
【0031】
(水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2の作製)
次いで、前記水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A1を84部、シリコーン系消泡剤を1部、造膜助剤ブチルセロソルブアセテートを3部、メタノール2部、及び水10部の合計100部をミキサーにて十分混合し、水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2を作製した。
【0032】
(実施例1:水性コーティング剤組成物(1)の調製)
前記水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2 97.5質量部、ポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたポリエチレンワックスであるセレタンMFX9510D(ミュンツイング・マイクロ・テクノロジー社製、平均粒子径6μm、軟化点330℃)2.5質量部を加え、ミキサー(単軸ディゾルバー)を用いて撹拌し、水性コーティング剤(1)を得た。
【0033】
(実施例2及び3)
表1に記載の配合にてセレタンMFX9510Dを用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(2)、(3)を得た。
【0034】
(比較例1)
前記水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2のみを用い、ワックスを無添加としたものを水性コーティング剤(H1)とした。
【0035】
(比較例2)
実施例1のセレタンMFX9510Dの代わりに、ポリテトラフルオロエチレンの粒子からなるSST−3D(シャムロック・テクノロジーInc.社製、平均粒子径5μm、軟化点321℃)2.5質量部を用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(H2)を得た。
【0036】
(比較例3)
実施例1のセレタンMFX9510Dの代わりに、ポリエチレン粒子で表面未処理のケミパールW300(三井化学(株)社製、平均粒子径3μm、軟化点132℃)2.5質量部を用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(H3)を得た。
【0037】
(比較例4)
実施例1のセレタンMFX9510Dの代わりに、ポリエチレン粒子で表面未処理のミペロンPM200(三井化学(株)社製、平均粒子径10μm、軟化点136℃)2.5質量部を用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(H3)を得た。
【0038】
(評価用のコーティング加工物の作製)
上記の実施例及び比較例で得られた水性コーティング剤を、予め酸化重合乾燥型のオフセットインキで絵柄を印刷したコート紙(王子製紙社製 銘柄:OK金藤両面アート紙 厚さ89μm、米坪104.7g/m
2)に、バーコーター#6にて塗布し、乾燥機にて設定温度80℃/10秒間乾燥した後、25℃で1日放置し、評価用のコーティング加工物を得た。得られたコーティング加工物を用いて、以下に示す評価試験方法に従って評価を行った。
【0039】
(耐熱性)
コーティング加工物の塗膜面同士を併せて、裏面からヒートシールテスターで、温度130℃、圧力98kPa、30秒で熱圧する。その後、手で塗膜面同士を剥離し、以下の評価基準にしたがって目視評価する。
○:容易に剥離し、全く紙剥れが見られない。
△:全体の約25%の面で紙剥れが見られた。
×:剥離しにくく、ほぼ全面で紙剥れが見られた。
【0040】
(光沢)
コーティング加工物表面の光沢値を、日本電色製グロスメーター(60°/60°)で測定した。
数値が大きい程、光沢度が高い。光沢値は30以上であれば、実用上問題ない。
【0041】
(耐摩擦性)
前記コーティング加工物を2.5×25cmに断裁してテストピースとし、学振型摩擦試験機(大栄科学精器製作所製)を使用して、あて紙として上質紙を印刷物のニス塗工面に当てて、500g荷重にて500回ずつ摩擦し、あて紙の損傷度合を以下の評価基準に従って目視評価する。
○:当紙が全く損傷しなかった。
△:当紙に全体の25%以下の損傷が認められた。
×:当紙に全体の50%以上の損傷が認められた。
【0042】
(滑り性)
コーティング加工物同士を重ね合わせ、東洋精機製スリップテスターにて反復して5回滑らせ、静摩擦係数の平均値を測定する。数値が大きい程、滑り性が低く、数値が低い程、滑り性が高い傾向を示す。0.08〜0.20であれば実用上問題はない。
【0043】
(貯蔵安定性)
100mlガラス瓶に試料を入れ、25℃にて3ヶ月間保存し、貯蔵安定性を以下の評価基準に従って目視評価する。
○:内容物に増粘がみられず、正常な状態。
△:内容物に増粘損傷が認められた。
×:内容物が顕著に増粘し、流動性なし。
【0044】
以下に、本発明の水性コーティング剤の各評価結果を示す。
【0045】
【表1】
表1の数値は質量%である。各表に示す諸原料及び略を以下に示す。
・セレタンMFX 9510D:ポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたポリエチレンワックス、平均粒子径6μm、軟化点330℃、ミュンツイング・マイクロ・テクノロジー社製
・SST−3D:ポリテトラフルオロエチレン粉末、平均粒子径5μm、軟化点321℃、シャムロック・テクノロジーInc.社製
・ケミパール W300:表面未処理のポリエチレン粒子、平均粒子径3μm、軟化点132℃、三井化学(株)社製
・ミペロン PM200:表面未処理のポリエチレン粒子、平均粒子径10μm、軟化点136℃、三井化学(株)社製
【0046】
実施例に記載のポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたポリエチレンワックスを添加した水性コーティング剤を塗工した塗工物では、高い光沢、耐熱性を有し、耐摩耗性、滑り性を兼備し、貯蔵安定性にも優れる結果となった。