(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-51189(P2020-51189A)
(43)【公開日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】注入装置
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20200306BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20200306BHJP
【FI】
E04G23/02 B
B05C5/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-183932(P2018-183932)
(22)【出願日】2018年9月28日
(71)【出願人】
【識別番号】517253872
【氏名又は名称】株式会社Cygnus
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】入江 展親
【テーマコード(参考)】
2E176
4F041
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB17
2E176BB21
4F041AA08
4F041AA17
4F041AB01
4F041CB05
4F041CB44
(57)【要約】
【課題】穿孔穴内に注入材が確実に充填されたことを確認することができ、かつ、圧力のかけ過ぎによる破損(共浮き)や剥落等を防止することが可能な注入装置の提供。
【解決手段】穿孔穴113内に挿入された注入ノズル11の先端から穿孔穴113内に注入材30を注入する注入装置1であって、注入ノズル11が貫通してスライド可能なゴム栓12であり、注入ノズル11が挿入される穿孔穴113に押し当てられて密封状態とするゴム栓12と、ゴム栓12を予め設定された圧力により注入ノズル11の先端側へ向かって押圧するエアシリンダ13とを有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔穴内に挿入された注入ノズルの先端から前記穿孔穴内に注入材を注入する注入装置であって、
注入ノズルが貫通してスライド可能な弾性体であり、前記注入ノズルが挿入される穿孔穴に押し当てられて密封状態とする弾性体と、
前記弾性体を予め設定された圧力により前記注入ノズルの先端側へ向かって押圧する押圧手段と
を有する注入装置。
【請求項2】
前記押圧手段は、前記圧力を調整可能なエアシリンダである請求項1記載の注入装置。
【請求項3】
前記弾性体を支持するスライダと、
前記スライダを軸支するスイングアームであり、前記押圧手段によりスイング動作させるスイングアームと
を有する請求項1または2に記載の注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁の仕上げモルタル、貼付けモルタルやタイル等に浮きが生じた部分の剥落を防止するピンニング工法において注入材の注入に用いられる注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピンニング工法とは、外壁の仕上げモルタル、貼付けモルタルやタイル等に浮きが生じた部分の剥落を防止する工法である。ピンニング工法では、エポキシ樹脂系注入材とステンレス製ピンを併用して、躯体、ステンレス製ピンおよび浮きが生じた部分を一体化する。
【0003】
ピンニング工法の具体的手順は以下の通りである。
(1)浮き部の確認
(2)ピンの配置と本数決定
(3)穿孔
(4)穿孔穴内清掃
(5)乾燥養生
(6)注入材注入
(7)ピン挿入
(8)表面仕上げ
(9)清掃後完了
【0004】
上記工程(1)〜(9)のうち(6)注入材注入は、専用の注入ガンで圧力を掛けながら穿孔穴内や浮き部に注入材を注入することにより行う。
図8は従来の注入ガンの側面図である。
図8に示すように、従来の注入ガン100は、シリンダ101内に設けられた図示しないピストンがコイルバネによってシリンダヘッド102側に付勢され、レバー103を握ることでシリンダ101内に充填された注入材がシリンダヘッド102に設けられた注入ノズル104の先端から注出される構造である。
【0005】
図9は注入ガン100を用いた樹脂注入の様子を示す説明図である。
図9に示すように、躯体110の表面に設けられた貼付けモルタル111およびタイル112に穿孔された穿孔穴113内に注入ガン100の注入ノズル104を押し当て、穿孔穴113を密封状態にしながら注入材を注入する。これにより、注入材が穿孔穴113や浮き部114に充填されていく。
【0006】
しかしながら、この注入材の注入時、注入圧力をかけすぎると貼付けモルタル111やタイル112の破損、健全部の浮き発生(共浮き)や剥落の危険がある。従来、このような注入圧力のかけ過ぎを防止するための装置として、例えば特許文献1に記載の注入ノズルが開発されている。この注入ノズルは、ノズル本体内部に形成された接着剤流路内の接着剤の内部圧力が所定の圧力に達した場合に、接着剤の内部圧力が所定の圧力に達したことを報知する圧力報知手段を備えたものである。
【0007】
また、例えば特許文献2には、シリンダ部の注入材を収容するための第1室の後側に、注入材の注入圧力を発生させるための第2室を備え、第2室への第2の配管系の圧力を調整することで注入材の圧力を調整することが可能な注入装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−70450号公報
【特許文献2】特許第2905139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、注入材の注入時、注入圧力をかけすぎると貼付けモルタル111やタイル112の破損、健全部の浮き発生(共浮き)や剥落の危険がある。すなわち、健全部の接着強度基準(0.4N/mm
2または0.6N/mm
2)があるにも関わらず、この健全部の接着強度を超える注入圧力で注入ガンにより注入材を注入すると、貼付けモルタル111やタイル112をさらに浮かせてしまう危険がある。特に、浮き部がある箇所ではモルタルの接着強度が落ちているため、注入圧力のかけ過ぎには注意が必要である。
【0010】
そこで、本発明においては、穿孔穴内に注入材が確実に充填されたことを確認することができ、かつ、圧力のかけ過ぎによる破損(共浮き)や剥落等を防止することが可能な注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の注入装置は、穿孔穴内に挿入された注入ノズルの先端から穿孔穴内に注入材を注入する注入装置であって、注入ノズルが貫通してスライド可能な弾性体であり、注入ノズルが挿入される穿孔穴に押し当てられて密封状態とする弾性体と、弾性体を予め設定された圧力により注入ノズルの先端側へ向かって押圧する押圧手段とを有するものである。
【0012】
本発明の注入装置では、予め押圧手段の圧力を、穿孔穴内に充填される注入材の充填圧力に設定する。そして、穿孔穴に注入ノズルが挿入された状態において、この注入ノズルが貫通してスライド可能な弾性体が、押圧手段によって予め設定された圧力により注入ノズルの先端側へ向かって押圧されることにより穿孔穴に押し当てられて、穿孔穴を密封状態とする。この状態において注入ノズルから注入材を注入すると、注入材は穿孔穴内および浮き部内に浸透していく。そして、穿孔穴内および浮き部内に注入材が充填されると、穿孔穴内の圧力が高まり、予め設定された充填圧力に達すると、押圧手段による押圧力が注入材の圧力に負け、弾性体が押し戻されて注入材が穿孔穴から漏れ出すことになるため、穿孔穴内に予め設定した充填圧力以上の圧力が加わることがない。
【0013】
ここで、押圧手段は、圧力を調整可能なエアシリンダであることが望ましい。これにより、エアシリンダの圧力を調整することで、穿孔穴内に充填される注入材の充填圧力を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明の注入装置によれば、穿孔穴内に注入される注入材の圧力が充填圧力に達すると、注入材が穿孔穴から漏れ出すため、穿孔穴内に注入材が確実に充填されたことを確認することが可能となるとともに、穿孔穴内に予め設定した充填圧力以上の圧力が加わることがなく、圧力のかけ過ぎによる破損や剥落等を防止することが可能となる。
【0015】
(2)押圧手段が圧力を調整可能なエアシリンダであることにより、エアシリンダの圧力を調整することで、穿孔穴内に充填される注入材の充填圧力を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における注入装置の斜視図である。
【
図2】
図1の注入装置の圧力調整の様子を示す斜視図である。
【
図4】本実施形態における注入装置を用いた注入材注入の様子を示す説明図である。
【
図5】本実施形態における注入装置を用いた注入材注入の様子を示す説明図である。
【
図6】本実施形態における注入装置を用いた注入材注入の様子を示す説明図である。
【
図7】本実施形態における注入装置を用いた注入材注入の様子を示す説明図である。
【
図9】従来の注入ガンを用いた樹脂注入の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の実施の形態における注入装置の斜視図、
図2は
図1の注入装置の圧力調整の様子を示す斜視図、
図3はゴム栓のスライド動作を示す説明図である。
【0018】
図1において、本発明の実施の形態における注入装置1は、エポキシ樹脂等の注入材が充填される本体シリンダ10と、本体シリンダ10のシリンダヘッド10Aに設けられた注入ノズル11と、注入ノズル11が貫通してスライド可能な弾性体としてのゴム栓12と、ゴム栓12を注入ノズル11の先端側へ向かって押圧する押圧手段としてのエアシリンダ13とを有する。
【0019】
本体シリンダ10内には図示しないピストンがコイルバネによってシリンダヘッド10A側に付勢されている。作業者は、穿孔穴内に注入ノズル11を挿入してレバー10Bを握ることで、本体シリンダ10内に充填された注入材が注入ノズル11の先端から穿孔穴内に注出されるようになっている。
【0020】
ゴム栓12は先細り形状となっており、注入ノズル11が挿入される穿孔穴に押し当てられて密封状態とするものである。ゴム栓12はスライダ14によって注入ノズル11の延びる方向へスライド可能に支持されている。スライダ14は、スイングアーム15の略中央部分に軸15Aを回転中心として回転可能に軸支されている。スイングアーム15の一端は、シリンダヘッド10Aに軸16Aを回転中心として回転可能に軸支されたアーム16に、軸15Bを回転中心として回転可能に軸支されている。スイングアーム15の他端には、エアシリンダ13のロッド13Aが軸15Cを回転中心として回転可能に軸支されている。
【0021】
エアシリンダ13はゴム栓12を予め設定された圧力により注入ノズル11の先端側へ向かって押圧するものである。エアシリンダ13はシリンダヘッド10Aに固定されたシリンダマウント17に軸17Aを回転中心として回転可能に軸支されている。
図3に示すように、エアシリンダ13を伸縮動作させると、スイングアーム15が軸15Bを軸にスイング動作し、ゴム栓12が注入ノズル11に沿ってスライドする。エアシリンダ13は、
図2に示すように、エアシリンダ13にエアホース20を接続し、このエアホース20に設けられたエアゲージ21を見ながら、エアシリンダ13内に充填する圧縮エアの量を調整することで、ゴム栓12を押圧する圧力を調整可能となっている。
【0022】
次に、上記構成の注入装置1による注入材の注入方法について説明する。
図4〜
図7は注入装置1を用いた注入材注入の様子を示す説明図である。
【0023】
まず、躯体110の表面の浮き部114を確認し、ピンの配置と本数を決定し、
図4に示すように、貼付けモルタル111やタイル112を含む躯体110に穿孔穴113を穿孔する。この穿孔された穿孔穴113内に
図5に示すように注入装置1の注入ノズル11をその先端が穿孔穴113の最深部に当たるまで挿入する。なお、エアシリンダ13の圧力は予め穿孔穴113内へ充填する注入材の充填圧力に対応する圧力に設定しておく。
【0024】
このとき、ゴム栓12は予め設定されたエアシリンダ13の圧力により注入ノズル11の先端側へ向かって押圧され、穿孔穴113に押し当てられて、穿孔穴113が密封状態となる。この状態において、レバー10Bを握り、注入ノズル11から注入材を穿孔穴113内に注入すると、
図6に示すように注入材30は穿孔穴113内および浮き部114内に浸透していく。
【0025】
そして、穿孔穴113内および浮き部114内に注入材30が充填されると、穿孔穴113内の圧力が高まり、予め設定されたエアシリンダ13の圧力(穿孔穴113内の充填圧力)に達すると、エアシリンダ13による押圧力が注入材30の圧力に負け、ゴム栓12が押し戻されて、
図7に示すように注入材30が穿孔穴113から漏れ出す。これにより、穿孔穴113内に注入材30が確実に充填されたことを確認することができる。また、穿孔穴113内に予め設定した充填圧力以上の圧力が加わることはないため、圧力のかけ過ぎによる破損や剥落等を防止することができる。
【0026】
また、本実施形態における注入装置1では、エアシリンダ13の圧力を調整することで、穿孔穴113内に充填される注入材30の充填圧力を調整することが可能であり、躯体110(建物)の外壁状況に応じた圧力に調整して、それぞれの状況に応じた適正な注入圧力で誰でも簡単に作業することが可能である。
【0027】
なお、本実施形態においては、穿孔穴113に押し当てられて密封状態とする弾性体としてゴム栓12を例に説明したが、ゴム栓12と同様に穿孔穴113を密封状態とすることができるものであれば材質および形状は問わない。また、押圧手段としてエアシリンダ13を例に説明したが、圧力を調整可能であり、穿孔穴113内の圧力が予め設定された充填圧力に達した際に押し戻されるものであれば使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の注入装置は、外壁の仕上げモルタル、貼付けモルタルやタイル等に浮きが生じた部分の剥落を防止するピンニング工法における注入材の注入に有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 注入装置
10 本体シリンダ
10A シリンダヘッド
10B レバー
11 注入ノズル
12 ゴム栓
13 エアシリンダ
13A ロッド
14 スライダ
15 スイングアーム
16 アーム
17 シリンダマウント