【解決手段】2価の金属がZnである層状複水酸化物であり、X線回折によって測定された炭酸イオン以外の陰イオンを取り込んだ結晶相の回折強度の合計(It)と炭酸イオンを取り込んだ結晶相の回折強度(Ic)の強度比(It/Ic)が1以上であるイオン伝導性材料。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物(以下、LDHともいう)は、層状の水酸化物層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びH
2Oを有する物質であり、その特徴を活かして触媒や吸着剤、耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。
【0003】
また、LDHは近年イオン伝導性材料としても注目され、アルカリ形燃料電池の電解質や亜鉛空気電池の触媒層への添加についても検討されている。更に、アルカリ電解質を用いる燃料電池および二次電池(アルカリ形燃料電池、アルコール型燃料電池、金属-空気二次電池、ニッケル水素二次電池およびZn-Ni二次電池) 用電解質としての使用についても期待されている。
【0004】
しかしイオン伝導性材料としての使用に関して主に検討されているLDHは、層間に炭酸イオンをインターカレートしたMg/Al系の層状複水酸化物であり、2価金属としてZnを使用した層状複水酸化物のイオン伝導体としての検討はほとんど行われていない。これは、Znを含むLDHは、Mg/Al系のイオン伝導体に比べて製造が困難であり、不純物としての酸化亜鉛を生じやすいこと等が原因であると推測される。また、層間に炭酸イオン以外のイオンをインターカレートした層状複水酸化物についても十分な検討がなされていない。これもまた、炭酸イオンをインターカレートした層状複水酸化物は製造が容易であることによると推測される。
【0005】
イオン伝導性材料としての使用を実用化するためには、高いイオン伝導性を有することが好ましい。このため、従来検討されているMg/Al系の層状複水酸化物よりも高いイオン伝導性を有する層状複水酸化物が見いだされれば、これは電池への使用に際してより望ましい化合物になる。
【0006】
従来の炭酸イオンがインターカレートした層状複水酸化物の製造方法としては、原料となる金属化合物を尿素を含有する水性媒体中で加熱する方法が公知である。このような方法に従うと、加熱することで徐々に尿素が分解され、これによってpHが変化して層状水酸化物が形成されるとともに、尿素の分解で発生した炭酸イオンが層間にインターカレートされる。
【0007】
このような製造方法は、炭酸イオンがインターカレートしたLDHの製造方法においては適しているが、炭酸イオンの含有量が小さいLDHの製造方法には適していないと考えられていた。このため、このような製造方法によって炭酸イオンがインターカレートしたLDHを製造し、この炭酸イオンを他の陰イオンに置換することが行われている。しかし、このような方法では、充分に炭酸イオン量を低減することができない。
【0008】
特許文献1においては、イオン伝導体として使用できる層状複水酸化物が開示されている。しかし、ここで開示されているのは、Mg/Al系の層状複水酸化物であり、2価金属として亜鉛を使用した複水酸化物系の層状複水酸化物に関して具体的には記載されていない。
【0009】
特許文献2においては、Ni,Al,Ti,Znを含む複水酸化物について記載されている。しかし、ここで使用されているのは、多くの種類の金属を含む複水酸化物である。また、尿素を使用した複水酸化物の製造方法が開示されているが、炭酸イオンが層間に取り込まれた状態になることが明らかにされている。
【0010】
特許文献3においては、LDHをセパレータとする固体アルカリ形燃料電池が開示されている。しかし、ここでもLDHとしては、Mg/Al系のもののみが具体的に記載されており、2価金属として亜鉛を使用したものは具体的には記載されていない。
【0011】
更に、上述した特許文献1〜3においては、尿素を使用したLDHの製造方法が記載されている。しかし、このような方法は、尿素の分解によって発生した炭酸イオンが層間に取り込まれたものを製造する方法として適用されている。したがって、層間における炭酸イオンの存在量が小さいLDHを直接製造する製造方法については記載されていない。
【0012】
特許文献4においては、尿素を使用したLDHの製造方法において、その後、炭酸イオンを除去することが記載されている。しかし、これらの方法によって得られたLDHは、炭酸イオンを完全に除去することは困難であり、一定量の炭酸イオンが残存してしまう。
【0013】
特許文献5においては、酸化亜鉛、酸化アルミニウムを原料としたLDHの製造が記載されている。しかし、このような製造方法で得られたLDHは酸化亜鉛が残存してしまい、これによって、伝導性に悪影響を与えるという問題を生じてしまう。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、2価金属が亜鉛である層状複水酸化物であるイオン伝導性材料である。更に、層間に取り込まれるイオンにおいて、炭酸イオンに由来する相が少ないことに特徴を有する。
本発明は、2価金属が亜鉛であり、炭酸イオンの量を低減したLDHは、公知のイオン伝導性材料よりもイオン伝導度が大幅に改善されることを見出すことによって本発明を完成した。
【0027】
本発明における層状複水酸化物は、
[Zn
1−xM
IIIx(OH)
2][A
n−x/n]・mH
2O
M
IIIは3価の金属種としてAl、Fe及びCoからなる群より選択される少なくとも1であり、A
n−は、n価のアニオンを示す。
0.25≦x≦0.50
0≦m<2
で表される化学構造を有するものであることが好ましい。
【0028】
また、一般式中のZnの一部がその他の2価の金属で置換されたものであってもよい。置換していてもよい2価の金属としては特に限定されず、Mg、Ca、Cu、Zr、Co、Ni、Fe、Mn等を挙げることができる。この場合、2価金属のうち、50モル%以上が亜鉛であることが好ましい。更に好ましくは、60モル%以上が亜鉛であることが好ましく、80モル%以上が亜鉛であることが好ましい。
【0029】
上記一般式中、M
IIIは3価の金属をあらわし、Al、Fe及びCoからなる群より選択される少なくとも1であることが好ましい。この場合、Alが3価金属のうち、50モル%以上であることが好ましい。更に好ましくは、60モル%以上がAlであることが好ましく、80モル%以上がAlであることが好ましい。Alを使用した層状複水酸化物は、安価であること、価数変化がなく安定性に優れる等の観点から特に好ましいものである。
【0030】
一般式中のA
n−は特に限定されるものではないが、例えば、硝酸イオン、水酸化物イオン、塩化物イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、ドデシル硫酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンからなる群より選択される1以上とすることができる。これらのなかでも、特に、硝酸イオンであることが好ましい。硝酸イオンは、イオン伝導性に優れ、本法において容易に合成することができるという点で好ましいものである。
【0031】
本発明のLDHは炭酸イオンの含有量が少ないものである。この炭酸イオン量の指標としては、粉末X線回折測定より得られた炭酸イオン型LDHの(003)ピーク(Ic)及びその他の陰イオン型のLDHの(003)ピークの回折強度の合計(It)の比、(It/Ic)が1以上であることを特徴とするものである。このようなものは特に、イオン伝導性能において優れるものである。
上記強度比は、3以上であることがより好ましく、17以上であることが更に好ましい。
【0032】
なお、上記(It/Ic)の上限は、特に限定されるものではなく、Ic=0であっても何ら差し支えない。
【0033】
上述したように、本発明のLDHで層間に含まれる陰イオンは、硝酸イオンであることが好ましい。この場合、X線回折によって測定された硝酸イオンを取り込んだ結晶相の回折強度(In)と炭酸イオンを取り込んだ結晶相の回折強度(Ic)の強度比(In/Ic)が上述した(It/Ic)の範囲内であることが好ましい。
【0034】
本発明のイオン伝電性材料は、酸化亜鉛の含有量が1重量%未満であることが好ましい。酸化亜鉛の含有量を低減させることで、イオン伝導率をより高めることができる点で好ましい。なお、上記「酸化亜鉛の含有量」は、実施例において詳述した方法に従って、XRDで測定した値である。
【0035】
すなわち、従来、亜鉛を構成成分の一部とするLDHは、酸化亜鉛が混在しやすいという問題が知られていた。特に、金属酸化物を原料としてLDHを製造した場合、原料としての酸化亜鉛が残存することで、上述した問題を生じていた。本発明においては、高いイオン伝導性を有するLDHとすることが好ましいものであるが、酸化亜鉛の混在量が多いものは、高いイオン伝導性を得ることが困難であった。本発明においては、酸化亜鉛の含有量を1重量%未満とすることで、イオン伝導性という点で好ましいものとなる。
【0036】
本発明のイオン伝導性材料は、その粒子形状や、粒子サイズ等を特に限定するものではないが、例えば、粒子サイズの減少に伴い、イオン伝導度の向上が予測される。このため、粒子径10μm以下とすることが好ましい。ここでの粒子径は、電子顕微鏡写真中の50個の粒子についての長径を測定し、これらの長径を平均する方法で測定した値である。
【0037】
本発明の層状複水酸化物の製造方法は、特に限定されるものではないが、炭酸イオンが層間に取り込まれないような製造条件を選択することが好ましい。更に、水性媒体中での反応において尿素を使用し、これを熱分解させることで、発生したアンモニアによって、pHを高くする(例えば、pH7.0以上)ことで、層状複水酸化物を形成することが好ましい。
【0038】
尿素を使用した製造方法は、層状複水酸化物の製造方法としては公知の方法である。これは、加熱下で尿素が熱分解されることで生じたアンモニアによってpHをコントロールするものである。
しかし、尿素の熱分解においては、アンモニアに加えて炭酸イオンが発生する。層間に炭酸イオンがインターカレートされた層状複水酸化物を得るのであれば、このような炭酸イオンの存在は好ましいものであるが、本発明のように炭酸イオン量が低減された層状複水酸化物を得る上では、このような炭酸イオンの発生は好ましいものではない。
【0039】
本発明においては、このような点を考慮し、開放系での反応を行う製造方法を採用することで、炭酸イオン量が低減された層状複水酸化物を得ることができた。すなわち、本発明においては、炭酸イオンを含まないものとするため、系中から炭酸ガスを留出させることで、炭酸イオンが系中に残存しないようにすることが好ましい。具体的には、開放系で加熱・還流させる方法を挙げることができる。
【0040】
「加熱・還流」とは、反応溶液を開放条件下で水の沸点以上の温度で加熱しながら反応を行い、開放系の出口経路中に冷却管を設け、揮発した水蒸気を再度冷却して水として反応容器中に戻しながら反応を行うことを意味する。このような方法で反応させることによって、炭酸ガスが除去され、炭酸イオン量が小さい層状複水酸化物を得ることができる。
【0041】
反応は、原料となる金属化合物を、目的とする複水酸化物中の金属量に対応した混合比で水に溶解・分散させ、更に尿素を添加し、加熱条件下で還流させることによって行うことができる。
【0042】
反応溶液中の金属塩化合物濃度は、2価および3価の金属モル濃度を0.15Mとしたが、原理的にいかなる濃度においても問題なく層状複水酸化物の合成が可能である。
【0043】
反応混合物中への尿素の添加量は、尿素/M
III=1.0〜4.0(質量比)の範囲内であることが好ましい。本発明においては、亜鉛を含むものであることから、急激なpH変化を生じさせると、酸化亜鉛が生じるおそれがある。更に、炭酸イオンを含まないものとすることが好ましいため、上記範囲内で尿素を使用することによって、pHの変化を緩やかなものとすることが好ましい。
【0044】
本発明は、上述したような範囲内で尿素を使用することによって、LDH中に二酸化炭素の原子がインターカレートされにくくなる点も重要な特徴となる。すなわち、本発明者らの検討により、上述した特定の範囲で尿素を使用することによって、二酸化炭素原子がインターカレートされにくくなることが明らかとなった。このため、このような条件下で反応を行い、反応系中に存在するその他の陰イオンがインターカレートされることとなる。
例えば、原料として硝酸亜鉛や硝酸アルミニウムなどを使用すると、反応系中に存在する硝酸イオンがインターカレートされ、これによって本発明のLDHを好適に得ることができ、一段階で層間の炭酸イオンが少ないものを得ることができる。
【0045】
更に、上述した方法で得られたLDHは、酸化亜鉛の混在率を低くすることができる点でも好ましい。亜鉛系のLDHにおいては、酸化亜鉛が混在しやすく、酸化亜鉛の混在量が少ないLDHを得ることが望まれていた。特に、本発明における高いイオン伝導率を得るためには、酸化亜鉛の混在量が少ないことが好ましい。
【0046】
上記反応において、原料として使用される金属塩化合物としては、層状複水酸化物の層間にインターカレートされる陰イオンと金属との塩化合物が好ましい。具体的には、層間に硝酸イオンがインターカレートした化合物を得るためには、硝酸塩化合物を原料として使用することが好ましい。また、炭酸塩化合物を使用すると、層間に炭酸塩がインターカレートした化合物となりやすいため、好ましくない。
【0047】
反応条件としては、炭酸イオンが炭酸ガスとして系外に排出されやすい条件を選択することが重要である。すなわち、反応時の系を開放系として、反応温度も80
oC以上の高温とすることが好ましい。処理時間は、6〜72時間とすることが好ましい。反応容器としても開放系の容器を使用することが好ましい。
【0048】
また、更に炭酸イオンの含有量を低減させるために、アルゴン、窒素等の不活性ガスをバブリングしながら反応を行うこともできる。このような手法とすることで、炭酸イオン量をより低減させることができる。
【0049】
また、上記一般式A
n−の構造を導入するために、当該構造に対応した化合物を上記混合物中に混合するものであってもよい。この場合、対応する酸を系中に添加することによって行うことができる。
【0050】
得られた層状複水酸化物は、必要に応じて濾過・水洗・乾燥することで、粉体の状態のものとすることができる。
【0051】
本発明は、上述した層状複水酸化物によって形成された機能層でもある。すなわち、上述した層状複水酸化物を公知の任意の方法によって層形状に成形したものでもある。このような層構造への形成は、特に限定されず、圧縮成形による方法、バインダー樹脂を添加して樹脂の成形によって層構造を形成する方法等を挙げることができる。バインダー樹脂を使用する場合、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂、エネルギー線硬化性樹脂等の硬化性樹脂であってもよい。
【0052】
更に、機能層としては、特に限定されず、一次、二次電池の固体電解質層、電池のセパレータ層、電極活物質層等に使用することができる。また、使用する目的に対応して、必要に応じて、その他の成分を混合して機能層を形成したものであってもよい。
【0053】
本発明は、上記機能層を少なくとも一部に備えた電池でもある。本発明の機能層は、イオン伝導性材料からなるものであることから、電池における機能層として特に好適に使用することができる。特に、全固体電池の固体電解質層として、特に好適に使用することができる。
【0054】
また、使用できる電池の種類としては特に限定されず、アルカリ電解質を用いる燃料電池 (アルカリ形燃料電池、アルコール型燃料電池)、および二次電池(金属-空気二次電池、ニッケル水素二次電池およびZn-Ni二次電池)用電解質等を挙げることができる。また、原理を同じくした上記一次電池としても使用できる。
【0055】
電池を形成する場合、本発明の機能層以外の層を構成する成分としては、各電池において一般的に使用される層構成とすることができる。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例によって本発明のイオン伝導性材料について更に詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
冷却器を備えた二つ口フラスコに、Zn(NO
3)
2・6H
2OとAl(NO
3)
3・9H
2Oを[Zn
2+ + Al
3+] = 0.15 mol dm
-3(Zn/Al モル比 =2.0)となるように超純水に完全に溶解させ、次に尿素をAl
3+とのモル比Urea / Al
3+ =3.0となるように添加し、水溶液を調製した。調製した溶液を還流下で、オイルバススターラーを用いて反応容器を120
oCで一定に保ちながら24時間攪拌加熱した。生成した沈殿物は遠心分離後、超純水で十分に洗浄し、恒温槽中で70
oCに保ちながら24時間乾燥させて実施例1の固体を得た。
【0058】
(比較例1)
冷却器を備えた二つ口フラスコに、Zn(NO
3)
2・6H
2OとAl(NO
3)
3・9H
2Oを[Zn
2+ + Al
3+] = 0.15 mol dm
-3(Zn/Al モル比 =2.0)となるように超純水に完全に溶解させ、次に尿素をAl
3+とのモル比Urea / Al
3+ =9.0となるように添加し、水溶液を調製した。ウォーターバススターラーを用いて反応容器を120
oCで一定に保ちながら24時間攪拌加熱した。生成した沈殿物は遠心分離後、超純水で十分に洗浄し、恒温槽中で70
oCに保ちながら24時間乾燥させて比較例1の固体を得た。
【0059】
(比較例2)
Mg(NO
3)
2・6H
2OとAl(NO
3)
3・9H
2Oを[Zn
2+ + Al
3+] = 0.15 mol dm
-3(Mg/Al モル比 =2.0)となるように超純水に完全に溶解させ混合金属水溶液を調製する。二つ口フラスコに炭酸ナトリウム0.15 mol dm
-3となるように超純水に完全に溶解させた。炭酸ナトリウム水溶液を250〜300rpmで攪拌させながら、混合金属水溶液を滴下速度30ml/minで滴下する。これと同時に1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpH8〜10となるように滴下する。混合金属水溶液を滴下後、密閉状態で80
oCで一定に保ちながら24時間攪拌加熱した。生成した沈殿物は遠心分離後、超純水で十分に洗浄し、恒温槽中で70
oCに保ちながら24時間乾燥させて比較例2の固体を得た。
【0060】
比較例3
二つ口フラスコで、94.5gの酸化亜鉛を250mlのイオン交換水に懸濁させた。これとは別に、硝酸アルミニウム9水和物145.1gを500mlのイオン交換水に溶解させた。酸化亜鉛懸濁液を攪拌しながら、ここに硝酸アルミニウム水溶液を投入した。投入後、2分間攪拌した後、90
oCで5日間熟成を行った。熟成後、固体をイオン交換水にて洗浄し、得られた固体を70
oCで乾燥した。
【0061】
実施例1、比較例1、2、3の結晶構造を、X線回折装置(RIGAKU製 Smart Lab 3K/PD/INP)を用いて同定した。またX線源としてCuKa線を用い、2θ/θ法にて走査範囲5°-75°、管電圧40kV、管電流30mA、スキャン速度10°min
-1、サンプリング幅0.01396°の条件で測定した。
【0062】
実施例1のXRD回折パターンよりLDH特有の(003),(006),(009),(110)面ピークが得られたことからLDHであることを確認した。また、2θ=10°付近に観測される(003)面の基本面間隔より硝酸イオンをインターカレートしたLDHであることが確認され、2θ=11.7°付近に観測される炭酸イオンをインターカレートした相が認められず硝酸イオンをインターカレートした単相であることが認められた。更に、ここでの、In/Ic(Inは、硝酸イオンがインターカレートした相の強度である)は、17以上(実質的に炭酸イオンをインターカレートした相が観察されなかった)であった。
【0063】
また、実施例1の物質のXRDの結果においては、酸化亜鉛に由来するピークは全く観測されなかった。したがって、酸化亜鉛の混在がみられないことは明らかである。
【0064】
比較例1及び2のXRD回折パターンからも(003),(006),(009),(110)面ピークが得られたことからLDHであることを確認した。2θ=11.7°付近に観測される(003)面の基本面間隔より炭酸イオンをインターカレートしたLDHであることが確認された。すなわち、実質的に、It=0に近いLDHであることから、更に、It/Icは、比較例1、2では約0であった
【0065】
比較例1の結果より一般的に尿素を用いた合成法では、尿素の熱分解反応によって生じる炭酸イオンが層間に取り込まれ炭酸型LDHが生成する。一方、本発明法では開放型の試験容器を用いているため、熱分解によって生成する炭酸が熱分解初期の酸性雰囲気時に遊離し、原料由来の硝酸イオンのインターカレーションにより硝酸型LDHが生成することができると考える。
【0066】
比較例3のLDHについて、XRD測定を行ったところ、硝酸イオンをインターカレートした相のほかに、2θ=26.2°に酸化亜鉛による回折ピークを観察した。
比較例3の物質について、標準物質として酸化アルミニウムを使用して酸化亜鉛の含有量を測定した。具体的な方法は以下のとおりである。
まず、酸化アルミニウムの2θ=35.2°と酸化亜鉛の2θ=36.2°の強度比(I
ZnO/I
Al)により検量線を作成した。検量線は、
図1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
比較例3の物質に、30モル%となるように酸化アルミニウムを混合し、評価した結果、I
ZnO/I
Alの値により比較例3の物質には2重量%の酸化亜鉛が共存していることが判明した。
【0069】
電気化学インピーダンス法を用いて実施例1及び比較例1、2、3のイオン伝導度を測定した。実施例1及び比較例1、2、3の粉末を金型に充填し30MPaで加圧させ、厚さ約1.0 mm、半径7mmのペレットに成型した。ペレット両面に30mAで120秒間Auスパッタしたサンプルを金電極で挟み込み、四端子法でインピーダンスアナライザー( Bio-Logic - Science Instruments. SP-200 )に接続し、振幅を 100mV、周波数範囲を1M Hz - 1Hzの条件でイオン伝導率を測定した。すべてのイオン伝導度測定は80
oC、80%RHの恒温恒湿槽内で行った。
以下表2に実施例1及び比較例1、2、3のイオン伝導度の結果を纏めた。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1のイオン伝導率は炭酸イオン型の比較例1よりも高いイオン伝導率であることが認められる。また、MgAl系層状複水酸化物である比較例2よりも高いイオン伝導率であることも認められることから、本発明により得られる実施例1は、高いイオン伝導性を有している。
【0072】
更に、実施例1は、酸化亜鉛を原料として製造した、比較例3のLDHよりも顕著に優れたイオン伝導率を示すものであった。
【0073】
実施例1のLDHをペレット状に圧粉体として成形した。この電解質ペレットの両面およびガス拡散電極のペレットとの接触面にPtスパッタ膜を製膜し、温度80
oC、相対湿度80%の条件で燃料極に水素を同条件で加湿しながら発電試験を行った。その結果、約20mW/cm
2の発電を行うことができた。この結果から、本発明のLDHは、電池電解質としての機能を保有していることが明らかとなった。