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特開2020-48527昆布類エキス及びその製造方法、昆布類エキス含有調味料、飲食物の風味改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-48527(P2020-48527A)
(43)【公開日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】昆布類エキス及びその製造方法、昆布類エキス含有調味料、飲食物の風味改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20200306BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20200306BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20200306BHJP
【FI】
   A23L17/60 102
   A23L27/00 Z
   A23L27/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-183884(P2018-183884)
(22)【出願日】2018年9月28日
(71)【出願人】
【識別番号】390033145
【氏名又は名称】焼津水産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】三ッ石 純子
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】今村 聡美
【テーマコード(参考)】
4B019
4B047
【Fターム(参考)】
4B019LC02
4B019LE05
4B019LK03
4B019LK16
4B019LP13
4B019LP17
4B047LB03
4B047LE01
4B047LE06
4B047LG09
4B047LG42
4B047LG57
4B047LP01
4B047LP18
(57)【要約】
【課題】一般的な装置を用いつつも、加熱風味のない、昆布本来の香気及び呈味が強く良好に得られる昆布類エキスであって、更に飲食物の風味を改善することができる昆布類エキス、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】エキス中に、多糖類及びオリゴ糖を合計で5質量/エキス固形分%以上、且つヘキサナールを0.2ppm以上含有することを特徴とする昆布類エキスを提供する。また、昆布類を抽出原料とし、有機酸水溶液を抽出溶媒として、加圧加熱条件下で抽出する抽出工程を含むことを特徴とする昆布類エキスの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキス中に、多糖類及びオリゴ糖を合計で5質量/エキス固形分%以上、且つヘキサナールを0.2ppm以上含有することを特徴とする昆布類エキス。
【請求項2】
エキス中に、タンパク質及びペプチドを合計で2.0質量/エキス固形分%以上含有する、請求項1に記載の昆布類エキス。
【請求項3】
前記タンパク質及びペプチドの合計含有量と、多糖類及びオリゴ糖の合計含有量との質量比が、1:2.5〜1:20である、請求項1又は2に記載の昆布類エキス。
【請求項4】
調味料中に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の昆布類エキスを固形分として10質量%以上含むことを特徴とする昆布類エキス含有調味料。
【請求項5】
液状、ペースト状、粉末状又は顆粒状をなす、請求項4に記載の昆布類エキス含有調味料。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の昆布類エキスの製造方法であって、昆布類を抽出原料とし、有機酸水溶液を抽出溶媒として、加圧加熱条件下で抽出する抽出工程を含むことを特徴とする昆布類エキスの製造方法。
【請求項7】
前記加圧条件は0.1〜0.5MPaであり、且つ前記加熱条件は100〜150℃である、請求項6に記載の昆布類エキスの製造方法。
【請求項8】
前記有機酸水溶液の濃度が0.5〜20質量%である、請求項6又は7に記載の昆布類エキスの製造方法。
【請求項9】
前記有機酸水溶液が、乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、アジピン酸、イタコン酸、及びアスコルビン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の昆布類エキスの製造方法。
【請求項10】
前記抽出工程で得られた抽出物に酵素処理を施す酵素処理工程を更に含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の昆布類エキスの製造方法。
【請求項11】
前記酵素処理に用いる酵素はエキソ型プロテアーゼを含むものである、請求項10に記載の昆布類エキスの製造方法。
【請求項12】
前記昆布類が、マコンブ、オニコンブ、リシリコンブ、ホソメコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、ネコアシコンブ、ガゴメコンブ、チヂミコンブ、アツバスジコンブ、トロロコンブ、これらの生産過程で生じる副生産物、又はこれらの混合物である、請求項6〜11のいずれか1項に記載の昆布類エキスの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の昆布類エキス、請求項4又は5に記載の昆布類エキス含有調味料からなる群より選ばれた1種を飲食物に添加することを特徴とする飲食物の風味改善方法。
【請求項14】
飲食物の苦味、渋味、エグ味、及び青臭みからなる群より選ばれた少なくとも1種を軽減するためのものである、請求項13に記載の飲食物の風味改善方法。
【請求項15】
農産物由来の飲食物に添加することにより農産物の青臭みを軽減するためのものである、請求項13又は14に記載の飲食物の風味改善方法。
【請求項16】
前記飲食物の全量中に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の昆布類エキスを固形分として0.001〜1.0質量%添加する、請求項13〜15のいずれか1項に記載の飲食物の風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気及び呈味が強く良好であり、更に飲食物の風味を改善することができる昆布類エキス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海藻類エキスの製造方法としては、原料である海藻類を熱水で抽出する方法や、酸性溶媒で抽出する方法や、有機溶媒で抽出、超音波で細胞を破砕して抽出する方法等が知られている。しかし、これらの方法は、抽出に時間がかかる、抽出物の収率が低い、特別な機器を必要とするという問題点があった。このような背景から、海藻類エキスをより短時間に簡便に、更に抽出収率を高める種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、海藻類を、二酸化炭素の共存する水性媒体中で、温度105〜200℃、圧力0.10〜5MPaにおいて加熱処理する工程を含むことを特徴とする海藻高温抽出組成物の製造方法が記載されている。
【0004】
一方、消費者の健康に対する関心の高まりから、野菜等の農産物が注目されている。しかし、一般に、野菜等の農産物は、独特の青臭みが原因で食しにくいのが現状である。農産物に限らず、飲食品には苦味、エグ味、渋味等の好ましくない風味を有するものもあり、このような好ましくない風味をマスキングすることができる物質の開発がなされている。
【0005】
例えば、下記特許文献2には、青臭みを有する野菜を配合する野菜含有加工食品において、乳酸発酵卵白を配合することを特徴とする野菜含有加工食品が記載されている。また、下記特許文献3には、豆をそのままあるいは加工処理されてなるものを含有する飲食物の異味及び異臭をマスキングすることによって飲食物本来の好ましい風味を増強させる方法であって、飲食物の製造加工時等に、D−フラクトース、異性化糖、D−グルコースおよび/または砂糖を原料として製造されてD−プシコースを0.5〜100質量%含んでなる希少糖含有シロップを、飲食物中に0.04〜18質量%含有させることを特徴とする飲食物の風味改善方法が記載されている。更に、下記特許文献4には、2−フルフリルエチルエーテルを含有する液体調味料を用いて食品を調味することにより、肉の獣臭、野菜の青臭み、魚の生臭さおよび牛乳の乳臭さより選ばれる、当該食品が有するオフフレーバーを低減させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4431711号公報
【特許文献2】特開2014−64511号公報
【特許文献3】特許第6212316号公報
【特許文献4】特許第6158900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示される方法では、処理装置に二酸化炭素ボンベ等により二酸化炭素を注入し、二酸化炭素の共存下で加熱処理しなければならず、その前段階として、バブリング操作により溶存酸素を脱気する等の操作が必要であり、操作が煩雑であるという問題点がある。
【0008】
また、特許文献2〜4に示される方法では、好ましくない風味を十分満足しうる程度にマスキングするには至っておらず、更なる検討の余地がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、比較的一般的な装置で簡便に製造でき、香気及び呈味が強く良好に得られる昆布類エキス、その製造方法、及び同昆布類エキスを用いた飲食品の風味改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、多糖類とオリゴ糖を所定の含量、且つヘキサナールを所定の濃度で含む昆布類エキスが、加熱風味がなく、昆布本来の香気及び呈味を強く有すること、更にその昆布類エキスが、飲食物の風味を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、エキス中に、多糖類及びオリゴ糖を合計で5質量/エキス固形分%以上、且つヘキサナールを0.2ppm以上含有することを特徴とする昆布類エキスを提供するものである。
【0012】
本発明の昆布類エキスは、エキス中に、タンパク質及びペプチドを合計で2.0質量/エキス固形分%以上含有することが好ましい。
【0013】
本発明の昆布類エキスは、前記タンパク質及びペプチドの合計含有量と多糖類及びオリゴ糖の合計含有量の質量比が1:2.5〜1:20であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、調味料中に、上記記載の昆布類エキスを固形分として10質量%以上含むことを特徴とする昆布類エキス含有調味料を提供するものである。
【0015】
本発明の昆布類エキス含有調味料は、液状、ペースト状、粉末状又は顆粒状をなすことが好ましい。
【0016】
更に、本発明は、上記記載の昆布類エキスの製造方法であって、昆布類を抽出原料とし、有機酸水溶液を抽出溶媒として、加圧加熱条件下で抽出する抽出工程を含むことを特徴とする昆布類エキスの製造方法を提供するものである。
【0017】
本発明の昆布類エキスの製造方法においては、前記加圧条件は0.1〜0.5MPaであり、且つ前記加熱条件は100〜150℃であることが好ましい。
【0018】
本発明の昆布類エキスの製造方法においては、前記有機酸水溶液の濃度が0.5〜20質量%であることが好ましい。これによれば、使用する有機酸水溶液の濃度が0.5〜20質量%と比較的低い為、有機酸自体及びその中和生成物に由来する酸味や苦味が少なく、風味への影響が少ない。
【0019】
本発明の昆布類エキスの製造方法においては、前記有機酸水溶液が、乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、アジピン酸、イタコン酸、及びアスコルビン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
本発明の昆布類エキスの製造方法においては、前記抽出工程で得られた抽出物に酵素処理を施す酵素処理工程を更に含むことが好ましい。
【0021】
本発明の昆布類エキスの製造方法においては、前記酵素処理に用いる酵素はエキソ型プロテアーゼを含むものであることが好ましい。
【0022】
本発明の昆布類エキスの製造方法においては、前記昆布類が、マコンブ、オニコンブ、リシリコンブ、ホソメコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、ネコアシコンブ、ガゴメコンブ、チヂミコンブ、アツバスジコンブ、トロロコンブ、これらの生産過程で生じる副生産物、又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0023】
更に、本発明は、上記記載の昆布類エキス、上記記載の昆布類エキス含有調味料からなる群より選ばれた少なくとも1種を飲食物に添加することを特徴とする飲食物の風味改善方法を提供するものである。
【0024】
本発明の飲食物の風味改善方法において、飲食物の苦味、エグ味、渋味、及び青臭みからなる群より選ばれた少なくとも1種を軽減するためのものであることが好ましい。
【0025】
本発明の飲食物の風味改善方法において、農産物由来の飲食物に添加することにより農産物の青臭みを軽減するためのものであることが好ましい。
【0026】
本発明の飲食物の風味改善方法において、前記飲食物の全量中に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の昆布類エキスを固形分として0.001〜1.0質量%添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の昆布類エキスによれば、エキス中に、多糖類及びオリゴ糖を合計で5質量/エキス固形分%以上、且つヘキサナールを0.2ppm以上含有するので、加熱風味がなく、昆布本来の香気及び呈味を強く有し、飲食物の風味を改善することができる。
【0028】
本発明の昆布類エキス含有調味料によれば、上記昆布類エキスを固形分として10質量%以上含むので、加熱風味がなく、昆布本来の香気及び呈味を強く有し、飲食物の風味を改善することができる。
【0029】
本発明の昆布類エキスの製造方法によれば、昆布類を抽出原料とし、有機酸水溶液を抽出溶媒として、加圧加熱条件下で抽出することにより、昆布類エキスの抽出効率が格段に高められる。また、昆布類の細胞壁が壊れ、通常の抽出では抽出できない成分を得ることができる。また、昆布類の主成分であるアルギン酸が分解され、可溶性の多糖類となるため、多糖類を豊富に含んだエキスを得ることができる。更に、昆布類成分である脂肪酸の分解が促進され、昆布の特徴的な香気成分であるアルデヒド類の生成が促進され、ヘキサナールを多く含んだエキスが得られる。更にまた、メイラード反応が起きづらく、抽出された成分を保持することができるので、加熱風味がなく、昆布本来の香気及び呈味が強いエキスを製造することができる。また、超臨界抽出装置、亜臨界水処理装置等の特殊な装置を必要とせず、圧力鍋、オートクレーブ、加圧タンク等の比較的一般的な装置により実施することができるので、設備投資に必要な費用を軽減できる。更に、本発明の製造方法によれば、飲食物の風味を改善することができる昆布類エキスを製造することができる。
【0030】
本発明の飲食物の風味改善方法によれば、飲食物の好ましくない風味を、一般的な消費者の嗜好に合うように改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明における昆布類エキスにおける昆布類とは、褐藻綱コンブ目コンブ科に属するものであれば特に限定されないが、例えば、マコンブ、オニコンブ、リシリコンブ、ホソメコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ、ネコアシコンブ、ガゴメコンブ、チヂミコンブ、アツバスジコンブ、トロロコンブ、これらの生産過程で生じる副生産物、又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0032】
本発明の昆布類エキスは、エキス中に多糖類及びオリゴ糖を合計で5質量/エキス固形分%以上40質量/エキス固形分%以下含み、好ましくは5質量/エキス固形分%以上20質量/エキス固形分%以下含み、より好ましくは5質量/エキス固形分%以上10質量/エキス固形分%以下含む。含まれる多糖類及びオリゴ糖の合計が5質量/エキス固形分%未満であると、十分な風味改善効果が得られず、且つ呈味が弱くなり、40質量/エキス固形分%を超えると不自然な風味となる傾向がある。
【0033】
多糖は、単糖が11個以上結合した糖質であり、多糖類としては具体的には、澱粉、アミロース、アミロペクチン、デキストリン、プルラン、デキストラン、アラビノキシラン、ペクチン、イヌリン、ガラクタン、マンナン、βグルカン、焙焼デキストリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、セルロース、アルギン酸、フコイダン等が挙げられるが、これに限定されない。
【0034】
また、オリゴ糖は、2〜10個の単糖が結合した糖質であり、例えば、マルトース、セロビオース、トレハロース、ゲンチオビオース、イソマルトース、ニゲロース、ソホロース、コージビオース、スクロース、ツラノース、ラクトース、キシロビオース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、セロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンノオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、シクロデキストリン等が挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
多糖類及びオリゴ糖の含有量の測定方法としては、例えば、多糖類及びオリゴ糖を単糖へ分解し、単糖の量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量する方法が例示される。多糖類及びオリゴ糖を単糖へ分解する方法としては、トリフルオロ酢酸(TFA)を添加して加水分解を行う方法が例示される。具体的には、1MのTFAを加水分解物(固形分)に対し2倍量添加し、105℃、3時間で完全加水分解する方法が例示される。
【0036】
また、本発明の昆布類エキスは、ヘキサナールを0.2ppm以上1.0ppm以下含み、好ましくは0.2ppm以上0.5ppm以下含み、より好ましくは0.2ppm以上0.3ppm以下含む。含まれるヘキサナールが0.2ppm未満であると、十分な風味改善効果が得られず、且つ風味が弱くなり、1.0ppmを超えると好ましくない風味となる傾向がある。
【0037】
ヘキサナール含有量の測定は、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)等を用いた公知の方法により行うことができる。
【0038】
本発明の昆布類エキスは、エキス中にタンパク質及びペプチドを合計で2.0質量/エキス固形分%以上8.0質量/エキス固形分%以下含むことが好ましく、2.0質量/エキス固形分%以上4.0質量/エキス固形分%以下含むことがより好ましい。含まれるタンパク質及びペプチドが2.0質量/エキス固形分%未満であると、十分な風味改善効果が得られず、且つ風味が弱くなり、8.0質量/エキス固形分%を超えると不自然な風味となる傾向がある。
【0039】
タンパク質及びペプチドの含有量の測定は、セミミクロケルダール法等の公知の方法により行うことができる。
【0040】
本発明の昆布類エキスは、前記タンパク質及びペプチドの合計含有量と多糖類及びオリゴ糖の合計含有量の質量比が1:2.5〜1:20であることが好ましく、質量比が1:2.5〜1:10であることがより好ましい。質量比が上記範囲外であると、呈味バランスが悪くなる傾向にある。
【0041】
このような昆布類エキスは、昆布類を抽出原料とし、有機酸水溶液を抽出溶媒として、加圧加熱条件下で抽出する抽出工程を含む方法により製造することができる。
【0042】
本発明の抽出溶媒として用いられる有機酸水溶液は、通常の食品製造に用いられる有機酸水溶液を用いることができ、例として乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、フィチン酸、アジピン酸、イタコン酸、アスコルビン酸等から選ばれた1種以上を含む水溶液が挙げられる。
【0043】
有機酸水溶液の濃度は、0.5〜20質量%であることが好ましく、1.0〜10質量%であることがより好ましい。有機酸水溶液の濃度が上記範囲外であると、香気や呈味の強いエキスを得にくくなり、更に上記範囲より高い場合は、有機酸及びその中和生成物由来の苦味や異味を有するエキスとなってしまう傾向がある。
【0044】
抽出工程は、昆布類に有機酸水溶液を加え、加圧加熱条件下で行われる。一度抽出を行った抽出物を再び抽出溶媒として昆布類に加えて、2回抽出を行ってもよく、3回以上抽出を行ってもよい。
【0045】
上記抽出工程における加圧加熱は、オートクレーブ、圧力鍋、加圧タンク等の当業者に周知の一般的な装置により実施することができる。
【0046】
なお、抽出工程に用いる昆布類は、そのままでも用いることができるが、有機酸水溶液での分散性を高めると共に、抽出効率を上げるために、細片状や粉末状にしておくことが好ましい。
【0047】
加圧条件は、0.1〜0.5MPaであることが好ましく、0.12〜0.3MPaであることがより好ましい。圧力が上記範囲より低い場合は、香気や呈味の強いエキスを得にくくなり、上記範囲より高い場合は、香気のバランスが崩れやすく、苦味や異味といった好ましくない風味のエキスとなる傾向があるほか、使用できる装置が限られてしまう。
【0048】
また、加熱条件は、100〜150℃であることが好ましく、105〜130℃であることがより好ましい。加熱が上記範囲より低い場合は、香気や呈味の強いエキスを得にくくなり、上記範囲より高い場合は、香気のバランスが崩れやすく、苦味や異味といった好ましくない風味のエキスとなる傾向があるほか、使用できる装置が限られてしまう。
【0049】
上記抽出工程における抽出時間は特に制限されないが、10〜180分であることが好ましく、20〜150分であることがより好ましい。特に、加圧条件が0.12〜0.3MPaであり、加熱条件が105〜130℃であるときは、抽出時間は10〜180分であることが好ましく、20〜150分であることがより好ましい。抽出時間が上記範囲よりも短い場合は、香気や呈味の強いエキスを得にくくなり、上記範囲より高い場合は、香気のバランスが崩れやすく、苦味や異味といった好ましくない風味のエキスとなる傾向がある。
【0050】
上記抽出工程で得られた抽出物に、更に酵素処理を施すことができる。この酵素処理を更に施すことで、より呈味の優れたエキスを得ることができる。
【0051】
上記酵素処理工程で用いる酵素としては、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、リパーゼ等が挙げられるが、特にプロテアーゼが好ましく使用される。プロテアーゼとしては、エキソ型、エンド型を問わず通常の食品製造に用いられるプロテアーゼを用いることができるが、エキソ型プロテアーゼを含むものによれば苦味が少なく味に厚みのあるエキスを得ることができるため、特に好ましく用いられる。
【0052】
酵素処理条件は特に制限されず、使用する酵素の至適pH、温度及び時間で行うことができる。
【0053】
また、上記抽出工程で得られた抽出物に、更にpH調整を施すことができる。このpH調整工程を施すことで、酸味が緩和され、より呈味の優れたエキスを得ることができる。なお、上記酵素処理工程を行う場合、pH調整工程は、酵素処理前の抽出物に対して行ってもよく、酵素処理後の抽出物に対して行ってもよいが、使用する酵素の至適pHが弱酸性〜中性である場合、酵素処理前の抽出物に対して行うのが好ましく、使用する酵素の至適pHが酸性の場合、処理後の抽出物に対して行うのが好ましい。
【0054】
上記pH調整工程では、昆布類抽出物にアルカリ性物質を添加して、pH4.0〜8.0に調整することが好ましく、pH4.5〜7.0に調整することが更に好ましい。pHが上記範囲よりも低い場合は、有機酸由来の酸味が強くなりすぎ、上記範囲より高い場合は、有機酸の中和生成物及びアルカリ性食品添加物由来の苦味及びエグ味が強くなる傾向がある。
【0055】
pH調整に用いるアルカリ性物質としては、通常の食品製造に用いられるアルカリ性の食品添加物を用いることができ、例えば、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0056】
上記のようにして得られた抽出物を、そのまま、又は公知の方法により固液分離することで抽出原料残渣を除去し、必要に応じて、公知の方法により濃縮、乾燥することで固形分を調製し、昆布類エキスとすることができる。
【0057】
上記のようにして得られた昆布類エキスは、そのままの状態であっても、他の成分と配合して昆布類エキス含有調味料としても使用することができる。
【0058】
昆布類エキス含有調味料として使用する場合、昆布類エキスは、調味料中に、固形分として10質量%以上含むことが好ましく、15質量%以上含むことがより好ましい。また、昆布類エキス含有調味料は、液状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状をなしてもよい。
【0059】
昆布類エキス含有調味料に配合される昆布類エキス以外の成分としては、例えば、醤油、塩、砂糖、味噌、酢、みりん及び酒等の味付け用調味料、野菜エキス、畜肉エキス、魚介エキス及び酵母エキス等のエキス類、各種オイル、香辛料、増粘剤等が挙げられる。
【0060】
上記の昆布類エキス及び昆布類エキス含有調味料は、加熱風味のない、昆布本来の及び優れた呈味を有しているので、昆布類エキス、及び昆布類エキス含有調味料からなる群より選ばれた少なくとも1種を飲食物に添加することで飲食物の風味を改善する、飲食物の風味改善方法に用いることができる。
【0061】
昆布類エキス、及び昆布類エキス含有調味料は、最終製品としての飲食物の全量中に、昆布類エキスを固形分として0.001〜1.0質量%添加することが好ましく、0.005〜0.5質量%添加することがより好ましい。
【0062】
ここで、風味とは、飲食物を嗅いだ際や口に含んだ際に鼻に抜ける香りや味わいのことをいうが、本発明における風味は、特に、飲食物の好ましくない香りや味わい等のことをいい、具体的には苦味、渋味、青臭み、土臭さ、豆っぽさ、粉っぽさ、乾燥臭、こもった臭い、エグ味、酢カド、貝の生臭さ、肉臭さ、獣臭等からなる群より選ばれた少なくとも1種であり、好ましくは、苦味、渋味、エグ味、及び青臭みからなる群より選ばれた少なくとも1種である。本発明の風味改善方法により、飲食物の好ましくない風味を、一般的な消費者の嗜好に合うように改変することができる。
【0063】
本発明の風味改善方法が適用される飲食物としては、例えば、人参、かぼちゃ、きゃべつ、大根、茄子、きゅうり、ピーマン、水菜、春菊、牛蒡等の野菜、これら野菜類の乾燥物、これら野菜を含む野菜系飲料、野菜スープ;豆乳、青汁、乳飲料、スポーツ飲料、酢飲料、コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、ワイン、ビール等の飲料;魚介類またはその加工食品、魚肉、すり身、魚卵、水産缶詰、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、水産乾物類、つくだ煮類等の水産加工食品;食肉またはその加工食品、畜肉缶詰、畜肉ペースト、ハム、チキンナゲット、畜肉ソーセージ等の畜産加工品;炭酸飲料;柑橘類の果汁や果汁飲料や果汁入り清涼飲料、柑橘類の果肉飲料や果粒入り果実飲料; 生薬やハーブを含む飲料;粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料等の嗜好飲料;パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉、ギョーザの皮等の小麦粉製品;ソース、醤油、味噌、トマト加工調味料、みりん類、食酢類、唐辛子、カレー粉、スパイスミックス、うま味調味料等の調味料;豆腐等の大豆食品;クリーム、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン等の乳化食品;納豆等の発酵食品;漬物;チーズ、牛乳、加工乳、脱脂粉乳、ヨーグルト等の乳製品;キャラメル、キャンディー、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ・パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓、豆菓子、デザート菓子等の菓子類;ベビーフード、ふりかけ、お茶漬けのり等が挙げられる。
【0064】
上記のうち、例えば、人参、かぼちゃ、きゃべつ、大根、茄子、きゅうり、ピーマン、水菜、春菊、牛蒡等の野菜、これら野菜類の乾燥物、これら野菜を含む野菜系飲料、野菜スープ等の農産物由来の飲食物に、昆布類エキス、及び昆布類エキス含有調味料からなる群より選ばれた少なくとも1種を添加することにより、農産物の青臭みを軽減することができる。
【0065】
なお、昆布類エキス、及び昆布類エキス含有調味料を添加する飲食物は、最終製品形態のものに限られず、原料の形態のもの、加工途中の形態のものも含まれる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を含む試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0067】
<1.抽出条件の検討>
1、昆布類エキスの調製
(1)比較例1
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)70gに水450gを添加し、ウォーターバスにて温度85℃、常圧の条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2(商品名、ADVANTEC社製)でろ過し、その液部を採取して比較例1のコンブエキスを得た。
【0068】
(2)比較例2
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)70gに水450gを添加し、オートクレーブにて温度115℃、圧力0.19MPaの条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取して比較例2のコンブエキスを得た。
【0069】
(3)比較例3
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)70gに2質量%乳酸水溶液450gを添加し、ウォーターバスにて温度85℃、常圧の条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取して比較例3のコンブエキスを得た。
【0070】
(4)実施例1
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)70gに2質量%乳酸水溶液450gを添加し、オートクレーブにて温度115℃、圧力0.19MPaの条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取して実施例1のコンブエキスを得た。
【0071】
(5)実施例2
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)70gに2質量%乳酸水溶液450gを添加し、オートクレーブにて温度115℃、圧力0.19MPaの条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.8に調整した後、プロテアーゼM(商品名、天野エンザイム社製、エンド型・エキソ型プロテアーゼ)0.65gを加え、45℃、120分間酵素処理した。得られた酵素処理液を90℃10分間加熱処理して酵素を失活させた後、48質量%苛性ソーダ又は18質量%塩酸を加えpH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取して実施例2のコンブエキスを得た。
【0072】
2、コンブ由来固形分回収率の測定
上記で得られたコンブエキスの回収質量を計量した。また常圧加熱減量法(105℃4時間)で原料コンブと回収コンブエキスの固形量、及び回収コンブエキスの乳酸由来固形量を、さらに電位差滴定法で原料コンブと回収コンブエキスの塩分を測定した。原料コンブの固形量(塩分除く)と回収コンブエキスの固形量(乳酸由来固形量と塩分除く)から、コンブ由来固形分回収率を計算した。
【0073】
結果を表1に示した。
【0074】
3、官能評価
上記比較例1〜3、実施例1,2のエキス各2gを、100mLの熱水にてそれぞれ希釈し、香気(昆布らしさ)、呈味(旨味)について官能評価を行い、更に総合評価を行った。官能評価は8名のパネラーにより行い、香気及び呈味について、比較例1を0点とし、これを基準として、−5点を比較例1より非常に劣ってる、0点を比較例1と同程度、5点を比較例1より非常に優れている、とした−5〜5点の10段階で評価し、8名の平均を求めた。香気評価と呈味評価の平均値を合計し、×:2点未満、△:2〜4点、○:5〜7点、◎:8〜10点、の4段階で総合評価として評価した。
【0075】
この結果を表1に示す。表1の結果から、抽出溶媒として、乳酸水溶液を用い、0.19MPaの加圧、115℃の加熱条件下で抽出した実施例1,2のコンブエキスは、香気、呈味が良好で、総合評価も高かった。更に、酵素処理を行った実施例2では、呈味が更に良好であった。
【0076】
【表1】
【0077】
4、多糖類及びオリゴ糖、ヘキサナール、タンパク質及びペプチドの測定
(1)多糖類、オリゴ糖の測定
レイン・エイノン法にて全糖(T−S)を、フェーリング・レーマン・シュール法にて還元糖(D−S)を測定し、T−S値からD−S値を引いた値を多糖類及びオリゴ糖の含量とした。
【0078】
(2)ヘキサナールの測定
Agilent社製のガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によって、各エキスに含まれるヘキサナール含有量を測定した。試料1gを水19gで希釈した溶液5gをバイアル中に移し、KClを1.5g、標準物質のシクロヘキサノールを一定量添加後、50℃で1時間撹拌し、密閉したバイアル中の揮発性成分をツイスターに吸着させた。ツイスターは速やかにGC/MS分析機に供し、クロマトグラフィーを行い、香気成分信号ピークを積分して、溶液中に含まれるヘキサナール成分由来ピークのエリア面積を求めた。またスタンダードとしてヘキサナール(Sigma Aldrich社)を水で希釈し4種類の適当な濃度に調整し、同様の方法で溶液中に含まれるヘキサナール成分由来ピークのエリア面積を求めた。スタンダードの濃度とエリア面積から検量線を作成し、各エキスに含まれるヘキサナール含有量を計算した。
【0079】
(3)タンパク質、ペプチドの測定
KJEL−AUTO(なかやま理化制作所社製)を用いて、セミミクロケルダール法にて全窒素(T−N)を、後述するホルモール法にてホルモール態窒素(F−N)を測定し、T−N値からF−N値を引いた値に、タンパク質換算計数6.25を掛けた値を、タンパク質及びペプチドの含量とした。
【0080】
ホルモール法:試料5gを100mLのメスフラスコに入れ蒸留水で定容し、そのうち40mLを量りとり、pH計で測定しながら0.1規定NaOH溶液を用いてpH8.2に調整し、これにあらかじめpH8.2に調整したホルムアルデヒド液40mLを加えた。酸性に変化した後に再度0.1規定NaOH溶液でpH8.2になるまで中和滴定(tmL)を行い、以下の計算式より求めた。
F−N(質量%)=t×0.0014×F×100÷(5×40)×100
F:0.1規定NaOHのファクター
t:中和滴定に要した0.1規定NaOH溶液の量
【0081】
【表2】
【0082】
<2.有機酸濃度の検討>
1、コンブエキスの調製(実施例3〜7)
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)15gに各濃度の乳酸水溶液100mLを添加し、オートクレーブにて温度115℃、圧力0.19MPaの条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取して実施例3〜7のコンブエキスを得た。
【0083】
2、官能評価
上記<1.抽出条件の検討>と同様に、実施例3〜7のエキス各2gを100mLの熱水にてそれぞれ希釈し、香気(昆布らしさ)、呈味(旨味)について官能評価を行い、更に総合評価を行った。
【0084】
この結果を表3に示す。表3の結果から、抽出溶媒として、1〜20質量%の濃度の乳酸水溶液を用い、抽出した実施例3〜7のコンブエキスは、香気、呈味が良好で、総合評価も高かった。
【0085】
【表3】
【0086】
<3.有機酸の種類の検討>
1、コンブエキスの調製(実施例8〜13)
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)15gに2質量%の各有機酸水溶液100mLを添加し、オートクレーブにて温度115℃、圧力0.19MPaの条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取して実施例8〜13のコンブエキスを得た。
【0087】
2、官能評価
上記<1.抽出条件の検討>と同様に、実施例8〜13のエキス各2gを、100mLの熱水にてそれぞれ希釈し、香気(昆布らしさ)、呈味(旨味)について官能評価を行い、更に総合評価を行った。
【0088】
この結果を表4に示す。表4の結果から、抽出溶媒として、乳酸、酢酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸の各種有機酸水溶液を用い、抽出した実施例8〜13のコンブエキスは、香気、呈味が良好で、総合評価も高かった。
【0089】
【表4】
【0090】
<4.酵素の種類の検討>
1、コンブエキスの調製(実施例14〜16)
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)15gに2質量%乳酸水溶液100mLを添加し、オートクレーブにて温度115℃、圧力0.19MPaの条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.8に調整した後、各プロテアーゼを0.15g加え、45℃、120分間酵素処理した。得られた酵素処理液を90℃10分間加熱処理して酵素を失活させた後、48質量%苛性ソーダ又は18質量%塩酸を加えpH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取して実施例14〜16のコンブエキスを得た。
【0091】
2、官能評価
上記<1.抽出条件の検討>と同様に、実施例14〜16のエキス各2gを、100mLの熱水にてそれぞれ希釈し、香気(昆布らしさ)、呈味(旨味)について官能評価を行い、更に総合評価を行った。
【0092】
この結果を表5に示す。表5の結果から、特に、エキソ型プロテアーゼを含む酵素で処理を施した実施例16のコンブエキスは、香気、呈味が良好で、総合評価も高かった。
【0093】
【表5】
【0094】
<5.風味改善効果の検討>
1、コンブエキスの調製
5mm幅の細片状に切断したコンブ混合品(リシリコンブ、ミツイシコンブ)70gに2質量%乳酸水溶液450gを添加し、オートクレーブにて温度115℃、圧力0.19MPaの条件で60分間加熱処理を行った。更に48質量%苛性ソーダを加え、pH5.8に調整した後、プロテアーゼM(商品名、天野エンザイム社製、エンド型・エキソ型プロテアーゼ)を0.65g加え、45℃、120分間酵素処理した。得られた酵素処理液を90℃10分間加熱処理して酵素を失活させた後、48質量%苛性ソーダ又は18質量%塩酸を加えpH5.2に調整した後、定性ろ紙No.2でろ過し、その液部を採取してコンブエキス(固形分含量10.0質量%)を得た。
【0095】
2−1.人参、キャベツ、大根、きゅうり、及び茄子での効果
人参、キャベツ、大根、きゅうり、及び茄子をざく切りにした。醤油と酢からなる調味料にコンブエキスを添加し、このコンブエキス含有調味料をコンブエキス添加量が野菜質量の1質量%(固形分として0.1質量%)となるようそれぞれの野菜と混合し、冷蔵庫で数時間漬けて漬物を作製した。
【0096】
この漬物を食したところ、人参については青臭みが抑制され、甘みが増加していた。キャベツ、大根、きゅうり、及び茄子については青臭みが抑制されていた。
【0097】
2−2.ピーマン、水菜、キャベツ、及びきゅうりでの効果
ピーマン、水菜、キャベツ、及びきゅうりを千切りにした。野菜質量の1質量%(固形分として0.1質量%)のコンブエキスを、そのままそれぞれの野菜に添加、混合し、サラダAを作製した。また、醤油、塩、酢、砂糖からなるドレッシングにコンブエキスを添加し、このコンブエキス含有ドレッシングをコンブエキス添加量が野菜質量の0.05質量%(固形分として0.005質量%)となるようそれぞれの野菜と混合し、サラダBを作製した。
【0098】
サラダAとサラダBのいずれも、ピーマンについては青臭み、苦味、エグ味、渋味が抑制され、甘みが増加していた。水菜については、青臭み、苦味、エグ味、渋味が抑制されていた。キャベツ、きゅうりについては、青臭みが抑制されていた。
【0099】
2−3.かぼちゃでの効果
市販の粉末かぼちゃスープに規定量の湯を添加し溶解後、スープ質量の1質量%(固形分として0.1質量%)のコンブエキスを添加、混合し、スープを作製した。
【0100】
スープを食したところ、かぼちゃの青臭みが抑制され、甘みが増加していた。
【0101】
2−4.春菊での効果
春菊を一口大に切り、電子レンジで加熱後、春菊質量の1質量%(固形分として0.1質量%)のコンブエキスを春菊に添加、混合し、サラダを作製した。
【0102】
春菊を食したところ、春菊の青臭み、苦味、エグ味、渋味が抑制されていた。
【0103】
2−5.ごぼうでの効果
コンブエキス1質量%(固形分として0.1質量%)の水溶液に、乱切りしたごぼうを10分間漬けてあく抜きした後、水を捨て、電子レンジで加熱した。
【0104】
ごぼうを食したところ、ごぼうの土臭さが抑制されていた。
【0105】
2−6.豆乳での効果
市販の豆乳飲料に、飲料の0.3質量%(固形分として0.03質量%)のコンブエキスを飲料に添加し、混合した。
【0106】
豆乳飲料は、青臭み、豆っぽさが抑制され、甘味、乳感が増加していた。
【0107】
2−7.青汁での効果
市販の青汁粉末に規定量の水を添加し溶解後、青汁質量の0.5質量%(固形分として0.05質量%)のコンブエキスを青汁に添加、混合した。
【0108】
青汁は、青臭み、粉っぽさ、苦味が抑制され、甘味が増加していた。
【0109】
2−8.乾燥野菜での効果
砂糖、醤油、味醂、及び水からなる調味料にコンブエキスを添加し、このコンブエキス含有調味料をコンブエキス添加量が切干大根質量の2質量%(固形分として0.2質量%)となるよう、水戻しした切干大根を油で炒めたものに添加し、煮込み、煮物を作製した。また、市販のフリーズドライ味噌汁に規定量の湯を添加し溶解後、味噌汁の1.0質量%(固形分として0.1質量%)のコンブエキスを添加・混合し、味噌汁を作製した。
【0110】
煮物、味噌汁のいずれも、野菜の乾燥臭が抑制されていた。
【0111】
2−9.カット野菜での効果
市販のカット野菜に、野菜質量の1質量%(固形分として0.1質量%)のコンブエキスを、そのまま添加、混合し、サラダを作製した。
【0112】
サラダは、野菜の異臭(こもった臭い)が抑制されていた。
【0113】
2−10.乳飲料
市販の乳飲料に、飲料の0.1質量%(固形分として0.01質量%)のコンブエキスを飲料に添加し、混合した。
【0114】
乳飲料は、粉っぽさ(粉ミルク感)が抑制され、甘味、乳感が増加していた。
【0115】
2−11.スポーツ飲料
市販のスポーツ飲料に、飲料の0.1質量%(固形分として0.01質量%)のコンブエキスを飲料に添加し、混合した。
【0116】
スポーツ飲料は、苦味、渋味が抑制されていた。
【0117】
2−12.黒酢飲料
市販の黒酢飲料に、飲料の0.5質量%(固形分として0.05質量%)のコンブエキスを飲料に添加し、混合した。
【0118】
黒酢飲料は、酢カドが抑制され、甘味が増加していた。
【0119】
2−13.あさり
市販の粉末クラムチャウダーに規定量の湯を添加し溶解後、スープの0.3質量%(固形分として0.03質量%)のコンブエキスをスープに添加、混合し、スープを作製した。
【0120】
スープを食したところ、貝の生臭さが抑制され、貝の旨味(コハク酸)が増加していた。
【0121】
2−14.肉
牛豚合挽き肉、みじん切りした玉ねぎ、卵、パン粉、牛乳、塩、及びコショウからなるハンバーグの種に、種の0.5質量%(固形分として0.05質量%)のコンブエキスを種に添加、混合し、この種をフライパンで焼き、ハンバーグを作製した。
【0122】
ハンバーグは、肉臭さ、獣臭が抑制されていた。