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特開2020-38656制御器更新装置及び制御器更新プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-38656(P2020-38656A)
(43)【公開日】2020年3月12日
(54)【発明の名称】制御器更新装置及び制御器更新プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20200214BHJP
【FI】
   G05B13/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-159613(P2019-159613)
(22)【出願日】2019年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2018-165184(P2018-165184)
(32)【優先日】2018年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】金子 修
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA30
5H004GB15
5H004HA07
5H004HB07
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB06
5H004KB08
5H004KB09
5H004KC48
5H004KC50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】閉ループ系に含まれる初期状態の初期制御器を簡易な手法により更新後制御器に更新する。
【解決手段】制御器更新装置10は、初期応答取得部11、推定応答算出部12、制御器更新部13を備える。初期応答取得部11は、制御対象101及び初期制御器を含む初期閉ループ系の応答を初期応答として取得する。推定応答算出部12は、初期制御器の伝達関数と、更新後制御器の伝達関数と、制御対象及び更新後制御器を含む更新後閉ループ系の目標伝達関数を含むフィルタとして、初期応答から推定応答を算出する。制御器更新部13は、推定応答算出部12で算出された推定応答と、更新後閉ループ系の目標応答との差を示す評価関数に基づいて、初期制御器を更新後制御器に更新する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象及び初期制御器を含む初期閉ループ系の応答を初期応答として取得する初期応答取得部と、
前記初期制御器の伝達関数と、更新後制御器の伝達関数と、更新後閉ループ系の目標伝達関数を含むフィルタを、前記初期応答取得部で取得される前記初期応答に適用することにより得られる応答を推定応答として算出する推定応答算出部と、
前記推定応答算出部で算出される前記推定応答と、前記更新後閉ループ系の目標応答との差を示す評価関数に基づいて、前記初期制御器を前記更新後制御器に更新する制御器更新部と、
を備える制御器更新装置。
【請求項2】
前記推定応答算出部で算出される前記推定応答と、前記更新後閉ループ系の目標応答との差を示す評価関数は、式(1)又は式(2)で表される
請求項1に記載の制御器更新装置。

・・・・(1)


・・・・(2)

但し、J(ρ):評価関数、y :更新後閉ループ系の目標応答、T:更新後閉ループ系の目標伝達関数、C :初期制御器の伝達関数、C(ρ):更新後制御器の伝達関数、Cd:制約式 T=GC/(1+GC)を満たす理想制御器の伝達関数、y:初期閉ループ系の初期応答、r:制御量の希望値、ρ:パラメータ
【請求項3】
前記制御器更新部により行われる前記初期制御器から前記更新後制御器への更新は、前記初期制御器の要素及び要素同士の接続関係を保持しつつ、前記更新後制御器の伝達関数のパラメータを調整することにより行われる、
請求項1又は請求項2に記載の制御器更新装置。
【請求項4】
前記更新後制御器の要素及び要素同士の接続関係を設定する更新後制御器設定部をさらに備え、
前記制御器更新部により行われる前記初期制御器から前記更新後制御器への更新は、前記更新後制御器設定部により前記初期制御器の要素及び要素同士の接続関係が設定された前記更新後制御器の伝達関数のパラメータを更新することにより行われる、
請求項1又は請求項2に記載の制御器更新装置。
【請求項5】
前記更新後制御器設定部は、前記更新後閉ループ系をI‐PD制御器又はPI‐D制御器に帰着させることにより、前記更新後制御器の要素及び要素同士の接続関係を設定し、
前記制御器更新部は、設定された前記I‐PD制御器又は前記PI‐D制御器を考慮した前記評価関数に基づいて、前記更新後制御器の伝達関数のパラメータを更新する、
請求項4に記載の制御器更新装置。
【請求項6】
前記更新後制御器設定部は、前記更新後閉ループ系を内部モデル制御器に帰着させることにより、前記更新後制御器の要素及び要素同士の接続関係を設定し、
前記制御器更新部は、設定された前記内部モデル制御器を考慮した評価関数に基づいて、前記更新後制御器の伝達関数のパラメータを更新する、
請求項4に記載の制御器更新装置。
【請求項7】
コンピュータに、
制御対象及び初期制御器を含む初期閉ループ系の応答を初期応答として取得する初期応答取得機能と、
前記初期制御器の伝達関数と、更新後制御器の伝達関数と、更新後閉ループ系の目標伝達関数を含むフィルタを、前記初期応答に適用することにより得られる応答を推定応答として算出する推定応答算出機能と、
前記推定応答と、前記更新後閉ループ系の目標応答との差を示す評価関数に基づいて、前記初期制御器を前記更新後制御器に更新する制御器更新機能と、
を実現させるための制御器更新プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御器更新装置及び制御器更新プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、実稼働データを直接的に用いて制御系を設計、更新するデータ駆動制御の研究が盛んに行われている。これは、センシング技術の向上により様々な可動データが集まり、これらの膨大なデータを如何に有効活用するかが、社会のニーズになっているからである。したがって、実応用の観点から制御器チューニングに対するニーズは極めて高くなっている。
【0003】
例えば、稼働状況にある制御器の保守点検のために制御パラメータを再チューニングする場合や、製造プロセスにおいて、使う材料や扱う製品が変更した場合などに、おのおのの特性に合わせて制御器をチューニングしなければならない場合がある。このような場合には、制御目的と状況に照らし合わせながら、制御対象の動特性を表す数式モデルを求めることが、最も理想的なアプローチとなる。これらの技術は、例えば、工場で生産される製品の仕様が変更された場合や、工場で使用される制御器が新しい制御器と交換される場合などに利用される、産業上重要な技術である。
【0004】
このような背景から、データを直接用いることで、制御器のパラメータをチューニングするデータ駆動型制御器チューニングとよばれる手法がいくつか提案されている。
もっとも直接的かつ理想的な手法は、目的を表現した評価関数をそのまま最適化するIFT(Iterative Feedback Tuning)と呼ばれる手法である。
しかしながら、このIFTは、その非線形最適化におけるパラメータを更新する度に実験を必要とするため、時間とコストがかかるという問題があった。
【0005】
そこで、1組のデータのみを用いた制御器パラメータのチューニング法として、VRFT(Virtual Reference Feedback Tuning)やFRIT(Fictitious Reference Iterative Tuning)という手法が提案されている。この2つの手法の大きな違いは、VRFTでは、目標応答の伝達関数のマッチングを入力で評価するのに対し、FRITでは出力で評価する点である。
【0006】
発明者は、特にFRITアプローチを使って、1組のデータのみで所望のパラメータを与えること、そして外乱除去のためのチューニングと状態フィードバックゲインを更新する方法を提案した(非特許文献1参照)。
【0007】
また、発明者は、これらのデータ駆動制御の問題点の一つに、得られた制御器を実装したときの閉ループ系の応答を実装前に厳密に保証できないという問題があることに着目した。そして、これらの問題を解決する一つのアプローチとして、ERIT(Estimated Response Iterative Tuning)という手法を提案している(非特許文献2参照)。
このERITは、2自由度制御系のフィードフォワード部の更新に特化して、出力データのみを用いてデータ駆動型制御器を更新することにより、得られる閉ループ系の制御器更新後の応答を実装前に推定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】金子修:データ駆動型制御器チューニング−FRITアプローチ−計測と制御 第52巻 第10号(2013年10月号) pp-853-859、
【非特許文献2】中村,金子:目標応答を達成する二自由度制御器チューニングの新しいアプローチ―Estimated Response Iterative Tuning の提案―第61 回システム制御情報学会研究発表講演会,315-3 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したVRFT、FRIT及びERITには、それぞれ良い点もあるが、改善すべき点もある。例えば、VRFTは、理想フィルタにより初期実験特性に依存しない更新が可能であるが、一方で、計算を行うためにはデータからフィルタを作る必要がある。フィルタ性能と更新性能には依存関係があるので、フィルタの設計コストが高くなるという問題がある。さらに、理想的なフィルタを用いる場合、フィルタ設計にシステム同定と同等な作業を要するため、データ駆動制御の1回の更新性が崩れてしまうという問題も起こり得る。
【0010】
FRITは、過去の研究成果が多く、拡張も含めて実用例が多いという利点があるが、ほとんどの場合、更新計算に非線形最適化を必要とするため、計算コストが高く、かつ局所最適解への収束リスクも存在するという問題がある。さらに、現在数多く使用されているPID(Proportional Integral and Differential)制御器の更新計算にも同様に非線形最適化を必要とするので、実応用面の利便性に問題がある。
【0011】
これに対して、ERITは、後述する図2に示すような一般的なフィードバック系に対して使用できないという問題がある。すなわち、ERITが使用できるシステムは、実験結果が出力信号のみでよく、使用するデータ量を削減できる点で有利である。また、ERITは、応答性のみの更新になるので、閉ループの安定性が保証されている状況であれば、更新後の制御器の安定性も保証されるという利点がある。
しかしながら、これまでのERITは、2自由度系のフィードフォワード制御器の更新に限られており、1自由度系の制御器の更新には利用できないという問題があった。
【0012】
そこで、発明者らは、VRFT、FRIT及びERITのそれぞれの利点をうまく抽出したVIMT(Virtual Internal Model Tuning)という新たな手法を考案した。発明者らが提案するVIMT手法では、必要とする実験データはERITと同じ制御器からの出力データのみである。また、VIMTにおける評価関数の着目点は、ERITと同じ予測応答と目標応答であり、初期実験のデータ構造もERITと同じ閉ループである。さらに、VIMTでは、フィルタ設計が不要となり、PID制御器でも最小二乗法で解くことができる点で有利であるといえる。なお、VIMTという名称は、発明者らが命名したものである。
【0013】
本発明の目的は、VIMTという出力データに着目した手法を用いることで、目標応答への追従により応答性の向上を図り、閉ループ系に含まれる制御器を簡易かつ最適に更新することができる制御器更新装置及び制御器更新プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の制御器更新装置は、制御対象及び初期制御器を含む初期閉ループ系の応答を初期応答として取得する初期応答取得部と、初期制御器の伝達関数と、更新後制御器の伝達関数と、更新後閉ループ系の目標伝達関数を含むフィルタを、初期応答取得部で取得される初期応答に適用することにより得られる応答を推定応答として算出する推定応答算出部を備える。
また、本発明の制御器更新装置は、推定応答算出部で算出された推定応答と、更新後閉ループ系の目標応答との差を示す評価関数に基づいて、初期制御器を更新後制御器に更新する制御器更新部と、を備える。
【0015】
また、本発明は、以下の(a)〜(c)の機能をコンピュータで実現するための制御器更新プログラムである。
(a)制御対象及び初期制御器を含む初期閉ループ系の応答を初期応答として取得する初期応答取得機能、
(b)初期制御器の伝達関数と、更新後制御器の伝達関数と、更新後閉ループ系の目標伝達関数を含むフィルタを、初期応答取得機能により取得される初期応答に適用することにより得られる応答を推定応答として算出する推定応答算出機能、
(c)推定応答算出機能により算出される推定応答と、更新後閉ループ系の目標応答との差を示す評価関数に基づいて、初期制御器を更新後制御器に更新する制御器更新機能。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、閉ループ系に含まれる制御器を簡易かつ最適に更新することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一の実施形態に係る閉ループ系及び制御器更新装置の機能的な構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る閉ループ系の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る閉ループ系の構成例のうち、2自由度制御系に適用したブロック図である。
図4】本発明の第一の実施形態に係る閉ループ系の構成例の中の理想的な更新後の条件を加えたブロック図である。
図5】本発明の第一の実施形態に係る台車の位置決め制御系の例を示す図である。
図6】本発明の第一の実施形態に係る台車の位置決め制御系の目標応答及び制御器更新装置による更新の前後における台車の位置決め制御系の応答の例を示す図である。
図7】本発明の第一の実施形態に係る閉ループ系及び制御器更新装置が実行する処理例を示すフローチャートである。
図8】本発明の第二の実施形態に係る閉ループ系及び制御器更新装置の機能的な構成例を示すブロック図である。
図9】本発明の第二の実施形態に係る初期閉ループ系の構成例を示すブロック図である。
図10】本発明の第二の実施形態に係る更新後閉ループ系の構成例を示すブロック図である。
図11】本発明の第二の実施形態に係る初期閉ループ系の応答、更新後閉ループ系の応答及び目標応答の例を示す図である。
図12】本発明の第二の実施形態に係る閉ループ系の制御器更新装置が実行する処理例を示すフローチャートである。
図13】本発明の第三の実施形態に係る閉ループ系の更新後閉ループ系の構成例を示すブロック図である。
図14】本発明の第三の実施形態に係る初期閉ループ系の応答、更新後閉ループ系の応答及び目標応答の例を示す図である。
図15】本発明の第三の実施形態に係る閉ループ系の制御器更新装置が実行する処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第一の実施形態における閉ループ系の構成と機能>
図1から図4を参照して、第一の実施形態に係る閉ループ系100と制御器更新装置10の構成とその機能について説明する。
【0019】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る1自由度の閉ループ系100及び制御器更新装置10の機能的な構成を示すブロック図である。図2は、代表的な閉ループ系100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、制御器更新装置10は、初期応答取得部11と、推定応答算出部12と、制御器更新部13を備える。また、閉ループ系100は、制御器101と制御対象102を備える。制御器更新装置10は、閉ループ系100の制御器101を更新する。
【0020】
制御器更新装置10は、1自由度の閉ループ系100が出力する応答y(ρ)が目標応答yに近づくように、制御器101のパラメータρを更新する。
なお、制御器更新装置10は、図2に示す1自由度の閉ループ系100が備える制御器101及び制御対象102の各要素及びこれらの要素同士の接続関係を変更しない。ここでいう要素には、制御器101、制御対象102等の伝達要素の他に、加え合わせ点も含まれる。
【0021】
図2は、代表的な1自由度系の閉ループ系の例を示したものであり、図2では、制御器101の伝達関数を符号「C」で表し、制御対象102の伝達関数を符号「G」で表している。以下、図1に示す制御器更新装置10の構成及びその動作についてさらに詳細に説明する。
【0022】
図1図2に示す制御器101は、制御対象102を含む閉ループ系100の全体が安定するように制御対象を制御する。また、制御対象102は、比較的取り扱いが容易な線形時不変の一入力一出力の制御対象であり、伝達関数Gは既知である。
【0023】
これ以降、特に更新前あるいは更新後のいずれかに予め定められている場合を除き、閉ループ系100と制御器101の初期状態と更新後状態を区別するために、初期閉ループ系を「100」、初期制御器を「101」と記載し、更新後閉ループ系を「100ρ」、更新後制御器を「101ρ」と記載することにする。なお、初期状態と更新後状態を特に区別して説明しない場合には、単に閉ループ系100、制御器101と記載する。
【0024】
制御器更新装置10の初期応答取得部11は、初期制御器101を含む初期閉ループ系100の制御対象102からの応答を初期応答yとして取得し、初期応答yを推定応答算出部12に送る。ここでいう初期制御器101は、パラメータρが更新される前の制御器であり、初期閉ループ系100は、パラメータρが更新される前の閉ループ系である。
【0025】
ここで、制御対象102からの初期応答yは、制御量の希望値r、初期制御器101の伝達関数C及び制御対象102の伝達関数Gを用いて、数1式で表される。
【0026】
【数1】
【0027】
また、更新後制御器101ρの伝達関数C(ρ)とパラメータρが更新された後における閉ループ系100ρの応答y(ρ)は、数1式と同様に、制御量の希望値r、更新後制御器101ρの伝達関数C(ρ)、制御対象102の伝達関数Gを用いて数2式で表される。
【0028】
【数2】
【0029】
さらに、上述した数1式及び数2式を用いて制御量の希望値rを消去すると、数3式が導出される。
【0030】
【数3】
【0031】
ここで、まず比較のために、図3を参照して、既に述べたERITを2自由度系に適用した例について説明する。図3に示すように、フィードフォワード制御を行う制御器101FFの伝達関数を「CFF」、フィードバック制御を行う制御器101FBの伝達関数を「CFB」、フィードフォワード部を含む閉ループ制御系100の理想的更新装置としての制御器103の目標伝達関数を「T」とすると、数1式は数4式のように表すことができる。また、数2式も同様に、数5式のように表すことができる。なお、「CFF」は、フィードフォワード制御を行う初期制御器101FF0の伝達関数であり、「CFF(ρ)」は、フィードフォワード制御を行う更新後制御器101FFρの伝達関数である。また、数4式と数5式を用いて制御量の希望値rを消去すると、数6式が導出される。
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
【数6】
【0035】
さらに、図3について説明すると、フィードフォワード制御器101FFの伝達関数CFF=T−1として、このモデルの伝達関数Gが制御対象102の伝達関数Gにほぼ等しいと仮定すると(G≒G)、数5式は、y(ρ)≒Trとなる。この場合には、制御するモデルが既知であることが前提になるが、このように、ERITを用いた2自由度制御系では、安定性及び応答性について個別に設計することが可能である。この点は2自由度系に適用されるERITの強みになると言ってよい。
【0036】
上述したように、数6式は、2自由度系のフィードフォワード部を含む閉ループ制御系100の初期応答yと目標伝達関数Tにより応答y(ρ)を記述したものである。
このように、2自由度系のフィードフォワード部をERITにより更新する場合、上述した数6式に示す制御器101FFの伝達関数「CFF(ρ)」、ひいてはこの伝達関数のパラメータρを最適化することにより、図3に示す制御器101FFを更新することができる。
【0037】
しかし、図2に示した1自由度の閉ループ系100が備える制御器101をERITにより更新する場合、数5式が制御対象102の伝達関数Gを含んでいるため、数5式を用いて直接的に制御器101を更新することができない。
【0038】
そこで、第一の実施形態に係る制御器更新装置10を使用して、下に記載の数7式で表される更新後閉ループ系100ρの理想とされる目標伝達関数Tと更新後制御器101ρの理想とされる目標応答yとの関係を用いて、更新後制御器101ρの伝達関数C(ρ)を求めることを考える。
ここで、目標伝達関数Tとは、更新後閉ループ系100ρが目標応答yを出力する場合における更新後閉ループ系100ρの伝達関数である。なお、数7式は、制約式とも呼ばれる。
【0039】
図4は、図2に示す閉ループ系100に加えて、理想的更新装置である制御器103の目標伝達関数Tと、この目標伝達関数Tに制御量の希望値rを供給して得られる目標応答yの関係を示した図である。この図4から数7式と既に図2で説明した数2式が導かれる。ここで、数2式の制御量の希望値rの係数である1自由度系の伝達関数が、目標伝達関数Tと一致することが理想的な更新後の条件となる。言い換えると、数8式の制約式の成立が理想的な更新後の条件である。なお、目標伝達関数Tは、設計者が予め定める関数である。
【0040】
【数7】
【0041】
【数8】
【0042】
数8式を変形して、制御対象102の伝達関数Gを求めると、伝達関数Gは、数9式のようになる。
【0043】
【数9】
【0044】
そして、この数9式を数3式に代入すると、下の数10式が導出される。数10式に含まれる応答y(ρ)は、推定応答と呼ばれる。図1に示す制御器更新装置10の推定応答算出部12は、数10式を用いて推定応答を算出し、算出した推定応答を制御器更新部13に送る。
【0045】
具体的には、図1に示すように、推定応答算出部12は、制御器101から初期制御器101の伝達関数Cを受け取る。また、推定応答算出部12には、更新後制御器101ρの伝達関数C(ρ)及び更新後閉ループ系100ρの目標伝達関数Tが与えられる。
【0046】
推定応答算出部12は、初期制御器101の伝達関数Cと、更新後制御器101ρの伝達関数C(ρ)と、更新後閉ループ系100ρの目標伝達関数Tが加えられる一種のフィルタとしての役割を果たす。そして、この推定応答算出部12に初期応答取得部11で取得された初期応答yが供給されると、推定応答算出部12は、数10式から得られる応答y(ρ)を推定応答として算出し、算出した推定応答y(ρ)を制御器更新部13に送る。
【0047】
【数10】
【0048】
閉ループ制御系100を評価するためには、数10式の左辺の推定応答y(ρ)と更新後閉ループ系100ρの目標応答yとの差を小さくすればよいので、評価関数J(ρ)を数11式のように定め、J(ρ)の値の大きさによって閉ループ制御系100の評価が行われる。つまり、J(ρ)の値は小さければ小さいほど閉ループ制御系100の性能が良いと評価される。
【0049】
【数11】
【0050】
そこで、数10式を数11式に代入すると、下の数12式が得られる。図1に示す制御器更新装置10の制御器更新部13は、数12式を用いて評価関数J(ρ)の値が最小になるパラメータρを算出する。
すなわち、制御器更新部13は、推定応答算出部12が算出する推定応答y(ρ)と、更新後閉ループ系100ρの目標応答yとの差を示す評価関数J(ρ)に基づいて、更新後制御器101ρのパラメータρを算出する。そして、制御器更新部13は、初期制御器101の要素及び要素同士の接続関係を保持しつつ、更新後制御器101ρの伝達関数C(ρ)のパラメータρを調整して、初期制御器101を更新後制御器101ρに更新する。
【0051】
【数12】
【0052】
さらに、この数12式に、数1式と数7式を代入すると、「y」、「y」が消去されて数13式が得られる。すなわち、数12式と数13式は、用いられる記号が異なるだけで実質的に同じ式である。
【0053】
【数13】
【0054】
ここで、上述した数8式で表される制約式を満たす制御器101の伝達関数C(ρ)を理想的制御器の伝達関数「C」とすると、数8式は、数14式のように書き換えることができる。
【0055】
【数14】
【0056】
そして、数13式と数14式から数15式が導出される。数15式に示される評価関数J(ρ)は、目標伝達関数T、初期閉ループ系の感度関数1/(1+GC)及び制御器101の相対誤差の積の2乗で示されている。
言い換えると、数15式は、目標伝達関数T、初期閉ループ系の感度関数1/(1+GC)及び制御器101の相対誤差の積からなるフィルタを制御量の希望値rに適用することを意味している。
つまり、制御器更新部13は、上述した数12式又は数13式で表される評価関数J(ρ)あるいは数15式で表される評価関数J(ρ)のいずれかの評価関数J(ρ)を任意に選択して、初期制御器101を更新後制御器101ρに更新することができる。
【0057】
【数15】
【0058】
<第一の実施形態を台車の位置決め制御に適用した具体例>
以上、説明したように、数1式から数15式を用いて、制御器更新装置10の構成と機能及び制御器更新装置10による制御器101の更新方法を説明した。
次に、上述した制御器更新装置10とその更新方法を、例えば、図5に示す台車の位置決め制御系500に適用する例を説明する。
図5は、本発明の第一の実施形態に係る台車の位置決め制御系の例を示す図である。
【0059】
図5に示すように、台車の位置決め制御系500は、台車501と、ゴムベルト502と、サーボモータ503と、プーリ504と、PID制御器505を備える。
【0060】
台車501は、ゴムベルト502に固定されている。ゴムベルト502は、サーボモータ503とプーリ504との間に所定の張力が加えられた状態で取り付けられている。サーボモータ503は、ゴムベルト502をサーボモータ503とプーリ504との間で回転させる。プーリ504は、内部に搭載されている不図示のポテンシオメータにより、台車501の移動距離を計測し、この計測した移動距離をPID制御器505にフィードバックする。PID制御器505は、プーリ504からのフィードバックに基づいてサーボモータ503の回転を制御する。
【0061】
ここで、PID制御器505の伝達関数Cは、PID制御器505のパラメータρ=[k,k,k]及びラプラス演算子sを含む数16式で表される。ここで、図5に示されるコンピュータ装置をPID制御器505として使うため、数16式では、パラメータρは、比例、積分、微分のそれぞれのパラメータを示す[k,k,k]を使っているが、これを一般化してパラメータρ=[ρ,ρ,ρ]と記載することもできる。
【0062】
【数16】
【0063】
また、図5に示す台車の位置決め制御系500の目標伝達関数Tは、ラプラス演算子sを含む数17式で表される。数17式は、図5に示す台車の位置決め制御系500の目標伝達関数Tを、台車501の運動を決める運動方程式に基づいてラプラス演算子で与えた式である。
【0064】
【数17】
【0065】
さらに、この場合における評価関数J(ρ)は、ρ=[k,k,k]=[ρ,ρ,ρ]を用いて、数12式及び数16式から数18式が導出される。
【0066】
【数18】
【0067】
図1の制御器更新装置10の初期応答取得部11は、例えば、初期パラメータをρ=k=1.000,ρ=k=1.000,ρ=k=0.100として初期応答yを取得する。推定応答算出部12は、数18式のノルム記号内の第2項及び第3項で表される応答を推定応答y(ρ)として算出する。制御器更新部13は、数18式で表される評価関数J(ρ)の値を小さくする更新後パラメータρを計算して、ρ=k=0.305,ρ=k=0.001,ρ=k=0.043を算出し、これらの更新後パラメータρの値によりPID制御器505を更新する。
【0068】
図6は、本発明の第一の実施形態に係る台車の位置決め制御系500の目標応答y及び制御器更新装置10による更新の前後における台車の位置決め制御系500の応答例を示す図である。
図6に示されるように、PID制御器505には、二点鎖線A1で示される制御量の希望値r及び一点鎖線B1で示される目標応答yが設定されている。
制御器更新装置10による更新前には、PID制御器505は、図6に破線D1で示すオーバーシュートを含む応答を示している。一方、制御器更新装置10による更新後には、PID制御器505は、図6に実線E1で示すように、一点鎖線B1で示された目標応答yに追従する応答を示している。
【0069】
<第一の実施形態に係る閉ループ系の処理>
次に、図7のフローチャートを参照して、第一の実施形態に係る制御器更新装置10により実行される制御器101の更新処理について説明する。
制御器更新装置10の初期応答取得部11は、制御対象102及び初期制御器101を含む初期閉ループ系100の応答を初期応答yとして取得する(ステップS110)。また、この初期応答yは、推定応答算出部12に送られる。
【0070】
推定応答算出部12は、初期制御器101の伝達関数Cと、更新後制御器101ρの伝達関数C(ρ)と、更新後閉ループ系100ρの目標伝達関数Tを含むフィルタとしての機能を有する。言うまでもなく、更新後閉ループ系100ρには、更新後制御器101ρと制御対象102が含まれる。そして、推定応答算出部12は、初期応答取得部11から供給される初期応答yに基づいて、推定応答y(ρ)を算出し(ステップS120)、算出した推定応答y(ρ)を制御器更新部13に送る。
【0071】
次に、制御器更新部13は、推定応答y(ρ)と、更新後閉ループ系100ρの目標応答yとの差を示す評価関数J(ρ)に基づいて、初期制御器101を更新後制御器101ρに更新する(ステップS130)。
【0072】
以上、第一の実施形態に係る制御器更新装置10の処理について説明した。繰り返しになるが、制御器更新装置10は、制御対象102及び初期制御器101を含む初期閉ループ系100の応答yを初期応答として取得する。そして、上述した数10式で表される応答y(ρ)を推定応答として算出し、数12式、数13式又は数15式で表される評価関数J(ρ)に基づいて、初期制御器101を更新後制御器101ρに更新する。
【0073】
上述のように、制御器更新装置10は、閉ループ系100に含まれる制御器101を簡易かつ最適に更新することができる。また、制御器更新装置10は、数9式の推定応答y(ρ)及び更新後パラメータρにより、更新後制御器101ρの応答y(ρ)を推定することができる。これにより、制御器更新装置10は、更新後制御器101ρの実装に要する労力を削減することができる。さらに、閉ループ系100の数式モデルと現実の系の間には、例えば摩擦や機械のガタツキ等により誤差が発生するが、本発明の制御器更新装置10のようなデータ駆動制御では、動特性モデルを求めることなく、直接的に信号の状態で制御器101を調整することが可能である。したがって、現実の系と数式モデルとの擦り合わせ等の作業をなくして、閉ループ系100に含まれる制御器101を更新することができる。
【0074】
なお、制御器更新装置10の制御器更新部13は、数12式又は数13式で表される評価関数J(ρ)に基づいて、図5に示すPID制御器505(初期制御器101に相当)をI‐PD制御器又はPI‐D制御器505ρ(更新後制御器101ρとに相当)に更新してもよい。ここでいうI‐PD制御器及びPI‐D制御器は、線形時不変の制御器の一例として挙げられるものである。
【0075】
<第二の実施形態に係る閉ループ系の構成と動作>
次に、図8から図11を参照して、第二の実施形態に係る制御器更新装置20の構成と動作について説明する。なお、第二の実施形態の説明において、第一の実施形態と重複する説明は省略する。
【0076】
図8は、本発明の第二の実施形態に係る制御器更新装置20の機能的な構成例を示すブロック図である。図9は、第二の実施形態に係る更新前閉ループ系200の構成例を示すブロック図である。図10は、第二の実施形態に係る更新後閉ループ系200ρの構成例を示すブロック図である。
【0077】
図8に示すように、制御器更新装置20は、初期応答取得部21、更新後制御器設定部22、推定応答算出部23及び制御器更新部24を備える。制御器更新装置20は、第一の実施形態に係る制御器更新装置10と異なり、更新後閉ループ系200ρをI‐PD制御器又はPI‐D制御器に帰着させることにより、図9に示す1自由度の更新前閉ループ系200が備える制御器201の要素及びこれらの要素同士の接続関係を設定する。
【0078】
そして、制御器更新装置20は、更新後の閉ループ系200ρが出力する応答y(ρ)が目標応答yに近づくように、制御器201のパラメータρを更新する。図9は、作図上では図2と同じ構成になっているが、図9の制御器201は、I‐PD制御器又はPI‐D制御器に帰着させている点で図2の制御器101とは異なる。
【0079】
以下、制御器更新装置20についてさらに具体的に説明する。なお、第二の実施形態に示すI‐PD制御器又はPI‐D制御器は、あくまでも一例であり、線形時不変の制御器であればどのようなものであってもよい。
図9に示すように、更新前閉ループ系200は、制御器201と、制御対象202を含む。制御器201及び制御対象202に対する条件は、図2に示した第一の実施形態に係る制御器101及び制御対象102と同様である。
【0080】
制御器更新装置20の初期応答取得部21は、初期制御器201を含む初期閉ループ系200の応答を初期制御器201の初期応答yとして取得し、初期応答yを推定応答算出部23に供給する。
初期応答yは、制御量の希望値r、初期制御器201の伝達関数C及び制御対象202の伝達関数Gを用いて、第一の実施形態に係る数1式と同様の式で表される。
【0081】
更新後制御器設定部22は、更新後閉ループ系200ρをI‐PD制御器又はPI‐D制御器に帰着させることにより、更新後制御器201ρの要素及び要素同士の接続関係を設定する。具体的には、更新後制御器設定部22は、更新後制御器201ρの要素及び要素同士の接続関係を示す情報を受け付け、この設定を実行する。この情報は、線形時不変の制御器201ρ(例えば、I‐PD制御器、PI‐D制御器など)と制御器201ρの接続関係を示している。
【0082】
図10に示すように、更新後制御器設定部22は、例えば、図9に示す更新前制御器201を更新後に制御器201及び制御器201の2つに分割して設定する。この例では、図9に示す制御器201が初期制御器201であり、図10に示す制御器201及び制御器201が更新後制御器201ρになる。したがって、図9の制御器201は初期制御器201と同じものである。
図10に示す更新後閉ループ系200ρにおいて、パラメータρが更新された後における更新後閉ループ系200ρの応答y(ρ)は、更新後制御器201の伝達関数C(ρ)及び更新後制御器201の伝達関数C(ρ)を用いて、数19式のように表すことができる。
【0083】
【数19】
【0084】
また、図9に示す更新前制御器201を図10に示す更新後制御器201及び更新後制御器201に更新する場合における制約式は、数20式で表される。数20式の右辺の「T」は理想的更新装置(制御器201と制御器201)の目標伝達関数である。
【0085】
【数20】
【0086】
ここで、図9の更新前の閉ループ系200から初期応答yを求めると、数1式と同じ式が得られ、この数1式を数19式に代入して制御量の希望値rを消去すると、数21式が導出される。ただし、「C0」は、図9の制御器201の更新前の伝達関数である。
【0087】
【数21】
【0088】
そして、数21式と、数20式とから伝達関数Gを消去して、推定応答y(ρ)を求めると、数22式のようになる。
【0089】
【数22】
【0090】
そして、このようにして求めた数22式の推定応答y(ρ)を、数12式の評価関数J(ρ)に代入すると、数23式が求められる。
【数23】
【0091】
すなわち、図9に示した更新前制御器201を、図10に示す更新後制御器201及び更新後制御器201に更新する場合における評価関数J(ρ)は、更新後制御器201の伝達関数C(ρ)及び更新後制御器201の伝達関数C(ρ)を含む数23式で表される。
【0092】
そして、制御器更新部24は、数20式を用いて数23式の評価関数J(ρ)の値が小さくなるパラメータρを算出することにより、更新前制御器201(初期制御器201)を線形時不変の更新後制御器201と更新後制御器201に更新する。
【0093】
次に、図9に示す更新前制御器201(初期制御器201としてのPID制御器)を更・BR>V後制御器201ρ(201、及び201)としてのI‐PD制御器に更新する具体例について説明する。
【0094】
初期制御器201としてのPID制御器の伝達関数Cは、パラメータρ=[k,k,k]及びラプラス演算子sを含む数24式で表される。
【0095】
【数24】
【0096】
更新後制御器201ρとしてのI‐PD制御器に含まれる制御器、すなわち図10に示した更新後制御器201の伝達関数Cは、パラメータk及びラプラス演算子sを含む数25式で表される。
【0097】
【数25】
【0098】
また、更新後制御器201ρとしてのI‐PD制御器に含まれる制御器、すなわち図10に示した更新後制御器201の伝達関数Cは、パラメータk,k及びラプラス演算子sを含む数26式で表される。
【0099】
【数26】
【0100】
また、図10に示す更新後閉ループ系200ρの目標伝達関数Tは、ラプラス演算子sを含む数27式で表される。
【0101】
【数27】
【0102】
ここで、初期応答取得部21において、例えば、初期パラメータをk=1.000、k=1.000、k=0.100として初期応答yを取得する。推定応答算出部23は、数23式のノルム記号内の第2項、第3項及び第4項で表される応答を推定応答y(ρ)として算出する。
制御器更新部13は、数23式で表される評価関数J(ρ)の値を小さくする更新後パラメータρとしてk=0.003,k=0.001,k=-0.297を算出した。そして、制御器更新部13は、算出した更新後パラメータの値により図9に示した制御器201を図10に示す制御器201及び制御器201に更新する。
【0103】
図11は、本発明の第二の実施形態に係る初期閉ループ系200の初期応答y、更新後閉ループ系200ρの応答y(ρ)及び目標応答yの例を示す図である。更新後制御器201ρとしての制御器201及び制御器201には、図11に二点鎖線A2で示された制御量の希望値r及び一点鎖線B2で示された目標応答yが設定されている。
【0104】
制御器更新装置20による更新前には、初期制御器201としての制御器201は、図11に破線D2で示したようなオーバーシュートする応答を示している。一方、制御器更新装置20による更新の後には、更新後制御器201ρとしての制御器201及び制御器201は、図11に実線E2で示すように、一点鎖線B2で示された目標応答yに追従する応答y(ρ)を示している。
【0105】
次に、図12のフローチャートを参照して、第二の実施形態に係る制御器更新装置20が実行する処理について説明する。
【0106】
図8に示す制御器更新装置20の初期応答取得部21は、制御対象202及び初期制御器201を含む初期閉ループ系200の応答を初期応答yとして取得する(ステップS210)。また、この初期応答yは、推定応答算出部12に送られる。
【0107】
更新後制御器設定部22は、更新後閉ループ系200ρをI‐PD制御器又はPI‐D制御器に帰着させることにより、図10に示す更新後制御器201ρ(201、201)の要素及び要素同士の接続関係を設定する(ステップS220)。
【0108】
推定応答算出部23は、初期制御器201の伝達関数Cと、更新後制御器201ρ(201、201)の伝達関数C(ρ)、C(ρ)と、更新後閉ループ系200ρの目標伝達関数Tを含むフィルタ機能を持っており、初期応答yが入力されると、これを推定応答y(ρ)として算出する(ステップS230)。そして、推定応答算出部23は、算出した推定応答y(ρ)を制御器更新部24に送る。
【0109】
制御器更新部24は、推定応答y(ρ)と、更新後閉ループ系200の目標応答yとの差を示す数23式に示す評価関数J(ρ)に基づいて、初期制御器201を線形時不変の更新後制御器201ρ(201、201)に更新する(ステップS240)。すなわち、制御器更新部24は、設定されたI‐PD制御器あるいはPI‐D制御器を考慮した評価関数J(ρ)に基づいて、図10に示す更新後制御器201及び更新後制御器201の伝達関数C(ρ)及びC(ρ)のパラメータρを更新する。
【0110】
以上、第二の実施形態に係る制御器更新装置20の構成と動作について説明した。繰り返すと、制御器更新装置20は、制御対象202及び初期制御器201を含む初期閉ループ系200の応答yを初期応答として取得する。そして、制御器更新装置20は、数19式及び第一の実施形態に係る数1式から制御量の希望値rを消去して導出される数21式と、数21式から数20式を用いて制御対象の伝達関数Gを消去して数22式を得る。制御器更新装置20は、この数22式により導出される応答y(ρ)を推定応答として算出する。さらに、上述した数23式で表される評価関数J(ρ)に基づいて、初期制御器201を更新後制御器201ρ(201、201)に更新する。このため、制御器更新装置20も、第一の実施形態に係る制御器更新装置10と同様の効果を奏する。
【0111】
<第三の実施形態に係る制御器更新装置の構成と動作>
次に、図13から図15を参照して、本発明の第三の実施形態に係る制御器更新装置の構成と動作を説明する。第三の実施形態は、第二の実施形態の変形例であり、制御器更新装置の構成は、図8に示した制御器更新装置20と同じである。したがって、第三の実施形態の説明でも、第一の実施形態及び第二の実施形態の説明と重複する部分の説明は省略する。
【0112】
第三の実施形態における制御器更新装置20は、更新後閉ループ系200ρを内部モデル制御器に帰着させる点で、第二の実施形態とは異なる。すなわち、制御器更新装置20は、図13に示すように、更新後閉ループ系300ρを内部モデル制御器に帰着させることにより、更新後制御器301ρの要素及び要素同士の接続関係を設定する。
そして、図8に示す制御器更新装置20の制御器更新部24で内部モデル制御器を考慮した評価関数J(ρ)に基づいて、初期制御器301を線形時不変の更新後制御器301ρに更新する。ここで、内部モデル制御器は、線形時不変の制御器である。以下、第三の実施形態における制御器更新装置20について、さらに具体的に説明する。
【0113】
上述した数8式を満たす制御対象202(図8参照)の伝達関数Gを図13に示す制御対象302の伝達関数G(ρ)とすると、数8式の変形式として数28式が成立する。
【0114】
【数28】
【0115】
数28式及び数11式から数29式が導出される。数29式は、図9に示した閉ループ系200を、図13に示す内部モデル制御器を実行する閉ループ系300に帰着させる式である。
【0116】
【数29】
【0117】
図13は、本発明の第三の実施形態に係る更新後閉ループ系300ρの構成例を示すブロック図である。
図13に示すように、閉ループ系300は、制御器301と、制御対象302と、制御対象302を含む。制御器301は、伝達関数T−1を有する。制御対象302は、実際に存在する制御器であり、伝達関数Gを有する。また、制御対象302は、内部モデル制御器に帰着させたことによりモデル化された制御器であり、伝達関数Gを有する。
【0118】
以下、数28式及び数29式を用いて、制御器更新装置20により制御器301を更新する方法を説明する。
【0119】
制御対象302の内部モデルの伝達関数G(ρ)は、パラメータρ,ρ,ρ及びラプラス演算子sを含む数30式で表される。但し、「G−1(ρ)」は、「1/G(ρ)」を表す。
【0120】
【数30】
【0121】
また、図13に示した閉ループ系300の目標伝達関数Tは、ラプラス演算子sを含む数31式で表される。数31式も、設計者が任意に設定する式である。
【0122】
【数31】
【0123】
さらに、上述した数29式及び数30式から評価関数J(ρ)は、数32式で表される。また、数30式は、パラメータρ,ρ,ρについて線形化されている。
【0124】
【数32】
【0125】
この場合、制御器更新装置20は、最小二乗法により、数33式で表されるモデルを取得する。
【0126】
【数33】
【0127】
図14は、本発明の第三の実施形態に係る初期閉ループ系の応答、更新後閉ループ系の応答及び目標応答の例を示す図である。更新後制御器301ρは、図14に二点鎖線A3で示された制御量の希望値及び一点鎖線B3で示された目標応答が設定されている。
制御器更新装置20による更新前には、制御器301は、図14に破線D3で示すようなオーバーシュートを含む応答を示している。一方、制御器更新装置20による更新後には、制御器301ρは、図14に実線E3で示すように、一点鎖線B3で示された目標応答に追従する応答を示している。
【0128】
次に、図15のフローチャートを参照して、本発明の第三の実施形態に係る制御器更新装置20が実行する処理例について説明する。
図8に示した制御器更新装置20の初期応答取得部21は、制御対象202及び初期制御器201を含む初期閉ループ系200の応答を初期応答yとして取得する(ステップS310)。また、初期応答取得部21は、この初期応答yを推定応答算出部22に送る。
【0129】
更新後制御器設定部22は、図8に示した更新後閉ループ系200ρ図13に示す更新後閉ループ系300ρの内部モデル制御器301に帰着させることにより、更新後制御器301ρの要素及び要素同士の接続関係を設定する(ステップS320)。
【0130】
推定応答算出部23は、初期制御器301の伝達関数Cと、更新後制御器301ρの伝達関数C(ρ)と、制御対象302、302及び更新後制御器301ρを含む更新後閉ループ系300ρの目標伝達関数Tを含むフィルタとしての機能を持つ。そして、このフィルタとしての推定応答算出部23に初期応答取得部21からの初期応答yが加えられると、推定応答算出部23は、初期応答yを推定応答y(ρ)に変換する算出処理を行う(ステップS330)。また、推定応答算出部23は、算出した推定応答y(ρ)を制御器更新部24に送る。
【0131】
制御器更新部24は、推定応答y(ρ)と、更新後閉ループ系300ρの目標応答yとの差を示す、数32式に示す評価関数J(ρ)に基づいて、図9に示す初期制御器201を、線形時不変の図13に示す更新後制御器301に更新する(ステップS340)。すなわち、制御器更新部24は、設定された内部モデル制御器を考慮した評価関数J(ρ)に基づいて、更新後制御器301ρの伝達関数のパラメータρを更新する。
【0132】
以上、第三の実施形態に係る制御器更新装置20について説明した。制御器更新装置20は、更新後閉ループ系300を内部モデル制御器に帰着させることにより、更新後制御器301ρの要素及び要素同士の接続関係を設定する。
そして、制御器更新装置20は、制御器更新部24により図13に示す内部モデル制御器を考慮した評価関数J(ρ)に基づいて、図9に示す初期制御器201図13に示す更新後制御器301ρに更新する。このため、制御器更新装置20は、制御器や閉ループ系の目標伝達関数を与えた場合における指針を提供することができる。
【0133】
なお、上述した第一の実施形態、第二の実施形態及び第三の実施形態では、閉ループ系が出力する応答の差、すなわち推定応答と、更新後閉ループ系の目標応答との差に基づいて、初期制御器を更新後制御器に更新したが、本発明は、これに限定されない。第一の実施形態、第二の実施形態又は第三の実施形態に係る制御器更新装置は、閉ループ系に入力される信号の差に基づいて、初期制御器を更新後制御器に更新してもよい。
【0134】
また、上述した各装置は、内部にコンピュータを有している。そして、上述した各処理の過程は、プログラム形式でコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することにより実行される。ここでコンピュータにより読み取り可能な記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリである。また、通信回線を経由してこのプログラムをコンピュータに配信し、コンピュータにこのプログラムを実行させてもよい。
【0135】
また、上述したプログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上述した機能をコンピュータシステムに予め記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分プログラムであってもよい。
【0136】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0137】
10、20…制御器更新装置、11、21…初期応答取得部、22…更新後制御器設定部、12、23…推定応答算出部、13、24…制御器更新部、100、200、300…閉ループ系、100、200、300…初期閉ループ系、100ρ、200ρ、300ρ…更新後閉ループ系、101、201、301…制御器、103…制御器(理想的更新装置)、102、202、302、302…制御対象、101、201…初期制御器、101ρ、201ρ(201、201)、301ρ…更新後制御器、500…台車の位置決め制御系、501…台車、502…ゴムベルト、503…サーボモータ、504…プーリ、505…PID制御器
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