特開2020-41055(P2020-41055A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-41055(P2020-41055A)
(43)【公開日】2020年3月19日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 133/16 20060101AFI20200225BHJP
   C10M 137/02 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 137/04 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 135/36 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 135/04 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 135/06 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 145/16 20060101ALI20200225BHJP
   C10M 145/12 20060101ALI20200225BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20200225BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20200225BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20200225BHJP
【FI】
   C10M133/16
   C10M137/02
   C10M137/04
   C10M129/54
   C10M135/10
   C10M135/36
   C10M135/04
   C10M135/06
   C10M145/16
   C10M145/12
   C10N20:02
   C10N30:06
   C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2018-169400(P2018-169400)
(22)【出願日】2018年9月11日
(71)【出願人】
【識別番号】517157134
【氏名又は名称】EMGルブリカンツ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】本多 高士
(72)【発明者】
【氏名】金子 博之
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB24C
4H104BE11C
4H104BG02C
4H104BG04C
4H104BG06C
4H104BG19C
4H104BH02C
4H104BH03C
4H104CB07C
4H104CB09C
4H104EA02A
4H104LA03
4H104PA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低粘度でも、耐摩耗性、耐焼付き性、ギヤ疲労耐性、及びベアリング疲労耐性に優れ、高い電気絶縁性を有し、材料適合性に優れる潤滑油組成物の提供。
【解決手段】(A)潤滑油基油(B)金属清浄剤(C)リン系極圧剤(D)硫黄系極圧剤(E)下記式で表されるポリα−オレフィン含有(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド、

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数6〜14のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位を有する炭素数20〜1000のポリα−オレフィン構造であり、aは1〜10の整数である)及び(F)有機摩擦調整剤を含み、前記(C)リン系極圧剤が(C1)亜リン酸エステル又はホスホン酸エステル及び(C2)炭素数11〜30のアルキル基を有する酸性リン酸エステルを含み、かつ100℃動粘度1.5〜5mm/sの潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油、
(B)金属清浄剤、
(C)リン系極圧剤、
(D)硫黄系極圧剤、
(E)下記式で表される、ポリα−オレフィン含有(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド
【化1】
(式中、Rは、互いに独立に、炭素数6〜14のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位を有する、炭素数20〜1000のポリα−オレフィン構造であり、aは1〜10の整数である)
及び
(F)有機摩擦調整剤
を含む潤滑油組成物において、
前記(C)リン系極圧剤が、
(C1)亜リン酸エステル又はホスホン酸エステル、及び
(C2)炭素数11〜30のアルキル基を有する酸性リン酸エステルを含み、
かつ
100℃動粘度1.5〜5mm/sを有することを特徴とする、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(A)潤滑油基油が100℃における動粘度1〜4.5mm/sを有する、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B)金属清浄剤が、カルシウムサリシレート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート及びマグネシウムスルホネートから選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(B)金属清浄剤が全塩基価50〜600mgKOH/gを有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記(C1)亜リン酸エステルが炭素数4〜30のアルキル基を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記(C1)ホスホン酸エステルが炭素数4〜30のアルキル基を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記(C2)酸性リン酸エステルが炭素数11〜20のアルキル基を有する、請求項1〜6いずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記(D)硫黄系極圧剤が、チアジアゾール、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステルから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記(D)硫黄系極圧剤が活性硫黄量0.5〜15質量%を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
(E’)ホウ素化されたポリブテニルコハク酸イミドをさらに含む、請求項1〜9いずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記(F)有機摩擦調整剤が、エステル系摩擦調整剤、アミン系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤、及びイミド系摩擦調整剤の中から選択された少なくとも1つである、請求項1〜10いずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
更に(G)鎖状不飽和(ジ)カルボン酸又はその無水物又はエステルとビニル化合物との共重合体を含む、請求項1〜11のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
(G)成分が、フマル酸アルキルエステル・酢酸ビニル共重合体である、請求項12のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
−40℃におけるブルックフィールド粘度が6〜12Pa・sである、請求項12又は13記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が2〜4.6mm/sであることを特徴とする、請求項1〜14いずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
ハイブリッド自動車用である、請求項1〜14のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
電気自動車用である、請求項1〜14のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
燃料電池自動車用である、請求項1〜14のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
変速機油用である、請求項1〜18のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
ギヤ油用である、請求項1〜18のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物、特に、自動車用として適用できる潤滑油組成物、より好適にはハイブリッド自動車、電気自動車又は燃料電池自動車に使用される潤滑油組成物、さらに好適にはこれらの自動車のギヤ油又は変速機油として使用できる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は自動車用及び機械用など多岐の用途に使用されている。近年、自動車用潤滑油組成物の低粘度化が、省燃費化の観点から求められている。しかし潤滑油組成物の低粘度化は油膜形成能に影響を及ぼす。低粘度化は、本来省燃費を実現させるためのものであるが、従来の潤滑油組成物として使用されたものをそのまま低粘度化しても、油膜形成能に劣るため、かえって摩擦が高くなることによって、省燃費を実現できなくなる場合がある。また、低粘度化によって、油膜形成能が低下すると、金属同士の直接的な接触が起こる結果、十分な潤滑がおこなわれなくなり、その結果として摩耗が激しくなるため、潤滑油組成物としての機能を十分に果たさなくなる。
【0003】
自動車用潤滑油組成物は、近年ハイブリッド自動車、電気自動車又は燃料電池自動車に使用されることがあり、その場合は低粘度化による省燃費化だけでなく、耐摩耗性、耐焼付き性、高度なギヤ疲労特性、高度なベアリング疲労特性、低摩擦特性、及び高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)が求められる。さらに自動車用部材に対する潤滑油の適合性も求められる。従前に使用されている潤滑油組成物を単に低粘度化しても、これらの特性を確保することは極めて困難である。
【0004】
特許文献1には、潤滑油基油と、重合性不飽和結合を有するエステル単量体とα−オレフィンとの共重合体と、構成元素としてリン、硫黄及びホウ素を含む性能添加剤とを含有する潤滑油組成物が記載されており、耐摩耗性、耐焼付き性、及び省燃費性に優れることが記載されている。特許文献2には、100℃における動粘度が1.0mm/s以上3.0mm/s以下である潤滑油基油と、構成元素としてリン、硫黄及びホウ素を含む性能添加剤と、ポリアルキルコハク酸イミド及びポリアルケニルコハク酸イミドからなる群より選ばれる少なくとも1種のコハク酸イミド化合物と、重合性不飽和結合を有するエステル単量体とα−オレフィンとの共重合体とを含有する潤滑油組成物が記載されており、該潤滑油組成物は消泡性、耐摩耗性、耐焼付き性、及び省燃費性に優れると記載されている。特許文献3は、基油として特定性状を有するワックス異性化基油及び/又はポリアルファオレフィンを用い、さらに特定の摩擦調整剤、硫黄系極圧剤、及び非ホウ酸変性分散剤を組合せることにより、低粘度化による高い省燃費性、ユニット部材耐久性、及び経済性を満足する潤滑油組成物を提供することを記載している。しかしこれらの文献はいずれも、高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)については全く言及していない。
【0005】
特許文献4には、100℃の動粘度が2〜2.5mm/sである鉱油に、特定構造の粘度指数向上剤を使用することによって、高い粘度指数を有する潤滑油組成物が開示されている。しかし、該特許文献4に記載の潤滑油組成物は100℃の動粘度4mm/s以上を有するものであり、また添加剤処方は一般的な添加剤が記載されているのみであり詳細な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−190918号公報
【特許文献2】特開2016−190919号公報
【特許文献3】特開2017−138393号公報
【特許文献4】特開2017−155193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、低粘度化しても、耐摩耗性、耐焼付き性、ギヤ疲労耐性、及びベアリング疲労耐性等の部品保護性能に優れ、高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)を有し、且つ材料適合性にも優れる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0008】
尚、本発明において材料適合性とは、シリコーン液状ガスケットの硬化物に対する適合性を意味する。適合性とは、シリコーン硬化物を潤滑油組成物に浸漬した際に、該シリコーン硬化物の強度低下や変形が少なく、硬化物が潤滑油組成物に溶出しないことを意味する。
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、金属清浄剤、特定のリン系極圧剤、硫黄系極圧剤、及び有機摩擦調整剤を必須に含有し、且つ、下記特定構造を有するコハク酸イミドを含有する潤滑油組成物が、低粘度化しても耐摩耗性、耐焼付き性、ギヤ疲労耐性、及びベアリング疲労耐性等の部品保護性能に優れ、高い体積抵抗率を有し、且つシリコーンに対する材料適合性を有することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
(A)潤滑油基油、
(B)金属清浄剤、
(C)リン系極圧剤、
(D)硫黄系極圧剤、
(E)下記式で表されるポリα−オレフィン含有(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド、
【化1】
(式中、Rは、互いに独立に、炭素数6〜14のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位を有する炭素数20〜1000のポリα−オレフィン構造であり、aは1〜10の整数である)
、及び
(F)有機摩擦調整剤を含む潤滑油組成物において、
前記(C)リン系極圧剤が、
(C1)亜リン酸エステル又はホスホン酸エステル、及び
(C2)炭素数11〜30のアルキル基を有する酸性リン酸エステルを含み、
かつ
100℃動粘度1.5〜5mm/sを有することを特徴とする、
前記潤滑油組成物。
【0011】
本発明の好ましい態様は、以下の(1)〜(16)から選ばれる少なくとも1の特徴を有する。
(1)前記(A)潤滑油基油の100℃における動粘度が1〜4.5mm/sである
(2)前記(B)金属清浄剤が、カルシウムサリシレート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート又はマグネシウムスルホネートから選択された少なくとも1つを含む
(3)前記(B)金属清浄剤が、全塩基価100〜400mgKOH/gである
(4)前記(C1)亜リン酸エステルが、炭素数4〜30のアルキル基を有する
(5)前記(C1)ホスホン酸エステルが、炭素数4〜30のアルキル基を有する
(6)前記(C2)酸性リン酸エステルが、炭素数11〜20のアルキル基を有する
(7)前記(D)硫黄系極圧剤が、チアジアゾール、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステルから選ばれる少なくとも1種である
(8)前記(D)硫黄系極圧剤が、活性硫黄量0.5〜15質量%である
(9)(E’)ホウ素化されたポリブテニルコハク酸イミドをさらに含む
(10)前記(F)有機摩擦調整剤が、エステル系摩擦調整剤、アミン系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤及びイミド系摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1つである
(11)100℃における動粘度2〜4.5mm/sを有する
(12)ハイブリッド自動車用である潤滑油組成物
(13)電気自動車用である潤滑油組成物
(14)燃料電池自動車用である潤滑油組成物
(15)変速機用である潤滑油組成物
(16)ギヤ油用である潤滑油組成物
【0012】
本発明の潤滑油組成物は−40℃におけるブルックフィールド粘度(以下、BF粘度(−40℃)と表記することがある)6〜12Pa・sを有する事ができる。しかし、該潤滑油組成物を公知の市販油と混油すると該BF粘度(−40℃)が6Pa・s未満に低下するという問題が生じることがある。これは、市販油に含まれる粘度指数向上剤に寄るものと考えられる。本発明者らは当該問題について更に検討したところ、(G)鎖状不飽和(ジ)カルボン酸又はその無水物又はエステルと、ビニル化合物との共重合体をさらに配合することで、市販油との混油においてもBF粘度(−40℃)を6〜12Pa・sという好適な範囲に維持できることを見出した。
市販油との混油とは、特には、市販油を混油の1〜20%となる質量割合にて本発明の潤滑油組成物と混合させることを意味する。混油させる市販油は特に制限されるものでないが、例えば100℃の動粘度が10〜20mm/sのものが挙げられる。
【0013】
従って、本発明のより好ましい態様としては、上記潤滑油組成物であって、更に(G)有機不飽和酸又はそのエステルと、ビニル化合物とからなる重合体を含む潤滑油組成物である。
即ち、より好ましい態様としては、
(A)潤滑油基油、
(B)金属清浄剤、
(C)リン系極圧剤、
(D)硫黄系極圧剤、
(E)下記式で表されるポリα−オレフィン含有(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド、
【化2】
(式中、Rは、互いに独立に、炭素数6〜14のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位を有する炭素数20〜1000のポリα−オレフィン構造であり、aは1〜10の整数である)
(F)有機摩擦調整剤、及び
(G)鎖状不飽和(ジ)カルボン酸又はその無水物又はエステルと、ビニル化合物との共重合体
を含む潤滑油組成物において、
前記(C)リン系極圧剤が、
(C1)亜リン酸エステル又はホスホン酸エステル、及び
(C2)炭素数11〜30のアルキル基を有する酸性リン酸エステルを含み、
かつ
100℃動粘度1.5〜5mm/sを有することを特徴とする、
前記潤滑油組成物を提供する。
特には、上記(G)成分がフマル酸アルキルエステル・酢酸ビニル共重合体である前記潤滑油組成物である。
さらに特には、−40℃におけるブルックフィールド粘度が6〜12Pa・sである前記潤滑油組成物である。
また該潤滑油組成物は、さらに好ましくは上述した(1)〜(16)のうち1以上の特徴をさらに有する。
【0014】
本発明の潤滑油組成物は、100℃における動粘度1.5〜5mm/sという低粘度条件下において、耐摩耗性及びベアリング特性等の部品保護性能に優れ、且つ、高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)を有し、材料適合性にも優れる。従って、ハイブリッド自動車、電気自動車、及び燃料電池自動車用の変速機又はギヤ油として好適に利用される。
【0015】
本発明の潤滑油組成物は100℃の動粘度(KV100)1.5〜5mm/sを有する。該KV100の下限値は、好ましくは1.7mm/s、より好ましくは2.0mm/sであり、上限値は好ましくは4.6mm/s、より好ましくは4.4mm/sである。上限値を超えると粘度が高くなりすぎて、省燃費性能に寄与しないし、下限値を下回ると摩耗特性が悪くなる可能性がある。
【0016】
(A)潤滑油基油
本発明における潤滑油基油は特に限定されることはなく、潤滑油基油として従来公知のものが使用できる。潤滑油基油としては、鉱油系基油、合成系基油、及びこれらの混合基油が挙げられる。
【0017】
鉱油系基油の製法は限定されるものではない。鉱油系基油としては、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋または水素化脱蝋などの処理を施した高度に精製されたパラフィン系鉱油(高粘度指数鉱油系潤滑油基油)が好ましい。また、上記以外の鉱油系基油としては、例えば、潤滑油原料をフェノール、フルフラールなどの芳香族抽出溶剤を用いた溶剤精製により得られるラフィネート、シリカ−アルミナを担体とするコバルト、モリブデンなどの水素化処理触媒を用いた水素化処理により得られる水素化処理油などが挙げられる。例えば、100ニュートラル油、150ニュートラル油、500ニュートラル油などを挙げることができる。
【0018】
合成系基油としては、例えば、メタン等の天然ガスからフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得られる基油(いわゆるフィッシャー・トロプシュ由来基油)、ポリ−α−オレフィン基油、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ポリグリコールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、及び、シリコン油などを挙げることができる。なお、ポリ−α−オレフィン(PAO)基油は、特に制限されるものではないが、例えば1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー、イソブテンオリゴマー並びにこれらの水素化物を使用できる。
【0019】
潤滑油基油は、上記の鉱油系基油、上記の合成系基油、又はそれらの組合せから選択される限り、1種単独でも良いし、2種以上の併用であってもよい。2種以上の潤滑油基油を併用する場合は、鉱油系基油同士、合成系基油同士、または鉱油系基油と合成系基油の組合せであってよく、その態様は限定されない。
【0020】
潤滑油基油の動粘度は、本発明の要旨を損なわない限り制限されることはない。特には、上述した低粘度を有する潤滑油組成物を得るためには、潤滑油基油全体が100℃における動粘度1〜4.5mm/sを有することが好ましく、さらに好ましくは1.1〜4.3mm/s、一層好ましくは1.2〜4.0mm/sを有するのがよい。潤滑油基油の100℃における動粘度が前記上限値超であると、潤滑油組成物の低粘度化を図ることが困難となり、省燃費性を達成することが困難となる可能性がある。また100℃における動粘度が前記下限値未満であると、省燃費性は達成できるが、摩耗特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0021】
(B)金属清浄剤
本発明の潤滑油組成物は金属清浄剤を含有する。該金属清浄剤は特に限定されるものでないが、カルシウム、マグネシウムから選択された元素を有する金属清浄剤の1種以上であるのが好ましい。カルシウムを有する金属清浄剤としては、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。マグネシウムを有する金属清浄剤としては、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、マグネシウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤のうち、カルシウムサリシレート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、及びマグネシウムスルホネートから選ばれる少なくとも1種が好ましい。金属清浄剤は、1種単独であっても、2種以上の併用であってもよい。金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは50〜600(mgKOH/g)、より好ましくは100〜500(mgKOH/g)、さらに好ましくは100〜400(mgKOH/g)である。
【0022】
金属清浄剤の含有量は、特に限定されることはないが、潤滑油組成物中に含まれる金属含有量として、10〜500質量ppmが好ましく、20〜400質量ppmがさらに好ましく、及び40〜300質量ppmが一層好ましい。金属清浄剤の量が少なすぎると材料適合性が劣る恐れがあり、また多すぎると高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)を得ることができない恐れがあるため好ましくない。
【0023】
(C)リン系極圧剤
本発明の潤滑油組成物は(C)リン系極圧剤として、(C1)亜リン酸エステル又はホスホン酸エステル及び(C2)炭素数11〜30のアルキル基を有する酸性リン酸エステルを必須に含有する。
【0024】
(C1)亜リン酸エステル又はホスホン酸エステルは、特に限定されることはない。例えば、亜リン酸エステルは、以下の構造で示される。
(RO)P(=O)(OH)2−bH (1)
(RO)―P (2)
上記式(1)及び(2)において、bは1又は2であり、R及びRは、炭化水素残基である。
【0025】
上記式(1)及び(2)において、R及びRは、炭化水素残基であれば限定されることはないが、炭素数4〜30のアルキル基であることが好ましく、炭素数4〜20のアルキル基であることがより好ましく、炭素数4〜18のアルキル基であることが最も好ましい。
【0026】
亜リン酸エステルとしては、特に限定されることはないが、亜リン酸トリブチルエステル、亜リン酸ジブチルエステル、亜リン酸モノブチルエステル、亜リン酸トリペンチルエステル、亜リン酸ジペンチルエステル、亜リン酸モノペンチルエステル、亜リン酸トリヘキシルエステル、亜リン酸ジヘキシルエステル、亜リン酸モノヘキシルエステル、亜リン酸トリヘプチルエステル、亜リン酸ジヘプチルエステル、亜リン酸モノヘプチルエステル、亜リン酸トリオクチルエステル、亜リン酸ジオクチルエステル、亜リン酸モノオクチルエステル、亜リン酸トリノニルエステル、亜リン酸ジノニルエステル、亜リン酸モノノニルエステル、亜リン酸トリデシルエステル、亜リン酸ジデシルエステル、亜リン酸モノデシルエステル、亜リン酸トリウンデシルエステル、亜リン酸ジウンデシルエステル、亜リン酸モノウンデシルエステル、亜リン酸トリドデシルエステル、亜リン酸ジドデシルエステル、亜リン酸モノドデシルエステル、亜リン酸トリトリデシルエステル、亜リン酸ジトリデシルエステル、亜リン酸モノトリデシルエステル、亜リン酸トリテトラデシルエステル、亜リン酸ジテトラデシルエステル、亜リン酸モノテトラデシルエステル、亜リン酸トリテトラデシルエステル、亜リン酸ジテトラデシルエステル、亜リン酸モノテトラデシルエステル、亜リン酸トリペンタデシルエステル、亜リン酸ジペンタデシルエステル、亜リン酸モノペンタデシルエステル、亜リン酸トリヘキサデシルエステル、亜リン酸ジヘキサデシルエステル、亜リン酸モノヘキサデシルエステル、亜リン酸トリヘプタデシルエステル、亜リン酸ジヘプタデシルエステル、亜リン酸モノヘプタデシルエステル、亜リン酸トリオクタデシルエステル、亜リン酸ジオクタデシルエステル、亜リン酸モノオクタデシルエステルが挙げられる。
中でも、亜リン酸ジブチルエステル、亜リン酸モノブチルエステル、亜リン酸ジヘキシルエステル、亜リン酸モノヘキシルエステル、亜リン酸ジオクチルエステル、亜リン酸モノオクチルエステル、亜リン酸ジデシルエステル、亜リン酸モノデシルエステル、亜リン酸ジドデシルエステル、亜リン酸モノドデシルエステル、亜リン酸ジテトラデシルエステル、亜リン酸モノテトラデシルエステル、亜リン酸ジヘキサデシルエステル、亜リン酸モノヘキサデシルエステル、亜リン酸ジオクタデシルエステル、亜リン酸モノオクタデシルエステルが好ましい。
【0027】
上記(C1)成分は、亜リン酸エステルのアミン塩であってもよい。該亜リン酸エステルのアミン塩としては、特に限定されることはないが、亜リン酸ジブチルエステルのアミン塩、亜リン酸モノブチルエステルのアミン塩、亜リン酸ジヘキシルエステルのアミン塩、亜リン酸モノヘキシルエステルのアミン塩、亜リン酸ジオクチルエステルのアミン塩、亜リン酸モノオクチルエステルのアミン塩、亜リン酸ジデシルエステルのアミン塩、亜リン酸モノデシルエステルのアミン塩、亜リン酸ジドデシルエステルのアミン塩、亜リン酸モノドデシルエステルのアミン塩、亜リン酸ジテトラデシルエステルのアミン塩、亜リン酸モノテトラデシルエステルのアミン塩、亜リン酸ジヘキサデシルエステルのアミン塩、亜リン酸モノヘキサデシルエステルのアミン塩、亜リン酸ジオクタデシルエステルのアミン塩、亜リン酸モノオクタデシルエステルのアミン塩が挙げられる。
【0028】
上記(C1)成分のうち、
ホスホン酸エステルは、下記式で表される。
(RO)(RO)(R)P(=O) (3)
式(3)において、R及びRは、互いに独立に、水素原子又は一価の炭化水素基であり、R及びRの少なくとも一方は一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基である。
【0029】
式(3)におけるR、R及びRは、前記の条件を満たす限り限定されることはないが、R及びRは、互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、R及びRの少なくとも一方は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜30の一価炭化水素基であることが好ましく、R、R及びRのうちいずれかが炭素数4〜30の一価炭化水素基であることがより好ましい。
及びRのうちいずれかは好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数2〜20のアルキル基、特には炭素数4〜20のアルキル基であるのがよい。また、別の好ましい態様としては、R及びRが共に炭素数1〜30のアルキル基であり、より好ましくはR及びRが共に炭素数2〜20のアルキル基、特には炭素数4〜20のアルキル基であるのがよい。
【0030】
ホスホン酸エステルとしては、例えば、ブチルホスホン酸ジメチル、ブチルホスホン酸ジエチル、ブチルホスホン酸ジプロピル、ブチルホスホン酸ジブチル、ブチルホスホン酸ジペンチル、ブチルホスホン酸ジヘキシル、ブチルホスホン酸ジヘプチル、ブチルホスホン酸ジオクチル、ヘキシルホスホン酸ジメチル、ヘキシルホスホン酸ジエチル、ヘキシルホスホン酸ジプロピル、ヘキシルホスホン酸ジブチル、ヘキシルホスホン酸ジペンチル、ヘキシルホスホン酸ジヘキシル、ヘキシルホスホン酸ジヘプチル、ヘキシルホスホン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸ジメチル、オクチルホスホン酸ジエチル、オクチルホスホン酸ジプロピル、オクチルホスホン酸ジブチル、オクチルホスホン酸ジペンチル、オクチルホスホン酸ジヘキシル、オクチルホスホン酸ジヘプチル、オクチルホスホン酸ジオクチル、デシルホスホン酸ジメチル、デシルホスホン酸ジエチル、デシルホスホン酸ジプロピル、デシルホスホン酸ジブチル、デシルホスホン酸ジヘキシル、デシルホスホン酸ジオクチル、デシルホスホン酸ジデシル、ドデシルホスホン酸ジメチル、ドデシルホスホン酸ジエチル、ドデシルホスホン酸ジプロピル、ドデシルホスホン酸ジブチル、ドデシルホスホン酸ジヘキシル、ドデシルホスホン酸ジオクチル、ドデシルホスホン酸ジデシル、ドデシルホスホン酸ジドデシル、テトラデシルホスホン酸ジメチル、テトラデシルホスホン酸ジエチル、テトラデシルホスホン酸ジプロピル、テトラデシルホスホン酸ジブチル、テトラデシルホスホン酸ジヘキシル、テトラデシルホスホン酸ジオクチル、テトラデシルホスホン酸ジデシル、テトラデシルホスホン酸ジドデシル、テトラデシルホスホン酸ジテトラデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジメチル、ヘキサデシルホスホン酸ジエチル、ヘキサデシルホスホン酸ジプロピル、ヘキサデシルホスホン酸ジブチル、ヘキサデシルホスホン酸ジヘキシル、ヘキサデシルホスホン酸ジオクチル、ヘキサデシルホスホン酸ジデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジドデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジテトラデシル、オクタデシルホスホン酸ジメチル、オクタデシルホスホン酸ジエチル、オクタデシルホスホン酸ジプロピル、オクタデシルホスホン酸ジブチル、オクタデシルホスホン酸ジペンチル、オクタデシルホスホン酸ジヘキシル、オクタデシルホスホン酸ジヘプチル、オクタデシルホスホン酸ジオクチル、オクタデシルホスホン酸ジオクタデシルなどが挙げられる。
【0031】
(C1)成分の含有量は、潤滑油組成物中におけるリン含有量として限定されないが、好ましくは50〜600ppm、より好ましくは100〜500ppm、更に好ましくは100〜300ppmであるのがよい。
【0032】
本発明の潤滑油組成物は、さらに(C)リン系極圧剤として(C2)炭素数11〜30のアルキル基を有する酸性リン酸エステルを必須に含有する。
【0033】
当該酸性リン酸エステルとは(RO)P(=O)(OH)3−a で表される。前記式においてa=1又は2であり、aが異なる値である化合物の混合物として使用することもできる。上記式において、Rは互いに独立に炭素数11〜30のアルキル基である。炭素数11〜30のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rは好ましくは炭素数11〜20のアルキル基であり、より好ましくは炭素数12〜20のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数12〜18のアルキル基である。
アルキル基の炭素数が少なすぎると、摩耗が促進される可能性がある。
【0034】
酸性リン酸エステルとして好ましくは、酸性リン酸ドデシルエステル、酸性リン酸テトラデシルエステル、酸性リン酸ヘキサデシルエステル、酸性リン酸オクタデシルエステル、酸性リン酸エイコシルエステルが用いられる。より好ましくは、酸性リン酸テトラデシルエステル、酸性リン酸ヘキサデシルエステル、及び酸性リン酸オクタデシルエステルであるのがよい。
【0035】
(C2)成分の含有量は、潤滑油組成物中におけるリン含有量として限定されないが、好ましくは50〜600ppm、より好ましくは80〜500ppm、更に好ましくは80〜400ppmであるのがよい。
【0036】
潤滑油組成物中に占める(C)リン系極圧剤のリン含有量は限定的ではないが、好ましくは200〜1000ppmであり、より好ましくは250〜900ppmであり、最も好ましくは280〜800ppmである。
【0037】
(D)硫黄系極圧剤
本発明の潤滑油組成物は硫黄供給源として硫黄系極圧剤を必須として含有する。硫黄系極圧剤の含有量は、限定されることはないが、たとえば、硫黄系極圧剤を潤滑油組成物全体の質量に対して、硫黄含有量として100〜500ppm、好ましくは200〜450ppmであるのがよい。(D)成分は公知の硫黄系極圧剤であればよく、例えば、チアジアゾール、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、及びポリサルファイドから選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、特には、硫化オレフィン、チアジアゾール、及び硫化油脂が好ましい。最も好ましくはチアジアゾールである。
【0038】
硫化オレフィン及びポリサルファイドは例えば下記一般式(4)で表される。
−Sx1−(R−Sx2−)−R10 (4)
なお、後述するように、硫化オレフィンはオレフィン類を硫化して得られるものであり、ポリサルファイドはオレフィン類以外の炭化水素原料を硫化して得られる。
【0039】
上記式(4)中、R及びRは互いに独立に、一価の炭化水素基であり、例えば炭素数2〜20の、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の脂肪族一価炭化水素基、又は炭素数2〜26の芳香族一価炭化水素基である。例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、及びヘキシルフェニル基などが挙げられる。
【0040】
上記式(4)中、R10は、炭素数2〜20の、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の脂肪族二価炭化水素基、又は、炭素数6〜26の芳香族二価炭化水素基である。例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、及びフェニレン基などが挙げられる。
【0041】
上記式(4)中、x1及びx2は互いに独立に、1以上の整数であり、好ましくは1〜8の整数である。該値より小さいと極圧性が小さくなり、大きすぎると熱酸化安定性が低下するおそれがある。極圧性及び熱酸化安定性を共に得るためには、x2が1〜6の整数であるのが好ましく、より好ましくは2〜4の整数であり、特に好ましくは2又は3である。
【0042】
硫化オレフィンとしては、例えば、ポリイソブチレン及びテルペン類などのオレフィン類を、硫黄その他の硫化剤で硫化して得られるものが挙げられる。
【0043】
ポリサルファイド化合物としては、例えば、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、及びジ−tert−ベンジルポリサルファイドなどが挙げられる。
【0044】
硫化油脂は、油脂と硫黄との反応生成物であり、油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂を硫化して得られるものである。この反応生成物は、単一のものではなく、種々の物質の混合物であり、化学構造そのものは明確でない。
【0045】
硫化エステルは、上記油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸エステルを硫化することにより得られるものである。硫化油脂と同様、化学構造そのものは明確でない。
【0046】
チアジアゾールは含窒素硫黄複素環化合物であり特に構造は限定されない。含窒素複素環系化合物は高吸着性を有し、少量でも高い耐焼付き性向上効果を得られるため好ましい。例えば、下記一般式(5)で示される1,3,4−チアジアゾール化合物、下記一般式(6)で示される1,2,4−チアジアゾール化合物、及び一般式(7)で示される1,4,5−チアジアゾール化合物が挙げられる。
【化3】
上記式(5)〜(7)中、R〜Rは、互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、a、b、c、d、e及びfはそれぞれ0〜8の整数である。
【0047】
炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0048】
該チアジアゾールとしては、例えば、2−アミノ−5−メチル−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメチル−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジエチル−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール及びこれらの混合物などが挙げられる。中でも2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールが好ましい。
【0049】
上記硫黄系極圧剤の活性硫黄量は、特に限定されることはないが、活性硫黄を該極圧剤の質量に対して45質量%以下で有すること、好ましくは30質量%以下で有すること、より好ましくは15質量%以下で有することを特徴とする。活性硫黄量が上記上限値超であると、金属腐食を起こすだけでなく、摩耗の発生を抑制することができなくなる。なお、活性硫黄量の下限も特に限定されることはないが、極圧性確保のためには、極圧剤の質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以上であり、一層好ましくは2質量%以上であるのがよい。
【0050】
ここで、活性硫黄量とはASTM D1662に規定される方法により測定されるものである。ASTM D1662に基づく活性硫黄量は、より詳細には以下の手順により測定することができる。
1.200ml用のビーカーに硫黄系添加剤(活性硫黄系極圧剤)50gと銅粉5gを入れ、スターラで攪拌しながら温度を150℃まで上げる。
2.150℃に達したら、更に銅粉を5g加え、30分間攪拌する。
3.攪拌終了後、ASTM D130準拠の銅板をビーカーへ入れて浸漬させる。このとき、銅板に変色が見られたら、さらに銅粉を5g加えて30分間攪拌する(この操作を変色が認められなくなるまで続ける)。
4.銅板変色が認められなくなったら、ろ過により硫黄系添加剤中の銅粉を除去し、添加剤に含まれる硫黄量を測定する。
活性硫黄量は以下のように算出される。
活性硫黄量(質量%)=銅粉と反応前の硫黄量(質量%)−銅粉と反応後の硫黄量(質量%)
【0051】
(E)ポリα−オレフィン含有(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド
本発明の潤滑油組成物は、下記式で表されるポリエチレンアミンコハク酸イミドを含有する。該ポリエチレンアミンコハク酸イミドは油膜形成ポリマー及び無灰分散剤として機能する。該化合物を含有することにより、油膜形成能が向上し、優れたベアリング特性、ギヤ疲労特性、及び体積抵抗率等を維持しつつ、シリコーンに対する優れた材料適合性を有する潤滑油組成物となる。
【化4】
式中、式中、Rは、互いに独立に、炭素数6〜14のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位を有するポリα−オレフィン構造であり、aは1〜10の整数である。Rは好ましくは、1−オクテン、1−デセン、又は1−ドデセン、及びこれらの混合を繰り返し単位として含む炭素数20〜1000、好ましくは炭素数30〜800のポリα―オレフィン構造である。上記化合物は重量平均分子量1,000〜10,000、好ましくは1,500〜5,000を有する。
【0052】
上記ポリエチレンアミンコハク酸イミドは公知の方法にて製造されるものであればよい。例えば、特開2017−25306号公報に記載の方法にて製造することができる。より詳細には、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンの混合物をメタロセン触媒で重合して得られる炭化水素基を無水マレイン酸と反応させ、次いで得られた反応物をポリエチレンアミンと反応させることによって得られる。
【0053】
潤滑油組成物中における該ポリエチレンアミンコハク酸イミドの含有量は、0.5〜3.5質量%であり、好ましくは0.5〜2.5質量%であり、より好ましくは0.5〜1.5質量%である。
【0054】
(E’)無灰分散剤
本発明の潤滑油組成物は、上記(E)成分以外の無灰分散剤をさらに含んでよい。無灰分散剤としては従来公知のホウ素化コハク酸イミドが挙げられる。例えば、炭素数40〜400の、直鎖構造又は分枝構造を有するアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体又はアルケニルコハク酸イミドのホウ素化物である。当該無灰分散剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。ホウ素化コハク酸イミドは潤滑油に用いられる任意のコハク酸イミドをホウ素化したものである。ホウ素化は一般に、含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
【0055】
上記アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、40〜400であり、好ましくは60〜350である。アルキル基及びアルケニル基の炭素数が前記下限値未満であると、化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にある。また、アルキル基及びアルケニル基の炭素数が上記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。上記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖構造を有していても分枝構造を有していてもよい。好ましい態様としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン等のオレフィンのオリゴマー、エチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基又は分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0056】
コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとがある。本発明の潤滑油組成物は、モノタイプ及びビスタイプのうちいずれか一方を含有してもよいし、あるいは双方を含有してもよい。
【0057】
アルケニルコハク酸イミドの変性品とは、例えば、アルケニルを有するコハク酸イミド化合物をホウ素化合物で変性したものである(即ち、ホウ素化無灰分散剤)。ホウ素化合物で変性するとは、ホウ素化することを意味する(以下、ホウ素化コハク酸イミドという)。ホウ素化コハク酸イミドは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。併用する場合は、ホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドとを併用してもよいし、ホウ素化コハク酸イミドの2種以上の組合わせであってもよい。また、併用する場合には、モノタイプ及びビスタイプの両方を含んでもよいし、モノタイプ同士の併用、又はビスタイプ同士の併用であってもよい。
【0058】
例えば、ホウ素化コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42−8013号公報及び同42−8014号公報、特開昭51−52381号公報、及び特開昭51−130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。この様にして得られるホウ素化コハク酸イミドに含まれるホウ素含有量は通常0.1〜4質量%とすることができる。特に、アルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素変性化合物(ホウ素化コハク酸イミド)は耐熱性、酸化防止性及び摩耗防止性に優れるため好ましい。
【0059】
ホウ素化無灰分散剤中に含まれるホウ素含有量は特に制限はない。通常無灰分散剤の質量に対して0.1〜3質量%である。本発明の1つの態様としては、無灰分散剤中のホウ素含有量は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上であり、また好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下であるのがよい。ホウ素化無灰分散剤として好ましくはホウ素化コハク酸イミドであり、特にはホウ素化ビスコハク酸イミドが好ましい。ホウ素化無灰分散剤を使用する場合、そのホウ素含有量は、組成物全体の質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上であるのがよく、また0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下であるのがよい。
【0060】
ホウ素化無灰分散剤は、ホウ素/窒素質量比(B/N比)0.1以上、好ましくは0.2以上を有するものであり、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.4以下を有するものが好ましい。
【0061】
本発明においては、前記ホウ素化無灰分散剤の他、ホウ素化されていない未変性の無灰分散剤を併用することができる。 ホウ素化されていない無灰分散剤としては、前記のアルケニルコハク酸イミド化合物をホウ素化しないものが該当する。
【0062】
なお、ポリイソブテニルコハク酸ビスイミドのホウ素化物と、未変性のポリイソブテニルコハク酸ビスイミドの混合物を使用することが好ましい。この場合、潤滑油組成物中のホウ素含有量は10〜200質量ppmが好ましく、15〜100質量ppmがより好ましい。
【0063】
潤滑油組成物中の無灰分散剤の含有量は適宜調整されればよいが、例えば潤滑油組成物全体の質量に対して、上記(E)成分と(E’)成分の合計として、0.01〜20質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が上記下限値未満であると、清浄性向上効果が不十分となるおそれがある。また含有量が上記上限値を超えると、潤滑油組成物のスラッジが発生するおそれがある。
【0064】
潤滑油組成物中のホウ素含有量は、限定されることはないが、10〜200質量ppmが好ましく、15〜100質量ppmがより好ましい。
【0065】
(F)有機摩擦調整剤
本発明の潤滑油組成物は、有機摩擦調整剤を必須に含有する。有機摩擦調整剤とは、金属を有しない摩擦調整剤のことを意味する。例えば、アミン系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤、エーテル系摩擦調整剤及びイミド系摩擦調整剤など、有機化合物により構成されるものである。特に好ましくはアミン系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤、又はイミド系摩擦調整剤であり、リン捕捉剤として好適に機能する。有機摩擦調整剤を含まないと、優れた耐摩耗性及び耐焼付き性を確保することが困難となる。有機摩擦調整剤の潤滑油組成物中の含有量は好ましくは0.1〜2質量%であり、より好ましくは0.2〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.2〜1質量%である。有機摩擦調整剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の併用であってもよい。
【0066】
アミン系摩擦調整剤としては、脂肪族アミン化合物が好ましい。該脂肪族アミン化合物としては、例えば、炭素数1〜30のアルキル基を有するアルキルアミン、炭素数2〜30のアルケニル基を有するアルケニルアミン、炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン、炭素数1〜30のアルキル基を有するポリアミン、及び脂環式アミンを挙げることができる。
【0067】
炭素数1〜30のアルキル基を有するアルキルアミンにおいて、アルキル基は直鎖であってもよいし、分岐を有していてもよい。アルキル基の炭素数は、好ましくは炭素数4〜28であり、より好ましくは炭素数6〜25である。例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン(ラウリルアミン)、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、ドコシルアミン(ベヘニルアミン)、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミンを挙げることができる。
【0068】
炭素数2〜30のアルケニル基を有するアルケニルアミンにおいて、アルケニル基は直鎖であっても分岐を有していてもよい。アルケニル基の炭素数は、好ましくは炭素数4〜28であり、より好ましくは炭素数6〜25である。例えば、エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミンが挙げられる。
【0069】
炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミンにおいて、アルキレン基は直鎖であっても分岐を有していてもよい。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミンが挙げられる。
【0070】
炭素数1〜30のアルキル基を有するポリアミンにおいてアルキル基は、直鎖であっても分岐を有していてもよい。例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及び、ペンタエチレンヘキサミンが挙げられる。
【0071】
脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン等を挙げることができる。
【0072】
アミド系摩擦調整剤としては、限定されることはないが、炭素数1〜30のアルキル基を有する飽和脂肪酸アミド、炭素数2〜30のアルケニル基を有する不飽和脂肪酸アミドを使用することが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、混合して使用することもできる。
【0073】
炭素数1〜30のアルキル基を有する飽和脂肪酸アミドとしては、エタン酸アミド、プロパン酸アミド、ブタン酸アミド、オクタン酸アミド、デカン酸アミド、ドデカン酸アミド、ヘキサデカン酸アミド、オクタデカン酸アミド、ドコサン酸アミドを挙げることができる。炭素数1〜30のアルキル基の炭素数として好ましくは炭素数4〜28であり、より好ましくは炭素数6〜25である。
【0074】
炭素数2〜30のアルケニル基を有する不飽和脂肪酸アミドとしては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドを挙げることができる。炭素数2〜30のアルケニル基の炭素数として好ましくは炭素数4〜28であり、より好ましくは炭素数6〜25である。
【0075】
エステル系摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系摩擦調整剤が好ましい。脂肪酸としては、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数2〜30のアルケニル基を有する脂肪酸が好ましい。アルケニル基は、直鎖であっても分岐を有していてもよいが、直鎖が好ましい。また、該脂肪酸エステルを調製するにあたり脂肪酸と反応させるアルコールは、1価アルコールでもよいし、多価アルコールでも良いが、多価アルコールであることが好ましい。例えば、2〜10価の多価アルコールであり、より詳細には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトールおよびこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0076】
上記多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコールおよびこれらの混合物等が好ましい。さらに、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、およびこれらの混合物等がより好ましい。これらの中でもグリセリンが特に好ましい。
【0077】
エステル系摩擦調整剤として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸から選択される脂肪酸もしくはその混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンから選択されるアルコールもしくはその混合物を反応させて得られるエステルを挙げることができる。エステルの構造としては、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでもよく、水酸基の一部がエステル化されず水酸基のまま残存する部分エステルでもよい。中でも、炭素数16〜20の脂肪酸とグリセリンの部分エステルが好ましい。
【0078】
エステル系摩擦調整剤として、より好ましくは、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、エチレングリコールモノオレート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールモノオレート、プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノラウレート等を挙げることができる。中でも、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、及びグリセリンモノラウレートが特に好ましい。
【0079】
更には、エーテル系摩擦調整剤としては分子内に水酸基を2つ以上有するエーテル化合物が挙げられ、好ましくは(ポリ)グリセリンエーテル化合物である。例えば下記式(8)にて表される。
11−O−(CH−CH(OH)−CH−O)−H (8)

上記式(8)において、R11は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、例えば炭素数1〜30のアルキル基、炭素数3〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基、及び炭素数7〜30のアラルキル基が挙げられる。該アルキル基及びアルケニル基は、直鎖、分岐、及び環状のいずれであってもよい。pは1〜10の整数である。特に好ましくはR11は、(ポリ)グリセリンエーテル化合物の性能及び入手の容易さなどの観点から、炭素数8〜20のアルキル基及びアルケニル基が好ましい。
【0080】
炭素数1〜30、好ましくは炭素数8〜20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2−オクチルドデシル、2−ドデシルヘキサデシル、2−テトラデシルオクタデシル、16−メチルヘプタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、及びシクロオクチル等の基が挙げられる。
【0081】
炭素数3〜30、好ましくは炭素数8〜20のアルケニル基としては、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基、オレイル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、メチルシクロペンテニル基、及びメチルシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0082】
炭素数6〜30のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、及びノニルフェニル基等が挙げられる。
【0083】
炭素数7〜30のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、メチルベンジル基、及びメチルフェネチル基等が挙げられる。
【0084】
上記(ポリ)グリセリンエーテル化合物としては、例えば、グリセリンモノドデシルエーテル、グリセリンモノテトラデシルエーテル、グリセリンモノヘキサデシルエーテル(「キミルアルコール」と同じ。)、グリセリンモノオクタデシルエーテル(「バチルアルコール」と同じ。)、グリセリンモノオレイルエーテル(「セラキルアルコール」と同じ。)、ジグリセリンモノドデシルエーテル、ジグリセリンモノテトラデシルエーテル、ジグリセリンモノヘキサデシルエーテル、ジグリセリンモノオクタデシルエーテル、ジグリセリンモノオレイルエーテル、トリグリセリンモノドデシルエーテル、トリグリセリンモノテトラデシルエーテル、トリグリセリンモノヘキサデシルエーテル、トリグリセリンモノオクタデシルエーテル、及びトリグリセリンモノオレイルエーテルが挙げられる。
【0085】
更に、イミド系摩擦調整剤としては、直鎖状、若しくは分枝状、好ましくは分枝状の炭化水素基を1つ又は2つ有するモノ及び/又はビスコハク酸イミド、当該コハク酸イミドにホウ酸やリン酸、炭素数1〜20のカルボン酸あるいは硫黄含有化合物から選ばれる1種又は2種以上を反応させた、上記(E)成分及び(E)’成分以外のコハク酸イミド変性化合物等を挙げることがでる。より詳細には、下記式(9)及び式(10)の化合物を挙げることができる。
【化5】
【0086】
上記一般式(9)及び(10)において、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数1〜4、好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜30、好ましくは炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは1〜7の整数を示し、好ましくは1〜3の整数である。中でも一般式(9)のビスイミド化合物が好ましい。なお、R及びRの炭素数が40以上になると、前述の(E)’成分に相当することとなるため、除外される。
【0087】
一般式(9)のビスイミド化合物の中でも、以下の一般式(11)で表されるコハク酸イミド化合物が好ましい。
【化6】
一般式(11)において、x及びyは、x+yが8〜15となる整数であり、zは0〜5の整数であって、好ましくはx及びyは、x+yが10〜14となる整数であり、zは0〜3の整数である。
本摩擦調整剤は、ポリエチレンポリアミン由来のイミド系摩擦調整剤であり、その製法は、US 5,840,663に記載されている。
【0088】
なお、イミド系摩擦調整剤は、単独で使用してもよいが、好適には前述したアミン系摩擦調整剤とイミド系摩擦調整剤とを併用することが好ましい。
【0089】
(G)鎖状不飽和(ジ)カルボン酸又はその無水物又はエステルと、ビニル化合物との共重合体
本発明の潤滑油組成物は、好ましくは、鎖状不飽和(ジ)カルボン酸又はその無水物又はエステルと、ビニル化合物との共重合体を更に含む。該成分は流動点降下剤として機能するものである。該成分を含むことにより−40℃におけるブルックフィールド粘度を6〜12Pa・sの範囲に制御することができる。特には、市販油と混油させた場合においても−40℃におけるブルックフィールド粘度の低下を抑制することができる。
【0090】
鎖状不飽和(ジ)カルボン酸又はその無水物又はエステルとしては、フマル酸、マレイン酸、無水フマル酸、無水マレイン酸、フマル酸アルキルエステル、及びマレイン酸アルキルエステルが挙げられ、フマル酸アルキルエステル、及びマレイン酸アルキルエステルが特に好ましい。ビニル化合物としては、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン、及び酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルが挙げられ、カルボン酸ビニルが好ましい。カルボン酸ビニルはR−COO−CH=CHで示される化合物であるが、本発明においてRは炭素数1〜18の短鎖アルキル基が好ましく、特に好ましくはRがメチル基である酢酸ビニルである。
共重合体の重量平均分子量は、限定されることはないが、5,000〜300,000が好ましい。該(G)成分はエステル系共重合体であることが好ましく、これにより、市販油と混油させた場合の低温粘度の低下を好適に抑制することができる。エステル系共重合体としては、下記式で表される。
【化7】
(n及びmは、重量平均分子量が5,000〜300,000となる数であり、Rは互いに独立に炭素数1〜24のアルキル基であり、Rは炭素数1〜18のアルキル基であり、好ましくはメチル基である)
【0091】
中でもフマル酸アルキルエステルと酢酸ビニルとの共重合体が好ましく、フマル酸アルキルエステル由来の繰返し単位(n)と酢酸ビニル由来の繰返し単位(m)の比率が、10:90〜90:10(質量比)が好ましく、20:80〜80:20(質量比)がより好ましい。
【0092】
(G)成分の添加量は、特に限定されないが、潤滑油組成物基準で0.02〜3.0質量%が好ましく、0.05〜1.5質量%が好ましい。
【0093】
また、本発明の潤滑油組成物は上記重合体以外の流動点降下剤を更に含有してもよい。該併用される流動点降下剤は従来公知のものであればよく、特に制限されるものでない。
【0094】
(H)その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、上記(A)〜(G)成分以外のその他の添加剤として、粘度指数向上剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、金属摩擦調整剤等を含有することができる。
【0095】
粘度指数向上剤としては、例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体、若しくはその水添物などの、いわゆる非分散型粘度指数向上剤、又は、さらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)、若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0096】
粘度指数向上剤の分子量は、潤滑油組成物のせん断安定性を考慮して選定することが必要である。例えば、粘度指数向上剤の重量平均分子量は、分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合には、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。
【0097】
粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。
【0098】
酸化防止剤は潤滑油に一般的に使用されているものであればよく、例えば、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤及び有機金属系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤の添加により、潤滑油組成物の酸化防止性をより高められ、本発明の組成物の鉛含有金属の腐食又は腐食摩耗防止性能を高めるだけでなく、塩基価維持性をより高めることができる。
【0099】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0100】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0101】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0102】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0103】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度1000〜10万mm/sを有するシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレート及びo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0104】
金属摩擦調整剤としては、公知のモリブデン摩擦調整剤が使用できる。例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体等、或いは、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。さらに本発明における摩擦調整剤として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物を用いることもできる。
【0105】
本発明の潤滑油組成物は、100℃における動粘度が1〜4.5mm/sであり、2〜4.5mm/sであることが好ましい。また、本発明の潤滑油組成物は、低粘度化しても、耐摩耗性、耐焼付き性、ギヤ疲労耐性、及びベアリング疲労耐性等の部品保護性能に優れ、高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)を有し、且つ材料適合性にも優れるので、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車に使用する潤滑油として適合することができ、特に変速機油用、ギヤ油用の潤滑油として使用することができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0107】
(A)潤滑油基油
(A1)高度精製鉱油系基油(「鉱油2」と定義)(100℃の動粘度=2.3mm/s、粘度指数=100、%Cp=70、%Cn=30、%Ca=0)
(A2)GTL基油(「GTL4」と定義)(100℃の動粘度=4.0mm/s、粘度指数=120、%Cp=99、%Cn=1、%Ca=0)
(A3)ポリα−オレフィン(PAO)基油(「PAO4」と定義)(100℃の動粘度=4.0mm/s、粘度指数=130、%Cp=100、%Cn=0、%Ca=0)
【0108】
(B)金属清浄剤
(B1)カルシウムサリシレート(カルシウム含有量;10質量%、塩基価400mgKOH/g)
(B2)カルシウムスルホネート(カルシウム含有量;10質量%、塩基価350mgKOH/g)
(C)リン系極圧剤
(C1)亜リン酸エステル又はホスホン酸エステル
(C1−1)亜リン酸モノブチルエステル
(C1−2)亜リン酸モノオクタデシルエステル
(C1−3)亜リン酸ジブチルエステル
(C1−4)亜リン酸ジオクタデシルエステル
(C1−5)ホスホン酸モノオクタデシルエステル
(C2)炭素数11〜30のアルキル基を有する酸性リン酸エステル(長鎖アルキル基含有酸性リン酸エステルともいう)
(C2−1)酸性リン酸オクタデシルエステル
(C2−2)酸性リン酸ドデシルエステル
(C2−3)酸性リン酸テトラデシルエステル
(C3)炭素数10以下のアルキル基を有する酸性リン酸エステル(短鎖アルキル基含有酸性リン酸エステルともいう。比較例用)
(C3−1)酸性リン酸ブチルエステル
(D)硫黄系極圧剤
(D1)2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール(活性硫黄量;3.3質量%)[以下、単に「チアジアゾール」と記載する。]
(D2)硫化オレフィン(活性硫黄量;11質量%)
(D3)硫化エステル(活性硫黄量;1.4質量%)
(D4)硫化油脂(活性硫黄量;4.1質量%)
(E)ポリアルキル(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド (以下、単に「コハク酸イミド」ということがある。)
(E1)下記式で表されるポリデシル基含有(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド(重量平均分子量2000)
(E2)下記式で表されるポリデシル基含有(ポリ)エチレンアミンコハク酸イミド(重量平均分子量4000)
【化8】
(式中、Rはポリデシル基であり、aは1〜5の混合物である)
(E’)(E)以外の無灰分散剤
(E3)ポリイソブテニルコハク酸イミドのホウ素化物(分子量5000、ホウ素含有量1.0質量%)
(F)有機摩擦調整剤
(F1)オレイルアミン
(F2)N,N−ジオキシエチレン−N−オレイルアミン
(F3)オレイン酸アミド
(F4)グリセリンモノオレート
(F5)ポリエチレンポリアミン由来の下記の式で表されるコハク酸イミド
[以下、「ポリエチレンポリアミン由来コハク酸イミド」という。]
【化9】
式において、x+y=13、z=0又は3の化合物の混合物。
(G)流動点降下剤
フマル酸アルキルエステル・酢酸ビニル共重合体(フマル酸アルキルエステル:酢酸ビニル=20:80、重量平均分子量20,000)[フマル酸アルキルエステルは、フマル酸ジメチルを主成分とする混合物]
(H)その他の添加剤(酸化防止剤、金属不活性化剤、消泡剤、粘度指数向上剤)
【0109】
[実施例1〜17及び比較例1〜7]
上記した各成分を表1〜表3に記載の組成及び量で混合して潤滑油組成物を調製した。表に記載のリン系極圧剤の量は潤滑油組成物全体の質量部に対するリンの質量ppmである。金属清浄剤の量は潤滑油組成物全体の質量部に対する金属元素(Ca)の質量ppmである。硫黄系極圧剤の量は潤滑油組成物全体の質量部に対する硫黄の質量ppmである。(E)コハク酸イミドの含有量は潤滑油組成物中の質量%である。ホウ素化コハク酸イミドの量は潤滑油組成物全体の質量部に対するホウ素の質量ppmである。有機摩擦調整剤及びその他の添加剤の量は組成物全体の質量に対する質量%である。基油の量は潤滑油組成物全体を100質量%とした残部である。組成物の100℃の動粘度(ASTM D445に準拠して100℃で測定)は、KV100(mm2/s)として表した。
【0110】
これらの潤滑油組成物について下記の試験を行った。結果を表4〜6に示す。
(1)耐摩耗性 ASTM D4172をもとに40kgf,80℃,1800rpm,30分で測定した。
(2)耐焼付き性 ASTM D2783に準拠して測定した。
(3)ベアリング摩耗(サイクル試験により摩耗が発生するまでのサイクルを測定)
(4)金属間摩擦係数(40℃、80℃)MTM試験機を用いて80℃で測定した。
(5)体積抵抗率JIS C2101をもとに80℃で測定した。
(6)材料適合性
シリコーンゴム硬化物である試験片(厚さ1.0mm、長さ115.0mmのダンベル状であって、最も細い部分の幅が6.0mmのもの)を、試験油の入った専用ガラス容器に150℃×100時間浸漬した。浸漬後の試験片について、引張試験機で引張強度*1を測定した。浸漬前の試験片について引張強度を測定し、浸漬前後の引張強度の変化率(%)を表に記載した。変化率が−40%〜0%であれば良好と評価した。
*1引張強度=試験片を切断するまで引っ張ったときに記録される最大の引張力÷試験片の初期断面積)
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
【表6】
【0117】
表6に示す通り比較例の潤滑油組成物にシリコーン硬化物を浸漬すると経時でシリコーン硬化物の強度が低下し変形してしまう。これに対し、表4及び5に示す通り、本発明の潤滑油組成物はシリコーン硬化物を浸漬しても変形率が少なく、シリコーンに対する材料適合性に優れる。さらに、低粘度化しても、耐摩耗性、耐焼付き性、ギヤ疲労耐性、及びベアリング疲労耐性等の部品保護性能に優れ、且つ、高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)を有する。
【0118】
[実施例18〜33、及び比較例8〜14]
上記した各成分を表7〜表9に記載の組成及び量で混合して潤滑油組成物を調製した。表に記載のリン系極圧剤の量は潤滑油組成物全体の質量部に対するリンの質量ppmである。金属清浄剤の量は潤滑油組成物全体の質量部に対する金属元素(Ca)の質量ppmである。硫黄系極圧剤の量は潤滑油組成物全体の質量部に対する硫黄の質量ppmである。(E)コハク酸イミドの含有量は潤滑油組成物中の質量%である。(G)フマル酸アルキルエステル・酢酸ビニル共重合体の量は潤滑油組成物全体の質量部に対する質量%である。
ホウ素化コハク酸イミドの量は潤滑油組成物全体の質量部に対するホウ素の質量ppmである。有機摩擦調整剤及びその他の添加剤の量は組成物全体の質量に対する質量%である。基油の量は潤滑油組成物全体を100質量%とした残部である。組成物の100℃の動粘度(ASTM D445に準拠して100℃で測定)は、KV100(mm2/s)として表した。
【0119】
これらの潤滑油組成物について下記の試験を行った。結果を表4〜6に示す。
(1)耐摩耗性 ASTM D4172をもとに40kgf,80℃,1800rpm,30分で測定した。
(2)耐焼付き性 ASTM D2783に準拠して測定した。
(3)ベアリング摩耗(サイクル試験により摩耗が発生するまでのサイクルを測定)
(4)金属間摩擦係数(40℃、80℃)MTM試験機を用いて80℃で測定した。
(5)体積抵抗率 JIS C2101をもとに80℃で測定した。
(6)材料適合性
シリコーンゴム硬化物である試験片を、試験油の入った専用ガラス容器に150℃×100時間浸漬した。浸漬後の試験片について、引張試験機で引張強度*1を測定した。浸漬前の試験片について引張強度を測定し、浸漬前後の引張強度の変化率(%)を表に記載した。変化率が−40%〜0%であれば良好と評価した。
*1引張強度=試験片を切断するまで引っ張ったときに記録される最大の引張力÷試験片の初期断面積)
(7)BF粘度 ASTM D 2983に準拠して−40℃で測定した。
(8)混油後のBF粘度 100℃動粘度が11mm/sの市販油を10質量%混ぜた混油について、ASTM D 2983に準拠するBF粘度を−40℃で測定した。
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
【表9】
【0123】
【表10】
【0124】
【表11】
【0125】
【表12】
【0126】
上記実施例18〜32の潤滑油組成物に示す通り、(G)成分を配合することにより市販油と混油しても−40℃におけるブルックフィールド粘度(以下、BF粘度(−40℃)と表記することがある)6〜12Pa・sに維持することができる。なお、(G)成分を含まない実施例1の潤滑油組成物で市販油と混油後のBF粘度(−40℃)を測定したところ3Pa・sとなり大幅に粘度が低下した。従って、(G)成分を配合することにより、低粘度化しても、耐摩耗性、耐焼付き性、ギヤ疲労耐性、及びベアリング疲労耐性等の部品保護性能に優れ、且つ、高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)を有し、シリコーンに対する材料適合性に優れるという本発明の課題を達成しつつ、更に、低温粘度特性に優れる潤滑油組成物を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の潤滑油組成物は、100℃における動粘度1.5〜5mm/sという低粘度条件下において、耐摩耗性及びベアリング特性等の部品保護性能に優れ、高い電気絶縁性(高い体積抵抗率)を有し、且つ、材料適合性に優れる。更に、低温粘度特性に優れる潤滑油組成物を提供することができる。従って、ハイブリッド自動車、電気自動車、及び燃料電池自動車用の変速機又はギヤ油として好適に利用される。