【解決手段】本発明の印象トレイは、印象材充填部Yを有する本体10と持ち手部20を備えた印象トレイであって、本体10の周壁の内面に、歯牙が本体10の周壁に接触するのを防止する規制突起が設けられたものである。本体10が外壁部11を備えたものである場合、規制突起として歯牙の前面側が外壁部11に接触するのを防止する前側規制突起11cを設けることができる。本体10が内壁部12を備えたものである場合、規制突起として歯牙の裏面側が内壁部12に接触するのを防止する裏側規制突起12bを設けることができる。本体10が底面部13を備えたものである場合、規制突起として歯牙の先端側が底面部13に接触するのを防止する底側規制突起13aを設けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
本発明の印象トレイの実施形態の一例を、図面を参照して説明する。本発明の印象トレイは、上顎用トレイとしても下顎用トレイとしても利用できるものであるが、説明の便宜上、ここでは上顎用トレイとして使用する場合を一例として説明する。
【0010】
図1(a)(b)にこの実施形態の印象トレイの斜視図を、
図2にその平面図を示す。
図1(a)(b)及び
図2において、10は本体、20は持ち手部である。本体10と持ち手部20は樹脂で一体成型されている。前記本体10は印象採得用の印象材X(
図4(a)〜(d))を充填する印象材充填部Yを備えている。この実施形態の本体10は外壁部11と内壁部12と底面部13を備えた断面視上向きコ字状であり、それら外壁部11と内壁部12と底面部13の内側に印象材充填部Yが設けられている。外壁部11は口腔内にセットされた際に歯牙の外側に位置する部分、内壁部12は口腔内にセットされた際に歯牙の内側に位置する部分、底面部13は口腔内にセットされた際に歯牙の先端側(上顎用トレイの場合は下側、下顎用トレイの場合は上側)に位置する部分である。この実施形態の印象材充填部Yは、少なくとも、二本の中切歯、二本の側切歯、二本の犬歯及び二本の第一小臼歯の合計八本の印象を採得できるような広さを確保してある。
【0011】
外壁部11及び内壁部12は歯列に沿うように湾曲しており、底面部13は外壁部11及び内壁部12に沿う形に湾曲している。外壁部11及び内壁部12には、それぞれ縦長のスリット(以下、外壁部11に形成されたスリットを「外壁スリット11a」と、内壁部12に形成されたスリットを「内壁スリット12a」という)が間隔をあけて複数本形成されている。外壁部11の中心付近には外壁スリット11aが形成されていない無穴面11bが設けられている。
【0012】
前記外壁スリット11aの間には外側縦柱部11dが設けられている。外側縦柱部11dは内壁部12側に突出する内向き突出部と外側に突出する外向き突出部を備えた横断面視ひし形状の柱である。内向き突出部の頂部は、歯牙との接点が小さくなるように先鋭な尖頭状にしてある。外向き突出部の頂部も先鋭な尖頭状にしてある。外向き突出部の頂部を先鋭な尖頭状にすることで、外壁スリット11aから外側に押し出された印象材Xが外側縦柱部11dの外側に回り込みやすくなり、結果として印象材Xと印象トレイの付着力が向上する。印象材Xと印象トレイの付着力を向上させることで、印象採得時に印象材Xが口腔内に残存するおそれを低減することができる。
【0013】
前記内壁スリット12aの間には内側縦柱部12dが設けられている。内側縦柱部12dは外壁部11側に突出する内向き突出部と外側に突出する外向き突出部を備えた横断面視ひし形状の柱である。外側縦柱部11dの内向き突出部と同様、内側縦柱部12dの内向き突出部の頂部は、歯牙との接点が小さくなるように先鋭な尖頭状にしてある。外向き突出部の頂部も先鋭な尖頭状にしてある。外向き突出部の頂部を先鋭な尖頭状にすることで、内壁スリット12aから外側に押し出された印象材Xが内側縦柱部12dの外側に回り込み、結果として印象材Xと印象トレイの付着力が向上する。印象材Xと印象トレイの付着力を向上させることで、印象採得時に印象材が口腔内に残存するおそれを低減することができる。
【0014】
外壁部11の内面には、印象採得に際して中切歯T(
図4(a)〜(d))の前面側が外壁部11に接触するのを防止する規制突起(以下「前側規制突起」という)11cが設けられている。前側規制突起11cは内壁部12側に向けて突設されている。前側規制突起11cは外壁部11の中心付近の裏面側、より具体的には、中切歯Tの前面側に設けられている。
図3(a)に示すように、この実施形態の前側規制突起11cは外壁部11の上端から下端の略全長に亘って形成された突起であり、内壁部12側からは一本の縦長の線状に見える突起である。この実施形態の前側規制突起11cの頂部は、接点が小さくなるように先鋭な尖頭状にしてある。
【0015】
この実施形態では、前側規制突起11cが幅方向に間隔をあけて二つ設けられている。前側規制突起11cは二つより多くても少なくてもよい。
図3(a)に示すように、各前側規制突起11cは、中切歯Tの勾配に沿うように、上端側から下端側に向けて突出長が小さくなるように傾斜させてある。この実施形態の前側規制突起11cの最高突出長H1(
図3(a))は3mm程度としてある。この寸法は一例であり、前側規制突起11cの最高突出長H1は3mmより高くすることも低くすることもできる。
【0016】
この実施形態の前側規制突起11cは中切歯Tの勾配に沿うように下側(底面部13側)が低くなる傾斜形状であるため、印象採得に際して中切歯Tが外壁部11側に近づきすぎた場合にも、当該傾斜面によって中切歯Tが適切な位置に誘導される。
図4(a)に示すように、前側規制突起11cのない従来の印象トレイでは、中切歯Tが外壁部W1側に近づくと、そのまま外壁部W1に接触或いは近接して、印象材Xの当該接触又は近接した部分が薄肉になる。これに対し、外壁部11に前側規制突起11cを備えた本実施形態の印象トレイでは、中切歯Tが外壁部11側に近づくと、
図4(b)に示すように印象材充填部Yの前後方向中央側に誘導され、中切歯Tは前側規制突起11cに点接触又は線接触するにとどまり、外壁部11に面接触することがないため、広範囲にわたって印象材Xが薄くなることがない。
【0017】
内壁部12の内面には、印象採得に際して中切歯Tの裏面側が内壁部12に接触するのを防止する規制突起(以下「裏側規制突起」という)12bが設けられている。裏側規制突起12bは外壁部11側に向けて突設されている。裏側規制突起12bは内壁部12の中心付近の前面側、より具体的には、中切歯Tの裏面側に設けられている。この実施形態の各裏側規制突起12bは、
図3(b)に示すように、内壁部12の上端から底面部13の前後方向中央ないしは前後方向前方寄りの位置にかけて形成された側面視三角形状の突起であり、外壁部11側からは一本の縦長の線状の突起に見える。この実施形態の裏側規制突起12bの頂部は、接点が小さくなるように先鋭な尖頭状にしてある。
【0018】
裏側規制突起12bが幅方向に間隔をあけて二つ設けられている。裏側規制突起12bは二つより多くても少なくてもよい。この実施形態の裏側規制突起12bの最高突出長H2(
図3(b))は12mm程度としてある。この寸法は一例であり、裏側規制突起12bの最高突出長H2は12mmより高くすることも低くすることもできる。
【0019】
この実施形態の裏側規制突起12bは前方に向けた下り傾斜の形状であるため、印象採得に際して中切歯Tが内壁部12側に近づきすぎた場合にも、当該傾斜面によって、中切歯Tが適切な位置に誘導される。
図4(c)に示すように、裏側規制突起12bのない従来の印象トレイでは、中切歯Tが内壁部W2側に近づくと、そのまま内壁部W2に接触或いは近接して、印象材Xの当該接触又は近接した部分が薄肉になる。これに対し、内壁部12に裏側規制突起12bを備えた本実施形態の印象トレイでは、中切歯Tが内壁部12側に近づくと、
図4(d)に示すように印象材充填部Yの前後方向中央側に誘導され、中切歯Tは裏側規制突起12bに点接触又は線接触するにとどまり、内壁部12に面接触することがないため、広範囲にわたって印象材Xが薄くなることがない。
【0020】
内壁部12には、裏側規制突起12bとは別に、印象採得に際して第一小臼歯が側方側にずれるのを防止する規制突起(以下「側方規制突起」という)12cが設けられている。側方規制突起12cは外壁部11側に向けて突設されている。側方規制突起12cは内壁部12の長手方向両端側、より具体的には、第一小臼歯の外側(第一小臼歯と第二小臼歯の間)に設けられている。この実施形態の側方規制突起12cは、
図3(c)に示すように、内壁部12上端から底面部13の前後方向後方寄りの位置にかけて形成された側面視三角形状の突起である。
【0021】
この実施形態の側方規制突起12cの最高突出長H3(
図3(c))は2mm程度としてある。この寸法は一例であり、側方規制突起12cの最高突出長H3は2mmより長くすることも短くすることもできる。
【0022】
このように、内壁部12の長手方向両端側に側方規制突起12cを設けることで、印象採得に際して採得対象である歯牙(例えば、左の第一臼歯から右の第一臼歯までの八本)全体が、適切な位置に誘導される。
【0023】
この実施形態では、内壁部12に側方規制突起12cが設けられた場合を一例としているが、側方規制突起12cは、外壁部11の長手方向両端側や底面部13の長手方向両端側に設けることもできる。側方規制突起12cは、外壁部11と内壁部12と底面部13の全てに設けることも、これらのいずれか一又は二以上に設けることもできる。側方規制突起12cは、外壁部11に設ける場合は内壁部12側に向けて突設し、底面部13に設ける場合は上方に向けて突設する。
【0024】
底面部13の内面(上面)には、印象採得に際して歯牙の先端が底面部13に接触するのを防止する規制突起(以下「底側規制突起」という)13aが設けられている。底側規制突起13aは上向きに突設されている。底側規制突起13aは前記二本の前側規制突起11cの両外側に設けられている。具体的には、前記二本の前側規制突起11cの一方よりも外側に五本の底側規制突起13aが間隔をあけて設けられ、他方の前側規制突起11cよりも外側に五本の底側規制突起13aが間隔をあけて設けられている。底側規制突起13の本数は、五本より多くても少なくてもよい。この実施形態の底側規制突起13aの頂部は、接点が小さくなるように先鋭な尖頭状にしてある。この実施形態の底側規制突起13aの最高突出長H4(
図3(d))は1mm程度としてある。この寸法は一例であり、底側規制突起13aの最高突出長H4は1mmより高くすることも低くすることもできる。
【0025】
前記持ち手部20は、作業時に手で持つ部分である。この実施形態の持ち手部20は端部が弧状に面取りされた細長板状の持ち手基部20aと、持ち手基部20aの幅方向両外側に突出する突設片20bを備えている。持ち手基部20aは厚さ3mm程度であり、本体10の外壁部11の低い位置、より具体的には外壁部11と底面部13のつなぎ部分に外向きに突設されている。
【0026】
持ち手基部20aに設けられた両突設片20bは平面視台形状であり、持ち手基部20aから分離することができる。この実施形態の突設片20bは厚さ0.6mm程度としてある。ただし、この数値は一例であり、突設片20bは0.6mmより薄くすることも厚くすることもできる。
図5(a)〜(c)に示すように、分離した突設片20bは、印象採得完了後、石膏Sの流し込みを行う際に、石膏Sが印象材Xの歯型凹部Zの長手方向両端側から流れ出るのを防止するせき止め部材として用いるものである。突設片20bは必要に応じて設ければよく、不要な場合には省略することもできる。持ち手部20は作業に際して手で持てる形状であればこれ以外であってもよい。
【0027】
この実施形態の印象トレイは、
図6(a)〜(f)のような外観を備えている。
図6(a)はこの実施形態の印象トレイの正面図、
図6(b)は
図6(a)の背面図、
図6(c)は
図6(a)の平面図、
図6(d)は
図6(a)の底面図、
図6(e)は
図6(a)の左側面図、
図6(f)は
図6(a)の右側面図である。本発明の印象トレイでは、前側規制突起11c、裏側規制突起12b、側方規制突起12c、底側規制突起13a、突設片20bの部分が、従来の印象トレイにはない特徴的な部分である。
【0028】
(その他の実施形態)
前記実施形態では、前側規制突起11c、裏側規制突起12b、側方規制突起12c、及び底側規制突起13aのすべてが設けられた印象トレイを一例としているが、本発明の印象トレイは、これらのすべてを備えている必要はなく、いずれか一又は二以上を備えたものであってもよい。
【0029】
前記実施形態では、印象トレイが樹脂製の場合を一例としているが、本発明の印象トレイは、金属製等、樹脂以外の材質製であってもよい。
【0030】
前記実施形態では、本体10が外壁部11と内壁部12と底面部13を備えた場合を一例としているが、本発明の印象トレイにおける本体10は、従来の上顎用トレイのように、内壁部12の代わりに湾曲隆起部(図示しない)を備えたものであってもよい。この場合、裏側規制突起12bや側方規制突起12cは湾曲隆起部に設けることができる。なお、本体10の形状は一例であり、これ以外の形状(例えば、片顎用のものなど)とすることもできる。
【0031】
前記実施形態では、裏側規制突起12bの形状を前方に向けた下り傾斜としているが、裏側規制突起12bの形状は、
図7(a)のような側面視縦長の長方形のような形状とすることもできる。
図7(a)のような形状とした場合、中切歯Tや歯茎が裏側規制突起12bに接触するのを防止することができる。
【0032】
前記実施形態の印象トレイには設けられていないが、内壁部12の上面には、
図7(a)に示すような溝12eを設けることもできる。この溝12eは、上顎側の歯牙(以下「上顎歯牙」という)が印象材Xの適正な位置に埋入されるようにするための目印となる溝である。
【0033】
溝12eを備えていない印象トレイの場合、使用者によっては、上顎歯牙の前面が外壁部11の内面に接近しすぎて前面側が極端に薄くなる場合がある。これに対し、溝12eを備えた印象トレイの場合、口腔内に入れた印象トレイを上顎歯牙の先端が溝12e内に収まる位置で一旦停止させ、その後、上顎歯牙の先端が内壁部12の上面をスライドするように押し込むことによって、上顎歯牙の前面が外壁部11の内面に接近するのを抑制し、上顎歯牙を印象材Xの適正な位置に埋入させることができる。
【0034】
前記実施形態の印象トレイには設けられていないが、底面部13の裏面には、
図7(a)(b)に示すような底面リブ13bを突設することもできる。この底面リブ13bは、印象採得時に上下の前歯(犬歯よりも内側の歯牙)のみで印象トレイを固定できるようにするものである。印象採得時に印象トレイに奥歯があたると、印象トレイが傾いて適切な印象を採得できない場合がある。これに対し、底面リブ13bを備えた印象トレイによれば、印象トレイに奥歯が当たることによる印象トレイの傾きを防止することができる。
【0035】
図7(a)(b)に示す印象トレイは、
図8(a)〜(f)のような外観を備えている。
図8(a)は
図7(a)(b)に示す印象トレイの正面図、
図8(b)は
図8(a)の背面図、
図8(c)は
図8(a)の平面図、
図8(d)は
図8(a)の底面図、
図8(e)は
図8(a)の左側面図、
図8(f)は
図8(a)の右側面図である。
【0036】
図8(a)〜(f)に示す印象トレイでは、前側規制突起11c、裏側規制突起12b、側方規制突起12c、底側規制突起13a、突設片20bの部分に加え、内壁部12の上面の溝12eや底面部13の裏面に設けられた底面リブ13bが従来の印象トレイにはない特徴的な部分である。
【0037】
(使用例)
本発明の印象トレイの使用例を、
図5(a)〜(c)を参照して説明する。ここでは本発明の印象トレイを用いて上顎歯牙の印象を採得する場合について説明する。
(1)
図5(a)に示すように、本体10の印象材充填部Yに印象材Xを充填する。
(2)印象材Xを充填した印象トレイを口腔内に入れ、当該印象材Xを上顎歯牙に押し当てて印象を採得する。
(3)印象採得後、印象トレイを口腔内から取り出し、印象採得した印象材Xを洗浄する(
図5(b))。
(4)
図5(c)に示すように、持ち手基部20aから突設片20bを分離し、印象材Xに形成された歯型凹部Zの長手方向両端側に立設する。
(5)突設片20bを立設した後、印象材Xの歯型凹部Zに石膏Sを流し込む。石膏Sの流し込み後、印象トレイをバイブレータに載せて脱気及び石膏Sの均等充填を行う。
(6)硬化した石膏Sを印象材Xの歯型凹部Zから取出し、歯型模型を完成させる。
【0038】
前記使用例では、上顎歯牙に印象材Xを押し当てる際に、前側規制突起11c、裏側規制突起12b、側方規制突起12c、底側規制突起13a等によって、歯牙が適正な位置に誘導されるため、歯牙が印象トレイの外壁部11や内壁部12等に接触することがなく、外壁部11や内壁部12等に接触することによる不都合が生じにくい。
【0039】
また、印象材Xの歯型凹部Zの長手方向両端側に突設片20bを立設してあるため、石膏Sが歯型凹部Zから流れ出しにくい。従来の印象トレイには、歯型凹部Zの長手方向両端側に立設する突設片20bのようなものがなかったため、バイブレータによって石膏S内の空気を抜き取る際に、歯型凹部Zから石膏Sが流れ出さない角度に印象トレイを保持する必要があったが、この実施形態の印象トレイのように歯型凹部Zの長手方向両端側に立設する突設片20bを備えている場合、印象トレイを歯型凹部Zから石膏Sが流れ出さない角度に保持する必要がないため、バイブレータを用いた脱気作業が容易になる。
【0040】
前記使用例は、上顎歯牙の印象を採得する場合を一例としているが、下顎側の歯牙(下顎歯牙)の印象を採得する場合も同様の手順で印象採得を行うことができる。