特開2020-51544(P2020-51544A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-51544(P2020-51544A)
(43)【公開日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】等速自在継手のシャフト抜け止め構造
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/20 20060101AFI20200306BHJP
   F16D 3/223 20110101ALI20200306BHJP
   F16B 21/18 20060101ALI20200306BHJP
【FI】
   F16D3/20 Z
   F16D3/223
   F16B21/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-182333(P2018-182333)
(22)【出願日】2018年9月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】榛葉 千佳也
【テーマコード(参考)】
3J037
【Fターム(参考)】
3J037AA08
3J037BA01
3J037BB03
3J037BB06
3J037JA08
3J037JA12
(57)【要約】
【課題】
内輪からシャフトの抜けを防止できるのみでなく、両者間の軸方向のガタツキをも低コストで回避できる等速自在継手のシャフト抜け止め構造を提供すること。
【解決手段】
等速自在継手の内輪1からシャフト2の抜けを防止するための抜け止め構造において、シャフト2に形成された第一クリップ溝2cと、第一クリップ溝2cに装着された状態で弾性変形により拡径および縮径が可能な止め輪3と、止め輪3を自然長よりも縮径させた状態で外径側から覆う第二クリップ溝1eとを有し、第二クリップ溝1eが、シャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面でなり、且つ止め輪3のシャフト基端側への移動を規制する規制面1eaと、規制面1eaのシャフト先端側に連なってシャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面でなり、且つ止め輪3をシャフト先端側に誘導する誘導面1ebとを有するようにした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと嵌合する軸孔が形成された内輪を備える等速自在継手について、前記内輪から前記シャフトの抜けを防止するための等速自在継手のシャフト抜け止め構造であって、
前記シャフトの外周面に沿って環状に形成された第一クリップ溝と、該第一クリップ溝に装着された状態で弾性変形により拡径および縮径が可能な止め輪と、前記軸孔の縁部に形成され、且つ前記止め輪を自然長よりも縮径させた状態で外径側から覆う第二クリップ溝とを有し、
前記第二クリップ溝が、シャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面でなり、且つ前記止め輪のシャフト基端側への移動を規制する規制面と、該規制面のシャフト先端側に連なってシャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面でなり、且つ前記止め輪をシャフト先端側に誘導する誘導面とを有することを特徴とする等速自在継手のシャフト抜け止め構造。
【請求項2】
前記規制面のテーパ角度が、前記誘導面のテーパ角度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手のシャフト抜け止め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手の内輪からシャフトの抜けを防止するための抜け止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、自動車の駆動系や各種産業機械における動力の伝達に広く用いられている。等速自在継手の一例として、ツェッパー型等速自在継手(BJ)は、軸方向に延びる複数の案内溝が内周面に形成された外輪と、軸方向に延びる複数の案内溝が外周面に形成された内輪と、内外輪の案内溝が協働して形成するボールトラックの各々に配された複数のボールと、これらのボールを保持する保持器とを備えている。
【0003】
等速自在継手の内輪には、駆動軸、従動軸、或いは、中間軸等のシャフトと嵌合させるための軸孔が形成されており、例えば、軸孔の内周面に形成された雌スプラインと、シャフトの外周面に形成された雄スプラインとにより、軸孔とシャフトとが嵌合される。ここで、内輪からシャフトの抜けを防止するための構造の一例としては、特許文献1に開示されるような抜け止め構造が挙げられる。
【0004】
図5に示すように、同文献に開示された構造は、内輪100からシャフト200の抜けを防止するべく、シャフト200の外周面に沿って環状に形成された第一クリップ溝200aと、第一クリップ溝200aに装着された止め輪300と、内輪100に形成された軸孔100aの縁部に形成され、止め輪300を外径側から覆う第二クリップ溝100bとを有する。なお、同構造においては、雌雄のスプライン100c,200bにより、軸孔100aとシャフト200とを嵌合させている。
【0005】
第二クリップ溝100bは、止め輪300のシャフト基端側への移動を規制する規制面100baを有する。規制面100baは、シャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面として形成されている。上記の構造により、シャフト200が内輪100に対して相対的にシャフト基端側(内輪100から抜ける方向)に移動した際には、規制面100baが止め輪300のシャフト基端側への移動を規制し、これによりシャフト200の抜けが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−9781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、内輪とシャフトとを組み付けた際には、図5に示す隙間Gに起因して、内輪とシャフトとの両者間に軸方向のガタツキが発生しやすくなる。ガタツキは、例えば自動車の振動特性を悪化させる要因となる。このため、特許文献1に開示された構造では、ガタツキの発生を回避するべく、内輪との当接により当該内輪の軸方向の移動を規制するための規制部材(リング部材)をシャフトの外周に取り付けている。
【0008】
しかしながら、ガタツキの発生を回避するに際し、上記の構造を採用した場合には、規制部材を取り付ける必要があることから、構造の部品点数が増加することに加えて、組立に必要な工数も増えるため、結果として等速自在継手の製造コストの高騰を招くという問題があった。
【0009】
上述の事情に鑑みなされた本発明は、内輪からシャフトの抜けを防止できるのみでなく、両者間の軸方向のガタツキをも低コストで回避できる等速自在継手のシャフト抜け止め構造を提供することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明は、シャフトと嵌合する軸孔が形成された内輪を備える等速自在継手について、内輪からシャフトの抜けを防止するための等速自在継手のシャフト抜け止め構造であって、シャフトの外周面に沿って環状に形成された第一クリップ溝と、第一クリップ溝に装着された状態で弾性変形により拡径および縮径が可能な止め輪と、軸孔の縁部に形成され、且つ止め輪を自然長よりも縮径させた状態で外径側から覆う第二クリップ溝とを有し、第二クリップ溝が、シャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面でなり、且つ止め輪のシャフト基端側への移動を規制する規制面と、規制面のシャフト先端側に連なってシャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面でなり、且つ止め輪をシャフト先端側に誘導する誘導面とを有することを特徴とする。
【0011】
本構造では、第二クリップ溝が、止め輪を自然長よりも縮径させた状態で外径側から覆っていることから、第二クリップ溝内の止め輪には、常に自然長に復元(拡径)しようとする復元力が働く。また、第二クリップ溝が有する規制面、及び、規制面のシャフト先端側に連なった誘導面が、いずれもシャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面となっている。これら止め輪に働く復元力とテーパ面との相互作用により、第二クリップ溝内の止め輪は、常に拡径しようとすると共に、シャフト先端側に誘導されることになる。
【0012】
従って、内輪とシャフトとが組み付いた状態、つまりシャフトが内輪から抜けようとしていない状態の下では、誘導面によって止め輪がシャフト先端側に誘導され、第一クリップ溝のシャフト先端側の側面に当接するまで、止め輪がシャフト先端側に移動しきった状態となる。このときの止め輪は、第一クリップ溝(シャフト側のクリップ溝)のシャフト先端側の側面と、第二クリップ溝(内輪側のクリップ溝)の誘導面との相互間に介在した状態となる。このようにしてガタ詰めがなされ、内輪とシャフトとの両者間における軸方向のガタツキを回避することが可能となる。
【0013】
一方で、シャフトが内輪から抜けようとする際(内輪に対して相対的にシャフト基端側に移動した際)には、第一クリップ溝のシャフト先端側の側面に押されることで、止め輪は誘導面による誘導に反してシャフト基端側に押し込まれていく。また、止め輪はシャフト基端側に押し込まれつつ、誘導面がなすテーパ面により復元力に反して漸次縮径していく。そして、止め輪が誘導面を通過して規制面まで押し込まれると、規制面によって止め輪のシャフト基端側への移動が規制される。これにより、内輪からシャフトの抜けを防止できる。
【0014】
以上のとおり、本構造によれば、内輪からシャフトの抜けを防止できるのみでなく、両者間の軸方向のガタツキをも回避できる。そして、ガタツキを回避するべく新たな部材を導入する必要もない。これにより、構造の部品点数が増加したり、組立に必要な工数が増えたりして、コストが高騰する虞を確実に排除でき、低コストでガタツキの回避を実現できる。
【0015】
上記の構造においては、規制面のテーパ角度が、誘導面のテーパ角度よりも大きいことが好ましい。
【0016】
このようにすれば、規制面が止め輪のシャフト基端側への移動を規制する効果を好適に得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る等速自在継手のシャフト抜け止め構造によれば、内輪からシャフトの抜けを防止できるのみでなく、両者間の軸方向のガタツキをも低コストで回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】等速自在継手のシャフト抜け止め構造を示す断面図である。
図2】等速自在継手のシャフト抜け止め構造において、内輪の軸孔の周辺を拡大して示す断面図である。
図3】等速自在継手のシャフト抜け止め構造において、第二クリップ溝の周辺を拡大して示す断面図である。
図4】等速自在継手のシャフト抜け止め構造において、内輪の軸孔の周辺を拡大して示す断面図である。
図5】従来の等速自在継手のシャフト抜け止め構造において、内輪の軸孔の周辺を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る等速自在継手のシャフト抜け止め構造について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、等速自在継手としてツェッパー型等速自在継手を例に挙げる。しかしながら、本発明に係る抜け止め構造は、その他の等速自在継手(例えば、ダブルオフセット型、クロスグルーブ型、トリポード型等)にも適用が可能である。
【0020】
図1に示すように、等速自在継手の内輪1には、軸方向に延びる複数の案内溝1aが外周面に形成されている。これら複数の案内溝1aの各々には、内輪1が等速自在継手の外輪(図示省略)との間でトルクを伝達するためのボール(図示省略)が配される。
【0021】
内輪1には、シャフト2と嵌合する軸孔1bが形成されている。軸孔1bの内周面には雌スプライン1cが形成されると共に、シャフト2の外周面には雄スプライン2aが形成されている。これら雌雄のスプライン1c,2aにより、シャフト2の先端部2xが軸孔1bから突き出た状態の下で、軸孔1bとシャフト2とが嵌合している。軸孔1bのシャフト基端側の開口における縁部には、シャフト2のテーパ部2bに当接するテーパ面でなるチャンファ1dが形成されている。このチャンファ1dによりシャフト2の先端側への移動が規制される。
【0022】
図2に示すように、本実施形態に係る抜け止め構造は、内輪1からシャフト2の抜けを防止するべく、シャフト2に形成された第一クリップ溝2cと、第一クリップ溝2cに装着された断面円形の止め輪3と、内輪1に形成され、止め輪3を外径側から覆う第二クリップ溝1eとを有する。
【0023】
第一クリップ溝2cは、シャフト2の外周面に沿って環状に形成されている。第一クリップ溝2cは、円弧状の溝底面を有すると共に、軸方向で対向する一対の側面2ca,2cbを有する。両側面2ca,2cbは、いずれも軸方向と直交する面となっている。両側面2ca,2cbのうち、シャフト先端側の側面2caは、後述のように側面2ca自身と第二クリップ溝1eとの相互間に止め輪3を介在させる。第一クリップ溝2cの溝幅は、止め輪3の断面の径よりも大きくなっており、止め輪3と、両側面2ca,2cbの少なくとも一方との間には、常に隙間が形成される。
【0024】
止め輪3は、第一クリップ溝2cに装着された状態で弾性変形により拡径および縮径する(輪の径を伸縮させる)ことが可能である。止め輪3の拡径および縮径は、後述のように止め輪3が第二クリップ溝1e内を軸方向に移動(シャフト先端側に移動、或いは、シャフト基端側に移動)するのに伴って生じる。
【0025】
第二クリップ溝1eは、軸孔1bのシャフト先端側の開口における縁部に形成されている。第二クリップ溝1eは、止め輪3を自然長よりも縮径させた状態で、且つ雌スプライン1cのスプライン孔の内径よりも拡径させた状態で、外径側から覆っている。ここで「自然長」とは、第一クリップ溝2cに装着された止め輪3に対して、シャフト2以外から外力が作用していない状態での止め輪3の径を意味する。これにより、第二クリップ溝1e内の止め輪3には、常に自然長に復元(拡径)しようとする復元力が働く。
【0026】
図3に示すように、第二クリップ溝1eは、止め輪3のシャフト基端側への移動を規制する規制面1eaと、止め輪3をシャフト先端側に誘導する誘導面1ebとを有する。規制面1eaおよび誘導面1ebは、いずれもシャフト先端側に向かって漸次拡径したテーパ面(線形テーパ)でなり、誘導面1ebは規制面1eaのシャフト先端側に連なっている。ここで、本実施形態では、規制面1eaと誘導面1ebとが直接に連なっているが、変形例として、両面1ea,1ebの双方と滑らかに連なるRの付いた曲面を介して両面1ea,1ebが間接的に連なっていてもよい。
【0027】
本実施形態では、規制面1eaのテーパ角度が誘導面1ebのテーパ角度よりも大きくなっている。これにより、規制面1eaと誘導面1ebとがなす角の角度が180°未満となっている。ここで、変形例として、規制面1eaのテーパ角度が誘導面1ebのテーパ角度よりも小さくてもよいし、規制面1eaと誘導面1ebとの間でテーパ角度の大きさが同一であってもよい。また、本実施形態では、規制面1eaおよび誘導面1ebがなすテーパ面が線形テーパとなっているが、変形例として、シャフト先端側に向かって漸次拡径する限りで、放物線テーパや指数関数テーパであってもよい。
【0028】
規制面1eaおよび誘導面1ebがなすテーパ面と、第二クリップ溝1e内の止め輪3に働く復元力との相互作用により、第二クリップ溝1e内の止め輪3は、常に拡径しようとすると共に、シャフト先端側に誘導される。詳細には、第二クリップ溝1e内にて、復元力に基づいて止め輪3からテーパ面に対して力が作用することで、その反作用としてテーパ面から止め輪3に対して力が作用する。この止め輪3に対して作用する力の軸方向の分力により、止め輪3がシャフト先端側に誘導される。さらに、止め輪3のシャフト先端側への移動に伴い、漸次拡径するテーパ面に合わせて止め輪3の径が漸次拡径していく。
【0029】
以上に説明した構成から、図2及び図3に示すように、内輪1とシャフト2とが組み付いた状態(シャフト2が内輪1から抜けようとしていない状態)の下では、以下のとおり内輪1とシャフト2との両者間における軸方向のガタツキが回避される。
【0030】
すなわち、上記の状態の下では、誘導面1ebによって止め輪3がシャフト先端側に誘導され、第一クリップ溝2cの側面2caに当接するまで、止め輪3がシャフト先端側に移動しきった状態となる。この際の止め輪3は、第二クリップ溝1e内で可及的に拡径した状態となると共に、第一クリップ溝2cの側面2caと誘導面1ebとの相互間に介在した状態となる。これによりガタ詰めがなされ、ガタツキが回避される。
【0031】
一方で、シャフト2が内輪1から抜けようとする際(内輪1に対して相対的にシャフト基端側に移動した際)には、以下のとおりシャフト2の抜けが防止される。
【0032】
すなわち、上記の際には、シャフト2の基端側への移動に伴い、第一クリップ溝2cの側面2caに押されることで、止め輪3は誘導面1ebによる誘導に反してシャフト基端側に押し込まれていく。また、止め輪3はシャフト基端側に押し込まれつつ、誘導面1ebがなすテーパ面に合わせて復元力に反して漸次縮径していく。そして、図4に示すように、止め輪3が誘導面1ebを通過して規制面1eaまで押し込まれると、規制面1eaによって止め輪3のシャフト基端側への移動が規制される。この際の止め輪3は、第一クリップ溝2cの側面2caと規制面1eaとの相互間に介在した状態となる。これにより、シャフト2の抜けが防止される。
【0033】
上記の構造によれば、内輪1からシャフト2の抜けを防止できるのみでなく、両者1,2間の軸方向のガタツキをも回避できる。そして、ガタツキを回避するべく新たな部材を導入する必要もない。これにより、構造の部品点数が増加したり、組立に必要な工数が増えたりして、コストが高騰する虞を確実に排除でき、低コストでガタツキの回避を実現できる。
【符号の説明】
【0034】
1 内輪
1b 軸孔
1e 第二クリップ溝
1ea 規制面
1eb 誘導面
2 シャフト
2c 第一クリップ溝
3 止め輪
図1
図2
図3
図4
図5