【解決手段】中性子発生装置21は、炉心ユニット22と格納容器23とを備える。炉心ユニット22は、陽極46を兼ねる真空容器41、中空状の負極42、ガス収容体43、常閉の開放弁44を有する。真空容器41は、減圧状態の内部空間45を有する。負極42は、真空容器41内に配置され高負電圧が印加される。ガス収容空間には水素同位体ガスが充填される。内部空間45とガス収容空間とは流体的に接続される。開放弁44は内部空間45とガス収容空間とを繋ぐ流路55上に設けられ、装置外部から開放操作が可能である。格納容器23は、真空容器41、ガス収容体43、流路55及び開放弁44を全体的に覆うように格納する。
前記ガス収容体は、前記真空容器の外部に配置されるとともに前記真空容器に対して着脱可能に取り付けられたガスカートリッジであることを特徴とする請求項2に記載の中性子発生装置。
前記格納容器は、前記炉心ユニット全体またはその一部を構成する前記ガスカートリッジを出し入れ可能な開閉構造を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の中性子発生装置。
前記シャッター装置は、減速材として作用する流体を溜めるための減速材貯留空間を含んで構成されるとともに、前記減速材貯留空間内における前記流体の量を増減することによって開度変更が可能であることを特徴とする請求項10に記載の中性子発生システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、慣性静電封じ込め核融合を利用した上記従来の中性子発生装置は、小型かつ簡単な構成であって比較的取扱性にも優れる一方で、次のような欠点を有する。
【0009】
上記従来の中性子発生装置は、中性子を遮断する格納容器内に炉心部分である真空容器を格納した構造を備えている。そしてこの真空容器に重水素ガスを供給するために、真空容器と重水素ガス供給源とがガス供給配管を介して流体的に接続される。しかしながら、重水素ガス供給源は一般的に装置外部の離れた場所に設置されていることが多く、重水素ガス供給源から真空容器に到るまでの経路を長いガス供給配管で繋ぐ必要がある。このため、その長いガス供給配管の分だけ中性子の発生に寄与しない無駄な重水素ガスの量が多くなり、結果として経済性が悪くなる。
【0010】
また、重水素ガスが引火性の高いガスであることを考えると、装置の取扱性の向上の観点から、真空容器内への供給量を必要最小限とし、格納容器内の中に閉じ込めておくことが望ましい。しかし、上記従来の装置では構造的にこのようなことができなかった。
【0011】
さらに、鉄などの金属材料を用いて形成された真空容器等の部品は、長時間装置を使用し続けることにより中性子に晒されて放射化する可能性がある。この場合、真空容器等の部品を取り外して廃棄し、新しいものと交換することが望ましい。ところが、上記従来の装置では構造的にガス供給配管の取り外しが不能あるいは困難であったため、装置の保守を簡便に行うことができなかった。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、小型かつ簡単な構成であって装置の取扱性にも優れるとともに、水素同位体ガスの無駄を減らして使用量を最小限に抑えることができる中性子発生装置及びそれを備えた中性子発生システム等を提供することにある。また、本発明の別の目的は、保守を簡便に行うことができる中性子発生装置及びそれを備えた中性子発生システム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための手段を下記[1]〜[14]に列挙する。
[1]水素同位体ガス存在下での高電圧印加により核融合反応を誘起して中性子を発生する中性子発生装置であって、減圧状態の前記水素同位体ガスがあらかじめ充填された内部空間を有するとともに陽極を兼ねる真空容器と、前記真空容器内に配置され、高負電圧が印加される中空状の負極とを有する炉心ユニットと、中性子取出口を有するとともに、前記炉心ユニットのうち少なくとも前記真空容器を全体的に覆うように格納する格納容器とを備えたことを特徴とする中性子発生装置。従って、手段1に記載の発明によると、減圧状態の水素同位体ガスが内部空間に存在する真空容器と中空状の負極との間に高負電圧を印加することにより、真空容器内にプラズマが発生し、水素同位体原子同士の核融合反応が誘起される。この核融合反応の結果、真空容器内にて中性子が発生し、中性子取出口を介してその中性子を格納容器の外部に取り出すことができる。また、真空容器は格納容器により全体的に覆われて格納されるばかりでなく、その内部空間には減圧状態の水素同位体ガスがあらかじめ充填されているため、装置外部の離れた場所にある水素同位体ガス供給源から長いガス供給配管を介して水素同位体ガスを供給する必要がない。このため、ガス供給配管の省略により装置構成をより小型化、簡略化することができるとともに、水素同位体ガスの無駄を減らして使用量を最小限に抑えることができる。また、中性子発生の前後にわたり、反応性の高い水素同位体ガスを格納容器に格納された真空容器内に閉じ込めておくことが可能なため、装置の取扱性に優れたものとなる。
[2]水素同位体ガス存在下での高電圧印加により核融合反応を誘起して中性子を発生する中性子発生装置であって、減圧状態または減圧可能な状態の内部空間を有するとともに陽極を兼ねる真空容器と、前記真空容器内に配置され、高負電圧が印加される中空状の負極と、ガス収容空間に前記水素同位体ガスがあらかじめ充填され、前記真空容器の前記内部空間と前記ガス収容空間とが流体的に接続されたガス収容体と、前記内部空間と前記ガス収容空間とを繋ぐ流路上に設けられ、装置外部から開放操作が可能な常閉の開放弁とを有する炉心ユニットと、中性子取出口を有するとともに前記炉心ユニットのうち少なくとも前記真空容器、前記ガス収容体、前記流路及び前記開放弁を全体的に覆うように格納する格納容器とを備えたことを特徴とする中性子発生装置。従って、手段2に記載の発明によると、開放弁の開放操作により、ガス収容体側から真空容器側へ水素同位体ガスが供給され、真空容器の内部空間が減圧状態の水素同位体ガスで満たされる。この状態で真空容器と中空状の負極との間に高負電圧を印加することにより、真空容器内にプラズマが発生し、水素同位体原子同士の核融合反応が誘起される。この核融合反応の結果、真空容器内にて中性子が発生し、中性子取出口を介してその中性子を格納容器の外部に取り出すことができる。また、真空容器、ガス収容体、流路及び開放弁は格納容器により全体的に覆われて格納されており、水素同位体ガスは格納容器の内部かつ真空容器の直近の位置から供給される。そのため、装置外部の離れた場所にある水素同位体ガス供給源から長いガス供給配管を介して水素同位体ガスを供給する必要がない。このため、ガス供給配管の省略により装置構成をより小型化、簡略化することができるとともに、水素同位体ガスの無駄を減らして使用量を最小限に抑えることができる。また、中性子発生の前後にわたり、反応性の高い水素同位体ガスを格納容器内に閉じ込めておくことが可能なため、装置の取扱性に優れたものとなる。
[3]前記ガス収容体は、前記真空容器の外部に配置されるとともに前記真空容器に対して着脱可能に取り付けられたガスカートリッジであることを特徴とする手段2に記載の中性子発生装置。従って、手段3に記載の発明によると、例えば使用済みのガスカートリッジを取り外して新しいものに取り換えることができる。そのため、炉心ユニットにおけるガスカートリッジ以外の部分を再使用することができ、経済性が向上するとともに装置の保守を簡便に行うことができる。
[4]1つの前記格納容器内に前記炉心ユニットが複数収容されていることを特徴とする手段1乃至3のいずれか1項に記載の中性子発生装置。従って、手段4に記載の発明によると、炉心ユニットが1つの場合に比べて、多くの中性子を発生させたり、中性子を長時間にわたって発生させたりすること等が可能となる。
[5]前記格納容器は、前記炉心ユニット全体またはその一部を構成する前記ガスカートリッジを出し入れ可能な開閉構造を有することを特徴とする手段1乃至4のいずれか1項に記載の中性子発生装置。従って、手段5に記載の発明によると、例えば格納容器を開き、その中にある放射化した炉心ユニット全体を取り出して廃棄する一方で、炉心ユニットを新しいものと交換して格納容器を再使用することが可能となる。あるいは、格納容器を開き、その中にある使用済みのガスカートリッジを取り出して新しいものと交換することが可能となる。よって、ガス供給配管の取り外しが不能あるいは困難な従来装置に比べて、装置の保守を簡便に行うことができる。
[6]前記真空容器は、筒体の一方の開口に第1蓋体を溶接接続し、他方の開口に第2蓋体を溶接接続してなるものであり、前記ガス収容体は、前記真空容器よりも容積が小さく、前記第1蓋体側から前記負極に繋がる給電構造部が引き出され、前記第2蓋体の外側に前記ガス収容体、前記流路及び前記開放弁が配置されていることを特徴とする手段2乃至5のいずれか1項に記載の中性子発生装置。従って、手段6に記載の発明によると、筒体と一対の蓋体とを溶接接続することで構成された比較的単純な構造の真空容器を用いることで、炉心ユニットを簡単にかつ安価に製造することができる。また、軸線方向に直交する方向から見たときに、炉心ユニット全体をコンパクトなものにしやすくなる。よって、格納容器の限られたスペースに複数の炉心ユニットを配置するのに有利なものとなる。
[7]手段1乃至6のいずれか1項に記載の中性子発生装置と、前記負極に高負電圧を印加する高圧電源と、前記高圧電源と電気的に接続された制御装置とを備え、前記制御装置は、前記高圧電源を駆動して前記負極に高負電圧を印加することにより、プラズマを発生させる制御を行うことを特徴とする中性子発生システム。従って、手段7に記載の発明によると、制御装置により高圧電源が駆動される結果、陽極を兼ねる真空容器と中空状の負極との間に高負電圧が印加され、真空容器内にプラズマが発生する。そしてそこに減圧状態の水素同位体ガスが内部空間に存在していると、水素同位体原子同士の核融合反応が誘起され、中性子を発生させることができる。
[8]手段2乃至6のいずれか1項に記載の中性子発生装置と、前記負極に高負電圧を印加する高圧電源と、前記高圧電源及び前記開放弁を駆動制御すべくそれらと電気的に接続された制御装置とを備え、前記制御装置は、前記開放弁を駆動して開放状態とすることにより、前記流路を介して前記ガス収容体内の前記水素同位体ガスを前記真空容器内に導入させる制御と、前記高圧電源を駆動して前記負極に高負電圧を印加することにより、プラズマを発生させる制御とを行うことを特徴とする中性子発生システム。従って、手段8に記載の発明によると、制御装置により開放弁及び高圧電源が駆動される結果、水素同位体ガスが真空容器の内部空間に導入され、かつ陽極を兼ねる真空容器と中空状の負極との間に高負電圧が印加されて真空容器内にプラズマが発生する。すると、水素同位体原子同士の核融合反応が誘起され、中性子を発生させることができる。
[9]手段2乃至6のいずれか1項に記載の中性子発生装置と、前記負極に高負電圧を印加する高圧電源と、前記真空容器内の空気を排出するポンプと、前記高圧電源、前記ポンプ及び前記開放弁を駆動制御すべくそれらと電気的に接続された制御装置とを備え、前記制御装置は、前記ポンプを駆動して前記真空容器内を減圧させる制御を行った後、前記開放弁を駆動して開放状態とすることにより、前記流路を介して前記ガス収容体内の前記水素同位体ガスを前記真空容器内に導入させる制御と、前記高圧電源を駆動して前記負極に高負電圧を印加することにより、プラズマを発生させる制御とを行うことを特徴とする中性子発生システム。従って、手段9に記載の発明によると、まず制御装置によりポンプが駆動される結果、真空容器内の空気が排出されて真空容器内が減圧状態となる。次に、制御装置により開放弁及び高圧電源が駆動される結果、水素同位体ガスが減圧状態の真空容器の内部空間に導入され、かつ陽極を兼ねる真空容器と中空状の負極との間に高負電圧が印加されて真空容器内にプラズマが発生する。すると、水素同位体原子同士の核融合反応が誘起され、中性子を発生させることができる。
[10]前記中性子取出口に設けられ、中性子を検知する中性子センサと、前記中性子取出口に設けられ、前記中性子取出口から外部に放出される中性子の量を調整するシャッター装置とをさらに備え、前記中性子センサ及び前記シャッター装置は、前記制御装置に対してそれぞれ電気的に接続され、前記制御装置は、前記中性子センサによる中性子の検知結果に基づいて前記シャッター装置の開度を変更する制御を行うことを特徴とする手段7乃至9のいずれか1項に記載の中性子発生システム。従って、手段10に記載の発明によると、高圧電源等を駆動して中性子の発生を開始させた後、例えば、中性子センサによって中性子の強さが所定値よりも強いことが検知された場合には、制御装置によりシャッター装置の開度を小さく変更して所定値を超えないようにする制御を行うことができる。また、中性子の発生量が所定値を超えたことが検知された場合には、制御装置によりシャッター装置の開度をゼロに変更して中性子が格納容器から放射されないようにする制御を行うことができる。よって、開度を適宜調整することにより、必要なときだけ中性子を外部に出力させることができる。
[11]前記シャッター装置は、減速材として作用する流体を溜めるための減速材貯留空間を含んで構成されるとともに、前記減速材貯留空間内における前記流体の量を増減することによって開度変更が可能であることを特徴とする手段10に記載の中性子発生システム。従って、手段11に記載の発明によると、例えば、減速材貯留空間内における流体の増量に伴い中性子が減速されやすくなり、中性子取出口を通り抜ける中性子の量が少なくなる。よって、シャッター装置の開度が小となる。逆に、減速材貯留空間内における流体の減量に伴い中性子が減速されにくくなり、中性子取出口を通り抜ける中性子の量が多くなる。よって、シャッター装置の開度が大となる。この構成であると、比較的単純な機構により開度変更を実現することができる。
[12]手段1乃至6のいずれか1項に記載の中性子発生装置を備えたことを特徴とする医療用中性子照射装置。
[13]手段1乃至6のいずれか1項に記載の中性子発生装置を備えたことを特徴とする中性子ラジオグラフィ装置。
[14]手段1乃至6のいずれか1項に記載の中性子発生装置を備えたことを特徴とする、中性子捕捉療法に用いる薬剤を製造するための製薬用中性子照射装置。
【発明の効果】
【0014】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によると、小型かつ簡単な構成であって取扱性にも優れるとともに、水素同位体ガスの無駄を減らして使用量を最小限に抑えることができる中性子発生装置を提供することができる。特に請求項3,5に記載の発明によると、保守を簡便に行うことができる中性子発生装置を提供することができる。請求項7〜14に記載の発明によると、上記の優れた中性子発生装置を備えていることから、小型、簡便かつ低価格であって、実用的な中性子発生システム、医療用中性子照射装置、中性子ラジオグラフィ装置、製薬用中性子照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の中性子発生システムを具体化した第1実施形態の医療用中性子照射装置11を
図1〜
図3に基づき詳細に説明する。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態の医療用中性子照射装置11は、中性子発生装置21、高圧電源12、制御装置13、ポンプ14、中性子センサ17、シャッター装置16等を備えている。
【0018】
この中性子発生装置21は、水素同位体ガス存在下での高電圧印加によりプラズマを発生し、核融合反応を誘起して中性子N1を発生するための装置であって、炉心ユニット22と格納容器23とを備えている。
【0019】
図1、
図2に示されるように、格納容器23は、余分な中性子N1が外部に漏れないように炉心ユニット22を格納しておくための箱型の小容器であって、一辺が70cm〜100cm程度の立方体状の外形を有している。格納容器23における1つの側面には、ユニット外部に中性子N1を取り出すための中性子取出口31が設けられている。この格納容器23は、下面側に開口33を有する容器本体32と、その開口33を開閉可能に塞ぐべく容器本体32の下面側に配置される蓋体34とにより構成されている。また、容器本体32及び蓋体34は、いずれも中性子N1を透過しにくい材料(例えばSUS304、SUS316等のステンレス合金)からなる外壁35及び内壁36と、それらの間に形成された減速材収容室37とを備えた構造を有している。減速材収容室37内には遮蔽体である減速材38が収容可能となっており、本実施形態では液体状の減速材(例えば重水など)が充填されている。蓋体34は図示しない係止具により容器本体32に対して着脱可能に係止されている。
【0020】
格納容器23における中性子取出口31の外側開口部には、中性子取出口31から外部に放出される中性子N1の量を調整するシャッター装置16と、中性子N1を検知する中性子センサ17とが設けられている。シャッター装置16としては、例えばカーボン板等の中性子遮蔽体を機械的に動かして中性子取出口31の開度を変更することにより、中性子N1の量を調整するもの等が使用される。中性子センサ17としては、例えば中性子サーベイメータや中性子カウンタ等が使用される。
【0021】
図1、
図2に示されるように、炉心ユニット22は、真空容器41、負極42、ガスカートリッジ(ガス収容体)43、開放弁44等を有している。この炉心ユニット22は、格納容器23内に収容されるべく、一辺が50cm程度の立方体内に収まる容積を有したものとなっている。
【0022】
真空容器41は、球状の外形を有する部材であって、減圧可能な状態の内部空間45を有している。このような真空容器41は、例えば放射化しにくいSUS304、SUS316等のような金属材料を用いて構成されており、具体的にはこの種の金属材料からなる2つの半球状部材同士をスポット溶接で接合して製造されている。なお、この真空容器41は接地電極としての陽極46を兼ねている。陽極46である真空容器41には導線49(給電構造部)が電気的に接続されるとともに、その導線49は真空容器41の上側から格納容器23の外部に引き出されて高圧電源12に電気的に接続されている。
【0023】
負極42は、真空容器41における内部空間45の中心部に配置され、高負電圧が印加される。この負極42は中空状をなしており、例えば複数の高融点金属製リング(例えばタングステン製リング)を溶接することで構成されている。負極42には導線49が電気的に接続されている。この導線49は、真空容器41の上側中央部に設けられた碍子47に包囲された状態で格納容器23の外部に引き出されて、高圧電源12に電気的に接続されている。負極42には高圧電源12によって高負電圧が印加される。
【0024】
陽極46を兼ねる真空容器41と負極42との間には、球状の制御グリッド48が配置されている。制御グリッド48は、例えば放射化しにくいSUS304、SUS316等のような金属材料を用いて構成されている。制御グリッド48には導線49が電気的に接続されるとともに、格納容器23の上側から外部に引き出されて高圧電源12に電気的に接続されている。なお、制御グリッド48には、接地電位である0ボルトから、負極42に印加される高負電位(例えば−50キロボルト〜−100キロボルト)までの任意の電位が印加される。そして、制御グリッド48に印加する電位の値を適宜変更することにより、発生する中性子N1の量が制御可能となっている。このように制御グリッド48による制御が行われることで、装置を安定的に動作させることができる。
【0025】
真空容器41の上側には、内部空間45の空気を真空引きによって排出するための減圧ポート51が設けられている。この減圧ポート51は、常閉の弁体52を介して真空引き用配管53に流体的に接続されている。弁体52としては、外部からの作動信号により駆動可能なノーマルクローズ形の電磁弁が使用されている。真空引き用配管53は、格納容器23の外部に引き出されるとともに、ポンプ14に流体的に接続されている。ポンプ14としては、例えばターボ分子ポンプやロータリーポンプ等が使用される。これらポンプは併用されてもよい。
【0026】
真空容器41の下側には、流路としてのガス供給配管55の一端が設けられている。そのガス供給配管55の他端には、図示しない管継手等を用いてガスカートリッジ43が着脱可能に取り付けられている。ガスカートリッジ43は、真空容器41の下側に位置しており、格納容器23において中性子取出口31が設けられた箇所を避けた位置に配置されている。その結果、ガスカートリッジ43が中性子N1の通り道を邪魔せず、発生した中性子N1を中性子取出口31から効率よく外部に取り出しやすいようになっている。
【0027】
ガス収容体としてのガスカートリッジ43は内部にガス収容空間54を有しており、そのガス収容空間54内には重水素ガスG1(水素同位体ガス)があらかじめ充填されている。このガスカートリッジ43は真空容器41よりも小さく形成されたステンレス合金製の容器であり、真空容器41の数分の1程度の容積を有している。そのなかには、比較的低圧の重水素ガスG1が少量充填されている。具体的には、ほぼ真空状態の内部空間45内に充填したときに1パスカル程度の圧力となる分量の重水素ガスG1が充填されている。ガス供給配管55の途上には、装置外部から開放操作が可能な常閉の開放弁44が設けられている。このような開放弁44としては、外部からの作動信号により駆動可能なノーマルクローズ形の電磁弁が使用されている。
【0028】
この開放弁44が閉状態のときには、真空容器41の内部空間45とガスカートリッジ43のガス収容空間54との流路が遮断される。一方、開状態のときには、上記流路が連通されることで内部空間45とガス収容空間54とが流体的に接続され、ガス収容空間54側から内部空間45側へ重水素ガスG1が流入するようになっている。つまり、この炉心ユニット22は、真空容器41と重水素ガス供給用の手段とがいわば一体となった構造を有しており、真空容器41から離間していないごく近い位置から、短い流路を介して重水素ガスG1が供給可能となっている。
【0029】
そして、この中性子発生装置21では、格納容器23が、炉心ユニット22における真空容器41、負極42、ガスカートリッジ43、開放弁44、碍子47、制御グリッド48、減圧ポート51、弁体52、ガス供給配管55を全体的に覆うように格納している(
図1参照)。
【0030】
次に、この医療用中性子照射装置11における電気的構成について説明する。
図1に示されるように、中性子発生装置21の外部には、制御装置としてのPC(パーソナルコンピュータ)13が設けられている。PC13は図示しないCPU、ROM、RAM等を備えている。このPC13には、高圧電源12、ポンプ14、中性子センサ17、シャッター装置16、開放弁44、弁体52がそれぞれ電気的に接続されている。
【0031】
高圧電源12は、負極42に高負電圧を印加し、真空容器41内にプラズマを発生させるべく、PC13によって駆動制御される。ポンプ14は、真空容器41内の空気を排出して真空に近い状態まで減圧させるべく、PC13によって駆動制御される。中性子センサ17は、中性子N1の量を検知してその結果をPC13に出力する。シャッター装置16は、中性子センサ17による中性子N1の検知結果に基づいて開度を変更するべく、PC13によって駆動制御される。開放弁44は、ガス供給配管55を介してガスカートリッジ43内の重水素ガスG1を減圧状態の真空容器41の内部空間45に導入させるべく、PC13によって開状態となるように駆動制御される。弁体52は、減圧ポート51とポンプ14とを真空引き用配管53を介して連通状態または非連通状態とするべく、PC13によって駆動制御される。
【0032】
次に、
図3に基づきこの医療用中性子照射装置11の動作手順の一例について説明する。
【0033】
図1には、遮蔽壁61を介して治療台62が配置され、その治療台62上に照射対象である患者63を寝かした状態が示されている。ここでは、脳に悪性腫瘍がある患者63の頭頂部が医療用中性子照射装置11側(具体的には中性子取出口31側)に向けられている。患者63にはあらかじめホウ素中性子捕捉療法に必要となるBNCT製剤が投与されており、脳の癌細胞にはBNCT製剤中のホウ素化合物が特異的に集積している。
【0034】
この状態でオペレータは、PC13を操作してまず弁体52を開状態にするとともにポンプ14を駆動させる。すると、減圧ポート51とポンプ14とが真空引き用配管53を介して連通状態となるとともに、ポンプ14によって真空容器41の内部空間45の空気が排出されて減圧される(
図3(a)参照)。真空容器内22が1パスカル程度のごく低圧の状態となった後、PC13は弁体52を閉状態にするとともにポンプ14を停止させる。
【0035】
次に、PC13は、高圧電源12を駆動して負極42に高負電圧を印加した後(
図3(b)参照)、さらに開放弁44を開放状態にしてガスカートリッジ43内の重水素ガスG1を真空容器41内に導入させる(
図3(c)参照)。すると、真空容器41の内部空間45がごく低圧の重水素ガスG1で満たされる。このとき、陽極46を兼ねる真空容器41と中空状の負極42との間には、高負電圧が印加されているので、電極間にグロー放電が生じ、多量の重水素イオンや電子が生成される。つまり、真空容器41内にプラズマが発生する。生成された重水素イオンは、電極間にて加速され中空状の負極42の方向に移動する。そして、殆どの重水素イオンは、中空状の負極42を通り抜けて中心部に収束し、ヘッドオン衝突により核融合反応が誘起され、その結果として中性子N1が発生する。
【0036】
なお、開放弁44を開放状態にしてガスカートリッジ43内の重水素ガスG1を真空容器41内に導入させた後(
図3(e)参照)、高圧電源12を駆動して負極42に高負電圧を印加してもよい(
図3(c)参照)。
【0037】
PC13は、高圧電源12等を駆動して中性子N1の発生を開始させた後、中性子センサ17からの出力信号に基づいて中性子N1の量を常時検知する。このとき、シャッター装置16はまだ閉じているため、中性子取出口31のある方向に進んだ中性子N1はシャッター装置16により阻まれることとなり、中性子取出口31を介して装置外部に放射されることはない。なお、中性子取出口31のある方向以外の方向に進んだ中性子N1の殆どは、格納容器23の減速材収容室37に充填された減速材38により捕捉される。よって、中性子取出口31以外の部位から中性子N1が格納容器23の外部に漏出することはない。中性子N1の発生を開始してから所定時間が経過して安定してきたら、PC13はシャッター装置16を開くようにする(
図3(d)参照)。すると、中性子取出口31を介して中性子N1が装置外部に放射され、患者63の頭部に中性子N1を照射することができる。BNCT製剤中に含まれるホウ素化合物(正確にはホウ素の同位体である
10Bを含む化合物)は、患者63の脳における正常細胞には集積しておらず、癌細胞のみに集積している。よって、中性子N1がホウ素化合物に捕捉されると、中性子N1とホウ素との核反応によって高LET放射線であるα粒子が発生する。組織内でのα粒子の飛程は約10μm〜14μmであって、これは癌細胞1個の直径にほぼ相当する。よって、正常細胞にα粒子の影響を与えずに、癌細胞のみにエネルギーを集中させて、癌細胞を選択的に殺傷することができる。
【0038】
このような治療を行っている間、中性子N1の強さが所定値よりも強いことが検知された場合には、PC13によりシャッター装置16の開度を小さく変更して所定値を超えないように制御してもよい。そして、中性子N1の発生量が所定値に達したことが検知された場合には、PC13によりシャッター装置16の開度をゼロに変更して中性子N1が格納容器23から放射されないようにする。その結果、患者63への中性子N1の照射を停止し、治療を終了する。
【0039】
続いて、この医療用中性子照射装置11の保守作業の方法について説明する。1回目の中性子照射が終了後、2回目の中性子照射に備えて次のような作業を行う。まず、容器本体32の開口33を塞いでいる蓋体34を取り外すことで、格納容器23を開放し、炉心ユニット22を露出させる。ガスカートリッジ43は炉心ユニット22を構成する真空容器41の下部に配置されているため、開口33を介して直接操作可能な状態にある。次に、使用済みのガスカートリッジ43をガス供給配管55から取り外して格納容器23から取り出し、その代わりに、重水素ガスG1が充填されている新しいガスカートリッジ43を取り付ける。そして、最後に蓋体34で再び容器本体32の開口33を塞いで、格納容器23内に炉心ユニット22を格納する。その結果、中性子発生装置21が再使用可能な状態となる。
【0040】
また、中性子発生装置21を繰り返して使用した場合、その使用の回数が多くなると、炉心ユニット22を構成する部品が放射化する可能性がある。この場合には、上記の方法にて格納容器23を開き、その中にある炉心ユニット22全体を取り出して廃棄する一方で、炉心ユニット22を新しいものと交換して格納容器23を再使用することが可能となる。なお、放射化する前にこのような交換作業を行うことで、使用済みの古い炉心ユニット22を放射線廃棄物としてではなく通常の廃棄物として処理することができる。
【0041】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0042】
(1)本実施形態の医療用中性子照射装置11における中性子発生装置21は、上記のような構成の炉心ユニット22と格納容器23とを備えている。従って、開放弁44の開放操作により、ガスカートリッジ43側から真空容器41側へ重水素ガスG1が供給され、真空容器41の内部空間45が減圧状態の重水素ガスG1で満たされる。この状態で陽極46を兼ねる真空容器41と中空状の負極42との間に高負電圧を印加することにより、真空容器41内にプラズマが発生し、重水素原子同士の衝突によって核融合反応が誘起される。この核融合反応の結果、真空容器41内にて中性子N1が発生し、中性子取出口31を介してその中性子N1を格納容器23の外部に取り出すことができる。上記のとおりこの中性子発生装置21は、慣性静電封じ込め核融合を利用したものであるため、原子炉設備や加速器を利用するものとは異なり、小型かつ簡単な構成であって比較的取扱性にも優れている。
【0043】
(2)本実施形態の中性子発生装置21の場合、真空容器41、ガスカートリッジ43、ガス供給配管55及び開放弁44が格納容器23により全体的に覆われて格納されている。また、重水素ガスG1は格納容器23の内部かつ真空容器41の直近の位置から供給される。そのため、装置外部の離れた場所にある重水素ガス供給源から長いガス供給配管を介して重水素ガスG1を供給する必要がない。このため、装置外部におけるガス供給配管の省略により装置構成をより小型化、簡略化することができるとともに、重水素ガスG1の無駄を減らして使用量を最小限に抑えることができる。また、中性子発生の前後にわたり、反応性の高い重水素ガスG1を格納容器23内に閉じ込めておくことが可能なため、装置の取扱性に優れたものとなる。しかも、使用する重水素ガスG1についても低圧・小容量で済むため、原子炉設備のような大掛かりな放射線遮蔽用の設備が不要である。従って、本実施形態の中性子発生装置21は、設置場所に対する制約が小さくなり、一般の医療施設に設置可能なものとなるため、治療目的専門の装置とすることができる。加えて、本実施形態の中性子発生装置21は、上記のとおり重水素ガスG1の無駄を減らして使用量を最小限に抑えることができるため、経済性に優れたものとすることができる。以上の結果、上記の優れた中性子発生装置21を備えた医療用中性子照射装置11は、小型、簡便かつ低価格であって、実用的なものとすることができる。
【0044】
(3)上記の優れた中性子発生装置21を備えた本実施形態の医療用中性子照射装置11は、既存の原子炉や加速器に比べて中性子N1の発生数が少ない反面、システム自体が廉価であるという特徴がある。このため、システムの価格や安全性の観点から設備の利用回数に大きな制約を受ける(多くは1回)原子炉や加速器とは異なり、特に制約なく複数回利用することができる。よって、本実施形態の医療用中性子照射装置11によれば、複数回の照射にて所望とする中性子照射量を得ることが可能となり、また、照射を複数回に分けることで一回の被ばく線量のリスクを軽減することが可能となる。
【0045】
(4)本実施形態の中性子発生装置21では、ガス収容体として、真空容器41の外部に配置されるとともに真空容器41に対して着脱可能に取り付けられるガスカートリッジ43を用いている。また、格納容器23はガスカートリッジ43を出し入れ可能な開閉構造を有している。従って、使用済みのガスカートリッジ43を取り外して新しいものに取り換えることができる。そのため、炉心ユニット22におけるガスカートリッジ43以外の部分を再使用することができ、経済性が向上するとともに装置の保守を簡便に行うことができる。また、この格納容器23は炉心ユニット22全体についても出し入れ可能であるため、放射化した可能性のある炉心ユニット22全体を取り出して廃棄する一方で、炉心ユニット22を新しいものと交換して格納容器23を再使用することが可能となる。従って、従来装置に比べて、装置の保守を簡便に行うことができる。
【0046】
[第2の実施の形態]
以下、本発明の中性子発生システムを具体化した第2実施形態の医療用中性子照射装置について詳細に説明する。
図4は本実施形態の医療用中性子照射装置11における中性子発生装置21Aの概略図であり、
図5はその炉心ユニット22Aの概略図である。ここでは、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する一方、共通する部分については同じ部材番号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0047】
図4、
図5に示されるように、本実施形態の炉心ユニット22Aが有する真空容器41Aは、第1実施形態の真空容器41と外形が異なっている。即ち、第1実施形態のものが球状を呈していたのに対し、本実施形態のものは円筒状を呈したものとなっている。この真空容器41Aは、断面円形状の筒体71と、一対の蓋体72、73とによって構成されている。筒体71及び一対の蓋体72、73は、いずれも放射化しにくいSUS304、SUS316等のような金属材料を用いて構成されている。この真空容器41Aは、筒体71の一方の開口に第1蓋体72をスポット溶接して接合し、他方の開口に第2蓋体73をスポット溶接して接合することによって製造されている。なお、この真空容器41Aは接地電極としての陽極46を兼ねている。陽極46である真空容器41Aの上部にある第1蓋体72には導線49が電気的に接続されるとともに、その導線49は格納容器23の外部に引き出されて高圧電源12に電気的に接続されている。また、負極42及び制御グリッド48にそれぞれ電気的に接続された導線49も、第1蓋体72側から引き出され、格納容器23の外部にある高圧電源12に電気的に接続されている。同様に第1蓋体72側には減圧ポート51及び弁体52が設けられている。
【0048】
一方、第2蓋体73の下方外側にはガスカートリッジ43、ガス供給配管55及び開放弁44が配置されており、ガスカートリッジ43はガス供給配管55に対して着脱可能に取り付けられている。このガスカートリッジ43は真空容器41Aよりも小さく形成されたステンレス合金製の容器であり、真空容器41Aの数分の1程度の容積を有している。なお、第1実施形態ではガスカートリッジ43が横置きで配置されていたのに対し、本実施形態では真空容器41Aの中心軸線上において縦置きに配置されている。
【0049】
このように本実施形態の炉心ユニット22Aでは、筒体71と一対の蓋体72、73とを溶接接続することで構成された比較的単純な構造の真空容器41Aを用いている。そのため、第1実施形態のような球状のものに比べて、炉心ユニット22Aを簡単にかつ安価に製造することができる。また、軸線方向に直交する方向から見たときに、炉心ユニット22A全体をコンパクトなものにしやすくなる。よって、格納容器23の限られたスペースに複数の炉心ユニット22Aを配置するのに有利なものとなる。
【0050】
[第3の実施の形態]
以下、本発明の中性子発生システムを具体化した第3実施形態の製薬用中性子照射装置11Bを詳細に説明する。
図6は本実施形態の製薬用中性子照射装置11Bの概略図であり、
図7はその中性子発生装置21Bにおける炉心ユニット22Bの概略図である。ここでは、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する一方、共通する部分については同じ部材番号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0051】
図6、
図7に示されるように、本実施形態の炉心ユニット22Bは、第1実施形態の真空容器41と同じく球状の外形を呈する真空容器41Bを有するが、いくつかの構成を有していない点で異なっている。即ち、この炉心ユニット22Bにおいては、減圧ポート51及び弁体52をはじめ、ガス供給配管55及び開放弁44が省略されている。よって、真空容器41の内部空間45は流体的に何ら外部接続されておらず、閉じた状態となっている。そして、この真空容器41の内部空間45には、1パスカル程度に減圧された、希薄な状態の重水素ガスG1があらかじめ充填されている。
【0052】
なお、第1実施形態の格納容器23が開閉可能な構造を有するものであったのに対し、本実施形態の格納容器23Bは開閉可能な構造を有していない点で異なっている。そして、この中性子発生装置21Bでは、格納容器23Bが、炉心ユニット22Bにおける真空容器41B、負極42、碍子47及び制御グリッド48を全体的に覆うように格納している(
図6参照)。また、本実施形態の製薬用中性子照射装置11Bの場合、真空引きを行う必要がないことから、ポンプ14及び配管53が省略されている。
【0053】
次に、この製薬用中性子照射装置11Bの動作手順の一例について説明する。
【0054】
図6には、遮蔽壁61を介して試料載置台62Aが配置され、その試料載置台62A上に照射対象である薬剤66(具体的にはホウ素中性子捕捉療法に必要となるBNCT製剤)が入った容器67が載置されている。
【0055】
オペレータは、PC13を操作してまず高圧電源12を駆動し、負極42に高負電圧を印加する。このとき、既に真空容器41Bの内部空間45がごく低圧の重水素ガスG1で満たされているため、陽極46−負極42間にグロー放電が生じ、多量の重水素イオンや電子が生成される。生成された重水素イオンは、電極間にて加速され中空状の負極42の方向に移動する。そして、殆どの重水素イオンは、中空状の負極42を通り抜けて中心部に収束し、ヘッドオン衝突により核融合反応が誘起され、その結果として中性子N1が発生する。
【0056】
PC13は、中性子センサ17からの出力信号に基づいて中性子N1の量を常時検知し、中性子N1の発生を開始してから所定時間が経過して安定してきたらシャッター装置16を開くようにする。すると、中性子取出口31を介して中性子N1が装置外部に放射され、容器67内の薬剤66に中性子N1を照射することができる。このような中性子N1の照射によって、例えば、BNCT製剤の開発・製造において必須となるホウ素化合物集積度評価を行うこと等が可能となる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の製薬用中性子照射装置11Bの中性子発生装置21Bは、小型かつ簡単な構成であって取扱性にも優れたものとなっている。また、この構成によれば、重水素ガスG1の無駄を減らして使用量を最小限に抑えることができるとともに、保守を簡便に行うことができる。さらに、上記の優れた中性子発生装置21Bを備えた製薬用中性子照射装置11Bは、小型、簡便かつ低価格であって、実用的なものとすることができる。特に本実施形態の中性子発生装置21Bによると、あらかじめ重水素ガスG1を充填しておくことで炉心ユニット22Bの構成を簡略化することができる。よって、第1、第2実施形態の装置よりもさらに小型化、構成簡略化、低コスト化等を達成しやすくなる。
【0058】
[第4の実施の形態]
以下、本発明の中性子発生システムを具体化した第4実施形態の医療用中性子照射装置11を詳細に説明する。
図8は本実施形態の医療用中性子照射装置11の中性子発生装置21Cの概略図である。ここでは、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する一方、共通する部分については同じ部材番号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0059】
この中性子発生装置21Cは、中性子取出口31が下向きとなるように配置されるとともに、第1実施形態のものとは構造が異なるシャッター装置81を下面側に備えたものとなっている。このシャッター装置81は、減速材86として作用する液体(例えばホウ酸水など)を溜めるための減速材貯留空間83を有する装置本体82を備えている。装置本体82は例えばステンレス等の金属材料を用いて形成されていてもよいが、これに限定されるわけではない。装置本体82には減速材供給配管84が流体的に接続されており、その減速材供給配管84には減速材86が収容されている図示しないタンクが流体的に接続されている。また、減速材供給配管84の途上には、電磁弁等の弁体85が設けられている。なお、弁体85はPC13に電気的に接続される。
【0060】
その動作について説明すると、PC13は、高圧電源12等を駆動して中性子N1の発生を開始させた後、中性子センサ17からの出力信号に基づいて中性子N1の量を常時検知する。このとき、減速材貯留空間83内にまだ減速材86は溜められておらず、弁体85も閉状態にあるため、シャッター装置81はまだ閉じている。そのため、中性子取出口31のある方向に進んだ中性子N1はシャッター装置16により阻まれることなく、そこを通過した後に中性子取出口31を介して装置外部に放射される。その結果、照射対象である患者63の頭部に中性子N1を照射することができる。
【0061】
このような治療を開始した後、中性子N1の発生量が所定値に達したことが検知された場合、PC13は弁体85を駆動して開状態に切り替える。すると、減速材貯留空間83内に減速材86が流入し、シャッター装置81が閉じた状態となる。このとき、中性子取出口31のある方向に進んだ中性子N1は、減速材86により捕捉されることでシャッター装置81に阻まれ、中性子取出口31を介して装置外部に放射されなくなる。その結果、患者63への中性子N1の照射を停止し、治療を終了する。
【0062】
なお、中性子N1の照射を行っている間、例えば減速材貯留空間83内における減速材86を増量して減速材86の深さ(厚さ)を大きくする。この場合、中性子N1が減速されやすくなり、中性子取出口31を通り抜ける中性子N1の量が少なくなる結果、シャッター装置81の開度が小となる。逆に、図示しない排出ポートから減速材86を排出し、減速材貯留空間83内における減速材86を減量して減速材86の深さ(厚さ)を小さくする。この場合、中性子N1が減速されにくくなり、中性子取出口31を通り抜ける中性子N1の量が多くなる結果、シャッター装置81の開度が大となる。以上の結果、中性子N1の照射量を適宜調整することもでき、必要なときだけ所定量の中性子N1を外部に出力させることができる。そして、上記のようなシャッター装置81によると、比較的単純な機構により開度変更を実現することができる。
【0063】
[第5の実施の形態]
以下、本発明の中性子発生システムを具体化した第5実施形態の中性子ラジオグラフィ装置11Dを
図9に基づいて詳細に説明する。
【0064】
この中性子ラジオグラフィ装置11Dは、照射対象91に中性子N1を照射するとともにそれを透過した中性子N1を検知して照射対象(撮像対象)91の内部の様子をイメージングするための装置である。ここでは、上記照射対象91として、例えば鉄筋等が埋設されたコンクリート構造物などが選択される。
【0065】
図9に示されるように、この中性子ラジオグラフィ装置11Dは、中性子発生装置21、中性子検出装置92、回転駆動装置93、PC13、ディスプレイ94などを備えている。中性子発生装置21、中性子検出装置92、回転駆動装置93、ディスプレイ94は、いずれも制御装置であるPC13に電気的に接続されている。なお、この中性子ラジオグラフィ装置11Dは、PC13に電気的に接続された高圧電源12、ポンプ14、中性子センサ17及びシャッター装置16も備えているが、これらは図面では省略されている。
【0066】
中性子発生装置21は、照射対象91の近傍にて中性子取出口31を照射対象91側に向けるようにして配置されている。中性子検出装置92は、照射対象91を中心として中性子発生装置21と対峙するように配置されている。
【0067】
中性子検出装置92は、照射対象91を透過してきた中性子ビームの強度分布を可視化するために中性子N1を二次元的に検出する装置である。具体的にいうと、本実施形態では、中性子検出装置92として、蛍光コンバータ、鏡、高感度テレビカメラ及び暗箱により構成された中性子テレビシステムが用いられている。このシステムでは、蛍光コンバータが中性子強度を可視光の強度に変換し、その可視光を高感度テレビカメラが撮像することで、撮像データをPC13に電気信号として出力するようになっている。
【0068】
PC13は、中性子検出装置92が得た撮像データに基づきイメージを生成するイメージ生成部を備えている。PC13は生成されたイメージの表示データをディスプレイ94に出力するとともに、ディスプレイ94に中性子N1の強度分布画像を表示させる。
【0069】
回転駆動装置93は、中性子発生装置21及び中性子検出装置92に対してそれぞれ連結されている。回転駆動装置93は、
図9のような中性子発生装置21及び中性子検出装置92の対峙関係を維持した状態で照射対象91を中心としてこれらを同時に回転駆動させる。
【0070】
このように構成された中性子ラジオグラフィ装置11Dでは、中性子発生装置21を駆動させて中性子N1を発生させた後、中性子発生装置21及び中性子検出装置92を回転駆動させながら複数の位置において撮像データを取得する。つまり、照射対象91に対して様々な角度から中性子N1を照射し、撮像データを取得する。そして、この撮像データに基づきPC13がイメージの表示データを生成する結果、ディスプレイ94に中性子N1の強度分布画像が表示され、その画像をもって照射対象91の内部構造が把握できるようになっている。つまり、本実施形態においては、コンクリート構造物内に埋設された鉄筋の配設状態の良否や、コンクリート構造物内の欠陥などが把握可能となり、当該構造物の劣化を非破壊で検査することができる。以上説明したように、本実施形態の中性子ラジオグラフィ装置11Dは、上記の優れた中性子発生装置21を備えたものであるため、小型、簡便かつ低価格であって、実用的なものとすることができる。
【0071】
[第6の実施の形態]
以下、本発明を具体化した第6実施形態の中性子ラジオグラフィ装置11Eを
図10に基づいて詳細に説明する。ここでは、第5実施形態と異なる部分を中心に説明する一方、共通する部分については同じ部材番号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0072】
この中性子ラジオグラフィ装置11Eは、第5実施形態と同様に中性子検出装置92、回転駆動装置93、PC13、ディスプレイ94などを備えているほか、第5実施形態の中性子発生装置21とは構成の異なる中性子発生装置21Dを備えている。本実施形態の中性子発生装置21Dにおける格納容器23Aは、平面視で円弧状をなしている。この格納容器23A内には、ガスカートリッジ43及び開放弁44を各々備えた第2実施形態の炉心ユニット22Aが複数個並べて収容されている。円弧状をなす格納容器23Aの内周面側には、複数の炉心ユニット22Aに対応して複数の中性子取出口31が配置されている。なお、この中性子ラジオグラフィ装置11Eは、PC13に電気的に接続された高圧電源12、ポンプ14、中性子センサ17及びシャッター装置16も備えているが、これらは図面では省略されている。
【0073】
このように構成された中性子ラジオグラフィ装置11Dでは、PC13は中性子発生装置21Dにおける炉心ユニット22Aのうち、一方の端にあるもの1つをまず駆動し、それに対応した中性子取出口31から照射対象91に向けて中性子N1を照射させる。このとき、PC13はあらかじめ回転駆動装置93を駆動させ、照射対象91を中心として現在駆動中の炉心ユニット22Aと対峙する位置に、中性子検出装置92を配置させておく。当該位置での照射及び撮像が終了したら、PC13は次にそのすぐ隣の炉心ユニット22Aを駆動させるとともに、現在駆動中の炉心ユニット22Aと対峙する位置に中性子検出装置92を移動させる。このような動作を順次行い、最終的に他方の端にある炉心ユニット22Aによる照射を行い、様々な角度からの中性子照射に基づく撮像データを取得する(
図10参照)。
【0074】
そして、この撮像データに基づきPC13がイメージの表示データを生成する結果、ディスプレイ94に中性子N1の強度分布画像が表示され、その画像をもって照射対象91の内部構造が把握できるようになっている。以上説明したように、本実施形態の中性子発生装置21Dを備えた中性子ラジオグラフィ装置11Dは、小型、簡便かつ低価格であって、実用的なものとすることができる。特に本実施形態では、自身の移動を伴わずに照射対象91に向けて複数の角度から中性子N1を照射可能な中性子発生装置21Dを用いている。このため、中性子発生装置21Dを回転駆動させる必要がなくなる結果、回転駆動装置93の負荷が軽減され、回転駆動装置93を小型化することが可能となる。また、この中性子発生装置21Dの場合、1つの格納容器23A内に複数の炉心ユニット22Aが収容されているため、中性子N1を連続的に発生させることができる。
【0075】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0076】
・
図11に示される別の実施形態の中性子発生装置21Eのように、箱状をなす1つの格納容器23内に複数の炉心ユニット22Aが縦置きで並べられた状態で収容されていてもよい。なお、この図では3個×3個で配置した状態が示されているが、これに限定されない。
【0077】
・上記実施形態では、基本的に1つの炉心ユニット22、22Aにつきガスカートリッジ43及びの開放弁44を1つずつ設けたものを例示したが、1つの炉心ユニット22、22Aにつきガスカートリッジ43及び開放弁44を複数個ずつ設けてもよい。例えば、
図12に示される別の実施形態の中性子発生装置の炉心ユニット22Aは、ガスカートリッジ43及び開放弁44を3つずつ備えたものとなっている。あるいは、複数の炉心ユニット22、22Aにつき共通のガスカートリッジ43を1つ設けたものとしてもよい。例えば、
図13に示される別の実施形態の中性子発生装置では、3つの炉心ユニット22Aにつき共通のガスカートリッジ43が1つ使用されている。3つの炉心ユニット22Aを構成している各々の真空容器41Aと共通のガスカートリッジ43とは、3つに分岐したガス供給配管55を介して流体的に接続されている。このガス供給配管55の分岐部分には、それぞれ開放弁44が設けられている。
【0078】
・上記実施形態では、基本的に炉心ユニット22、22Aを構成する1つの真空容器41、41A、41B(陽極46)内に負極42及び制御グリッド48を1つずつ設けたものを例示したが、負極42及び制御グリッド48を複数個ずつ設けてもよい。例えば、
図13に示される別の実施形態の中性子発生装置の炉心ユニット22Aは、1つの真空容器41A(陽極46)内に負極42及び制御グリッド48が3つずつ設けられている。なお、負極42同士は互いに接続されている。制御グリッド48同士も互いに接続されている。
【0079】
・上記実施形態では、格納容器23の外壁35及び内壁36用の材料としてステンレス合金を使用したがこれに限定されず、例えば、鉄、鉛、カドミウム等といった金属材料を使用してもよい。
【0080】
・上記実施形態では、減速材収容室37内に収容する液体状の減速材38として重水を使用したが、これに代えて水、重水と水との混合液、ホウ酸水などを使用してもよいほか、黒鉛、パラフィン、コンクリート等のような固体状の減速材を使用することも可能である。また、上記第4実施形態では、減速材収容室37内に収容する減速材38としてホウ酸水を使用したが、これに代えて水、重水、重水と水との混合液などを使用してもよい。
【0081】
・上記実施形態では、重水素ガスG1を収容しておくためのガス収容体としてカプセル形状をなすガスカートリッジ43を使用したが、ガスカートリッジ43の形状はカプセル形状に限定されず、他の形状であってもよい。また、上記実施形態ではガス収容体を真空容器41とは別に設けてそれらを流体的に接続したが、これに限定されない。例えば、真空容器41の一部にガス収容体となる部分を設け、その部分と内部空間45とを隔壁を介して隔てた構造としてもよい。
【0082】
・上記実施形態では、開放弁44として、外部からの信号入力により容易に閉操作が可能な電磁弁を使用したがこれに限定されない。例えば、流体圧を利用した弁体や、機械的に駆動可能な弁体を開放弁44として用いても勿論よい。
【0083】
・上記実施形態では、球状または筒状の真空容器41、41Aを例示したが、このような形状のみに限定されず、他の形状であってもよい。
【0084】
・上記実施形態では、真空容器41、41Aと負極42との間に制御グリッド48を配置したものを例示したが、制御グリッド48は必須の構成ではないため省略されてもよい。
【0085】
・上記第5、第6実施形態では、中性子検出装置92として中性子テレビシステムを用いたが、これに限定されない。例えば、中性子イメージングプレート等を用いても勿論よい。
【0086】
・上記第5、第6実施形態では、照射対象91を固定状態とし、中性子発生装置21や中性子検出装置92を回転駆動装置93によって回転させる構成としたが、これに限定されない。例えば、中性子発生装置21や中性子検出装置92を固定状態とし、照射対象91を例えば回転駆動装置93等により回転させるようにしてもよい。後者の構成の場合、前者の構成に比べて廉価な装置とすることができる。
【0087】
・上記実施形態では、水素同位体ガスとして重水素ガスG1を使用したがこれに限定されず、例えば三重水素ガスを用いてもよい。あるいは、重水素と三重水素ガスとを含むガスを用いても勿論よい。
【0088】
・上記実施形態では、医療用中性子照射装置11を用いてBNCTを行う例を示したが、BNCT以外の放射線治療にこの医療用中性子照射装置11を用いることも勿論可能である。また、上記実施形態では製薬用中性子照射装置11Bを用いてBNCT製剤を製造する例を示したが、BNCT製剤以外の薬品の製造や検査にこの製薬用中性子照射装置11Bを用いることも勿論可能である。
【0089】
・上記実施形態では、中性子ラジオグラフィ装置11D、11Eを用いてコンクリート構造物の非破壊検査を行う例を示したが、これに限定されない。例えば、この中性子ラジオグラフィ装置11D、11Eは、配管内部の状態検査、内燃機関内における燃料の輸送状況観察、航空機エンジンに代表される各種タービンブレードの検査、機体のハニカム構造材の腐食検査、燃料電池内における流体の移動状況の観察などに利用されてもよい。さらに、このような工業分野での利用以外にも、例えば美術品の内部検査などといった美術分野で利用されたり、土壌中における根の生育調査などといった農業分野で利用されたりすることが可能である。