【解決手段】塗膜診断装置が、素地に対して塗膜を形成する塗料の表面に配置される第1電極と、前記第1電極に所定の電気信号を印加する印加手段と、前記第1電極に印加された前記所定の電気信号に基づいた電流が前記塗膜及び素地を通じて流れる位置に配置される第2電極と、前記第2電極に流れる前記電流を対数変換した電圧を出力する変換手段と、前記変換手段の出力した電圧の電圧値を、塗膜に関する診断用情報として取得する制御手段と、を備える。
前記制御手段は、前記変換手段の出力した電圧の電圧値に基づいて前記印加手段による所定の電気信号の印加を制御することを特徴とする請求項1に記載の塗膜診断装置。
前記制御手段は、前記診断用情報の取得を開始してから前記診断用情報の取得を終了するまでの間に、前記印加手段による所定の電気信号の印加の制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の塗膜診断装置。
前記制御手段は、前記印加手段による所定の電気信号の印加を制御することにより、前記所定の電気信号を、定電流の電気信号とすることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の塗膜診断装置。
前記制御手段は、前記印加手段による所定の電気信号の印加を制御することにより、前記所定の電気信号を、定電圧の電気信号とすることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の塗膜診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
<塗膜診断装置の外観構造>
まず
図1及び
図2を参照して、本実施形態である塗膜診断装置10の外観構成について説明をする。塗膜診断装置10は、略円筒状の形状をしている。そして、
図1はこの略円筒状の塗膜診断装置10の上面を示す図であり、
図2は
図1のA−A断面図である。
【0013】
図1に示すように、塗膜診断装置10は、コントロール基板11、LCD(Liquid Crystal Display)表示器12、設定用SW群13、及びUSB(Universal Serial Bus)コネクタ14を上面に備える。なお、
図1では、塗膜診断装置10が備える各部を収容する筐体について図示を省略する。
【0014】
コントロール基板11は、塗膜診断装置10を制御するためのCPU(Central Processing Unit)等が搭載されたプリント基板である。コントロール基板11に搭載されるCPU等の詳細については、
図3を参照して後述する。
【0015】
LCD表示器12は、塗膜診断に関する各種設定用のユーザインタフェースや、上記CPUによる演算処理により算出される診断結果等を表示するための表示器である。
設定用SW群13は、ユーザからの、塗膜診断に関する各種設定を行うため操作を受け付ける部分である。設定用SW群13は、例えば、複数のボタンスイッチにより実現される。
【0016】
USBコネクタ14は、上記CPUが外部装置との間で所定の情報を送受信するためのコネクタである。USBコネクタ14は、USB規格に準拠したコネクタにより実現される。このUSBコネクタ14には、外部装置として、例えばパーソナルコンピュータが接続される。
【0017】
また、
図2に示すように、塗膜診断装置10は、アナログ基板15、バッテリ16、スペーサ17、第1電極18、第2電極19、及び磁石部20を更に備える。これら、塗膜診断装置10が備える各部は、筐体21に収容される。
【0018】
アナログ基板15は、塗膜診断を行うための定電流回路を実現するための電子部品が搭載された基板である。アナログ基板15に搭載される電子部品の詳細については、
図3を参照して後述する。
【0019】
バッテリ16は、塗膜診断装置10が備える各部に電力を供給するためのバッテリである。例えば、上述した、LCD表示器12や、コントロール基板11及びアナログ基板15に搭載された電子部品等は、バッテリ16から供給される電力により駆動する。
【0020】
スペーサ17は、コントロール基板11とアナログ基板15との間に所定の空間(スペース)を設ける部分である。アナログ基板15上に搭載される電子部品は、この所定の空間に配置される。
【0021】
第1電極18は、塗膜診断装置10の診断対象となる塗膜が形成された構造物の素地(例えば鉄)に配置される電極である。また、第2電極19は、診断対象となる塗膜が形成された構造物における、塗膜の表面に配置される電極である。
【0022】
第1電極18は、例えば、素地に配置するための接触子であるプローブとして実現される。一方で、第2電極19は、例えば、導電性ゲルをしみこませたスポンジ状のパッドを貼り付けた電極により実現される。ただし、塗膜診断装置10では、従来に比べて、診断対象の抵抗値が大きな場合でも診断が可能である。そのため、このような導電性ゲルをしみこませたスポンジ状のパッドによって、導電性を高める必要なく診断を行うことができる場合が多い。このような場合には、パッドを省いた乾式の電極により第2電極19を実現するようにしてもよい。
【0023】
磁石部20は、永久磁石を備えた部分である。磁石部20と、診断対象となる塗膜が形成された構造物の素地との間に作用する吸引力によって第2電極19は塗膜の表面の塗料に密着する。
【0024】
筐体21は、塗膜診断装置10が備える各部を収容する筐体である。筐体21は、例えばABS樹脂等により形成される。筐体21の形状は、上述したように略円筒状の形状であり、その直径は例えば5[cm]である。筐体21の底面には、開口部が設けられており、開口部からは、上述した第2電極19が突出する構成となっている。第2電極19も略円筒状の形状をしており、その直径は例えば3.8[cm]である。なお、筐体21の構造自体は、本実施形態の要旨ではないので、筐体21の開口部の構造については、図示を省略する。
【0025】
<塗膜診断装置内部の機能ブロック>
次に、上述した構成の塗膜診断装置10内部の機能ブロックについて、
図3を参照して説明をする。
【0026】
塗膜診断装置10は、機能ブロックとして、CPU111、ROM(Read Only Memory)112、RAM(Random Access Memory)113、及びバス114を備える。これら各部は、コントロール基板11に搭載された電子部品により実現される。
【0027】
また、塗膜診断装置10は、機能ブロックとして、D/A変換回路(図中では「DAC」と表記する。)151、電流ログアンプ(図中では「logIVC」と表記する。)152、及びA/D変換回路(図中では「ADC」と表記する。)153を備える。これら各部は、アナログ基板15に搭載された電子部品により実現される。
【0028】
更に、これら機能ブロック以外にも、バス114には、LCD表示器12、設定用SW群13、及びUSBコネクタ14が接続される。更に、USBコネクタ14には、外部装置300が接続される。更に、D/A変換回路151の出力端子には、第1電極18から導出されたリード線が接続される。また、電流ログアンプ152の入力端子には、第2電極19から導出されたリード線が接続される。
【0029】
次に、これら各部の機能及びその動作について説明をする。
CPU111は、塗膜診断装置10全体を制御することにより、塗膜の診断処理を実行する部分である。CPU111は、ROM112に記録されているプログラムを読み込み、読み込んだプログラムをRAM113に展開させながら、プログラムに基づいた演算処理を行なう。また、CPU111は、この演算結果に基づいて、各装置が備える各種のハードウェアを制御する。これにより、塗膜診断装置10の機能ブロックは実現される。つまり、塗膜診断装置10は、ハードウェアとソフトウェアが協働することにより実現することができる。
【0030】
バス114は、CPU111、ROM112、RAM113、LCD表示器12、設定用SW群13、USBコネクタ14を接続する部分であり、これら各部で送受信されるデータを中継する。送受信されるデータとしては、例えば、LCD表示器12に表示する画像データが、CPU111からLCD表示器12に対して送信される。また、例えば、設定用SW群13が受け付けた操作内容を示すデータが、設定用SW群13からCPU111に対して送信される。また、例えば、後述する測定データが、CPU111から外部装置300に対して送信される。
【0031】
D/A変換回路151は、バス114を介してCPU111から入力される制御データをデジタル−アナログ変換することにより定電流を生成し、生成した定電流Isを第1電極18に対して印加する部分である。D/A変換回路151が印加する定電流Isは、例えば、1[pA]〜1[mA]である。この定電流Isの電流値は、CPU111により適宜設定される。
【0032】
第1電極18に対して印加された電流Isは、塗膜及び素地を通じて第2電極19に流れる。
電流ログアンプ152は、第2電極に流れる電流を入力とし、この入力された電流を対数に圧縮した電圧Vsを出力する、電流ログアンプである。すなわち、電流ログアンプ152は、出力する電圧Vsが入力電流に対する対数関数(log)となるように対数変換をする。
【0033】
ここで、電流ログアンプ152には、例えば1[pA]〜1[mA]といった非常に幅広い範囲(レンジ)の電流を入力することができる。そのため、塗膜診断装置10では、従来の電圧を入力としたログアンプを用いる塗膜診断装置のように、レンジ切り替えを行うことにより、所定のレンジ内に限定して電流を流す必要は無い。従って、塗膜診断装置10では、レンジ切り替え用の多くの抵抗や、抵抗を切り替えるためのリレー回路等が不要となる。
すなわち、本実施形態では、従来に比して、より簡易な構成の塗膜診断装置である塗膜診断装置10を提供することができる。
【0034】
A/D変換回路153は、電流ログアンプ152が出力する電圧Vsをアナログ−デジタル変換する部分である。A/D変換回路153により変換後のデジタル値(すなわち、電圧Vsの電圧値)は、測定データとしてCPU111に対して出力される。
【0035】
<塗膜診断>
以上説明した機能ブロックの機能により、塗膜診断装置10による塗膜に関する診断を実現することができる。
具体的には、CPU111が、この測定データに基づいて、制御データを生成することにより、D/A変換回路151が定電流を出力できるように制御を行う。
また、CPU111は、この測定データに基づいて塗膜の診断を行う。そして、CPU111は、診断結果をLCD表示器12に表示させる。
【0036】
あるいは、CPU111は、この測定データをバス114及びUSBコネクタ14(とUSBコネクタ14と外部装置300を接続するUSBケーブル)を介して外部装置300に送信する。そして、外部装置300が、受信した測定データに基づいて、塗膜の診断を行い、診断結果をディスプレイに表示する。
【0037】
CPU111や外部装置300が行う塗膜の診断については、任意の手法を用いてよい。例えば、CPU111や外部装置300は、カレントインタラプタ法を用いて塗膜の診断を行うことができる。ここで、カレントインタラプタ法は、2012年にISO 13129(Paints and varnishes. Electrochemical measurement of the protection provided to steel by paint coatings. Current interrupter technique, relaxation voltammetry technique and DC transient measurements)に認定された手法であり、当業者にとってよく知られているので、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0038】
<塗膜診断装置10が奏する効果>
以上説明した塗膜診断装置10が奏する効果について説明をする。
上述した、特許文献1や特許文献2に記載の従来の塗膜診断装置では、電圧を入力とするログアンプを用いていたため、レンジ切り替え用の多くの抵抗や、抵抗を切り替えるためのリレー回路等が必要であった。例えば、1[kΩ]〜1[TΩ]までの10個の抵抗と、この抵抗を切り替えるためのリレー回路等が必要であった。
【0039】
これに対して、塗膜診断装置10では、電流ログアンプ152を用いているので、上述したように、これらレンジ切り替え用の多くの抵抗や、抵抗を切り替えるためのリレー回路等を省くことができる。すなわち、本実施形態によれば、従来に比して、より簡易な構成の塗膜診断装置である塗膜診断装置を提供することができる。
【0040】
これに伴い、塗膜診断装置を小型化及び軽量化することもできる。例えば、従来の塗膜診断装置の重量は例えば8[kg]程度であり、その大きさは例えば30[cm]×30[cm]程度×20[cm]程度の立方体であった。これに対して、本実施形態によれば、より簡易な構成で塗膜診断装置を実現することができるので、例えば、重量を500[g]、その大きさを直径5[cm]程度の円筒状の形状とすることができる。
【0041】
また、従来の塗膜診断装置は、上述したような重さ及び大きさであったので、診断対象とする構造物に直接配置して診断を行うようなことができなかった。従って、構造物から離れた位置に塗膜診断装置を設置した上で、例えば同軸ケーブルにより、塗膜診断装置とセンサ部(第2電極19に相当)とを接続して診断を行っていた。しかしながら、このようにすると、同軸ケーブルの絶縁抵抗が、例えば500[MΩ]のため、高抵抗測定時に精度が低下するという問題があった。また、同軸ケーブルが揺れた場合に電荷が発生してしまうため、振動がある屋外での診断は困難であった。
【0042】
これに対して、本実施形態よれば、上述したように塗膜診断装置10を軽量且つ小型にできるので、塗膜診断装置10の第2電極19を直接診断対象とする構造物の上に直接配置して診断を行うことができる。従って、本実施形態によれば、従来技術のような同軸ケーブルに起因する不都合を解消することができる。
【0043】
また、本実施形態では、測定中であっても定電流Isの電流値を変更することができる。この点について
図4及び
図5を参照して説明をする。
前提として、定電流Isと、塗膜及び素地の抵抗成分を乗算して得られる電圧Vsが所定値以上(例えば、0.1[V]以上)となると、被膜の腐食化が進行してしまう。かといって、定電流Isがあまりにも低い場合には、適切な診断を行うことができない。
そこで、塗膜の診断は、この電圧Vsが所定値以上とならない範囲で、一定以上の定電流Isを流して行う必要がある。
【0044】
しかしながら、従来の塗膜診断装置では、例えばユーザがレンジ切り換えを行う必要があり、レンジ切り換えを行ったとしても、定電流Isが変化するまでには時間を要していた。そのため、定電流Isを診断の途中で調整することは困難であった。この点について
図4に示す。図中に丸を付した第1例の波形のように充電波形が終了した時点で、電圧Vsが0.1[V]を超えておらず、そのまま放電しているので、この波形では適切に診断を行うことができる。これは、定電流Isが適切な電流値であることを示している。
【0045】
一方、図中にバツを付した第2例の波形のように充電の過程において電圧Vsが0.1[V]を超えている場合や、図中にバツを付した第3例の波形のように定電流Isの電流値が低すぎる場合には、診断を適切に行うことができない。しかしながら、上述したように、従来の塗膜診断装置では、定電流Isを診断の途中で調整することは困難であったので、診断のやり直しが発生していた。そのため、診断が終了するまでに多大な時間を要していた。
【0046】
これに対して、本実施形態の塗膜診断装置10であれば、レンジ切り換えが不要であり、CPU111が測定データに基づいて、適宜定電流Isの電流値を変更することができる。そのため、図中に丸を付した第4例の波形のように、定電流Isの印加が開始されて所定時間T1(例えば、10秒間)が経過した時点で、定電流Isの電流値を変更することにより、診断のやり直しを発生させることなく診断を終了させることができる。つまり、本実施形態によれば、診断終了までの時間を従来よりも短縮することが可能となる。
【0047】
<変形例>
上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0048】
例えば、上述の実施形態では、定電流回路により塗膜の診断を行っていた。これを変形して、定電圧回路により塗膜の診断を行うようにしてもよい。この場合、
図6に示すように定電流を印加していたD/A変換回路151を、定電圧を印加するためのD/A変換回路154に置き換える。
【0049】
そして、CPU111が定電圧を印加するための制御データを生成し、D/A変換回路154に対して出力する。また、D/A変換回路154が制御データに基づいて定電圧を出力する。
【0050】
このように変形することにより、電流ログアンプ152に入力される電流Isは
図7に示す第5例の波形のように変化する。CPU111は、このように変化する電流Isから生成される測定データに基づいて、塗膜の診断を行うことができる。
【0051】
なお、本変形例のようにした場合、塗膜及び素地の抵抗成分を乗算して得られる電圧Vsが、設定された定電圧(例えば、0.1[V]未満の定電圧)を超えることがない。従って、
図4を参照して説明したような、診断のやり直しが発生することを防止することができる。
【0052】
なお、上記の塗膜診断装置10は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。また、上記の塗膜診断装置10により行なわれる塗膜診断方法も、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。
【0053】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。