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特開2020-50960表面上の第四級アンモニウムカチオン並びに/又は金及び/若しくは銀のハロゲン化物の量が低減された金ナノ粒子の懸濁液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-50960(P2020-50960A)
(43)【公開日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】表面上の第四級アンモニウムカチオン並びに/又は金及び/若しくは銀のハロゲン化物の量が低減された金ナノ粒子の懸濁液
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20200306BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20200306BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20200306BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20200306BHJP
【FI】
   B22F9/00 B
   B82Y30/00
   B22F1/00 K
   B22F9/24 F
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-230394(P2019-230394)
(22)【出願日】2019年12月20日
(62)【分割の表示】特願2017-177879(P2017-177879)の分割
【原出願日】2017年9月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-181712(P2016-181712)
(32)【優先日】2016年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】溝口 大剛
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 英也
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭佑
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA08
4K017DA09
4K017EJ01
4K017FB07
4K018BA01
4K018BB01
4K018BB05
4K018BC09
4K018BD04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、金ナノ粒子の表面から、ハロゲン化第四級アンモニウムを除去することである。
【解決手段】ハロゲン化第四級アンモニウムの金ナノ粒子表面への結合力要因となっている金又は銀のハロゲン化物を溶解させるための特定の添加物を用いる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子の懸濁液であって、当該金ナノ粒子の表面上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の量が低減されていることを特徴とする、金ナノ粒子の懸濁液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面上の第四級アンモニウムカチオン並びに/又は金及び/若しくは銀のハロゲン化物の量が低減された金ナノ粒子の懸濁液、その製造方法並びに金ナノ粒子の表面から第四級アンモニウムカチオン並びに/又は金及び/若しくは銀のハロゲン化物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金ナノ粒子は、核酸又は薬物などの機能性分子を生体内に導入し、その機能を発現させるためのキャリヤー等としての医療分野への応用が提案されている。金ナノ粒子(特にナノロッドやナノキューブ、ナノプレートなどの異方性形状を有する金ナノ粒子)の製造には、通常、ハロゲン化第四級アンモニウム(第四級アンモニウムカチオンとハロゲン化物イオンからなる化合物)が用いられ、得られる金ナノ粒子の表面にはハロゲン化第四級アンモニウムが結合している。しかしながら、ハロゲン化第四級アンモニウムは、細胞毒性を有する。この毒性はハロゲン化第四級アンモニウムの第四級アンモニウムカチオンによる脂質膜中のリン脂質とコレステロールの可溶化、およびタンパク質の変性に起因している。そのため、金ナノ粒子を医療用途に用いるためには、金ナノ粒子表面に結合しているハロゲン化第四級アンモニウムを除去又は低減する必要がある。
【0003】
特許文献1には、金ナノロッド溶液中のセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド)(ハロゲン化第四級アンモニウムの1つ)を、水と混合しない極性有機溶媒に抽出することにより、金ナノロッドの合成段階で使用されるCTABを金ナノロッド溶液から取り除く方法が開示されている(段落0023)。しかしながら、特許文献1に開示される方法では、金ナノロッドの表面に結合しているCTABまでも除去することはできない。
【0004】
非特許文献1には、C10アルキルスペーサーを担持するポリエチレングリコールリガンドで金ナノロッドを被覆して、高い化学安定性、コロイド安定性及び高いポリエチレングリコールグラフト密度を有するポリエチレングリコール化金ナノロッドを得る技術が開示されている(Abstract)。しかしながら、非特許文献1には、MALDI−TOF分析によると、ポリエチレングリコール化金ナノロッドにはCTABが存在していることが示唆されることが開示されている(Estimating the PEGMUA coverage)。
【0005】
金ナノ粒子の製造には、金ナノ粒子の合成収率向上のために、硝酸銀が用いられる場合がある。この場合には、CTABの臭化物イオンは、硝酸銀由来の銀イオンと反応して銀の臭化物を形成し、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオンは、銀の臭化物を介して金ナノ粒子表面に結合していることが、非特許文献2に報告されている(pp1257右欄)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−255582号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. Schulz, et al., Nanoscale (2016), Vol. 8, pp. 7296-7308
【非特許文献2】Samuel E. Lohse, et al., Chem. Mater(2013), Vol. 25, pp1250-1261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、金ナノ粒子の表面から、ハロゲン化第四級アンモニウムを除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、ハロゲン化第四級アンモニウムの金ナノ粒子表面への結合力要因となっている金及び/又は銀のハロゲン化物を溶解させるための添加物を用いることにより解決できることが見出された。本発明は、以下の〔1〕〜〔16〕に関するものである。
【0010】
〔1〕金ナノ粒子の懸濁液であって、当該金ナノ粒子の表面上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の量が低減されていることを特徴とする、金ナノ粒子の懸濁液。
〔2〕金ナノ粒子の懸濁液であって、当該金ナノ粒子の表面上に(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を実質的に有さないことを特徴とする、金ナノ粒子の懸濁液。
〔3〕飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を用いて3.4 mJ/cm2のレーザー光強度で測定した場合、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が、100mV以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の金ナノ粒子の懸濁液。
〔4〕飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を用いて3.4mJ/cm2を超え19 mJ/cm2以下のレーザー光強度で測定した場合、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が、100mV以下である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液。
〔5〕飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を用いて19mJ/cm2を超え39 mJ/cm2以下のレーザー光強度で測定した場合、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が、1000mVより低い、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液。
〔6〕飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を用いて19mJ/cm2を超え39 mJ/cm2以下のレーザー光強度で測定した場合、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が、100mV以下である、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液。
〔7〕前記金ナノ粒子が、球状、多面体状、立方体状、双錐状、棒状又は板状の形状を有する、前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液。
〔8〕前記(A)第四級アンモニウムカチオンが、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基から選択される)で表される、前記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液。
〔9〕前記(B)金及び/又は銀のハロゲン化物が、金及び/又は銀の臭化物又は塩化物である、前記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液。
〔10〕前記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液の乾燥物。
〔11〕前記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液の製造方法であって、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を表面上に有する金ナノ粒子を含む懸濁液に、金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物及び/又はジメチルスルホキシドを添加して、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の少なくとも一部を前記金ナノ粒子表面から除去する工程を含むことを特徴とする、金ナノ粒子の懸濁液の製造方法。
〔12〕前記金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物が、チオシアン酸、チオ硫酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つである、前記〔11〕に記載の金ナノ粒子の懸濁液の製造方法。
〔13〕前記金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物が、チオシアン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又はクエン酸である、前記〔12〕に記載の金ナノ粒子の懸濁液の製造方法。
〔14〕前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の少なくとも一部を前記金ナノ粒子表面から除去する工程の前に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、及び/又はチオール基を有する化合物を前記金ナノ粒子の表面に付着させる工程を更に含む、前記〔11〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の懸濁液の製造方法。
〔15〕前記チオール基を有する化合物が、チオール化2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン又はチオール化ポリエチレングリコールである、前記〔14〕に記載の金ナノ粒子の懸濁液の製造方法。
〔16〕(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を金ナノ粒子の表面から除去する方法であって、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を表面上に有する金ナノ粒子を含む懸濁液に、金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物及び/又はジメチルスルホキシドを添加して、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の少なくとも一部を前記金ナノ粒子表面から除去する工程を含むことを特徴とする、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、金ナノ粒子の表面からハロゲン化第四級アンモニウムが除去され、金ナノ粒子の医療分野への応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】CTABの金ナノ粒子表面への結合態様を示す。
図2】金ナノロッド懸濁液Aの20倍希釈液の吸収スペクトルを示す。
図3】金ナノロッド懸濁液Aの透過走査電子顕微鏡(STEM)像を示す。
図4】金ナノロッド懸濁液E(比較例4)のTOF−MSスペクトル(ポジティブイオンモード)を示す。
図5】金ナノロッド懸濁液G(実施例2)のTOF−MSスペクトル(ポジティブイオンモード)を示す。
図6】金ナノロッド懸濁液C(比較例2)のTOF−MSスペクトル(ネガティブイオンモード)を示す。
図7】金ナノロッド懸濁液G(実施例2)のTOF−MSスペクトル(ネガティブイオンモード)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、ハロゲン化第四級アンモニウムの金ナノ粒子表面への結合態様を検討した。その結果、例えば金ナノ粒子の製造にヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)及び硝酸銀を使用した場合には、図1に示すように、臭化物イオンは、金ナノ粒子表面で、銀イオンだけでなく金イオンとも反応して金の臭化物及び銀の臭化物を形成し、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオンは、金の臭化物及び銀の臭化物を介して金ナノ粒子表面に結合していることを見出した。
【0014】
金ナノ粒子表面のハロゲン化第四級アンモニウムを除去するためには、金及び/又は銀のハロゲン化物を介して金ナノ粒子表面に結合している(A)第四級アンモニウムカチオン、及びハロゲン化第四級アンモニウムの金ナノ粒子表面への結合力要因となっている(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の除去が必要である。しかし、金ナノ粒子表面に吸着している金及び/又は銀のハロゲン化物は水へほとんど溶解しないので、除去が困難である。本発明者らは、金及び/又は銀のハロゲン化物を溶解させるための特定の添加物を用いることにより、金ナノ粒子の表面から(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を除去することができることを見出した。
【0015】
本発明は、表面上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の量が低減されている金ナノ粒子の懸濁液に関する。
【0016】
金ナノ粒子とは、金から製造されたナノ粒子をいい、形状には特に限定はない。例えば、本発明の金ナノ粒子は、球状、多面体状、立方体状(ナノキューブ)、双錐状、棒状(ナノロッド)又は板状(ナノプレート)の形状を有し、金ナノロッド、金ナノキューブ、金ナノプレートであることが好ましい。
【0017】
「ナノ粒子」とは、ナノメートル(nm)オーダーの大きさを持つ粒子のことで、例えば1nm以上500nm以下であり、好ましくは5nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは10nm以上100nm以下の大きさの粒子である。粒子の大きさとは、粒子の最大長さを指す。金ナノ粒子の大きさは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)観察、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行って計測してもよく、最大長さに関しては動的光散乱式粒度分布測定装置(DLS)で測定してもよい。SEM観察写真、STEM観察写真、及びTEM観察写真から金ナノ粒子の最大長さを計測する場合、任意の金ナノ粒子100個について、各粒子の最大長さを計測した計100点のデータの内、上位と下位の値10%(10個)を除いた80点の平均値を用いてもよい。
【0018】
本発明の金ナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance:LSPR)由来の光吸収特性を有する。金ナノ粒子の光吸収波長はその大きさや形状、アスペクト比(棒状粒子の場合、長軸と短軸の比、板状粒子の場合、平面最大長と厚さの比)、周囲の誘電率などで変化する。可視光領域に最大吸収波長を有する金ナノ粒子の懸濁液は様々な色調を呈する。例えば、金ナノロッドの場合、アスペクト比(長軸/短軸)が、1より大きく3以下であると、水分散液中において最大吸収波長を約530nm〜約670nmの範囲で調節することができる。このような最大吸収波長を有する金ナノロッドの水懸濁液は赤色、マゼンタ、紫色、紺色、青色、シアン、薄水色の色調を呈する。また、金ナノプレートの場合、厚さが10nmで平均アスペクト比が、1より大きく10以下であると、水懸濁液中における表面プラズモン共鳴による光吸収ピーク(最大吸収波長)を550nm以上〜740nmの波長領域に調節することができる。このような最大吸収波長を有する金ナノプレートの水懸濁液は赤色、マゼンタ、紫色、紺色、青色、シアン、又は、薄水色の色調を呈する。上記、金ナノロッド及び金ナノプレートはアスペクト比を大きくすることで最大吸収波長の長波長シフトが可能なため、「生体の窓」と呼ばれる生体を透過する波長領域である650nm〜1000nmに最大吸収波長を調整することが可能である。本発明の金ナノ粒子は光熱変換能を有するため、薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム:DDS)における薬剤担体として使用することで、光照射による熱の発生により薬剤を放出するシステムに使用可能である。また、光エネルギーを吸収した金ナノ粒子が熱を放出し、その熱による体積膨張で音響波が発生する「光音響効果」を利用した、光音響イメージング(フォトアコースティックイメージング:PAI)における光熱変換素子として使用することも可能である。さらに、プラズモン支援光熱療法(例えば、がんの温熱療法:Hyperthermia)の光熱変換素子として本発明の金ナノ粒子を使用することも可能である。
【0019】
第四級アンモニウムカチオンは、式N+(R)4で表すことができる。各Rは、例えば、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基から選択される。前記第四級アンモニウムカチオンの4種のRの組み合わせは、例えば、炭素数1〜9(好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3)の直鎖又は分枝鎖アルキル基(Ra)と炭素数10〜20(好ましくは12〜18、さらに好ましくは14〜17)の直鎖又は分枝鎖アルキル基(Rb)との組み合わせであってもよく、好ましくは2種のRaと2種のRbとの組み合わせ、さらに好ましくは3種のRaと1種のRbとの組み合わせである。このような第四級アンモニウムカチオンは、例えば、デシルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン、又は、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムカチオンであってもよい。第四級アンモニウムカチオンと共に前記ハロゲン化第四級アンモニウムを構成する対イオンとしては、このカチオンの対イオンとして通常採用されているものを特に制限なく用いることができ、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンを採用してもよい。
【0020】
ハロゲン化第四級アンモニウムを構成する前記ハロゲン化物イオンは、金ナノ粒子と反応して、金ナノ粒子表面に金のハロゲン化物を形成する。また、前記対イオンは、硝酸銀由来の銀イオンと反応して、金ナノ粒子表面に銀のハロゲン化物を形成する。
金又は銀のハロゲン化物としては、例えば、金又は銀の塩化物、臭化物又はヨウ化物等が挙げられる。
【0021】
本発明の金ナノ粒子は、表面上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の量が低減されており、ある態様では、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を実質的に有さない。「実質的に有さない」とは、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の量が、金ナノ粒子がハロゲン化第四級アンモニウムに由来する細胞毒性を実質的に示さない量であるか、又は、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物が検出限界以下の量であることを意味する。
【0022】
金ナノ粒子表面上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の量は、例えば、飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を用いて第四級アンモニウムカチオンや金及び/又は銀のハロゲン化物を検出することにより測定することができる。具体的には、消光度に基づいて濃度を調整した金ナノ粒子懸濁液を試料プレートに滴下したものを測定試料とする。ところで、平行光線が物体中を透過するときの該物体の光吸収の強さを吸光度というが(狭義の吸光度)、その実測にあたっては、該物体の表面での反射又は散乱などによる光の損失も考慮する必要がある(広義の吸光度)。光の吸収、反射及び散乱などのあらゆる要因による光の損失の強度を意味する広義の吸光度を、本明細書では特に消光度という。
【0023】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS)を用いてポジティブイオンモードで表面支援レーザー脱離イオン化質量分析(SALDI−MS)測定を行うことにより、金ナノ粒子表面上の第四級アンモニウムカチオンを検出することができ、ネガティブイオンモードでSALDI−MS測定を行うことにより、金及び/又は銀のハロゲン化物を検出することができる。例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド由来のヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン(CTA+)はm/z 284付近、銀の臭化物(AgBr2-)はm/z 267付近、金の臭化物(AuBr2-)はm/z 356付近にピークが検出される。ラスタースキャン方式で試料中の複数箇所を測定後、平均化して得られるマススペクトルの検出ピークの高さ(検出強度)を評価する。検出ピークが低いと、第四級アンモニウムカチオン量や、金及び/又は銀のハロゲン化物量が少ないことを示していると言える。また、第四級アンモニウムカチオンは金及び/又は銀のハロゲン化物を介して金ナノ粒子表面に結合しているため、(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出ピークが低いと、(A)第四級アンモニウムカチオン及び(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の両方の量が少ないことを示していると言える。
【0024】
また、金ナノ粒子表面上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の量は、ハロゲン化第四級アンモニウムを検出することにより測定することもできる。すなわち、第四級アンモニウムカチオンは、金及び/又は銀のハロゲン化物を介して金ナノ粒子表面に結合しているため、検出されるハロゲン化第四級アンモニウムの量が、金ナノ粒子上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金又は銀のハロゲン化物の指標となる。検出されるハロゲン化第四級アンモニウムの量(検出強度)が低くなれば、金ナノ粒子表面上の(A)第四級アンモニウムカチオン及び(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の両方の量が低減されていると言える。
【0025】
本発明の金ナノ粒子は、例えば、飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を用いて3.4 mJ/cm2のレーザー光強度で測定した場合、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が、好ましくは100mV以下、より好ましくは75mV以下、更に好ましくは50mV以下である。3.4 mJ/cm2のレーザー光強度で測定した場合の(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が100mV以下であれば、金ナノ粒子のハロゲン化第四級アンモニウムに由来する細胞毒性が十分に低いと言える。あるいは、3.4mJ/cm2を超え19 mJ/cm2以下のレーザー光強度で測定した場合、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が、好ましくは100mV以下、より好ましくは75mV以下、更に好ましくは50mV以下であってもよく、19mJ/cm2を超え39 mJ/cm2以下のレーザー光強度で測定した場合、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の検出強度が、例えば1000mVより低く、好ましくは100mV以下、より好ましくは75mV以下、更に好ましくは50mV以下であってもよい。一般的にレーザー光強度を高くすると検出強度も高くなるが、偽陽性が生じやすいので、3.4 mJ/cm2のレーザー光強度で測定するのが好ましい。
【0026】
本発明の金ナノ粒子の懸濁液の分散媒体としては、例えば、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール類、キシレンやトルエン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル等、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、あるいはこれらの混合物が代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明はまた、金ナノ粒子の懸濁液の乾燥物に関する。金ナノ粒子の乾燥物は、例えば懸濁液の溶媒を減圧下で濃縮、乾燥することで得られる。乾燥物に乾燥前の懸濁液量と同量の溶媒を加えることで乾燥前の懸濁液に戻すことが可能である。
【0028】
本発明の金ナノ粒子の懸濁液は、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を表面上に有する金ナノ粒子を含む懸濁液に、金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物及び/又はジメチルスルホキシドを添加して、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の少なくとも一部を前記金ナノ粒子表面から除去する工程を含む方法により製造することができる。
【0029】
原料となる(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を表面上に有する金ナノ粒子は公知であり、市場において容易に入手することができるか、又は調製可能である。市販品としては、Gold nanorods(シグマアルドリッチ社)等が挙げられる。また、例えば、特許第4512876号に記載の方法により金ナノロッドを調製することができる。
【0030】
上記原料となる金ナノ粒子の懸濁液の分散媒体としては、本発明の金ナノ粒子の懸濁液に用いる分散媒体と同様のものを用いることができる。
【0031】
上記原料となる金ナノ粒子の懸濁液に金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物を添加することにより、金ナノ粒子表面の金及び/又は銀のハロゲン化物を溶解させ、除去することができる。前記化合物としては、例えば、チオシアン酸、チオ硫酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。チオシアン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸が好ましい。これらの化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物に代えて、ジメチルスルホキシドを懸濁液に添加してもよい。あるいは、金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物とジメチルスルホキシドとを組み合わせて用いてもよい。ジメチルスルホキシドは、金及び/又は銀のハロゲン化物の溶解度を高めることができる。
【0033】
懸濁液への金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物及び/又はジメチルスルホキシドの添加方法には、特に制限はない。例えば、金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物を水溶液として添加してもよく、ジメチルスルホキシド溶液として添加してもよい。また、金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物及び/又はジメチルスルホキシドを懸濁液に直接添加してもよく、懸濁液を遠心分離後、上清を除去し、前記化合物の溶液及び/又はジメチルスルホキシドを添加してもよい。
【0034】
本発明の製造方法は、任意に、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の少なくとも一部を前記金ナノ粒子表面から除去する工程の前に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及び/又はチオール基を有する化合物を前記金ナノ粒子の表面に付着させる工程を含んでもよい。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及び/又はチオール基を有する化合物を金ナノ粒子の表面に付着させておくと、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を除去した後の金ナノ粒子の凝集を抑制することができ、また、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の金ナノ粒子への再結合を防止することができる。
【0035】
金ナノ粒子を医薬用途に用いるためには、チオール基を有する化合物は、生体適合性を有することが好ましい。生体適合性を有するチオール基を有する化合物としては、例えば、チオール化2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(Thiolated 2−methacryloyloxyethyl phosphorylcholine:MPC−SH)、チオール化ポリエチレングリコール(Thiolated polyethylene glycol:PEG−SH)、アルカンチオールグルタチオン、カプトプリル、システイン等が挙げられる。好ましくは、チオール化2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン又はチオール化ポリエチレングリコールである。
【0036】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及び/又はチオール基を有する化合物を金ナノ粒子の表面に付着させる方法には特に制限はない。例えば、金ナノ粒子の懸濁液にチオール基を有する化合物を直接添加してもよく、あるいは、金ナノ粒子の懸濁液を遠心分離後、上清を除去し、チオール基を有する化合物の水溶液に再分散させてもよい。
【0037】
本発明はまた、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を金ナノ粒子の表面から除去する方法に関する。前記方法は、(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物を表面上に有する金ナノ粒子を含む懸濁液に、金及び/又は銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物及び/又はジメチルスルホキシドを添加して、前記(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の少なくとも一部を前記金ナノ粒子表面から除去する工程を含む。
【0038】
本発明の金ナノ粒子は、細胞毒性が高い第四級アンモニウムカチオンを含まないため、薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム:DDS)における薬剤担体、光音響イメージング(フォトアコースティックイメージング:PAI)における光熱変換素子、プラズモン支援光熱療法の光熱変換素子、光線力学的治療法(PDT)の光増感剤、プラズモン吸収の変化を利用した診断試薬等の生物医学、診断分野に好適に用いることができる。
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
1.金ナノロッド懸濁液の合成(金ナノロッド懸濁液Aの作製)
濃度0.50Mのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)水溶液5mLに濃度24mMの塩化金酸水溶液0.5mL、アセトン0.1mL、10mMの硝酸銀水溶液0.5mLを加えて反応溶液とした。この反応溶液に40mMのアスコルビン酸(AS)水溶液を0.5mL添加して化学還元を行った。AS水溶液を添加した直後に反応溶液はオレンジ色から透明な溶液に変化した。透明になった溶液を容量10mLのビーカーに入れ、UV照射器(高圧水銀ランプ)の紫外線を合成溶液に5分間照射した。光照射後、そのまま静置して1時間後に保存容器に移した。得られた懸濁液1gを10,000rpmで10分間遠心分離後、上清を除去、水1gで再分散し、金ナノロッド懸濁液Aを作製した。金ナノロッド懸濁液Aの金濃度は1.8mMであった。
【0041】
金ナノロッド懸濁液Aを水で20倍に希釈し、吸収スペクトル測定試料溶液とした。この希釈した金ナノロッド懸濁液Aの金濃度は0.09mMであった。この溶液の吸収スペクトルを図2に示す。吸収スペクトルの測定は、株式会社島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV−3100PCを用い、光路長:1cm及び測定波長:190−1300nmの条件下で行われた。図2の吸収スペクトルにおいて、最大吸収波長は904nm、最大吸収波長における消光度は1.28である。
【0042】
金ナノロッド懸濁液Aの透過走査電子顕微鏡(STEM)像を図3に示す。図3に示される金ナノロッド懸濁液A中の金ナノ粒子の寸法は、平均で長軸45nm、短軸9nmであった。
【0043】
2.金ナノロッド懸濁液の表面処理
2−1.チオール基末端ポリエチレングリコール処理(金ナノロッド懸濁液Bの作製)
金ナノロッド懸濁液A 1gへ濃度0.05%の末端がチオール基で修飾されたポリエチレングリコールであるSUNBRIGHT ME−200SH(分子量:20,0000、NOF CORPORATION製)の水溶液を0.01g添加し、室温下で12時間静置した。得られた懸濁液を10,000rpmで3時間遠心分離後、上清を除去し、超純水1gで再分散した。得られた懸濁液を再度遠心分離後、上清を除去し、純水1gで再分散し、金ナノロッド懸濁液Bを作製した。
【0044】
2−2.ポリスチレンスルホン酸ナトリウム処理(金ナノロッド懸濁液Dの作製)
金ナノロッド懸濁液A 1gを10,000rpmで10分間遠心分離後、上清を除去し、超純水1gで再分散した。得られた金ナノロッド懸濁液Cを10,000rpmで再度10分間遠心分離後、上清を除去、0.5%のPoly(sodium−p−styrenslufonate)(PSSS)1gで再分散した。得られた懸濁液を15,000rpmで再度10分間遠心分離後、上清を除去、0.5%のPoly(sodium−p−styrenslufonate)(PSSS)1gで再分散した。上記の遠心分離とPSSS再分散操作を合計3回実施し、金ナノロッド懸濁液Dを作製した。
【0045】
2−3.チオール化2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC−SH)処理(金ナノロッド懸濁液Eの作製)
金ナノロッド懸濁液D 1gを15,000rpmで10分間遠心分離後、上清を除去し、10mM MPC−SH水溶液1gで再分散した。上記の遠心分離とMPC−SH水溶液での再分散操作を合計2回実施し、金ナノロッド懸濁液Eを作製した。
【0046】
3.(A)第四級アンモニウムカチオン及び/又は(B)金及び/又は銀のハロゲン化物の除去・低減
3−1.チオ硫酸ナトリウム水溶液を使用したヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン(CTA+)、臭化金および臭化銀除去、低減法
3−1−1.実施例1:金ナノロッド懸濁液B中のCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減(金ナノロッド懸濁液Fの作製)
金ナノロッド懸濁液B 1gを15,000rpmで30分間遠心分離後、上清を除去し、10mM チオ硫酸ナトリウム水溶液1gで再分散した。再分散後、直ちに上記条件で遠心分離後、上清を除去し、純水1gで再分散した。得られた懸濁液を上記条件で遠心分離後、上澄みを0.95g除去し、金ナノロッド懸濁液Fを作製した。
【0047】
3−1−2.実施例2:金ナノロッド懸濁液E中のCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減(金ナノロッド懸濁液Gの作製)
金ナノロッド懸濁液E 1gを15,000rpmで30分間遠心分離後、上清を除去し、10mM チオ硫酸ナトリウム水溶液1gで再分散した。再分散後、直ちに上記条件で遠心分離後、上清を除去、純水1gで再分散し、金ナノロッド懸濁液Gを作製した。
【0048】
3−2.実施例3:ジメチルスルホキシド(DMSO)を使用したCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減法(金ナノロッド懸濁液Hの作製)
金ナノロッド懸濁液B 1gを15,000rpmで30分間遠心分離後、上清を除去し、DMSO1gで再分散した。再分散後、直ちに上記条件で遠心分離後、上清を除去し、純水1gで再分散した。得られた懸濁液を上記条件で遠心分離後、上澄みを0.95g除去し、金ナノロッド懸濁液Hを作製した。
【0049】
3−3.実施例4:クエン酸三ナトリウム水溶液を使用したCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減法(金ナノロッド懸濁液Iの作製)
金ナノロッド懸濁液B 1gを15,000rpmで30分間遠心分離後、上清を除去し、10mM クエン酸三ナトリウム水溶液1gで再分散した。再分散後、直ちに上記条件で遠心分離後、上清を除去し、純水1gで再分散した。得られた懸濁液を上記条件で遠心分離後、上澄みを0.95g除去し、金ナノロッド懸濁液Iを作製した。
【0050】
3−4.クエン酸のDMSO溶液を使用したCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減法3−4−1.実施例5:クエン酸濃度が2mMのDMSO溶液を使用した懸濁液B中のCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減(金ナノロッド懸濁液Jの作製)
金ナノロッド懸濁液B 1gを15,000rpmで30分間遠心分離後、上清を除去し、クエン酸濃度が2mMのDMSO溶液1gで再分散した。再分散後、直ちに上記条件で遠心分離後、上清を除去し、純水1gで再分散した。上記の遠心分離と純水での再分散操作を合計2回実施した。得られた懸濁液を上記条件で遠心分離後、上澄みを0.95g除去し、金ナノロッド懸濁液Jを作製した。
【0051】
3−4−2.実施例6:クエン酸濃度が10mMのDMSO溶液を使用した懸濁液B中のCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減(金ナノロッド懸濁液Kの作製)
実施例5のクエン酸濃度を10mMとして、同様に実施し、金ナノロッド懸濁液Kを作製した。
【0052】
3−4−3.実施例7:クエン酸濃度が100mMのDMSO溶液を使用した懸濁液B中のCTA+、臭化金および臭化銀除去、低減(金ナノロッド懸濁液Lの作製)
実施例5のクエン酸濃度を100mMとして、同様に実施し、金ナノロッド懸濁液Lを作製した。
【0053】
4.比較例
4−1.比較例1:金ナノロッド合成(金ナノロッド懸濁液Aの作製)
金ナノロッドの合成液である懸濁液Aを比較例1とした。
【0054】
4−2.比較例2:金ナノロッド懸濁液Aの超純水洗浄(金ナノロッド懸濁液Cの作製) 2−2で作製した金ナノロッド懸濁液A 1gを10,000rpmで10分間遠心分離後、上清を除去、超純水1gで再分散して作製した懸濁液Cを比較例2とした。
【0055】
4−3.比較例3:金ナノロッド懸濁液Aのチオール基末端ポリエチレングリコール処理(金ナノロッド懸濁液Bの作製)
2−1で作製した金ナノロッド懸濁液Bを比較例3とした。
【0056】
4−4.比較例4:金ナノロッド懸濁液Dのチオール基末端2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC−SH)処理(金ナノロッド懸濁液Eの作製)
2−3で作製した金ナノロッド懸濁液Eを比較例4とした。
【0057】
4−5.比較例5:金ナノロッド懸濁液Aのホスファチジルコリン修飾(金ナノロッド懸濁液Mの作製)
金ナノロッド懸濁液A 1gに濃度10mMのL-α-ホスファチジルコリン(ナカライテスク株式会社製)が溶解したクロロホルム溶液0.5mLを注入、振とうして均一にした後、二層に分離するまで静置した。上澄み液を取り出し、濃度10mMのホスファチジルコリンが溶解したクロロホルム溶液0.5mLへ注入した。この操作を二回繰り返した。得られた金ナノロッド懸濁液を6,200rpm(2000×g)、10分で遠心分離し、上澄み液を除去後、超純水60μLで再分散し、金ナノロッド懸濁液Mを作製した。
金ナノロッド懸濁液Mを比較例5とした。
【0058】
作製した懸濁液を以下の表1にまとめた。
【表1】
【0059】
5.ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン(CTA+)、臭化金および臭化銀の測定
5−1.試料調製
実施例、比較例で調製した各種金ナノロッド懸濁液の吸収特性を紫外可視近赤外分光光度計で測定し、最大吸収波長における消光度が0.2になるように濃度を調整した。濃度調整した金ナノロッド懸濁液1mLをサンプルチューブに移し、懸濁液中の金ナノロッドを遠心分離によってサンプルチューブ下部に落とした。金ナノロッドを除去しないように上澄み液を980μL除去し、懸濁液を20μLに濃縮した。
【0060】
5−2.表面支援レーザー脱離イオン化質量分析法(SALDI−MS)用測定プレートの調製
キャリブレーション試料にはα−シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)とアンジオテンシンIIを用いた。測定試料には、上述の20μLに濃縮した懸濁液の内から5μLを試料プレート上に滴下したものを用いた。
【0061】
5−3.SALDI−MS測定
MALDI−TOF質量分析計を用いて、試料プレート上に滴下した金ナノロッド試料中をラスタースキャン方式で複数箇所測定した。得られたデータを平均化し、マススペクトルを得た。
【0062】
装置:MALDI−TOF質量分析計 (AXIMA−CFR plus,Shimadzu Inc.)
モード:ポジティブイオンモード
(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン測定時に設定)
ネガティブイオンモード
(臭化金および臭化銀測定時に設定)
スキャンモード:Raster scan
Width:1000um
Height:1000um
Spacing:100um
Points:121
レーザーパワー(LP):任意
例)LP 5:レーザー光強度3.4mJ/cm2
LP25:レーザー光強度19mJ/cm2
LP50:レーザー光強度39mJ/cm2
Profile:121
Shots:5
Optimize for:1000
Mass Range:10−2000
【0063】
5−4.SALDI‐MS測定結果
5−4−1.ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン(CTA+)測定結果
SALDI‐MS測定により得られた各懸濁液のヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン(m/z 284)由来のピーク強度を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
比較例1〜5で作製した金ナノロッド懸濁液を、3.4mJ/cm2のレーザー光強度で測定した場合、強い強度でCTA+のピークが検出され、金ナノロッド上にCTA+が存在していることが確認された。特に、比較例1及び2で作製した金ナノロッド懸濁液については、検出強度はMALDI装置の最大ピーク検出強度(2000mV)以上となり、正確なピーク強度の算出はできなかった。一例として、図4に、比較例4の懸濁液Eの測定スペクトルを示す。懸濁液EにおけるCTA+の検出強度は1200mVであった。一方、実施例1〜7で作製した金ナノロッド懸濁液を、3.4mJ/cm2のレーザー光強度で測定した場合、CTA+のピークはまったく検出されなかった(1mV以下)。一例として、図5に、実施例2の懸濁液Gの測定スペクトルを示す。これらの結果より、実施例では、金ナノロッドの表面上のCTA+が低減されており、当該金ナノロッドの表面上には、CTA+が実質的に存在していないことがわかった。実施例の金ナノロッドは、細胞毒性を有さないことが期待できる。更に、実施例3〜7の金ナノロッド懸濁液については、39mJ/cm2という比較的強いレーザー光で測定しても、CTA+のピークが1000mVを下回っており、ジメチルスルホキシド処理及び/又はクエン酸溶液処理によれば、極めて高い効率でCTA+を除去できることがわかった。
【0066】
5−4−2.臭化金(AuBr2-)および臭化銀(AgBr2-)測定結果
比較例2の懸濁液Cをレーザー光強度3.4mJ/cm2で測定した場合、臭化金(AuBr2-:m/z 356.7)および臭化銀(AgBr2-:m/z 266.7)の検出強度はいずれも1500mV/cm2であった(図6)。一方、実施例2の懸濁液Gをレーザー光強度3.4mJ/cm2で測定した場合、臭化金(AuBr2-:m/z 356付近)および臭化銀(AgBr2-:m/z 267付近)のピークは検出できず(1mV以下)、レーザー光強度を23mJ/cm2まで上げて測定しても、臭化金および臭化銀は検出されなかった(図7)。これらの結果より、本発明の懸濁液Gにおいては、金ナノロッドの表面上の臭化金及び臭化銀が低減されており、当該金ナノロッドの表面上には、臭化金及び臭化銀が実質的に存在していないことがわかった。
【0067】
6.細胞毒性試験
6−1.試料調製
6−1−1.金ナノロッド懸濁液Kの濃度調整
株式会社島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV−3100PCを用い、光路長:1cm及び測定波長:190−1300nmの条件下で吸収スペクトルを測定した場合に、100倍希釈液の最大吸収波長における消光度が0.495になるように、金ナノロッド懸濁液Kを超純水で希釈して、金濃度を調整した。金濃度が0.09mM(17.7ppm)である金ナノロッド懸濁液Aの消光度の測定値が1.28であったことから、100倍希釈前の金ナノロッド懸濁液Kの金濃度は、688ppmと算出される。
【0068】
6−1−2.金ナノロッド懸濁液K含有培地懸濁液の調製
濃度5%のNewborn Calf Serum(NBCS)含有ダルベッコ改変イーグル培地(5% NBCS/DMEM培地)で金濃度688ppmの金ナノロッド懸濁液Kを希釈し、金濃度69ppm、34ppm、17ppm、8.6ppm、4.3ppm、2.2ppm、1.1ppm又は0.54ppmの金ナノロッド懸濁液K含有培地懸濁液を調製した。
【0069】
6−1−3.陽性対照群の調製
ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を5% NBCS/DMEM培地で溶解し、SLS濃度200μg/mL、100μg/mL、50μg/mL、25μg/mL、13μg/mL、6.3μg/mL、3.1μg/mL又は1.6μg/mLの陽性対照群を調製した。
【0070】
6−2.ニュートラルレッド法による細胞毒性試験
マウス全胎児由来のBALB/3T3 clone A31(BALB/3T3)細胞(ヒューマンサイエンス振興財団研究資源バンク製)を96ウェルプレートに1ウェルあたり3×103細胞/100μL、ブランクには10% NBCS/DMEM培地を1ウェルあたり100μL添加した。陽性対照試験用と金ナノロッド試験用の2プレートを作製し、CO2インキュベータ中(37℃、5% CO2)で24時間培養した。
【0071】
播種翌日、各ウェルから培地を除去し、各濃度の金ナノロッド懸濁液K含有培地懸濁液100μL、陽性対照群100μL、陰性対照群として5% NBCS/DMEM培地100μL、ブランク用に5% NBCS/DMEM培地100μLを所定の位置に添加した(1プレート当たり、金ナノロッド懸濁液K含有培地懸濁液又は陽性対照群は各濃度についてn=6、陰性対照群はn=12、ブランクはn=12で実施)。48時間後、試験液を除き、各ウェルを温めたりん酸緩衝生理食塩水PBS(−)250μLで洗浄した。1ウェルあたり250μLのニュートラルレッド(NR)溶液を添加し、更に3時間培養して生細胞にNRを取り込ませた。NR取り込み終了後、NR溶液を除き、温めたPBS(−)250μLで洗浄した。抽出液を1ウェルあたり100μL添加し、室温下でプレートを20分間振盪し、ウェル内の色を均一にしてから、マイクロプレートリーダー(BIO−RAD、Model 680)を使用して540nmの吸光度を測定した。
【0072】
6−3.評価
<細胞生存率の算出>
ブランクの吸光度の平均値をバックグラウンドとし、金ナノロッド懸濁液K含有培地懸濁液及び陽性対照群の各試験試料における吸光度(測定値からバックグラウンドの値を差し引いた値)について各濃度での平均値(n=6)を求め、それの陰性対照群の吸光度(測定値からバックグラウンドの値を差し引いた値)の平均値(n=12)に対する割合を、細胞生存率(%)として算出した。

細胞生存率(%)=(試験試料吸光度540÷陰性対照吸光度540)×100
試験試料吸光度540:(試験試料の吸光度−バックグラウンドの値)の平均値
(n=6)
陰性対照吸光度540:(陰性対照の吸光度−バックグラウンドの値)の平均値
(n=12)

ただし、細胞生存率がマイナスの値を示した場合は、細胞生存率を0とした。
【0073】
6−4.試験結果
6−4−1.陽性対照試験結果
陽性対照試験結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
※4.陰性対照群
【0075】
6−4−2.金ナノロッド懸濁液K試験結果
金ナノロッド懸濁液K試験結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
※5.陰性対照群
【0077】
BALB/3T3細胞を用いるニュートラルレッド法による細胞毒性試験において、金ナノロッド懸濁液Kには細胞毒性はないことが示された。このように、本発明の金ナノ粒子は、第四級アンモニウムが除去されたことによって、細胞毒性が十分に低くなり、生体への適用など医療分野への応用が可能になったと言える。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の金ナノ粒子は、細胞毒性が高い第四級アンモニウムカチオンを含まないため、薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム:DDS)における薬剤担体、光音響イメージング(フォトアコースティックイメージング:PAI)及び、プラズモン支援光熱療法(例えば、がんの温熱療法:Hyperthermia)の光熱変換素子として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7