【課題】無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物であって、未反応のアルデヒド類の含有量が少なく、無機繊維断熱材焼成後、小型チャンバー法によるホルムアルデヒド放散量が、5μg/m
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2に示されている様に、グラスウールやロックウール等の無機繊維を適当なバインダを介し積層した物品は、自動車インナーパネル、建築材料に用いられている。
このバインダに、最も結合力の高いバインダとして、フェノール樹脂が用いられる場合が有る。
フェノール樹脂をバインダとして使用した場合の無機繊維断熱材の作製方法としては、フェノール類とホルムアルデヒド類から合成されるフェノール樹脂の組成物を、グラスウールやロックウール等の無機繊維に塗布し、フェノール樹脂を加熱硬化させて作製するのが一般的な方法である。
【0003】
フェノール樹脂をバインダとして使用した場合、未反応のアルデヒド類がどうしても残ってしまい、シックハウス症候群を引き起こす原因となっている事が問題視されている。市場に出回る製品が、JIS A 6909のF(フォースター)を取得していることが望まれる。
フェノール樹脂は、無機繊維バインダとして使用される以外にもさまざまな状況で使用されており、フェノール樹脂中のアルデヒド類量を低減させるため、さまざまな手法が採られている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物の製造方法一例を示す。
【0012】
本願、無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物の製造方法は、フェノール樹脂の合成反応と停止反応、停止反応前後の尿素誘導体およびレゾルシンの添加からなる。
この尿素誘導体およびレゾルシンは、両方とも添加する必要があるが、停止反応の前後、どちらで添加してもよいし、両方で添加することもできる。
無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物の供給形態としては、尿素誘導体およびレゾルシンを添加して供給する場合と、先方にて尿素誘導体およびレゾルシンを添加して使用する場合が有る。前者は尿素内添タイプ、後者はプレミックスタイプと表現される場合がある。
尚、詳細については後述するが、停止反応は必ずしも行う必要はない。
【0013】
フェノール樹脂合成反は、フェノール類とアルデヒド類をアルカリ触媒の存在下反応させる事によって得られる。
本発明において使用されるフェノール類としてはレゾルシンを除き、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、パラ−ターシャリー−ブチルフェノール、パラ−セカンダリー−ブチルフェノール、ナフトール、カテコール、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、ジメチルヒドロキノン、等が挙げられる。
これらフェノール類は、単独で使用しても構わないし、複数個を組み合わせる事もできる。より好適な材料としてはフェノールで、添加量としては、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、10〜30重量%、より好適には15〜25重量%である。
【0014】
アルデヒド類としてはフェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。
例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン(メタホルムアルデヒド)などを単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
溶解性、取り扱い易さ等を考慮すると、より好適な材料は37%−ホルムアルデヒドで、添加量としては、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、30〜70重量%、より好適には40〜60重量%である。
【0015】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させる際に用いる触媒としては、特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の塩基性触媒を適宜使用することができる。
これら触媒は、単独で使用しても構わないし、複数個を組み合わせる事もできる。より好適な材料は、10%−水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、トリエチルアミンである。
10%−水酸化ナトリウムを使用した場合の添加量は、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、5〜35重量%、より好適には10〜30重量%である。水酸化バリウムを使用した場合の添加量は、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、0.1〜10重量%、より好適には1〜7重量%である。トリエチルアミンを使用した場合の添加量は、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、0.1〜10重量%、より好適には2〜8重量%である。
【0016】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えばフェノール類と、アルデヒド類、触媒を一括で仕込み反応させる方法、またはフェノール類と触媒を仕込んだ後、所定の反応温度にてアルデヒド類を添加する方法が挙げられる。
このとき、反応温度は30〜100℃、より好適には50〜80℃の範囲で行うのが好ましい。
30℃未満であると反応の進行が遅く、かつ未反応のフェノール類が残存するため好ましくない。また100℃近辺の温度は、高分子量成分の生成が促進されるため好ましくない。
反応時間は特に制限はなく、アルデヒド類および触媒の量、反応温度により調整することが出来る。
分子量の調整は、反応温度と反応時間の制御で行うことが出来る。
【0017】
本願発明の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物は、未反応のアルデヒド類を補足するため、尿素誘導体を含む。添加タイミングは停止反応の前後で、どちらか片方、あるいは両方で添加しても構わない。
【0018】
尿素誘導体としては、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、ブチル尿素、カルボヒドラジド、1,1−ジメチル尿素、1,1−ジエチル尿素、シアノアセチル尿素、シクロヘキシル尿素、アセチル尿素、アリル尿素、1,3-ジアリル尿素、アプロナール、ベンゾイレン尿素、ベンゾイル尿素、ベンジル尿素、1,3−(ヒドロキシメチル)尿素、等が挙げられる。添加する状態としては、固体を直接投入し溶解させてもよいし、水溶液を使用しても構わない。尿素誘導体は、単独で使用しても構わないし、複数個を組み合わせる事もできる。
停止反応前に添加する、より好適な材料は、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素であり、添加量としてはこれらの合計が、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、0.1〜10重量%、より好適には1〜7重量%である。停止反応前に尿素誘導体を添加する場合は、尿素内添タイプと表現される。
停止反応後に添加する、より好適な材料は50%−尿素で、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、10〜40重量%、より好適には15〜35重量%である。停止反応後、先方にて尿素誘導体を添加する場合は、プレミックスタイプと表現される。
【0019】
本願発明の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物は、未反応のアルデヒド類を補足するためレゾルシンを含む。添加タイミングは、フェノール樹脂合成反応の停止反応の前後、どちらか片方、あるいは両方で添加しても構わない。
レゾルシンを、フェノール樹脂合成時に添加すると、無機繊維断熱材として成型された場合のホルムアルデヒド放散量に悪影響をおよぼすので、添加しない方が良い。
添加する状態としては、固体を直接投入し溶解させてもよいし、レゾルシンは水溶性が高いので、水溶液を使用しても構わない。添加量としては、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、0.1〜10重量%、より好適には1〜5重量%である。
【0020】
本願発明の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物製造方法は、停止反応として、酸性成分中和剤を添加する事によって停止する事ができる。中和剤としては、スルファミン酸、ホウ酸、リン酸、シュウ酸、硫酸、酢酸、草酸、安息香酸、等が挙げられる。より好適な材料は、スルファミン酸である。
停止反応を行う為に、酸性成分中和剤を必ず添加しなくてはならないということは無く、合成反応終了後、尿素誘導体、レゾルシンを添加した後、30分も経過すれば十分で、酸性成分中和剤添加を省略することもできる。
スルファミン酸の添加量としては、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、0〜10重量%、より好適には0〜7重量%である。
【0021】
プレミックスタイプの場合は、尿素とホルムアルデヒドが反応して尿素樹脂が生成するのを抑える為に、アンモニア水を添加する場合もある。pH調整の観点から、好適な材料は25%−アンモニア水で、添加量としては、水を含んだ状態の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物100重量%に対し、0〜10重量%、より好適には0〜5重量%である。
【0022】
本願発明の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物は、スプレー塗布、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、含浸コーター、インクジェット等を用いて塗工できる。より好適な塗布方法は、スプレー塗布である。
無機繊維のガラス熔融紡糸が成型されているところに、本願発明の無機繊維断熱材用フェノール樹脂組成物をスプレー塗布し、厚みや寸法を任意に調整し、180〜260℃の乾燥炉を通過させて、硬化させる方法が一般的である。
【0023】
以下に、本発明について実施例、比較例および試験例等を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【0024】
合成樹脂Aの合成
コンデンサー、温度計、攪拌機を備えたガラスフラスコにフェノール23.47重量部、37%ホルムアルデヒド50.70重量部、10%−水酸化ナトリウム17.61重量部を仕込み、65℃にて反応させ、20wt%−食塩水許容性を測定し、反応を追跡した。20wt%−食塩水許容性の数値が、300±20%になるまで合成反応を継続した。食塩水許容性は、20wt%−食塩水滴下容量を試料重量にて除した100分率である。
停止反応前の尿素添加は、40℃まで冷却し、尿素を2.35重部添加し、50℃にて30分反応させた。停止反応は、スルファミン酸4.69重量部を加え中和し、pH8.2とし反応を停止させた。停止反応後、レゾルシン1.17重量部を投入し、合成樹脂Aを得た。
合成樹脂B〜Jの合成
樹脂Aと同様の手順で、表1、表2の割合で、合成樹脂B〜Jを作製した。尚、合成樹脂Eと合成樹脂Fは、スルファミン酸の添加による中和は行わないので、40℃に冷却した後、尿素およびエチレン尿素を添加した後、30分間撹拌した。
合成樹脂A〜Jは、尿素内添タイプとなる。
合成樹脂Kの合成、および合成樹脂L〜Oの合成
コンデンサー、温度計、攪拌機を備えたガラスフラスコに合成樹脂Iを74.23重量部添加し、40℃まで昇温した。50%−尿素を19.74重量部、25%−アンモニア水を3.55重量部、レゾルシンを1.17重量部添加して、合成樹脂Kを得た。
樹脂Kと同様の手順で、表3に示す割合で、合成樹脂L〜Oを得た。合成樹脂K〜Oは、プレミックスタイプとなる。
【0025】
遊離フェノールの測定
試料1gを秤量し、アセトン20mlに溶解させ、島津社製作所社製のガスクロマトグラフィー:GC−2014(カラム:PEG−20M)を用いて、定量を行った。
【0026】
遊離ホルムアルデヒドの測定
亜硫酸ソーダ法を用いて測定した。三角フラスコに、1,4−ジオキサンを10gと、1N−亜硫酸ソーダ水を加え、資料2gを秤量し、1N−塩酸滴定量から、遊離ホルムアルデヒド量を算出した。
【0027】
不揮発分測定方法
アルミカップ内に樹脂約1.5gを秤取り、カップ内に均一に広げる。135℃にセットされたオーブン内にアルミカップをいれ、1時間乾燥させて、乾燥後重量より不揮発分を算出した。
【0028】
水溶性
各樹脂に水を添加し、液が白濁する直前を水溶性可能領域とし、100分率で表した。
【0029】
遊離フェノール、遊離ホルムアルデヒド、不揮発分、水溶性測定結果を表4、表5、表6に示す。停止反応前、若しくは停止反応後、何れかあるいは両方にて尿素誘導体を添加した合成樹脂A〜Hは、遊離ホルムアルデヒドの量は1%未満であったが、停止反応前、若しくは停止反応後、何れにおいても尿素を添加していない合成樹脂I〜Oの遊離ホルムアルデヒドの量は1.9%と多めであった。
【0030】
(実施例)
成型品の皮膜強度
表7、表8、表9に示す割合で、合成樹脂A〜O、ポッターズバロティーニ社製ガラスビーズ、商品名:GB−AF、30%−硫酸アンモニウム、アミノシランである信越化学工業社製、商品名KBM−603(N−2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、水を混ぜ合わせた。尚、合成樹脂の固形分は、44.1重量部である。
図1に示すドッグボーン型に、6mm厚に成る様に成型し、230℃、20分で焼成を行ない、成形物を得た。この成形物のうちの数枚を25℃、72時間水に浸漬し、耐水強度試験片とした。
これらの成型物を用い、JIS−K6911に準拠して、常態曲げ弾性率、耐水後曲げ弾性率を測定した。
用いた一軸試験機は、東洋ボールドウィン社製、商品名:万能試験機AC−50N、押し抜き速度は、5mm/分である。
耐水保持率を示しているが、耐水保持率が70%以上であれば、おおむね良好である。
【0031】
硬化物からのホルムアルデヒド放散量
表10、表11、表12に示す割合で配合し、合成樹脂の固形分比は6%とした。15cm×15cmのろ紙を30秒間含浸し、取り出し後、風乾した。その後240℃設定オーブンにて5分硬化させて、小型チャンバー測定用試験片とした。
JIS A1901:2015に準拠して、ホルムアルデヒド放散量を測定した。5μg/m2・h以下であれば、成型された無機繊維断熱材が、JIS A 6909のF(フォースター)を取得できると判断される。
【0032】
成型品の皮膜強度は、合成樹脂A〜O、の差異は見受けられなかった。ホルムアルデヒド放散量は、合成樹脂A〜Oに差異が確認された。
フェノール樹脂合成反応、停止反応前、停止反応後のうち、停止反応前、若しくは停止反応後において、片方または両方にて、尿素誘導体とレゾルシンの両方を添加した合成樹脂A〜Fおよび合成樹脂Kを使用した実施例1〜10は、小型チャンバー法でのホルムアルデヒド放散量は5μg/m2・h以下で、良好な結果となった。特筆すべきは樹脂Kを用いた実施例10で、樹脂の時点では遊離ホルムアルデヒドは2.1%と多めであったが、停止反応後レゾルシンが添加してあり、無機繊維断熱材として成型された場合は、ホルムアルデヒド放散量は4.1μg/m2・hと少なく成ることが確認された。
【0033】
停止反応前、停止反応後にて尿素誘導体、およびレゾルシンを添加されていない合成樹脂I、合成樹脂Jを使用した比較例3および比較例4は、小型チャンバー法でのホルムアルデヒド放散量は30μg/m2・h以上とかなりの量の放散ホルムアルデヒドが確認された。
停止反応前には尿素誘導体が添加されず、停止反応後にて尿素誘導体が添加されているものの、何れにおいてもレゾルシンが添加されていない合成樹脂L、合成樹脂M、合成樹脂N,合成樹脂Oを使用した比較例5、比較例6、比較例7、比較例8は、比較例3および比較例4よりも、小型チャンバー法でのホルムアルデヒド放散量は比較例3、比較例4よりも少ないものの10〜20μg/m2・hであった。
停止反応前、停止反応後の両方で尿素誘導体を添加し、フェノール樹脂合成反応にてレゾルシンを添加しているものの停止反応前、停止反応後、何れにおいてもレゾルシンを添加していない合成樹脂Gを使用した比較例1は、小型チャンバー法でのホルムアルデヒド放散量は5μg/m2・hを切れなかった。フェノール樹脂合成反応にてレゾルシンを添加した場合は、フェノール−レゾルシン共重合体が生成していると考えられるが、この場合は無機繊維断熱材として成型された場合のホルムアルデヒド放散量が多いことが証明された。
停止反応前、停止反応後の両方で尿素誘導体を添加し、停止反応前、停止反応後、何れでもレゾルシンを添加していない合成樹脂Hを使用した比較例2も、小型チャンバー法でのホルムアルデヒド放散量は5μg/m2・hを切れなかった。但し、比較例1よりもその量は少なく、フェノール−レゾルシン共重合体の生成は、ホルムアルデヒド放散量に関して、良くない方向に有ることが示された。