特開2020-54148(P2020-54148A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-54148(P2020-54148A)
(43)【公開日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】鉄心製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20200306BHJP
【FI】
   H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-182536(P2018-182536)
(22)【出願日】2018年9月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】福本 崇
(72)【発明者】
【氏名】小田 仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅志
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS05
5H615SS09
5H615SS15
5H615SS16
5H615SS18
5H615SS19
5H615SS24
5H615SS44
5H615TT07
5H615TT16
5H615TT31
5H615TT32
5H615TT34
(57)【要約】
【課題】本開示は、端面板の鉄心本体に対する接合状態を良好に維持することが可能な回転体の製造方法を説明する。
【解決手段】鉄心製品の製造方法は、第1の温度とされた鉄心本体の端面に、第1の温度とは異なる第2の温度とされた端面板であって、鉄心本体とは異なる熱膨張係数を有する端面板が配置された状態で、鉄心本体と端面板とを溶接して、鉄心製品を構成することを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の温度とされた鉄心本体の端面に、前記第1の温度とは異なる第2の温度とされた端面板であって、前記鉄心本体とは異なる熱膨張係数を有する前記端面板が配置された状態で、前記鉄心本体と前記端面板とを溶接して、鉄心製品を構成することを含む、鉄心製品の製造方法。
【請求項2】
前記第1の温度は常温である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の温度は前記第1の温度よりも高い、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の温度のときの前記端面板の熱変形量と前記第1の温度のときの前記鉄心本体の熱変形量との差が、前記鉄心製品の動作時温度域における前記端面板の熱変形量と前記鉄心本体の熱変形量との差と対応するように、前記第1の温度及び前記第2の温度を設定する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記鉄心製品を構成することは、前記第1の温度とされた前記鉄心本体の端面に前記第2の温度とされた前記端面板及び保護板が配置された状態であって、前記鉄心本体の端面側から見たときに、前記保護板の周縁部に設けられている切欠部から前記端面板が部分的に露出し、前記保護板のうち前記切欠部以外の部分によって前記鉄心本体及び前記端面板が覆われた状態で、前記切欠部から前記鉄心本体と前記端面板とを溶接して、前記鉄心製品を構成することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄心製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、埋込磁石型(IPM:Interior Permanent Magnet)モータに用いられる回転子鉄心を開示している。当該回転子鉄心は、高さ方向に貫通して延びる複数の磁石挿入孔が回転軸周りに所定間隔をもって設けられた鉄心本体と、各磁石挿入孔にそれぞれ配置された永久磁石と、各磁石挿入孔に充填及び固化された固化樹脂とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−067094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような回転子鉄心を用いて回転子を構成する際、磁石挿入孔を閉塞するために、鉄心本体の両端面に端面板が取り付けられることがある。通常、端面板は溶接によって鉄心本体に固定される。回転子は回転及び停止に伴い昇温及び降温を繰り返すので、鉄心本体の熱膨張係数と端面板の熱膨張係数とが異なる場合、端面板と鉄心本体との間の溶接部に応力が作用し、これらの接合状態に影響が生じうる。
【0005】
本開示は、端面板の鉄心本体に対する接合状態を良好に維持することが可能な回転体の製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一つの観点に係る鉄心製品の製造方法は、鉄心製品の製造方法は、第1の温度とされた鉄心本体の端面に、第1の温度とは異なる第2の温度とされた端面板であって、鉄心本体とは異なる熱膨張係数を有する端面板が配置された状態で、鉄心本体と端面板とを溶接して、鉄心製品を構成することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る鉄心製品の製造方法によれば、端面板の鉄心本体に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、回転子の一例を示す分解斜視図である。
図2図2は、図1のII−II線断面図である。
図3図3は、回転子の製造装置の一例を示す概略図である。
図4図4は、樹脂注入装置により積層体の磁石挿入孔に溶融樹脂を注入する様子を説明するための断面図である。
図5図5は、溶接装置により各端面板を回転子積層鉄心に溶接する様子を説明するための断面図である。
図6図6は、溶接装置の保護板の一例を示す上面図である。
図7図7は、回転子の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図8図8は、積層体及び端面板のそれぞれについて、温度に対する熱変形量の変化の様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0010】
[回転子の構成]
まず、図1及び図2を参照して、回転子1(ロータ)の構成について説明する。回転子1は、固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)を構成する。回転子1は、例えば、埋込磁石型(IPM)モータを構成してもよい。モータに電力が供給されると、回転子1の回転に伴い、回転子1及び固定子が昇温する。モータの動作中(回転子の回転中)における回転子1又は固定子(鉄心製品)の温度範囲T1〜T2(動作時温度域)は、モータの用途によって種々の範囲を取りうるが、例えば、50℃〜100℃程度である。
【0011】
回転子1は、回転子積層鉄心2(鉄心製品)と、一対の端面板3,4と、シャフト5とを含む。
【0012】
回転子積層鉄心2は、積層体10(鉄心本体)と、複数の永久磁石12と、複数の固化樹脂14(樹脂部)とを備える。
【0013】
積層体10は、図1に示されるように、円筒状を呈している。すなわち、積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する軸孔10aが設けられている。軸孔10aは、積層体10の高さ方向(上下方向)に延びている。積層体10は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸でもある。
【0014】
軸孔10aの内周面には、一対の突条10bが形成されている。突条10bは、積層体10の上端面S1(端面)から下端面S2(端面)に至るまで高さ方向に延びている。一対の突条10bは、中心軸Axを間において対向しており、軸孔10aの内周面から中心軸Axに向けて突出している。
【0015】
積層体10には、複数の磁石挿入孔16(樹脂注入部)が形成されている。磁石挿入孔16は、図1に示されるように、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16は、図2に示されるように、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通している。すなわち、磁石挿入孔16は高さ方向に延びている。磁石挿入孔16の形状は、例えば、積層体10の外周縁に沿って延びる長孔であってもよい。磁石挿入孔16の数は、例えば6個であってもよい。磁石挿入孔16の位置、形状及び数は、モータの用途、要求される性能などに応じて変更してもよい。
【0016】
積層体10は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、後述する電磁鋼板ESが所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。積層体10は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に打抜部材Wの板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0017】
積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、図1及び図2に示されるように、カシメ部18によって締結されていてもよい。これらの打抜部材W同士は、カシメ部18に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。例えば、複数の打抜部材W同士は、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して積層体10を得た後、仮カシメを当該積層体から除去してもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ回転子積層鉄心2を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0018】
永久磁石12は、図1及び図2に示されるように、各磁石挿入孔16内に一つずつ挿入されている。永久磁石12の形状は、特に限定されないが、例えば直方体形状を呈していてもよい。永久磁石12の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて決定すればよく、例えば、焼結磁石であってもよいし、ボンド磁石であってもよい。
【0019】
固化樹脂14は、永久磁石12が挿入された状態の磁石挿入孔16内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填された後に、当該溶融樹脂が固化したものである。固化樹脂14は、永久磁石12を磁石挿入孔16内に固定する機能と、積層方向(上下方向)で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。固化樹脂14を構成する樹脂材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0020】
端面板3,4は、図1に示されるように、円環状を呈している。すなわち、端面板3,4の中央部にはそれぞれ、端面板3,4を貫通する軸孔3a,4aが設けられている。端面板3,4の外径は、例えば、積層体10の外径よりも小さく設定されていてもよいし、積層体10の外径と同程度に設定されていてもよい。
【0021】
軸孔3aの内周面には、一対の突起3bが形成されている。一対の突起3bは、中心軸Axを間において対向しており、軸孔3aの内周面から中心軸Axに向けて突出している。軸孔4aの内周面にも、軸孔3aと同様に、一対の突起4bが形成されている。
【0022】
端面板3,4はそれぞれ、積層体10の上端面S1及び下端面S2に配置されており、積層体10と溶接により接合されている。例えば、端面板3は、図2に示されるように、端面板3及び積層体10を跨がるように設けられた溶接ビードB1を介して、積層体10の上端近傍に位置する一枚以上の打抜部材Wと接合されている。同様に、端面板4は、端面板4及び積層体10を跨がるように設けられた溶接ビードB2によって、積層体10の下端近傍に位置する一枚以上の打抜部材Wと接合されている。このように、回転子積層鉄心2と端面板3,4とは、溶接によって一体化されているので、一つの回転体6(鉄心製品)として機能する。
【0023】
端面板3,4は、ステンレス鋼によって構成されていてもよい。当該ステンレス鋼としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304等)が挙げられる。端面板3,4は、非磁性材料によって構成されていてもよい。端面板3,4の熱膨張係数は、通常、電磁鋼板の熱膨張係数よりも高いが、電磁鋼板の熱膨張係数と同程度であってもよいし、電磁鋼板の熱膨張係数よりも小さくてもよい。
【0024】
シャフト5は、全体として円柱状を呈している。シャフト5には、一対の凹溝5aが形成されている。凹溝5aは、シャフト5の一端から他端にかけてシャフト5の延在方向に延びている。シャフト5は、軸孔3a,4a,10a内に挿通されている。このとき、凹溝5aには、突起3b,4b及び突条10bが係合する。これにより、シャフト5と回転子積層鉄心2との間で回転力が伝達する。
【0025】
[回転子の製造装置]
続いて、図3図6を参照して、回転子1の製造装置100について説明する。
【0026】
製造装置100は、帯状の金属板である電磁鋼板ES(被加工板)から回転子1を製造するための装置である。製造装置100は、アンコイラー110と、送出装置120と、打抜装置130と、樹脂注入装置140と、溶接装置150と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0027】
アンコイラー110は、コイル状に巻回された帯状の電磁鋼板ESであるコイル材111が装着された状態で、コイル材111を回転自在に保持する。送出装置120は、電磁鋼板ESを上下から挟み込む一対のローラ121,122を有する。一対のローラ121,122は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置130に向けて間欠的に順次送り出す。
【0028】
打抜装置130は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。打抜装置130は、送出装置120によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0029】
積層体10は、打抜装置130から排出されると、打抜装置130と溶接装置150との間を延びるように設けられたコンベアCvに載置される。コンベアCvは、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10を樹脂注入装置140に送り出す。
【0030】
樹脂注入装置140は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。樹脂注入装置140は、各磁石挿入孔16に永久磁石12を挿通する機能と、永久磁石12が挿通された状態の磁石挿入孔16内に溶融樹脂を充填する機能とを有する。樹脂注入装置140は、図4に詳しく示されるように、下型141と、上型142と、複数のプランジャ143とを含む。
【0031】
下型141は、ベース部材141aと、ベース部材141aに設けられた挿通ポスト141bとを含む。ベース部材141aは、積層体10を載置可能に構成されている。挿通ポスト141bは、ベース部材141aの略中央部に位置しており、ベース部材141aの上面から上方に向けて突出している。挿通ポスト141bは、円柱形状を呈しており、積層体10の軸孔10aに対応する外形を有する。なお、下型141の内部に内臓熱源が配置されていてもよい。
【0032】
上型142は、下型141と共に積層体10を積層方向(積層体10の高さ方向)において挟持可能に構成されている。上型142は、ベース部材142aと、内蔵熱源142bとを含む。
【0033】
ベース部材142aは、矩形状を呈する板状部材である。ベース部材142aには、一つの貫通孔142cと、複数の収容孔142dとが設けられている。貫通孔142cは、ベース部材142aの略中央部に位置している。貫通孔142cは、挿通ポスト141bに対応する形状(略円形状)を呈しており、挿通ポスト141bが挿通可能である。
【0034】
複数の収容孔142dは、ベース部材142aを貫通しており、貫通孔142cの周囲に沿って所定間隔で並んでいる。各収容孔142dは、下型141及び上型142が積層体10を挟持した際に、積層体10の磁石挿入孔16にそれぞれ対応する箇所に位置している。各収容孔142dは、円柱形状を呈しており、少なくとも一つの樹脂ペレットPを収容可能である。
【0035】
内蔵熱源142bは、例えば、ベース部材142aに内蔵されたヒータである。内蔵熱源142bが動作すると、ベース部材142aが加熱され、ベース部材142aに接触している積層体10が加熱されると共に、各収容孔142dに収容された樹脂ペレットPが
加熱される。これにより、樹脂ペレットPが溶融して溶融樹脂に変化する。
【0036】
複数のプランジャ143は、上型142の上方に位置している。各プランジャ143は、図示しない駆動源によって、対応する収容孔142dに対して挿抜可能となるように構成されている。
【0037】
積層体10は、樹脂注入装置140から排出されると、再びコンベアCvに載置される。コンベアCvは、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10を溶接装置150に送り出す。
【0038】
溶接装置150は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。溶接装置150は、回転子積層鉄心2と端面板3,4とを溶接する機能を有する。溶接装置150は、図5に詳しく示されるように、保護板151,152と、溶接トーチ153,154とを含む。
【0039】
保護板151,152は、円板状を呈している。保護板151,152の外径は、端面板3,4及び積層体10の外径よりも大きく設定されていてもよいし、端面板3,4及び積層体10の外径と同程度に設定されていてもよい。
【0040】
保護板151は、回転子積層鉄心2及び端面板3の上方に位置している。保護板152は、回転子積層鉄心2及び端面板4の下方に位置している。保護板151,152は、回転子積層鉄心2及び端面板3,4を挟持可能に構成されている。すなわち、端面板3は、保護板151と回転子積層鉄心2とで挟持されうる。端面板4は、保護板152と回転子積層鉄心2とで挟持されうる。
【0041】
保護板151,152の内部にはそれぞれ、内蔵熱源151a,152aが設けられている。内蔵熱源151a,152aはそれぞれ、保護板151,152が端面板3,4と当接した状態で、端面板3,4を加熱するように構成されている。内蔵熱源151a,152aは、例えばヒータであってもよい。
【0042】
保護板151,152の周縁部にはそれぞれ、複数の切欠部151b,152bが設けられている。例えば、図6に示されるように、保護板151の中心軸周りに略60°間隔で、6つの切欠部151bが保護板151の周縁部に設けられていてもよい。同様に、保護板152の中心軸周りに略60°間隔で、6つの切欠部152bが保護板152の周縁部に設けられていてもよい。切欠部151b,152bの形状は、特に限定されないが、例えば、略半円状を呈していてもよいし(図6参照)、略矩形状を呈していてもよい。
【0043】
切欠部151bは保護板151の外周縁から内側に向けて窪んでいる。そのため、保護板151が端面板3に当接した状態において、切欠部151bからは端面板3及び積層体10が部分的に露出する。一方、保護板151のうち切欠部151b以外の部分は、端面板3及び積層体10を覆っている。
【0044】
切欠部152bは保護板152の外周縁から内側に向けて窪んでいる。そのため、保護板152が端面板4に当接した状態において、切欠部152bからは端面板4及び積層体10が部分的に露出する。一方、保護板152のうち切欠部152b以外の部分は、端面板4及び積層体10を覆っている。
【0045】
溶接トーチ153,154はそれぞれ、端面板3,4と積層体10とを溶接するように構成されている。溶接トーチ153,154は、例えば、レーザ溶接機であってもよい。溶接トーチ153の先端は、切欠部151bから露出している端面板3及び積層体10の周縁部に向かっている。溶接トーチ154の先端は、切欠部152bから露出している端面板4及び積層体10の周縁部に向かっている。
【0046】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、打抜装置130、樹脂注入装置140及び溶接装置150をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、これらに当該指示信号をそれぞれ送信する。
【0047】
[回転子の製造方法]
続いて、図3図8を参照して、回転子1の製造方法について説明する。まず、図3に示されるように、打抜装置130により電磁鋼板ESを順次打ち抜きつつ打抜部材Wを積層して、積層体10を形成する(図7のステップS11参照)。
【0048】
次に、積層体10を樹脂注入装置140に搬送して、図4に示されるように、樹脂注入装置140の下型141に積層体10を載置する。次に、各磁石挿入孔16内に永久磁石12を挿入する(図7のステップS12を参照)。各磁石挿入孔16内への永久磁石12の挿入は、人手で行われてもよいし、コントローラCtrの指示に基づいて、樹脂注入装置140が備えるロボットハンド(図示せず)等により行われてもよい。
【0049】
次に、上型142を積層体10上に載置する。そのため、積層体10は、下型141及び上型142で積層方向から挟持された状態となる。次に、各収容孔142dに樹脂ペレットPを投入する。上型142の内蔵熱源142bにより樹脂ペレットPが溶融状態となると、溶融樹脂をプランジャ143によって各磁石挿入孔16内に注入する(図7のステップS13を参照)。このとき、積層体10は、内蔵熱源142bにより、例えば150℃〜180℃程度に加熱される。その後、溶融樹脂が固化すると、磁石挿入孔16内に固化樹脂14が形成される。下型141及び上型142が積層体10から取り外されると、回転子積層鉄心2が完成する。
【0050】
次に、回転子積層鉄心2を所定の温度T0(第1の温度)となるまで冷却する(図7のステップS14を参照)。冷却方法としては、自然冷却であってもよいし、冷却機(クーラー)等を用いた強制冷却であってもよい。回転子積層鉄心2は、ステップS13において積層体10が加熱された温度を下回る程度まで冷却されてもよいし、常温となるまで冷却されてもよい。冷却機を用いる場合には、自然冷却と比較して、冷却に要する時間が短縮される。そのため、溶接処理を開始するまでの時間が短縮されるので、回転体6の製造効率を高めることが可能となる。本明細書において、「常温」とは、5℃〜35℃を意味する(JIS Z 8703:1983「試験場所の標準状態」に準拠)。
【0051】
次に、回転子積層鉄心2を溶接装置150に搬送して、図5に示されるように、積層体10の上端面S1に端面板3を配置すると共に、積層体10の下端面S2に端面板4を配置する。この状態で、内蔵熱源151a,152aによって所定温度まで加熱された保護板151,152によって、積層体10及び端面板3,4を挟持する。これにより、端面板3,4が温度T3(第2の温度)となるまで加熱される。一方、積層体10は、端面板3,4と比較して熱容量が非常に大きい。そのため、内蔵熱源151a,152aの熱エネルギーが端面板3,4を介して積層体10に移動したとしても、積層体10の温度はほとんど上昇しない。
【0052】
次に、温度T3の端面板3,4と温度T0(常温)の積層体10とを溶接する(図7のステップS15参照)。例えば、コントローラCtrが溶接トーチ153に指示して、切欠部151bから露出している端面板3(温度T3)及び積層体10(温度T0)を溶接する。同様に、コントローラCtrが溶接トーチ154に指示して、切欠部152bから露出している端面板4(温度T3)及び積層体10(温度T0)を溶接する。これにより、端面板3,4が回転子積層鉄心2に接合された回転体6が構成される。
【0053】
次に、回転体6にシャフト5を取り付ける(図7のステップS16参照)。シャフト5は、例えば、回転体6に対して焼き嵌めされてもよい。こうして、回転子1が完成する。
【0054】
ここで、冷却後の回転子積層鉄心2の温度T0が常温であり、端面板3,4の熱膨張係数α1が積層体10の熱膨張係数α2よりも大きい(α1>α2)場合の、端面板3,4の温度T3の設定方法について、図8を参照して説明する。図8では、温度T0(常温)のときの積層体10及び端面板3,4の熱変形量を共に0(基準値)としている。
【0055】
図8に示されるように、固体の熱変形量は、熱膨張係数を比例定数として温度に正比例する。そのため、端面板3,4及び積層体10の温度が上昇するほど、これらの熱変形量が大きくなり、両者の熱膨張係数の差(α1−α2)に比例して両者の熱変形量の差が大きくなる。例えば、回転子1の動作時温度域の下限の温度T1では変形差ΔL1が生じ、回転子1の動作時温度域の上限の温度T2では変形差ΔL2が生ずる。すなわち、回転子1の動作時には、変形差がΔL1〜ΔL2の間で変化しうる。
【0056】
回転子1の動作時に、溶接ビードB1,B2に作用する応力を低減するためには、溶接時における端面板3,4及び積層体10の変形差を予め、回転子1の動作時におけるこれらの変形差に近づけた状態で、溶接を行えばよい。例えば、温度T3のときの端面板3,4の熱変形量と温度T0(常温)のときの積層体10の熱変形量との変形差ΔL3が、回転子1の動作時におけるこれらの変形差と対応するように(ΔL1≦ΔL3≦ΔL2を満たすように)、温度T3を設定すればよい。
【0057】
[作用]
以上の実施形態では、互いに異なる温度(T0,T3)の積層体10と端面板3,4とが溶接される。すなわち、溶接時における積層体10の熱変形量と端面板3,4の熱変形量との差が、回転子1の動作時における積層体10の熱変形量と端面板3,4の熱変形量との差に近づいた状態で、積層体10と端面板3,4とが溶接される。そのため、回転子1の動作時において、積層体10と端面板3,4との間に応力が作用し難い。したがって、端面板3,4の積層体10に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【0058】
以上の実施形態では、溶接時において、積層体10の温度T0が常温とされている。そのため、熱容量が比較的大きい積層体10の温度T0を、溶接時に改めてコントロールする必要がなくなる。すなわち、熱容量が比較的小さい端面板3,4の温度T3をコントロールすることで、溶接時における積層体10の熱変形量と端面板3,4の熱変形量との差を、回転子1の動作時における積層体10の熱変形量と端面板3,4の熱変形量との差に迅速に近づけることができる。そのため、省エネ化及びリードタイム(製造時間)の短縮化を図りつつ、端面板3,4の積層体10に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【0059】
以上の実施形態では、溶接時において、端面板3,4の温度T3が積層体10の温度T0よりも高く設定されている。端面板3,4の熱容量は比較的小さいので、端面板3,4を加熱することにより、温度T3が温度T0よりも高い状態が容易に且つ迅速に実現できる。そのため、省エネ化及びリードタイム(製造時間)の短縮化を図りつつ、端面板3,4の積層体10に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【0060】
以上の実施形態では、溶接時における端面板3,4及び積層体10の変形差が、回転子1の動作時におけるこれらの変形差と対応するように、温度T3が設定される。このとき、変形差ΔL3が変形差ΔL1〜ΔL2と略同等となる。そのため、回転子1の動作時において、積層体10と端面板3,4との間に応力が極めて作用し難くなる。したがって、端面板3,4の積層体10に対する接合状態をいっそう良好に維持することが可能となる。
【0061】
以上の実施形態では、溶接時において、積層体10の上端面S1側から見たときに、保護板151,152の周縁部に設けられている切欠部151b,152bから端面板3,4及び積層体10が部分的に露出し、保護板151,152のうち切欠部151b,152b以外の部分によって積層体10及び端面板3,4が覆われた状態とされている。そのため、切欠部151b,152bにおける溶接処理でスパッタが発生したとしても、端面板3,4及び積層体10へのスパッタの付着が抑制される。したがって、回転子積層鉄心2の品質向上を図ることが可能となる。
【0062】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0063】
(1)溶接時における積層体10の温度T0は、溶接時における端面板3,4の温度T3と異なっていればよく、常温以外の温度であってもよい。
【0064】
(2)端面板3,4の熱膨張係数α1が積層体10の熱膨張係数α2よりも小さくてもよい(α1<α2)。
【0065】
(3)溶接時における積層体10及び端面板3,4の変形差を、回転子1の動作時におけるこれらの変形差に近づけるために、端面板3,4又は積層体10を冷却してもよい。冷却方法としては、自然冷却であってもよいし、冷却機(クーラー)等を用いた強制冷却であってもよい。
【0066】
(4)溶接時において、予め温度T3に加熱した後の端面板3,4をそれぞれ、積層体10の上端面S1及び下端面S2に配置してもよい。
【0067】
(5)保護板151,152を用いずに溶接を行ってもよい。
【0068】
(6)積層体10のうち最下層又は最上層を構成する打抜部材Wと、積層体10のうち最下層及び最上層以外の中間層を構成する打抜部材Wとを溶接する際に、本開示に係る方法を適用してもよい。この場合、最下層又は最上層を構成する打抜部材Wが特許請求の範囲における端面板に対応し、中間層を構成する打抜部材Wが特許請求の範囲における鉄心本体に対応する。
【0069】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る鉄心製品(1,2)の製造方法は、第1の温度(T0)とされた鉄心本体(10)の端面(S1,S2)に、第1の温度(T0)とは異なる第2の温度(T3)とされた端面板(3,4)であって、鉄心本体(10)とは異なる熱膨張係数を有する端面板(3,4)が配置された状態で、鉄心本体(10)と端面板(3,4)とを溶接して、鉄心製品(1,2)を構成することを含む。
【0070】
ところで、鉄心本体の熱膨張係数と端面板の熱膨張係数とが異なる場合、製造された鉄心製品が動作に伴い昇温すると、鉄心本体の熱変形量と端面板の熱変形量との差が大きくなる。そのため、鉄心本体の温度と端面板の温度とが略同一の状態でこれらが溶接される場合には、鉄心製品の動作時に、鉄心本体と端面板との間の溶接部に比較的大きな応力が作用しうる。
【0071】
一方、例1の方法によれば、互いに異なる温度の鉄心本体と端面板とが溶接される。すなわち、溶接時における鉄心本体の熱変形量と端面板の熱変形量との差が、鉄心製品の動作時における鉄心本体の熱変形量と端面板の熱変形量との差に近づいた状態で、鉄心本体と端面板とが溶接される。そのため、鉄心製品の動作時において、鉄心本体と端面板との間に応力が作用し難い。したがって、端面板の鉄心本体に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【0072】
例2.例1の方法において、第1の温度(T0)は常温であってもよい。この場合、熱容量が比較的大きい鉄心本体の第1の温度をコントロールする必要がなくなる。すなわち、熱容量が比較的小さい端面板の第2の温度をコントロールすることで、溶接時における鉄心本体の熱変形量と端面板の熱変形量との差を、鉄心製品の動作時における鉄心本体の熱変形量と端面板の熱変形量との差に迅速に近づけることができる。そのため、省エネ化及びリードタイム(製造時間)の短縮化を図りつつ、端面板の鉄心本体に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【0073】
例3.例1又は例2の方法において、第2の温度(T3)は第1の温度(T0)よりも高くてもよい。この場合、端面板の熱容量は比較的小さいので、端面板を加熱することにより、第2の温度が第1の温度よりも高い状態が容易に且つ迅速に実現できる。そのため、省エネ化及びリードタイム(製造時間)の短縮化を図りつつ、端面板の鉄心本体に対する接合状態を良好に維持することが可能となる。
【0074】
例4.例1〜例3のいずれかの方法において、第2の温度(T3)のときの端面板(3,4)の熱変形量と第1の温度(T0)のときの鉄心本体(10)の熱変形量との差が、鉄心製品(1)の動作時温度域における端面板(3,4)の熱変形量と鉄心本体(10)の熱変形量との差と対応するように、第1の温度(T0)及び第2の温度(T0)を設定してもよい。この場合、溶接時における鉄心本体の熱変形量と端面板の熱変形量との差が、鉄心製品の動作時における鉄心本体の熱変形量と端面板の熱変形量との差と略同等となる。そのため、鉄心製品の動作時において、鉄心本体と端面板との間に応力が極めて作用し難くなる。したがって、端面板の鉄心本体に対する接合状態をいっそう良好に維持することが可能となる。
【0075】
例5.例1〜例4のいずれかの方法において、鉄心製品(1,2)を構成することは、第1の温度(T0)とされた鉄心本体(10)の端面(S1,S2)に第2の温度(T3)とされた端面板(3,4)及び保護板(151,152)が配置された状態であって、鉄心本体(10)の端面(S1,S2)側から見たときに、保護板(151,152)の周縁部に設けられている切欠部(151b,152b)から端面板(3,4)が部分的に露出し、保護板(151,152)のうち切欠部(151b,152b)以外の部分によって鉄心本体(10)及び端面板(3,4)が覆われた状態で、切欠部(151b,152b)から鉄心本体(10)と端面板(3,4)とを溶接して、鉄心製品(1,2)を構成することを含んでいてもよい。この場合、鉄心本体の端面側から見たときに、保護板によって端面板及び鉄心本体が覆われているので、切欠部における溶接処理でスパッタが発生したとしても、端面板及び鉄心本体へのスパッタの付着が抑制される。そのため、鉄心製品の品質向上を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1…回転子(鉄心製品)、2…回転子積層鉄心(鉄心製品)、3,4…端面板、10…積層体(鉄心本体)、151,152…保護板、151b,152b…切欠部、S1…上端面(端面)、S2…下端面(端面)、T0…温度(第1の温度)、T3…温度(第2の温度)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8