【解決手段】センサが内蔵された振動ピックアップ2を用いて建築構造体10の振動を測定する環境振動測定方法であって、建築構造体10が、基体11と、基体11の表面に被覆された被覆材12と、を有し、被覆材12上に被覆材12よりもばね定数が小さい介挿シート20を配置し、介挿シート20を介して基体11から伝達される振動を振動ピックアップ2で測定し、振動ピックアップ2の測定結果を介挿シート20の共振特性に基づいて補正することで、基体11の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求める。
前記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも高い振動周波数の測定時に前記介挿部材を介して前記基体から伝達される振動を前記振動ピックアップで測定して前記振動ピックアップの測定結果を前記介挿部材の共振特性に基づいて補正し、
前記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数の測定時に前記介挿部材を介することなく前記基体から伝達される振動を前記振動ピックアップで測定して前記振動ピックアップの測定結果を前記被覆材の共振特性に基づいて補正する
ことを特徴とする請求項1または2記載の環境振動測定方法。
前記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも高い振動周波数の測定時には、前記コンピュータに、前記介挿部材を介して前記基体から伝達される振動の測定結果を前記介挿部材の共振特性に基づいて補正させて前記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求めさせ、
前記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数の測定時には、前記コンピュータに、前記介挿部材を介することなく前記基体から伝達される振動の測定結果を前記被覆材の共振特性に基づいて補正させて前記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求めさせる
ことを特徴とする請求項7または8記載の環境振動測定プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的には、マンションやオフィスビル等は、コンクリートからなる基体がカーペット等の被覆材によって覆われている。このため、振動ピックアップを被覆材に当てた状態で環境振動を測定しようとすると、被覆材の振動周波数に対する共振特性に影響を受けて、基体の振動を正確に計測することができない。しかしながら、環境振動の測定のために居住者に被覆材の取り外しの許可を貰うことは一般的に困難である。被覆材の共振特性が既知である場合には、被覆材の共振特性による影響を低減する補正する信号処理を行うことが可能であるが、被覆材の種類は膨大であり、被覆材の種類ごとに共振特性を予め取得するは極めて困難である。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、建築構造体の被覆材を剥がすことなく、被覆材の共振特性に影響を受けずに基体の環境振動を簡易に測定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
第1の発明は、センサが内蔵された振動ピックアップを用いて建築構造体の振動を測定する環境振動測定方法であって、上記建築構造体が、基体と、上記基体の表面に被覆された被覆材と、を有し、上記被覆材上に上記被覆材よりもばね定数が小さい介挿部材を配置し、上記介挿部材を介して上記基体から伝達される振動を上記振動ピックアップで測定し、上記振動ピックアップの測定結果を上記介挿部材の共振特性に基づいて補正することで、上記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求めるという構成を採用する。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記共振特性が、振動周波数と、介挿部材の共振による基体振幅からの振幅変化量との関係を示す特性であるという構成を採用する。
【0009】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも高い振動周波数の測定時に上記介挿部材を介して上記基体から伝達される振動を上記振動ピックアップで測定して上記振動ピックアップの測定結果を上記介挿部材の共振特性に基づいて補正し、上記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数の測定時に上記介挿部材を介することなく上記基体から伝達される振動を上記振動ピックアップで測定して上記振動ピックアップの測定結果を上記被覆材の共振特性に基づいて補正するという構成を採用する。
【0010】
第4の発明は、センサが内蔵された振動ピックアップを用いて建築構造体の振動を測定する環境振動測定装置であって、上記建築構造体が、基体と、上記基体の表面に被覆された被覆材と、を有し、上記被覆材上に配置されて上記被覆材よりもばね定数が小さい介挿部材に当接された振動ピックアップの測定結果を上記介挿部材の共振特性に基づいて補正することで、上記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求める演算処理部を備えるという構成を採用する。
【0011】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記共振特性が、振動周波数と、介挿部材の共振による基体振幅からの振幅変化量との関係を示す特性であるという構成を採用する。
【0012】
第6の発明は、上記第4または第5の発明において、上記演算処理部が、上記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも高い振動周波数の測定時に上記介挿部材を介して上記基体から伝達される振動の測定結果を上記介挿部材の共振特性に基づいて補正して上記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求め、上記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数の測定時に上記介挿部材を介することなく上記基体から伝達される振動の測定結果を上記被覆材の共振特性に基づいて補正して上記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求めるという構成を採用する。
【0013】
第7の発明は、センサが内蔵された振動ピックアップの測定結果に基づいて建築構造体の振動をコンピュータに求めさせる環境振動測定プログラムであって、上記建築構造体が、基体と、上記基体の表面に被覆された被覆材と、を有し、上記被覆材上に配置されて上記被覆材よりもばね定数が小さい介挿部材に当接された振動ピックアップの測定結果を上記介挿部材の共振特性に基づいて補正させることで、上記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを上記コンピュータに求めさせるという構成を採用する。
【0014】
第8の発明は、上記第7の発明において、上記共振特性が、振動周波数と、介挿部材の共振による基体振幅からの振幅変化量との関係を示す特性であるという構成を採用する。
【0015】
第9の発明は、上記第7または第8の発明において、上記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも高い振動周波数の測定時には、上記コンピュータに、上記介挿部材を介して上記基体から伝達される振動の測定結果を上記介挿部材の共振特性に基づいて補正させて上記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求めさせ、上記介挿部材の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数の測定時には、上記コンピュータに、上記介挿部材を介することなく上記基体から伝達される振動の測定結果を上記被覆材の共振特性に基づいて補正させて上記基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを求めさせるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、建築構造体の被覆材よりもばね定数が小さい介挿部材を介して振動ピックアップで計測を行う。被覆材よりばね定数が小さな介挿部材を介することによって、振動ピックアップの測定結果が被覆材の共振特性の影響を受けにくくなる。介挿部材の共振特性は予め取得可能であることから、介挿部材の共振特性を用いて振動ピックアップの計測結果を補正することによって、基体の振動加速度あるいは振動加速度レベルを正確に求めることができる。したがって、本発明によれば、建築構造体の被覆材を剥がすことなく、被覆材の共振特性に影響を受けずに基体の環境振動を簡易に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における環境振動測定システムの概略構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態における環境振動測定システムの機能構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態における環境振動測定システムが備える振動ピックアップを含む模式的な断面図である。
【
図4】床材C1を被覆材として有する建築構造体を対象とした実験結果を示す表及びグラフである。
【
図5】床材C2を被覆材として有する建築構造体を対象とした実験結果を示す表及びグラフである。
【
図6】床材C3を被覆材として有する建築構造体を対象とした実験結果を示す表及びグラフである。
【
図7】床材C4を被覆材として有する建築構造体を対象とした実験結果を示す表及びグラフである。
【
図8】床材C5を被覆材として有する建築構造体を対象とした実験結果を示す表及びグラフである。
【
図9】床材を設置せずに基体上に直接的に介挿シートを配置して振動を測定した結果と、
図4〜
図8に示した床材C1〜C5を介した場合の結果を並べて表示した表及びグラフである。
【
図10】コンクリートからなる基体上に床材C3を被覆した場合における効果を説明するためのグラフである。
【
図11】コンクリートからなる基体上に床材C4を被覆した場合における効果を説明するためのグラフである。
【
図12】コンクリートからなる基体上に床材C5を被覆した場合における効果を説明するためのグラフである。
【
図13】木材によって形成された基体を用い、建築構造体に対して鉛直方向に変位する鉛直振動を付与した場合における効果について説明するためのグラフである。
【
図14】木材によって形成された基体を用い、建築構造体に対して鉛直方向に変位する鉛直振動を付与した場合における効果について説明するためのグラフである。
【
図15】基体がコンクリートによって形成されている場合の測定方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図16】基体が木材によって形成されている場合の測定方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図17】建築構造体に対して水平方向に変位する水平振動を付与した場合における効果について説明するためのグラフである。
【
図18】建築構造体に対して水平方向に変位する水平振動を付与した場合における介挿シートの共振特性を示すグラフである。
【
図19】建築構造体に対して水平方向に変位する水平振動を付与した場合における測定値と基体表面との振動加速度レベル差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る環境振動測定方法、環境振動測定装置及び環境振動測定プログラムの一実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の環境振動測定システム1(環境振動測定装置)の概略構成図である。また、
図2は、本実施形態の環境振動測定システム1の機能構成を概略的に示すブロック図である。本実施形態の環境振動測定システム1は、コンクリート材や木材等の強度部材からなる基体11と、基体11の上面に被覆されたカーペットや絨毯等の被覆材12とを有する建築構造体10の環境振動を測定するためのシステムである。本実施形態の環境振動測定システム1は、このような建築構造体10の基体11の振動周波数と振動加速度レベルとを計測する。なお、環境振動測定システム1は、振動加速度を計測するようにもできる。振動加速度レベルと振動加速度との関係式は、下式(1)で表される。
【0020】
[振動加速度レベル]=20×log
10([振動加速度]/10
−5)……(1)
【0021】
これらの
図1及び
図2に示すように、本実施形態の環境振動測定システム1は、振動ピックアップ2と、振動レベル計3と、コンピュータ4とを備えている。振動ピックアップ2は、当接された部材から伝達される振動を信号に変換して出力するセンサが内蔵されており、センサから出力される電気信号を測定結果として出力する。この振動ピックアップ2は、接続コード5によって振動レベル計3と有線接続されており、振動レベル計3に向けて測定結果を出力する。
【0022】
図3は、振動ピックアップ2を含む模式的な断面図である。この図に示すように、本実施形態の環境振動測定システム1においては、建築構造体10の被覆材12上に介挿シート20(介挿部材)を介挿した状態で振動ピックアップ2を載置して計測を行う。つまり、本実施形態の環境振動測定システム1においては、建築構造体10の被覆材12上に介挿シート20が載置され、介挿シート20の上面に振動ピックアップ2を当接させた状態で振動測定が行われる。
【0023】
介挿シート20は、被覆材12よりもばね定数が小さな材料によって形成されたシート部材である。この介挿シート20の材質は特に限定されるものではないが、エーテル系の発泡ポリウレタン・エラストマーを用いることができる。エーテル系の発泡ポリウレタン・エラストマーを用いて介挿シート20を形成することによって、一般的に使用されている住宅やオフィスビル等の床材よりも介挿シート20のばね定数を小さくすることができるため、介挿シート20の汎用性が向上する。
【0024】
介挿シート20の厚さ寸法は、特に限定されるものではない。ただし、介挿シート20上に振動ピックアップ2を載置した場合には、介挿シート20が振動ピックアップ2の重量によって押しつぶされる。このため、振動ピックアップ2の重量で介挿シート20が押しつぶされた場合に、介挿シート20のばね定数が被覆材12よりも大きくならないように介挿シート20の厚さ寸法を設定する。また、平面視における介挿シート20の形状も、特に限定されるものではない。ただし、介挿シート20は、環境振動測定システム1を扱う作業者が環境振動測定システム1と一緒に持ち運び可能な大きさとすることが好ましい。
【0025】
ここで、
図4〜
図9を参照して、介挿シート20を用いた実験の結果について説明する。なお、本実験では、種類の異なる床材C1〜C5が被覆材12として用いられた建築構造体10に対して、介挿シート20を介挿せずに振動を計測した場合と、同一の介挿シート20を介挿して振動を計測した場合とにおける振動状態を比較した。また、本実験では、3.15Hz〜80Hzの振動を基体11に対して付与し、振動周波数を変化させて計測を行った。また、本実験では、コンクリートによって形成された基体11を用い、建築構造体10に対して鉛直方向に変位する鉛直振動を付与した。
【0026】
図4〜
図9においては、予め床材C1〜C5及び介挿シート20が設置されていない状態にて基体11の表面に振動ピックアップ2を当接して得られた測定結果に対する差分(以下、振動加速度レベル差)を測定結果として示している。
図4〜
図9において、下部は数値データを示す表であり、上部は下部の表を横軸が振動周波数で縦軸が振動加速度レベル差としてグラフ化したものである。
図4〜
図9において、振動加速度レベル差がゼロに近いほど、床材C1〜C5あるいは介挿シート20の表面が基体11と同期して振動していることを示し、振動加速度レベル差の絶対値が大きいほど床材C1〜C5あるいは介挿シート20の共振レベルが大きいことを示している。つまり、
図4〜
図9に示す表及びグラフは、床材C1〜C5あるいは介挿シート20の環境振動に対する共振特性を示している。
【0027】
図4は、床材C1を被覆材12として有する建築構造体10を対象とした実験結果を示している。この図に示すように、介挿シート20の介挿せずに振動を測定した結果、振動周波数が3.15Hz、4Hz、5Hz、6.3Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzの場合における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−8.0、−5.1、−2.6、−0.7、1.3、0.3、0.4、0.8、0.9、0.9、1.0、1.3、2.6、3.4、3.6であった。一方、介挿シート20を介挿して振動を測定した結果、同振動数における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−10.7、−4.3、−1.8、0.2、2.4、3.9、7.9、12.2、8.1、−1.3、−5.4、−9.5、−13.3、−17.6、−22.5であった。
【0028】
図5は、床材C2を被覆材12として有する建築構造体10を対象とした実験結果を示している。この図に示すように、介挿シート20の介挿せずに振動を測定した結果、振動周波数が3.15Hz、4Hz、5Hz、6.3Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzの場合における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−6.7、−2.1、−2.5、−0.4、0.3、−0.3、0.6、1.0、1.2、1.5、1.9、3.0、5.3、7.7、8.0であった。一方、介挿シート20を介挿して振動を測定した結果、同振動数における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−6.7、−3.0、−2.6、0.7、1.6、3.8、7.8、12.0、7.3、−2.2、−6.1、−10.3、−14.2、−18.9、−22.8であった。
【0029】
図6は、床材C3を被覆材12として有する建築構造体10を対象とした実験結果を示している。この図に示すように、介挿シート20の介挿せずに振動を測定した結果、振動周波数が3.15Hz、4Hz、5Hz、6.3Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzの場合における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−8.0、0.1、−0.9、−1.0、−1.0、−0.2、0.5、1.0、1.2、1.4、1.7、2.8、4.3、5.5、10.8であった。一方、介挿シート20を介挿して振動を測定した結果、同振動数における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−5.2、−4.1、−1.4、1.2、1.9、4.3、8.2、12.2、7.3、−1.9、−5.5、−9.9、−13.8、−17.9、−22.1であった。
【0030】
図7は、床材C4を被覆材12として有する建築構造体10を対象とした実験結果を示している。この図に示すように、介挿シート20の介挿せずに振動を測定した結果、振動周波数が3.15Hz、4Hz、5Hz、6.3Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzの場合における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−6.5、0.3、0.3、0.7、−0.9、−0.2、0.4、0.4、0.7、0.8、0.7、1.4、2.4、3.5、4.9であった。一方、介挿シート20を介挿して振動を測定した結果、同振動数における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−6.1、−0.7、1.2、2.3、2.2、3.8、7.2、11.8、7.9、−1.3、−5.5、−9.4、−13.2、−18.0、−22.1であった。
【0031】
図8は、床材C5を被覆材12として有する建築構造体10を対象とした実験結果を示している。この図に示すように、介挿シート20の介挿せずに振動を測定した結果、振動周波数が3.15Hz、4Hz、5Hz、6.3Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzの場合における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−9.8、−1.1、−2.5、−0.4、0.0、0.1、0.7、1.0、1.3、1.5、1.8、2.5、4.6、6.7、7.2であった。一方、介挿シート20を介挿して振動を測定した結果、同振動数における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、−6.1、−2.8、−2.4、1.8、1.0、3.1、6.9、11.9、7.7、−1.7、−5.6、−10.0、−13.8、−18.4、−22.7であった。
【0032】
図9は、床材を設置せずに基体11上に直接的に介挿シート20を配置して振動を測定した結果と、
図4〜
図8に示した床材C1〜C5を介した場合の結果を並べて表示した表及びグラフである。この図に示すように、床材を設置せずに基体11上に直接的に介挿シート20を配置して振動を測定した結果、振動周波数が3.15Hz、4Hz、5Hz、6.3Hz、8Hz、10Hz、12.5Hz、16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hzの場合における振動加速度レベル差(単位dB)は、各々、0.6、0.1、3.1、1.4、2.8、4.2、6.9、11.7、8.5、−0.7、−5.2、−9.4、−13.2、−18.3、−22.8であった。
【0033】
図9に示されているように、床材の有無及び床材C1〜C5の種類に関わらず、介挿シート20を配置して測定した結果は、ほぼ一致している。これは、介挿シート20を設置することによって、振動ピックアップ2での測定結果から床材の有無や床材のばね定数による影響を排除できることを意味する。このため、介挿シート20の共振特性(振動周波数ごとにおける振動加速度レベル差)を予め取得しておけば、この共振特性がキャンセルされるように振動ピックアップ2での測定結果を補正することで、床材C1〜C5の種類に関わらずに基体11の振動加速度レベルを正確に算出可能であることが分かる。
【0034】
特に、床材の有無及び床材C1〜C5の種類に関わらず、介挿シート20を配置して測定した結果は、振動周波数が16Hz以上において一致している。この振動周波数16Hzは、介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍に相当する。このため、介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍よりも高い振動周波数の測定時には、介挿シート20を介して基体11から伝達される振動の測定結果を介挿シート20の共振特性に基づいて補正して基体11の振動加速度レベルを求めることで、より正確に基体11の振動加速度レベルを求めることが可能となる。
【0035】
また、
図4〜
図8を参照すると、介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数では、介挿シート20を介挿せずに測定した結果の振動加速度レベル差の絶対値が小さい。つまり、介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数では、床材C1〜C5の種類によって振動加速度レベルが大きく変化しない。このため、介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数では、介挿シート20を設置しないで測定しても良い。これによって、介挿シート20を設置する作業工程を排除できる。
【0036】
図1及び
図2に戻り、振動レベル計3は、接続コード5を介して入力される電気信号に基づいて、振動加速度レベル値や振動周波数等をデジタル値として求めると共に、求めた値をコンピュータに向けて出力する。
【0037】
コンピュータ4は、振動レベル計3に無線あるいは有線にて接続されており、振動レベル計3の出力値をパラメータとする演算処理を行うと共に演算処理結果をディスプレイや印刷装置によって可視化して出力する。このコンピュータ4は、通信部4aと、入力部4bと、出力部4cと、記憶部4dと、演算処理部4eとを備えている。
【0038】
通信部4aは、振動レベル計3と信号の通信を行うモジュールであり、演算処理部4eと振動レベル計3との電気的な通信を中継する。なお、コンピュータ4と振動レベル計3とのデータの送受信は、通信部4aによる方式に限られるものではない。例えば、記憶媒体を介して、コンピュータ4と振動レベル計3とでデータが送受信できるようにしても良い。また、インターネット等のネットワークを介してコンピュータ4と振動レベル計3とを接続するようにしても良い。
【0039】
入力部4bは、測定者によって操作され、演算処理部4eに対して測定者の各種の指示を入力するためのものである。この入力部4bは、例えばキーボードやマウス等からなる。出力部4cは、演算処理部4eの演算結果を可視化して表示する装置であり、液晶表示装置や印刷装置からなる。
【0040】
記憶部4dは、コンピュータ4で実行される各種プログラムや演算処理に必要な各種データを格納しており、例えばハードディスクやSSD(Solid State Drive)等を備えている。また、記憶部4dは、演算処理部4eでの演算結果等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等の半導体メモリも備えている。
【0041】
本実施形態においては、記憶部4dに対して、環境振動測定プログラムPが格納されている。この環境振動測定プログラムPは、振動ピックアップ2の測定結果に基づいて建築構造体10の基体11の振動をコンピュータ4に求めさせるプログラムである。この環境振動測定プログラムPは、被覆材12上に配置されて被覆材12よりもばね定数が小さい介挿シート20に当接された振動ピックアップ2の測定結果を介挿シート20の共振特性に基づいて補正させる。なお、介挿シート20の共振特性は、介挿シート共振特性データとして記憶部4dに記憶されている。この介挿シート共振特性データは、振動周波数と、介挿シート20の共振による基体11の振幅からの振幅変化量(すなわち振動加速度レベル差)との関係特性を示すデータ群である。
【0042】
また、環境振動測定プログラムPは、介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも高い振動周波数の測定時には、コンピュータ4に、介挿シート20を介して基体11から伝達される振動の測定結果を介挿シート共振特性に基づいて補正させて基体11の振動加速度レベルを求めさせる。一方、環境振動測定プログラムPは、介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い振動周波数の測定時には、例えばコンピュータ4に、介挿シート20を介することなく基体11から伝達される振動の測定結果を被覆材12の共振特性に基づいて補正させて基体11の振動加速度レベルを求めさせる。なお、被覆材12の共振特性は、被覆材共振特性データとして記憶部4dに記憶されている。この被覆材共振特性データは、振動周波数と、被覆材12の共振による基体11の振幅からの振幅変化量(すなわち振動加速度レベル差)との関係特性を示すデータ群である。
【0043】
演算処理部4eは、環境振動測定プログラムP等に基づいて所定の演算処理を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)等からなる。この演算処理部4eは、環境振動測定プログラムPの下に、振動ピックアップ2の測定結果に基づいて建築構造体10の基体11の振動を求める演算処理を行い、処理結果を出力部4cに表示させる。
【0044】
続いて、このような構成の環境振動測定システム1を用いた環境振動の測定方法(環境振動測定方法)について説明する。
【0045】
まず、建築構造体10の被覆材12上に介挿シート20を配置する。この介挿シート20上に振動ピックアップ2を載置し、介挿シート20を介して基体11から伝達される振動を振動ピックアップ2で測定する。振動ピックアップ2の測定信号は、振動レベル計3に入力され、振動レベル計3から振動加速度レベルや振動周波数がデジタル値として出力される。
【0046】
振動レベル計3から出力された振動加速度レベルや振動周波数はコンピュータ4に対して入力される。コンピュータ4では、環境振動測定プログラムPの下、介挿シート共振特性に基づいて振動ピックアップ2の測定結果を補正する。より詳細には、コンピュータ4は、振動レベル計3から入力された振動周波数に照らし合わせて、介挿シート共振特性から対応する振動周波数における振動加速度レベル差を取得し、振動レベル計3から入力された振動加速度レベルに振動加速度レベル差を加算することで、振動ピックアップ2の測定結果を補正する。そして、補正後の測定結果は、出力部4cにおいて可視化されて出力される。
【0047】
なお、例えば振動ピックアップ2から入力された振動周波数が介挿シート20の共振周波数の2の平方根倍の振動周波数よりも低い場合には、コンピュータ4は、出力部4cに介挿シート20を取り外して測定するように表示する。その後、コンピュータ4は、振動レベル計3から入力された振動周波数に照らし合わせて、被覆材共振特性から対応する振動周波数における振動加速度レベル差を取得し、振動レベル計3から入力された振動加速度レベルに振動加速度レベル差を加算することで、振動ピックアップ2の測定結果を補正する。
【0048】
以上のような本実施形態の環境振動測定システム1、環境振動測定方法及び環境振動測定プログラムPによれば、建築構造体10の被覆材12よりもばね定数が小さい介挿シート20を介して振動ピックアップ2で計測を行う。被覆材12よりばね定数が小さな介挿シート20を介することによって、振動ピックアップ2の測定結果が被覆材12の共振特性の影響を受けにくくなる。介挿シート20の共振特性は予め取得可能であることから、介挿シート20の共振特性を用いて振動ピックアップ2の計測結果を補正することによって、基体11の振動加速度レベルを正確に求めることができる。したがって、本実施形態の環境振動測定システム1によれば、建築構造体10の被覆材12を剥がすことなく、被覆材12の共振特性に影響を受けずに基体11の環境振動を簡易に測定することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態の環境振動測定システム1、環境振動測定方法及び環境振動測定プログラムPにおいては、介挿シート20の共振特性が、振動周波数と、介挿シート20の共振による基体振幅からの振幅変化量との関係を示す特性であるものとした。このため、この特性を示すテーブルを用いることで、振動周波数から、容易に補正値として振幅変化量を求めることが可能となる。ただし、共振特性として、例えば振動周波数と振幅変化量との関係を示す関係式を用いるようにしても良い。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態においては、介挿部材として、シート状の介挿シート20を用いる構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。介挿部材の形状は特に限定されるものではなく、ブロック状の介挿部材を用いることも可能である。
【0052】
続いて、
図10〜
図12を参照して、コンクリートによって形成された基体11を用い、建築構造体10に対して鉛直方向に変位する鉛直振動を付与した場合における効果について説明する。
図10は、上記実験の床材C3を被覆材12として用いた場合における効果を説明するためのグラフである。
図11は、上記実験の床材C4を被覆材12として用いた場合における効果を説明するためのグラフである。
図12は、上記実験の床材C5を被覆材12として用いた場合における効果を説明するためのグラフである。
【0053】
なお、
図10〜
図12において、横軸が周波数を示し、縦軸が振動加速度レベル差を示している。また、
図10〜
図12においては、素面(基体11の表面)に床材及び介挿シート20を配置しない状態での測定値を黒丸にて示し、床材のみを基体11上に配置した状態での測定値を白丸にて示し、床材及び介挿シート20を配置した上で介挿シート20の共振特性に基づいて補正を行った測定値を白四角にて示している。なお、床材及び介挿シート20を配置した実験では、介挿シート20の共振周波数の平方根倍よりも大きな振動周波数においてのみ介挿シート20の共振特性に基づく補正を行った。
【0054】
これらの
図10〜
図12に示すように、いずれの床材を用いた場合であっても、白四角で示すグラフに示すように、床材及び介挿シート20を配置し、測定値を介挿シート20の共振特性に基づいて補正を行うことで、補正後の測定値が素面の振動と一致することが確認された。
【0055】
続いて、
図13及び
図14を参照して、木材によって形成された基体11を用い、建築構造体10に対して鉛直方向に変位する鉛直振動を付与した場合における効果について説明する。
図13及び
図14は、木材によって形成された基体11に対して上記実験の床材C1を被覆材12として用いた場合における効果を説明するためのグラフである。なお、
図13は、介挿シート20の共振周波数の平方根倍よりも大きな振動周波数においてのみ介挿シート20の共振特性に基づいた補正を行った結果を示している。また、
図14は、介挿シート20の共振周波数の平方根倍よりも大きな振動周波数のみならず、介挿シート20の共振周波数の平方根倍以下の振動周波数においても介挿シート20の共振特性を用いた補正を行った結果を示している。
【0056】
なお、
図13及び
図14において、横軸が周波数を示し、縦軸が振動加速度レベル差を示している。また、
図13及び
図14においては、素面(基体11の表面)に床材C1及び介挿シート20を配置しない状態での測定値を黒丸にて示し、床材C1のみを基体11上に配置した状態での測定値を白丸にて示し、床材C1及び介挿シート20を配置した上で介挿シート20の共振特性に基づいて補正を行った測定値を白四角にて示している。
【0057】
これらの
図13及び
図14に示すように、基体11が木材によって形成された場合であっても、白四角で示すグラフに示すように、床材及び介挿シート20を配置し、測定値を介挿シート20の共振特性に基づいて補正を行うことで、補正後の測定値が素面の振動と一致することが確認された。
【0058】
図10〜
図14で示す結果から、基体11がコンクリートによって形成されている場合には、介挿シート20の共振周波数の平方根倍以下の振動周波数では、介挿シート20の共振特性に基づく補正を行わなくても被覆材12を介して基体11の振動を正確に測定することが可能であり、基体11が木材によって形成された場合には、介挿シート20の共振周波数の平方根倍以下の振動周波数では、介挿シート20の共振特性に基づく補正を行うことが好ましいことが分かった。介挿シート20の共振特性に基づく補正を行わなくても良いということは、介挿シート20を用いて測定を行う必要がないことを意味している。介挿シート20を用いなくても測定が可能である場合には、余計な振動系(介挿シート20)を増やすことなく測定が可能ということであるから、介挿シート20を用いずに測定することが良いと考えられる。
【0059】
また、上記実施形態においては、振動測定の現場で作業を行うよりも以前に、予め介挿シート20の介挿シート共振特性データを取得している。しかしながら、何らかの外的要因によって、測定現場における介挿シート20の共振特性が、予め取得した介挿シート共振特性データに対して僅かに変化する場合がある。このため、例えば、測定現場において、介挿シート20の共振周波数(ピーク周波数)を測定し、予め取得した介挿シート20の共振特性におけるピーク周波数と異なる結果が出た場合には、それらピーク周波数の差分に基づいて、予め取得した介挿シート共振特性データ(すなわち周波数に対する振動加速度レベル差)を修正することが好ましい。
【0060】
これらの知見に基づくと、基体11がコンクリートによって形成されている場合には、
図15のフローチャートで示すように、測定を行うことが考えられる。まず、介挿シート20の共振特性(介挿シート共振特性データ)を取得する(ステップS1)。このステップS1は、測定現場と異なる場所にて予め取得しておく。
【0061】
続いて、測定現場では、被覆材12上に振動ピックアップ2を載置して測定を行う(ステップS2)。さらに、介挿シート20を被覆材12上に載置し、介挿シート20上に振動ピックアップ2を載置して測定を行う(ステップS3)。なお、ステップS2とステップS3とは順番を逆とすることも可能である。
【0062】
続いて、介挿シート20の共振特性の確認を行う(ステップS4)。ここでは、例えば、ステップS2で得られた測定データとステップS3で得られた測定データとの差分(測定現場での介挿シート20の共振特性)を求める。さらに、この差分が示すピーク周波数(共振周波数)がステップS1で取得された介挿シート共振特性データのピーク周波数と一致するかによって介挿シート20の共振特性の確認を行う。
【0063】
そして、上述のピーク周波数が一致しない場合には、振動加速度レベル差の修正が必要と判断(ステップS5)し、振動周波数に対する振動加速度レベル差(すなわち介挿シート共振特性データ)を修正してステップS7に移行する。一方、上述のピーク周波数が一致する場合には、振動加速度レベル差の修正が不要と判断(ステップS5)してステップS7に移行する。
【0064】
ステップS7では、建築構造体10の周波数が介挿シート20の共振周波数の平方根倍より高いか否かを判断する。建築構造体10の周波数が介挿シート20の共振周波数の平方根倍以下である場合には、ステップS2で取得された測定値を介挿シート20の共振特性に基づいて補正することなく出力する(ステップS8)。一方、建築構造体10の振動周波数が介挿シート20の共振周波数の平方根倍より高い場合には、ステップS3で取得された測定値を介挿シート20の共振特性に基づいて補正した値を出力する(ステップS9)。
【0065】
一方で基体11が木材によって形成されている場合には、
図16のフローチャートで示すように、
図15のフローチャートで示すステップS7及びステップS8の工程を削除し、ステップS5あるいはステップS6からステップS9に移行することが考えられる。
【0066】
このような
図15及び
図16で示すように測定を行うことによって、より正確に、被覆材12の共振特性の影響を受けずに基体11の環境振動を簡易に測定することが可能となる。
【0067】
続いて、
図17〜
図19を参照して、建築構造体10に対して水平方向に変位する水平振動を付与した場合における効果について説明する。本効果を確認するために、基体11上に上記実験で用いた床材C1を被覆材12として配置した状態で介挿シート20を用いた実験と、床材C1を設置せずに介挿シート20を用いた実験を行った。
図17は、横軸が周波数を示し、縦軸が振動加速度レベル差を示すグラフである。この図に示すように、水平振動を付与した場合においても、床材C1の有無に関わらず、同様の測定結果が得られることが確認された。つまり、水平振動においても、介挿シート20を用いることにより、床材C1の共振特性を無視して測定が可能であることが確認された。
【0068】
図18は、床材C1を被覆材12として配置して介挿シート20を用いて取得したグラフから、床材C1を被覆材12として配置して介挿シート20を用いずに取得したグラフを引くことで、介挿シート20の共振特性のみを抽出した結果を示すグラフである。この
図18では、介挿シート20は、12.5Hz帯域が共振周波数(ピーク周波数)であることを示しており、その共振周波数の平方根倍が17.67767Hzであることが分かった。
【0069】
そこで、17.7828Hz以上の振動周波数において、介挿シート20を用いた補正を行った。この結果を
図19に示す。
図19は、横軸が周波数を示し、縦軸が測定値と基体11の表面との振動加速度レベル差を示している。
図19に示すように、17.7828Hz以上の周波数において、介挿シート20の共振特性を用いて測定値を補正することによって、補正後の測定値と基体11の表面との振動加速度レベル差とが小さくなっていることが確認できる。したがって、介挿シート20を用いた測定を行うことで、建築構造体10の水平振動についても、被覆材12の共振特性に影響を受けずに簡易に測定することができることが分かった。