特開2020-37659(P2020-37659A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-37659水性コーティング剤、及びこれを塗布してなる印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-37659(P2020-37659A)
(43)【公開日】2020年3月12日
(54)【発明の名称】水性コーティング剤、及びこれを塗布してなる印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 125/04 20060101AFI20200214BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20200214BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20200214BHJP
   C09D 191/06 20060101ALI20200214BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20200214BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20200214BHJP
【FI】
   C09D125/04
   C09D5/02
   C09D133/00
   C09D191/06
   C09D7/20
   C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-165945(P2018-165945)
(22)【出願日】2018年9月5日
(71)【出願人】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆司
(72)【発明者】
【氏名】伊井 直実
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA212
4J038CC021
4J038CG031
4J038CG141
4J038CJ031
4J038KA06
4J038KA15
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA09
4J038NA14
4J038PB02
4J038PB04
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、高い光沢、耐熱性を有し、耐摩耗性と滑り性を兼備した水性コーティング剤を提供することにあるものであり、更には、該水性コーティング剤を用いた印刷物を提供することにあるものである。
【解決手段】本発明の解決手段は、スチレン−アクリル樹脂共重合体(A)、及びポリオレフィンワックスにフッ素樹脂をコーティングした合成ワックス(B)を含有する事を特徴とする水性コーティング剤に関するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−アクリル樹脂共重合体(A)、及びポリオレフィンワックスにフッ素樹脂をコーティングした合成ワックス(B)を含有する事を特徴とする水性コーティング剤。
【請求項2】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の水性コーティング剤。
【請求項3】
前記合成ワックス(B)の平均粒子径3〜7μm、軟化点300〜350℃である請求項1又は2に記載の水性コーティング剤。
【請求項4】
前記合成ワックス(B)を組成物全量の0.1〜3質量%含有する請求項1〜3の何れか1つに記載の水性コーティング剤。
【請求項5】
更に、造膜助剤(C)としてセルソルブ系溶剤を含有する請求項1〜4の何れか1つにに記載の水性コーティング剤。
【請求項6】
前記セルソルブ系溶剤が、ブチルセロソルブ及び/又はブチルセロソルブアセテートである請求項1〜5の何れか1つに記載の水性コーティング剤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つに記載の水性コーティング剤を塗布してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒ラベル用等の耐熱性を要求される、高温充填酒用ラベルのトップコートニス用途向け水性コーティング剤に関する。更には、該水性コーティング剤を用いた印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物の中でも、特に高光沢、マット調光沢、耐水性、耐油性、耐擦傷性等が要求される印刷物について、例えば食品、薬品、化粧品などのパッケージに使用される化粧箱、紙器、ラベル、カタログ、ショッピングバッグ、書籍の表紙、ポスターなどの印刷物においては、多くの場合、印刷面にコーターで印刷用ニスを塗布して表面皮膜を形成させる。
【0003】
そして、酒類充填工程を順に述べれば、空瓶洗浄、瓶の割れや異物の確認の為の空瓶検査、後酒充填・密閉殺菌目的の為60〜70℃の加温・冷却直後にラベル貼りとなる事から、そのラベルは耐熱性を要求される。そこで従来から酒ラベル用には、優れた耐熱性を示す溶剤系硝化綿型オーバープリントニスが用いられる事が一般的である。
【0004】
また、水性オーバープリントニスは、溶剤系オーバープリントニスと比較すると、耐熱性に劣る傾向にあり、特に高温充填酒用ラベルのトップコートニスに用いることが困難であるという課題を有していた。耐熱性に対応して特定の平均粒子径のコロイダルシリカとエチレン性不飽和化合物を乳化重合させた水性コーティング組成物に関するものが開示されているが、その耐熱性は十分とは言えない(例えば、特許文献1:特開平11−1893)。高温充填酒用ラベルのトップコートニス向け水性コーティング組成物として、充分な耐熱性と、充填ライン工程や物流時の運搬によるラベルの擦れに耐える耐摩擦性、滑り性や、ラベルの見栄え、意匠性に影響する光沢を兼備した水性コーティング剤の改良・改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−1893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高い光沢、耐熱性を有し、耐摩耗性と滑り性を兼備した水性コーティング剤を提供することにある。更には、該水性コーティング剤を用いた印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、スチレン−アクリル樹脂共重合体と特定のポリオレフィンワックスを含有する事で、前記課題解決に繋がる水性コーティング剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明はスチレン−アクリル樹脂共重合体(A)、及びフッ素樹脂をコーティングした合成ワックス(B)を含有する事を特徴とする水性コーティング剤に関する。
【0009】
更に、本発明は、前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである水性コーティング剤に関する。
【0010】
更に、本発明は、前記合成ワックス(B)が、粒子径3〜7μm、軟化点300〜350℃である水性コーティング剤に関する。
【0011】
更に、本発明は、前記合成ワックス(B)を組成物全量の0.1〜3質量%含有する水性コーティング剤に関する。
【0012】
更に、本発明は、造膜助剤(C)としてセルソルブ系溶剤を含有する水性コーティング剤に関する。
【0013】
更に、本発明は、セルソルブ系溶剤が、ブチルセロソルブ及び/又はブチルセロソルブアセテートである水性コーティング剤に関する。
【0014】
更に、本発明は、該水性コーティング剤を塗布してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水性コーティング剤により、高い光沢、耐熱性を有し、耐摩耗性と滑り性を兼備した水性コーティング剤を提供することが出来る。更には、該水性コーティング剤を用いた印刷物を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の、水性コーティング剤は、スチレン−アクリル樹脂共重合体(A)、及びポリオレフィンワックスにフッ素樹脂をコーティングした合成ワックス(B)を含有する事で、目的とする本発明の効果を奏するものである。
【0017】
本発明の水性コーティング剤で使用するスチレン−アクリル樹脂共重合体(A)としては、(メタ)アクリル単量体とスチレンとを重合して得られるものを使用することができる。
そして、前記スチレン−アクリル樹脂共重合体(A)は、重合性不飽和二重結合を有する単量体を、例えば溶液重合法や懸濁重合法等により重合することによって製造することができる。 前記重合性不飽和二重結合を有する単量体としては、例えばスチレン、α−スチレン、β−スチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−ブチルスチレン、α−ヘキシルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ニトロスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、メチルカルビトール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)カルビトールアクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を使用することができる。
中でも、スチレン、α−メチルスチレン、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、これらを組み合わせて使用してもよい。
尚、本発明において、「(メタ)アクリル単量体」とは、アクリル単量体及びメタクリル単量体」の一方または両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの一方または両方をいう。
【0018】
そして、前記スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)は、その水溶液若しくはエマルション、またはそれらの混合物を用いることができる。水溶液の場合は、その酸価が100〜250mgKOH/g、ガラス転移温度が−10〜150℃であることが好ましい。
酸価が100mgKOH/g以上であれば分散性は保持される傾向にあり、酸価が250mgKOH/g以下であれば、分散性が保持される傾向にある。また、ガラス転移温度が−10℃以上であれば耐熱性が保持される傾向にあり、ガラス転移温度が150℃以下であれば、造膜性が保持される傾向にある。
エマルションの場合は、その酸価が40〜200mgKOH/g、ガラス転移温度が−10〜150℃が好ましい。酸価が40mgKOH/g以上であれば分散性は保持される傾向にあり、酸価が200mgKOH/g以下であれば、分散性が保持される傾向にある。また、ガラス転移温度が−10℃以上であれば耐熱性は保持される傾向にあり、ガラス転移温度が150℃以下であれば、造膜性が保持される傾向にある。
水溶液とエマルションとの混合物を用いる場合は、スチレン・アクリル樹脂のガラス転移温度は−10〜120℃が好ましい。ガラス転移温度が−10℃以上であれば耐熱性は保持される傾向にあり、スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量は不揮発分で3〜30質量%の範囲であり、ガラス転移温度が120℃以下であれば、造膜性が保持される傾向にある。
尚、本発明の水性コーティング剤中のスチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量は、コーティング剤全量に対して3〜30質量%の範囲である事が好ましい。
前記スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量が不揮発分で3質量%以上であれば、分散性は保持される傾向にあり、前記スチレン・アクリル樹脂共重合体(A)の含有量が不揮発分で30質量%以下であれば、耐熱性、耐摩擦性は保持される傾向にある。
【0019】
本発明の水性コーティング剤で使用するポリオレフィンワックスは、フッ素樹脂をコーティングした合成ワックス(B)である事を必須とする。
前記ポリオレフィンワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが挙げられ、表明にフッ素樹脂がコーティングされていればどちらでも好適である。
前記フッ素樹脂としては、主鎖に炭素鎖を有し、側鎖にフッ素原子の結合を有する重合体または共重合体である。具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル−フルオロオレフィン共重合体、エチレン−トリクロロフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。中でも好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。ポリオレフィンワックス表面にポリテトラフルオロエチレンをコーティングする事で、耐熱性が向上する。
【0020】
前記合成ワックス(B)の平均粒子径としては3〜7μmの範囲が好ましく、且つ軟化点300〜350℃である事が好ましい。平均粒子径が3μm以上であれば耐摩擦性が保持され、7μm以下であれば分散性が保持される傾向にある。また軟化点は300℃以上であれば耐熱性が保持される傾向にある。
【0021】
前記合成ワックス(B)の添加量としては、コーティング剤全量の0.1〜3質量%の範囲である事が好ましい。添加量がコーティング剤全量の0.1質量%以上であれば耐熱性を保持しつつ耐摩耗性と滑り性を兼備する事が出来る。また、添加量がコーティング剤全量の3量%以下あれば、分散安定性を保持する事ができる。
【0022】
更に、本発明の水性コーティング剤では、造膜助剤(C)としてセルソルブ系溶剤を添加してもよい。前記セルソルブ系溶剤としては、メチルセルソルブ、エテルセルソルブ、プロピルセルソルブ、プチルセルソルブ、ブチルセロソルブアセテート等が挙げられる。中でも、造膜性の点でブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテートが好ましく、これら各々単独で使用しても混合して使用しもよい。
【0023】
更に、本発明の水性コーティング剤では、乾燥性調整の為に水単独または水と混和する有機溶剤を使用することができる。前記有機溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等のアルコール類やプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチルカルビトール等のエーテル類等がある。
中でも、メタノール、イソプロピルアルコール等が乾燥性を調整し易い点から好ましい。アルコール系溶剤の添加量としては水性コーティング剤全量の1質量%〜4質量%が好ましい。
【0024】
本発明の水性コーティング剤の一般的な使用粘度は、25℃にて10〜30秒(離合社製 ザーンカップ#4使用時)であり、15〜20秒がより好ましい。ミリパスカル秒で示すと、25℃にて70(mPa・s)〜300(mPa・s)の範囲である。粘度が低い場合は増粘剤を添加して粘度を上げることができる。
【0025】
本発明の水性コーティング剤を製造するには、まず前記スチレン・アクリル樹脂溶液(水溶液及び又はエマルション)を撹拌機により分散混合し、撹拌を続けながらポリオレフィンワックスにフッ素樹脂をコーティングした合成ワックス(B)を添加する。 次に必要に応じて造膜助剤、アルコール系溶剤、界面活性剤およびその他助剤を添加し、ミキサー等で撹拌して溶解、混合する。
【0026】
本発明の水性コーティング剤で使用する印刷基材としては特に限定は無いが、例えばカタログ、ポスター、チラシ、CDジャケット、ダイレクトメール、パンフレット、化粧品や飲料、医薬品、おもちゃ、機器等のパッケージ等の印刷に用いられる上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、各種合成紙等を使用する事ができる。
またポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、その他従来から印刷基材として使用されている各種フィルム基材に対し使用しても特に問題はない。
中でも、本発明の水性コーティング剤は、食品、薬品、化粧品などのパッケージに使用される化粧箱、紙器、ラベル、カタログ、ショッピングバッグ、書籍の表紙、ポスターなどの高光沢、耐熱性、耐擦傷性等が要求される印刷物のトップコートニス用途向け水性コーティング剤として有用である。特に耐熱性、耐擦傷性に優れる事から、前記高温充填処理直後のラベル貼りを要し、充填ライン工程や物流時の運搬によるラベルの擦れに対する耐性を要する瓶ラベル用トップコートニスの為の水性コーティング剤としてさらに好適である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
尚、合成ワックスの平均粒子径は日立製作所製操作型電子顕微鏡S−3400Nを用いて測定した度数分布の状況から算出した。
また、軟化点については、環球法(「JIS K7234−86」に準拠、昇温速度が5℃/分)にて測定を行った。
ガラス転移温度(Tg)の測定は、示差雰囲気下、冷却装置を用い温度範囲−80〜450℃、昇温温度10℃/分の条件下、DMA法で実施した。
【0028】
また、本実施例において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)を用い、下記の条件により測定した値である。
【0029】
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC−8220
カラム ; 東ソー株式会社製ガードカラムHXL−H
+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製 SC−8010
測定条件: カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ;ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0030】
(水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A1の作製)
下記原料X1、X2を用いて下記に示す質量比でミキサーにて十分混合し、水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体を作製した。
〔原料X1〕
アクリル酸/αメチルスチレン/スチレン/エチルカルビトールアクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート(質量比率:12.8/20.4/33.6/1.2/32)から成る共重合エマルション(不揮発分44%、酸価100mgKOH/g、ガラス転移温度16℃)
〔原料X2〕
アクリル酸/スチレン/αメチルスチレン/エチルカルビトールアクリレート(質量比率:27.1/11.8/54.3/6.8)から成る共重合水溶性樹脂溶液(不揮発分33%、酸価195mgKOH/g、ガラス転移温度113℃、重量平均分子量8000)
前記原料X1を50部、原料X2を10部、及び水40部の質量比率で混合し、水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A1を作製した。
【0031】
(水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2の作製)
次いで、前記水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A1を84部、シリコーン系消泡剤を1部、造膜助剤ブチルセロソルブアセテートを3部、メタノール2部、及び水10部の合計100部をミキサーにて十分混合し、水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2を作製した。
【0032】
(実施例1:水性コーティング剤組成物(1)の調製)
前記水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2 97.5質量部、ポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたポリエチレンワックスであるセレタンMFX9510D(ミュンツイング・マイクロ・テクノロジー社製、平均粒子径6μm、軟化点330℃)2.5質量部を加え、ミキサー(単軸ディゾルバー)を用いて撹拌し、水性コーティング剤(1)を得た。
【0033】
(実施例2及び3)
表1に記載の配合にてセレタンMFX9510Dを用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(2)、(3)を得た。
【0034】
(比較例1)
前記水性スチレン−アクリル樹脂共重合体分散体A2のみを用い、ワックスを無添加としたものを水性コーティング剤(H1)とした。
【0035】
(比較例2)
実施例1のセレタンMFX9510Dの代わりに、ポリテトラフルオロエチレンの粒子からなるSST−3D(シャムロック・テクノロジーInc.社製、平均粒子径5μm、軟化点321℃)2.5質量部を用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(H2)を得た。
【0036】
(比較例3)
実施例1のセレタンMFX9510Dの代わりに、ポリエチレン粒子で表面未処理のケミパールW300(三井化学(株)社製、平均粒子径3μm、軟化点132℃)2.5質量部を用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(H3)を得た。
【0037】
(比較例4)
実施例1のセレタンMFX9510Dの代わりに、ポリエチレン粒子で表面未処理のミペロンPM200(三井化学(株)社製、平均粒子径10μm、軟化点136℃)2.5質量部を用いて実施例1と同様の手順にて攪拌し、水性コーティング剤(H3)を得た。
【0038】
(評価用のコーティング加工物の作製)
上記の実施例及び比較例で得られた水性コーティング剤を、予め酸化重合乾燥型のオフセットインキで絵柄を印刷したコート紙(王子製紙社製 銘柄:OK金藤両面アート紙 厚さ89μm、米坪104.7g/m)に、バーコーター#6にて塗布し、乾燥機にて設定温度80℃/10秒間乾燥した後、25℃で1日放置し、評価用のコーティング加工物を得た。得られたコーティング加工物を用いて、以下に示す評価試験方法に従って評価を行った。
【0039】
(耐熱性)
コーティング加工物の塗膜面同士を併せて、裏面からヒートシールテスターで、温度130℃、圧力98kPa、30秒で熱圧する。その後、手で塗膜面同士を剥離し、以下の評価基準にしたがって目視評価する。

○:容易に剥離し、全く紙剥れが見られない。
△:全体の約25%の面で紙剥れが見られた。
×:剥離しにくく、ほぼ全面で紙剥れが見られた。
【0040】
(光沢)
コーティング加工物表面の光沢値を、日本電色製グロスメーター(60°/60°)で測定した。
数値が大きい程、光沢度が高い。光沢値は30以上であれば、実用上問題ない。
【0041】
(耐摩擦性)
前記コーティング加工物を2.5×25cmに断裁してテストピースとし、学振型摩擦試験機(大栄科学精器製作所製)を使用して、あて紙として上質紙を印刷物のニス塗工面に当てて、500g荷重にて500回ずつ摩擦し、あて紙の損傷度合を以下の評価基準に従って目視評価する。

○:当紙が全く損傷しなかった。
△:当紙に全体の25%以下の損傷が認められた。
×:当紙に全体の50%以上の損傷が認められた。
【0042】
(滑り性)
コーティング加工物同士を重ね合わせ、東洋精機製スリップテスターにて反復して5回滑らせ、静摩擦係数の平均値を測定する。数値が大きい程、滑り性が低く、数値が低い程、滑り性が高い傾向を示す。0.08〜0.20であれば実用上問題はない。
【0043】
(貯蔵安定性)
100mlガラス瓶に試料を入れ、25℃にて3ヶ月間保存し、貯蔵安定性を以下の評価基準に従って目視評価する。

○:内容物に増粘がみられず、正常な状態。
△:内容物に増粘損傷が認められた。
×:内容物が顕著に増粘し、流動性なし。
【0044】
以下に、本発明の水性コーティング剤の各評価結果を示す。
【0045】
【表1】


表1の数値は質量%である。各表に示す諸原料及び略を以下に示す。
・セレタンMFX 9510D:ポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたポリエチレンワックス、平均粒子径6μm、軟化点330℃、ミュンツイング・マイクロ・テクノロジー社製
・SST−3D:ポリテトラフルオロエチレン粉末、平均粒子径5μm、軟化点321℃、シャムロック・テクノロジーInc.社製
・ケミパール W300:表面未処理のポリエチレン粒子、平均粒子径3μm、軟化点132℃、三井化学(株)社製
・ミペロン PM200:表面未処理のポリエチレン粒子、平均粒子径10μm、軟化点136℃、三井化学(株)社製
【0046】
実施例に記載のポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたポリエチレンワックスを添加した水性コーティング剤を塗工した塗工物では、高い光沢、耐熱性を有し、耐摩耗性、滑り性を兼備し、貯蔵安定性にも優れる結果となった。