【解決手段】本開示の一側面に係るシステム1は、差周波光生成部10と、分岐部40と、等波数信号生成部50と、基準信号生成部60と、を備える。差周波光生成部10は、信号光光源11からの出力光と励起光光源12からの出力光との波数差に対応する差周波光を生成して出力する。これら光源の一方は、波長掃引光源として構成される。分岐部40は、波長掃引光源からの出力光の一部を、第一及び第二の参照光として分岐する。等波数信号生成部50は、第一の参照光を、干渉計51を介して受光することにより、等波数間隔で変動する等波数信号を生成して出力する。基準信号生成部60は、第二の参照光を、特定波長の入力光を選択的に通過させる光学要素を介して受光することにより、第二の参照光が特定波長であるときに電気的な基準信号を生成して出力する。
一方が波長掃引光源として構成される信号光光源及び励起光光源からの出力光を合波して、非線形光学材料に入力することにより、前記信号光光源からの出力光と前記励起光光源からの出力光との波数差に対応する波数を有する差周波光を生成して出力するように構成される差周波光生成部と、
前記波長掃引光源からの出力光の一部を、第一及び第二の参照光として分岐するように構成される分岐部と、
前記分岐された前記第一の参照光を、入力光の波長に対応した干渉光を出力する干渉計を介して受光することにより、前記波長掃引光源における波長掃引に応じて等波数間隔で変動する電気的な信号である等波数信号を生成して出力するように構成される等波数信号生成部と、
前記第二の参照光を、特定波長の入力光を選択的に通過させる光学要素を介して受光することにより、前記第二の参照光が前記特定波長であるときに電気的な基準信号を生成して出力するように構成される基準信号生成部と、
を備える光学システム。
【背景技術】
【0002】
測定対象ガスに、波長を掃引しながら光を照射し、照射した光の吸収度を測定することにより、ガスの成分分析を行うシステムが既に知られている(例えば特許文献1参照)。照射光には、例えば波長2.5μm〜4μmの中赤外光が用いられる。中赤外波長領域は、分子の種類に応じて異なった吸収スペクトルを示すため、化学物質の同定に重要な波長領域である。
【0003】
近年、この中赤外波長領域で測定対象ガスの光吸収を測定することにより、温室効果ガスの原因となる内燃機関や産業プロセスガスの成分濃度を分析することが考えられている。リアルタイムにガスの吸収スペクトルを測定し、ガスの成分濃度及び組成を分析するためには、中赤外線の波長を広帯域且つ高速で掃引すること、更には、短い周期で繰返し掃引することが重要である。
【0004】
中赤外光の波長帯域の特に波長3μm〜3.5μm付近には、多種の炭化水素分子の振動基準モードが存在しており、この帯域には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレンなどの吸収が3μm以下の波長に存在する振動高調波に比べて100倍以上強い吸収線が存在する。このため、3μm〜3.5μmの波長帯域は、微量なガスを高感度に検出するのに非常に有用である。
【0005】
これらのガスの吸収スペクトルの測定には、分子の種類を特定するために、振動及び回転準位を識別できる必要があり、光源の線幅が、振動及び回転準位間の遷移による吸収スペクトル線の幅よりも狭くなっている必要がある。メタンの場合では、分子の振動及び回転スペクトル間隔が300GHz、一本一本の吸収線の線幅は、ドップラー広がりのため、室温の場合300MHz程度となっており、照射光の線幅は、300MHz以下であることが望ましい。
【0006】
この条件を満たすには、照射光としてのレーザー光の発振モードがシングルモードであることが望ましく、更には、波長の連続掃引(モードホップフリー)を実現可能であることが望ましい。連続した波長掃引を実現できない場合には、吸収スペクトルに波長の不連続点が生じてしまうためである。
【0007】
これらの条件(シングルモード及びモードホップフリー)を満足し、中赤外光の波長掃引を実現可能な波長掃引光源としては、量子カスケードレーザー(QCL)、非線形光学過程を用いた光パラメトリック増幅器(OPA)、及び差周波発生(DFG)を利用した光源などがある。しかしながら、これらの波長掃引光源を用いたシステムでは、掃引可能な波長帯域が小さく、波長掃引速度が遅く、波長掃引繰返し周波数が低いため、高速掃引を短い周期で繰り返してガスのリアルタイム測定を実現することが難しかった。
【0008】
例えば、特許文献2に開示されるような、QCLを波長掃引光源として採用したシステムでは、波長掃引中のモードホップを回避するために、モータを用いて波長掃引制御を行うことから、10Hzを超える波長掃引繰返し周波数で、高速に波長掃引を行うことができなかった。
【0009】
半導体レーザー内部の共振器に回折格子構造を用いた分布帰還形(DFB)レーザーを
用い、温度調整により生じる熱膨張効果による共振器長変化を利用して波長掃引を行う技術も知られている。しかしながら、このような熱膨張を利用する技術では、波長掃引速度が遅く、波長掃引範囲も狭く10nm未満に限定されるといった欠点があった。
【0010】
差周波発生(DFG)を利用したシステムも同様に、大きな質量をもつ光学部品をモータで駆動して、波長掃引を実現する従来システムでは、モータの駆動速度及び駆動対象の慣性等に起因して、波長掃引繰返し周波数及び波長掃引速度を高くすることが難しかった。
【0011】
高速波長掃引可能な光源としては、共振器の一面がMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)により駆動されることで波長掃引が実現されるMEMSチューナブルVCSEL(垂直共振器面発光レーザー)が知られている(特許文献3参照)。しかしながら、従来技術によれば、この光源を、分光分析用途で利用することができなかった。即ち、MEMSチューナブルVCSELでは、波長を高速掃引可能である一方、従来技術では、掃引過程の波長を精度よく判別することができないために、波数対吸光度のスペクトルデータを精度よく生成することができなかった。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す本実施形態の光学測定システム1は、測定対象ガス20に中赤外光を照射して、測定対象ガス20の吸光度を測定するためのシステムである。
【0031】
この光学測定システム1は、中赤外光生成部10と、中赤外光検出部30と、光分岐器40と、等波数信号生成部50と、基準信号生成部60と、信号解析部70とを備える。
中赤外光生成部10は、信号光光源11と、励起光光源12と、光合波器14と、波長変換素子15と、集光レンズ17と、光分岐器19とを備える。この中赤外光生成部10は、差周波光出力部として機能する。
【0032】
即ち、中赤外光生成部10は、信号光光源11及び励起光光源12からの出力光を合波して、非線形光学材料を含む波長変換素子15に入力することにより、信号光光源11からの出力光と励起光光源12からの出力光との波数差に対応する波数を有する中赤外波長の差周波光を生成して出力するように構成される。
【0033】
以下に説明する本実施形態の光学測定システム1では、信号光光源11が固定波長光源として構成され、励起光光源12が波長掃引光源として構成されるが、別例として、信号光光源11が波長掃引光源として構成され、励起光光源12が固定波長光源として構成されてもよい。即ち、
図1に示す固定波長光源は、励起光光源12であってもよく、波長掃引光源は、信号光光源11であってもよい。
【0034】
信号光光源11は、例えば1.5μm帯の固定波長のレーザー光を信号光として出力するように構成される。信号光光源11の例には、波長安定化DFBレーザー及びファイバーレーザーが含まれる。信号光光源11の出力後段に、信号光出力強度を増幅するための光ファイバ増幅器が配置されてもよい。信号光光源の波長をモニターするエタロン等の光学素子を通した光を検出し、信号光光源の電流や温度にフィードバックをかけ波長を安定させる波長ロックモジュールが追加されてもよい。
【0035】
励起光光源12は、例えば波長掃引される1.06μm帯のレーザー光を励起光として出力するように構成される。具体的に、励起光光源12は、MEMSチューナブルVCSELで構成される。MEMSは、マイクロエレクトロメカニカルシステムの略であり、VCSELは、垂直共振器面発光レーザーの略である。MEMSチューナブルVCSELでは、共振器を構成する反射鏡の一面がMEMSにより駆動されることで波長掃引が実現される。
【0036】
MEMSチューナブルVCSELの例には、ハーフVCSELと、高速駆動MEMSダイアフラムミラーとを組み合わせたMEMSチューナブルVCSELが含まれる。先行技術文献(特許文献3:特開2010−161253号公報)には、1.5μm帯の光出力のためにInP基板を備えるMEMSチューナブルVCSELが開示されている。このMEMSチューナブルVCSELにおいて、InP基板をGaAs系の半導体基板に置き換えることで、1.06μm帯のMEMSチューナブルVCSELを構成することができる。
【0037】
MEMSチューナブルVCSELは、VCSELの活性層をVCSEL側の高反射率ミラーとMEMS側の高反射率ミラーで挟み込んだ光共振器を備える。VCSELに電流を流すことにより活性層が励起され、自然放出光が発生し、VCSEL側の高反射率ミラーとMEMS側の高反射率ミラーの間を光が往復し、活性層を光が通るときに光が増幅されてレーザー発振が実現される。
【0038】
高反射率ミラーを中央に含むMEMSダイアフラムミラーを変位させることにより、VCSEL側の高反射率ミラーとMEMS側の高反射率ミラーの間で定義される共振器長が変化し、発振波長が変化する。
【0039】
共振器長を短くすることにより、共振器の縦モード間隔であるフリースペクトルレンジ(FSR)を広げることができ、活性層のレーザー発振有効ゲイン波長範囲内の共振器縦モードを一つだけにすることができ、フリースペクトルレンジで規定される可変波長範囲を大きくすることができる。
【0040】
例えば、MEMS側の高反射率ミラーとVCSEL側の高反射率ミラーとの間隔を約8μm(空気換算光学長)とすると1.06μm帯でのフリースペクトルレンジを約70nmとすることができ、フリースペクトルレンジが活性層のレーザー発振有効ゲイン波長範囲以上の場合、活性層のゲイン波長全域で発振波長を変えることができる。このとき、発振縦モード次数は15であり、ミラー間の間隔を変えるために525nm以下でMEMSダイアフラムミラーを空間的に動かせば、次の次数が現れない連続した波長掃引が可能となる。
【0041】
電流注入方式で励起する活性層の空間領域に関し、VCSEL側の高反射率ミラーとMEMS側の高反射率ミラーとで規定される共振器基本モードの空間的重ね合わせを最大化することにより、レーザー発振を起こさせる横モードをシングルモード化することができる。この横モードの制限と、短共振器長による縦モードの制限とにより、縦及び横シングルモードでのモードホップフリー波長チューニングが可能となる。
【0042】
光で活性層を励起する光ポンプ方式の場合には、活性層を励起する光の焦点直径を調整することにより、活性層を励起する空間領域を制御することができ、電流注入方式と同様に共振器の空間モードとの重ね合わせを最大化して、縦及び横シングルモードレーザー発振を実現できる。
【0043】
縦及び横シングルモード発振のMEMSチューナブルVCSELからの平均出力光強度は数mW以下と弱いため、より強い中赤外光を出力するために半導体光増幅器(SOA)などの光増幅デバイス13をMEMSチューナブルVCSELの出力後段に配置してもよく、この場合には、出力を、数十mW程度の光出力強度まで増幅することが可能である。SOAの出力後段に更に光ファイバ増幅器を配置して光出力強度を増幅しても良い。
【0044】
本開示者らの実験によれば、上記構成のMEMSチューナブルVCSELのMEMSに適用する定電圧設定を変えることによってレーザー発振波長を変えることができ、32nmの可変波長範囲が得られた。このMEMSチューナブルVCSELでは、
図2に示すように、発振ピークから40dB程度下までサイドモードが観察されず、共振器横モードも基本モードに対して40dB程度以上抑圧された。
図2には、波長(nm)の横軸、及び、MEMSチューナブルVCSELからの出力光強度(dBm/0.1nm)の縦軸を有する、MEMSチューナブルVCSELの発振スペクトルを示すグラフを示す。
【0045】
図3に示すグラフは、上記MEMSチューナブルVCSELにおけるMEMSを100kHzの電圧信号で駆動した実験で得られたMEMSチューナブルVCSELからの光の出力パワー及び波長の時間変化を示す。この実験では、MEMSチューナブルVCSELの後段に光増幅デバイス13を配置し、光信号を増幅している。グラフ内の実線が出力パワーの軌跡を表し、破線が波長の軌跡を表す。グラフにおいて横軸が時間軸に対応し、右縦軸が波長軸に対応し、左縦軸が出力パワー軸に対応する。
【0046】
この実験では、100kHzの駆動周波数で1052nmを中心とした37nmの範囲での波長掃引が実現されている。この実施では、長波長から短波長に向かって波長掃引しているときに光増幅デバイス13に流す電流を切り、光出力がない状態に設定しているが、光増幅デバイス13に流す電流を切らなければ長波長から短波長へ向かう波長掃引も出力することができ、短波長から長波長のみでなく、長波長から短波長の波長掃引も出力することができる。この場合、MEMSダイアフラムミラーの機械的動作周波数100kHzの2倍である200kHzでの波長掃引が可能である。
【0047】
光合波器14は、信号光光源11から光ファイバを通じて伝送されてくる固定波長の信号光、及び、励起光光源12から光ファイバを通じて伝送されてくる波長掃引される励起光を合波するように構成される。光合波器14により合波された信号光及び励起光は、共通の光ファイバを通じて波長変換素子15に伝送される。光合波器14の例には、波長分割多重(WDM)カプラが含まれる。光ファイバは、偏光保持ファイバであってもよいし、シングルモードファイバーであってもよい。
【0048】
波長変換素子15は、周期的に分極反転された非線形光学材料が配置された光導波路を備え、入力される信号光と励起光との波数差に対応する波数を有する差周波光を生成して
、出力するように構成される。この波長変換素子15の構造及び原理は、先行技術文献(特許文献1:特開2011−203376)に開示される。波長変換素子15の例には、周期的に分極反転したLiNbO3等の材料から作製される導波路型差周波生成(DFG)デバイスが含まれる。
【0049】
差周波光の波長λ
iと、信号光の波長λ
sと、励起光の波長λ
pとの関係は、次式(1)
で表される。
【0050】
【数1】
1.5μm帯の信号光と1.06μm帯の励起光とが波長変換素子15に入力されるとき、波長変換素子15からは、3μm帯の差周波光(中赤外光)が出力される。
【0051】
波長変換素子15から出力される中赤外光は、集光レンズ17を通り、平行光として、測定対象ガス20に向けて出力される。集光レンズ17は、中赤外光ビームが、遠方まで空間的に拡がらないようにする目的で配置される。
【0052】
測定対象ガス20を通過した中赤外光は、中赤外光検出部30で受光される。中赤外光検出部30は、光ディテクタ35と、出力回路39とを備える。光ディテクタ35は、中赤外光の受光強度に対応した電気的な検出信号を出力するように構成される。光ディテクタ35の例には、HgCdTe等材料を冷却した中赤外線ディテクタが含まれる。出力回路39は、光ディテクタ35からの検出信号を、電流−電圧変換し、中赤外光の受光強度に応じた電圧情報を有する強度測定信号として出力する。この強度測定信号は、信号解析部70に入力される。
【0053】
ここで、掃引波長の変化について説明する。中赤外光の波長は、励起光光源12における波長掃引に伴って変化するが、励起光光源12としてのMEMSチューナブルVCSELから出力される光の波長の時間変化は、
図4に示すように、時間に対して線形ではない。このため、波長変換素子15から出力される中赤外光の波長も同様な時間変化を示す。
【0054】
MEMSチューナブルVCSELからの出力光について、波長の時間変化が線形ではない理由は、MEMSダイアフラムミラーが慣性で急に動き出したり、急に止まったりできないためである。MEMSダイアフラムミラーに機械的な複数の共振モードが存在することや、MEMSダイアフラムミラーの駆動電圧にばらつきが存在することで、掃引波長の軌跡も掃引毎に微少に変化する。
【0055】
MEMSには、よく知られるようにチャージアップと呼ばれる現象、即ち、MEMSの表面に電荷が溜まる現象も起こる。このチャージアップは、MEMSの駆動電圧に見かけ上オフセットを生じさせ、掃引波長範囲が移動する波長ドリフト現象を生じさせる。
【0056】
このようにMEMSチューナブルVCSELから出力される光の波長は、様々な要因により簡単には特定できない。一方、MEMSチューナブルVCSELをガスの光吸収スペクトルの測定のための光源として用いるためには、中赤外光検出部30からの強度測定信号が示す中赤外光の受光強度と波長又は波数との対応関係が分からなければならない。本実施形態の光学測定システム1が備える等波数信号生成部50及び基準信号生成部60は、この対応関係の特定のために用いられる。
【0057】
中赤外光生成部10が備える光分岐器19(
図1参照)は、波長掃引光源(励起光光源12)から出力される光の一部を分岐して、等波数信号生成部50及び基準信号生成部60に提供するように構成される。即ち、光分岐器19は、励起光光源12から出力される励起光の一定割合を、光合波器14に入力し、残りを下段の光分岐器40に入力するように構成される。
【0058】
下段の光分岐器40は、光分岐器19により分岐された光を更に、第一及び第二の参照光として分岐して、第一の参照光を、等波数信号生成部50に入力し、第二の参照光を、基準信号生成部60に入力するように構成される。光分岐器19,40の例には、カプラが含まれる。
【0059】
等波数信号生成部50は、入力される第一の参照光を、入力光の波長に対応した干渉光を出力する干渉計を介して受光することにより、励起光の波長掃引に応じて等波数間隔で変動する電気的な信号である等波数信号を出力するように構成される。
【0060】
具体的に、等波数信号生成部50は、k−clock干渉計51と、光ディテクタ55と、出力回路59とを備える。k−clock干渉計51は、波長掃引される励起光の波数に対応した干渉信号を出力するように構成される。k−clock干渉計51の例には、光ファイバで構成されるマッハゼンダー干渉計、及び、エタロンが含まれる。エタロンの例には、低膨張率ガラスで共振器を構成した固体型又は空間型エタロンが含まれる。
【0061】
図1に示されるk−clock干渉計51は、エタロン53を備える。エタロン53には、光分岐器40からコリメータレンズ52を介して第一の参照光が入力される。エタロン53では、共振器長に対応する入力光の周波数成分が強調されて、干渉信号が出力される。エタロン53の共振器長の倍の長さ(あるいは干渉計のディレイ長)をLd、光速をcとすると、干渉信号には、等周波数間隔Δν=c/Ldの干渉縞が現れる。
【0062】
干渉信号は、コリメータレンズ54を介して、光ディテクタ55に伝送される。光ディテクタ55は、干渉信号の受光強度に応じた電気的な検出信号を出力する。出力回路59は、光ディテクタ55からの検出信号を、電流−電圧変換し、受光強度に応じた電圧情報を有する等波数信号として出力する。出力される等波数信号は、アナログのk−clock信号である。変形例として、等波数信号は、ディジタルのk−trigger信号であってもよい。k−trigger信号は、k−clock信号が閾値を超えたときにパルスとして出力される信号である。
【0063】
出力回路59からの等波数信号は、信号解析部70に入力される。出力回路59は、ACカップリングによりDC成分を除去するように構成されてもよい。即ち、DC成分の除去された等波数信号が信号解析部70に入力されてもよい。
【0064】
基準信号生成部60は、光分岐器40から入力される第二の参照光を、特定波長λ
Gの
入力光を選択的に通過させる光学フィルタを介して受光することにより、第二の参照光が特定波長λ
Gであるときに電気的な基準信号を出力するように構成される。
【0065】
具体的に、基準信号生成部60は、光学フィルタとしてのバンドパスフィルタ61と、光ディテクタ65と、出力回路69とを備える。バンドパスフィルタ61は、特定波長λ
Gの第二の参照光が当該バンドパスフィルタ61を通って光ディテクタ65に伝送される
ように、第二の参照光の伝送路における光ディテクタ65の上流に配置される。
【0066】
バンドパスフィルタ61は、例えば誘電体多層膜により構成される。このバンドパスフィルタ61は、例えば0.1nm以上1nm以下の透過波長幅を有する。
図5は、バンド
パスフィルタ61の透過強度を例示するグラフである。この例によれば、透過波長の半値全幅は約0.4nmである。0.1nm以上の透過波長幅を有する誘電体多層膜のバンドパスフィルタ61の作製は比較的容易である。
【0067】
バンドパスフィルタ61を透過した第二の参照光は、光ディテクタ65で受光される。バンドパスフィルタ61の存在に起因して、光ディテクタ65は、第二の参照光、換言すれば波長掃引される励起光がバンドパスフィルタ61の透過波長範囲に対応する波長であるときにピークを示す、受光強度に応じた電気的な検出信号を出力するように動作する。検出信号は、出力回路69を通じて、掃引中の波長が特定波長λ
Gであることを示す基準
信号に変換され、信号解析部70に入力される。
【0068】
即ち、励起光の波長掃引により生じた特定波長λ
Gの第二の参照光がバンドパスフィル
タ61を通過したときに、バンドパスフィルタ61を透過した第二の参照光が光ディテクタ65で検出される。光ディテクタ65では、透過光強度に比例した電流が発生し、この電流情報を有する電気信号が上記検出信号として出力回路69に入力される。
【0069】
出力回路69は、入力される検出信号が有する電流情報を、電圧情報に変換する。出力回路69は更に、変換後の検出信号の電圧が所定電圧を超えた瞬間において、基準信号を生成するように構成される。これにより、基準信号は、波長掃引により励起光が特定波長λ
Gに到達したときに、出力回路69から出力され、信号解析部70に入力される。
【0070】
0.1nm以下の透過波長幅では、光透過の強度損失が大きい。1nm以上の透過波長幅では、透過波長付近における透過光強度の波長に対する傾きが緩やかになり、光源の強度揺らぎ及び電気回路のノイズ等の影響を大きく受けて、基準信号が出力される波長のばらつきが大きくなる。このため、バンドパスフィルタ61の透過波長幅は、0.1nm以上1nm以下であることが好ましい。
【0071】
波長リファレンスの温度特性を安定させるために、基準信号生成部60のバンドパスフィルタ61は、ヒータ又はペルチェ素子を含む温度調整構成を用いて、一定温度に保持されるように温度制御されてもよい。k−clock干渉計51に含まれるエタロン53も、同様に、温度調整構成を用いて、一定温度に保持されるように温度制御されてもよい。干渉信号の振幅の監視を通じて、波長掃引時に発生する励起光の出力パワー変動量を監視し、この光出力パワー変動量の影響を打ち消すように、光ディテクタ65からの検出信号を補正してもよい。
図1に示す光分機器40における光分岐を3分岐に変更すると共に、その分岐信号を受ける部位として、基準信号生成部60及び等波数信号生成部50に加え、新たに強度基準生成部を設けてもよい。強度基準生成部では、分岐信号を受光して波長掃引光源の光強度を表す信号を出力してもよい。信号解析部70は、この信号を基準信号、等波数信号、及び強度測定信号と共に同時サンプリングし、中赤外光検出部30で検出された信号強度の補正に用いることができる。
【0072】
上記構成の基準信号生成部60では、MEMSダイアフラムミラーの変位が波長掃引毎にばらつく環境においても、そのばらつきの影響を受けず、励起光が特定波長λ
Gである
ときに、基準信号を出力することができる。
【0073】
変形例として、基準信号生成部60は、0.1nm以上1nm以下の狭い波長帯域の入力光を反射するファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)をバンドパスフィルタ61に代えて備えていてもよい。即ちFBGで反射された特定波長の第二の参照光を、光ディテクタ65で受光するように、基準信号生成部60は構成されてもよい。
【0074】
信号解析部70は、プロセッサ71、記憶デバイス73、データ収集(DAQ)デバイ
ス75、操作デバイス77、及び出力デバイス79を備える。DAQデバイス75は、基準信号生成部60からの基準信号、等波数信号生成部50からの等波数信号、及び中赤外光検出部30からの強度測定信号を、等時間間隔でサンプリングすることにより、これらの信号をディジタルの時系列データに変換し、これらの時系列データを記憶デバイス73に記録するように構成される。記憶デバイス73の例には、ハードディスク及びフラッシュメモリ等の半導体製メモリが含まれる。
【0075】
図6には、中赤外光検出部30からの強度測定信号、等波数信号生成部50からの等波数信号(k−clock信号)、及び基準信号生成部60からの基準信号の例を、横軸を時間軸とする時間対電圧のグラフに示す。
【0076】
具体的に、DAQデバイス75は、同時刻に、基準信号、等波数信号、及び強度測定信号をサンプリングするように動作する。これにより、基準信号の時系列データ、等波数信号の時系列データ、及び、強度測定信号の時系列データは、共通する時間軸に関連付けて当該時間軸における同時刻のサンプリングデータが等時間間隔で配列された構成にされる。同一波長で生じた基準信号、等波数信号、及び強度測定信号が同時サンプリングされるように、光学測定システム1における光の伝播長及び電気信号の伝播長は、定められる。基準信号、等波数信号、及び強度測定信号に関して、光ファイバ又は空間を伝播する光伝送路長の違い、光信号を伝送する電子回路の伝送スピードの違い、並びに電気信号の伝送ケーブルの長さの違いにより、ある掃引波長におけるそれぞれの信号のDAQデバイス75への信号到着時間に明らかな違いが出た場合には、DAQデバイス75で同時サンプリングした等波数信号及び強度測定信号のサンプリングデータを、基準信号のサンプリングデータに対して時間的にシフトすることにより、ある掃引波長における基準信号、等波数信号、及び強度測定信号の同時刻性を調整することも可能である。
【0077】
プロセッサ71は、記憶デバイス73に記録された基準信号の時系列データ、等波数信号の時系列データ、及び強度測定信号の時系列データを処理して、測定対象ガス20の光吸収に関するスペクトルデータを生成するように動作する。具体的に、プロセッサ71は、スペクトルデータの生成のために
図7に示す解析処理を実行する。
【0078】
解析処理を開始すると、プロセッサ71は、操作デバイス77を通じてユーザから解析対象の波数範囲の指定を受ける(S110)。その後、プロセッサ71は、基準信号の時系列データ、及び等波数信号の時系列データを参照して、基準信号が入力された後の各時刻の励起光及び中赤外光の波数を判別する処理を実行する(S120)。
【0079】
中赤外光の波数1/λ
iは、上述した式(1)に従って、信号光の波数1/λ
sと励起光の波数1/λ
pとから算出可能である。
【0080】
波長掃引光源である励起光光源12のある時刻における波数は、次の原理で算出することができる。等波数信号(k−clock信号)は、上述した通り、励起光の波長掃引と供に信号レベルが上下し、等波数間隔でピークが表れる電圧信号である。ここで、等波数信号のピークの識別番号mを、
図8に示すように基準信号発生直後のピークの識別番号を0(m=0)として、時系列で順番に割り振る。以下では、識別番号mのピークのことを第mピークとも表現する。
【0081】
掃引波長が波長λ
Gであるときに基準信号が発生する環境で、励起光の波長を、波長が
長くなる方向(即ち、波数が小さくなる方向)に掃引した場合には、基準信号を指標に、等波数信号の第mピークの発生時刻t
mにおける励起光の波数1/λ
mを、次式によって計算することができる。
【0082】
【数2】
ここで時間T
FSR0は、基準信号発生直前の等波数信号のピーク(m=−1)の発生時刻から基準信号発生直後の等波数信号の第0ピーク(m=0)の発生時刻t
0までの時間間
隔に対応し、時間T
Aは、基準信号の発生時刻t
Gから第0ピークの発生時刻t
0までの時
間間隔に対応する。cは、光速に対応し、ν
FSRは、ピーク間の周波数差に対応する。
【0083】
等波数信号における第mピークと第m+1ピークの間の時刻t
xにおける波数1/λ
xも内挿により次のように算出することができる。
【0084】
【数3】
ここで時間T
FSR(m+1)は、第mピークの発生時刻から第m+1ピークの発生時刻までの時間間隔に対応し、時間T
Bは、第mピークの発生時刻t
mから時刻t
xまでの時間間隔に
対応する。
【0085】
例えば第1ピーク(m=1)と第2ピーク(m=2)の間の時刻t
xにおける波数1/λ
xは、第1ピークの発生時刻t
1から第2ピークの発生時刻t
2までの時間間隔t
FSR2、及
び、第1ピークの発生時刻t
1から時刻t
xまでの時間間隔T
Bを用いて、次式のように算
出可能である。
【0086】
【数4】
以上のように、基準信号及び等波数信号によれば、各時刻の励起光の波数1/λ
pを判
別することができ、この励起光の波数1/λ
p及び信号光の波数1/λ
sから、中赤外光の波数1/λ
iを判別することができる。
【0087】
S120において、プロセッサ71は、上記原理に従って、基準信号の時系列データ及び等波数信号の時系列データから特定される基準信号の発生時刻t
G及び等波数信号の各
ピークの発生時刻t
0,t
1,t
2,…t
m,t
M-1,t
Mと、ピーク間の周波数差ν
FSR及び
基準信号の発生波長λ
Gとから、各ピークの発生時刻t
0,t
1,t
2,…t
m,t
M-1,t
M
における励起光の波数1/λ
0,1/λ
1,1/λ
2,…1/λ
m,1/λ
M-1,t
M及び対応する中赤外光の波数を判別する。S120では、更に、ピーク間の時刻t
xにおける励起
光及び中赤外光の波数を判別することで、時系列データの各サンプリングデータに対応する時刻の励起光及び中赤外光の波数を判別してもよい。
【0088】
続くS130において、プロセッサ71は、基準信号の発生時刻t
GからS110で指
定された波数範囲に対応する等波数信号の第Mピークまでの波数範囲k
totalをN分割し
て定義される各波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNの光が波長掃引光源(励起光光源12)から出力された時刻t
r1,t
r2,…,t
rn,…,t
r(N-1),t
rNを判別する。
【0089】
ここでは、基準信号が発生する時刻t
Gでの波数1/λ
Gから等波数間隔k
total/Nに
並ぶ波数を1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNと表現し、それぞれの波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNに対応する時刻をt
r1,t
r2,…,t
rn,…,t
r(N-1),t
rNと表現する。時刻t
rnは、波数1/λ
rnの光が波長掃引光源(励起光光源12)から出力された時刻に対応する。
【0090】
波数範囲k
totalは、等波数信号の第0ピークから第Mピークまでの波数範囲Mν
FSR/
cと、基準信号の発生時から等波数信号の第0ピークまでの波数範囲k
op=(t
A/t
FSR0)ν
FSRと、を足し合わせた波数範囲{Mν
FSR/c+(t
A/t
FSR0)ν
FSR}である。
【0091】
プロセッサ71は、S110で中赤外光の波数範囲が指定された場合、この中赤外光の波数範囲に対応する励起光の波数範囲を包含するように、上記波数範囲k
totalを設定す
ることができる。
【0092】
等波数間隔k
total/Nに並ぶ波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNの内、波数1/λ
Gからn番目の波数1/λ
rnは次のように表わされる。以下では、波数1/λ
Gからn番目の波数1/λ
rnのことを、第n波数1/λ
rnとも表現す
る。
1/λ
rn=1/λ
G+n(k
total/N)
【0093】
図9に示すように、第n波数1/λ
rnが、時刻t
m1で発生した等波数信号の第m1ピークの波数1/λ
m1と時刻t
m2で発生した第m2ピークの波数1/λ
m2との間にある場合、第n波数1/λ
rnに対応する時刻t
rnは、次式に従って算出可能である。
【0094】
【数5】
S130において、プロセッサ71は、第n波数1/λ
rnに関して、この波数1/λ
rnを挟む等波数信号の二つのピークを特定し、これら二つのピークの波数1/λ
m1,1/λ
m2と対応する時刻t
m1,t
m2とに基づいて、波長掃引光源(励起光光源12)から波数1
/λ
rnの光が出力され、対応する中赤外光が測定対象に照射された時刻t
rnを判別する。この処理を、波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNに関して実行し、対応する時刻t
r1,t
r2,…,t
rn,…,t
r(N-1),t
rNを判別する。
【0095】
図10には、リスケーリングに関する説明図として、時間と波数との対応関係を表すグラフを示す。このグラフにおける縦軸は波数軸であり、横軸は時間軸である。
図10における丸点は、等波数信号の各ピークの発生時刻t
0,t
1,t
2,…t
m,t
M-1,t
Mと波数1/λ
0,1/λ
1,1/λ
2,…1/λ
m,1/λ
M-1,t
Mとの対応関係を示し、三角点は、波数1/λ
G,1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNと時
刻t
G,t
r1,t
r2,…,t
rn,…,t
r(N-1),t
rNとの対応関係を示す。
【0096】
続くS140において、プロセッサ71は、時刻t
r1,t
r2,…,t
rn,…,t
r(N-1),t
rNにおける中赤外光の強度推定値I(t
r1),I(t
r2),…,I(t
rn),…,I(t
r(N-1)),I(t
rN)を、強度測定信号の時系列データに基づき算出する。これらの強度推定値I(t
r1),I(t
r2),…,I(t
rn),…,I(t
r(N-1)),I(t
rN)はそれぞれ、測定対象ガス20を通過した波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNの中赤外光の強度の推定値に対応する。
【0097】
図11に示すように、時間t
rnの強度推定値I(t
rn)は、等時間間隔でサンプリングされた強度測定信号の時系列データから特定される、時間t
rnに隣接する時刻t
m1,t
m2において測定された中赤外光の強度I(t
m1),I(t
m2)から、線形内挿を用いて次式により算出することができる。
【0098】
【数6】
S140において、プロセッサ71は、上式に従って強度測定信号の時系列データから、等波数間隔の各波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNにおける中赤外光の強度推定値I(t
r1),I(t
r2),…,I(t
rn),…,I(t
r(N-1)),I(t
rN)を算出する。本実施形態では、上述したように線形補間により、強度推定値を算出したが、線形補間に代えて、三次までの低次スプライン補間が用いられてもよい。
【0099】
このようにして、プロセッサ71は、上述のステップS110〜S140を通じて、所謂リスケーリングの手法で、強度測定信号の時系列データが示す等時間間隔の強度情報を、等波数間隔の強度情報に変換する。なお、上記の実施形態では、基準信号を基点とした波数範囲でリスケーリングしているが、等波数信号の第0ピークから第Mピークまでの波数範囲でリスケーリングが行われてもよい。
【0100】
続くS150において、プロセッサ71は、波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNのそれぞれの強度推定値I(t
r1),I(t
r2),…,I(t
rn),…,I(t
r(N-1)),I(t
rN)に基づいて、波数1/λ
r1,1/λ
r2,…,1/λ
rn,…,1/λ
r(N-1),1/λ
rNに対応する中赤外光の波数1/λ
INF1,1/λ
INF2,…,1/λ
INFn,…,1/λ
INF(N-1),1/λ
INFNでの強度推定値I(λ
INF1),I(λ
INF2),…,I(λ
INFn),…,I(λ
INF(N-1)),I(λ
INFN)を配列した波数と測定対象ガス20を通過した光強度との対応関係を表すスペクトルデータ(強度スペクトルデータ)を生成する。この強度スペクトルデータに加えて、又は、代えて、中赤外光の波数1/λ
INF1,1/λ
INF2,…,1/λ
INFn,…,1/λ
INF(N-1),1/λ
INFNでの吸光度A(λ
INF1),A(λ
INF2),…,A(λ
INFn),…,A(λ
INF(N-1)),A(λ
INFN)を配列した波数と吸光度との対応関係を表すスペクトルデータ(光吸収スペクトルデータ)を生成してもよい。
【0101】
励起光の波数1/λ
rnに対応する中赤外光の波数1/λ
INFnは、上述の式(1)から簡単に算出することができる。波数1/λ
INFnにおける吸光度A(λ
INFn)は、測定ガスが存在しないときの受光強度から計算した強度推定値をI
0(λ
INFn)としたとき、式A(
λ
INFn)=−log
10(I(λ
INFn)/I
0(λ
INFn))により算出することができる
。記憶デバイス73には、測定対象ガス20が存在しないときの中赤外光の波数と光強度との対応関係を示す強度分布データを予め格納しておくことができる。
【0102】
吸光度A(λ
INF1),A(λ
INF2),…,A(λ
INFn),…,A(λ
INF(N-1)),A(λ
INFN)の算出に至るまでには、信号光光源11の波長λ
s、基準信号に対応する波長λ
G、及び等波数信号におけるピーク間の周波数差ν
FSRの情報が必要であるが、これらの情
報に関しては、光スペクトルアナライザー等を用いて測定された値を、予め記憶デバイス73に格納しておくことができる。
【0103】
S160において、プロセッサ71は、生成したスペクトルデータを出力する。具体的には、プロセッサ71は、生成したスペクトルデータを、記憶デバイス73に出力して保存することができる。プロセッサ71は、スペクトルデータを、出力デバイス79を通じて出力してもよい。出力デバイス79は、例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイスであり得る。この場合、プロセッサ71は、生成したスペクトルデータを、光吸収スペクトルの表示画像(グラフ)として、表示デバイスを通じてユーザに向けて出力することができる。
【0104】
図12には、信号光光源11として1.55μmのDFBレーザーを用い、励起光光源12として、MEMSチューナブルVCSEL光源を用い、励起光を1.047μm〜1.064μmの波長範囲で掃引したときの、中赤外光生成部10からの中赤外光の出力強度及び波長の経時変化を示す。
図12における鋸歯状の線は、中赤外光の出力強度を示し、
図12における緩やかに傾斜する実線は、中赤外光の波長を示す。この図では、時刻0μsにおいて基準信号が出力されている。
【0105】
図12に示される強度は、1GHzのサンプリング周波数を持つDAQデバイス75を用いてサンプリングされている。この例における波長掃引繰り返し周波は、6kHzであり、波長3230nmから3390nmまでの160nmの波長掃引(波数に換算すると146cm
-1)が100μsで実現されている。
【0106】
この例に従う光源及び波長掃引でメタンガスの吸光度を測定した結果を、
図13に示す。
図13下段は、
図13上段に示す吸光度の一部領域を拡大表示したものである。この測定は、長さ10cmのセルにメタンガス)に封入し、セルに封入された温度25℃及び圧力10Torrのメタンガスに中赤外光を照射することにより行われた。
【0107】
図13から理解できるように、本実施形態の光学測定システム1によれば、メタンガスのC−H振動のR枝、P枝の吸収線が1本1本きれいに分解測定できており、さらに細かい構造を有するQ枝の吸収線もきれいに分解測定できている。このことから、中赤外光が、振動及び回転吸収線測定のために十分狭い線幅を有していることが理解できる。
【0108】
また、
図14上段には、本実施形態の光学測定システム1を用いて得られたメタンガスの室温における各波数での吸光度を表す光吸収スペクトルを示す。更に
図14下段には、HITRAN2012データベースを用いた計算により得られたメタンガスの室温における光吸収スペクトルを示す。これらの図の対比から、本実施形態の光学測定システム1が、2950cm
-1から3070cm
-1の波数範囲の吸光度を高精度に測定できていることが理解できる。
【0109】
図15は、
図14上段の多数の吸収線の中から3038.5cm
-1付近の吸光度を拡大したグラフである。中赤外光の線幅は、この吸収線の幅に対応する線幅以下になっていると考えられる。この吸収線の半値全幅は0.01cm
-1程度になっていることが確認できる。0.01cm
-1の線幅は、周波数に換算して約300MHzであり、この測定結果から中赤外光の線幅は、300MHz以下になっていることと理解できる。この中赤外光の線幅は、分子の特徴的な吸収線の測定を行うために必要な1GHz以下の線幅である。
【0110】
図16には、この吸光度ピークの波数ばらつきを測定した結果を示す。具体的には、繰り返し周波数6kHzの波長掃引を連続479回測定したデータの3038.5cm
-1の吸収線に関して、その吸光度ピークの周波数バラつきの頻度ヒストグラムを示している。
【0111】
繰り返し周波数の標準偏差は57MHzである。この繰り返し周波数の標準偏差は、メタンガスの室温におけるドップラー広がり幅約280MHzの約20%であり、室温メタ
ンガスのある一つの吸収線を吸収線幅内の波数バラつきで測定することができる。メタンガスのドップラー拡がりは以下の式で計算することができる。
【0112】
【数7】
ここでk
Bはボルツマン定数、Tは絶対温度、mはガス分子の質量、λ
dは吸収測定に用いられる光の波長である。
【0113】
中赤外光の波数バラつきを1本の吸収線幅内に抑えることができると、例えば、メタンガス濃度のリアルタイム測定が行える。同じ波数における複数回の測定値を積算処理することにより、光吸収スペクトルのSN比を上げることも可能である。
【0114】
本実施形態の光源は、高繰り返し周波数での測定が可能であることから、測定対象ガス20の濃度の時間変化をリアルタイムでモニタリングすることができる。ある波長のガス吸収断面積をσ(cm
2)、ガス濃度をN(cm
-3)、中赤外光強度をI(x)とすると
、中赤外光が空間をx方向に伝播するときの光の強度は、微分形式で次式により表すことができる。
【0115】
【数8】
測定対象ガス20に入射する前の光強度をI
0とすると、均一な濃度のガスの中を距離
xだけ中赤外光が伝播した時の光強度は、次式に従って表される。
【0116】
【数9】
このように光強度は、指数関数的に減衰してゆく。吸収断面積σは分子に固有な数値であるため、距離xが判明しているときには、測定対象の分子濃度Nを計算から求めることができる。特定波数における光出力強度I(x)の時間変化を測定することにより、ガス濃度の時間変化を測定することができる。
【0117】
分子の種類により、吸収線の現れる波長が異なる。この吸収線が出てくる波長を分析することにより、混合ガスの種類を特定することも可能である。本実施形態の光源は、広い中赤外波長範囲をカバーしていることから、さまざまな分子種の混合比を測定することが可能である。
【0118】
以上に説明した実施形態によれば、等時間間隔で各信号をサンプリングしたが、DAQデバイス75では、k−triggerサンプリング法を用いて、等波数間隔で各信号をサンプリングしてもよい。即ち、DAQデバイス75は、k−trigger信号が基準電圧をクロスするタイミングで強度測定信号をサンプリングするようにすることにより等波数間隔の受光強度のデータを生成することが可能である。
図17には、基準信号及びk−trigger信号を共通する時間軸上に示す。
【0119】
この例では、基準信号の発生波長λ
G及びk−trigger信号が閾値を超えるとき
の波長(波数)から、サンプリングされた受光強度に対応する中赤外光の波長(波数)を判別することができる。
【0120】
この他、等波数信号のピークの発生時刻は、検出した干渉信号に光出力強度のバラつきやノイズが含まれるため、実際の等波数間隔からずれた時間が検出され得る。そのため、プロセッサ71は、DAQデバイス75でサンプリングされた等波数信号の時系列データに数値演算フィルタ処理を施し、これにより等波数信号の時系列データからノイズ成分を除去し、ノイズ成分が除去された等波数信号の時系列データに基づいて、各ピークの発生時刻を判別してもよい。ノイズ成分が除去された等波数信号の時系列データは、波数の判別精度を向上させる。
【0121】
図18の上段には、数値演算フィルタ処理実行前の等波数信号を示し、
図18の下段には、数値演算フィルタ処理実行後の等波数信号を示す。
【0122】
図19に示すように、数値演算フィルタ処理は、等波数信号の時系列データに対してFFT(高速フーリエ変換)処理を実行するステップ(S210)と、FFT処理後のデータ値(フーリエ変換値)に関して、目的の周波数成分以外を、目的の周波数成分に比べて非常に小さい値に置き換えることで、ノイズ成分を除去するように、FFT処理されたデータを加工するステップ(S220)と、加工後のデータに対して、逆FFT処理を実行することで、ノイズ成分を除去した等波数信号の時系列データを生成するステップ(S230)と、を含む。
【0123】
プロセッサ71は、解析処理(
図7)においてS120の処理実行前に、
図19に示す数値演算フィルタ処理を実行することにより、ノイズ成分を除去した等波数信号の時系列データを生成し、このデータを用いてS120以降の処理を実行することができる。
【0124】
図20は、
図18上段に示す等波数信号の時系列データに対してFFT処理を実行したときの周波数スペクトルを表す。
図20によれば、等波数信号は、4MHz付近にピークが存在する周波数成分を有している。
図18下段は、
図20に示すピーク周波数前後の破線で挟まれた成分以外を信号に非常に小さい値に置き換え、逆FFT処理を行ったときの等波数信号を示す。置換は、FFT処理後のデータ値(フーリエ変換値)に1未満の非常に小さい係数を作用させることで、実現され得る。別例として、数値演算フィルタ処理には、フィルタ処理後の波形の位相情報がずれないFIR(Finite impulse
response)フィルタが用いられてもよい。
【0125】
等波数信号におけるピークの検出は、関数フィッティングにより実現されてもよい。関数フィッティングは、最小二乗法を用いて実現されてもよい。例えば、
図21に示すように、等波数信号を等時間サンプリングして生成したデータから、連続した3点以上1000点以下のデータ(例えば、t
s(l-2),t
s(l-1),t
sl,t
s(l+1),t
s(l+2))を抽出し、抽出したデータを二次関数で最小二乗法によりフィッティングし、二次関数のピークに対応する時刻を等波数信号のピーク時刻t
nと推定してもよい。
【0126】
本開示は、上述した実施形態に限定されるものではなく、更に種々の形態を採ることができる。
【0127】
例えば、上記実施形態では、等波数信号の各ピークを等波数間隔の指標として用いたが、干渉信号の振幅中心電圧レベルを干渉信号が超える時刻を等波数間隔の指標として用いてもよい。上記実施形態では、波数を判別して、波数対強度/吸光度のスペクトルデータ
を生成したが、波数の判別に代えて、波長を判別して、波長対強度/吸光度のスペクトルデータを生成してもよいし、周波数を判別して、周波数対強度/吸光度のスペクトルデータを生成してもよい。
【0128】
この他、上記実施形態では、メタンガスの測定を例に挙げて3.3μmを中心とした波長範囲での波長掃引を説明したが、信号光及び励起光の波長と、非線形光学材料の設計とを変えることで、3.1μmを中心とした波長範囲や3.4μmを中心とした波長範囲で波長掃引することも可能であり、中赤外光(差周波光)の波長範囲は、3μm〜3.5μmの範囲で調整されてもよい。
【0129】
吸収線の測定を行うために、中赤外光の線幅は、1MHz以上1GHz以下の範囲で定められ得る。差周波光の波長掃引繰返し周波数は、従来よりも高い10Hz以上に定められると有意義である。具体的に、差周波光の波長掃引繰返し周波数は、10Hz以上100kHz以下に定められるとよい。掃引波数範囲は、ガスの分光分析のために、20cm
-1以上250cm
-1以下で定められるとよい。
【0130】
上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。