【解決手段】平板状の複数の圧電体(2a〜2c)が電極層(30a、30b)を介して積層された状態で焼結されてなる積層体を備えた積層型圧電素子1であって、積層体の少なくも表裏一方の面(3、4)に電極10が形成され、当該電極と電極層とがビア20を介して接続され、表裏一方の面を上面として、ビアは、ビアホール23の内方に充填された導電材料24が、上方から下方に向かって押圧されて圧縮された状態で充填されてなる。
請求項4に記載の積層型圧電素子の製造方法であって、前記導電材料充填ステップでは、前記積層体の下面に樹脂製の平板を配置することを特徴とする積層型圧電素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層型圧電素子では、外部に露出していない内部電極に駆動信号を印加する必要がある。そのため、外部回路からの配線を内部電極に導通させる構造(以下、層間導通構造とも言う)が必要となる。上記特許文献1に記載の発明では、積層体の側面に銀ペーストなどの導電性ペーストを塗布し、その導電性ペーストを内部電極の端面に接続させている。しかし、このような配線接続構造では導電性ペーストが剥離して断線が発生したり、不要な層間に導電性ペーストが流入して短絡が発生したりする可能性がある。また、積層型圧電素子の大きさが小さくなると、同じ層で隣接する異なる電極間の間隙も小さくなり、短絡が発生する可能性が高くなる。すなわち、特許文献1に記載の超音波モーターの層間接続構造では、積層型圧電素子の小型化が難しい。
【0007】
特許文献2に記載の圧電素子は、所謂「ランジュバン振動子」であり、複数の円環状の単層型圧電素子が積層されて中空円筒状の積層体を構成し、その中空円筒状の積層体の中空部分にボルトの軸を挿入し、そのボルトをナットで締結することで積層型圧電素子を形成している。そのため、ボルトの頭部やナットが積層体の上層や下層から突出することになり、小型薄型化を達成することが難しい。もちろん、ボルトとナットが必要であり、部品コストも増大する。
【0008】
そこで、特許文献3に記載の技術を応用し、ビアを用いた層間導通構造を採用することが考えられる。すなわち、表面に電極が形成されたシート状の圧電体を積層させてなる積層体に孔(ビアホール)を形成し、そのビアホール内に導電材料を充填してビアを形成する。そして、積層体を焼成して積層型圧電素子を完成させる。
【0009】
しかし、平板状の圧電体の両面に電極が形成されてなる圧電素子では、電極が形成されている領域で圧電体が振動することになる。したがって、圧電体をより効率的に振動させるためには、ビアホールの開口面積を可能な限り小さくし、圧電体の面積に対する電極の面積を大きくすることが必要となる。そして、特許文献3に記載の製造方法を含め、ビアを用いた従来の層間導通構造の形成方法では、例えば、内径が0.1mm程度の細いビアホール内に導電材料を確実に充填することが難しい。すなわち、従来の層間接続構造の形成方法では、単層型圧電素子を積層した際に上下の電極間を確実に導通させることが難しい。
【0010】
そこで本発明は、層間での導通状態が確保されて、圧電特性が維持されているとともに、小型化に適した構造を有する積層型圧電素子と、その積層型圧電素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、平板状の複数の圧電体が電極層を介して積層された状態で焼結されてなる積層体を備えた積層型圧電素子であって、
前記積層体の少なくも表裏一方の面に電極が形成され、当該電極と前記電極層とがビアを介して接続され、
前記表裏一方の面を上面として、
前記ビアは、ビアホールの内方に充填された導電材料が、上方から下方に向かって押圧されて圧縮された状態で充填されてなる、
ことを特徴とする積層型圧電素子としている。
【0012】
前記圧電体は、PZTを含み、前記導電材料は、銀とパラジウムとを含むとともに、当該導電材料中の前記銀と前記パラジウムを合計した質量を100wt%として、前記パラジウムの質量割合が10wt%以下である積層型圧電素子とすることもできる。
【0013】
また、進行波型超音波モーターに用いられ、
円環状の平面形状を有し、表裏一方の面に扇状のステーター用電極と、扇状の接地用電極とが前記平面形状に沿って配置されているとともに、表裏他方の面に前記平面形状に沿う円環状の接地用電極が形成され、
前記ステーター用電極、前記扇状の接地用電極、および前記円環状の接地用電極は、前記平面形状の外周と内周の周縁から間隙を有して配置され、
前記表裏一方の面を上面として、
前記複数の圧電体の層間に形成されている電極は、当該電極の上方に接している前記圧電体の上面に形成されている電極と同じ平面形状の電極が形成されている積層型圧電素子であってもよい。
【0014】
本発明のその他の態様は、平板状の複数の圧電体が電極層を介して積層されてなる一体的な焼結体を備えた積層型圧電素子の製造方法であって、
ペースト状の圧電材料を用いて複数のグリーンシートを作製するステップと、
複数のグリーンシートの少なくとも表裏一方の面に前記電極層となる電極を印刷形成する電極形成ステップと、
前記グリーンシートに貫通孔からなるビアホールを形成するステップと、
前記ビアホール内にペースト状の導電材料を充填する導電材料充填ステップと、
前記複数のグリーンシートを積層して積層体を得る積層ステップと、
前記積層体を焼成して前記焼結体を得る焼成ステップと、
前記焼結体の少なくとも表裏一方の面に電極を形成する電極形成ステップと、
を含み、
前記導電材料充填ステップでは、前記表裏一方の面を上面として、前記貫通孔内に前記導電材料を注入するとともに、貫通孔の上面側開口の内方をパンチングプレスすることで、前記導電材料を前記貫通孔内で圧縮させ、
前記電極形成ステップでは、当該ステップにより形成する電極と前記電極層とを、前記ビアホール内に前記導電材料が充填されてなるビアを介して導通させる、
ことを特徴とする積層型圧電素子の製造方法としている。
【0015】
前記導電材料充填ステップにおいて、前記積層体の下面に樹脂製の平板を配置すれば、より好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、層間での導通状態が確保されて、圧電特性が維持されているとともに、小型化に適した構造を有する積層型圧電素子と、その積層型圧電素子の製造方法が提供される。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0019】
===層間接続構造===
上記特許文献1や2に記載の積層型圧電素子における層間導通構造では、積層型圧電素子の小型化が難しい。したがって、ビアを用いた層間導通構造を発展させることで、上下に積層される複数の単層型圧電素子のそれぞれの電極同士(以下、層間とも言う)の導通を確保しながら積層型圧電素子の小型化を図ることが現実的である。なお、ビアを用いた層間導通構造を積層型圧電素子に適用させる場合、より細いビアホール内に確実に導電材料を充填させることが難しいという問題の他に、積層型圧電素子に特有の問題が幾つか存在する。
【0020】
例えば、ペースト状の導電材料をビア内に充填させた時点では、導電材料は、ビアホールの開口端面と面一の状態となる。しかし、次工程までの間に導電材料中の溶剤が揮発するなどして導電材料が乾燥すると、導電材料がビアホールの開口端面に対して内方に窪んだ状態になり易い。そのため、上下方向で単層型の圧電素子を積層した際に、上層側の圧電体に形成されたビアホール内に充填されている導電材料が下層側の圧電体の上面に形成されている電極に接触せず、層間での導通不良が発生する可能性がある。
【0021】
さらに、圧電素子を構成する圧電体は、セラミックスであり、一般的には、粉体状の圧電材料を含むグリーンシートを高温で焼成することで作製される。積層型圧電素子を作製する際には、ビアホール内の導電材料や層間に形成された電極を圧電材料と同時に焼成する工程を要する。しかし、圧電材料として一般的なPZTは、鉛(Pb)を含み、導電材料には、導電性金属として銀(Ag)を含んでいる。そして、圧電材料とビア内の導電材料とを同時に焼成すると、PbとAgとが反応して、導電材料中のAgが焼失し、導電材料が疎の状態となる。それによって、焼成後にビアが断線したり、ビアホール内に充填した導電材料が瘠せたりして、導通不良が生じる場合があった。
【0022】
そこで、Agと圧電材料との反応を抑制するために、銀ペーストを主体とした導電材料中にパラジウム(Pd)を含ませることがある。そして、導電材料中のPdの割合が多いほど、高温まで電極の劣化を抑制することが可能となる。しかし、Pdは高価な金属であり、Pdを多量に用いれば、積層型圧電素子の製造コストを増大させる。上記非特許文献1では、導電材料中のPdの割合が30mass%(=30wt%)となっている。すなわち、導電材料中のAgとPdとの割合が7:3となっている。
【0023】
本発明の実施形態に係る積層型圧電素子は、上述した層間導通構造を構築する上での種々の問題点を解決するための構造や構成を備えている。以下に、本発明の実施形態に係る積層型圧電素子について説明する。
【0024】
===実施形態===
<積層型圧電素子の構造>
本発明の実施形態に係る積層型圧電素子は、複数の平板状の圧電体が積層されてなる一体的な焼結体からなる。そして、複数の圧電体のそれぞれには、少なくとも表裏一方の面に電極が形成され、本実施形態に係る積層型圧電素子は、焼結体の表裏一方に形成された電極と、積層状態にある複数の圧電体の層間に配置される電極(以下、電極層とも言う)とがビアを介して接続されてなる。
【0025】
ここで、本発明の一実施形態として、進行波型超音波モーターに用いられる積層型圧電素子を挙げる。
図1に、本実施形態に係る積層型圧電素子1の構造を示した。積層型圧電素子1は、三つの円環状の単層型圧電素子に相当する構造(以下、単層型圧電素子とも言う)が積層されてなる。ここで、各単層型圧電素子を構成する圧電体(2a〜2c)の積層方向を上下方向とすると、
図1(A)は、積層型圧電素子1を上下一方の方向から見たときの外観を示す斜視図であり、
図1(B)は、積層型圧電素子1を上下他方の方向から見たときの外観を示す斜視図である。ここでは、
図1(A)を上方から見たときの斜視図として、便宜的に上下の各方向を規定している。また、
図1(C)は、積層型圧電素子1を、上下方向を含む面で切断したときの縦断面図である。
【0026】
図1(A)に示したように、積層型圧電素子1の上面3には、円環を円周に沿って分割させてなる複数の扇状の電極10が形成されている。そして、各電極10にビア20が一つずつ形成されている。なお、
図1(A)では、互いに位相が90゜ずれたA相とB相のそれぞれの駆動信号が印加されるステーター用電極11が、斜線の向きが異なるハッチングで示されている。また、接地用電極12が編み目のハッチングで示されている。
【0027】
接地用電極12は、中心角θ1を有する扇状で、ステーター用電極11は、中心角θ2を有する扇状で、扇状の接地用電極(以下、扇状接地用電極12とも言う)の中心角θ1の等角二等分線に対して線対称となるようにA相とB相のそれぞれのステーター用極11が、それぞれ四つずつ形成されている。また、
図1(B)に示したように、積層型圧電素子1の下面4には、円環状の平面形状に沿う円環状の接地用電極(以下、円環状接地用電極13とも言う)が一つだけ形成されている。
【0028】
図1(C)は、
図1(A)、(B)におけるa−a矢視断面に相当する縦断面図であり、
図1(C)に示したように、積層型圧電素子1は、上方から下方に向かって、最上層の圧電体(以下、最上層圧電体2aとも言う)、中間層の圧電体(以下、中間層圧電体2bとも言う)、および最下層の圧電体(以下、最下層圧電体2cとも言う)が電極層(30a、30b)を介してこの順に積層されている。そして、本実施例では、中間層圧電体2bの上面と最下層圧電体2cの上面とに形成された電極10が電極層(30a、30b)となっている。
【0029】
したがって、最上層圧電体2a、当該最上層圧電体2aの上面に形成された電極10、および最上層圧電体2aと中間層圧電体2bとの間に介在する電極層30aを構成する電極10によって最上層の単層型圧電素子5aが形成され、最上層圧電体2aと中間層圧電体2bとの間に介在する電極層30aを構成する電極10、中間層圧電体2b、および中間層圧電体2bと最下層圧電体2cとの間に介在する電極層30bを構成する電極10によって中間層の単層型圧電素子5bが形成される。中間層圧電体2bと最下層圧電体2cとの間に介在する電極層30bを構成する電極10、最下層圧電体2c、および最下層圧電体2cの下面に形成されている電極10によって最下層の単層型圧電素子5cが形成される。
【0030】
そして、積層型圧電素子1の上面3に形成されているステーター用極11および扇状接地用電極12は、最上層圧電体2aや中間層圧電体2bに形成されているビア(21および22)を介して電極層(30a、30b)における同種の電極10に接続されている。また、積層型圧電素子1の下面4に形成されている円環状接地用電極13と、中間層圧電体2bと最下層圧電体2cとの層間の電極層30bにおける同種の電極10とは、最下層圧電体2cに形成されているビア22を介して接続されている。
【0031】
図2に、本実施例の積層型圧電素子1を構成する各圧電体(2a〜2c)に形成されているビア(21、22)と、積層型圧電素子1の電極層(30a、30b)を構成する電極10の形成状態とを示した。
図2(A)は、最上層圧電体2aの上面3における電極10の構造と、当該最上層圧電体2aにおけるビア20の形成状態とを示しており、
図1(A)に示したものと同様である。
図2(B)は、最上層圧電体2aと中間層圧電体2bとの間に介在する電極層(以下、第1電極層30aとも言う)の電極構造と、中間層圧電体2bにおけるビア20の形成状態とを示している。
図2(C)は、中間層圧電体2bと最下層圧電体2cとの間に介在する電極層(以下、第2電極層30bとも言う)の電極構造と、最下層圧電体2cにおけるビア20の形成状態とを示している。そして、
図2(D)は、最下層圧電体2cの下面4における電極10の構造と、当該最下層圧電体2cにおけるビア20の形成状態とを示しており、
図1(B)に示したものと同様である。
【0032】
図2(A)、
図2(B)に示したように、最上層圧電体2aと中間層圧電体2bについては、ステーター用電極11および扇状接地用電極12のそれぞれに対応する位置にビア(21、22)が形成されており、
図2(C)、
図2(D)に示したように、最下層圧電体2cについては、扇状接地用電極12に対応する位置にのみビア22が形成されている。
【0033】
また、
図2(B)、
図2(C)に示したように、中間層圧電体2bの上面には、円環状接地用電極14が第1電極層30aとして形成され、最下層圧電体2cの上面には、扇状の複数のステーター用極11と扇状接地用電極とが第2電極層30bとして形成されている。そして、
図2(B)に示したように、第1電極層30bを形成する円環状接地用電極14には、最上層圧電体2aの上面3に形成されているステーター用電極11と上下方向で短絡しないように、第2電極層30bのステーター用電極11に接続されるビア21の周囲に間隙31が形成されている。
【0034】
このようにして、実施形態に係る積層型圧電素子1では、上下方向で同じ領域に形成されているステーター用電極11同士、および扇状接地用電極12と円環状接地用電極(13、14)同士が所定のビア(21、22)を介して接続されている。なお、ビア(21、22)を形成するビアホールが貫通孔である場合、焼成時にビア(21、22)の周囲に割れが発生する可能性がある。そこで、積層型圧電素子1の上面3から下面4まで互いに導通させる必要がある扇状接地用電極12および円環状接地用電極(13、14)については、ビア20が、上下方向で直線状に形成されないようにしている。すなわち、
図1(C)にも示したように、最上層圧電体2aの上面3に形成されている扇状接地用電極12と第2電極層30aにおける扇状接地用電極13とを接続するために第1圧電体2aおよび第2圧電体2bに形成されているビア22の位置と、最下層圧電体2cの上面と下面とに形成されている扇状接地用電極12と円環状接地用電極14とを接続するためのビア22の位置とが上下方向で異なるようにしている。
【0035】
なお、本実施形態に係る積層型圧電素子1では、最下層圧電体2cにもビア22が形成されて、第2電極層30bの扇状接地用電極12と下面4の円環状接地用電極13とが接続されているが、下面4の円環状接地用電極13を、上面3の扇状接地用電極12とは別の配線によって外部回路に接続するのであれば、第2電極層30bの扇状接地用電極12や、最下層圧電体2cのビア22は必要ない。
【0036】
===積層型圧電素子の製造方法===
次に、上記実施形態に係る積層型圧電素子1の製造方法を本発明の実施例として挙げる。本実施例に係る積層型圧電素子1の製造方法は、周知のグリーンシート法を用いてセラミックスを作製する手順を基本としている。
図3に積層型圧電素子1の作製手順を示した。まず、周知のドクターブレード法などを用い、粉体状の圧電材料とバインダーとを含むスラリーをPETフィルム上に塗工してシート状にしたものを円環状に型抜きする。そして、円環状に形成されたスラリーを乾燥させることで、円環状のグリーンシートを作製する(s1)。ここでは3以上の奇数枚の円環状のグリーンシートを作製する。なお、グリーンシートに含ませる圧電材料としては、周知のPZT−PNN系やPZT―PMS系のものを使用することができる。本実施例では、PZT―PMS系の圧電材料に焼結助剤としてCuOを添加したものにバインダーを加えてスラリーを作製した。
【0037】
次に、各円環状のグリーンシートのそれぞれについて、パンチングマシーンなどを用いて所定の位置にビアホールを形成し(s2)、そのビアホール内に粉体状の銀を含んだペースト状の導電材料を注入する(s3)。そして、本実施例に係る積層型圧電素子1の製造方法では、この導電材料をビアホールに注入した後に、導電材料を圧縮する(s5)。それによって、PZTが含まれる圧電材料と、Pdが含まれない導電材料、あるいはAgに対してPdの割合が少ない導電材料とを同時に焼成しても、断線が発生し難くなるようにしている。
【0038】
図4に、ビアホール23内に導電材料24を圧縮された状態で充填するための工程(s4、s5)の概略を示した。また、
図5に上下方向から見たときのビア20の顕微鏡写真を示した。さらに、
図6に、周知のレーザー顕微鏡を用いて測定した、ビア20とその周囲における起伏の状態を示した。そして、ビアホール23内に導電材料24を圧縮した状態で充填するためには、まず、PETフィルム40上にスラリーを塗工したのち、PETフィルム40ごと円環状に打ち抜くことで作製されたグリーンシート100に対し、PETフィルム(以下、塗工用フィルム40とも言う)側から、当該塗工用フィルム40とともにパンチングマシーンなどを用いて打ち抜くことでビアホール23を形成しておく。
【0039】
次に、
図4(A)に示したように、ビアホール23内に、塗工用フィルム40の上方から、導電材料24を、ディスペンサーを用いて注入する。
図5(A)、(B)に、
図4(A)に示した状態にあるビアホール23周辺の顕微鏡写真を示した。
図5(A)は、ビアホール23を、塗工用フィルム40側から見たときの顕微鏡写真であり、
図5(B)は、グリーンシート100の下方からビアホール23を見たときの顕微鏡写真である。また、
図6(A)および
図6(B)に、
図5(A)および
図5(B)に示されているビアホール23の形成領域を、
図5(A)、(B)の中に示したx方向、およびy方向に走査したときの起伏の状態を示した。
【0040】
図6(A)に示したように、導電材料24は、塗工用フィルム40側では、ビアホールを形成したときに当該塗工用フィルム40に開いた孔(
図4、符号25)の周囲で盛り上がりつつ、ビアホール23の内方側となる領域では自重によって浅く窪んだ状態となっている(
図4、符号26参照)。そして、その窪み26の深さは、塗工用フィルム40の下面の位置よりも上方となっている。また、
図6(B)に示したように、グリーンシート100の下面(
図5、符号101)側では、導電材料24が、ビアホール23の開口端面にまで達しておらず、ビアホール23の内方に向かって窪んだ状態となっている(
図5、符号27参照)。
【0041】
次に、
図4(B)に示したように、グリーンシート100の下方に樹脂製のフィルム(例えば、PETフィルム、以下、パンチング用フィルム42)を積層するとともに、塗工用フィルム40側からビア20の形成領域に、ビアホール23の内径にほぼ一致する外径を有するピン41の先端を当て、そのピン41を上方からパンチングマシーンを用いて加圧する。それによって、ビアホール23内の導電材料24が圧縮される。なお、導電材料24に対する圧縮の度合いは、パンチングマシーンによるピン41の押し込み深さによって調整している。
【0042】
そして、導電材料24を圧縮したならば、
図4(C)に示したように、パンチング用フィルム42をグリーンシート100から剥離する。本実施例では、導電材料24を圧縮する際に、グリーンシート100の下方に柔軟性のある樹脂製のパンチング用フィルム42を積層することで、導電材料24がグリーンシート100の下面101に対して上方に引き込まれ難くしている。具体的には、パンチング用フィルム42をグリーンシート100の下方に積層することで、導電材料24は、ビアホール23内で上方から押圧された際にグリーンシート100の下面101より下方に突出する。そのため、ピン41が引き抜かれるときの負圧によって導電材料24が少し上方に吸い上げられたとしても、導電材料24が、グリーンシート100の下面101に対して起伏がない状態を維持できる。
【0043】
図5(C)は、導電材料24を圧縮した後にビア20をグリーンシート100の下方から見たときの顕微鏡写真であり、
図6(C)は、
図5(C)に示したビア20とその周辺の起伏の状態を示している。また、
図5(D)は、導電材料24を圧縮した後のビア20を塗工用フィルム40側から見たときの顕微鏡写真である。
図6(D)は、
図5(D)に示したビア20とその周辺の起伏の状態を示している。
【0044】
そして、
図6(C)に示したように、グリーンシート100の下面101では、ビア20の形成領域が、その周囲に対して起伏がない状態になっていることが確認できる。なお、ビア20を塗工用フィルム40側から見ると、
図6(D)に示したように、ビア20の形成領域では、導電材料24が、塗工用フィルム40の上面よりも下方に押圧されて圧縮されていることがわかる。なお、ビアホール23内の導電材料24を圧縮したならば、
図4(D)に示したように、塗工用フィルム40の孔25の周囲に付着した導電材料24を除去し、その上で、塗工用フィルム40を剥離して、ビアホール23内に導電材料24が充填された状態のグリーンシート100を完成させる。
図5(E)に、導電材料24が除去された状態のビア20を、塗工用フィルム40側から見たときの顕微鏡写真を示した。また、
図6(E)に、
図5(E)に示したビア20とその周辺の起伏の状態を示した。当初、
図5(A)に示したように、ビアホール23の内方から塗工用フィルム40の上面にまで注入されていた導電材料24が、
図5(E)に示したように、塗工用フィルム40の厚さ(約20μm)分だけ圧縮されていることがわかる。
【0045】
そして、上述した導電材料24の注入工程(s4)と圧縮工程(s5)とを、最上層圧電体2a、中間層圧電体2b、および最下層圧電体2cのそれぞれに対応する円環状のグリーンシートに対して実行する。参考までに、
図7に、ビア20とその周囲の起伏の状態に生成した立体図を示した。
図7(A)〜
図7(E)は、ぞれぞれ、
図5(A)〜
図5(E)、および
図6(A)〜
図6(E)に対応している。
【0046】
上述した手順により、ビアホール23内に導電材料24が充填された状態の円環状のグリーンシート100を得たならば、そのグリーンシート100に対し、
図1(C)に示した電極層(30a、30b)に対応する電極10を形成する。すなわち、中間層圧電体2bと最下層圧電体2cとに対応するグリーンシートの上面に、
図2(B)と
図2(C)とに示した配置と形状の電極(14、11、12)を形成する。なお、これらの電極(14、11、12)を形成するためには、例えば、スクリーン印刷法により、グリーンシートの表面に選択的に所定の形状となるように銀ペースト、あるいはビアホール23内に充填したものと同様の導電材料24を印刷すればよい。
【0047】
次に、最上層圧電体2a、中間層圧電体2b、および最下層圧電体2cのそれぞれに対応するグリーンシート100をこの順に積層したものを圧着するとともに(s6)、積層および圧着により得た積層体を熱処理してグリーンシート100中のバインダーを除去する脱バインダー工程を実行する(s7)。そして、脱バインダー工程(s7)を経た積層体を焼成し、一体化された円環状の焼結体を得る。
【0048】
なお、実施例に係る積層型圧電素子1の製造方法によれば、ビア20を形成するために用いた導電材料24は、グリーンシート100の下面101に対して面一か盛り上がった状態でビアホール23に充填されているため、積層および圧着工程(s6)では、上層のグリーンシート100に設けられたビアホール23内の導電材料24が、下層のグリーンシート100の上面に形成されている電極10に確実に接触する。そして、焼成工程(s8)で得られる焼結体は、層間の電極10同士が確実に導通した状態となっている。なお、電極層(30a、30b)を構成する電極10は、焼成工程(s8)において各層の圧電体(2a〜2c)の表面に焼き付けられる。
【0049】
焼成工程s8によって、層間に電極層(30a、30b)が形成された円環状の焼結体を得たならば、その焼結体の上面および下面に、
図2(A)および
図2(D)に示した構造の電極(11、12、13)を形成する(s9)。電極(11、12、13)の形成手順については、電極層(30a、30b)の電極10と同様に、焼結体の上面と下面とに銀ペーストを印刷して電極(11、12、13)のパターンを形成するとともに、焼結体を所定の温度で熱処理して印刷された銀ペーストを焼結体の表面に焼き付ければよい。そして、この時点で、積層型圧電素子1が備える全ての電極10が形成される。なお、焼結体の上面と下面とに電極を形成したならば、必要に応じ、円環状の焼結体の外周を切削し、焼結体の周縁にまで電極が配置されるようにしてもよい。
【0050】
そして、全ての電極10が形成されたならば、円環状の焼結体を分極させて積層型圧電素子1を完成させる(s10)。分極工程(s10)では、例えば、分極前の積層型圧電素子1である焼結体を所定の温度(例えば、100℃)のシリコンオイル中に浸漬するとともに、各ビア20に端子となるピンを立て、そのピンを介して電極間に上下方向の電界(例えば、2kV/mm)を所定時間(例えば、15min)印加することで焼結体を分極させる。
【0051】
このように、実施例に係る積層型圧電素子1の製造方法では、ビアホール23内に注入した導電材料24をさらに圧縮している。それによって、導電材料24が乾燥してもビアホール23の開口端面に導電材料24が露出し、上層と下層の電極10同士を、ビア20を介して確実に導通させることができる。また、導電材料24は、ディスペンサーなどによってビア20の形成位置にのみ供給されることから、必要最小限の導電材料24しか使用しない。したがって、実施例の方法で作製された積層型圧電素子1はより安価なものとなる。そして、PZTを含む圧電体(2a〜2c)と銀ペーストを主体とした導電材料24とを用いる場合であっても、導電材料24がビアホール23内に圧縮された状態で充填されるので、導電材料24中のPdの割合が少なくても、焼成後のビアホール23内には十分な量の導電材料24が残存し、層間での断線が生じ難い。
【0052】
===特性評価===
<サンプル>
次に、上記実施形態に係る積層型圧電素子1の特性を評価するために、
図4、
図5に示した手順や工程で作製した積層型圧電素子1をサンプルとして作製した。具体的には、3層型、5層型、および7層型の積層型圧電素子を実施例のサンプルとして作製した。各サンプルは、複数層分の圧電体の厚さの合計(例えば、0.3mm)が等しくなるように作製されている。
【0053】
また、5層型の積層型圧電素子では、上方から下方に向けて3層目と4層目の圧電体の上面に
図2(A)と
図2(B)とに示した電極10が形成され、5層目の圧電体を最下層圧電体として、その上面と下面とに、
図2(C)と
図2(D)とに示した電極10が形成されている。7層型の積層型圧電素子では、最上層から4層目までの圧電体に、5層型の積層型圧電素子と同様の電極10が形成され、第5層と第6層の圧電体に
図2(A)と
図2(B)とに示した電極10が形成されている。そして、第7層の圧電体を最下層圧電体として、その上面と下面とに、
図2(C)と
図2(D)とに示した電極10が形成されている。さらに、比較例のサンプルとして、単層型の圧電素子も作製した。すなわち、積層型圧電素子における複数層分の圧電体と同じ厚さの1層分の圧電体の表裏に
図2(D)と
図2(E)とに示した電極10が形成されている圧電素子を比較例のサンプルとして作製した。
【0054】
<導電材料>
実施例、および比較例のサンプルには、AgとPdとの比率が9:1となる銀ペーストに、10wt%のAl
2O
3を添加した導電材料24を用いた。この導電材料24は、上記非特許文献1に記載されていたAgとPdの比率が7:3の導電材料よりもPdの割合が低く、より安価なものとなっている。また、Al
2O
3は、周知のごとく、焼成時における導電材料24の収縮率をグリーンシートの収縮率に整合させるためのものである。
図8に、導電材料24およびグリーンシート100を昇温させていったときの熱収縮率の変化を示した。
図8には、グリーンシート100、Al
2O
3を含まない導電材料24、およびAl
2O
3を含む導電材料24の熱収縮率と、昇温速度(温度)とが示されている。
【0055】
図8に示したように、グリーンシート100は、約700℃で収縮が発生し、Al
2O
3を含まない導電材料24は、グリーンシートよりも低い500℃付近で収縮が発生している。また、温度が高くなるのに従って、導電材料24の収縮率は、グリーンシートの収縮率に対してより大きくなっていく。したがって、Al
2O
3を含まない導電材料24は、焼成時にビアホール23の内面から剥がれる可能性がある。一方、Al
2O
3が10wt%添加された導電材料24では、約800℃で収縮し始めており、熱収縮率も小さい。したがって、Al
2O
3が10wt%添加された導電材料24は、焼成後でも、ビアホール23の内面に密着した状態を維持できる。
【0056】
図9は、焼成後のビア20の状態を示す顕微鏡写真である。
図9(A)は、Al
2O
3を含まない導電材料24を用いたビア20を示しており、
図9(B)は、ビアホール23に、Al
2O
3が10wt%添加された導電材料24が充填されてなるビア20を示している。
図9(A)に示したように、Al
2O
3を含まない導電材料24を用いたビア20では、ビアホール23の平面形状が変形していることがわかる。これは、焼成時に、ビアホール23の内面が、先に熱収縮した導電材料24に引っ張られたためと考えることができる。また、ビアホール23と導電材料24との界面に発生したクラックによって、ビアホール23の内周と導電材料24の外周とに隙間28ができている。一方、
図9(B)に示したように、Al
2O
3が10wt%添加された導電材料24を用いたビア20では、ビアホール23の変形やクラックの発生がなかった。なお、Al
2O
3は、グリーンシートと導電材料との熱収縮率を整合させるためのものである。したがって、焼成温度が低い圧電材料を用いるなどして、ビアの変形やクラックの発生を抑制することができるのであれば、導電材料にはAl
2O
3が含まれていなくてもよい。
【0057】
<圧電特性>
上述したAgとPdの割合が9:1で、10wt%の量のAl
2O
3が添加された導電材料24を用いて実施例のサンプルと、比較例のサンプルとを作製するとともに、各サンプルの圧電特性を調べた。ここでは、圧電特性として、共振点でのインピーダンスZr(Ω)、比較例のサンプルの静電容量Cp(nF)と実施例のサンプルの並列静電容量Cp(nF)、機械的損失係数tanδ(%)、および共振点での位相θ(deg)を調べた。
【0058】
以下の表1に、各サンプルの圧電特性を示した。
【0059】
【表1】
表1に示したように、実施例のサンプル2〜4は、十分な圧電特性を有していることがわかる。そして、単層型のサンプル1のCp(=0.43nF)に対し、層数が3、5、および7となるサンプル2、サンプル3、およびサンプル4では、Cpが層数を二乗した9倍、25倍、49倍とほぼ一致し、層数とCpとの関係がほぼ理論通りになっていることがわかる。すなわち、実施例のサンプルでは、Agに対してPdの割合が低い銀ペーストからなる導電材料24を用いながら、層間導通構造が確実に構築されていることが確認できた。
【0060】
図10に、7層型のサンプル4の縦断面の電子顕微鏡写真を示した。
図10において、点線の枠50内に示された領域を見ると、上層側の圧電体2に形成されているビア20の下端27が下層側の圧電体2と層間に形成されている電極層30の電極10の上面に当接しつつ、電極層30にめり込んでいることが確認できる。これは、積層型圧電素子1の製造過程における導電材料24の圧縮工程(
図3、s5)により、導電材料24がビアホール23内で圧縮された状態で充填されているため、積層・圧着工程(
図3、s6)では、上層側のグリーンシート100のビアホール23に充填された高密度の導電材料24が下層側のグリーンシート100の上面を押圧し、下層側のグリーンシート100の上面が窪んだ状態になったためと考えることができる。そして、焼成工程s8により、下層側のグリーンシート100が、その窪んだ状態で焼結したものと考えることができる。また、ビアホール23内の導電材料24が、当該ビアホール23を拡径するよう充填されている。したがって、積層型圧電素子1のビア20が、ビアホール23内の導電材料24をパンチングプレス加工などにより圧縮した状態で充填したものであれば、その積層型圧電素子1の断面を観察したとき、上層の圧電体(2aまたは2b)のビア20の下端が下層側の圧電体(2bまたは2c)の上面にめり込んでいるとともに、ビアホール23が導電材料24によって拡径された状態の層間導通構造が確認されるはずである。そして、
図10における実施形態に係る積層型圧電素子1の層間導通構造によれば、導電材料24にPdが含まれておらず、焼成によって導電材料中のAgの一部が消失した状態であっても、導電材料24は密な状態を維持しているとともに、十分な量のAgが残存して、確実に層間の導通が確保されたものとなることは、想像に難くない。
【0061】
===その他の実施例===
上記実施例に係る積層型圧電素子1の製造方法では、導電材料の圧縮工程(s5)においてグリーンシート100の下面101にパンチング用フィルム42を配置していた。それによって、ビアホール23内の導電材料24を上方から押圧した際に、導電材料24がグリーンシート100の下面101よりも下方に突出し、ビアホール233の開口端面から導電材料24が確実に露出するようにしていた。
【0062】
もちろん、導電材料24がビアホール23内で十分に密な状態で圧縮されているのであれば、その後の積層・圧着工程(s6)で、柔軟なグリーンシート100よりも変形し難い密な導電材料24が確実にビアホール23の開口端面から下方に突出する。すなわち、導電材料24の注入工程(s4)における導電材料24の供給量を多くし、圧縮工程(s5)におけるパンチングプレスの圧力を大きくすれば、金属などの硬い物質の表面にグリーンシート100を載置した状態で圧縮行程(s5)を行ってもよい。
【0063】
上記実施形態に係る積層型圧電素子1は、中間層圧電体2bの上面と最下層圧電体2cの上面とに、それぞれ、第1電極層40aと第2電極層40bとが形成されていたが、第1電極層30aを最上層圧電体2aの下面に形成したり、第2電極層30bを中間層圧電体2bの下面に形成したりしてもよい。また、上層側の圧電体(2aまたは2b)の下面と下層側の圧電体(2bまたは2c)の上面とに互いに鏡像の関係となる電極10g形成されていてもよい。いずれにしても、本実施形態に係る積層型圧電素子1は、圧電体(2a〜2c)の少なくとも表裏一方の面に電極10が形成されて、各圧電体(2a〜2c)が電極層(30a、30b)を介して積層された構造を有していればよい。
【0064】
上記実施例に係る積層型圧電素子1の製造方法では、電極10を、銀ペーストなどの導電材料を印刷することで形成していたが、スパッタリングや蒸着などの方法によって形成してもよい。
【0065】
また、当然のことながら、本発明の実施形態に係る積層型圧電素子1は、上記の超音波モーター用のものに限らない。例えば、各種アクチュエータや振動子などの能動素子、あるいは振動センサーや変位センサーなどの受動素子など、あらゆる圧電素子の用途に適用することができる。