【解決手段】光学装置は、撮影光学系の光軸Lを回転軸として、レンズL4,L5のレンズ枠14が、回転させられる。その回転に連動して、レンズ枠14の周方向に形成されるネジ溝146と、ネジ溝146とカバー24のネジ山242とが、ネジ摺動する。すると、レンズL4,L5が光軸L方向に沿って方向Nに移動する。この移動は、収差の補正のために必要な移動である。そして、その移動距離が、全てのレンズ枠の数をn個としたとき、n/2番目以下に短いレンズ枠を補正対象とする。
前記ネジ摺動が行われるネジ摺動部の隙間によるガタツキを抑制するための、波ワッシャが、前記レンズ枠と、前記カバーとの間に配置される、請求項1に記載の光学装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、カメラのレンズ鏡筒は、その設計工程、製造工程等において、レンズ及びレンズ保持部材等の加工誤差等を調整するために、たとえば単焦点レンズにおいては、結像面にピント位置を合わせるための調整を行なっていた。
【0003】
その一例として、特許文献1には、撮影光学系を形成する第1および第2のレンズ群と、前記第1のレンズ群を保持し、光軸を中心として回転することにより、前記第1のレンズ群を、前記光軸に沿った方向に移動させる調整部を有する第1のレンズ枠と、前記第2のレンズ群を保持し、前記光軸を中心として回転することにより、前記第2のレンズ群を、前記光軸に沿った方向に移動させる調整部を有する第2のレンズ枠と、前記第1のレンズ枠と前記第2のレンズ枠とを、前記光軸を中心として一体で回転できるように連結する連結部とを備え、前記第1のレンズ枠を調整操作に基づいて回転させることにより、前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群が、前記第1のレンズ群と前記第2のレンズ群との間隔を維持した状態で、前記光軸に沿った方向に移動する。
【0004】
このような構成のレンズ鏡筒は、移動レンズ群の移動量を制約しないため、組込み時におけるレンズ群の調整作業の効率が良いレンズ鏡筒を提供することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、製造工程等において、移動レンズ群の移動量の制約を無くさなければならないようなレンズ鏡筒もあれば、製造工程等において、殆どの構成部材を位置精度高く組み立てて、残りの僅かな位置補正を行うレンズ鏡筒もある。
【0007】
そこで本発明の目的は、僅かな位置補正を行うことに適した光学装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の光学装置は、撮影光学系を形成する複数のレンズと、複数のレンズを保持するレンズ枠と、レンズ枠よりも外周側にあるカバーと、撮影光学系の光軸を回転軸として、レンズ枠が回転させられることで、ネジ摺動するレンズ枠のネジ溝およびカバーのネジ山と、複数のレンズの中の一部のレンズを光軸方向に沿って移動させるレンズ移動機構と、を有し、レンズ枠が回転させられる機構は、レンズ枠の外周面に形成された第1ギアと噛み合う第2ギアを有する第2ギア部材を、第1ギアを回転させるように回転することによって実現され、レンズ移動機構は、ネジ摺動されることで、レンズ枠と、カバーとの位置が、光軸方向に沿って変更されるものであり、レンズ移動機構は、複数のレンズの収差の補正のために用いられ、一部のレンズを保持するレンズ枠は、補正のために必要な移動距離が、全てのレンズ枠の数をn個としたとき、n/2番目以下に短いものである。
【0009】
ここで、ネジ摺動が行われるネジ摺動部の隙間によるガタツキを抑制するための、波ワッシャが、レンズ枠と、カバーとの間に配置されることとしても良い。
【0010】
また、レンズ枠が回転させられる機構は、レンズ枠の周面に形成された第1ギアと噛み合う第2ギアを有する第2ギア部材によって実現され、第2ギア部材は、止めネジによって固定されることとしても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、僅かな位置補正を行うことに適した光学装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る光学装置について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(本実施形態に係る光学装置の構成および動作)
図1は、本実施形態に係る光学装置の光軸に沿った断面図である。
図1は、光学装置の全ての構成要素を示してはおらず、発明の説明に必要な部材を示している。このことは、
図2、
図3および
図4も同様である。
図2は、
図1のA部の拡大図である。
図3は、
図1のA部の分解斜視図である。
図4は、
図1のA部の斜視図である。
図4は、後述するカバーの描写を省略している。
【0015】
本実施形態に係る光学装置1は、撮影光学系を形成する複数のレンズを有している。複数のレンズは、合計9枚のレンズ(L1〜L9)である。レンズL1,L2,L3,L5,L7,L8は凹レンズであり、レンズL4,L6,L9は凸レンズである。レンズ(L1〜L9)には、それらを保持するレンズ枠が備えられている。具体的には、光学装置1は、レンズL1を保持するレンズ枠11と、レンズL2を保持するレンズ枠12と、レンズL3を保持するレンズ枠13と、レンズL4,L5の2つのレンズを保持するレンズ枠14と、レンズL6を保持するレンズ枠15と、レンズL7を保持するレンズ枠16と、レンズL8を保持するレンズ枠17と、レンズL9を保持するレンズ枠18とを有している。
【0016】
レンズ枠(11〜17)には、それよりも外周側にあるカバーが備えられている。具体的に説明すると、光学装置1は、レンズ枠11にはそれよりも外周側にあるカバー21と、レンズ枠12にはそれよりも外周側にあるカバー22と、レンズ枠13にはそれよりも外周側にあるカバー23と、レンズ枠14およびレンズ枠15の2つのレンズ枠よりも外周側にあるカバー24と、レンズ枠16にはそれよりも外周側にあるカバー25と、レンズ枠17にはそれよりも外周側にあるカバー26とを有している。また、レンズ枠18にはカバーを有していない。
【0017】
図1のA部の拡大図を
図2に示す。扁平な円筒状のレンズ枠14は、爪141と爪142でレンズL4を挟み持ち、レンズL4を保持している。また、レンズ枠14は、爪143と爪144でレンズL5を挟み持ち、レンズL5を保持している。ここで、爪141は、レンズ枠14のうちの爪部147の一部であり、爪144は、レンズ枠14のうちの爪部148の一部である。爪部147と爪部148は、レンズ枠14の本体とは取り付けおよび取り外し可能な部位である。爪部147と爪部148は、レンズ枠14がレンズL4,L5を保持する際に、たとえば爪141と爪142の距離が、レンズL4,L5よりも幅狭で保持できない部分があるときに、レンズ枠14の本体から一旦取り外し、レンズL4,L5を保持した後にレンズ枠14の本体に取り付ける。また、光学装置1は、レンズ枠14のみを、球面収差の補正のために光軸Lに沿って移動させる構成となっている。
【0018】
なお、
図3からわかるように、光学装置1は、円筒部材51の第1貫通孔50を貫通し、カバー24の貫通孔241を貫通する第2ギア部材31を有している。
【0019】
図2に示す光学装置1は、撮影光学系の光軸Lを回転軸として、レンズL4,L5のレンズ枠14が、回転させられる。この回転は、レンズ枠14の周面に形成された第1ギア145と噛み合う、円柱状かつ長い棒状の第2ギア部材31の周面の第2ギア32によって実現される。第2ギア32は、歯が第2ギア部材31の長さ方向に切られている。レンズ枠14とカバー24との隙間に配置された、第2ギア部材31は、その細い円柱状の先端部33が、カバー24に形成された円形の貫通孔241に方向Mへ回転可能に挿入されている。
【0020】
その貫通孔241の内周面に摺接しながらの先端部33が、回転軸となり、第2ギア部材31全体が回転する。第2ギア部材31全体の回転は、第2ギア部材31の後端部34の凹部35にドライバーの先端を係合させ、回転力を付与する。第2ギア部材31が方向Mに回転することで、その周面の第2ギア32と第1ギア145が噛み合い、レンズ枠14が光軸Lを回転軸として回転する。
【0021】
その回転に連動して、レンズ枠14の周方向に形成されるネジ溝146と、カバー24のネジ山242とが、ネジ摺動する。すると、レンズL4,L5が光軸L方向に沿って方向Nに移動することになる。この機構をレンズ移動機構という。レンズ移動機構は、前述のネジ摺動がされることで、レンズ枠14と、カバー24との位置が、光軸L方向に沿って変更されるものである。なお、レンズ枠14の周方向に形成されるネジ溝146と、カバー24のネジ山242は、
図2に示すように、断面が三角形の形状をしている。
【0022】
レンズ移動機構は、複数のレンズ(L1〜L9)の球面収差の補正のために用いられる。そして、レンズL4,L5、すなわち、レンズ枠14は、球面収差の補正のために必要な移動距離が、全てのレンズ枠(11〜18)の数を本実施形態のように8個としたとき、1番目に短い、つまり最も移動距離の短いものである。
【0023】
レンズ枠14が回転させられる機構は、レンズ枠14の周面に形成された第1ギア145と噛み合う第2ギア32を有する第2ギア部材31によって実現され、第2ギア部材31は、円柱状かつ棒状のイモビス41等の止めネジによって固定されている。このイモビス41は、円筒部51の鍔部52の外周面53の第2貫通孔54から、第2ギア部材31の後端部34の外周面36を押圧する。イモビス41の外周面42には、ネジ溝43がイモビス41の周面の周方向に沿って形成されている。
【0024】
また、円筒部51の第2貫通孔54の内周面55には、ネジ溝43とネジ結合が可能なネジ山55が形成されている。これらネジ溝43とネジ山56をネジ結合させ、イモビス41の先端44を第2ギア部材31の後端部34外周面の36を押圧し、第2ギア部材31を固定する。この固定は、イモビス41のネジ溝43と円筒部51のネジ山56の隙間および/または、イモビス41の後端面45と円筒部51の第2貫通孔54の内周面55に、接着剤を供給することで、より確実にする。
【0025】
また、ネジ摺動が行われるネジ摺動部の隙間、つまりレンズ枠14の周方向に形成されるネジ溝146と、カバー24のネジ山242の隙間によるガタツキを抑制するため、波ワッシャ61が用いられる。ここで、摺動部とは、ネジ溝146と、ネジ山242が摺動またはネジ結合する箇所をいう。波ワッシャ61は、スプリングワッシャとも言われるもので、レンズ枠14と、カバー24との間であって、カバー24の略最外周の位置に配置される、光軸L方向に凹凸に折れ曲がった環状部材である。
図4の破線で示した波ワッシャ61は、カバー24で光軸Lに沿う方向へ押圧してない状態の波ワッシャ61である。
図4の実線で示した波ワッシャ61は、カバー24で光軸Lに沿う方向へ押圧した状態の波ワッシャ61である。このように、波ワッシャ61は、光軸Lに沿う方向へ押圧することで、その押圧に抗した付勢力を発生することができる。そのため、波ワッシャ61を、カバー24で光軸Lに沿う方向へ押圧することにより、ネジ溝146と、ネジ山242の間に隙間があっても、その隙間を押圧して小さくしたり無くしたりすることができる。
【0026】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
光学装置1は、たとえば各部材の位置精度の高さが要求される光学装置である。そのような光学装置1は、各レンズ(L1〜L9)および各レンズ枠(11〜18)の配置位置の精度が高い。そのため、8つのレンズ枠のうち、球面収差の補正のため、レンズ枠14のみを光軸Lに沿って僅かに移動させる。この移動は、ネジ摺動が行われるネジ摺動部によって、移動させる程度の小さな距離の移動を高精度に行うものである。このように、光学装置1は、収差の補正等の僅かな位置補正を行うことに適した光学装置である。また、その補正のために光学装置1の各構成要素をバラバラにする手間をかけることもない。
【0027】
しかも、レンズ枠14は球面収差の補正のために必要な移動距離が、最も短いものである。このようにしたのは、球面収差の補正のために必要な移動距離が長くなると、色収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差等の他の収差の影響を受けてしまう場合があるためである。このように、光学装置1は、収差の補正等の僅かな位置補正を行うことに、より適した光学装置である。
【0028】
また、ネジ摺動が行われるネジ摺動部の隙間、つまりレンズ枠14の周方向に形成されるネジ溝146と、カバー24のネジ山242の隙間によるガタツキを抑制するため、波ワッシャ61が用いられている。波ワッシャ61を、カバー24で押圧することにより、ネジ溝146と、ネジ山242の間に隙間があっても、その隙間を押圧して小さくしたり無くしたりすることができる。
【0029】
また、第2ギア部材31は、イモビス41等の止めネジによって固定されている。そのため、第2ギア部材31の固定を確実なものとすることができる。さらに、イモビス41で第2ギア部材31の固定を一旦行った後、再度第2ギア部材31の調整を行うことが容易である。
【0030】
また、光学装置1の完成品、たとえばカメラ等になったときには、第2ギア部材31とイモビス41は、そのカメラ等の外装に隠れて見えなくなっている。そのため、第2ギア部材31とイモビス41は、光学装置1の完成品のデザインの邪魔にはならない。
【0031】
(他の形態)
上述した実施の形態に係る光学装置1は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0032】
たとえば、球面収差の補正対象であるレンズ枠14は、レンズL4,L5の2つのレンズを保持するものであるが、1つまたは3つ以上のレンズを保持するものであっても良い。また、レンズの総数は9つとしているが、それ以外の数でも良い。
【0033】
また、ネジ摺動が行われるネジ摺動部の隙間、つまりレンズ枠14の周方向に形成されるネジ溝146と、カバー24のネジ山242の隙間によるガタツキを抑制するため、波ワッシャ61が用いられている。しかし、波ワッシャ61は、光学装置1の必須の構成要素ではないため、省略することができる。
【0034】
また、第2ギア部材31は、イモビス41等の止めネジによって固定されている。しかし、このイモビス41も、必須の構成要素ではないため、省略することができる。また、イモビス41を構成要素に含めるにしても、接着剤は使わないこととしても良い。
【0035】
また、レンズ枠14は球面収差の補正のため、光軸L方向に移動する。しかし、レンズ枠14は他の収差の補正のため、光軸L方向に移動することとしても良い。他の収差とは、たとえば色収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差等である。
【0036】
また、レンズ枠14は、球面収差の補正のために必要な移動距離が、全てのレンズ枠(11〜18)の数を本実施形態のように8個としたとき、1番目に短い、つまり最も移動距離の短いものである。しかし、必ずしも最も移動距離の短いレンズ枠を球面収差の補正対象としなくても良い。ただし、移動距離が短ければ短いほど、他の収差の影響を受けにくいことから、好ましいことは言うまでもない。たとえば、補正のために必要な移動距離が、全てのレンズ枠の数をn個としたとき、n/2番目以下に短いレンズ枠を補正対象とすることができる。たとえば本実施の形態では、n=8であるから、n/2番目=4番目以下に短いレンズ枠を補正対象とすることが好ましい。仮にn=9の場合はn/2番目=4.5番目となり、四捨五入して5番目までのレンズ枠を補正対象とできる。このように、n/2番目を計算する際に、小数点以下の数字は四捨五入することができる。特定のレンズ枠が、必要な補正のための移動距離が何番目に短いかは、実際に光学装置を作って、レンズ枠を動かしてみればわかるし、シミュレーションでわかる場合がある。さらに、収差の補正のために必要な移動距離が短いレンズ枠は、シミュレーションまたは経験則等でわかるため、本実施形態のようにそのレンズ枠のレンズに対してレンズ移動機構を備えるようにすることができる。
【0037】
また、光学装置1は、レンズ枠14のみを、球面収差の補正のために光軸Lに沿って移動させる構成となっている。しかし、2つ以上のレンズ枠を収差の補正のために光軸Lに沿って移動させる構成としても良い。さらには、レンズ枠ではなくてレンズを単位として、1つまたは2つ以上のレンズを収差の補正のために光軸Lに沿って移動させる構成としても良い。
【0038】
また、第2ギア部材31の回転は、第2ギア部材31の後端部34の凹部35にドライバーの先端を係合させ、回転力を付与することで実現している。しかし、第2ギア部材31を回転する方法は、これに限定されず、たとえば手回し等で行っても良い。
【0039】
また、レンズ枠14の周方向に形成されるネジ溝146と、カバー24のネジ山242は、
図2に示すように、断面が三角形の形状をしている。しかし、これらは、いわゆるヘリコイドネジまたは台形ネジであっても良い。また、「ネジ山」と「ネジ溝」の用語は、ネジ結合をする一組のネジ部材を表現するために、便宜的に使い分けをするために使用している。そのため、ネジ溝146を「ネジ山」と表現し、ネジ山242を「ネジ溝」と表現しても、全く意味は変わらない。