【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、ガス/空気混合気に点火するための点火チャンバと、点火チャンバをシリンダの主燃焼チャンバに連結するためのダクトとを有する、ガス−空気混合気に点火するための内燃機関のシリンダ用のプレチャンバによって達成される。ただ1つのダクトが存在することが好ましい。
【0014】
プレチャンバは、一体化され好ましくは自立した冷却アセンブリを備えるハウジングを有する。
【0015】
「自立した(Autarkic)」とは、冷却がシリンダとは独立していることを意味する。したがって、プレチャンバがシリンダから取り外された場合、又はシリンダに完全に組み付けられていない場合でも、依然として冷却が可能である。例えば、冷却流体とシリンダの一部との間にはいかなる接触もなしに、冷却流体空隙だけでなく冷却アセンブリと冷却流体供給源との間にも流体連結部を直接確立することができる。冷却アセンブリは、シリンダに対して閉じられていることが好ましい。
【0016】
好ましい一実施例では、ハウジングは、少なくとも1つの冷却チャネルを有する。チャネルの直径は、局所肉厚(local wall thickness)の0.2〜0.8倍であることが好ましい。
【0017】
水又は油を、冷却流体として使用することができる。
【0018】
複数の冷却チャネルがハウジングに配置されてもよい。冷却チャネルは、冷却流体、特に水などの冷却液が通過するのに適している。
【0019】
少なくとも1つの冷却チャネルは、冷却流体供給源へと流体連結するための入口と、冷却流体シンクへと流体連結するための出口とを有する。冷却流体供給源及び冷却流体シンクは、同じ冷却流体槽によって確立されてもよい。プレチャンバは、ただ1つの冷却流体入口及びただ1つの冷却流体出口を有することが好ましい。
【0020】
プレチャンバの、ダクトを有する部分は、通常はプレチャンバの下方部と呼ばれる。プレチャンバが組み立てられたとき、プレチャンバの下方部は、シリンダのカバー又はライナーに位置決めされる。下方部とは逆の方に向いた部分は、プレチャンバの上方部と呼ばれる。通常は、上方部の少なくとも一部はシリンダのカバー又はライナーから突出する。冷却流体入口及び冷却流体出口は、プレチャンバの、ダクトが配置されている部分とは逆の方に向いた、プレチャンバの上方部に配置されることが好ましい。
【0021】
好ましくは、冷却流体入口及び冷却流体出口は、二体式プレチャンバの上方部に配置される。
【0022】
少なくとも1つの冷却チャネルは、二体式プレチャンバの上方部のみに配置されてもよい。好ましくは、冷却チャネルは、二体式プレチャンバの上方部及び下方部に配置される。
【0023】
したがって、冷却流体は、シリンダのいかなる部分も通る、又は伝うことなく、プレチャンバに直接供給され得る。
【0024】
プレチャンバ、特に、少なくともプレチャンバの下方部は、3Dプリンティング法によって形成されてもよく、粉末冶金法によって形成されてもよい。プレチャンバは、KFS99又はNiCr50などのニッケルをベースとした材料から製作することができる。
【0025】
有利な一実施例では、プレチャンバのハウジングは、内側ハウジングと、冷却流体を内側ハウジングの近くに保持するためのケーシングとを有する。
【0026】
ケーシングは、金属板(メタルシート)で製作されることが好ましい。ケーシングは、耐食合金、Co−Cr合金、又はNimonic80A若しくはNICR50のようなNI−Cr合金で製作することができる。使用される材料は、EP227572B1に開示されているような合金でもよい。
【0027】
冷却チャネルは、内側ハウジングとケーシングの間に位置付けられてもよい。例えば、内側ハウジングとケーシングの間の空間に管が配置されてもよい。別法として、ハウジングとケーシングの間の空間が冷却剤によって辿られてもよい。
【0028】
本発明の目的は、燃焼シリンダと上述のようなプレチャンバとを有するシリンダ・デバイスによっても達成される。
【0029】
好ましくは、シリンダ・デバイスは、大型舶用エンジンに使用することができる。本発明による大型舶用エンジンは、シリンダの内径が少なくとも100mm、好ましくは200mmの内燃機関である。
【0030】
エンジンは、2ストロークのクロス・ヘッド型エンジンであることが好ましい。エンジンは、ディーゼル・エンジンでもよく、デュアル・フューエル・エンジンでもよい。
【0031】
本発明の目的は、燃焼シリンダと、ガス/空気混合気に点火するためのプレチャンバとを有する、好ましくは大型舶用エンジン向けの、好ましくは上述のようなシリンダ・デバイスによっても達成される。
【0032】
本発明によれば、プレチャンバ、好ましくはプレチャンバの下方部と、燃焼シリンダ、好ましくは燃焼シリンダのカバー及び/又はライナーとの間には、プレチャンバと燃焼シリンダの間の直接的な熱伝達を可能にする連結部が存在する。
【0033】
したがって、プレチャンバのハウジング及び/又はケーシングからシリンダのカバー及び/又はライナーへと、直接的に熱を伝達することができる。
【0034】
さらに、一体化された冷却システムにより、プレチャンバから熱を取り去ることができる。
【0035】
シリンダは、冷却システム、例えばライナー及び/又はカバーに配置された、熱の除去を促進する冷却チャネルを有することができる。
【0036】
プレチャンバと燃焼シリンダの間には、圧入連結部が存在することが好ましい。
【0037】
好ましくは、プレチャンバと燃焼シリンダの間の接触面は、主として環状のシリンダとして形成され、半径と長さの比は0.5〜2、とりわけ1である。
【0038】
したがって、接触面は、適当な熱伝達を可能にするのに十分に大きい面積を有する。
【0039】
少なくとも、プレチャンバの下方部、並びにシリンダのライナー及び/又はカバーは、金属を含むか又は金属で製作される。したがって、特に熱勾配が存在する場合、熱は接触区域へと、また接触区域から離れるように伝達される。プレチャンバからシリンダへの熱伝達を促進する熱勾配は、例えばシリンダの冷却システムの冷却剤によって実現されてもよい。
【0040】
シリンダ・デバイスの有益な一実施例では、プレチャンバは、点火チャンバ長手軸線を有する、ガス−空気混合気に点火するための点火チャンバと、点火チャンバをシリンダの主燃焼チャンバに連結するためのダクトとを有する。
【0041】
ダクトは、二体式プレチャンバの下方部に配置されることが好ましい。
【0042】
好ましくは、プレチャンバの上方部のハウジングの少なくとも一部は、円筒形の形状を有する。通常、点火チャンバ長手軸線は、各円筒軸線に平行である。
【0043】
ダクトは、点火チャンバに通じるダクトの入口開口を備えた、第1のダクト部分を有する。第1のダクト部分は、第1の長手軸線を有する。
【0044】
点火チャンバ長手軸線は、第1の長手軸線に対して傾斜している。
【0045】
入口開口は、点火チャンバにおいてタンブル流動を形成することができるように偏心して配置される。入口開口のエッジは、ソフト・エッジとして設計されることが好ましい。
【0046】
本出願の文脈では、ソフト・エッジという用語は、2つの表面、例えば入口開口の表面と点火チャンバの表面が、表面が連続的に変化し得ないエッジなしで互いに融合することを意味する。
【0047】
ダクトは、ガス−空気混合気のビームを形成できるように配置された、好ましくはただ1つの出口開口を有する。
【0048】
ダクトは、第1の長手軸線及び点火チャンバ長手軸線に対して傾斜した第2の長手軸線を有する第2のダクト部分を有する。
【0049】
こうした構成により、ガス及び空気の分散が最適化され、したがってプレチャンバ及びシリンダの主燃焼チャンバでの点火が最適化される。さらに、プレチャンバの耐用期間が延びる。
【0050】
さらなる態様によれば、本発明の目的は、燃焼シリンダと、ガス/空気混合気に点火するためのただ1つのプレチャンバとを有する、好ましくは大型舶用エンジン向けの、好ましくは上述のようなシリンダ・デバイスによって達成される。
【0051】
プレチャンバは、点火チャンバ長手軸線を有する、ガス−空気混合気に点火するための点火チャンバと、点火チャンバを燃焼シリンダの主燃焼チャンバに連結するためのダクトとを有する。
【0052】
ダクトは、点火チャンバに通じるダクトの入口開口を備えた第1のダクト部分を有する。
【0053】
第1のダクト部分は第1の長手軸線を有する。点火チャンバ長手軸線は、この第1の長手軸線に対して傾斜している。
【0054】
入口開口は、点火チャンバにおいてタンブル流動を形成することができるように偏心して配置される。
【0055】
入口開口のエッジは、ソフト・エッジとして設計される。
【0056】
ダクトは、ガス−空気混合気のビームを形成することができるように配置された、ただ1つの出口開口を有する。
【0057】
ダクトは、第1の長手軸線及び点火チャンバ長手軸線に対して傾斜した第2の長手軸線を有する第2のダクト部分を有する。
【0058】
好ましい一実施例では、プレチャンバは、好ましくはシリンダ・ライナーの内径の近くで、好ましくはシリンダ・カバー内のシリンダ・ライナーの内径の近くで、燃焼シリンダの主軸線に対して偏心して配置される。
【0059】
本発明においては、シリンダ・ライナーの内径の近くとは、プレチャンバが、シリンダ・デバイスのシリンダ軸線よりもシリンダ・ライナーの内径に近いところに配置されることを意味する。
【0060】
この構成により、ガス−空気混合気は、燃焼チャンバの主軸線に対して非対称に主燃焼チャンバへと流れ込むことになる。
【0061】
ダクトの出口開口は、シリンダの主軸線に向かって方向付けられていない主流出方向を提供することが好ましい。
【0062】
内燃機関は、通常、シリンダ内に配置された少なくとも1つのピストンを有する。ピストンは、クランクシャフトに連結されたピストン・ロッドによって駆動される。クランクシャフトの回転の度合いを利用して、シリンダ内部のピストンの位置が示される。ピストン及びシリンダにより、可変の主燃焼チャンバ及び可変の第2のチャンバが画定される。通常、ピストンはシリンダ内で上下に動き、したがってシリンダを上方空間と下方空間に分割する。前記上方空間により燃焼チャンバが画定され、前記下方空間により第2のチャンバが画定される。前記チャンバのサイズは、ピストンの実際の位置に依存する。
【0063】
第2のチャンバは流体連結可能であり、特に、圧縮空気流を第2のチャンバへと投入する少なくとも1つの入口開口を介して、ターボ過給機の圧縮機側に連結される。さらに、主燃焼チャンバは連結可能であり、特に、シリンダの排気開口を介してターボ過給機のタービン側に連結される。また、主燃焼チャンバは連結可能であり、特に、ピストンがその下死点(BDC:lower dead center)にあるとき、シリンダの下端部の入口開口を介してターボ過給機の前記圧縮機側に連結される。
【0064】
プレチャンバから燃焼チャンバへと流れ込むガス−空気混合気は、燃焼チャンバ内のガス−空気混合気と混ざる。接線方向に流入することにより、燃焼チャンバ内で環状の流れが促進又は生成される。こうした設計により、点火されたガス−空気混合気を主燃焼チャンバへと最適に分散させることが可能になる。
【0065】
プレチャンバは、上述のような冷却システムを備えるプレチャンバであることが好ましい。
【0066】
第2のダクト部分は、円筒形部分を有してもよく、出口開口に向かって先細にされてもよい。第2のダクト部分の内側開口面積も出口開口に向かって縮小されてもよく、それにより、第2のダクト部分は、流れ出るガス−空気混合気を加速させるノズルを形成する。ガス−空気混合気は、主燃焼チャンバ内のより遠くに投入される。
【0067】
点火チャンバの容積と出口開口の断面積の比は、200mm〜1000mmでもよい。
【0068】
容積のこうした比により、シリンダ・デバイスの燃焼チャンバへと至るガス−空気混合気の流れ及び流速が最適化される。
【0069】
点火チャンバの容積は、ダクトの容積を除いたプレチャンバの容積に対応する。
【0070】
第1の長手軸線は、点火チャンバ長手軸線に対して実質的に0.1°〜80°、好ましくは点火チャンバ長手軸線に対して10°〜45°、最も好ましくは16°〜30°の角度で構成することができる。
【0071】
第2の長手軸線は、点火チャンバ長手軸線に対して実質的に0.2°〜90°、好ましくは点火チャンバ長手軸線に対して20°〜80°、最も好ましくは45°〜66°の角度で構成することができる。
【0072】
第2のダクト部分は、シリンダの主軸線に対して実質的に0.1°〜90°、好ましくは40°〜85°、より好ましくは70°〜80°の角度で構成することができる。
【0073】
こうしたダクトにより、ガス−空気混合気が燃焼チャンバ内で最適な形で非対称に分散される。
【0074】
有利な一実施例では、ダクトは湾曲部分を有する。湾曲部分の曲率半径は、点火チャンバ長手軸線に対して垂直な点火チャンバ最大断面の2分の1倍から点火チャンバ長手軸線に対して垂直な点火チャンバ最大断面の2倍までの範囲であることが好ましい。
【0075】
こうしたダクトでは流れが最適化され、流速が最適になる。
【0076】
少なくともプレチャンバの下方部は、鋳造、精密鋳造、3Dプリンティング法、又は粉末冶金法によって生産されることが好ましい。
【0077】
好ましい実施例では、プレチャンバは、ガス−空気混合気に点火するための点火手段、好ましくは点火チャンバへと延在する点火プラグを有する。
【0078】
点火手段により、プレチャンバのガス−空気混合気が点火され、これにより、燃焼安定性が向上した効率的な燃焼が生じる。
【0079】
プレチャンバは、燃料をプレチャンバに供給することができる燃料供給器を有してもよい。自己着火を用いる場合、燃料供給器は点火手段の代替となる。
【0080】
プレチャンバの上方部のハウジングは、点火手段又は燃料供給器を挿入するための開口を有してもよい。開口は円筒形部分を有してもよく、各円筒軸線は、点火チャンバの長手軸線に対して平行になる。
【0081】
プレチャンバは、上部分と、点火チャンバ長手軸線に対して非対称に設計された下方部とを有することができる。上部分と下方部はプレチャンバの別々の部分として独立して製造され、組み立てられてプレチャンバを形成することが好ましい。
【0082】
プレチャンバは、シリンダ・カバー及び/又はシリンダ・ライナーに配置することができる。
【0083】
プレチャンバは、シリンダ・カバー及び/又はシリンダ・ライナーに接触することが好ましい。
【0084】
シリンダ・デバイスの有益な一実施例では、プレチャンバの容積と燃焼シリンダの圧縮容積の比は、0.2〜1%、好ましくは0.25〜0.8%である。
【0085】
圧縮容積は、ピストンがその上死点(TDC:top dead center)にあるときの、燃焼チャンバの最小容積である。
【0086】
このように、ガス−空気混合気が流入することによって燃焼チャンバ内でガス流を効果的に混ぜることが可能になるので、シリンダ・デバイスが1つのプレチャンバしか有しないときでも、プレチャンバの容積はこのように小さくてもよい。
【0087】
好ましい一実施例では、燃焼シリンダは、シリンダ・カバーに配置された中央出口弁を有する。中央出口弁はシリンダ・カバーの中央の位置を占めるので、プレチャンバの出口は、主シリンダ軸線に対して非対称に配置されなければならない。
【0088】
プレチャンバの出口と中央出口弁との間の距離は、出口弁とライナーの間の距離の0%〜105%であることが好ましい。
【0089】
プレチャンバの出口は、中央出口弁の近くのシリンダ・カバーに配置されてもよい。
【0090】
プレチャンバの出口が燃焼チャンバに流体連結したライナー開口へとガス−空気混合気を排出するように、シリンダ・ライナーにプレチャンバの出口を配置してもよい。したがって、プレチャンバの出口と中央出口弁との間の距離は、シリンダ・ライナーと出口弁の間の距離よりも長くなる。
【0091】
本発明の別の態様によれば、好ましくは上述のようなプレチャンバから、好ましくは上述のようなシリンダ・デバイス内の内燃機関の燃焼チャンバへとガス−空気混合気を供給する方法が提供される。
【0092】
ガス−空気混合気は、プレチャンバのダクトの出口から燃焼チャンバへと案内される。ガス−空気混合気は、環状の流れで燃焼シリンダの主軸線の周りを流れ、ターボ過給機から燃焼チャンバに投入された空気と混ざる。
【0093】
以下では、各図を用いて、複数の実施例において本発明をさらに説明する。