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特開2020-48446細胞凝集抑制剤、細胞凝集抑制方法、細胞分散方法、及び、細胞分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-48446(P2020-48446A)
(43)【公開日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】細胞凝集抑制剤、細胞凝集抑制方法、細胞分散方法、及び、細胞分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20200306BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20200306BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20200306BHJP
【FI】
   C12N1/02
   G01N33/48 M
   C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-179616(P2018-179616)
(22)【出願日】2018年9月26日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】貝塚 芳久
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BA20
2G045BB60
2G045CB01
2G045FA37
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QQ15
4B063QR41
4B063QS02
4B063QS12
4B063QS13
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA86X
4B065AA87X
4B065BD14
4B065BD25
4B065CA46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞塊を個々の細胞に分離することができ、かつ、分離した個々の細胞の再凝集を抑制することができる細胞凝集抑制剤、細胞凝集抑制方法、細胞分散方法、及び、細胞分析方法の提供。
【解決手段】下記式1で表される化合物を含有する、細胞凝集抑制剤。

式中、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、Xは、所定の疎水性部位、Yは所定の親水性部位、Lは単結合、又は、2価の基である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される化合物を含有する、細胞凝集抑制剤であって、
【化1】

式1中、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、Xは、ステロール及びステロール誘導体からなる群より選択される少なくとも1種から任意の水素原子を除いた1価の基、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルケニル基、並びに、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキニル基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、複数あるXは同一でも異なってもよく、複数あるXは互いに連結して環を形成していてもよく、Yは、水溶液中における末端の蛍光共鳴移動効率から実測した実効的な鎖長が、2.8nm以上の親水性高分子からなる高分子鎖であり、複数あるYは同一でも異なってもよく、n+mが2のとき、Lは単結合、又は、2価の基であり、n+mが3以上のとき、Lはn+m価の基である、細胞凝集抑制剤。
【請求項2】
前記親水性高分子がポリアルキレングリコール、及び、ポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の細胞凝集抑制剤。
【請求項3】
前記親水性高分子の重量平均分子量が2000以上である、請求項1又は2に記載の細胞凝集抑制剤。
【請求項4】
前記鎖長が3.3nm以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞凝集抑制剤。
【請求項5】
複数の細胞と、液体媒体とを含有する細胞分散液に、前記細胞の凝集を抑制するように、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞凝集抑制剤を添加する、細胞凝集抑制方法。
【請求項6】
複数の細胞が凝集した細胞塊と、液体媒体とを含有する細胞塊分散液に、前記細胞塊を個々の細胞に分離して分散させるように、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞凝集抑制剤を添加する、細胞分散方法。
【請求項7】
複数の細胞と、液体媒体と、を含有する細胞分散液に、前記細胞が凝集するのが抑制されるように、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分散抑制剤を添加し、混合物を得る工程と、
前記混合物をフローサイトメトリー法を用いて分析する工程と、を有する、細胞分析方法。
【請求項8】
複数の細胞が凝集した細胞塊と、液体媒体と、を含有する細胞塊分散液に、前記細胞が前記液体中で個々の細胞に分離して分散するように、前記細胞塊分散液に請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分散抑制剤を添加し、混合物を得る工程と、前記混合物をフローサイトメトリー法を用いて分析する工程と、を有する、細胞分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凝集抑制剤、細胞凝集抑制方法、細胞分散方法、及び、細胞分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養物、及び、生体器官等から採取された試料中においては、複数の細胞が凝集して細胞塊を形成している場合がある。このような細胞塊を含有する試料をフローサイトメーター等を用いて測定する場合には、細胞塊を分散させる処理、及び/又は、分散処理後の細胞が再凝集しないよう維持する処理等が必要になることがある。
特許文献1には、「複数の細胞が凝集した細胞塊を液体媒体中で個々の細胞に分離して分散する方法であって、液体媒体中で細胞塊とフッ素樹脂粒子とを混合することを特徴とする細胞分散方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/005078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の検討によれば、特許文献1に係る細胞分散方法によれば、液体媒体中で、細胞塊を個々の細胞に分離することができるものの、一旦分離した細胞が再凝集するのを抑制する効果には改善の余地があった。
そこで、本発明は、細胞塊を個々の細胞に分離することができ、かつ、分離した個々の細胞が再凝集するのを抑制することができる細胞凝集抑制剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、細胞凝集抑制方法、細胞分散方法、及び、細胞分析方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] 後述する式1で表される化合物を含有する、細胞凝集抑制剤。
[2] 上記親水性高分子がポリアルキレングリコール、及び、ポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の細胞凝集抑制剤。
[3] 上記親水性高分子の重量平均分子量が2000以上である、[1]又は[2]に記載の細胞凝集抑制剤。
[4] 上記鎖長が3.3nm以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の細胞凝集抑制剤。
[5] 複数の細胞と、液体媒体とを含有する細胞分散液に、上記細胞の凝集を抑制するように、[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞凝集抑制剤を添加する、細胞凝集抑制方法。
[6] 複数の細胞が凝集した細胞塊と、液体媒体とを含有する細胞塊分散液に、上記細胞塊を個々の細胞に分離して分散させるように、[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞凝集抑制剤を添加する、細胞分散方法。
[7] 複数の細胞と、液体媒体と、を含有する細胞分散液に、上記細胞が凝集するのが抑制されるように、[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞分散抑制剤を添加し、混合物を得る工程と、上記混合物をフローサイトメトリー法を用いて分析する工程と、を有する、細胞分析方法。
[8] 複数の細胞が凝集した細胞塊と、液体媒体と、を含有する細胞塊分散液に、上記細胞が上記液体中で個々の細胞に分離して分散するように、上記細胞塊分散液に[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞分散抑制剤を添加し、混合物を得る工程と、上記混合物をフローサイトメトリー法を用いて分析する工程と、を有する、細胞分析方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、細胞塊を個々の細胞に分離することが提供でき、かつ、分離した個々の細胞が再凝集するのを抑制することができる細胞凝集抑制剤を提供できる。
また、本発明によれば、細胞凝集抑制方法、細胞分散方法、及び、細胞分析方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】表面分子同士が結合して形成された細胞塊に本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤を加えた場合の、細胞塊の分散の様子の模式図である。
図2】フローサイトメトリー法による細胞分析を実施可能な細胞分析装置の機能説明図である。
図3】光学検出部の構成を示す図である。
図4】PD−1−GFP、及び、PD−L1−BFPを発現する細胞同士を混合してから20分後に計測された細胞結合割合を示したグラフである。
図5】DMEM培地と、細胞凝集抑制剤をそれぞれ最終濃度で100μM含むDMEM培地と、分子量5000のPEGを最終濃度で100μM含むDMEM培地と、によりそれぞれ2時間インキュベートされたHEK293細胞、7000個の散乱光の平均値である。
図6】HEK293細胞の剥離について、反射干渉顕微鏡法による観察結果を数値化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(ポリ)オキシアルキレン」はポリオキシアルキレン及びオキシアルキレンの双方、又は、いずれかを表す。
【0011】
[細胞凝集抑制剤]
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤は、後述する式1で表される化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)を含有する細胞凝集抑制剤である。上記細胞凝集抑制剤により本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の課題が解決される場合であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
〔特定化合物〕
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤は、以下の式1で表される化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)を含有する。
【0013】
【化1】
【0014】
式1中、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、Xは、ステロール及びステロール誘導体からなる群より選択される少なくとも1種から任意の水素原子を除いた1価の基、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルケニル基、並びに、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキニル基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、複数あるXは同一でも異なってもよく、複数あるXは互いに連結して環を形成してもよく、Yは、水溶液中における末端の蛍光共鳴移動効率から実測した実効的な長さが、2.8nm以上の親水性高分子からなる高分子鎖であり、n+mが2のとき、Lは単結合、又は、2価の基であり、n+mが3以上のとき、Lはn+m価の基である。
【0015】
上記細胞凝集抑制剤は、典型的には、細胞塊、及び/又は、個々の細胞と、溶媒(液体媒体)とを含有する分散液に添加して用いられるか、又は、予め溶媒に分散させ、細胞凝集抑制剤含有溶液を調製し、これを細胞(塊)分散液に添加して用いられる。
特定化合物中、式1のXで表される部位(以下、「疎水性部位」ともいう。)は、細胞塊、及び/又は、個々の細胞が有する細胞膜との親和性が高いものと推測される。言い換えれば、上記の疎水性部位は細胞膜に吸着しやすく、及び/又は、細胞膜と結合しやすいものと推測される。
つまり、上記細胞凝集抑制剤に含有される特定化合物は、疎水性部位をアンカーとして細胞膜に固定されやすいものと推測される。
【0016】
一方、特定化合物は、式1のYで表される部位(以下、「親水性部位」ともいう。)を有する。上記親水部位は、水溶液中における末端の蛍光共鳴移動効率から実測した実効的な長さが、2.8nm以上の親水性高分子からなる高分子鎖であり、この点に上記細胞凝集抑制剤の特徴点の一つがある。
【0017】
本発明者は、分散処理後の個々の細胞が再凝集する要因の一つは、各細胞の表面に存在する分子(典型的にはタンパク質、以下「表面分子」ともいう。)同士の相互作用にあると推測している。例えば、個々の細胞が液体媒体中で互いに接近し、上記表面分子同士が結合することにより、再び細胞が凝集することがあると推測している。
【0018】
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤に含有される特定化合物は、上述したとおり、疎水性部位をアンカーとして細胞表面(細胞膜)に固定されやすい。更に、上記疎水性部位には連結基(式1中のL)を介して親水性部位が結合している。
すなわち、本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤に含有される特定化合物は、例えば、液体媒体と細胞とを含有する混合物中に添加されると、各細胞の細胞膜に疎水性部位が固定され、細胞の外側(液体媒体側)に親水性部位が張り出す形態となり易い。
【0019】
このとき、疎水性部位は水溶液中における末端の蛍光共鳴移動効率から実測した実効的な長さ(以下、本明細書において、単に「鎖長」ともいう。)が、2.8nm以上の親水性高分子からなる高分子鎖からなる。鎖長が、2.8nm以上であると、個々の細胞同士が接近した場合であっても、表面分子質同士が相互作用を発揮できる程度には近接することができず、言い換えれば、疎水性部位が障害となり、個々の細胞間における表面分子同士が結合しにくく、結果として個々の細胞同士の凝集が抑制されるものと推測される。
【0020】
図1は、表面分子同士が結合して形成された細胞塊に本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤(図1には特定化合物のみ記載した)を加えた場合の、細胞塊の分散の様子の模式図である。
個々の細胞11は、表面分子12及び13同士の相互作用により凝集し、細胞塊を形成している。ここに、特定化合物14を加えると、特定化合物14は、疎水性部位(X)により細胞膜に固定され、外側に、親水性部位(Y)が張り出す形態となると推測される。この外側に張り出した親水性部位(Y)によって、表面分子12及び13同士の距離が離れ、結果として、細胞塊が個々の細胞に分離されるものと推測される。
また、個々の細胞同士の距離が接近した場合であっても、表面分子12及び13が互いに接近しにくく、結果として、個々の細胞の再凝集も抑制されるものと推測される。
【0021】
なお、上記鎖長は、水溶液中において、ポリマーの両端にそれぞれ結合させた、蛍光共鳴移動が起こり得る蛍光特性をもつ蛍光色素のペアの間における蛍光共鳴移動の効率をポリマーの長さを変えて計測し、蛍光共鳴移動効率の理論計算式からポリマー末端間の距離を算出する方法で得られた値を意味する。
以下、細胞凝集抑制剤に含有される各成分について詳述する。
【0022】
〔式1で表される化合物(特定化合物)〕
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤は、以下の式1で表される特定化合物を含有する。
細胞凝集抑制剤中における特定化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、一般に細胞凝集抑制剤の全質量に対して、0.01〜99.9質量%が好ましい。
なお、細胞凝集抑制剤は、特定化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。細胞凝集抑制剤が、2種以上の特定化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
式1中、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、Xは、ステロール及びステロール誘導体からなる群より選択される少なくとも1種から任意の水素原子を除いた1価の基、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルケニル基、並びに、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキニル基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、複数あるXは同一でも異なってもよく、複数あるXは互いに連結して環を形成してもよく、Yは、水溶液中における末端の蛍光共鳴移動効率から実測した実効的な長さが、2.8nm以上の親水性高分子からなる高分子鎖であり、n+mが2のとき、Lは単結合、又は、2価の基であり、n+mが3以上のとき、Lはn+m価の基である。
【0025】
式1中、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数であり、特に制限されないが、それぞれ独立に1〜5が好ましく、1〜3がより好ましく、1又は2が更に好ましい。
【0026】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、特定化合物としては、以下の式1aで表される化合物が好ましい。なお、式1a中、n、X、及び、Yは、式1中のそれぞれの記号と同義である。また、L1aはn+1価の基であり、その形態としては、式1中のLと同様である。
【0027】
【化3】
【0028】
<疎水性部位>
式1中、Xで表される疎水性部位は、ステロール、及び、ステロール誘導体からなる群より選択される少なくとも1種から任意の水素原子を除いた1価の基(以下、「置換基A」ともいう)、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルケニル基、及び、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキニル基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、置換基A、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基、及び、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルケニル基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、置換基A、及び、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、置換基Aが更に好ましい。
【0029】
(置換基A)
置換基Aはステロール、及び、ステロール誘導体からなる群より選択される少なくとも1種から任意の水素原子を除いた1価の基である。
本明細書において、ステロール誘導体とは、ステロイド核を有し、かつ、ステロイド核の3位の炭素原子にヒドロキシ基が結合されてなり、かつ、ステロイド核の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1個が、任意の1価の基で置換された化合物を意味し、1価の基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが挙げられ、なかでも、炭化水素基、ヒドロキシ基、及び、ハロゲン原子等が好ましい。
【0030】
置換基Aとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、以下の式2で表される化合物から任意の水素原子を1つ除いた1価の基であることが好ましい。
【0031】
【化4】
【0032】
式2中、環A〜Dは飽和又は不飽和のステロイド核を表し、式2中、Rは水素原子、又は、1価の基であり、1価の基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが挙げられ、なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、ヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基がより好ましく、直鎖状、分岐鎖状、又は、環状のアルキル基がより好ましく、アルキル基の炭素数としては特に制限されないが、1〜20個が好ましく、2〜10個がより好ましく、3〜8個が更に好ましい。
また、上記ステロイド核の炭素原子に結合した水素原子は1価の基で置換されていてもよく、1価の基としては後述する置換基Wが挙げられる。
【0033】
より具体的には、式2で表される化合物としては、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、22−デヒドロカンペステロール、スチグマステロール、スチグマスタノール、22−ジヒドロスピナステロール、22−デヒドロスチグマスタノール、7−デヒドロスチグマステロール、シトステロール、チルカロール、オイホール、フコステロール、イソフコステロール、コジステロール、クリオナステロール、ポリフェラステロール、クレロステロール、22−デヒドロクレロステロール、フンギステロール、コンドリラステロール、アベナステロール、ベルノステロール、及び、ポリナスタノール等のフィトステロール;
コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレスタノール、コプロスタノール、エピコプロステロール、エピコプロスタノール、22−デヒドロコレステロール、デスモステロール、24−メチレンコレステロール、ラノステロール、24,25−ジヒドロラノステロ−ル、ノルラノステロ−ル、スピナステロール、ジヒドロアグノステロール、アグノステロール、ロフェノール、及び、ラトステロール等の動物性ステロール;
デヒドロエルゴステロール、22,23−ジヒドロエルゴステロール、エピステロール、アスコステロール、及び、フェコステロール等の菌類性ステロール等;
が挙げられる。
【0034】
式2で表される化合物と、式1のLとの結合位置としては特に制限されないが、ステロイド核の3位の炭素原子に結合したヒドロキシ基が好ましい。ヒドロキシ基とLとの結合は、例えば、エーテル結合、エステル結合、及び、アミド結合等により容易に形成可能である。
特に制限されないが、Yが置換基Aである場合の特定化合物としては、例えば、以下の式(3)で表される化合物が好ましい。
【0035】
【化5】
【0036】
式3中、環A〜D、及び、Rは式2中の各記号と同義である。また、式3中、Y及びmは、式1中の各記号と同義である。
式3中、Lは、単結合、又は、−C(O)−であり、Lは、単結合、又は、m+1価の基であり、Lのm+1価の基の形態は、式1中のLと同様である。
【0037】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、ステロール、及び、ステロール誘導体からなる群より選択される少なくとも1種から任意の水素原子を除いた1価の基としては、以下の式3で表される基が好ましい。
【0038】
【化6】
【0039】
式4中、Rは水素原子、又は、1価の基であり、1価の基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが挙げられ、なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、ヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基がより好ましく、直鎖状、分岐鎖状、又は、環状のアルキル基がより好ましく、アルキル基の炭素数としては特に制限されないが、1〜20個が好ましく、2〜10個がより好ましく、3〜8個が更に好ましい。
また、*は、結合位置を表す。
【0040】
疎水性部位が、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基である場合、炭素数としては特に制限されないが、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、13以上が更に好ましく、14以上が特に好ましく、15以上が最も好ましい。なお、炭素数の上限としては特に制限されないが、一般に30個以下が好ましく、24個以下がより好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基としては、直鎖状の炭素数8以上のアルキル基が好ましい。
【0041】
疎水性部位が、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルケニル基である場合、炭素数としては特に制限されないが、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、13以上が更に好ましく、14以上が特に好ましく、15以上が最も好ましい。なお、炭素数の上限としては特に制限されないが、一般に30個以下が好ましく、24個以下がより好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルケニル基としては、直鎖状の炭素数8以上のアルケニル基が好ましい。
【0042】
疎水性部位が、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキニル基である場合、炭素数としては特に制限されないが、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、13以上が更に好ましく、14以上が特に好ましく、15以上が最も好ましい。なお、炭素数の上限としては特に制限されないが、一般に30個以下が好ましく、24個以下がより好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8以上のアルキニル基としては、直鎖状の炭素数8以上のアルキニル基が好ましい。
【0043】
<L>
式1中、Lは、n+m(nとmの和)が2のとき、単結合、又は、2価の基である。n+mが3以上のとき、Lはn+m価の基である。
【0044】
Lの2価の基としては特に制限されないが、例えば、−C(O)−、−C(O)O−、−OC(O)−、−O−、−S−、−NR−(Rは水素原子又は1価の有機基を表す)、−O−P(O)(OH)−、−O−P(O)(O)−、アルキレン基(炭素数1〜10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3〜10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2〜10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。なお、Mは対イオンであり、Na及びNH等が挙げられる。
【0045】
Lの3価以上の基としては、特に制限されないが、例えば、以下の式(1a)〜(1d)で表される基が挙げられる。
【0046】
【化7】
【0047】
式1a中、Lは3価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、3個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
としては、3価の炭化水素基(炭素数1〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及びシクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0048】
式1b中、Lは4価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、4個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0049】
式1c中、Lは5価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、5個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0050】
式1d中、Lは6価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、6個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0051】
式1a〜式1d中、T〜Tで表される2価の基の具体例及び好適形態は、すでに説明したLの2価の基と同様であってよい。
また、Lが7価以上の基である場合には、式1a〜式1dで表した基を組み合わせた基を用いることができる。
【0052】
<親水性部位>
式1中、Yは親水性部位であり、水溶液中における末端の蛍光共鳴移動効率から実測した実効的な長さが、2.8nm以上の親水性高分子からなる高分子鎖である。なお、本明細書において、「親水性高分子からなる高分子鎖」とは、親水性高分子がLと結合して得られた特定化合物における部分構造を意味し、親水性高分子におけるLとの結合位置としては特に制限されないが、例えば、親水性高分子の末端が挙げられる。
【0053】
本明細書において親水性高分子とは、親水性基を有する高分子を意味する。
親水性基の種類は特に制限されず、例えば、ポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基がブロック又はランダム結合したポリオキシアルキレン基)、アミノ基、カルボキシ基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、スルホン酸基、及び、スルホン酸基のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0054】
親水性高分子の主鎖の構造は特に制限されず、例えば、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、及び、ポリウレア等が挙げられる。
なお、ポリ(メタ)アクリル酸エステルとは、ポリアクリル酸エステル及びポリメタアクリル酸エステルの両方を含む概念である。
【0055】
また、親水性高分子は、タンパク質であってもよい。タンパク質としては、凝集抑制の対象となる細胞の凝集、及び/又は、結合を誘導するタンパク質とことなるタンパク質であれば特に制限されない。すなわち、親水性高分子として用いることができるタンパク質は、凝集抑制の対象となる細胞の凝集、及び/又は、結合を誘導するタンパク質(又は、レセプター・リガンド対になるタンパク質群)とは異なるタンパク質である。
すなわち、言い換えれば、親水性高分子であるタンパク質は、凝集抑制の対象となる細胞間の分子結合等に関与せず、従って、その導入が目的の細胞の凝集を促進することがない生体由来の高分子を意味する。
【0056】
一般に、細胞と他の細胞(又は他の外部表面)との結合には、タンパク質が関与していると推測される。この関与の形態には、例えば、特定のタンパク質、すなわち接着分子、レセプター・リガンドという対になる分子、及び、血液の凝固因子等として関与する(より強い結合の)場合;細胞表面の多数のタンパク質が生物学的に言うところの「非特異的」な弱い相互作用(静電相互作用、及び、ファンデルワールス力等)で、向かい合う表面の分子群と結合に関与する(より弱い結合の)場合;等があると推測される。
【0057】
上記のいずれの場合であっても、本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤を導入すると、所定の鎖長を有する親水性高分子が立体的に細胞膜表面上から突き出す構造が形成されることにより、細胞間の結合は弱くなるものと推測される。
前者(強い結合)の場合には、細胞凝集抑制剤の親水性高分子部位の鎖長が所定の数値以上であるため、細胞表面の接着分子同士が接触しにくくなるものと推測される。一方、後者(弱い結合)の場合には、細胞凝集抑制剤の親水性高分子部位によって細胞と細胞が結合する表面との距離が遠くなるため、結果として、物理的に相互作用は弱まると推測される。
【0058】
親水性高分子としては、例えば、BSA(Bovine serum albumin)、ゼラチン、ペプチド、オリゴDNA、及び、糖鎖等を使用してもよい。
【0059】
親水性高分子としては、より具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロール、ヒドロキシプロピルセルロース、及び、ヒドロキシエチルセルロース等)、デンプン誘導体(プルラン)、ポリビニルアルコール、エチル酢酸ビニル、オイドラギット、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリイソブチレン無水マレイン酸共重合体、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、アラビアゴム、トラガント、カラヤゴム、及び、ポリビニルメタクリレート等が挙げられる。
【0060】
親水性高分子としては、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、ポリアルキレングリコール、及び、ポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0061】
式1におけるYで表される親水性部位は、上記親水性高分子がLと結合して形成される特定化合物における部分構造(高分子鎖)であり、上記親水性高分子は、水溶液中における末端の蛍光共鳴移動効率から実測した実効的な長さ(鎖長)が、2.8nm以上である。
鎖長は、2.8nm以上であれば特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、3.3nm以上が好ましく、3.6nm以上がより好ましく、3.9以上が更に好ましく、4.0以上が特に好ましい。鎖長が上記数値範囲内であると、表面分子のサイズ(典型的には、水溶液中における実効的なサイズ)がより大きい場合であっても、より優れた効果を発揮する細胞凝集抑制剤が得られる。
なお、鎖長の上限は特に制限されないが、10.0nm以下であると、細胞凝集抑制剤の親水性が適度な範囲で調整されやすく、細胞凝集抑制剤が分散対象、又は、凝集抑制対象の細胞の細胞膜により定着しやすい点で好ましい。
【0062】
なお、上記鎖長は、測定対象とする親水性高分子の両末端に、蛍光共鳴移動が起こり得る蛍光特性をもつ蛍光色素をそれぞれ結合させて得た試料を水溶液中に分散させ、蛍光共鳴移動の効率を測定し、蛍光共鳴移動効率の理論計算式からポリマー末端間の距離を算出する方法である。上記方法によれば、高分子鎖の実効的な長さを測定できる。
【0063】
例えば、親水性高分子がポリアルキレングリコールである場合、片末端をビオチン化、他方の末端をマレイミド化し、ビオチン側末端はビオチン固定プラスチックプレート上に結合させた蛍光(DyLight649)ラベルストレプトアビジンに結合させ、マレイミド側末端は他の蛍光ラベルしたタンパク質(例えば、Dylight549ラベルしたIEkMCC)のシステイン基と共有結合にて結合させてサンプルを準備する。このサンプルを水に分散させ、蛍光強度を測定すると、DyLight549の蛍光スペクトルとDyLight649の吸収スペクトルがオーバーラップするため、両色素間の距離に応じた蛍光共鳴移動(FRET)が発生し、ポリマー末端間の距離を算出できる。
【0064】
本発明者の検討によれば、驚くべきことに、上記方法で算出した鎖長が2.8nm以上であると、細胞表面に存在するタンパク質同士の相互作用をより抑制し、結果として、細胞の凝集を抑制できることが明らかとなった。
なお、上記測定方法は、PLoS One. 2014 Nov 10;9(11):e112292に記載されており、上記の内容は本明細書に組み込まれる。
なお、親水性高分子の鎖長を調整する方法としては特に制限されないが、親水性高分子の一次構造、及び、分子量等により調整することができ、その方法は当業者にとって公知である。
【0065】
親水性高分子の分子量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、2000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、3400以上が更に好ましい。
分子量の上限値としては特に制限されないが、一般に、200000以下が好ましく、100000以下がより好ましい。
なお、本明細書において分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定した重量平均分子量を意味する。
【0066】
特定化合物としては、特に制限されないが、例えば、以下の式で表される化合物が挙げられる。
【化8】
【0067】
各式中、Rは水素原子、又は、1価の基を表し、RはYの高分子鎖を表し、pは2以上の整数を表し、qは、0〜2の整数を表し、Mは対イオン(例えば、Na及びNH等が挙げられる。)
特定化合物は公知の方法で合成することができ、また、sigma社、nanocs社Biochempeg社、及び、Avanti Polar Lipids社製の市販品を用いることもできる。
【0068】
〔その他の成分〕
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤は、本発明の効果を奏する範囲内において、特定化合物以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては特に制限されないが、緩衝化剤、及び、キレート剤等が挙げられる。
【0069】
<緩衝化剤>
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤は、緩衝化剤を含有していてもよい。
細胞凝集抑制剤中における緩衝化剤の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、一般に細胞凝集抑制剤の全質量に対して、0.001〜99質量%が好ましい。なお、細胞凝集抑制剤は、緩衝化剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。細胞凝集抑制剤が、2種以上の緩衝化剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0070】
緩衝化剤としては、特に制限されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び、イプシロン−アミノカプロン酸等が挙げられる。
【0071】
<キレート剤>
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤は、キレート剤を含有していてもよい。細胞凝集抑制剤におけるキレート剤の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞凝集抑制剤が得られる点で、一般に細胞凝集抑制剤の全質量に対して、0.001〜99質量%が好ましい。なお、細胞凝集抑制剤は、キレート剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。細胞凝集抑制剤が、2種以上のキレート剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0072】
キレート剤としては、特に制限されないが、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸、アスコルビン酸、エチドロン酸、及び、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)等のヒドロキシ酸系;
エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、グルタミン酸二酢酸四ナトリウム、グリコールエーテルジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、エチレンジアミン−N,N′−ジコハク酸、及び、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸等のアミノカルボン酸系;
カルボキシメチルタルトロン酸(CMT)、及び、カルボキシメチルオキシコハク酸(CMOS)等のエーテルカルボン酸系;等が挙げられる。
【0073】
〔細胞凝集抑制剤の用途〕
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤は、細胞塊を個々の細胞に分散させる目的、及び/又は、個々の細胞に分散させた細胞が再凝集するのを抑制する目的で、典型的には、細胞塊、及び、細胞からなる群より選択される少なくとも一方と、液体媒体とを含有する溶液に添加して使用することができる。本発明の細胞凝集抑制剤を用いることで、細胞塊を個々の細胞に分散させ、また、分散させた細胞の再凝集を抑制することができるため、得られる溶液は、フローサイトメトリー法を用いた細胞分析、及び、細胞研究のために用いることができる。
【0074】
従来のように、ミキサー等の撹拌により生じる大きなせん断力を用いて細胞塊を分散させる場合、細胞がダメージを受ける虞がある。また、細胞にダメージを与えない程度のせん断力を作用させた場合、細胞分散効果が不十分となる。これに対して、本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤を用いると、せん断力をほとんど用いることなく細胞塊を分散させることができる。更に、本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤を用いると、一旦分散した個々の細胞が再凝集するのを抑制することができる。
【0075】
なお、本明細書において、「ダメージ」とは、例えば、細胞が破断したり、開裂したりすること、細胞内の物質が細胞外へ放出されること等が挙げられる。
【0076】
特に、親水性高分子がポリアルキレングリコールである場合、非毒性で鎖長を制御しやすい点で、より優れている。本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤においては、上記親水性高分子からなる高分子鎖は細胞内へ導入されないものと推測される。一方で、結合・剥離しやすい疎水性部位により、細胞膜上へ上記高分子鎖を固定し、必要なときには溶液中(細胞を含む、細胞懸濁液中)に親水性高分子を保持し、不要になれば溶液を洗浄することで、速やかに除去できる。
その結果、細胞懸濁液中に本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤が含まれている状況下においては、特異的(典型的には特定のタンパク質のペアによる)、非特異的に依らず、細胞同士が結合・凝集する状態を阻害できる。
【0077】
(置換基W)
置換基Wとしては、ハロゲン原子、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、及び、ペンタデシル等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、及び、シクロヘキシル等)、アルケニル基(例えば、ビニル、及び、アリル等)、アルキニル基(例えば、エチニル、及び、プロパルギル等)、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環、アリール等ともいい、例えば、フェニル、p−クロロフェニル、メシチル、トリル、キシリル、ナフチル、アントリル、アズレニル、アセナフテニル、フルオレニル、フェナントリル、インデニル、ピレニル、及び、ビフェニリル等)、芳香族へテロ環基(5又は6員環の芳香族へテロ環基が好ましく、また環構成ヘテロ原子は、硫黄原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、ホウ素、及び、セレン原子が好ましく、例えば、ピリジル、ピリミジニル、フリル、ピロリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ピラゾリル、ピラジニル、トリアゾリル(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル、及び、1,2,3−トリアゾール−1−イル等)、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、フラザニル、チエニル、キノリル、ベンゾフリル、ジベンゾフリル、ベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、インドリル、カルバゾリル、カルボリニル、ジアザカルバゾリル(上記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル、ピリダジニル、トリアジニル、キナゾリニル、フタラジニル、ボロール、アザボリン等)、ヘテロ環基(芳香族でないヘテロ環基で、飽和環であっても不飽和環であってもよく、5又は6員環が好ましく、また環構成ヘテロ原子は、硫黄原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、又は、セレン原子が好ましく、例えば、ピロリジル、イミダゾリジル、モルホリル、オキサゾリジル等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ドデシルオキシ等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、ナフチルオキシ等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ペンチルチオ、ヘキシルチオ、オクチルチオ、ドデシルチオ等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ、シクロヘキシルチオ等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、ナフチルチオ等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル、メチルアミノスルホニル、ジメチルアミノスルホニル、ブチルアミノスルホニル、ヘキシルアミノスルホニル、シクロヘキシルアミノスルホニル、オクチルアミノスルホニル、ドデシルアミノスルホニル、フェニルアミノスルホニル、ナフチルアミノスルホニル、2−ピリジルアミノスルホニル等)、
【0078】
アシル基(例えば、アセチル、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、ペンチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、オクチルカルボニル、2−エチルヘキシルカルボニル、ドデシルカルボニル、アクリロイル、メタクリロイル、フェニルカルボニル、ナフチルカルボニル、ピリジルカルボニル等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、エチルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、オクチルカルボニルオキシ、ドデシルカルボニルオキシ、フェニルカルボニルオキシ等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ、エチルカルボニルアミノ、ジメチルカルボニルアミノ、プロピルカルボニルアミノ、ペンチルカルボニルアミノ、シクロヘキシルカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ、オクチルカルボニルアミノ、ドデシルカルボニルアミノ、フェニルカルボニルアミノ、ナフチルカルボニルアミノ等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル、メチルアミノカルボニル、ジメチルアミノカルボニル、プロピルアミノカルボニル、ペンチルアミノカルボニル、シクロヘキシルアミノカルボニル、オクチルアミノカルボニル、2−エチルヘキシルアミノカルボニル、ドデシルアミノカルボニル、フェニルアミノカルボニル、ナフチルアミノカルボニル、2−ピリジルアミノカルボニル等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド、エチルウレイド、ペンチルウレイド、シクロヘキシルウレイド、オクチルウレイド、ドデシルウレイド、フェニルウレイド、ナフチルウレイド、2−ピリジルアミノウレイド等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、ブチルスルフィニル、シクロヘキシルスルフィニル、2−エチルヘキシルスルフィニル、ドデシルスルフィニル、フェニルスルフィニル、ナフチルスルフィニル、2−ピリジルスルフィニル等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、ブチルスルホニル、シクロヘキシルスルホニル、2−エチルヘキシルスルホニル、ドデシルスルホニル等)、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル、2−ピリジルスルホニル等)、アミノ基(アミノ基、アルキルアミノ基、アルケニルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含み、例えば、アミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、アニリノ、ナフチルアミノ、2−ピリジルアミノ等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル、トリイソプロピルシリル、トリフェニルシリル、フェニルジエチルシリル等)等が挙げられる。
これらの各基は、更に置換基を有していてもよく、この置換基としては上記の置換基が挙げられる。例えば、アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基、アルキル基にヒドロキシ基が置換したヒドロキシアルキル基等が挙げられる。なお、置換基Wが更に複数の置換基を有する場合、複数の置換基同士は互いに結合して環を形成してもよい。
【0079】
[細胞凝集抑制方法]
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制方法は、複数の(個々の)細胞と、液体媒体とを含有する細胞分散液に、上記(個々の)細胞の凝集を抑制するように、上記の細胞凝集抑制剤を添加する、細胞凝集抑制方法である。
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制方法が適用できる細胞としては特に制限されず、生体器官から採取された細胞(子宮頸部、鼻腔、及び、咽頭等)であってもよいし、培養された細胞であってもよい。
【0080】
液体媒体としては特に制限されないが、例えば、水、水溶性有機溶媒、及び、水溶液と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。なかでも、水、又は、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0081】
細胞凝集抑制剤を細胞分散液に添加量する方法としては特に制限されないが、例えば、細胞分散液に所定量の細胞凝集抑制剤を加える(必要に応じて撹拌してもよい)方法、及び、予め細胞凝集抑制剤と液体媒体とを混合し、得られた混合液を細胞分散液に加える方法等が挙げられる。
【0082】
[細胞分散方法]
本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制方法は、複数の細胞が凝集した細胞塊と、液体媒体と、を含有する細胞分散液に、細胞塊を個々の細胞に分離して分散させるように、すでに説明した細胞凝集抑制剤を添加する、細胞分散方法である。
【0083】
一般に生体器官(例えば、子宮頸部等)、及び、細胞培養物から取得した細胞は、複数の細胞が凝集して細胞塊を形成していることが多い。本発明の実施形態に係る細胞分散方法によれば、上記細胞塊を個々の細胞に分離させることができる。
【0084】
液体媒体としては特に制限されないが、例えば、水、水溶性有機溶媒、及び、水溶液と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。なかでも、水、又は、水と水溶性有機溶媒(例えば、アルコール等)の混合溶媒が好ましい。
【0085】
細胞凝集抑制剤を細胞塊分散液に添加する方法としては特に制限されないが、例えば、細胞塊分散液に所定量の細胞凝集抑制剤を加えて撹拌する方法、及び、予め細胞凝集抑制剤と液体媒体とを混合し、得られた混合物を細胞塊分散液に加える方法等が挙げられる。
【0086】
[細胞分析方法]
本発明の実施形態に係る細胞分析方法は、複数の細胞と、液体媒体と、を含有する細胞分散液に、細胞が凝集するのが抑制されるように、すでに説明した細胞分散抑制剤を添加し、混合物を得る工程と、混合物をフローサイトメトリー法を用いて測定する工程と、を有する、細胞分析方法である。
【0087】
本実施形態に係る細胞分析方法は、典型的には、フローサイトメトリー法による細胞分析が実施可能な細胞分析装置を用いて実施することができる。以下に、すでに説明した細胞凝集抑制剤を用いて細胞塊を分散させ、及び/又は、凝集を抑制させた個々の細胞を含む検体(混合物)を細胞分析装置で測定する場合について詳述する。
【0088】
図2には、フローサイトメトリー法による細胞分析を実施可能な細胞分析装置20の機能説明図を示した。細胞分析装置20は、処理部21と、記憶部22と、試料調製部23と、光学検出部24と、信号処理部25と、表示部26と、入力部27と、を備える。
図2の細胞分析装置20によれば、例えば、検体中に含まれる細胞の大きさに係る情報を取得し、結果として細胞の種類を判別するための情報を得ることができる。
【0089】
細胞分析装置20において、処理部21は、マイクロコンピュータ、及び、中央演算装置等と、記憶部22とにより構成される。記憶部22は、ランダムアクセスメモリ、リードオンリーメモリ、及び、ハードディスク等により構成される。記憶部22は、処理部21によって実行される処理プログラムを記憶することができる。処理部21は、細胞分析装置20の各部との間で信号の送受信を行い、各部を制御する。試料調製部23は、細胞(塊)と凝集抑制剤とを混合することにより、試料を調製する。
【0090】
上記細胞分析装置20は、試料調製部23を有しているが、本発明の実施形態に係る細胞分析方法が実施可能な装置としては上記に制限されず、試料調製部を有していなくてもよい。
その場合、細胞塊の分散、及び、個々の細胞の凝集抑制は、例えば、以下のように行うことができる。まず、生体器官から採取、又は、培養細胞をアルコール溶液を含む細胞保存液に加え、固定化することにより、細胞分散液(以下、「細胞懸濁液」ともいう。)が得られる。ここに、すでに説明した細胞凝集抑制剤を加えて、混合物を調製する。このとき、必要に応じて撹拌してもよい。
また、細胞の凝集状態としては、例えば生体内の各種組織の上皮や細胞培養基材を含む人工物へ結合しているものであってもよい。すなわち、個々の細胞を液中に分散させる工程としては、基材表面等に結合している細胞を剥離する工程を含んでもよい。
【0091】
図3は、光学検出部24の構成を示す図である。レンズ系(光学系)32は、光源である半導体レーザ33から放射されたレーザ光を、フローセル31を流れる分析試料に集光する。集光レンズ34は、分析試料中の細胞の前方散乱光を散乱光検出器であるフォトダイオード35に集光する。また、集光レンズ36は、細胞又は細胞核の側方散乱光と側方蛍光とをダイクロイックミラー37に集光する。ダイクロイックミラー37は、側方散乱光を散乱光検出器であるフォトマルチプライヤ38へ反射し、側方蛍光を蛍光検出器であるフォトマルチプライヤ39の方へ透過させる。そしてフォトダイオード35、フォトマルチプライヤ38及びフォトマルチプライヤ39は、検出した光を電気信号に変換し、それぞれ、前方散乱光信号、側方散乱光信号及び側方蛍光信号を出力する。これらの出力は図示しないプリアンプにより増幅された後、前述した信号処理部に供される。
【0092】
図2に戻り、信号処理部25は、信号を処理するための複数の回路と記憶部とにより構成される。信号処理部25は、光学検出部24から出力された信号に基づいて、粒子(例えば、細胞)毎に蛍光の強度を算出する。処理部21は、粒子毎に算出された蛍光の強度を記憶部22に記憶する。
表示部26は、ディスプレイにより構成され、細胞の検出結果等を表示する。
入力部27は、マウス、及び、キーボード等により構成される。オペレータは、入力部27を介して細胞分析装置20に対して指示を入力する。
【実施例】
【0093】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0094】
[細胞凝集抑制剤の準備]
以下の構造を有し、それぞれ親水性高分子の鎖長の異なる特定化合物を購入して準備した。使用した特定化合物を表1にまとめた。
【0095】
【化9】
【0096】
上記式中、繰り返し数nは2以上の整数を表す。
また、比較化合物として、以下の構造を有する化合物を購入して準備した。
【化10】
【0097】
上記式中、繰り返し数mは2以上の整数を表す。
また、使用した比較化合物について、表1にまとめた。
【0098】
【表1】
【0099】
上記の特定化合物、及び、比較化合物をPBS(Phosphate buffered saline)に溶解させ、細胞凝集抑制剤含有溶液を調製した。
【0100】
細胞(塊)の分散状態を計測する場合には、蛍光及び散乱光の変化をフローサイトメトリーにて計測する。計測は、特開2018−87811号公報の0008〜0037段落に記載の方法により実施した。
また、細胞の剥離は、基板上に接着した細胞の状態変化を透過光と反射干渉光を顕微鏡下で撮影して画像データを得て、その画像データを解析することにより計測した。
【0101】
〔細胞(塊)の分散状態の評価(1)〕
10%FBS(Fetal Bovine Serum)を含むDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地中で培養されたHEK293細胞に、PD−1−GFP、及び、PD−L1−BFPの遺伝子を含むプラスミドをそれぞれ培地量1mLあたり0.6μgずつリポフェクタミン2000を用いてトランスフェクションさせた。トランスフェクションの方法については、与えられた製品のマニュアルに従った。
【0102】
なお、それぞれのプラスミドはpAcGFP−N1ベクター(タカラバイオ社)のXhoI,EcoRIの制限酵素サイトの間にレセプター分子PD−1の遺伝子、XhoI,NotIの制限酵素サイトの間にリガンド分子のPD−L1と蛍光波長の異なる蛍光タンパク質(TagBFP)との融合遺伝子、とを導入することで作製された。
【0103】
次に、24時間、COインキュベーター内、37℃で継続的に細胞培養を行い、それぞれの細胞にPD−1−GFP、及び、PD−L1−BFPを十分量発現させた。そして、DMEM培地を吸引により除いた後に、適当な濃度の0.02%EDTA(エチレンジアミン四酢酸、キレート剤に該当する。)を含有するPBS(リン酸緩衝生理食塩水、緩衝化剤を含有する水溶液に該当する)溶液を除いた培地量の半分の体積加えて細胞を剥離させて懸濁させて採取した。
【0104】
次に、上記のとおり準備された細胞懸濁液を実験条件に合わせて分割した。その分割された細胞懸濁液に対して、細胞結合・分散計測実験における最終濃度(0.01mg/mL、0.1mg/mL、及び、1mg/mL)の2倍となる特定化合物(又は比較化合物)と0.02質量%EDTAとを含有するPBS溶液を添加して、混合液を得た。細胞に対して一度剥離・懸濁して分割してから細胞凝集抑制剤溶液を混合した理由は、実験における各条件下で均一に近い細胞サンプルを使用することで比較が可能であるようにするためである。
【0105】
30分後、細胞凝集抑制剤の混合液中のPD−1−GFP、及び、PD−L1−BFPを発現する細胞同士を混合して、フローサイトメトリーにてGFP、及び、BFPの蛍光を測定した。
【0106】
PD−1、及び、PD−L1タンパク質によって誘導される細胞間の結合はGFPとBFPの両者の蛍光を発する細胞として、フローサイトメトリーにて計測される。その結合数を細胞凝集抑制剤中の特定化合物の含有量間で比較した。
【0107】
フローサイトメトリーの計測時には、細胞の結合の経時測定を行うことも可能である。すなわち同一チューブで結合反応を続ける細胞の混合体を穏やかな回転により撹拌し続けながら、一定時間経過毎にフローサイトメトリーにサンプルのチューブをセットして一定の液量を使用した計測を行うことができる。
【0108】
図4には、PD−1−GFP、及び、PD−L1−BFPを発現する細胞同士を混合してから20分後に計測された細胞結合割合を示したグラフを示した。なお、細胞結合割合は、細胞凝集抑制剤溶液を含まないコントロールサンプルにおける計測結果に対する比として正規化されている。
図4によれば、PEG−2000、PEG−3400、及び、PEG−5000いずれの場合も、各含有量において、PEG−1000よりも細胞結合割合が低かった。
【0109】
〔細胞(塊)の分散状態の評価(2)〕
10%FBS(Fetal Bovine Serum)を含むDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地中で培養されたHEK293細胞に対して、培地を除去した後0.02%EDTAを含有するPBSにより剥離して同溶液中に細胞を懸濁する。遠心分離により細胞を沈殿させて上清の0.02%EDTAを含有するPBSを除いた後、新しい10%FBS(Fetal Bovine Serum)を含むDMEMで細胞を懸濁させる。分注した細胞懸濁液が、それぞれ異なる細胞凝集抑制剤溶液を含有するように調製する。2時間の間、室温にて細胞懸濁液を含むチューブを回転させながらインキュベートし、その後フローサイトメトリーにて散乱光を計測する。散乱光の大きさはフローサイトメトリー中で検出される物体のサイズに依存することから、散乱光の大きさから細胞の凝集程度が評価できる。
【0110】
図5には、DMEM培地(図5中、「添加なし」と記載した)と、細胞凝集抑制剤(特定化合物)のPEG−2000、PEG−3400、及び、PEG−5000をそれぞれ最終濃度で100μM含むDMEM培地と、分子量5000のPEGを最終濃度で100μM含むDMEM培地(図5中、「PEGのみ」と記載した)と、によりそれぞれ2時間インキュベートされたHEK293細胞、7000個の散乱光の平均値を比較した。
【0111】
図5の結果から、水溶性のPEGを含むことで何らかの理由で細胞の散乱光は上昇することがわかる(「PEGのみ」)。一方で細胞凝集抑制剤(特定化合物;PEG−2000、PEG−3400、及び、PEG−5000)を添加したいずれの場合でも「添加なし」よりも側方散乱光平均値が著しく低下しており、細胞の凝集が抑制されていることがわかる。
【0112】
〔細胞(塊)の剥離状態の評価〕
HEK293細胞をポリリジンによりコートしたカバーグラスを底面とする容器(ガラスボトムディッシュ)に播種し、10%FBS(Fetal bovine serum)を含むDMEM培地中にて一日以上培養した。
【0113】
次に、十分な開口数を持ちサンプル底面との間の光路中に高い屈折率を保持できる対物レンズ(油浸100倍、開口数(N.A.)1.46)を用いて、倒立型蛍光顕微鏡装置を用いてガラスボトムディッシュ内の細胞の状態を観察しながら、所定のめた最終濃度を達成できるように、細胞凝集抑制剤含有溶液を、培地溶液又は培地を除いて置換したHBS(HEPES Buffered Saline)溶液に、適量添加して混合した。なお、濃度に関する条件は、細胞分散の実験と同様とした。
【0114】
細胞の変化は、透過光等による細胞の形状観察と、反射干渉顕微鏡法による観察とを同時に行う事により検出する。反射干渉顕微鏡法については、キセノンランプ等の光源からの入射光を535nm中心で10nmのバンドパスフィルターにより選択して対物レンズを通してサンプルに照射し、同じく対物レンズを通して全ての反射光をEMCCD(ElectronMultiplying Charge Coupled Device)カメラ等で検出して撮影する。
【0115】
光路中の物質の屈折率に差が生じることにより、細胞の底面とガラス表面が十分に近接・接触している部位においてはそれぞれからの反射光の干渉により、細胞とガラス表面が接触していない部位と比較して、検出される反射光の総和が低下する。
その結果、反射干渉顕微鏡法により撮影された画像データにおいては、細胞の接着面における部位の数値が周囲の非接触面より低下する。その数値差を利用した画像解析から細胞の接着面積を計算できる。
【0116】
図6には、HEK293細胞の剥離について、反射干渉顕微鏡法による観察結果を数値化したものを示した。図6における横軸は細胞凝集抑制剤(特定化合物)の含有量、縦軸は細胞凝集抑制剤添加60分後、又は、60分以内で顕微鏡観察下の全細胞が底面から剥離した時点における正規化された細胞接着面積(細胞凝集抑制剤添加前の接着面積に対する比)を示している。
図6によれば、PEG−2000、PEG−3400いずれの場合も、各含有量において、PEG−1000よりも細胞接着面積が低かった。
なお、図6中に1K、2K、及び、3.4Kとあるのは、それぞれ、PEG−1000、PEG−2000、及び、PEG−3400を表す。
【0117】
上記図4、及び、図6に示した結果から、特定化合物(PEG−2000、PEG−3400)を含有する本発明の実施形態に係る細胞凝集抑制剤を用いると、PD−1分子とPD−L1分子による特異的な分子結合による細胞結合(図4)、及び、細胞膜上のタンパク質を含む多数の分子と、接着表面との非特異的な結合(図6)のいずれをも阻害することにより本発明の効果を奏することがわかった。
一方、PEG−1000では所望の効果は得られなかった。
【符号の説明】
【0118】
11 :細胞
12 :タンパク質
14 :特定化合物
20 :細胞分析装置
21 :処理部
22 :記憶部
23 :試料調製部
24 :光学検出部
25 :信号処理部
26 :表示部
27 :入力部
31 :フローセル
33 :半導体レーザ
34 :集光レンズ
35 :フォトダイオード
36 :集光レンズ
37 :ダイクロイックミラー
38 :フォトマルチプライヤ
39 :フォトマルチプライヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6